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(1)
「しかし雪もやっぱり片桐家なんだな」
神奈さんがそう言って雪を見て笑っていた。
比呂が少し違うのはハンバーガーを食べながら隣にいる誠司郎の相手をしている事。
運動会があった日から少しずつ雪に変化が見えた。
愛莉さんと神奈さんが見てる中、雪は誠司郎に少しずつ近づいていた。
「俺の隣空いてるよ?」
誠司郎がそう言うと静かにそこに座って話をしていたらしい。
雪は初めての経験だから少し困惑していたと愛莉さんから聞いていた。
そんな雪も今日は少しだけまた成長したようだ。
黙々と食べつつも誠司郎の話を聞いているようだった。
通常は「いやいや期」と呼ばれるこの時期だけどこの2人には全く関係のない話だった。
「お前ら食ってばかりじゃないで少しは動け」
美嘉さんがそう言っていた。
今日の条件だった。
ハンバーガーを食べていいけどその代わりつり橋を渡る事。
それが出来ないなら来年から別の場所にする。
耶馬渓とかなら食べられる物がないらしい。
耶馬渓まで行ったのに食べたのがそばしかないと分かった当時の天音は暴れたそうだ。
「なんでこんなところまで来たのに蕎麦なんだよ!肉を食わせろ!」
……天音が高校生の頃の話だそうだ。
で、橋を渡っている時に愛莉さんやパオラ達と企んでいたことがある。
パオラが誠司郎に耳打ちする。
それを聞いた誠司郎はパオラを不安そうに見る。
「大丈夫」
パオラがそう言うとパオラはそっと結に言った。
「雪、一緒に写真撮らない?ちょうど滝が背景になるから」
雪は最初抵抗した。
「そういうのは私じゃなくてパオラでも……」
そう言って断ることは想定内だった。
だから神奈さんが言う。
あらかじめパオラと打ち合わせ済み。
神奈さんは誠司郎を見て言った。
「誠司郎も雪と一緒に撮りたいっていうからさ、1枚だけでいいから頼まれてくれないか?」
「……1枚だけだよ」
雪がそう言うと誠司郎が喜んでいた。
雪はただ誠司郎の隣に立っているだけでいいと思っていたみたいだ。
だけど誠司郎はおずおずと手を差し出す。
雪は最初意味が分からなかったらしい。
だから誠司郎が言う。
「手、繋いでもいいかな?」
さすがにハードル上げ過ぎたかな。
意外にも雪は黙って誠司郎の手を握った。
「私とこんな写真撮っても恥ずかしいだけじゃないの?」
「どうして?」
「どうしてって……」
二人が喋っている間に撮ってしまった。
「ありがとう」
誠司郎はにこりと笑って礼をしていた。
「じゃ、行くぞ」
「あのさ、このまま手を繋いでもいいかな?」
「もう繋いでるし今更だからいいよ」
素直じゃないのが雪の特徴だ。
でも確実にあの日から雪は成長している。
誠司郎と話をするようになった。
あの子は常日頃色んなものを見て色んなテレビ番組を見て知識を吸収している。
現在進行形でそれは続いている。
だから心を少し許せば話の種が尽きる事は無かった。
数ある話題の中から誠司郎が興味を持ちそうな事を話している。
その為に雪は最初誠司郎に少しずつ質問をしている。
「普段何してる?」
「好きな色は?」
などなど色々聞いて誠司郎にあった話題を選んで話している。
もともと雪くらいになると何でも自分でやるようになる。
その代わり悪戯を思いついたりもする。
そしていろんなことに興味を持つ。
雪はそこが特質していた。
だから次第に雪が話していた状態が雪が色々聞くようになる。
誠司郎の色々な質問にあっさりと答える雪。
そんな雪を凄いと思ったり、長い時間雪と話が出来る事を嬉しく感じているようだ。
つり橋を引き返すとレストランに向かう。
「まだ食べるの?」
誠司郎は驚いていた。
しかし雪は言った。
「だってお昼ご飯だから」
もうあの2人に任せておいて大丈夫。
あの子達自由にさせて私達は違うテーブルで様子を見ていた。
すると誠司郎が驚くべき行動に出た。
雪のハンバーグを細かく切ってあげていた。
通常この歳の子供に鉄板は危険だ。
だけど誠司郎は例外らしい。
「熱いから鉄板には触るなよ」
誠司郎はそう言って自分の分を食べていた。
「トーヤの一言でああも変わるのか?」
「実はちょっと計算外があったんだ」
冬夜さんは神奈さんにそう説明していた。
あの子には「友達も必要だよ」とだけ言った。
しかし雪の中で友達の線引きがどこまでなのか理解できていなかった。
だから今の雪がいる。
それは都合がいいからのまま様子を見ようと冬夜さんが言っていた。
「じゃあ、雪は誠司郎を選ぶわけだな」
「それはどうだろう?」
「どういう意味だよ?」
誠さんが聞いていた。
「まだ根本的な部分が解決できてない」
冬夜さんはそう言う。
雪の中では誠司郎はあくまで友達。
そこからどうやって次のステップに進むか。
雪の中では自分は誠司郎と釣り合いが取れないと思ってる。
かっこいいから。
運動神経がいいから。
そんなどうでもいい基準で彼氏や彼女を決める年頃。
雪にも冬吾さん譲りの運動神経がある。
雪は決して劣っていない。
そんな事を言っても雪は絶対に信じないだろう。
仮にそうだとしても誠司郎の気持ちは違うんだよ。
そんな話を聞くわけがない。
それを自分で理解するまで恋人という関係になれるはずがない。
「まあ、そんなに慌てる事も無いよ」
この先幼稚園に入ったりしたらもっと多くの人と接する。
その時に何が起こるかであの子達の関係に変化があるだろう。
「例えば?」
パオラが聞いていた。
「そっか、パオラは知らないか」
翼が言っていた。
地元で幼稚園に入ったらまず問題がある。
それがFG。
それが引き金で2人の距離が近づくこともあるだろう。
それにもっと問題がある。
「リベリオンだね?」
空が言っていた。
「ああ、小学生になったら仕掛けるつもりらしいからね」
「やっぱり小学生になる前に始末した方が良いんじゃない?」
恵美さんが言っていた。
「それでもいいんだけど、それが失敗したら間違いなく十郎はお終いだ」
もう手札は無い。
「でも大丈夫なのか?」
神奈さんが言うと冬夜さんは深刻な顔をしていた。
「あまり雪の前で言いたくないんだけど……計算外だった」
きっと規格外の能力者が産まれて、きっと一人残らず始末するだろう。
だけど雪はそう言う能力は持ち合わせていない。
むしろSHの弱点になりうるかもしれない。
「それじゃ俺の出番かな?」
純也が言っていた。
「大丈夫、冬吾の子供なんだから徹底的に警備をつける」
恵美さんがそう言った。
「おい、菫。分かってるだろうな?」
「当たり前だろ。雪達に手を出す間抜けに鉛玉ぶち込んでやればいいんだろう?」
結と結莉も遠慮する必要は無いと思っている様だ。
「お願いします。今でも渡瀬さんに『あまり派手に動かないでくれ』と言われてるんで」
警察の中も対立の構図が出来上がっているらしい。
渡瀬本部長の擁護派と反渡瀬派。
後者は言うまでもなくアルテミスやリベリオンの後押しがあると誠さんが掴んでいた。
「今度はネズミ一匹逃がさない。全部叩き潰してやる」
恵美さんがそう言う。
「その必要すらないかもしれない」
時に預言者の様な事を言う冬夜さん。
多分結の能力に関する事だとは思う。
世界で最大のコングロマリット。
それを一掃する手段を結が手に入れるというのだろうか?
それがいつ起こるのか?
まだ不安の種は尽きないようだった。
(2)
「はーい、お誕生日おめでとう」
雪がケーキの上にあるローソクを消すと皆がクラッカーを鳴らしていた。
誠司君達も来ていた。
「今日雪が生まれた日だよ」
誠司郎が言うとなるほどと納得していた。
雪は黙って両手で紙皿とフォークを持って待ち構えている。
ケーキは2ホール用意しておいた。
「この子達ならその方がいい」
冬夜さんや冬吾さん達がそう言っていたけど愛莉さんをごまかすことは出来なかった。
「二人がケーキ食べたいだけでしょ!」
だから片方は苺のケーキ、もう一方はチョコレートケーキだった。
「僕は生クリームが苦手なんだ」
冬夜さんが言うと愛莉さんが怒る。
「孫の前で好き嫌いを止めてくださいと何度言えば分かってもらえるんですか!」
誠さんみたいな親はやっぱり嫌だけど、冬夜さんの様な父親もちょっと困るかな。
「で、私いくつになったの?」
雪がケーキを食べながら聞いていた。
「2歳だよ。俺と同じ」
誠司郎が答えていた。
片桐家の子供はみんなそうらしい。
食事中は、スマホはもちろんテレビを見るのも禁止。
皆と楽しく会話をしながら食事を楽しむ。
話題も食事中だと弁えた物を選ぶ。
「しかし雪は反則だろ。能力はお前に似て見た目も瞳子譲りか」
「あら?誠司は私より瞳子の方がよかったの?」
誠司君とパオラがそんな事を言ってた。
この歳で”美少女”と言われるほどの整った顔立ちをしている。
どうしてそうなったのか、冬吾さんや冬夜さんでも分からなかった。
「能力が冬夜レベルの美少女なんてふざけるな!チート過ぎるだろ!」
誠さんにも冬夜さんは言われたらしい。
親ばかと言われるかもしれないけど、雪は子役とかで生きていけるんじゃないだろうか?
実際恵美さんから打診があった。
だけど「将来の夢は自分で決めてあげたい」と愛莉さんが言っていた。
片桐家の子はやる気が無いだけでその気になれば何かしらの才能を発揮する。
だからこそ自分がやりたい事をやらせてやるべきだと冬夜さんと話していた。
「じゃあ、またね」
誠司郎がそう言ってパオラ達と帰って行くと2人をお風呂に入れて部屋に戻す。
「随分打ち解けたみたいですね」
「そうだね」
冬夜さんも今はこれでいいと言っている。
だけど問題はこれからだという。
雪は自分が劣っていると思い込んでいる。
だから誠司郎は自分の手には絶対届かない。
その結果雪は誠司郎が好きだという感情を封じている。
運動能力も雪の歳の男の子の平均値を軽く超える雪。
しかし気持ち一つでそんな物は関係ないという。
どうせ私なんて。
ここからが問題だ。
出来れば2人の恋を実らせてやりたい。
「で、この先どうすればいいんですか?」
私が冬夜さんに聞いていた。
「何もすることは無いよ」
親が言ったから付き合えなんて大昔の様な真似したくないだろ?
だから雪が自分で決める事だ。
それよりまず雪に自信をつけてあげる事。
雪だって誠司郎に負けないように成長している。
そこに気づかせてやらないと話にならない。
その後は雪の心ひとつ。
誠司郎と雪の距離はかなり縮まった。
普通にしていれば幼稚園で告白と言うこの世界独特の価値観が生じるだろう。
だけど今のままでは雪が誠司郎の気持ちをちゃんと直視してやれてない。
その間は何を言っても無駄だ。
私達が言ったところで頑なに拒んでしまう。
「どうして雪はそうなんでしょうか?」
愛莉さんでも分からないらしい。
だけど冬夜さんは言う。
「あれが片桐家の男子なんじゃないのか?」
恋愛感情と言う物にどこまでも疎い。
面倒だ、自分には無理。
そうやって諦めてしまう弱い心。
それでもきっといつか気づく時が来る。
その時に思い切って飛び出せるかどうか?
その時に茉菜の気持ちが変わらないでいてもらえるか?
その答えを知るのはまだまだ時間を要していた。
「しかし雪もやっぱり片桐家なんだな」
神奈さんがそう言って雪を見て笑っていた。
比呂が少し違うのはハンバーガーを食べながら隣にいる誠司郎の相手をしている事。
運動会があった日から少しずつ雪に変化が見えた。
愛莉さんと神奈さんが見てる中、雪は誠司郎に少しずつ近づいていた。
「俺の隣空いてるよ?」
誠司郎がそう言うと静かにそこに座って話をしていたらしい。
雪は初めての経験だから少し困惑していたと愛莉さんから聞いていた。
そんな雪も今日は少しだけまた成長したようだ。
黙々と食べつつも誠司郎の話を聞いているようだった。
通常は「いやいや期」と呼ばれるこの時期だけどこの2人には全く関係のない話だった。
「お前ら食ってばかりじゃないで少しは動け」
美嘉さんがそう言っていた。
今日の条件だった。
ハンバーガーを食べていいけどその代わりつり橋を渡る事。
それが出来ないなら来年から別の場所にする。
耶馬渓とかなら食べられる物がないらしい。
耶馬渓まで行ったのに食べたのがそばしかないと分かった当時の天音は暴れたそうだ。
「なんでこんなところまで来たのに蕎麦なんだよ!肉を食わせろ!」
……天音が高校生の頃の話だそうだ。
で、橋を渡っている時に愛莉さんやパオラ達と企んでいたことがある。
パオラが誠司郎に耳打ちする。
それを聞いた誠司郎はパオラを不安そうに見る。
「大丈夫」
パオラがそう言うとパオラはそっと結に言った。
「雪、一緒に写真撮らない?ちょうど滝が背景になるから」
雪は最初抵抗した。
「そういうのは私じゃなくてパオラでも……」
そう言って断ることは想定内だった。
だから神奈さんが言う。
あらかじめパオラと打ち合わせ済み。
神奈さんは誠司郎を見て言った。
「誠司郎も雪と一緒に撮りたいっていうからさ、1枚だけでいいから頼まれてくれないか?」
「……1枚だけだよ」
雪がそう言うと誠司郎が喜んでいた。
雪はただ誠司郎の隣に立っているだけでいいと思っていたみたいだ。
だけど誠司郎はおずおずと手を差し出す。
雪は最初意味が分からなかったらしい。
だから誠司郎が言う。
「手、繋いでもいいかな?」
さすがにハードル上げ過ぎたかな。
意外にも雪は黙って誠司郎の手を握った。
「私とこんな写真撮っても恥ずかしいだけじゃないの?」
「どうして?」
「どうしてって……」
二人が喋っている間に撮ってしまった。
「ありがとう」
誠司郎はにこりと笑って礼をしていた。
「じゃ、行くぞ」
「あのさ、このまま手を繋いでもいいかな?」
「もう繋いでるし今更だからいいよ」
素直じゃないのが雪の特徴だ。
でも確実にあの日から雪は成長している。
誠司郎と話をするようになった。
あの子は常日頃色んなものを見て色んなテレビ番組を見て知識を吸収している。
現在進行形でそれは続いている。
だから心を少し許せば話の種が尽きる事は無かった。
数ある話題の中から誠司郎が興味を持ちそうな事を話している。
その為に雪は最初誠司郎に少しずつ質問をしている。
「普段何してる?」
「好きな色は?」
などなど色々聞いて誠司郎にあった話題を選んで話している。
もともと雪くらいになると何でも自分でやるようになる。
その代わり悪戯を思いついたりもする。
そしていろんなことに興味を持つ。
雪はそこが特質していた。
だから次第に雪が話していた状態が雪が色々聞くようになる。
誠司郎の色々な質問にあっさりと答える雪。
そんな雪を凄いと思ったり、長い時間雪と話が出来る事を嬉しく感じているようだ。
つり橋を引き返すとレストランに向かう。
「まだ食べるの?」
誠司郎は驚いていた。
しかし雪は言った。
「だってお昼ご飯だから」
もうあの2人に任せておいて大丈夫。
あの子達自由にさせて私達は違うテーブルで様子を見ていた。
すると誠司郎が驚くべき行動に出た。
雪のハンバーグを細かく切ってあげていた。
通常この歳の子供に鉄板は危険だ。
だけど誠司郎は例外らしい。
「熱いから鉄板には触るなよ」
誠司郎はそう言って自分の分を食べていた。
「トーヤの一言でああも変わるのか?」
「実はちょっと計算外があったんだ」
冬夜さんは神奈さんにそう説明していた。
あの子には「友達も必要だよ」とだけ言った。
しかし雪の中で友達の線引きがどこまでなのか理解できていなかった。
だから今の雪がいる。
それは都合がいいからのまま様子を見ようと冬夜さんが言っていた。
「じゃあ、雪は誠司郎を選ぶわけだな」
「それはどうだろう?」
「どういう意味だよ?」
誠さんが聞いていた。
「まだ根本的な部分が解決できてない」
冬夜さんはそう言う。
雪の中では誠司郎はあくまで友達。
そこからどうやって次のステップに進むか。
雪の中では自分は誠司郎と釣り合いが取れないと思ってる。
かっこいいから。
運動神経がいいから。
そんなどうでもいい基準で彼氏や彼女を決める年頃。
雪にも冬吾さん譲りの運動神経がある。
雪は決して劣っていない。
そんな事を言っても雪は絶対に信じないだろう。
仮にそうだとしても誠司郎の気持ちは違うんだよ。
そんな話を聞くわけがない。
それを自分で理解するまで恋人という関係になれるはずがない。
「まあ、そんなに慌てる事も無いよ」
この先幼稚園に入ったりしたらもっと多くの人と接する。
その時に何が起こるかであの子達の関係に変化があるだろう。
「例えば?」
パオラが聞いていた。
「そっか、パオラは知らないか」
翼が言っていた。
地元で幼稚園に入ったらまず問題がある。
それがFG。
それが引き金で2人の距離が近づくこともあるだろう。
それにもっと問題がある。
「リベリオンだね?」
空が言っていた。
「ああ、小学生になったら仕掛けるつもりらしいからね」
「やっぱり小学生になる前に始末した方が良いんじゃない?」
恵美さんが言っていた。
「それでもいいんだけど、それが失敗したら間違いなく十郎はお終いだ」
もう手札は無い。
「でも大丈夫なのか?」
神奈さんが言うと冬夜さんは深刻な顔をしていた。
「あまり雪の前で言いたくないんだけど……計算外だった」
きっと規格外の能力者が産まれて、きっと一人残らず始末するだろう。
だけど雪はそう言う能力は持ち合わせていない。
むしろSHの弱点になりうるかもしれない。
「それじゃ俺の出番かな?」
純也が言っていた。
「大丈夫、冬吾の子供なんだから徹底的に警備をつける」
恵美さんがそう言った。
「おい、菫。分かってるだろうな?」
「当たり前だろ。雪達に手を出す間抜けに鉛玉ぶち込んでやればいいんだろう?」
結と結莉も遠慮する必要は無いと思っている様だ。
「お願いします。今でも渡瀬さんに『あまり派手に動かないでくれ』と言われてるんで」
警察の中も対立の構図が出来上がっているらしい。
渡瀬本部長の擁護派と反渡瀬派。
後者は言うまでもなくアルテミスやリベリオンの後押しがあると誠さんが掴んでいた。
「今度はネズミ一匹逃がさない。全部叩き潰してやる」
恵美さんがそう言う。
「その必要すらないかもしれない」
時に預言者の様な事を言う冬夜さん。
多分結の能力に関する事だとは思う。
世界で最大のコングロマリット。
それを一掃する手段を結が手に入れるというのだろうか?
それがいつ起こるのか?
まだ不安の種は尽きないようだった。
(2)
「はーい、お誕生日おめでとう」
雪がケーキの上にあるローソクを消すと皆がクラッカーを鳴らしていた。
誠司君達も来ていた。
「今日雪が生まれた日だよ」
誠司郎が言うとなるほどと納得していた。
雪は黙って両手で紙皿とフォークを持って待ち構えている。
ケーキは2ホール用意しておいた。
「この子達ならその方がいい」
冬夜さんや冬吾さん達がそう言っていたけど愛莉さんをごまかすことは出来なかった。
「二人がケーキ食べたいだけでしょ!」
だから片方は苺のケーキ、もう一方はチョコレートケーキだった。
「僕は生クリームが苦手なんだ」
冬夜さんが言うと愛莉さんが怒る。
「孫の前で好き嫌いを止めてくださいと何度言えば分かってもらえるんですか!」
誠さんみたいな親はやっぱり嫌だけど、冬夜さんの様な父親もちょっと困るかな。
「で、私いくつになったの?」
雪がケーキを食べながら聞いていた。
「2歳だよ。俺と同じ」
誠司郎が答えていた。
片桐家の子供はみんなそうらしい。
食事中は、スマホはもちろんテレビを見るのも禁止。
皆と楽しく会話をしながら食事を楽しむ。
話題も食事中だと弁えた物を選ぶ。
「しかし雪は反則だろ。能力はお前に似て見た目も瞳子譲りか」
「あら?誠司は私より瞳子の方がよかったの?」
誠司君とパオラがそんな事を言ってた。
この歳で”美少女”と言われるほどの整った顔立ちをしている。
どうしてそうなったのか、冬吾さんや冬夜さんでも分からなかった。
「能力が冬夜レベルの美少女なんてふざけるな!チート過ぎるだろ!」
誠さんにも冬夜さんは言われたらしい。
親ばかと言われるかもしれないけど、雪は子役とかで生きていけるんじゃないだろうか?
実際恵美さんから打診があった。
だけど「将来の夢は自分で決めてあげたい」と愛莉さんが言っていた。
片桐家の子はやる気が無いだけでその気になれば何かしらの才能を発揮する。
だからこそ自分がやりたい事をやらせてやるべきだと冬夜さんと話していた。
「じゃあ、またね」
誠司郎がそう言ってパオラ達と帰って行くと2人をお風呂に入れて部屋に戻す。
「随分打ち解けたみたいですね」
「そうだね」
冬夜さんも今はこれでいいと言っている。
だけど問題はこれからだという。
雪は自分が劣っていると思い込んでいる。
だから誠司郎は自分の手には絶対届かない。
その結果雪は誠司郎が好きだという感情を封じている。
運動能力も雪の歳の男の子の平均値を軽く超える雪。
しかし気持ち一つでそんな物は関係ないという。
どうせ私なんて。
ここからが問題だ。
出来れば2人の恋を実らせてやりたい。
「で、この先どうすればいいんですか?」
私が冬夜さんに聞いていた。
「何もすることは無いよ」
親が言ったから付き合えなんて大昔の様な真似したくないだろ?
だから雪が自分で決める事だ。
それよりまず雪に自信をつけてあげる事。
雪だって誠司郎に負けないように成長している。
そこに気づかせてやらないと話にならない。
その後は雪の心ひとつ。
誠司郎と雪の距離はかなり縮まった。
普通にしていれば幼稚園で告白と言うこの世界独特の価値観が生じるだろう。
だけど今のままでは雪が誠司郎の気持ちをちゃんと直視してやれてない。
その間は何を言っても無駄だ。
私達が言ったところで頑なに拒んでしまう。
「どうして雪はそうなんでしょうか?」
愛莉さんでも分からないらしい。
だけど冬夜さんは言う。
「あれが片桐家の男子なんじゃないのか?」
恋愛感情と言う物にどこまでも疎い。
面倒だ、自分には無理。
そうやって諦めてしまう弱い心。
それでもきっといつか気づく時が来る。
その時に思い切って飛び出せるかどうか?
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