姉妹チート

和希

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今何を想う?

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(1)

「だからあれほど油断するなと言ったはずだ!」
「……面目ねえ」

 そう言ってじっと項垂れているゴッティ。
 こっちを揺さぶるだけ揺さぶって自らを餌にして返り討ちにした片桐空。
 もうこっちに戦力は無いと判断して潰しにかかるか?

「すぐに兵隊を準備する。今度は容赦しねえ……」
「ダメだ」

 ゴッティが言うと俺はすぐに止めた。
 それが狙いかもしれない。
 ここでムキになったらダメだ。

「お前は俺が言ったとおりに兵隊を作り上げろ」

 これ以上友恵の足を引っ張るわけにはいかない。

「しかし何もしなかったらまたやられるぞ?」
「それでいい」
 
 地元を出る事を許されないのなら地元の中で隠れていたらいい。
 あいつらにこっちの戦力はもうないと思わせるしかない。
 そうでもないと勢いに乗って一気に刈り取りに来るだろう。
 俺がそう言うとゴッティは「わかった」と言って外に出た。
 これでまた一からやり直しだ。
 ゴッティがホテルカリフォルニアのボスじゃなかったらこの場で八つ裂きにしてるところだ。
 だが、奴はまだ本国に兵力を残している。
 利用しない手はない。
 あとは予定通り友恵の説得を待つしかない。
 これ以上失態を繰り返したら友恵の立場を悪くするだけ。
 そんな事を考えているとスマホが鳴る。
 見ると友恵からだった。

「どうした?」
「……話は知っている」
「……済まない」
「それはいい、それより一つお願いがある」
「何があった?」
「もう、この弱腰の老人共は使えない」

 だったら新しい神輿を用意しよう。

「元老をやるつもりか?」
「ええ、ただ警備が硬いから私一人では無理」

 だから俺に手伝えという。

「その後は大丈夫なのか?」
「準備が出来たらまた連絡する。それまでは絶対に動かないで」
「そのつもりだから心配するな」
「次しくじったら私達が狙われる」

 デウスエクスマキナの戦力のほとんどを失った失態を償う羽目になる。

「十郎の言う通り彼らは戦いに慣れている。少なくとも素人だと侮っていい相手じゃない」

 これはもう戦争だ。
 なら準備がいる。
 戦力や大勢、そして攻めて大丈夫だという確信を得ない限り手出しするべきじゃない。
 それを怠ったから現状がある。

「彼らは増援はないだろうけど、こちらも補給路が長いから現状では互角。なら有利にするためには元老を始末するしかない」

 穏健派と言う名の思考停止したただの老害。
 今はその対立する派閥と取引しているらしい。
 友恵はデウスエクスマキナを意のままに操るつもりだ。

「……で、俺が加勢にいくわけか?」
「ええ、十郎達の戦争とはわけが違う」

 ただ殺すなら友恵一人で充分だ。
 だけど友恵が処分したと知れば当然反発する連中も出てくる。
 速やかに誰にも知られずに始末する。
 その段取りをしているからしばらく大人しくしててくれ。

「……わかった」
「心配しないでいい。あいつらが狙っているのはあくまでもネット上の情報。この電話は盗聴されていない」

 落ち着け。
 あいつらの出来る事を考えればそのくらいわかる。
 SHの情報はネット上での特定とそれを利用した石原家達の諜報活動。
 きっかけはいつもネット上だった。
 だからそれさえ気を付けたらそう簡単にこっちの出方を探れない。
 すでに掴まれた情報は今更隠ぺいしてもすぐに探るだろう。
 それはそのまま好きにさせて友恵は直接俺に連絡すると言った。
 あいつらが掴んでいたのはネット回線を使ったチャットやボイチャ、江口家の諜報部門による盗聴。
 今までの事を考えたら部屋に直接盗聴器と言う線はまずないとはっきり言える。
 その根拠に地元にいる俺の事は嗅ぎまわっていても海外に行ってる友恵に対しては何もしてこなかった。
 俺の「地元から出る」と言う案は間違っていなかった。
 あいつ等にも家族や生活がある。
 そんなところまで追跡できない。
 だから俺達を地元から外に出したくなかったんだろう。
 と、なると……。
 
「ゴッティ達のチケットを手配させて交通機関で外にだしてやればいい」

 リベリオンしかいない状況なら奴らは遠慮なく攻撃する。
 だけど関係ない客に紛れていたら手が出せない。
 チケットは直接渡すか配達にしておけ。
 間違ってもオンライン予約なんて真似はよせ。
 理由はさっき説明した。
 あまりにも強力で気づかなかったこと。
 SHの持ってる情報網はあくまでもネット上でだけだ。
 まあ、あまり電話を使用せずに通話料を浮かすためにボイチャを利用することが多い時代だから他の通信手段を忘れていた。

「今はSHに勢いがある。無理に逆らう必要はない」

 あいつらが油断する時期を待てばいい。
 こっちから手を出して奴らに無駄に情報を流す必要はない。
 
「あとは十郎に任せる。私もまだやることがあるから」
「無理するなよ」
「ええ、ありがとう」

 そう言って友恵との電話を終えると直接沖田達に電話した。

「いいか。今後はボイチャは禁止だ。何かあったらこの番号に直接かけて来い」
「あいつら嗅ぎつけないですか?」
「多分この電話の情報は調べつくしてるだろう」

 ネット上でのやり取りとはいえ電話番号とかはどうしても隠せない。
 ならそこから身元くらい割り出すくらいはする。
 でもそれだけだ。
 お前とのやるときは電話だけにする。
 間違ってもチャットで済まそうとするな。
 
「で、今日はどうしたんですか?」
「今後の方針を決める場所はいつもの場所だ」

 沖田と話をしながら一つ気づいたことがあった。
 ファミレスなら客に紛れて盗聴される。
 だけどあの場所ならそれは不可能だ。
 紛れたとしてもゴッティの見張りがすぐに見つけるだろう。
 SHも万能じゃなかったって事だ。
 今は好きにさせてやる。
 思う存分平和を楽しめばいい。

(2)

「茉奈、お前にお客さんだ」

 突然の来訪者の応対に出た優翔が呼んでいる。
 ママは優菜たちと一緒にリビングでゲームをして馬鹿笑いをしている。
 掃除を済ませてこれから買い物にでも行こうかと思っていたところだった。
 誰だろう?
 私は玄関に出ると驚いた。

「結。どうしたの?」
 
 結が一人で玄関に立っていた。
 珍しい事もあるんだな。
 結は私を見ると何かを差し出した。

「ほら。今日ってそういう日なんだろ?」

 そう言われて思い出した。
 今日はホワイトデー。
 バレンタインのお返しをもらえる日。
 わざわざ来てくれたんだ。

「ありがとう」

 それを受け取ると中身を見る。
 結の自作のクッキーだった。
 結もなんでも出来るんだ。

「茉奈、買い物頼んでもいいか?」
 
 様子を見ていた優翔が私に買い物に行くように言う。

「どうせ、夕飯の買い物行くつもりだったんだろ?結も一緒に行ってやってくれないか?」
「あ、ああ。いいけど」

 そして結と二人で買い物に出かける。
 結が何か落ち着きがないようだ。

「どうしたの?」
「い、いや。こういう時ってどうしたらいいんだろうってさ」

 手を繋いだ方が良いのかどうか悩んでいたらしい。
 しょうがない事で悩むんだな。

「したいならすればいいじゃない?」
「本当にそれでいいのか?」
「え?」
「俺がしたい事をしても本当にいいのか?」
「何かほかにしたい事があるの?」

 私が尋ねると結は黙ってうなずいた。

「何がしたいの?」
「とりあえず買い物済ませてから言うよ」

 こんなに緊張してる結を見た事がない。
 いつもは堂々としてるのに。
 きっと私だけが見れる結なんだろうな。
 スーパーに入ると買い物かごを取る。
 それを結が持ってくれた。

「今日は何を食べるんだ?」
「結の家は夕飯何なの?」
「分かんない」

 結が帰って来る時には買い物は済んでいるらしい。

「オムライスにしようかな」

 なんとなくだった。

「茉奈の家はオムライスに何をかけるんだ?」
「普通にケチャップかな?」
「やっぱりそうなんだ」
  
 でもケチャップまみれのチキンライスにケチャップの組み合わせってどうなんだろうな?って結が笑っていた。
 レジに並んでお金を払っている間に結がエコバッグに詰めていく。
 清算を済ませると私はそれを全部取り出して入れなおす。
 
「卵は一番底でいいんだよ」
「でも割れないか?」
「底が安定してたら上下の荷重には意外と耐えるの」
「茉奈は何でも知ってるんだな」
「私にも分からないことがあるよ」
「なんだそれ?」
「……例えば、結の今の気持ちとか」

 今、どんなことを思っているの?
 そんな話をしながら帰っていると結が公園に寄りたいと言い出す。
 どうしたんだろう。
 公園のベンチに並んで座ると結が話だ。

「さっき”俺のしたい事をしてもいい”って言ったよな?」
「う、うん」

 それを今するの?

「前からしてみたい事があったんだ」

 ただそれを私に言うと嫌われちゃうんじゃないかと不安だったらしい。
 なんとなく気づいたけど気づかない振りをした方がいいんだろうな。

「大丈夫だよ。私が結を嫌いになるなんてありえないから」

 だから結の口で伝えて欲しい。

「一度でいいから……茉奈とキスがしたい」

 それだけ?
 私は思わず笑ってしまった。

「やっぱり変だったか?」
「一度でいいの?」
 
 これからずっと一緒にいるのに一度でいいの?

「やっぱりダメか?」
「いいけど、一つだけ条件がある」
「なんだ?」

 私はにこりと笑って結に伝えた。

「私がそんな気分になったらいつでもして欲しい」
「茉奈でもそんな気分になるのか?」

 変態とか罵られると思っていたらしい。
 恋人とキスしたら変態は無いと思うんだけど。

「今する?」

 家にはママ達がいるから。

「外でいいのか?」

 私は何も言わずに目を閉じる。
 その意味をちゃんと汲んでくれたらしい。
 私の両肩を抱いてキスをする。
 まだまだ未熟なキス。
 わずか数秒の甘くて苦い味。

「これだけ?」
「……これ以上に何かあるのか?」

 結はまだ知らないらしい。

「で、どうだった?」
「……よく分からない」

 ただ頭がぼーっとするらしい。
 そのうちその感情の正体が分かるよ。
 
「じゃ、帰ろう?」

 今度は私が結に手を差し出す。
 結が皆を導く存在なら。
 私は結の恋の水先案内人。
 もっともっと楽しい世界にいつか連れて行ってあげる。

(3)

「もう大学は休みに入ったの?」
「うん、冬吾君は年中大変そうだね」
「好きでやってるから大変とかそういう気分は無いかな」

 冬吾君達のチームは連勝記録を毎回更新していた。
 誠司君達のチームも必死に食らいつくし、他のチームも冬吾君達のチームを徹底的に調べている。
 なのに策を変えてきても冬吾君達は臨機応変に戦術を変えてくる。
 どんな作戦に対してもいとも簡単に対応してパズルの様に解いて行って得点に結びつける。
 その鍵になってるのが冬吾君。
 そんな冬吾君がフィールドにいるだけで相手にはプレッシャーになる。
 無理に強引にでも先制出来れば。
 そう言って先制出来たチームはいない。
 大体が防がれて冬吾君にボールが渡る。 
 それはもう絶望に変わる。
 だから誠司君だけはその策は取らなかった。
 そうなるのが怖いから。
 冬吾君が出てるなら絶対にフリーにしたらいけない。
 そんな無茶はただの自殺願望だ。
 そして、とある国の選手が無理やり冬吾君のユニフォームを掴んだり、わざと足を引っかけたりして妨害する。
 もちろん監督たちが猛抗議する。
 サポーターだって黙ってない。
 日本人のサポーターだって過激なチームはある。
 スペインでそんな暴挙にでたら試合が止まってしまう。
 それでも冬吾君は何事もなかったかのように相手の選手を挑発するらしい。

「まだまだだね」

 冬吾君のチームは冬吾君がいるからというだけでそれが有利になる。
 冬吾君と2,3人だけで攻めていけばいい。
 ゴールの演出は冬吾君が決める。
 残りは守備に徹していても問題ないくらいだ。
 だから相手は数で押そうと自棄になる。
 その結果がカウンター。
 その時点で心が折れて投げやりなプレイをしたり冬吾君を負傷させようとする。
 あまりにひどくなってきたら冬吾君を下げる。
 その頃には十分な点差を作っているから。
 とにかく冬吾君はプロになって負けを経験したことは一度もない
 チームも王者の風格という物を持って試合に臨んでいた。
 だからチームの経営者は頭を抱える。
 そんな最強の切り札を日本に返さなければならない。
 考え直してくれとも言われたらしいけど「大事な約束と大切な人が待ってるから」と頑なに拒んだらしい。

「僕の方はそうだけど瞳子はどうなの?」

 大学卒業できそう?
 絶対できると言えないから。
 現に留年した人が冬吾君の父さんの友達にいるそうだ。
 冬吾君も心配して翼や天音達に聞いてるらしい。
 揃って答えるそうだ。

「そんなに心配なら私に電話するより瞳子にしろ」

 その言葉通りこの3年間ずっと冬吾君は話し相手になってくれた。
 遠距離だからなおさら気を使うのだろう。

「私は卒業より心配な事があるんだけど」
「どうしたの?」
「本当に卒業後教師になっていいのかなって」

 妊娠中は当然休暇を取る。
 だけど冬吾君の子供の面倒を見ずに愛莉さん達に任せっきりなのは甘えてるんじゃないのか?
 冬吾君にそう言うと冬吾君は笑った。

「母さん達が言ってた」

 冬吾君が帰国したら空達は引っ越すらしい。
 だから空いた部屋を私たちが使っていい。
 子供の面倒は愛莉さんが見てくれる。

「私達の面倒を瞳子達に見てもらうかもしれないのだからそのくらいしますよ」

 冬吾君の父さんは海外でのんびり暮らそうと思ったらしい。
 だけど天音が「愛莉の骨を海外に取りに行くのは面倒だからやめてくれ」と言ったそうだ。
 それに愛莉さんが言っていたらしい。

「冬夜さんが言ってた事が気になるし」
「父さんが何か言ってたの?」
「冬吾の子供はきっと今までの孫の中でも一番注意しなければいけない子になるだろうって」

 だから、私は気にしなくていいと冬吾君は言った。

「ねえ?こんなニュースがあったの知ってる?」
「どんなニュース?」
「後継者になる子供を産まなければいけないのに子供を授からない母親がプレッシャーに負けて病気になった話」

 ただでさえ片桐家の血を継ぐ子供。
 それだけでプレッシャーだ。
 なおさら働いていていいのだろうか?
 恵美さんから聞いた。
 冬吾君と誠司君の為に投じる金額は桁外れの物だった。
 そのくらい他の国のチームも欲しがる人材。
 少しだけ不安があった。
 それを察してくれたのか冬吾君は笑って答えてくれた。

「そんなにすぐ産んだら僕が困るから気にしないでいいよ」
「どうして?」
「だって4年間ずっと禁欲してたんだよ?」

 やっと瞳子に会えるんだから少しくらい楽しみたい。
 そんな冬吾君の話を聞いてる私は嬉しかったけど少し恥ずかしかった。
 それにどうせ……。

「そう言えば私が喜ぶって誠司君から聞いたの?」
「うーん、結構本気なんだけどな」
「それならやっぱり動画とか見たらいいんじゃないの?」

 風俗に行かれるのは少し嫌だけど動画くらいならしょうがないって天音達も言ってたし。

「相手が瞳子じゃないと意味がないんだ」
「どうして?」

 すると冬吾君が説明した。
 誠司君は話をするたびに嫁のパオラさんの話をするそうだ。
 家にいる時は毎晩抱いてるとかそんな話。
 しかもパオラさんも女性友達とそう言う話はしないらしい。
 お嬢様って言ってたから大っぴらにはしないのだろう。
 だから誠司君好みに誠司君が説明してるらしい。

「お前そんな事言ってるとまた……」
「冴の事だろ?俺だって反省してるよ。パオラと寝るときはちゃんと愛情をこめて……いてぇ!」
「そういうのを私以外の人に自慢するのを止めてっていつも言ってるでしょ!」

 チームメイトを家に呼んだ時もそんな馬鹿な事を言ってるらしい。
 相変わらずだなぁ……
 冬吾君のお父さんは「片桐家の男子は彼女に逆らえない」って言ってたけどそれは本当に片桐家だけなのだろうか?
 とにかくそんな風に嫁さんの自慢をされた冬吾君はさすがに寂しいと思うらしい。
 つまり冬吾君はそういう快楽を得たいんじゃなくて私に触れたいという感情みたいだ。
 それだとたしかに動画では冬吾君の欲求を満たすことはできない。

「でもね、冬吾君の望みは無理じゃないかな?」
「なんで?」

 私は笑って言った。

「誠司君達も日本に帰ってくるんでしょ?」

 そしたら子供を作るだろう。
 そんな親子を見ていたら冬吾君も子供欲しくなるんじゃないのか?

「言われてみるとそうだね……でもさ、一つ心配があるんだ」
「どうしたの?」
「出産て危険な行為だって天音から聞いてさ……」

 実際に命を落とすこともある。
 冬夜の母親はそうして命を落とした。
 そんな真似を私にさせていいのか?
 そういう風に悩んでいるらしい。

「冬吾君がそう思ってくれるから私は冬吾君の子供を産んで育てたいって思うの」

 私と冬吾君の愛を形にすることが出来る。
 その為なら危険を承知で頑張れる。
 きっと冬吾君が夫なら私は安心して産める。

「そっか……お爺さんも言ってたらしいんだけど」

 実は子供の名前は決めてあるんだ。
 冬吾君はそう言った。
 まだ性別どころか跡形もないのに早すぎるんじゃないのか?

「でもお爺さんも父さんが高校生くらいの時から決めてたって言ってた」
「そうなんだ。でも将来の楽しみにしてるね」

 まだ冬吾君は私にプロポーズすらしてないんだよ。

「私も冬吾君に負けないように頑張るから」
「うん、僕も頑張るよ」

 そして私達は最後の1年を迎える事になる。
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