姉妹チート

和希

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晴れた日に少年はギターを

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(1)

「ねえ、潤子」
「どうしたの?千秋」
「あんたどれくらい風呂入ってないの?」
「……わかんない」

 最後に風呂に入ったのっていつだろ?
 入学式の時は母さんが五月蠅いから入ったけど……あれから入ってないな。

「あんたそんなんじゃ彼氏できないよ?」
「母さんだって父さん捕まえたんだから大丈夫でしょ?」
 
 父さんは母さんの尻を見て惚れてパンツを盗んだらしい。
 ただの変態の様で世界に名をとどろかせるデザイナーをやっている。
 父さんの作る服はどれも素敵だった。
 
「私にもなれるかな?」
「潤子はもう将来の夢決めてるのか?」
「うん」

 デザイナーになる。

「じゃあ、私がそれを着てあげるよ」

 千秋はモデルになるらしい。
 千秋は背が高いし母さんに似て、見た目も綺麗だ。
 ただ一つだけ残念な事がある。

「千秋もさ、モデルになりたいならその小学生なのにスカートの下にジャージ穿くのやめた方がいいんじゃない?」

 母さんも晶も頭を抱えていたよ?

「私は潤子と違って毎日お風呂に入って汗を流してるからいい」

 そういう問題なんだろうか?
 多分そうなんだろう。
 それなら私は汗をかかないから風呂に入らなくていい。
 
「それもそうね」

 母さんは許してくれた。
 だけど父さんは許してくれなかった。

「汗をかかなくても髪の毛とかべたべたしないかい?」
「確かに父さんの言う通りだね」
「だろ?」
「でもそれなら丸刈りにしたら解決するよね?」

 女の子が丸刈りは絶対後悔する。
 そんな価値観を持っていた晶がすぐに駆けつけて私を説得していた。
 母さんも同じような事を言って晶を悩ませた事があるらしい。
 この世界で最強なのは、最強のチートスキルを誇る片桐結や雪じゃない。
 晶をババア呼ばわりして無事に生きている結莉と晶さんを困らせる事ができる母さんと私だと言う。

「お願いだから少しは女の子らしくしてくれないかな?」

 晶は私にそうお願いしていた。
 母さん達と相談して”とりあえず一月に最低一回はお風呂に入る”という約束をした。
 今月は入学式前日に入ったからノルマはクリアしている。
 千秋は長い髪を楽しそうに手入れしているけど鬱陶しくないのだろうか?
 そんな事を考えていると結人がやって来た。

「よくこんな騒動の中で呑気な話してられるな」
「だって冬華が言ってたよ?」

 危険だから下がってて。
 松原冬華達率いるSHの上級生が1年生の中にいるゴキブリの駆除に来ていた。
 幼稚園の時から慣れているから別にどうってことない。
 私達を人質にしようと近づいた馬鹿を始末するくらいの訓練は受けている。
 汗をかいたら風呂に入らないといけない。
 その代償を清算させていた。
 全員始末するまで例え途中で授業の時間になろうと暴行は続く。
 FGの人間が泣こうと喚こうと続く。
 中にはそれが怖くて一月足らずで登校拒否に走る児童もいた。
 そんなに嫌ならFG抜けたらいいのに。
 そういうわけにもいかないらしい。
 組抜けの制裁が待っているそうだ。
 SHにはそう言うのがない。
 SHは巨大なグループ。
 その強大な力故に常に自分たちの正義を示さなければいかない。
 その誇りを傷つけた者には容赦しない。
 追放した上に海外旅行に飛ばすらしい。
 最近晶がロケットを購入したらしい。
 打ち上げるのはふざけた連中。
 もちろん帰還など許されない。
 どこかの星にたどり着くまで宇宙を漂流する。
 回収に金がかかるからというのが理由らしい。
 打ち上げるのだってお金かかりそうな気がするけど。
 で、中山瞳美先生が教室に来て慌てて冬華達を止める。
 
「これで終わりと思わないで。自殺するまで続けてやる」

 登校拒否を選んだ子も無理やり学校に引きずるらしい。
 当然親が呼び出しを受ける。
 だけど冬華の親はF・SEASONというユニットを組んで活動している。
 ツアー中は来れない。
 その代わりに愛莉さんと恵美さんが来る。
 ついでに晶もやってくる。

「ゴミ掃除を子供たちが替わってやってるのに文句があるの?」

 無茶苦茶な意見を恵美さんと晶は通す。
 下手に逆らうと教師を辞める羽目になる。
 結局FGの中での悪ふざけという形で片づけられる。
 今年のSHは今までと違う。
 それまで放置していたFGに対して徹底的に攻撃していた。

「潰せ」

 SHのリーダー片桐空の一言で年齢を問わず暴れ出した。
 その後始末は恵美さん達がする。

「潤子は今日は暴れたの?」

 晶が聞いたので大人しくしてたと答えた。

「そう……」

 多分暴れたと言ったら「汗かいただろうからお風呂に入ろうね」と言われるに決まってる。
 FGとかいうどうでもいい連中の命より私の衛生面が重要らしい。
 小学生になってスマホを買ってもらえた。
 SHのグルチャで話をしている。
 FGの反応が全くないのが気になる。
 そんな話題だった。
 じっとしていたらSHがそのうち飽きる。
 そんな事を考えているのだろうか。
 だとしたら大きな間違いだろう。
 空達は文字通り死ぬまで続けるつもりらしい。
 余計な事をしたばかりに大事件になった。
 しかしこんなものでは済まさない。
 そう石原茉莉達が言っていた。

(2)

「喧嘩の時間だ!!」

 そう言って茉莉が教室の扉を蹴り飛ばす。
 利き手には木刀……なんて生温い物を持っていなかった。
 茉莉も菫も両手に拳銃というよく中学校に持ってこれたなと言う物を用意していた。
 この2人で十分だけどそれだと朔の命が危ない。
 だから結局3年のSHのメンバーが2年の教室に殴り込みをかけた。

「このクラスのゴキブリはどいつだ!?」

 希美が叫ぶ。
 当然授業中なので教師が止めに来る。

「結莉」

 茉莉が言うと結莉が動き出す。

 教師を氷漬けにしていた。

「少しの間黙っててね」

 結莉はそう言ってにこりと笑う。
 その間に海翔と悠翔が一人ずつ立たせる。
 全員黒いリストバンドをしていた。
 
「じゃあ、ルールを説明してやる」

 茉莉が説明を始めた。
 どこに行っても構わない。
 茉莉達から逃げきったら今回は見逃してる。
 逃げきれなかったら死ね。
 実に単純なルールだった。

「ま、待て俺達は何もしていない」

 毎年恒例の勧誘すらしていない。
 だから見逃してくれ。

「恨むんだったらお前らのリーダーを恨め。空を怒らせたツケはデカいぞ!」
「貧乏くじを引いたな。同情くらいはしてやる。だけどお前らは誰一人逃がすつもりはない」

 出来る限り逃げて見ろ。
 ここは地獄のモーテルだ。
 さっさと逃げないとブギーマンに喰われるぞ?
 二人が死の宣告を告げるとFGの連中は逃げ出そうと教室の後ろの扉から逃げようとする。
 だけど僕達もそこまで間抜けじゃない。

「ごめんね、虫を一匹でも逃がすと僕の命が危ないんだ」
「俺も母さんから叱られる。悪いけど死んでくれ」

 そう言って朔と秋久が始末していく。
 逃げ道を探して半狂乱になるFGに結莉が告げた。

「窓から逃げたらいいじゃん」

 ここは1階。
 廊下と反対側の窓から逃げ出せばいい。
 結莉はそう親切に教えてやる。
 俺はその間に確認する。
 このクラスにも能力者はいない。
 情報だとDOLLと呼ばれる能力者が最低5人はいるらしい。
 窓から逃げ出すFG達。
 確かに結莉は逃げ道はあると言った。
 だけど助かるとは言ってない。
 駆けつけていた石原家の私兵が片っ端から捕まえて輸送車に詰め込んでいた。

「女。騙したな!」
「結莉は逃げ道は教えたけど助かるとは一言も言ってないよ」
「誰に許可もらって結莉と話してるんだ!?」

 そう言って後頭部を撃ちぬく茉莉。
 粗方片付くと俺の出番。
 倒れてるFGの人間を片っ端からどこかに飛ばした。
 もちろん床に付着した血液等もきちんと始末する。
 それが終わると結莉に言って教師を解放する。

「それじゃ、授業中失礼しました」
  
 結莉は言葉遣いが茉莉と正反対だ。

「ま、待て。生徒たちをどこにやった」

 教師が結莉に聞くと結莉はゆっくり振り返ってさわやかに言った。

「何のことですか?結莉わかんな~い」

 俺は記憶すら抹消する力を持ってる。
 後は結莉に頼んで恵美さんが後始末をする。

「今日はおにぎり何にする?」
「あのね~鮭とか鰹節も美味しいらしいよ~」
「ああ、唐揚げも食わないとな」
「炭酸水はやめとけって天音が言ってた」

 あれは酒を割るための物だ。
 それだけ飲んでもスポーツ飲料水飲んでた方が味がするぞ。
 父さん達も同じ事言っていたな。
 
「いいか!下校中に絶対酒飲むな!」

 茉莉はそう注意されているらしい。
 さすがに未成年がアルコールを買っていたらシャレにならない。
 天音の目の届く範囲でなら許すから外で飲むな。

「天音はどうして真面目に子供を育てようとしないんですか!?」
「紗理奈達だってそうだったって言ってたじゃねーか!」

 天音と愛莉は相変わらず喧嘩しているらしい。
 一方茉奈は苺味のフラッペを買って飲んでいた。

「美味しいんだよ。結も飲む?」
「僕はコーラでいいよ」
「そっか~」
 
 そんな平凡な毎日を過ごしていた。
 そんな平和が続くと思っていた。
 だけどそんなはずがなかった。
 FGは愚かな事に空をさらに怒らせる暴挙に出る。

(3)

「あれ?悠翔君」

 父さんがギターを買ってくれると言うから楽器屋さんに来ていた。
 アコギとエレキ、どちらも買ってくれるらしい。
 サイトで買うのはギターだけじゃなくて色々な付属品が必要だと調べていた。
 で、俺に声をかけたのはクラスメートの増渕樹理。

「増渕さんも楽器買いに来たの?」
「将弥達が新しいの欲しいって言うからついてきただけ」

 増渕さんは姉弟でバンドをやってるらしい。
 将弥はドラムで亜咲がベース。
 ギタリストはたくさんいるから助っ人で頼めばいいと思っていたそうだ。
 しかし実際活動すると細かい調整が効かずに苦労しているらしい。
 で、樹理がギター兼ボーカルでいこうかと相談していたらしい。
 そして樹理が俺が手にしているのがギターだと気付いた。

「悠翔君ギターやってるの!?」
「いや、今日初めて手にしたんだけど……」
「じゃあ、まだどこのバンドにも入ってないよね?」

 そりゃそうだろう。
 だってギターを持つのも初めてなんだから。

「じゃ、私達と一緒にやろう!」
「一度も弾いたことがないんだけど」
「だったらなおさら私達と一緒の方がいいよ」
「なぜだ?」
「部屋ではエレキ使えないでしょ?」

 アンプやエフェクター何度を通してスピーカーに接続しないといけない。
 当然最小の音でやっても一般的な家では騒音になってしまう。
 その為にその必要がないアコギも買うんだ。

「でもさ、やっぱりエレキのあの音聞いたら病みつきになるから」

 樹理達といっしょなら週1くらいでスタジオを使える。
 地元にはそういうスタジオはあまりない。
 だけど樹理達の親の将門さん達の所属事務所のUSEのスタジオが使える。
 将門さん達はフレーズというユニットを組んでいる。
 だから前から使わせてもらっているらしい。
 将弥たちもまだコーチをつけてもらって練習中。
 そんなに差はない。
 
「しかし俺は家の事やらないといけないから」
「そっか……」

 樹理も諦めようとしていた時に父さんが言った。

「いいじゃないか。その方が楽しいだろ」

 俺は驚いて父さんの顔を見る。

「お前ももう中学生。何かやりたい事を見つけたんだ。条件が整ってるならそっちの方が良い」
「でも家の事どうするの?」
「悠翔が心配することじゃないよ」

 父さんが言うなら反対する理由がない。

「俺もまだ一度も弾いたことがない。上達するかもわからないけどそれでもいいなら」
「私さ、父さんから聞いていたことがあるんだ」

 樹理がそう言って話し出した。
 北欧のパブでは様々な楽器をプロだろうとアマだろうとかまわず適当に慣らして音楽を楽しんでいるらしい。
 音を楽しむことが音楽。
 プロの様なテクを身に着けるのもいいけど肝心なのは楽しむという事。
 そうじゃなければ続かない。
 構わずじゃんじゃん鳴らしていけばいい。
 それがまず一歩。
 コードとかそんなのは慣れてから覚えたらいいんだ。
 なるほどな。
 
「あれ?樹理。お前ギター探してると思ったら逆ナンか?」

 将弥と亜咲が来た。
 樹理は俺の腕を掴んで二人に言う。

「私達の新メンバーの悠翔君」
「悠翔、お前ギター出来るのか?」
「これから覚えるんだって、ちょうどいいでしょ?」
「俺はいいけど、亜咲どう思う?」
「ギターを選ぶくらいだからな……続くのか?」

 かっこいいからギターにしたとかそんな理由じゃないのか?

「そう言えばなんで悠翔はギターにしたの?」
「……まあ、亜咲の言う通りかな」
「ほらな」
「ただ、もう一つ理由があるんだ」
「何それ?」

 樹理が聞いてくるから答えた。
 ベースの重低音の音もいい。
 ドラムのテクにも憧れた。
 でもやっぱりソロならギターだと思った。
 一人でも楽しめるのがギターだと思った。
 樹理にそう伝えると樹理はにこりと笑った。

「ちゃんとした理由あるからいいでしょ!」

 樹理が亜咲に言うと「……まあそれならいいよ」と言った。

「どうせ続くかどうかもわからないしな」
「亜咲はなんでそんなに悠翔を嫌うわけ?」
「まあ、いいって言ってるからいいじゃないか」

 将弥がそう言って仲裁する。
 そして俺に向かって言った。

「樹理を頼むな」

 意味が分からなかったけどそのうち分かるだろう。

「で、バンド名はなんていうんだ?」

 将弥に聞いた。

「まだ決めてないんだ。メンバー不足もあったしな」
「”亜咲とゆかいな仲間たち”でいいだろ!」
「絶対にいや!」

 仲のいい兄妹なんだな。
 そう思っていただけだった。
 その間ずっと俺の腕を離さなかった樹理の事を父さんがギターを買った後に教えてくれた。

(4)

「まあ、そういう事だ。水奈、わかってるな?最後まで言わせるなよ」
「わ、分かってるって。悠翔に趣味の時間作ってやればいいんだろ?」

 悠翔と学が二本のギターを買って帰ってくると夕食の支度は済ませてたので食べた。
 子供達に先に入らせて食器を洗っていると学が手伝ってくれる。

「俺だって水奈がその気になったら手伝いくらいするよ」
「仕事もあるしいいよ」
「今日は悠翔の買い物に付き合っていただけだ」
「ありがとな」
「ああ、それと風呂のあとでいいから少し話があるんだが」
「どした?」
「……出来れば悠翔達が部屋に戻ってからがいいんだ」
「わかった。

 学の言う通りに風呂を済ませるとリビングに向かう。
 学が缶ビールを手渡してくれた。

「……で、どうした?」
「あいつは俺に似なかったらしい」
「どういうことだ?」

 学に今日何があったのか聞いていた。
 悠翔のクラスメートと会った。
 その中に女子がいた。
 その女子は悠翔に気があるらしい。

「それまじかよ!」
「ああ、あいつも隅に置けないな」

 学はそう言って笑っていた。

「相手の名前分かるか?」
「ああ、増渕樹理って言ってた」
「まじか!?麻里の娘じゃねーか!」
「水奈。声がでかい」

 そんな話をしながら麻里に聞いていた。
 麻里も樹理から聞いていたらしい。

「樹理が珍しくはしゃいでいたからどうしたの?って聞いたら嬉しそうに言ってるの」

 昔から気になる男子がいた。
 結や茉莉達が目立つ樹理の年代で樹理は悠翔を見続けていた。
 理由は簡単だった。
 結や茉莉の才能は凄い。
 だけどそんな事より2人のやんちゃな妹たちの世話をする悠翔が気になっていた。
 悠翔は妹の世話が忙しいことは知っている。
 だから突然告白なんかしたって駄目だって樹理は諦めていた。
 しかし突然幸運がやって来た。
 悠翔がギターをやりたいって言う。
 必死に勧誘して、加わってくれると聞いた時嬉しくて叫びそうになった。
 悠翔をそういう風に見てくれる女子がいたんだな。

「親としては息子の恋愛を成就させてやりたいんだが……水奈はどう思う?」
「学がそういうなら私が反対する理由がないだろ」

 それで私に家事を任せたいって事か。

「水奈は反対すると思ったんだが」
「学、私は母さんの娘だ。今から彼女候補なんてまだるっこしいことやってないでさっさと当たって砕けろと思う」

 むしろ父親のお前が反対すると思ったけどと言ったら学は笑った。

「優奈や愛菜に出来た時は複雑だったけど、悠翔に関しては少し心配していたからな」

 妹の世話に必死で大学まで彼女の出来なかった漫画があったそうだ。

「しかし、フレーズの娘か」

 私は思いついて空達にメッセージを送っていた。

「いいな~」
「……ふーん。旦那様は麻里がいいの?」
「さすがに僕は歳だから無理だよ」
「パパが相手なら私はいいよ?」
「カミラは比呂がいるのに何考えているの!?」

 相変わらずの片桐家だった。
 悠翔がギターを手にして始まる物語。
 悠翔達の邪魔をする者はすべて焼き払ってやる。
 そんなことを学と話しながら夜を過ごした。
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