姉妹チート

和希

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月光

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(1)

「珍しいな、あの2人がもう寝るなんてな」
「琴音達の仕業だよ」

 渡辺君が驚いていると亜依さんがそう言って笑った。
 8月になって僕達はキャンプにやって来た。
 その前に遊園地に寄っていた。
 そこで琴音や愛奈たちが徹底的に桐谷君と誠を振り回したらしい。

「もう一回乗ろう?」
「い、いや。パパに頼んだらどうだ?」
「じいじと乗りたいの!」

 そんな時期が長くない事を知ってる2人だから付き合う。
 しかし子供達のこういう時の体力は大人より凄い。
 散々乗り物に乗らされた挙句2人はご飯を食べると寝てしまった。
 当然、琴音達も寝てしまったが。
 結達はそんな事は無かった。
 夜食のラーメンを食べるまではと必死に起きていた。

「結莉達は勉強もこのくらい真面目にやってくれたらいいのに」

 愛莉がそうぼやいていた。
 天音は笑って答える。

「あいつらは出席日数さえ足りたらどこの高校でも受かるよ」
 
 中学を卒業出来たら問題ないと天音が言う。
 それは間違いなく愛莉の才能を継いでいるんだろう。

「……ならあのサボり癖は誰に似たんですか?」

 愛莉がそう言って僕を睨む。
 そんなの簡単じゃないか

「天音に似たんだろ?」
「ああ、パパの言う通りだ!茉莉は私に似て賢いんだ」

 この授業はあと何回サボっていい。
 普通の中学生では考えないような事を計算しているそうだ。

「そうじゃなくてサボること自体が悪いことだとなぜ天音は注意できないのですか!」

 翔も困っているらしい。
 多分そうだろうと天音の家に行ったら菫と2人でゲームして遊んでる。
 その中に天音も混ざっていた。

「天音は娘ももう中学生になったのにまだ私が手を貸さないといけないのですか!」

 いい加減母親ならちゃんと子供を躾けなさい!
 美希は結達をしっかり育てているじゃないですか!

「水奈も他人事じゃないぞ!」

 神奈も水奈の教育に不安を抱えていたみたいだ。
 優奈達が水奈に聞いたらしい。

「なんで織田信長は死んだの?」
「え?あの人死んだのか?」

 水奈はフィギュアスケートの選手と勘違いしたらしい。
 そんな大昔からスケートやってるのは凄いなと水奈が聞くと「その人じゃなくて」と優奈が説明したらしい。
 で、それを聞いた水奈は自信たっぷりに答えたそうだ。

「そんなの弱いからに決まってるだろ!」

 強ければ生き弱ければ死ぬ。
 そんな話を明治初期に言ってたやつがいただろ。
 実際空は強いからずっとSHの王として君臨してるだろ?
 そんな風に優奈達に説明しているところに学が帰って来た。
 帰ってこなかったら大惨事だ。
 学が話を聞いて慌てて正しく説明する。
 優奈達が部屋に帰ってから大ゲンカが始まった。

「水奈、いくらなんでもそれはまずいぞ」

 子供が刀振り回しだしたら大変な事になる。
 天音がそう注意する。 
 問題はそこじゃないと思うんだけど。

「お前は少しは勉強してるんじゃなかったのか!」
「してるって!だから割り算までは出来るようになったんだ!」

 水奈は得意気に話した。
 ……くどいけど水奈は大学を出ている。
 だから質が悪い。
 天音はその辺は余裕で結莉達に説明する……必要が無かった。
 理由は愛莉の孫だから。

「そんなのいちいち計算しなくても見たらわかるじゃん」

 理系が得意みたいだ。
 天音の娘か。
 言い争いを繰り広げている愛莉たちに一言言ってみた。

「多分天音の娘だからとか水奈の娘だからとか関係ないと思うんだけど」
「……どういう意味だよ?」

 天音が聞くと夜空を見てコーヒーを飲みながら楽しんでいる結莉と結と茉奈を指差した。

「もし天音の娘だから暴れると仮定して……結莉はどう説明するの?」

 海翔だって同じだ。
 今日遊園地で優奈達と遊んでいた。

「片桐君には説明できるの?」
 
 恵美さんが答えた。

「これはただの推測だけどもう、親の影響を受けたとかそう言う時期は過ぎてるんじゃないのか?」

 後は周りの環境に応じて成長する。
 水奈はいい意味でも悪い意味でも天音と一緒に学生生活を送っていた。
 天音は頭は良いから問題を起こしても成績は良い。
 だけどそんな天音と行動していたらきっと誰の娘だろうと同じだ。
 遊達だってそうだったじゃないか。
 だけど妻がなずなだったから、遊自身に気づかせていた。
 自分は父親なんだ。
 しっかりしないといけない。
 そんな風に自覚しているじゃないか。
 大地も善明もみんな変わらない。
 親の性格を少し受け継いでいるだけ。
 でもあとは育つ環境だ。
 片桐家だから優秀なんて事もない。
 その証拠に冬莉や茜がいる。
 せっかくの容姿や才能も無駄遣いしている。
 母親になっても生活態度を変えなかったから冬華や椿がああなった。
 そんな2人でも恋人が出来たら変わる可能性は十分にある。
 そんなに何でもかんでも母親のせいにしたら水奈が自信を失ってしまう。
 そんな状態の水奈にこれから思春期を迎える娘を任せられる?
 優奈や愛菜の問題は学と水奈が相談することだ。
 水奈だって分かってるから頑張って勉強してるんだろ?
 その努力を認めてやったらどうだい?
 
「カンナの主張が仮に正しいとしても、それでも水奈を信じるべきだ」

 だってカンナだって勉強最初から出来たわけじゃないだろ?

「相変わらず冬夜は上手いな」

 渡辺君が笑っていた。

「親に任せるべきなのは理解できますけど、すると冬夜さんの行動が理解できないのですが」

 多分言われると思った。
 僕は雪に対しては冬吾達に任せずに僕が直接助言している。
 その理由もそんなに難しいことじゃない。

「父親が冬吾、母親が瞳子、そんな状況で劣等感なんて持たれて大変なことになっている」

 あの子だけはしっかり真っ直ぐ育てないといけない。
 一つのミスも許されない。
 少しでも間違えたら誰も雪を止められない。
 だから僕もしっかり見てるだけ。

「そんなにまずいのか?」

 カンナが聞いた。

「あの歳で能力のある大人を軽くあしらう能力を持ってるから」

 現時点で結を倒すくらい簡単にするだろう。
 あの子の怖い所は数多の能力を持っているわけじゃない。
 たった一枚のジョーカーを隠し持っている事にある。
 多分雪が中学生になる頃にぐれたりしたらきっと僕でも制御できないだろう。
 
「大丈夫なのか?」

 カンナがそう言うと答えた。

「だから僕が手を貸してるんだよ」

 本来なら冬吾と瞳子で相談して育てればいいけど、もしも……という事が絶対にあってはいけない。
 そのくらいの巨大な力を持って生まれた。
 そしてその力を把握すると躊躇う事なく使ってみせる。
 それが雪の一番な危険なことなんだ。
 雪がどうして今までずっと色んな情報に興味があったのかやっとわかった。
 雪の中で判断する材料が欲しかったんだ。

「……本当に誠司郎で大丈夫なのか?」
「様子を見ていると誠司郎に問題は無いよ」

 本来なら一番恐ろしい力を目の当たりにしていてもなお雪の隣に立つことを望んでいる。
 そんな誠司郎だから雪も寄り添っているのだろう。

「そんな普通な子でいいのか?」
「普通の子だからいいんだよ」

 理由は簡単。
 変な邪気を持っていない。
 結の彼女が茉奈であるように、雪を安心させるのは純粋な心。
 どんな欲望にも支配されない普通の男の子。

「つまり茉莉達じゃだめって事か?」

 天音が言った。
 それも違う。
 なぜかって?
 簡単な事だろ?

「じゃ、聞くけど結莉は芳樹と付き合う前からああだった?」
「あ……」

 結莉だって茉莉と一緒に暴れていたんだ。
 だから亜依さんやカンナもそんなに心配する必要が無い。
 彼氏がしっかりしていたら大人しくもなるさ。
 女の子ってそうなんだろ?
 好きな彼氏に恥をかかせたくないって思うんだろ。

「片桐君、その理屈だと天音はどういうことなの?」

 恵美さんが聞いていた。

「天音だって苦労して茉莉を指導しているよ」

 愛莉から聞いた。

「おまえ、どこに行くのか分かってるのか!?」

 戦場に暴れに行くわけじゃない。
 江口家のパーティだぞ!
 なんで迷彩柄の服を着ていくんだ。

「私はスカートは嫌いだ!」
「それ菫も言っていたの」

 翼が言った。

「なんでだ?」

 天音が聞いていた。

「茉莉はどうなのか分からないけど菫は単純な理由だった」

 スカートだと下着を見られるのが嫌だ!
 恥ずかしいから嫌だ。

「茉莉は動きにくいから嫌だって言ってた」

 動きにくいからパーティの会場でスカートを破ってスリット代わりにしていたらしい。
 
「やっぱり私が間違ってるのかな」

 天音が悩んでいる。

「結莉の事を忘れたらダメだよ」

 愛莉だって翼を育てたけど天音の母親だ。
 茜や冬莉だっている。
 何かに書いていた。
 立場が人を形成する。
 それを証明しているのが天音じゃないか。
 場所を弁えて行動している。

「確かに小学生の頃の天音からは想像つかないくらい変わったわね」

 恵美さんが天音を見て言っている。

「子育てに模範解答なんてないよ」

 月の光が導くままに進んでいくだけ。
 一番大事な事は子供を信じてやること。
 茉莉や菫だって暴れるけど、結が手を下さなくていいようにだろ?
 子供達は子供達の中でルールと役割を作っている。
 そこに無理に大人が介入する必要はない。

「天音。私達そろそろ寝るね」

 結莉達が眠くなったのかテントに行くと言っていた。

「ゆっくり休むと良い」

 天音がお休みと言うと2人でテントに入った。

「と、なると問題は朔と秋久ね」

 晶さんがそう言ってため息を吐いていた。

「秋久は大丈夫でしょ?」
「どうして?」
「晶さんは忘れた?」

 心音が誘拐された時に一番怒っていたのは秋久だろう。
 あの子は心音という彼女だから朔とは少し違う。
 とても弱い女の子だから自分が絶対に守ると誓っているみたいだ。

「片桐君や。それは酒井家の男子では割と普通なんだよ」

 彼女の事を蔑ろにしたら文字通り自分の命がやばい。

「それは僕の息子たちも一緒だよ」

 ある意味大地の方が大変らしい。
 嫁の天音の機嫌を損ねようものなら大地がただじゃ済まない。
 何においても天音が一番大事だそうだ。
 それを聞いていた愛莉が恵美さんに言った。

「少しは相応の振る舞いをするように恵美からも言ってくれないかな」
「心配いらないわ、愛莉ちゃん。片桐君と愛莉ちゃんの娘なのよ」

 馬鹿な真似をするふざけた奴がいたら片っ端から地獄に突き落としてやる。
 愛莉は頭を抱えていた。

「やっぱりそうなるわよね。片桐家の血がどれだけ大事か愛莉はわかっていない」

 亜依さん達もそう言っていた。
 そんなに特別な物でもない気がするけど。
 苦悩する愛莉と共にカンナ達の愚痴を聞いていた。

(2)

 朝になると一人でテントを出ていた。
 湖の水面に靄がかかっている。
 とても静かな綺麗な世界。
 そんな世界に浸っていると望が声をかけた。

「あれ?もう寝ないで平気なの?」
「……朝の空気が好きだから」
「まだ3歳なのにすごいね」

 そう言って望はこっちに来るように言うとコーヒーを入れてくれた。
 じいじも静かに見守っている。

「幼稚園はどうだい?」

 善幸が聞いてきた。

「別に……いつもと変わらない」

 そう、いつもと変わらない。
 誠司郎達と話をしているだけ。
 変わったのは誠司郎が他の女の子と話をしていると不安になる。
 そんな私を察してさり気なく手を繋いでくれる。
 それだけで私は安心する。
 誠司郎無しで生きていけないんじゃないのか?
 こんなに心細い思いは初めてだ。
 
「雪の凄い所はそこなんだよ」

 善幸が言う。
 普通の子供はもっと自信に満ち溢れた子だ。
 何の根拠もない自信にあふれている。
 だけど、私はいい意味でも悪い意味でも謙虚だ。
 もう少し自信を持った方がいいくらいだ。
 私を怒らせたら止められる人間なんてそんなにいない。
 だから直情型では危険すぎる。
 常に冷静でいようとする私が凄いんだという。

「私だって……」
「いつなら怒るの?」

 じいじがそう言うと悩んでいた。
 最近は怒るという状況に直面したことがない。
 どんな状況なら怒るだろう?
 誠司郎の身に何かあったら怒るかもしれない。
 結局は誠司郎なのかな。
 依存しすぎなのかも。
 こんな重たい女を受け止められるほど誠司郎も大人じゃないはずだ。
 不安になる。
 それでもじいじが言う

「雪はそれでいいんだよ」

 さっきも言ったけど私を止められる人間なんていない。
 それが分かったから私が他人との接触を恐れなくなったのだろう。
 昔は両親以外が近づくだけで威嚇していたのに。
 そうやって自分のテリトリーを広げていけばいい。
 そのうち私にも自信が出来るはずだ。
 それが出来たら次の段階に入ればいい。

「次の段階って何?」
「そうだね……じゃあ、お爺さんが質問するけど……雪が一番欲しい物って何?」
「……特にない」

 欲しい物なんていつでも手に入るから。
 いつか手に入れられるから。
 だけどじいじは不満だったようだ。

「それじゃだめだよ」

 無欲な馬鹿になってはいけない。
 だからまずは自分が欲しい物を探せばいい。
 それを手に入れようと頑張ればいい。
 もう私は無力じゃない。
 だからこの物語に私の生きざまを、その為になら命を賭けられる何かをこの時代に叩きつけてやれ。
 失くせない物は本当はあるんじゃないのか?
 星屑の様に誰かの夢や希望を背負っていけばいい。
 その為に神様は私に力をくれたんだ。

「おはようございます」

 誠司郎が起きて来た。

「誠司郎も早いね」
「早く寝たから」
「じゃあ、ちょうどいい。コーヒー飲んだら湖を一周してくると良いよ」

 ここはとても花が綺麗なんだとじいじが言った。
 多分二人になる機会を与えてくれたんだろう。
 二人で散策をしていた。

「綺麗だね」
「雪も綺麗だよ」
「そんなにじろじろ見ないで」

 顔すら洗ってないんだから。
 誠司郎は慌てて謝っていた。
 そんなに慌てなくてもいいのに。
  
「私が綺麗なのは当然だよ」

 何を今さら言ってるの。

「せっかくだからもっと花とか見た方が良いよ」
「そうだな。雪はまた絵を描くのか」
「うん。いつかスマホを手に入れたら写真を撮るんだ」

 もっといろいろなものを見て回りたい。

「雪だったらできるよ」
「他人事みたいに言わないで」
「どうして?」
「忘れたの?」

 誠司郎はいつもそばにいるよって言ってくれたよ。

「いいのか?」
「私の方が聞きたいくらい」
「じゃあ、いさせてくれ」
「ありがとう」

 そんな話をしながら一周してくると純也達が起きていてじいじと相談していた。

「内緒話かな?」

 誠司郎が気になるようだ。

「気になるの?」
「うん。だって純也って警察官だろ?」

 純也のお爺さんが銃殺された事件の事なんじゃないか?
 誠司郎もSHの人間。
 だから凶暴さを増すFGの行動が気になっていたらしい。
 誰かの願いを背負い生きていけか。
 私は誠司郎の手を掴んだ。

「雪!?」
「じっと静かにしてて」
「わかった」

 じいじはこちらに気づいてないようだ。
 気づいていてわざと情報をくれてるだけかもしれないけど。

「結論から言うと茜達が調べたリストの中に手掛かりはありませんでした」
「どういう事?」
「全部ダミーでした」

 所在地のビルに形すら存在しないゴーストカンパニー。
 それはまだ調査中だけど他にもいくつもあることが存在した。
 もちろんいたずらでそんな面倒な事をするわけがない。
 どこかに何か糸口があるはずだ。
 今それをしらみつぶしに探していると純也は言った。
 もちろん銃を乱射したのだからあいつらが言っていた「DOLL」という特殊部隊じゃないだろう。
 
「慎重に行った方が良い。それを探っていることが相手に知られたら次の手を打ってくるはずだから」
「分かってる。茜が昔言ってた作戦を利用してみる事にしたんだ」
「茜が?」

 じいじが聞くと純也は頷いた。
 そのアニメなら私も見た事ある。
 レーダーに映らない宇宙船を探すために隙間なくレーダーを配置する。
 するとレーダーに映らないという痕跡がはっきりする。
 そこが宇宙船の居場所。
 純也の捜査の手が彼らに触れたら反応するはず。
 それを逃すつもりはない。
 純也は絶対にホシをあげてやると意気込んでいた。
 しかし一つ疑問がある。
 銃の取引をしている組織を見つけても、その後に今度はその銃を横流しした取引先を探さないといけない。
 そんな悠長な事でいいのか?

「雪。見つかるかな?」
「……大人に任せた方が良いよ」
「それもそうだな」

 私の力を使えば一瞬ですべてが終わる。
 だけど対象を絞らないと大変なことになってしまう。
 標的さえ分かれば何とでもなる。
 でも本当は使いたくない。
 私はこんな力よりももっと大切なものを手に入れているのだから。
 出来るなら誠司郎の後ろで守られていたいと思っていた。
 
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