姉妹チート

和希

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ミスディレクション

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(1)

「誠司の奴ムキになりすぎてないか?」

 カンナでもそう思うくらい誠司はひたすら冬吾にパスを渡す。
 しかし相手も馬鹿じゃない。
 執拗に冬吾にマークをつけていた。
 それでも振り切ってゴールに運ぶけど得点には至ってない。
 右足シュートも左足のブレ玉も関係ない。
 そんなトップレベルのキーパーが冬吾のシュートコースを限定させたら、さすがに冬吾でもシュートを決める事は難しい。
 シュートを打つにしろパスを出すにしろ起点が冬吾になっている。
 しかし相手は冬吾がもともといたスペインのチーム。
 冬吾の事はある程度把握している。
 だから冬吾だけで仕掛けてくると思った敵は見事に冬吾にプレイをさせない。
 それでも冬吾を止めるだけでかなりの人数を避ける。
 そのくらいしないと冬吾がボールを持ったら危険だと理解している。
 理解していなかったチームが地元チームを勝たせる羽目になる。
 とはいえさすがにこれだけ執拗に冬吾を使う理由が分からなかった。

「冬夜、誠司は何を考えていると思う?」
「……現状で分かるのは冬吾にボールをひたすら集めている」
 
 だから敵も観客も冬吾に自然に注目が集まる。
 他の選手もチェックしないといけないのにそうせざるを得ない。
 万が一冬吾にチャンスを与えたら間違いなく失点する。
 その結果相手も攻撃に転じる事が出来ない。
 地元チームは冬吾を中心とした攻撃だけじゃない。
 守備陣もしっかり機能している。
 指揮系統がしっかりしているチーム。
 なのに誠司は必要以上に冬吾を使おうとする。
 なぜだろう?
 間違いないのはあの2人は何かを企んでいる。
 それは間違いない。
 前にも同じような事をやっていたことを思い出した。
 冬吾以外の選手を使って相手のわずかな隙をついてキーパーから直接冬吾にパスを渡していた。
 今度はその逆をするつもりなのか?
 しかし相手もトップレベルのチーム。
 冬吾を使わないで得点するなんてできるのか?
 こんなプレイを続けていたら先に冬吾が先に潰れてしまう。
 前半終了になるにつれて変化が出て来た。
 冬吾がドリブルで躱したりしてフリーになったかと思ったら他のフリーな選手にパスを送る。
 やっぱりその手か。
 しかし僕はその時まだ冬吾の真意に気づくことが出来なった。
 冬吾と誠司はすでに僕や誠をはるかに超えていたらしい。
 前半が終わると恵美さんがやってくる。

「やっぱり誠司と冬吾だけじゃ厳しいって事?」

 恵美さんが聞くと愛莉も僕を見る。

「そういうつもりの戦術じゃないですよね?あれ」

 桜子も何か違和感を覚えたらしい。

「まさか誠司が本当にムキになって冬吾で点を決めようとしてるのか?」

 誠ですらそう勘違いするくらいだ。
 テレビでも言いたい放題だった。

「古巣のチームに遠慮してる」
「周りの選手が使えないから冬吾にボールを集める羽目になっている」
「この試合では冬吾は使えない」

 そんな批判ばかりの解説だった。
 そんなチームが決勝に勝ち上がれるわけないとどうして気づかないのだろう?
 
「片桐先輩。一つ気になったことがあるんですけど」
「どうしたんだ?桜子」

 桜子が言うと神奈が聞いていた。

「いつもだったら状況を考えて撃っていたのにすでに右足シュート2発撃ってます」

 左足も同様に使っている。
 ただキーパーの守備陣の配置が上手すぎて簡単にキャッチされている事。
 冬吾のいたチームなんだから当然だろう。
 多分冬吾のプレイや癖を全部見抜いていると考えた方が良さそうだ。
 それは冬吾や誠司だって気づいている。
 だから誠司の指揮が変だと思った。

「この試合どうなるんでしょうか?」

 愛莉が聞いてくる。

「必ず勝つつもりでやってるよ」

 そう愛莉に答えた。
 地元チームでクラブワールドカップ制覇。
 あの2人の目標だったんだ。
 ここまできて負けるつもりはないだろう。
 だから分からない。
 すると瞳子と一緒に見ていた結と比呂と誠司郎が話していた。
 誠司郎はサッカー選手を目指すらしい。
 だから父親のプレイがどういう意味を持っているのか気になったのだろう。
 退屈だった茉奈が「結はどう思う?」と聞いていた。
 すると驚いた。
 茉奈の隣にいた結がいつの間にか消えていた。
 
「結?」

 茉菜が結を探しているといつの間にか茉奈の後ろにいた結が茉奈に声をかけた。

「いつの間に」
「多分父さんの罠ってこういう意味だと思う」

 誤認誘導。
 結はそう告げた。
 ……まさか?
 僕が何か気づいたと察した誠が声をかけた。

「冬夜は何か気づいたのか?」
「……僕達は勘違いをしていたみたいだ」
「どういう意味だ?」
「地元チームは誠司と冬吾を中心としたチームだ」

 それを冬吾だけのチームだと僕達ですら錯覚していた。
 多分この試合は冬吾が徹底的にマークを受ける。
 そう判断した誠司が企んだ戦術だろ。
 それにこの戦術なら冬吾以外はフリーになるし何より体力が温存できる。
 一番大きいのは冬吾を恐れて前に出てこない。
 だから守備陣も楽している。
 もちろん緊張感は持ってるだろうけど。
 世界最高レベルの得点力を持ってるんだ。
 それで当たり前。
 それがこの戦術の最大のメリットだろう。
 普通にやってたら守りっぱなしの攻められ放題になっていただろう。
 そんな状態で90分守り切れる相手じゃない。
 誠司が冬吾と対決した時に分かったんだろう。
 冬吾を封じるとしたらボールの支配率を上げてとにかく攻め続けるしかない。
 だけどその戦術の対策を簡単にとられた誠司だから考えた。
 冬吾と何度も対戦して痛感したこと。
 冬吾を自由にさせたらダメだ。
 絶対に一人にしてはいけないし、目を離したらいけない。
 その一瞬の気の緩みで一気にマークを振りほどくのが冬吾だ。
 
「しかしあれだけ冬吾にこだわっていたら点取れないんじゃないですか?」
 
 桜子が言う。

「それはあの2人だって分かってるよ」

 だけど逆に言えばあの状態なら1点だけとれたらいい。
 その仕掛けを今している最中なんだろう。
 誠司と冬吾が敵対していた経験が、今実を結ぶ。
 無駄な事じゃなかった。

「なるほどね……冬吾は大事な決勝戦で手品を仕掛けようとしているわけだ」

 それも壮大な。
 公生は気づいたみたいだ。
 誠たちはまだ分からないらしい。
 
「あ、選手達出て来た」

 桜子が言うと皆がテレビにくぎ付けになる。
 タネは分かったよ。
 二人がどう仕掛けてくるのか楽しみにしていた。

(2)

「誠司、ちょっとやりすぎじゃないのか?」

 隼人がそう言う。

「冬吾はすぐ楽しようとするから徹底的にこき使ってるだけだよ」
「しかしあれだと後半持つのか?」
「持たないなんて言ったらベンチに引っ込めてもいいよ」
「僕は余裕だよ」

 ニコニコしながら冬吾は言う。

「そんな余裕こいてる場合か?あれだけ攻めても点を取れてないんだぞ」
「その代わり相手も点取りに来てないだろ?」

 だから冬吾を使ったんだ。
 冬吾を知っているチームだから陥る罠。
 常に冬吾を警戒してしまう。
 そのリスクがどれだけでかいか知らずにそうしてしまう。
 知っていてもそうせざるを得ない状況にしてしまうのが冬吾の怖さ。

「お前達昨日遅くまで相手の試合見ていたそうだな?」

 監督が聞いてきたのでうなずいた。
 まさかHなの見てたら大変だ。
 同室の冬吾にそんなもん見せられない。

「率直に教えてくれ。勝つ自信はあるのか?」
「勝つために昨日冬吾と相談しました」

 絶対に勝てる。
 相手の試合を見ていて思った。
 普通の試合運びをしていたらからなず俺達が劣勢になる。
 そして冬吾まで下がらざるを得ないという最悪の展開になる。
 だったら最初に点を取って守り切るしかないと思っていた時に冬吾が言い出した。

「誠司……一ついい案があるんだけど」

 そう言って冬吾が提案した作戦を聞いて驚いた。
 本当は冬吾からマークを外したい時に使ったスペインでの作戦らしい。

「でも、それだと相手は知ってるんじゃないのか?」
「だからいいんだよ、余計に僕を注意するはず」

 知ってるからこそ冬吾を常に見張るはず。
 冬吾を動かせたら何をしでかすかわからないのを一番知っているチームだから。

「わかった。それでいこう」
「いいタイミングになったら僕が合図を出す」
「分かった」

 で、前半は冬吾の思い通りの試合運びになってた。

「油断したら駄目だよ。相手だって後半仕掛けてくることくらい予想してるだろうから」
「分かってる」
「1点決めたらこっちのもの。無理にでも取り返そうとしたら僕が自由になるから出来ないことくらいわかってるはず」

 皆はいつも通り動いてくれてたらいい。
 冬吾が皆に言うと皆立ち上がる。

「そんなに毎回出場出来ると慢心したらだめだ。このチャンスをものにしよう」
「任せとけ!」

 皆のテンションが上がる。
 ピッチに立つと冬吾が俺の側に来る。

「思った通りだ。誠司が前に言った守備だよ」

 右足シュートだろうと左足の無回転だろうとコースを限定してしまえばキャッチすることは不可能じゃない。
 そういうレベルのチームだ。
 だから当然ゴール前に冬吾を入れさせない作戦。
 イタリアに在籍していた時に考えた作戦だった。
 当然どのチームも同じ手を打ってきたらしい。
 しかしそこまで冬吾に気を取られると他が手薄になる。
 そんなリスクを負ってでも冬吾を封じないと勝てない。

「さっさと決めるよ。誠司だって帰ってパオラを抱きたいんだろ?」
「冬吾だって同じじゃないのか?」
「そりゃ妻だからね」

 そう言って自分のポジションに戻る。
 そして最後の45分間が始まった。

(3)

 予想通り僕には常に何人かマークがついている。
 僕にボールを渡さない。
 そんな感じの守備だった。

「悪いな。お前に負けるのだけは阻止しろと言われてるんだ」
「ごめんね。この大会で優勝するの僕と誠司の夢なんだ」
「現実は残酷だってことを教えてやるよ」
「そうだね。現実は常に残酷だ」

 だから僕達は負けるつもりは無いよ。
 まるで一点を守るかのように誠司達は中盤でボールを回している。
 同点なのに時間稼ぎか?
 相手のサポーターも味方のサポーターからもブーイングを受ける僕達。
 でもそれでいい。
 まず、硬く守って一点取らせないって姿勢を変える必要があった。 
 当然相手はボールを奪いに来る。
 すると最前線に立つ隼人にボールを送り込む。
 もっと焦れろ。
 そんな事を思いながら僕もマークマンを振りほどくふりをしていた。

「やる気ないなら帰れ!」

 味方サポーターからそんなヤジが飛んでくるくらいだ。
 相手もかなりイライラしてるだろう。
 残り時間的に考えてそろそろだろう。
 僕は誠司に合図を送ると同時に一瞬マークマンを振り切る振りをした。
 誠司は僕にパスを出そうとする。
 僕は慌てて首を振る。
 そうじゃない。
 お前なら分かるだろ。
 周囲を見ろ。
 誠司は僕の意図を読んだ。
 誠司は突然ドリブルで相手キーパーの死角に潜り込む。
 その動きを予測できたのは目の前で誠司についていたDFくらいだろう。
 文字通り誠司がピッチから消えた。
 そのままシュートを決める。
 不意打ちを喰らったキーパーは対応できなかった。
 そうして決勝点が決まった。
 後は相手が攻めて来るのを躊躇させるだけ。
 僕が常にペナルティエリア前くらいにいるだけでいい。
 油断しているともう一点もらうよ?
 そんな僕達を相手に全員で攻撃なんてできなかった。
 試合終了の笛が鳴る。

「文句はいわねーよ。あの作戦冬吾が考えたのか?」
 
 キーパーのアルフォンスが言う。

「まあね」
「やっぱり冬吾が所属するチームが最強なのか?」

 そう言って笑って握手を求めてくる。
 MVPは決勝点を決めた誠司だった。
 しかしインタビューは僕に来た。
 誠司が作戦は僕が考えたと言ったのと、誠司はW杯で優勝した時にプロポーズすると言った無茶をやったからマスコミが避けたらしい。
 プロポーズしたら瞳子に怒られるしどうしようかな?
 あ、ひらめいた。

「この勝利の喜びを誰に一番最初に報告したいですか?」
「妻です。疲れたからマッサージして欲しいです」

 会場からは笑いの渦が巻き起こった。

(4)

「冬夜、あれお前が教えたのか?」
「誠司が吹き込んだんじゃないのか?」
「どっちでも一緒です!何を考えているのですか!?」
「愛莉の言う通りだ。どうしてああいう悪ふざけしかできないんだお前らは!」

 誠さんと冬夜さんが愛莉さんと神奈さんに怒られていた。
 正直私もちょっと恥ずかしい。
 だけど冬吾さんがああいう事言うの滅多にないから望みを叶えてあげたいと思う。

「瞳子、どんな気分?」

 パオラが聞いてきた。
 パオラはW杯で日本が優勝した時のインタビューでプロポーズを受けた。
 もちろん驚いたらしい。
 誠司が帰ってきたら怒ったそうだ。
 でも、本当は違う。
 その時の試合は今でも録画しているらしい。
 嬉しくて涙を流したそうだ。

「それにしてもあれはどういう仕掛けだったんだ?」

 誠さんが冬夜さんに聞いていた。
 誠さんでも分からないから渡辺さん達にも分からないらしい。
 すると冬夜さんは結を呼んだ。

「どうしたの?」
「さっきのあの手品見せてくれないかな?」
「……いいけど。いつでもいい?」
「ああ、いいよ。皆結を見てて」

 そう言うと皆が結を見ている。
 すると結が突然消えた。
 それと同時に美希が「きゃっ!」と言ってその場に座り込んだ。
 美希のスカートの中に現れた結がすぐに出てくる。

「い、いつのまに!?」

 亜依さんが驚いている。

「さすが結だね」
「でもじいじの目はごまかせなかった」
「さっき気づいたからね。あのテクニックは注視されると絶対に失敗するから気をつけなさい」
「……で、美希の下着どうだった?」
「そんなの見てないよ」

 ただ隠れやすいから隠れただけ。
 しかし茉奈はそうは思わなかった。

 ぽかっ

「私には全然興味ない癖に自分の母親だと興味あるの?」
「一緒にお風呂入ったりしてたんだから下着くらいどうってことないだろ?」
「そういう問題じゃないの!そういうことをしていいのは好きな異性だけ!」
「母さんの事は好きに決まってるだろ?」

 すると茉奈が困ってしまった。
 
「なるほど……トーヤの孫だと思って多目に見ていたけどそういう事なら話は別だ」
「神奈、私も手伝うよ。片桐君の孫だと思ったから大丈夫だと思ったけどこういう事は早い方が良い」
「瞳子はそこでさっきの手品の仕掛けを聞いてて。私達が結にしっかり教育します」

 そう言って結は愛莉さん達に囲まれて説教を受けていた。
 きっと意味が分かっていないと思うけど。

「……で、どういうからくりなんだ?」

 渡辺さんが聞いてた。
 冬夜さんは一言言った。

「ミスディレクション」

 視線誘導。
 相手の視線を任意の方向に向けてあたかも自分が消えたかの様に見せる手品でよく使う手法。
 多分冬吾さんが相手のマークを振り切る際に使っていた技術だろう。
 だけど決勝では……、これまでの試合はどれでもそうだけど、冬吾さん達が勝ち進むほど冬吾さんを警戒する。
 だから冬吾さんは今試合ではその逆を狙った。
 あれだけ冬吾さんを中心にプレイしていたらいつも以上に冬吾さんを警戒している。
 だから当然ただのミスディレクションでは誤魔化しづらい。
 そもそもあれだけ目立ってる冬吾さんから他に視線誘導なんて困難だから。

「で、どうしたんだ?」
「逆をいったんだよ。冬吾に視線を集めた。すると当然他の選手への警戒が薄くなる」

 冬夜さんは後半その事に気づいたから冬吾さんから目を離さなかった。
 誠司君がゴール前に飛び込むほんの少し前にわざと動いてボールを受け取りに行くフリをした。
 冬吾にボールを渡すわけないはいかないとチーム全員が分かってるから自然とそっちに行く。
 そのわずか数秒だけ誠司君への注意をそらした。
 だから反応できたのは誠司君のマークマンだけ。
 冬吾さんに気を取られたのが命取り。
 冬吾さんはゴール前にスペースがあるのを逃さなかったのだろう。
 だから誠司君に合図を送ると同時に仕掛けた。
 その詳細は多分誠司君も聞いていなかったんだろう。
 その証拠に一瞬誠司君が冬吾さんにパスを出そうとしていた。

「……なるほどな。でもさっきの結の行動とどう関係するんだ?」

 誠さんが聞いてた。

「理屈は同じなんだけど結は少し違うんだ」

 冬夜さんがそう言って説明を始めた。
 冬吾さんのは手品とかでつかう視線誘導。
 だけど結のはちょっと違う。
 自分と同じ残像を作ってその隙に気配を殺してどこかに移動する。
 さっきは美希のスカートの中だった。
 理由は隠れやすいから。
 そんな事で女性のスカートに潜り込むんだから愛莉さん達に叱られている。

「あの2人がいる限り地元チームは安泰ね」

 現地に行っている望さんと連絡を取りながら恵美さんが言った。

「それはないよ」

 冬夜さんが否定した。

「どうして?」
「さっきも言ったろ?あの試合はちゃんと相手だって録画してるよ」

 ただ見てるだけなら気が付かないかもしれない。
 だけど少なくともどうしてあの瞬間誠司君から注意が反れたのかは誰もが疑問に思う。
 その結果ミスディレクションに気が付かなくても2人は常にマークされる。
 冬吾さんの事だからその後の事も考えているのだろうけど。
 ノーマークの選手だったら理屈上は誰でもいい。
 ただのあの技術を説明しておく必要がある。
 
「また厳しい戦いが続くんだな」
「それもちょっと違うかな」

 誠さんが言うと冬夜さんがあっさり言った。

「なんでだよ?」
「少しは自分で考えろ。僕の言った意味理解してる?」

 絶対に冬吾さんや誠司君から目をそらしたらいけない。
 そして場合に応じて他の選手もチェックしておく必要がある。
 そんな守備を90分出来ると思う? 
 出来るとするならシステムそのものを変えるしかない。
 状況的には冬吾さん達のチームが優位になるだけだろう。
 少なくともその対策が取れるまでは。
 その時には冬吾はまだ進化するよ。

「そっか。しかし瞳子も大変だな」
「え?」

 誠さんが言った。

「冬吾をマッサージしてやらないとダメなんだろ?特別に俺が教えてやろうか?」
「それなら冬夜さんに教えてもらいますよ」

 愛莉さんからばっちり受けて来ただろうから。

「僕は愛莉がしてくれるってだけで満足してるからね。参考にならないよ」
「……瞳子。そういう相談は私達にしなさい」

 翼が来た。

「パパ達も娘に何を期待しているの?」
「別にいいじゃん。パパがしてほしいなら私してあげるよ」

 茜や冬莉が来る。
 冬莉はどこで聞いたのか分からない事を言いだす。

「オイルの使い方も教えてあげる。”お客さん。どこからきたの?”っていうと喜ぶんだって」

 地元から来たのに決まってるのにどうしてだろう。

「冬莉!瞳子に変な事教えないで!」

 愛莉さんが戻って来た。
 愛莉さんも大変だなぁ。

「冬莉、それ私にも教えてよ」

 冬華が言い出した。
 冬莉は一言言う。

「冬華、このテクはお風呂に入らないといけないの。冬華お風呂に入る気になったの?」
「うーん、面倒だからいいや。椿行こ?」

 そう言って椿と一緒に料理を食べていた。

「あの子達はまたあの癖続いてるの?」
「さすがに髪の毛べたついたら入ってるけどね」
「冬華は普段世話してないからなんとも……」

 茜と冬莉が言うと愛莉さんは頭を抱えていた。
 きっとまだ恋を知らないからだと私は思っていた。
 異性を気にしだしたらきっと変わるだろうと思っていた。
 だけど愛莉さんは言う。

「彼氏と同棲だと色々面倒だから実家で良いと言い出すのがあの子達の母親なの」

 どうしてそうなったのか分からないと考え込む愛莉さんを慰める冬夜さん。
 私も疲れて帰って来た冬吾さんをいたわってあげようと思った。
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