姉妹チート

和希

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(1)

 俺達はバスに乗って長崎に向かっていた。
 どこまでも続く長い道。
 人は道を進めばどこへだって行ける。

「綺麗だね~」

 でも残念だけど日本は島国。
 海を渡って外国には行けない。
 国内だって沖縄には行けない事を知っている。
 でも本州にはトンネルや橋があるからいける。
 北海道と本州を結ぶトンネルもある。
 四国だってそうだ。
 将来地元から愛媛に行けるように橋を繋ぐらしい。

「うぅ……」

 だけど半島や大陸にある隣国とはつながりたくない。
 都市伝説というので韓国と福岡をトンネルでつなごうとしたけど両国が反対したらしい。
 だったら最初から企画しなきゃいいのに。
 あの国はどうも不思議でしょうがない。
 支持率が下がったらとりあえず日本に賠償を求めたらいいと思ってると天音が言ってた。
 それで支持率が回復する国民の頭もどうかしてると思うけど。

「えい」

 茉奈が抱き着いてきた。
 今はバスの中。
 そしてバスは高速道路を走っている。

「茉奈、バスが高速を走っている間はシートベルトをしないとダメって桜子が言ってたろ?」
「結が私を置き去りにして考え込んでるから悪いんだよ」

 それに水奈が言ってたらしい。

「バスが事故に会うなんてめんどくせー事にはならないから気にするな」

 それに大型2種という運転免許を持ってる運転士がシートベルトしないといけないようなGがかかる運転するわけない。
 大体バスでそんな事故になったらシートベルトなんて意味が無い。
 ジャックナイフ現象と言うらしい。
 締めているところが腹部に近いと内臓が破裂する。
 ……飛行機での話だけど。
 水奈に学校まで送ってもらう時に教えてもらったから当然母さんも知っていた。
 自分が言うと喧嘩になるだけだと判断した母さんは愛莉に報告した。

「あなたはどうしてそういう事ばかり子供に教えるのですか!」
「ほら、遊達も言ってるだろ。事故るやつは不運と踊るだけだって……」
「天音。それは違うよ」

 じいじが珍しく口を挟んだらしい。
 愛莉も安心したらしい。
 じいじが娘を叱ってくれる。
 そう思ったそうだ。
 だけど愛莉の期待は泡となって消えた。

「あれは正しくは”ハードラックとダンスっちまう”って言うんだ……」

 ぽかっ

「冬夜さんも何をしょうもないことを娘に教えてるんですか!」
「あの漫画はそういうルビがあるから面白いんだ」

 特攻と書いてぶっこみと読んだり、疾風と書いてかぜと読むそうだ。
 作者は義務教育を受けなかったのだろうか?
 だけど愛莉にとってはどうでもよかった。

「今は漫画の解説をしてるわけではありません」

 怒った愛莉はじいじの秘蔵の漫画を全部捨てると言い出した。

「雪まで冬夜さんの真似をするかもしないでしょ!」

 父さんや冬吾も一緒になって必死に防衛したらしい。

「雪の事は私が責任もって指導しますから」

 瞳子がそう言って母さんは納得したらしい。
 あの中に面白い漫画結構あったから没収される前に俺が家に持って行こうかな?

 ぽかっ

 今度は俺が茉奈に小突かれた。

「だから、彼女を放って考え込むのはダメだって言ったよ」

 茉奈は一人で退屈してるらしい。
 秋久や朔は本を読んだり音楽を聞いていた。
 茉莉と菫が大人しいのはバスの揺れが心地よいのと退屈だったから爆睡してる。
 隣には彼氏がいるのに関係なくいびきをかいてるらしい。
 いびきを聞かれたくないとキャンプの時なかなか寝なかったのは何だったのだろう?
 で、茉奈は起きていて僕とお話をしたいらしい。
 何を話せばいいのだろう?
 高速は山間部を無理やり通した状態で山と空くらいしか見る物がない。
 少し考えて話題を振ってみた。

「茉奈は長崎で楽しみにしてる事あるの?」
「あるよ」

 食いついてくれた。

「それは何?」
「ステンドグラス」

 食べ物ではなさそうな響きだ。

「食べものだと思ったでしょう?」

 茉奈はそう言ってにこりとしていた。
 ステンドグラスとは色のついたガラス。
 結莉は長崎の観光地にある天主堂と言う教会のようなところに興味があった。
 もちろん茉奈がキリスト教信者と言うわけではない。
 もしそうだったら「神はベガスで遊んでる」なんて事を言う茉莉達を許すはずがない。
 日本人にとっては神なんてどうでもいいらしい。
 まあ、俺にとっても祈ったらおやつをくれるわけじゃないしどうでもいい。
 で、茉奈はその教会にあるステンドグラスを見てみたいと言っていた。
 皆がよく言っている。

「茉奈は誰に似たんだ?」

 まあ、水奈に似ていたら絶対言わない言葉だろう。
 それを証明するようにお昼ご飯の時に茉莉が暴れ出した。

「ふざけんな!長崎まで来てなんでこんな普通の昼食食わなきゃいけねーんだ!」

 どこぞのキチガイ料理漫画の陶芸家みたいなことを言って暴れ出す。
 もちろん菫も同じだった。

「修学旅行ってのはその土地の文化を学習する行事だって聞いたぞ!」
「菫の言うとおりだ!それなのにどこぞの食堂みたいな飯食わせやがって」

 旅行に行ったら旅先の名物を堪能するのが片桐家のルール。
 こんな普通のどこにでもあるような飯で我慢できるか!
 
「あまり騒がない方が良いと思うよ?」

 そう言って結莉は茉奈を指す。
 茉奈は俺の隣で昼食を静かに食べていた。

「これ以上騒いで食事の邪魔をすると結が怒り出しても知らないよ?」

 長崎がまた大惨事を迎えたくないなら大人しくしていた方が良いと結莉が言う。
 菫と茉莉はそれ以上何も言わずに黙ってご飯を食べていた。
 そんな茉莉達にアドバイスをしてやった。
 実は母さん達からアドバイスをもらっていた。
 多分茉莉達は普通の食事だと不満を漏らす。
 だけど茉莉達ならこう言えば喜ぶから言ってあげたらいい。
 父さんからのアドバイスでもあった。
 
「いつか二人で食べに来ようね」

 とりあえず結莉が説明すると茉莉も大人しく座る。
 するとその隣にいた朔が茉莉に「僕達もそうしようか?」と言う。

「当たり前だ!こんなしょぼい料理食うために来ただけじゃ収まらない。お前の心臓に鎖巻き付けてやりたいところだ!」

 しかし大人はどうしてこうもつまらないことを企むのだろう。
 昼食を食べてお腹がたまったところに原爆記念館とやらに連れて行かれる。
 本当にどうでもいい所だった。

「ちょっと……無理かも」

 茉奈にはさすがに無理みたいだった。
 面白がってるのは茉莉と希美くらいだ。

「恵美さん核兵器持ってる言ってたな。今度地元にぶち込んでもらうか?」
「ゴキブリ共を一掃できるしいいアイデアだな。私も晶に聞いてみる」

 原爆のむごさを教える場所に来て、2人は「面白そうだ」と地元に核ミサイル撃ち込むつもりらしい。
 自分たちも同じ目にあう事が分からないのだろうか。
 僕たち以外の班の女子は泣き出していた。
 男子も「グロイ」と目を背けている。
 これは子供が見ていい物じゃない。
 そんな事も分からないのだろうか。
 大昔に中国に修学旅行に行った高校生を南京大虐殺というありもしない出まかせの記念館に連れて行かされて、土下座を強要されたらしい。
 どうしてでまかせだと言えるのか?
 当時の南京の人口の3倍以上の住民が殺されたと言って誰が信じる?
 そう言う事ばかりしてるから誰からも信用されないと、普通なら気づきそうなことが分からないのは半島のゴキブリと同じ。
 やっぱり核で始末するしかないのだろうか?
 僕や父さんならその気になれば核なんて使う必要ない。
 中国は広すぎて何発も打つからもったいない。
 だったら適当に隕石落としてやればいい。
 あの国は日本の総人口くらい死んだところで構わないどころか好都合だと考えているらしい。
 税金を納めているわけでもないのに食料を配給しなきゃいけない内陸部の国民なんざいなくなって欲しいと思ってるくらいだから。
 策者も言っていた。
 
 こんな物見せて「戦争はダメ」と言ったところで、家に帰ったら戦争ゲームで楽しむんだ。

 まさにその通りだった。
 茉莉や希美にいたっては実弾を平気で撃って遊んでる。
 大地や善明が「しょうもないことに銃を使うんだったら銃弾はもうあげない」と注意して滅多に撃たなくなったけど。
 さすがにネットで銃弾は購入できない。
 茜に頼めばできるんだろうけど、茜も下手な事をすれば愛莉に怒られる。
 日本の法律よりも愛莉の怒りの方が怖い世界。
 そんな風に茉莉達を見ていると茉奈が声をかけた。

「やっぱり茉莉のほうがいいの?」

 最近気にしてるらしい。
 茉莉の方がどんどん発達しているのは服の上からでも分かる。
 菫の前であまり言ったらいけないと母さんが言ってたから気にしないようにしていた。

「俺には茉奈がいるんだから茉莉のを気にしてもしょうがないだろ?」

 母さんがそう言ってあげたら茉奈が喜ぶと言ってた。
 そして茉奈はやっぱり喜んだ。

「ありがとう」 
 
 そう言って茉奈は腕にしがみつく。
 しかし茉奈は気づいていないのだろうか。
 茉奈の柔らかい胸が僕の腕に当たっていることを。
 茉奈は茉莉ほどではない。
 だけど愛莉に似て成長している。
 だから最低でも愛莉ほどにはなるんじゃないのかと母さんが言ってた。
 そうなると機嫌が悪くなるのが天音。

「ふざけんな!私だけ捨て子だったなんて言わねーだろうな!」
「ふざけるのは貴方でしょ!あなたを産むのにどれだけ苦労したか分かってるのですか!?」
「……どういうことだ?」

 不思議に思った天音が聞いたそうだ。
 もうすぐ生まれるという状態になってじいじが病院に駆け付けた。
 しかし愛莉は母さん達を産んでるから比較的早いはずなのになかなか出てこない。
 駄々をこねるように天音は愛莉の中に20時間以上いたらしい。
 その間愛莉は苦痛をひたすら耐えていたそうだ。

「ご、ごめん」

 予想外に天音は愛莉に謝っていた。
 きっと自分も出産を経験していたからだろう。
 苦痛をこらえて産み落とした子供にそんな風に言われた母親の心情が分かるのだろう。
 だから愛莉も「いかに母親が苦労しているかわかったでしょ」と笑っていた。
 で、記念館を出ると長崎の観光地に出る。
 ここから長崎の観光スポットに行く。
 そこで自由行動の時間になる。
 そこで茉莉はまた問題を起こした。

「なあ、桜子。中華街ってどうやって行くんだ?」

 たしか路面電車ですぐ行けるんだろ?
 当然自由行動のエリア外だ。

「あなた先生の話聞いてた?そんなところに行かせるわけないでしょ!」
「ふざけんな!食い物食えないで3時間も何してろって言うんだよ!」

 こんなカップルだらけのふざけたムード漂わせやがって。
 機銃持って来てたら全員撃ち殺すところだ。
 天音だったらやるだろうな。
 しかし茉奈の希望の天主堂にも行く時間がいる。
 それに僕も父さん達にお土産買わないといけない。

「父さんはカステラはいらないよ。出来たら明太子にしてほしい」
「旦那様は子供みたいなこと言うのやめて下さい!なんでそうやって好き嫌いするの!?」
「父さんが言ってた。お酒を飲む人は甘いのは苦手なんだそうだよ」
「その言い分は却下です!だってケーキとシャンパン飲むじゃない」
「そう言われるとそうだね。なんでだろ?」

 こういうもみ合いになったら純也とか冬莉に聞いた方が早い。
 あっさり答えが返って来た。

「両方買っとけ」

 幸いにもこの観光スポットの土産屋で買えるらしい。
 だから急ぎたかった。
 だから早く行動したい。
 時間がもったいない。
 こういう事態を想定していたのだろう。
 天音から聞いていた事を茉莉達に耳打ちした。

「それまじか?冬夜」
「一応ネットで検索したら確かにあった」
「それならそうと最初に言え!ほら朔!彼女が腕組んでやるんだからありがたく思え」

 周りはそんなバカップルばかりだし問題ないだろ。

「行き先は結莉が考えているんだろ?」

 菫が言うと頷いていた。
 結莉が行きたいところに行って写真を撮ったりしてはしゃいでお土産を買うと集合時間になる。
 僕達はホテルで夕飯を食べる。
 やっぱりなんの代わり映えのないホテルの食事だったけど茉莉は大人しくしていた。
 
「明日の為に少し減らしておくかな?」
「それは明日の朝抜く程度でいいんじゃない?」

 夜になって腹減ったと暴れ出す茉莉が怖いと心音が言う。
 と、いってもこれっぽっちじゃ足りないと売店に土産の菓子を買って食べようとする茉莉は桜子に取り押さえられていた。

「お願いだから少しの間だけでも大人しくしてて」

 桜子の悲痛な叫びを聞いていた。

(2)

「きゃあ!変態!」

 毎年恒例の行事だと天音が言っていた。
 風呂の壁をよじ登って女湯を覗く男子達。
 それを見つけて悲鳴を上げてお湯をかけたりする女子。
 中にはこの後に告白を決意する猛者もいるらしい。
 よくもまあ、飽きずに続けているな。
 何が何でも恋人を作り出す物語の中でその行動は自爆行為だとなぜ気づかないのだろう。
 翼が言ってた。
 光太や遊達ですらやらなかったらしい。
 小学生の裸なんか見てもしょうがない。
 それなら適当にネットでエロ動画見てた方が良い。
 それが光太達の理論。
 しかし彼女はそれがいいとは絶対に受け取らない。

「そんなしょうもない動画見てる暇があったら少しは相手してよ!」
「麗華が相手してくれるのか!」
「そんなわけないでしょ、この変態!」

 そんな喧嘩をSHの問題児たちは繰り替えす。
 しかし本当の問題児たちは光太達じゃない。
 誰かがこう言っていた。
 
「片桐家の人間は絶対に女性の裸と神戸牛を選べと言われたら躊躇わずに神戸牛を選ぶ」

 それは愛莉も頭痛の種だったらしい。
 もっともじいじはそれでも愛莉の相手を上手くする。
 あれは長年の経験から来るものだろう。
 冬吾や空ですら恋人の扱いは上手い。
 問題は別だ。
 神戸牛を選ぶかどうかはともかく彼女に全く興味を示さない人間がいる。
 それが朔や秋久に芳樹。
 善明や大地もそうだったらしい。
 善明にいたっては翼が押し倒したと菫から聞いた。
 そういう奴は待っているだけじゃ何もしてくれない。
 だから自分から攻めていくしかない。
 天音がそう言っていた。
 その話をしている間大地は苦笑いをしていたけど。
 その点については愛莉も何も言わなかった。
 愛莉も中学生時代はじいじに苦労したらしい。
 じいじの誕生日に気合を入れて慣れない化粧をしてきた愛莉に対してはなった言葉。

「愛莉は化粧しない方が綺麗だよ」

 さすがに愛莉も怒って喧嘩をしたらしい。
 あの2人でもそんな事があるんだな。

「望さん達も同じみたいだぞ?」

 天音がそう言っていた。
 恵美から聞いたらしい。
 恵美は気にしていないけど、望の中ではきっと黒歴史になっているだろう。
 そんな話をお湯に浸かりながら菫達と話していた。
 
「私のじいじも同じだったらしい」

 クリスマスプレゼントに家をもらった。
 さすが晶さんだなと思った。
 あまり自分が構ってないからか西松と言う男に誘われてディナーに誘われて、それを晶さんが受けた時に菫のじいじは勘違いしたらしい。
 まだ付き合っているという既成事実があるうちにと酒の勢いで晶さんと寝たそうだ。
 それが晶さんの狙いだった。
 この世界には2種類の人間がいる。
 彼女以外の女性に興味を持つ人間と彼女の裸すら興味を示さないのか怖気付いているのか手を出さない人間。
 しかし当時女王と言われていた晶さんが夢中になるほどの魅力が菫のじいじにはあったらしい。
 あの超越した戦闘能力は望を鍛え上げた恵美に対抗して菫のじいじを鍛えたらしい。
 だからそれが理由ではない。
 望はそれでも恵美に対して好意があった。
 ただ、チキンだっただけ。
 だから恵美さんの中ではそんなどうしようもない男を鍛えてみたいと思ったそうだ。
 しかし菫のじいじは違う。
 恋愛自体を「面倒だ」と評していたらしい。
 そんな人間にどうして好意を持ったのかは美希にも分からなかった。
 恵美は教えてくれた。
 じいじが言っていたらしい。

「他人を好きになるのに理由がいるかい?」

 それは男だろうが女だろうが関係ない。
 誰が誰を選んで受け入れてもらえるかなんて知っているのは策者くらいだ。
 だけど少なくとも今壁の上から顔を出している奴らはごめんだ。
 小学生の裸に興味を示すような変態を相手にするつもりはない。
 しかし一つ気がかりがある。
 そうはいってもせめて彼氏くらいには興味を示してほしい。
 なのにあいつらはそういう事を全く聞いてこない。
 他の男子が「あいつ胸結構でかいぞ。床拭いてる時に襟から見えた」とか話しているのは聞いたことがある。
 朔もさすがに頻繁にデートに誘ってくれるようになった。
 だから気づいてもらおうと朔の腕に抱き着いて胸を押し当ててみたけど反応がない。
 ただ鈍いだけなのか?
 そんな相談をしていたら結莉がにこりと笑った。

「芳樹は気づいているみたい」

 今日長崎の観光の時に結莉は芳樹の腕に抱き着いていた。
 その時に芳樹がわずかに反応したのを結莉は見逃さなかった。
 男子は気づいてないように思うかもしれないが、意外と女子は男子の行動をチェックしている。
 視線がどこにいってるかとかそのくらいは普通の女子でも気づく。
 だからさっき言ったような前かがみになった時に目の前の男子が何を見ているかくらい気づく。
 男子はひそひそ話しているつもりでも耳に入ってくる。
 だから男子は馬鹿じゃないのか?と思っている。

「茉莉のは柔らかくないんじゃないのか?」

 菫がそう言っていた。
 しかし今の私には余裕がある。

「なんなら触って試してみてもいいぞ?」
「うぬぬ……」

 そういう発育は私や結莉の方が早かった。

「あんまりそう言うので冷かすな。結構気にするんだ」

 天音がまじめに話していたからあまり触れないようにしていた。
 実際体育の時に着替えたりするときに落ち込んでいたしな。
 しかもさらに追い打ちがかかる。 
 心音や佳織に沙羅のほうが先にふくらみが出てくる。
 陽葵にも越されたそうだ。
 だから菫は私の胸を触る前に落ち込んでいた。
 それを見かねた結莉が言った。

「菫、そうやって悩まない方がいいよ」
「結莉はあるからそう言えるんだよ」
「あのさ、結莉も気になって調べたんだよね」

 胸の大きさと言うのは遺伝するのかどうか。
 多少の遺伝はあるけどそれは胸の大きさじゃない。
 太るかそうでないか。
 問題はその先だ。
 理由を細かく説明しないけどストレスを貯めると遅れてしまうらしい。
 それよりは規則正しい食事を心がけたり豆乳を飲むとかしたほうがいいんだそうだ。
 豆乳の中には胸を大きくする成分が多く含まれているから。
 それに私の様な服装でいるのなら問題はないだろうけど、それでも私だって彼氏以外にそんな目で見られるのは嫌だと思うだろう。

「多分正行がそういう風に見ないのは菫に魅力がないからじゃない。菫が気にしてるから触れられないだけだよ」
「なるほどな……」

 菫は深く考えていた。
 さすがに今の菫を挑発する気にはなれなかった。

「そろそろ出ない?」

 佳織が言うと私達は風呂を出て着替えて外に出る。
 するとさっきまで除きをしていた男子が正座しているか、女湯の前で待ってお目当ての子に声をかけている。
 特攻隊のつもりなんだろうか?
 それともただの馬鹿?

「茉莉、明日楽しみだね」

 結莉が言う。
 冬夜や結莉は天音から聞いてみた。
 今日のしょぼい観光地は端からどうでもよかったらしい。
 結莉はお目当ての天主堂を見れて満足していたけど。
 でもそんな結莉でも不機嫌な時があった。
 それはお目当ての天主堂に行った時。

「日本語読めないなら来るな!」とか言いたくなったけど長崎の人はそうではないらしい。
 まあ、地元でも別府や湯布院では公用語の英語だけでなくハングルや中国語ででかく注意していたけど。

 撮影禁止。

 そう書いてるのに構わずフラッシュをたいて撮影する馬鹿たち。
 キリスト教の国からきている人は胸で十字を切って膝をついてお祈りしている中でそんな愚行をしているのを許せなかった。
 私ですらイライラしていた。
 こいつらもこの国で殉職させてやろうか?
 そんな風に思ったけど結莉の思い出を汚すから邪魔をせずに黙って見ていた。
 そう、静かにしてろとも書いていたにもかかわらずこのゴキブリ共は声がでかい。
 お前ら全員難聴なのか?
 だったら海外旅行する時くらい補聴器つけてきやがれ!
 あの国からわざわざくるくらいだからそのくらいの金は持ってるんだろう。
 そう、あの国からくる連中は金の使い方を分かってないくらいに爆買いと呼ばれる下品な買い物をする。
 さすがに私でも天音から止めらえていた。

「そんな突然大金を手にして浮かれた馬鹿みたいなみっともない買い物はするな」

 そんな事をすれば大地が恥をかく。
 天音ですら大地を大事にしている。
 まあ、自分が愛してる相手なんだから当たり前なんだろう。
 しかし一つだけ気がかりがある。

「佐世保に行かないのに佐世保バーガー食うのか?」
「ラーメンだって札幌じゃない地元で札幌ラーメンって書いてるラーメン屋さんあるじゃん」

 結莉の言う事ももっともだな。

「ていうか、どれだけ食べるつもりなの?」

 心音が聞いていた。
 私と結莉は揃って答えた。

「時間のある限り」

 だから心音や沙羅達は集合時間だけ決めて自由に行動しろよ。
 滅多にデートも誘ってくれないんだろ?
 もう6年生なんだ。
 恥ずかしいとかふざけた事を秋久が行ったら私に言えと希美が言う。
 間違いなく夏休みは海外旅行だな。

(3)

 とんとん。
 ノックする音が聞こえる。
 カミラがカギを開けると男子が3人入ってきた。
 カミルと爽君と北条君。
 みんな北条君を見ていた。

「で、陽葵に用があるんだろ?」

 菫が聞いていた。

「こ、ここで言うの?」

 北条君はカミルに聞いていた。

「どうせ、菫たちに隠れてこそこそするわけじゃないんだろ?」

 カミルはあっさり答える。
 二人っきりにしてもみんなの前でもそんなに変わらない。
 勇気を出さないといけないのは変わりない。
 だったら思いっきりいけ。
 北条君は覚悟を決めたようだ。

「陽葵さん。僕と付き合ってください」
「どうして?」
「や、やっぱり僕じゃダメかな?」
「そうじゃなくてさ……」

 どうしてそうなったのか教えてよ。
 いきなり付き合ってってナンパでもそんな事言わないよ。
 
「あ、そうだね……。6年生になってから一緒に花壇の水やり始めただろ?」
 
 やっぱりそう来たか。
 後は想像ついた。
 私と北条君は水やりの係を任せられた。
 桜子的には少しは女の子らしくしてくれという思いがこもっていたんだろ。
 ちなみに菫は飼育係を任せられていた。

「鶏の玉子って食べていいの?」

 菫はすぐ聞いていて桜子は頭を抱えたらしい。
 その疑問を持ったのは菫だけじゃなかったらしい。
 小学生の時の天音も同じことを考えて、そして水奈と実行した。
 しかし玉子を産んでいなくて「今すぐ交尾しろ!」と雄鶏と雌鶏をくっつけようとしたらしい。
 天音って昔から過激だったんだな。
 で、私は北条君と水やりをしていた。
 四季に合わせて色々な花を植えていた。

「どうせ雨降った後だからいいだろ!」

 そんな不満を北条君は持っていたそうだ。
 でも私は黙って水をやっていた。

「片桐さんはこんな面倒な事やらされるのに不満とかないの?」
「無いよ」

 即答した。

「なんで」

 北条君が興味を持ったらしく聞いてきた。

「花が一番わかりやすいんじゃないのかな」
「どういう意味?」

 北条君がそう言うと私は説明した。

「花は一生懸命にどの花よりも綺麗になろうと成長する」

 その為に水や土の状態、日照度も関わってくる。
 でもそんなの花自身には関係ない。
 花壇で育つ花もあればアスファルトを突き抜けて開花する花もある。
 誰よりも綺麗に咲こうとする。
 その結果どうなると思う?
 私が北条君に聞くと首を振った。

「優劣のつけようのないたった一輪だけの花になるの」
 
 それは優劣がつけられない。
 どれも特徴を持った花。
 そこには確かに生命がある。
 それは花や植物だけじゃない。
 全ての命に共通する。
 必死に生きようとする姿は何よりも神々しい。
 私の名前は陽葵。
「生を愛する為」に生まれた者。
「紫陽花の姫君」と称されることがある。

「なるほどな」
「理解した?そしたら早く済ませよう?」

 授業に間に合わない。
 そう言って私は水やりをしていた。
 その時の北条君の表情を確かめるのを忘れていた。
 北条君はそんな私に惚れたらしい。
 ちなみに菫は「じたばたするな!うっとうしい!焼き鳥に変えてやるぞ!」とカミラと奮闘していたらしい。
 とりあえず北条君の言い分は分かった。
 それだけ私を見てくれていたのならそれでいい。
 ママも言っていた。
 いつか私だけを見てくれる男子が現れる。
 見逃したらいけない。
 椅子取りゲームだ。
 誰よりも早く気づいて誰よりも早く行動する。

「一つ聞いてもいい?」
「どうしたの?」
「私はSHに入ってる」

 北条君に無理強いしない。
 だけど私と関わる以上危険は絶対ある。
 その覚悟はあるの?

「反対だ。僕が陽葵を守る!どんなことがあっても」

 意外と頼もしい彼氏の様だ。

「そりゃ無理だろ?お前陽葵よりも強いと思ってるのか?」

 菫が言う。

「そういう問題じゃないよ菫」
「どういう意味だ?陽葵」

 菫が私に聞いた。
 私は北条君に返事をすることにした。

「色々大変だと思うけどよろしくお願いします」
「……いいの?」
「断られるつもりで告白しに来たの?」
「ま、まあ。当たって砕けるつもりだった」
「……一つだけ約束して欲しい」
「なんだ?」

 捨て身で私を守ろうとするのだけは絶対にやめて。
 北条君が犠牲になって私が助かっても嬉しくない。
 2人で助かる術を常に考えて言て欲しい。

「わかった」
「ありがとう」

 私なんかを見てくれて嬉しいよ。

「じゃ、さっそく色々凌に指導しないとな」

 菫がそう言ってにやりと笑う。

「どういう意味?」

 北条君が聞いていた。

「凌は絶対女の扱い知らない。だから今教えておいた方が二人っきりの時いいだろ?」
「ちょ、ちょっと爽君もいるんだよ」
「爽君も一緒に教えといたらいいだろ!?」

 カミラが言ってたろ。
 世界では私達よりも幼い子のポルノがあると。

「日本の小学生ではまずありえないから心配しないでいい」

 その声を聞いて振り返ると桜子が立っていた。
 カミラがカミルを見る。

「ちゃんとカギはかけておいたよ!」

 カミルがそう言う。
 しかし、教師が合い鍵を持っていないわけがない。

「あなた達は何かあると問題を起こして……いい加減に勘弁してよ」

 桜子本当にノイローゼになりそうだな。
 男子は桜子に連れられて部屋に戻る。
 今日私の心の中にも小さな芽が出てきた。
 大切に綺麗な花になるように育てよう。

(4)

「秋久大丈夫?」
「ああ、平気だよ」

 退屈なんて言ったら僕の命に関わる。
 彼女の扱い方なんてとうに習っているよ。
 大体のデートスポットは女性向けに作られている。
 男性が楽しい所なんてほとんどない。
 それでもそんなそぶりを見せてはいけない。
 それをやるのが瑛大さん達らしいんだけど。

「お前は嫁とデートがそんなにつまらないのか!」

 そう言って怒られていたらしい。
 芳樹や瑛斗もどうせならカップルで行動しようと言っていた。
 その方が楽しいと思ったんだろう。
 発端はこのテーマパークに来た時に結莉達が今日の自由行動は食べまくると計画した時から。
 僕や朔にそこまで食べられる自信がない。
 あったとしても心音には絶対無理だ。
 すると茉莉が「自由行動にしようぜ」と言った。
 朔は強制的に食べる事になったらしい。
 彼女が食べて自分は残すなんて真似をしたら、晶さんが知ったら大惨事だ。
 朔は少しでも食べれるように朝食にはほとんど手をつけなかった。
 それを見た茉莉が「お前朝ちゃんと食べないと一日もたないぞ?」と朔に言っていた。
 
「ちょ、ちょっと胃の調子悪くてさ」

 小学生の言い訳としてそれはいいのだろうか?
 しかし理由を察した結が「いらないなら僕もらうね」と朔の朝ごはんを奪い取っていた。
 結も一緒に食べるはずなのだが大丈夫なのだろうが。
 片桐家だから大丈夫なんだろう。
 このテーマパークは乗り物系は殆どない。
 ただ洋風の建物と花が並んでいるだけ。
 雪なら興味を示したかも。
 あの子は何でも興味を示す。
 あれを興味と呼ぶのかどうかは親ですら悩んでいるみたいだけど。
 単にこの世界の情報を少しでも詰め込もうと1歳の時から思っているらしい。
 僕は嫌な予感しかしないね。
 そんな危険しか感じない雪を「普通の女の子だよ」と結のお爺さんは言ったらしい。
 どう考えても障害物を勝手に押しのける女の子を普通と呼ぶのは無理があるんじゃないのかと思ったけど。
 結ですらあった時に雪の正体がつかめないと感じたらしい。
 結より強い能力をもちながら結より警戒心が強い雪。
 雪はまだ自分でいろいろできる力がないから危険に対して人一倍敏感なんだそうだ。
 誠司郎が近づこうとするとあの手この手で威嚇するらしい。
 それでも誠司郎は雪に近づこうと努力しているそうだ。
 それでも神奈さんは放っていた。
 愛莉さんも同じらしい。

「確かに普通の女の子だな」

 二人ともそう言っていたそうだ。
 そんな話を心音と話していた。
 すると心音がくすっと笑っていた。

「私は雪の気持ち少しだけ分かるな」

 へ?

「どうして?」
「私も雪と同じような事あったから」

 雪の様な人間がまだいるって事か?
 それってまずい気がするんだけど。

「そうじゃないよ。秋久はその誠司郎を遠ざけようとする雪を重要視しすぎているからもっと単純な事に気づいていない」
「つまり?」

 僕が聞くと心音は少し考えて僕に耳打ちした。
 ……そういう事なのか。

「誰にも言っちゃだめだよ。雪をますます過激にするだけだから」
「たしかにそうかもね……」

 そんなに難しいことじゃない。
 幼稚園の時に告白する男子や女子がいる世界では気づかないだけ。
 本来の男の子は雪の様な子供なんだ。
 時間まで話をしながら見物をしていた。
 写真を撮ってしてやったりしながら当たり前のデートをしていた。
 それが異常だと気付かされたけど。
 時間になると集合場所に着く。
 菫達が遅れて来た。
 もちろん土産に木刀なんて売ってる店は無い。
 まして釘バットなんて絶対に売ってない。
 結莉や冬夜は一杯チャンポンや皿うどんを買っていたけど。
 まだ食べるつもりなんだろうか。
 そして長崎に別れを告げる。

「また来ようね」

 結莉が芳樹に言っていた。
 今度は佐世保にいって本当の佐世保バーガーを食べたいらしい。
 帰りに呼子のイカや佐賀牛を食べるそうだ。 
 この2人にとって旅行とは食べる事なんだろう。
 心音の話を聞いてやるためにイヤフォンは外していた。
 だけど心音の声は聞こえてこなかった。
 そのとき肩に何かが乗っていた。
 見ると心音が僕に持たれかけて寝ていた。
 心音は元々体が弱い。
 さすがに疲れたのだろう。
 静かに寝息を立てて寝ている。
 仮にいびきをかいてたとしてもそれを上回る音量のいびきを茉莉や菫が出していた。
 学校が近づくと心音を起こしてやる。
 この年頃の子に「寝顔可愛いね」なんて言わない。
 それを恥ずかしいと思う年頃……だと思う。
 自信が無いのは茉莉や菫がいるから。
 学校に着くと母さんが迎えに来ていた。

「どうだった?」
「超つまんねー」

 即答する菫。
 正行に同情するよ。
 さすがに疲れが来る。
 風呂に入ってすぐに寝るとした。
 どんなに暗い道でも進んでいくしかない。
 途中に分岐があったとしても立ち止まって悩んでいる猶予はない。
 僕達も終焉に向けて確実に進んでいた。
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