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Don't stop
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(1)
「すいませーん。鶴亀運送ですけどお届け物を持ってきました」
俺達は宅配員に返送して藤原さんの家にやって来た。
警察だという身分がバレるとまずいから。
当然覚えのない心音ちゃんのお母さんは玄関を開ける。
「すいません、それ間違いじゃないですか?」
随分憔悴した心音ちゃんのお母さんが現れるとにこりと笑って警察手帳を見せる。
理解してくれたようだ。
「ここ、藤原さんの家であってますよね?」
「ええ……あ、中に運んでもらえませんか?」
「分かりました。おい、行くぞ」
失礼しま~すと言って家に上がると宅配物に見せかけていた段ボールの中から捜査に必要な道具を取り出して準備しだす。
「あの、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。問題ありません」
絶対に警察に通報したとばらしたりしないから安心してくれと言う。
次に心音ちゃんのお母さんから事情を聞いた。
時間になっても帰ってこない。
部活などは体が弱いから絶対にしない。
いつもなら秋久が送ってくれる。
それは俺もSHのグルチャで確認した。
秋久は「今日はちょっと沙羅達と寄る所あるから」と言って秋久が送ったわけじゃないらしい。
おかしいので心音ちゃんのスマホに電話したら知らない男の声がした。
「あんたが藤原心音のお母さん?」
「あなた誰?」
「心音を預かっている。警察に言ったら殺す」
それを聞いた途端絶望したらしい。
しかし相手は妙な事を言った。
「娘さんを無事に返してほしければ指定した時間に酒井菫と石原茉莉の二人だけ連れてこい」
妙な条件だと思って警察に通報した。
確かに妙だと思った。
それなら菫と茉莉を攫えばいい。
そんな命知らずがいるとは思えないけど。
それでこの事件の捜査チームに俺を入れてもらった。
あの2人に手を出すような馬鹿なんてそんなにいない。
まちがいなくFGの仕業だろう。
「心音ちゃんは大丈夫です。安心してください」
「どうしてですか?」
「奴らは自ら死神に首を晒した」
「これからどうするつもりですか?」
心音ちゃんの父親が帰ってくるとそう聞いていた。
「心音ちゃんは体が弱いと聞いてます。ここは心音ちゃんの身柄を確保することを第一に考えます」
つまり菫と茉莉を望んでいるなら要求に応じてやろう。
そんなに死にたいならすぐに殺してやる。
だから、絶対にこの事を知られたくない。
犯人と交渉する時はひたすら下手に出てください。
油断させる必要があるから。
次の接触時間まで部下を待機させながら俺はスマホでSHのグルチャに連絡する。
空の指示を待った。
すぐに空は指示を出す
「そんなの警察の仕事だから純也に任せるよ」
一々相手にするのも面倒だ。
それより茜達を使って調べたい事がある。
FGの仕業で間違いはない。
リベリオンはこれでもかというくらい父さん達が網を張っているが、動きはない。
問題は誘拐なんて芸当をする大人がいるという事。
多分茜達にその辺を探らせるのだろう。
もちろんただ取引に応じるだけじゃない。
自ら呼び込んだ爆弾で勝手に自爆しろ。
その時の後始末の段取りを考えていた。
あっ。
俺は梨々香に電話する。
「今日多分帰れない。ごめん」
「話は聞いてる。助けてあげて」
梨々香も母親だ。
心音ちゃんの母親の気持ちを心配しているのだろう。
とりあえずは相手の出方を待つことにした。
(2)
「おい、大地!緊急事態だ。パイナップルくれ!」
「パパもだ!あいつらまとめてミンチにしてやる!」
犯人は馬鹿じゃないだろうかと娘の要求を聞きながら考えていた。
よりにもよって取引条件がこの2人って自殺願望の塊にしか思えない。
恵美さん達も狙撃手の手配などに回っていた。
絶対生かして返すつもりがないらしい。
「誘拐なんだから警察の仕事だから純也の好きにしろ」
空はそう指示したらしい。
当然純也だって空の意図くらいわかっているだろう。
そんなに死にたいなら手伝ってやれ。
二人を見ると拳銃を2丁ぶら下げてやる気になってる。
それより気になったのは秋久だ。
間違いなく秋久を怒らせたらしい。
自分を責めているのだろう。
どうして心音から目を離した?
一瞬の油断が心音を危険に晒した。
そんな物騒な世界に生まれるつもりはなかったろうにね。
きっと秋久も絶対に訓練に連行されると覚悟したのだろう。
いや、そんなのはいくらでも受ける。
今は心音の身の安全が優先だ。
それを父さんも知っているから母さんを必死に抑えている。
「この子は自分の彼女も守れない情けない奴なのよ」
「あ、晶ちゃん。もう少し冷静に秋久を見てやってくれないかい?」
父さんがそう言うと母さんは秋久の顔を見ていた。
何も言わずに銃を構えそして何かを考えている。
その眼光は多分キレてる時の結並みに鋭い。
多分菫達にやらせないと考えている。
自分の手で始末してやる。
そんな顔つきだ。
菫や茉莉も気づいているだろう。
母さんは黙っていた。
「空は来てないのかい?」
父さんが僕に聞いたから来てないと言った。
すると子供達は結を見ている。
……それを狙っていたのか?
きっと子供達は結の指示を待っているのだろう。
すると朔が作戦を伝えた。
まず取引に応じて心音の確保が最優先。
それが終わったらその場で馬鹿達を始末する。
きっと増援が潜んでいるはずだからその時は自分達も加わって処刑する。
「それって相手が大人かもしれないって事じゃないのか?」
だったら私が直々にぶっ殺してやる。
天音がそう言いだした。
「最近大人しくしてたから好きにさせてたら調子に乗りやがって。そんなに殺されたいなら俺達も混ざろう」
遊達もやる気だった。
しかし朔が言う。
「逆だよ。大人の癖に茉莉と菫を誘拐しなかった。その程度の雑魚なら俺達で充分」
みっともない死体を晒したいなら望みを叶えてやる。
「じゃ、3段構えで行くよ」
結と茉奈ががそう言って前に出る。
茉莉達も立ち上がる。
茉奈は結が何を言うのか察したのだろう。
拳を振り上げている。
結は気づいてないようだ。
皆を見て言った。
「すまない、皆の命をくれ」
ぽかっ
「きっとそういう真似をするから叱ってやれって美希が言ってたの」
本当に好きだなぁ。
(3)
約束の日時に近づいた。
相手は大勢いる。
やはり大人も混ざっているな。
この数は少ししんどいか?
どうせ素人に毛が生えた程度の間抜けだ。
関係ないな。
銃弾が尽きる事のほうが心配だ。
「おい茉莉。ちびってねーだろうな?」
「菫こそ逃げ出すんじゃねーぞ?」
こんなチャンスは滅多にない。
ぶっ殺す口実をわざわざこの間抜け共が作ってくれたんだ。
血がたぎるってやつだ。
時間になると心音の母親と一緒に前に出る。
他の皆は隠れていた。
結の能力ステルスは完全に気配を遮断する。
あいつは次から次へとよく発想するよ。
茉奈がいなかったら私が結を狙っていたぞ。
ちなみに警察は純也の説得でこの場所にいない。
ここにいられると心音の母親にも不利だし、何より私達の都合が悪い。
サプレッサーつけてるとはいえこんな場所でドンパチかましたらさすがにごまかしがきかない。
時間になった。
心音の母親が言う。
「二人を連れて来た。心音を返して!」
「……まずは二人がこっちに静かに近づけ」
そう言うと思った。
だから心音の母親にお願いをしておいた。
「その前に心音の姿を見せて」
馬鹿どもは要求をのんだ。
まだ自分たちが有利だと思っているのだろう。
私達の狙いも気づかずに。
両隣をしっかり警備された心音が姿を出した。
「心音!」
「母さん!」
それでいい。
そのわずかな時間が私達の狙い。
「じゃあ、2人をこっちに渡したら解放する」
馬鹿がそう言うと私と菫は彼らにゆっくり近づく。
私達の役目はこのぼんくら共の注意を引き付ける事。
ぼんくら二人が私達をボディチェックする。
すると私達は声をかける。
「おい、お前何勝手に女子の体に触ってるんだ?このロリコン」
いくら私でも朔以外の奴が触ったら殺すぞ?
「同感だな。私でも正行以外に触られるのは不本意だ。死にたいのか?」
もっとも正行が触ってくれないのが菫の不満なのは私と同じだ。
「あまり舐めてるとあの女殺すぞ?」
「やれるもんならやってみろ、おっさん」
すると2発の銃声がした。
秋久だ。
私達に注意が向いてる間に秋久は懐に忍び込む。
自分一人の気配を殺して死角に飛び込むくらい秋久でもやる。
慌てて心音に向けて銃を撃つけど秋久の能力がそれを弾く。
そんなマヌケな事をしているから馬鹿だって言ったんだ。
その間に銃を抜いてぼんくらの背後に回る。
「こんばんはは抜けてるだろうが」
「このど阿呆」
そう言って菫と私で二人を始末する。
すると隠れていた他の連中が襲い掛かってくる。
「秋久!同じミスを2度するのを間抜けって言うんだ!」
しっかり守ってろ。
その間にこいつらを始末してやる。
ショータイムだ。
……だと思った。
しかし予定より早く結が姿を現した。
結莉と朔もいる。
どうした?
「一つ聞くけどこれで全員?」
「それがどうした!?」
「誰に口聞いてるのかわかってんのか!?」
その馬鹿に銃口を向ける。
「あまりそれ撃たない方が良いぞ」
結がすました顔で言う。
どうせ弾数制限あるんでしょ?
だったら無駄撃ちしない方が良い。
結が何をやろうとしたか分かった。
菫に合図をする。
「秋久。早く来い!」
希美がそう言うと秋久も急いでこっちに来る。
その間の攻撃はすべて結がはじき返す。
方向転換と言うらしい。
撃った銃弾が自分に向かってくる能力。
その間に結は何かを探していた。
同い年くらいの中坊を探していたみたいだ。
どうしてわかったかって?
次の瞬間そいつを残して他全員いなくなったから。
菫の能力をコピーしたらしい。
「お前多分東中の人間だろ?」
結がそう聞いていた。
男は震えあがって結を見てただ頷いていた。
「誰だろうと南中の人間に手を出したら東中の生徒全員同じ運命をたどると思え」
結はそれだけ言うと「じゃ、帰ろう」と言って私達に言う。
「父さん達が言ってたんだ。まだ中学生になったばかりだから夜遊びは認めないよって」
今起きた事を夜遊びで過ごす結も凄いと思った。
(4)
今日見事にミッションを終えた子供達は別の席で夕食を食べていた。
僕達はファミレスにいる。
子供達の褒美もあるけどみんなと一度相談しておきたかった。
「今度の相手は銃を平気で撃ってくるような危険な連中。子供達で手に負えるのかい?」
善明達が聞くと僕はすぐに答えた。
「そこが違うんだ」
「どういう事?」
美希が聞き返した。
簡単に説明した。
すごく簡単な事。
相手は銃をためらいなく撃ってくる。
なのに最初に菫と茉莉を狙わずに心音を攫った。
交換条件に菫と茉莉を要求した。
そしてたくさんの兵隊が二人を囲んでいた。
この意味分かる?
善明達に聞いていた。
「……つまり銃を使っても菫達に襲い掛かるなんて真似が出来ない腰抜けってことか?」
光太が答えると僕は頷いた。
同じ手は通用しない。
同じ手を使う馬鹿は片っ端から文字通り闇に葬ればいい。
それより僕達がまず調べたい事がある。
誠心会やアルテミスが手を引いて弱体化したFGがどこでそんな力を持ったのか?
「……新しいパトロンがついたって事かい?」
善明が答えた。
「多分そうだろうね」
だからそいつを突き止める事。
雑魚の始末くらい子供達がするだろう。
保護者である僕達はその裏にいる何者かを突き止める事。
それは今茜や菫が必死に探しているはず。
「空、お前ひょっとして知ってるんじゃないのか?」
学が言うと皆が僕を見る。
「確証があるわけじゃないけど想像はついた」
「どういうことだ?」
天音が聞いてきたから解説した。
そんなに難しい話じゃない。
友恵たちが苦戦するほどジハードが僕達に手を出すのを躊躇っている。
世界最強と呼ばれるデウスエクスマキナですら僕達を恐れている。
そして日本で1,2を争うアルテミスは完全に撤退した。
そんな中で手を出してくる馬鹿なんてそんなにいない。
「つまり、ジハードの対抗勢力?」
翼が言うと「そういう結論に出るよね」と答えた。
だけどそれがどんな存在なのか分からない。
だから茜達に任せてる。
今地元で起きている事は大したことじゃない。
代理戦争ってやつだ。
リベリオンやFGを使って地元の覇権を手に入れようとしている。
その為に避けて通れないのがSHだ。
SHを倒した物が世界の覇権をとれる。
だから狙って来た。
僕達は別に何かを持っているわけでもないのに笑える話だ。
イーリスなんて偶像を未だに崇拝してるわけでもないだろうし。
ひとつなぎの大秘宝とやらを用意してやった方がいいのだろうか?
ぽかっ
「皆がまじめに考えてる時に馬鹿な事を考えたらダメ!」
翼に怒られた。
「結構面倒な事になってるんだな」
天音が言った。
さすがにこの状況をミサイル一発で済ませられるはずがないと考えんだろう。
一々相手してたらキリがない。
「じゃ、どうするんだい?」
善明が聞く。
「さっき言ったじゃないか。まずはFGのパトロンを探し出す」
ミサイルで片づけるにしても標的が分からないんじゃ話にならない。
それにどうせ撃ち込むなら1撃で全部を片付けたい。
あれ、結構高価なものだって恵美さん達言ってたし。
ゴキブリ掃除するにはコスパが悪すぎる。
「秋久だって分かってる。きっと同じミスはしないだろ」
他のメンバーも同じだ。
誘拐なんてふざけた真似をするならいくらでも相手してやる。
誰に喧嘩を売ってるのか思い知るまで徹底的に相手してやる。
「私達に出来る事は?」
なずなが聞いた。
「幼稚園に行ってる子は仕方ないけど、なるべく子供から目を離さないで」
「……分かった」
「心配するななずな。琴音たちに手を出す馬鹿がいたら俺がぶっ殺してやる」
「ざけんな遊。殺しは私の特権だ」
遊と天音がそう言って笑っていた。
「それにどっちみち王の逆鱗に触れたら命ねーよ」
天音がそう言って僕を見ていた。
「まあ、その前に少し警告するつもりはあるよ」
「警告?」
善明が聞いてくると僕は頷いた。
「あんまりじゃれついて鬱陶しい真似をしたら潰すよ?くらいは警告しておかないとね」
その為にはやっぱり茜の情報待ち。
話が纏まると家に帰る。
結達も疲れていたのかすぐに寝た。
聞いた話だと作戦の発案は朔。
判断は結にゆだねているらしい。
結が若干楽してるようで羨ましく思えた。
「きっと天音は大変でしょうね」
美希が言っていた。
「どうして?」
「だって孫娘が銃を乱射してるなんて聞いたら愛莉さん絶対天音を叱るよ」
あ、そっか。
でもさ僕は違う事を考えていた。
「僕は銃を乱射する茉莉より学校を破壊する結の方が余程怖いけどね」
あの子も片桐家補正があるみたいだ。
キレると何をしでかすか分からない。
しかも能力がある分多分僕より危険だ。
それでも茉奈はその暴走を止めることが出来る。
「嫁としては頼りになるだけど、やっぱり自分が制御しなきゃいけないって大変なんですよ?」
母さんも同じことを美希と話していたらしい。
しかしそうなると一番怖いのはやっぱり雪だ。
雪を制御できる彼氏。
そんな事ができるのだろうか?
それがどうしても気がかりだった。
「すいませーん。鶴亀運送ですけどお届け物を持ってきました」
俺達は宅配員に返送して藤原さんの家にやって来た。
警察だという身分がバレるとまずいから。
当然覚えのない心音ちゃんのお母さんは玄関を開ける。
「すいません、それ間違いじゃないですか?」
随分憔悴した心音ちゃんのお母さんが現れるとにこりと笑って警察手帳を見せる。
理解してくれたようだ。
「ここ、藤原さんの家であってますよね?」
「ええ……あ、中に運んでもらえませんか?」
「分かりました。おい、行くぞ」
失礼しま~すと言って家に上がると宅配物に見せかけていた段ボールの中から捜査に必要な道具を取り出して準備しだす。
「あの、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。問題ありません」
絶対に警察に通報したとばらしたりしないから安心してくれと言う。
次に心音ちゃんのお母さんから事情を聞いた。
時間になっても帰ってこない。
部活などは体が弱いから絶対にしない。
いつもなら秋久が送ってくれる。
それは俺もSHのグルチャで確認した。
秋久は「今日はちょっと沙羅達と寄る所あるから」と言って秋久が送ったわけじゃないらしい。
おかしいので心音ちゃんのスマホに電話したら知らない男の声がした。
「あんたが藤原心音のお母さん?」
「あなた誰?」
「心音を預かっている。警察に言ったら殺す」
それを聞いた途端絶望したらしい。
しかし相手は妙な事を言った。
「娘さんを無事に返してほしければ指定した時間に酒井菫と石原茉莉の二人だけ連れてこい」
妙な条件だと思って警察に通報した。
確かに妙だと思った。
それなら菫と茉莉を攫えばいい。
そんな命知らずがいるとは思えないけど。
それでこの事件の捜査チームに俺を入れてもらった。
あの2人に手を出すような馬鹿なんてそんなにいない。
まちがいなくFGの仕業だろう。
「心音ちゃんは大丈夫です。安心してください」
「どうしてですか?」
「奴らは自ら死神に首を晒した」
「これからどうするつもりですか?」
心音ちゃんの父親が帰ってくるとそう聞いていた。
「心音ちゃんは体が弱いと聞いてます。ここは心音ちゃんの身柄を確保することを第一に考えます」
つまり菫と茉莉を望んでいるなら要求に応じてやろう。
そんなに死にたいならすぐに殺してやる。
だから、絶対にこの事を知られたくない。
犯人と交渉する時はひたすら下手に出てください。
油断させる必要があるから。
次の接触時間まで部下を待機させながら俺はスマホでSHのグルチャに連絡する。
空の指示を待った。
すぐに空は指示を出す
「そんなの警察の仕事だから純也に任せるよ」
一々相手にするのも面倒だ。
それより茜達を使って調べたい事がある。
FGの仕業で間違いはない。
リベリオンはこれでもかというくらい父さん達が網を張っているが、動きはない。
問題は誘拐なんて芸当をする大人がいるという事。
多分茜達にその辺を探らせるのだろう。
もちろんただ取引に応じるだけじゃない。
自ら呼び込んだ爆弾で勝手に自爆しろ。
その時の後始末の段取りを考えていた。
あっ。
俺は梨々香に電話する。
「今日多分帰れない。ごめん」
「話は聞いてる。助けてあげて」
梨々香も母親だ。
心音ちゃんの母親の気持ちを心配しているのだろう。
とりあえずは相手の出方を待つことにした。
(2)
「おい、大地!緊急事態だ。パイナップルくれ!」
「パパもだ!あいつらまとめてミンチにしてやる!」
犯人は馬鹿じゃないだろうかと娘の要求を聞きながら考えていた。
よりにもよって取引条件がこの2人って自殺願望の塊にしか思えない。
恵美さん達も狙撃手の手配などに回っていた。
絶対生かして返すつもりがないらしい。
「誘拐なんだから警察の仕事だから純也の好きにしろ」
空はそう指示したらしい。
当然純也だって空の意図くらいわかっているだろう。
そんなに死にたいなら手伝ってやれ。
二人を見ると拳銃を2丁ぶら下げてやる気になってる。
それより気になったのは秋久だ。
間違いなく秋久を怒らせたらしい。
自分を責めているのだろう。
どうして心音から目を離した?
一瞬の油断が心音を危険に晒した。
そんな物騒な世界に生まれるつもりはなかったろうにね。
きっと秋久も絶対に訓練に連行されると覚悟したのだろう。
いや、そんなのはいくらでも受ける。
今は心音の身の安全が優先だ。
それを父さんも知っているから母さんを必死に抑えている。
「この子は自分の彼女も守れない情けない奴なのよ」
「あ、晶ちゃん。もう少し冷静に秋久を見てやってくれないかい?」
父さんがそう言うと母さんは秋久の顔を見ていた。
何も言わずに銃を構えそして何かを考えている。
その眼光は多分キレてる時の結並みに鋭い。
多分菫達にやらせないと考えている。
自分の手で始末してやる。
そんな顔つきだ。
菫や茉莉も気づいているだろう。
母さんは黙っていた。
「空は来てないのかい?」
父さんが僕に聞いたから来てないと言った。
すると子供達は結を見ている。
……それを狙っていたのか?
きっと子供達は結の指示を待っているのだろう。
すると朔が作戦を伝えた。
まず取引に応じて心音の確保が最優先。
それが終わったらその場で馬鹿達を始末する。
きっと増援が潜んでいるはずだからその時は自分達も加わって処刑する。
「それって相手が大人かもしれないって事じゃないのか?」
だったら私が直々にぶっ殺してやる。
天音がそう言いだした。
「最近大人しくしてたから好きにさせてたら調子に乗りやがって。そんなに殺されたいなら俺達も混ざろう」
遊達もやる気だった。
しかし朔が言う。
「逆だよ。大人の癖に茉莉と菫を誘拐しなかった。その程度の雑魚なら俺達で充分」
みっともない死体を晒したいなら望みを叶えてやる。
「じゃ、3段構えで行くよ」
結と茉奈ががそう言って前に出る。
茉莉達も立ち上がる。
茉奈は結が何を言うのか察したのだろう。
拳を振り上げている。
結は気づいてないようだ。
皆を見て言った。
「すまない、皆の命をくれ」
ぽかっ
「きっとそういう真似をするから叱ってやれって美希が言ってたの」
本当に好きだなぁ。
(3)
約束の日時に近づいた。
相手は大勢いる。
やはり大人も混ざっているな。
この数は少ししんどいか?
どうせ素人に毛が生えた程度の間抜けだ。
関係ないな。
銃弾が尽きる事のほうが心配だ。
「おい茉莉。ちびってねーだろうな?」
「菫こそ逃げ出すんじゃねーぞ?」
こんなチャンスは滅多にない。
ぶっ殺す口実をわざわざこの間抜け共が作ってくれたんだ。
血がたぎるってやつだ。
時間になると心音の母親と一緒に前に出る。
他の皆は隠れていた。
結の能力ステルスは完全に気配を遮断する。
あいつは次から次へとよく発想するよ。
茉奈がいなかったら私が結を狙っていたぞ。
ちなみに警察は純也の説得でこの場所にいない。
ここにいられると心音の母親にも不利だし、何より私達の都合が悪い。
サプレッサーつけてるとはいえこんな場所でドンパチかましたらさすがにごまかしがきかない。
時間になった。
心音の母親が言う。
「二人を連れて来た。心音を返して!」
「……まずは二人がこっちに静かに近づけ」
そう言うと思った。
だから心音の母親にお願いをしておいた。
「その前に心音の姿を見せて」
馬鹿どもは要求をのんだ。
まだ自分たちが有利だと思っているのだろう。
私達の狙いも気づかずに。
両隣をしっかり警備された心音が姿を出した。
「心音!」
「母さん!」
それでいい。
そのわずかな時間が私達の狙い。
「じゃあ、2人をこっちに渡したら解放する」
馬鹿がそう言うと私と菫は彼らにゆっくり近づく。
私達の役目はこのぼんくら共の注意を引き付ける事。
ぼんくら二人が私達をボディチェックする。
すると私達は声をかける。
「おい、お前何勝手に女子の体に触ってるんだ?このロリコン」
いくら私でも朔以外の奴が触ったら殺すぞ?
「同感だな。私でも正行以外に触られるのは不本意だ。死にたいのか?」
もっとも正行が触ってくれないのが菫の不満なのは私と同じだ。
「あまり舐めてるとあの女殺すぞ?」
「やれるもんならやってみろ、おっさん」
すると2発の銃声がした。
秋久だ。
私達に注意が向いてる間に秋久は懐に忍び込む。
自分一人の気配を殺して死角に飛び込むくらい秋久でもやる。
慌てて心音に向けて銃を撃つけど秋久の能力がそれを弾く。
そんなマヌケな事をしているから馬鹿だって言ったんだ。
その間に銃を抜いてぼんくらの背後に回る。
「こんばんはは抜けてるだろうが」
「このど阿呆」
そう言って菫と私で二人を始末する。
すると隠れていた他の連中が襲い掛かってくる。
「秋久!同じミスを2度するのを間抜けって言うんだ!」
しっかり守ってろ。
その間にこいつらを始末してやる。
ショータイムだ。
……だと思った。
しかし予定より早く結が姿を現した。
結莉と朔もいる。
どうした?
「一つ聞くけどこれで全員?」
「それがどうした!?」
「誰に口聞いてるのかわかってんのか!?」
その馬鹿に銃口を向ける。
「あまりそれ撃たない方が良いぞ」
結がすました顔で言う。
どうせ弾数制限あるんでしょ?
だったら無駄撃ちしない方が良い。
結が何をやろうとしたか分かった。
菫に合図をする。
「秋久。早く来い!」
希美がそう言うと秋久も急いでこっちに来る。
その間の攻撃はすべて結がはじき返す。
方向転換と言うらしい。
撃った銃弾が自分に向かってくる能力。
その間に結は何かを探していた。
同い年くらいの中坊を探していたみたいだ。
どうしてわかったかって?
次の瞬間そいつを残して他全員いなくなったから。
菫の能力をコピーしたらしい。
「お前多分東中の人間だろ?」
結がそう聞いていた。
男は震えあがって結を見てただ頷いていた。
「誰だろうと南中の人間に手を出したら東中の生徒全員同じ運命をたどると思え」
結はそれだけ言うと「じゃ、帰ろう」と言って私達に言う。
「父さん達が言ってたんだ。まだ中学生になったばかりだから夜遊びは認めないよって」
今起きた事を夜遊びで過ごす結も凄いと思った。
(4)
今日見事にミッションを終えた子供達は別の席で夕食を食べていた。
僕達はファミレスにいる。
子供達の褒美もあるけどみんなと一度相談しておきたかった。
「今度の相手は銃を平気で撃ってくるような危険な連中。子供達で手に負えるのかい?」
善明達が聞くと僕はすぐに答えた。
「そこが違うんだ」
「どういう事?」
美希が聞き返した。
簡単に説明した。
すごく簡単な事。
相手は銃をためらいなく撃ってくる。
なのに最初に菫と茉莉を狙わずに心音を攫った。
交換条件に菫と茉莉を要求した。
そしてたくさんの兵隊が二人を囲んでいた。
この意味分かる?
善明達に聞いていた。
「……つまり銃を使っても菫達に襲い掛かるなんて真似が出来ない腰抜けってことか?」
光太が答えると僕は頷いた。
同じ手は通用しない。
同じ手を使う馬鹿は片っ端から文字通り闇に葬ればいい。
それより僕達がまず調べたい事がある。
誠心会やアルテミスが手を引いて弱体化したFGがどこでそんな力を持ったのか?
「……新しいパトロンがついたって事かい?」
善明が答えた。
「多分そうだろうね」
だからそいつを突き止める事。
雑魚の始末くらい子供達がするだろう。
保護者である僕達はその裏にいる何者かを突き止める事。
それは今茜や菫が必死に探しているはず。
「空、お前ひょっとして知ってるんじゃないのか?」
学が言うと皆が僕を見る。
「確証があるわけじゃないけど想像はついた」
「どういうことだ?」
天音が聞いてきたから解説した。
そんなに難しい話じゃない。
友恵たちが苦戦するほどジハードが僕達に手を出すのを躊躇っている。
世界最強と呼ばれるデウスエクスマキナですら僕達を恐れている。
そして日本で1,2を争うアルテミスは完全に撤退した。
そんな中で手を出してくる馬鹿なんてそんなにいない。
「つまり、ジハードの対抗勢力?」
翼が言うと「そういう結論に出るよね」と答えた。
だけどそれがどんな存在なのか分からない。
だから茜達に任せてる。
今地元で起きている事は大したことじゃない。
代理戦争ってやつだ。
リベリオンやFGを使って地元の覇権を手に入れようとしている。
その為に避けて通れないのがSHだ。
SHを倒した物が世界の覇権をとれる。
だから狙って来た。
僕達は別に何かを持っているわけでもないのに笑える話だ。
イーリスなんて偶像を未だに崇拝してるわけでもないだろうし。
ひとつなぎの大秘宝とやらを用意してやった方がいいのだろうか?
ぽかっ
「皆がまじめに考えてる時に馬鹿な事を考えたらダメ!」
翼に怒られた。
「結構面倒な事になってるんだな」
天音が言った。
さすがにこの状況をミサイル一発で済ませられるはずがないと考えんだろう。
一々相手してたらキリがない。
「じゃ、どうするんだい?」
善明が聞く。
「さっき言ったじゃないか。まずはFGのパトロンを探し出す」
ミサイルで片づけるにしても標的が分からないんじゃ話にならない。
それにどうせ撃ち込むなら1撃で全部を片付けたい。
あれ、結構高価なものだって恵美さん達言ってたし。
ゴキブリ掃除するにはコスパが悪すぎる。
「秋久だって分かってる。きっと同じミスはしないだろ」
他のメンバーも同じだ。
誘拐なんてふざけた真似をするならいくらでも相手してやる。
誰に喧嘩を売ってるのか思い知るまで徹底的に相手してやる。
「私達に出来る事は?」
なずなが聞いた。
「幼稚園に行ってる子は仕方ないけど、なるべく子供から目を離さないで」
「……分かった」
「心配するななずな。琴音たちに手を出す馬鹿がいたら俺がぶっ殺してやる」
「ざけんな遊。殺しは私の特権だ」
遊と天音がそう言って笑っていた。
「それにどっちみち王の逆鱗に触れたら命ねーよ」
天音がそう言って僕を見ていた。
「まあ、その前に少し警告するつもりはあるよ」
「警告?」
善明が聞いてくると僕は頷いた。
「あんまりじゃれついて鬱陶しい真似をしたら潰すよ?くらいは警告しておかないとね」
その為にはやっぱり茜の情報待ち。
話が纏まると家に帰る。
結達も疲れていたのかすぐに寝た。
聞いた話だと作戦の発案は朔。
判断は結にゆだねているらしい。
結が若干楽してるようで羨ましく思えた。
「きっと天音は大変でしょうね」
美希が言っていた。
「どうして?」
「だって孫娘が銃を乱射してるなんて聞いたら愛莉さん絶対天音を叱るよ」
あ、そっか。
でもさ僕は違う事を考えていた。
「僕は銃を乱射する茉莉より学校を破壊する結の方が余程怖いけどね」
あの子も片桐家補正があるみたいだ。
キレると何をしでかすか分からない。
しかも能力がある分多分僕より危険だ。
それでも茉奈はその暴走を止めることが出来る。
「嫁としては頼りになるだけど、やっぱり自分が制御しなきゃいけないって大変なんですよ?」
母さんも同じことを美希と話していたらしい。
しかしそうなると一番怖いのはやっぱり雪だ。
雪を制御できる彼氏。
そんな事ができるのだろうか?
それがどうしても気がかりだった。
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