姉妹チート

和希

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Reach For The Sky

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(1)

「今日は災難だったね。片桐君や」
「誠たちは全く変わらないね」

 僕が片桐君に声をかけると片桐君はそう言って笑った。
 多田君は今桐谷君達と騒いでる。
 そして愛莉さんと晶ちゃんも娘の教育に恐怖を覚えたらしく、子供たちが花火しているのを監視している天音達を監視していた。

「いいか?陸にロケット打ち込んだら怒られるから海に向かって打っておけ」
「海にならいいの?」
「ああ、波が攫って行くから片付ける手間も省けるだろ?」
「いい加減にしなさい!いいわけないでしょ!?」

 ……やっぱり愛莉さん達が監視していて正解だったみたいだ。
 空も美希も結や比呂達の世話をしているからいない。
 だから僕達3人だけという状況になった。
 僕達は酒を飲みながら久しぶりにゆっくりしている。

「僕達ももう少しでやっと隠居できそうですね」

 石原君がそう言っている。
 僕も善明に少しずつ仕事を押し付けていた。

「善明ももう30だからこのくらい判断できるだろ?」
「まだ30だと僕は思っているのだけど」
「それを晶ちゃんの前で言ってはいけないよ」

 その歳で戦場を駆け抜けるとかいう真似はしたくないだろ?
 大地も必死に次々と押し付けられる仕事をこなしていた。
 大地も善明もしっかり育っているようだ。
 僕達が黙っていてもそういう風に仕向けていた。
 どの仕事を部下に丸投げしていいか?
 優先順位が分かるようになってきたらしい。
 まあ、当然だろう。 
 出来なければ社長が残業という事になる。
 そうすると当然母親が怒り出す。
 そんな悲惨な状態は小さい時から見てきた。
 それだけは避けたいと必死になればどうすればいいかくらい思いつくだろう。
 善明から天の様子も聞いていた。
 ほとんど部下に押し付けて寝てるらしい。
 如月グループは大丈夫なんだろうか?
 たまに娘の繭が監視に行くらしい。
 晶ちゃんの様に「たまには映画でも見ない?」とか思いつきで恐ろしいことを言ったりはしない。

「社長が居眠りしたらだめだと何度言えばわかるのですか!?」
「だってやることなくて暇なんだからいいだろ?」
「その机にたまってる書類は何なの?」
「ああ、あとハンコ押すだけでいいらしいから帰る前に押して帰ればいいと思って」
「天はどんな書類かも確認せずにハンコを押すつもりですか!?」

 片桐君が読んでいた漫画で部下に手続等を任せていたら大企業に会社を乗っ取られた挙句、特許等も全部奪われるという悲惨な男性がいたらしい、
 その後息子たちがこっそり株等を買い占めて奪い返したというエンドもある。
 だけど他人を思いやれる者がそんな事をすれば当然自分が傷つく。
 晶ちゃんとは真逆のタイプのキャラだったそうだ。
 
「片桐君は空はどうなんですか?」
「少しずつ押し付けてるんだけどね。まだまだ不安かな?」

 片桐君はそう言って笑っていた。

「社長、この件なんですけど……」
「それは空に任せるって言わなかったっけ?」
「ですが、最終判断は社長が……」
「空はこの会社を継ぐつもりなんだろ?」

 と、いうことは次期社長だ。
 空が判断しなさい。
 無茶振り過ぎじゃないかい?片桐君。

「もうすぐ30になるんだ。いい加減自分で決めるようにしないとね」

 自分の判断に責任を持ってもらう。
 そうならないと会社は任せられない。
 片桐君はそう言った。

「仕事の事は多分大丈夫だと思うけど、あとは孫の問題ですね」

 石原君は苦笑いしながら言っていた。
 結莉と茉莉はなんとなく想像していた。
 天音の娘だから。
 小学生くらいになればそろそろ何かやらかすだろう。
 石原君と片桐君が悩むのを見ていればいいと思っていた。
 僕の子供は大体僕と似たようなところがあるからね。
 計算外だったのが菫だった。
 あれはどういう説明なんだろうか?
 晶ちゃんの孫だから?
 だとすると翼の血はどのへんにあるのだろう?
 翼も踵で人体に穴をあける残忍な性格だと聞いた。
 そういう事なのだろうか?
 だけど翼の良い部分もあるらしい。
 父親の事が大事なんだそうだ。
 それは結莉も茉莉も同じだ。
 大地の事が好きらしい。
 理由は強いから。
 ……2人らしい理由だ。
 菫と茉莉の存在は本当にチート染みていた。
 なんて言っても恵美さんと晶ちゃんの頭痛の種なんだから。
 天音が教育していたらそうなるんだろうか?
 渡辺班の教師陣は必死に桜子を慰めてるらしい。
 1学期の終業式までしっかり茉莉達は問題を起こしたそうだ。

「糞暑い体育館にいるんだから長話するな禿!子供を熱中症にするつもりか!?」
「何度も言いますが石原さんと酒井さんは口の利き方に気をつけなさい」
「お前も何度も言わせるな禿!そんな長話してるから禿げるんだろ!っていつも言ってるだろうが!」

 あの子達に怖い物があるとしたら多分それは愛莉さんだろう。
 毎日の様に桜子が電話して愛莉さんに相談しているそうだ。

「茉莉達の入学は地獄の6年の始まりでした」

 そんな風に表現したらしい。
 通知票にも書かれていたらしい。

「もう少しご家庭で指導してください」

 翼は善明に相談したそうだ。
 しかし善明の手に負えるわけがない。
 下手に「もう少し上品なふるまいをしたらどうだい?」と言ったことがある。
 それはすぐに菫が晶ちゃんに相談した。

「善明は自分の娘になんてことを言ってるの!」

 そんな風に電話で怒鳴っている晶ちゃんを見た事がある。
 僕は静かに見守っていた。
 昔何かの漫画で読んだことがある。
 とある国の強い3人をそう称したそうだ。

 ブラックスリー。

 間違いなくあの3人はそうだろうね。
 一方結は信じられないくらいに素直だ。
 そこまではきっと冬吾と一緒だ。
 しかし結には欠点があった。
 やる気が無い。
 まあ、あの子にはその方がいいのかもしれない。
 下手にやる気を出すと死人を出しかねない。
 だから片桐君も様子見をしているようだ。
 あの子が人の道を外すような事をすればそれは人災になる。
 そうならないように空も美希もしっかり見ているらしい。
 幸い比呂や茉奈も相手してくれてるらしい。

「海翔はどうなの?」

 片桐君が石原君に聞いていた。

「幼稚園で優奈や愛菜たちに注意してるそうですよ」

 石原君はそう言って笑った。
 結に言われたらしい。

「あとは任せる」

 海翔は頷いたそうだ。
 幼稚園の平穏な生活をしっかり守っているらしい。
 しかし結莉や茉莉とはまったく違う方向にのびているのは片桐家の血が強いのだろうか?

「そんな大層なもんじゃないと思うよ」

 片桐君は答えた。

「じゃあ、どうして海翔だけかあんなに大人しいんですか?」
「海翔は結を尊敬しているんだろ?」

 大人しいと言えば聞こえがいいが、やる気の全くない結を見ていた。
 だから自分も同じようにすればいいと思っているのだろう。

「酒井君達は大変だね」

 一番大変なのは石原君だと思うけどね。

「僕より愛莉さんの方が大変なんじゃないですか?」

 恵美さんでもどうしたらいいか悩んでるから。

「そう思ってるならどうして望はそうやってまた私達のいないところでこそこそして飲んでるわけ?」

 振り返ると恵美さん達が立っていた。

「花火は終わったの?」
「終わって夜食の準備始めたらあの子達じっとそれを待ってるわ」

 結莉や茉莉を大人しくさせるのは食べ物が一番なのだろうか?
 だとすると菫は?

「あの子もいっしょになって待ってるわ」

 食欲まで片桐家を継いでいるそうだ。
 晶ちゃんがため息を吐いている。

「すいません、私が力不足で……」

 翼が申し訳なさそうにしている。
 案ずることないよ。
 あの子たちは晶ちゃんでも手を焼いてるのだから無理に決まってる。

「私も祈くらいを想像していたんだけど……あれはちょっと難しいわ」

 そんな風に言わせる菫は凄いと思うよ。
 ……あれ?

「陽葵はどうなんだい?」
「私にも分からないのよ」
「私に似たみたいで、特に刺激しなかったら大人しいんです」

 翼も苦笑いしていた。
 
「天音!他人事のように聞いてたらダメですよ!あなたの娘の話をしてるのですよ!」
「私だって小さい時はあんな感じだったからいいだろ」
「天音、それは違うと思う」

 翼がそう言って話を始める。
 天音に似てるから暴れているだけじゃない。
 天音に似た子供を天音が教育した結果があれだ。
 間違いなく天音の幼少期を超えている。

「愛莉ちゃんどうする?様子を見ようかと思ったけど早めに新條を付けた方がいいのかしら?」

 恵美さんも悩んでるようだ。

「冬夜さんはどう思ってるんですか?」

 愛莉さんが片桐君に聞いていた。

「僕達が口出ししていいの?」

 天音は石原家の人間だ。
 まず最初に大地が方針を決めるべきじゃないの?
 片桐君は優しそうに見えてすごく厳しいことを言う。

「大地はどう思ってるの?」

 恵美さんが聞いていた。

「お義父さんの考えで正しいのならまだ様子見で構わないと思ってる」

 天音に似ているのは間違いない。
 だから将来も天音の様に立場をわきまえるようになるだろう。
 茉莉達を馬鹿にする無礼な奴は適当に処分する。
 もっとも茉莉はきっとそんな奴がいたら朔が守るだろう。
 問題はその時茉莉がどう思うかじゃないのだろうか?
 自分の立ち位置を見直す時がくるんじゃないか?
 現に天音はそうやって今の天音を作っていた。
 結莉も同じだ。
 2人そろって暴れるから気づかないけど、そうじゃない時は普通の女の子だ。
 むしろそれが奇跡なくらいに思える。
 今はまだ基礎を作っていく時だ。
 大地も天音に協力して育てると大地は言った。

「それでいいんじゃないかな」

 片桐君はそう言って笑った。
 天音で足りない部分を大地がフォローしてやればいい。
 夫婦なんだからそれが当たり前だろ。
 だけど愛莉さんはそう思っていなかった。

「冬夜さんは大地がいない昼間の天音を見てないからそんなのんきな事を言ってられるんです」

 家に様子を見に恵美さんと愛莉さんが行った時だった。
 呼び鈴を押しても相変わらず出ない。
 何度も押すと茉莉が出てくる。

「何度も何度もしつけーぞ!同じ事言わせんな!ぶっ殺すぞ!」

 孫にそんなこと言われたら恵美さんでもさすがに傷つく。

「だから二人に合い鍵渡しただろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」

 不思議な事に片桐君は様子を見てるだけだった。
 いや、それだけじゃない。
 大地の動向を見ているようだった。
 大地もそれに気づいたのだろう。
 ラーメンを食べてる茉莉を呼び出した。

「どうしたんだ?大地」
「茉莉、もしパパが家の鍵を忘れたとして……」

 呼び鈴を鳴らしたらそんな暴言を言うの?
 それをママが許すと思う?
 天音だって大地が仕事してるから生活出来ているって分かってるんだ。
 さすがに天音も怒ると思うよ。
 僕はそうは思わなかったけどとりあえず大地のお手並みを拝見していた。

「大地って分かってたら言わないよ」
「本当に?」
「本当だって!子供を信じてよ」
「じゃあ、どうしてお婆さんが来た時に出来なかったの?」

 お婆さんがパパ達を育ててくれたから茉莉がいるんだよ?

「そんな事言ってたら誰が来るかわからないじゃん」

 大地はその一言が欲しかったのだろう。
 にこりと笑って言う。

「そうだよ。誰が来るかわからない。だからちゃんと挨拶しないと失礼じゃないか?」

 茉莉は気づいたようだ。
 相手の顔や素性を確認せずに「殺すぞ」というのがどれだけリスクを負う行為なのか。

「……わかった」
「さすが天音の娘だね。ラーメン食べてるところごめんね」
「大地達は食べないの?」
「……天音一緒に行っておいで」
「そうするよ」

 そう言って茉莉と天音達はラーメンを食べに行った。

「へえ、大地もちゃんと教育のコツ分かってるんだね」

 石原君が感心していた。

「あの子たちは天音の娘だから」
「どういう意味?」

 愛莉さんが聞いていた。
 天音の娘だから理由に納得がいかなかったら絶対にやめない。
 だから頭ごなしにダメでしょは通じない。
 ならどうしてそれがいけない行為なのか説明してやればいい。
 納得さえすれば茉莉だってやらないだろう。
 まだ反抗期ですらないのに無理に押し付けてると反抗期が来た時に大変なことになる。
 きっとそれは片桐君達がしてきたことだろう。

「父親になって気づくことってあるんだなって思いました」
「それが分かってるだけ大地は立派な父親ですよ」

 それに引き換え天音は……。
 愛莉さんがぼやいていると片桐君が否定した。

「天音は愛莉を見て育ったんだ」

 天音がどんな問題を起こそうとまず天音の言い分を聞いていた。
 それからダメなところを指摘する。
 ただ天音の中でその基準があいまいなだけ。
 その部分を大地が補ってやればいい。
 なるほどね。

「片桐家の子供は良くも悪くも親を尊敬してる。だからそんなに親に反抗なんてまずしない」

 翼と空の子供ですらそうなんだから間違いないだろう。
 翼がそう言っていた。

「と、すると菫が問題ね」
「それはないと思うよ」

 晶ちゃんが言うと片桐君があっさりと答えた。

「どうして?」
「他人様のお子さんの教育に口を挟むのはよくないと思うからヒントだけ」

 そう言って片桐君は一言言った。

「理由は多分酒井君が知ってる」

 へ?

「善君。どういう事?」

 晶ちゃんが僕を見ている。

「あ、そういう事か」

 善明は何か気づいたようだ。
 善明が気づくような事……そういう事か?

「善明が理由なんだね?」

 僕がそう言うと片桐君が頷いた。

「どうしてそういう事を父親だけで納得するの。私達にもちゃんと説明して頂戴」

 晶ちゃんが言うと善明が説明した。
 今はまだ友達と恋人だけとしか顔を合わせないから関係ないけど、翼が言っていた。
 
「ああ見えて善明の事尊敬してるみたい」

 翼がそういうのだから間違いないだろう。

「それがどう関係あるの?」

 今暴れてるじゃない。
 晶ちゃんはそういう。

「晶さん、私も天音もそうだった」

 翼が言う。
 どんなことがあっても親に恥をかかせたくない。
 翼だってきっと善明を困らせるような事はしないだろう。
 今はまだそういう社会の中にいない。
 もう少し成長してそういう立場になった時はちゃんとしてるはずだろう。
 現に茉莉は来客者の応対を間違っていたけど菫はそうじゃない。

「翼、誰か来たぞ。早く出ろよ」

 自分では対応できないというのが本音だろう。
 茉莉は天音のやり方を見てきただけどいうだけ。

「そう言われると確かにそうだね」

 翼がそう答えていた。

「じゃ、僕もラーメン食べたいから行ってこようかな」
「あ、僕達もいく」

 そう言って片桐君は翼と空を連れてラーメンを食べに行った。
 そんな片桐君の背中を見て愛莉さんがつぶやく。

「あの食い癖さえなかったらいい父親なんだけど」
「愛莉……そこまで完璧だったら私達がなおさら惨めになるじゃないか」

 気づいたら神奈さんと亜依さんがいた。

「どうしたの?」

 やけに疲れている表情の二人を見て愛莉さんが聞いていた。
 孫を寝かしつけるのに苦労したらしい。
 亜依さんは遊が騒いでるからと琴音が寝ようとしないから大変だったらしい。
 神奈さんは?
 
「すこし恵美たちの話聞いてたけど、じゃあ私の孫娘たちはどうなってるんだとトーヤに聞きたくなってな」

 水奈はまだ5歳の娘に酒を飲ませようとしたらしい。

「早いうちに慣れた方がいいだろ?」

 慌てて学が止めたそうだ。

「5歳の子供にアルコールを勧める親がどこにいるんだ!?」
「ここにいるよ」
「お前は馬鹿か!!」

 そうやって3人が揉めてる間に飲もうとしたのを抑えていたのが悠翔と茉奈らしい。

「ラーメン食べ終わったら戻ってくるだろうからその時聞くといいよ」

 石原君が言う。
 片桐君はすっかり相談役というポジションに入ったみたいだね。

(2)

 風に乗って微かに漂ってくる匂い。
 これは飲み物の匂いだ。
 僕が起き上がると隣で寝ていた茉奈が起きる。

「結、どうしたの?」
 
 父さんが「気になるんだったら一度試してみたら?」というので茉奈と一緒に寝ていた。
 別に何もない。
 どうして愛莉達が怒るのかますますわからなかった。

「コーヒーの匂いがするから俺も飲もうと思って」
「じゃあ、私も行く」

 そう言って茉奈が起き上がるとパーカーを羽織って僕と一緒にテントを出る。
 大地や父さんやじいじ達が座ってコーヒーを飲んでいた。
 じいじ達は気配を読むのが得意らしい。
 すぐに俺達に気づいた。

「おはよう、朝早くからどうしたの?」

 父さんが聞いてきた。

「それ飲みたい」

 昨夜の飲み物はダメだって言ってたけどそれ毎朝飲んでるコーヒーでしょ?

「さすが片桐家だね」

 望が笑って俺達の分のコーヒーを用意してくれた。
 俺達もそばに座って飲んでいる。

「昨夜はどうだった?」

 父さんが聞いてきた。
 特に何もなかったと言おうとすると茉奈が止めていた。
 どうしたんだろう?

「そういうのは他人に話したらダメだよ」

 恥ずかしいから。
 何もないと恥ずかしいのだろうか?
 意味がわからないけど父さんがそのうち分るよと言っていた。
 俺達はスマホを持つとSHというグループに入る。
 すると天や遊達が女の裸の画像を送りつけてきた。
 母親だからだろうか?
 母さんの方が綺麗だと思ったので言ってみた。
 SHの皆が共有しているからなずなや母さんも当然見ている。

「お前ら子供がみてるのに何馬鹿な事やってるんだ!」

 天音となずなが怒っていた。
 これはきっと見たらいけないものなのだろう。

「パパはそんなのより私の裸の方が気にならないの?」

 琴音がそんなこと言っていた。
 すると瑛大が話に混ざる。

「誠、これが正解なんだ。言ったろ?まだ何もしたらいけない。そっとしておけって……いてぇ!」
「お前は孫に何をさせるつもりだ馬鹿!」

 瑛大と亜依はこれが通常なんだって学が言ってた。
 そんな学も毎日「パパと一緒に寝る」と優奈達が奪い合いをしているらしい。
 僕にはさっぱり意味が分からない。
 あまりにも分からないので茉奈に聞いてみた。

「結にもきっと意味が分かる時が来るよ」
「どうして?」
「うーん、それを女の子に聞く間はまだ分からないのが正解だよ」

 茉奈にうまい具合にはぐらかされた。

「茉奈の方が一歩大人なんだね」
 
 じいじがそう言って笑った。
 じいじは地元で一番強くて偉いらしい。
 県知事にすら指示を出すらしい。
 パパも「空の王」とよばれている。
 俺も頑張らないとな。
 そんな事を考えながらコーヒーを飲み終えるとパパが言った。

「せっかくだから茉奈と浜辺を散歩したらどうだい?」
「結、行こう?」

 結が腕を引っ張るので浜辺を歩いていた。
 果てしなく続く海と空。
 その最果てを「海と空が交わる場所」と表現した人がいるらしい。
 そこにたどり着けるのだろうか。
 どこまで飛べば空に届くのだろうか?
 空はやがて宇宙に変わるらしい。
 宇宙には空気が無い。
 だから宇宙で行動するには専用のスーツが必要だと本に書いてあった。
 テレビでそのスーツを見た事がある。
 宇宙船の中は重力が無い。
 だから宙を漂いながらカップラーメンを食べてるCMを見た。
 どんな感じなのか興味があった。
 将来の夢は「宇宙飛行士」でもいいんじゃないだろうか?

「結、さっきから何を考え込んでいるの?」
「将来の夢」
「結は何になりたいの?」
「宇宙飛行士」
「どうして?」

 多分僕の回答が意外だったのだろう。
 理由を聞いてきた。

「カップラーメン食べたいから」
「それ宇宙で食べる必要あるの?」

 茉奈に言われると確かにそうだ。
 日本の食に関する技術は世界でもトップクラスらしい。
 軍隊の食事も美味しいし、宇宙食もかなり地上で食べるのとほぼ変わらないらしい。
 ただし色々条件がある。
 カップラーメンとかだと80度以下のお湯でふやける面でないとだめらしい。
 100度以上のお湯だと蛇口をひねった途端飛散して火傷を負うんだそうだ。
 そんな技術あるならもっと武装すればいいのにと思ったけど色々事情があるようだ。
 で、茉奈はこう言った。

「宇宙で地球と同じ食事が出来るのは凄いけど、地球で同じ味を味わえるのにわざわざ宇宙に行く意味がわからない」

 茉奈の言う事ももっともだ。
 茉奈は色々調べるのが好きらしい。

「恵美さんとかに頼めば地球でも無重力体験を出来る施設使わせてくれるよ」

 そこで食べたらいいんじゃないか?
 カップラーメンを食べるためにそんな施設利用できるのかは分からないけど、味が変わらない。
 地球と変わらない味を作り出しているなら確かに宇宙に行く必要はない。
 別に小惑星の石なんて興味ない。
 石なんて食えないんだから。

「結は将来の事考えてるの?」
「いや、なんとなく思いついただけ」

 ロボットのパイロットくらいしか考えていない。

「茉奈は何か夢があるの?」
「うん♪」
「何になりたいの?」
「結のお嫁さん」

 結莉は笑顔で答えていた。
 じゃあ、僕は働かないといけないな。
 なんか仕事しないでお金になる職ってないかな。
 あ、茜が何か言ってたな。
 前にじいじ達からお年玉をもらった時に言っていた。
 あれでいっか。

「そろそろもどろうか」

 茉奈が言うのでテントに戻る。
 朝食の準備が出来ていた。
 パンにおにぎりに目玉焼きの乗った焼きそばと味噌汁。
 それを食べながら茜に聞いてみた。

「茜、前言ってた”数年で億単位にお金増やす方法”っての教えて欲しいんだけど」
「どうしたの急に?」
「僕は茉奈がお嫁さんになってくれるからお金を稼がなくちゃいけないんだ」
「……結なら多分しくじったりしないからもう少し大きくなったらコツ教えてあげる」
「待ちなさい!」

 愛莉が茜を叱っていた。

「片桐家から無職の旦那なんて絶対許しません!」
「まあ、結がだめでも茉奈は専業なんでしょ?だったら茉奈が覚えておけばいいじゃん」

 私も今育児の片手間にやってるし。

「そんな方法あるなら私に教えてくれ!」

 水奈がそう言って食いついて、学に「俺の稼ぎじゃ不安なのか?」と聞いていた。

「そんなことないけど金が増える方法があるならそれやったほうがいいだろ?」

 そんな返事なら「そういうのに手を出して家の貯金を全部溶かす主婦が多いんだ」と学が説得しただろう。
 だけどそうならなかった。

「普通の稼ぎじゃロケランとか買えないだろ?」

 それが水奈の返事だった。

「お前はいい加減にしろ!家の物置に銃火器置いておくつもりか!」
「悪い水奈。さすがにそんなもん摘発されたら俺でも庇えない」

 純也が言う。
 じゃあ菫達は?
 それは石原家と酒井家がいるから問題ない。
 だけど多田家や桐谷家が関わる問題になる。
 そうすると誠司達に迷惑がかかるかもしれない。

「でも一体急にどうしたの?」

 母さんが聞いていた。 
 散歩の時に茉奈と話していた事を説明した。
 皆ため息を吐いていた。

「宇宙飛行士……くらいなら結ならなれるだろうけど、きっと続かないわね」
 
 恵美が言っていた。
 カップラーメン食って満足したからやめる。
 そんな理由で面接が通るはずもない。

「結は何か興味があることないの?」

 愛莉が聞くから考えてみた。
 空と宇宙の間ってどうなってるんだろう?
 いつになったらロボットのエネルギー開発されるんだろう?
 そんな事を話したら愛莉達は困っていた。
 だけどじいじは違った。

「結、その考えはいいと思う。お爺さんも反対しない」

 じいじがそう言うと皆がじいじを見ていた。
 だけど構わずじいじは話を続ける。

「だけど冬夜は一つ肝心な事が抜けてる」

 なんだろう?
 すごく簡単だった。

「無ければ自分で作ればいい」

 ああ、そういう手があったか。
 でもどうやって?

「結がそうなりたいならまずは大学だね」

 それも理系の大学に進むべきだろうとじいじが言う。

「そう言えば結は冬眞達と一緒で何でも分解して中身を見てたね」

 家のテレビが使えなくなって大変だったと美希が言う。
 冬眞も僕と同じで物を一度ばらしたら仕組みを理解してしまうらしい。
 ちなみにPCとスマホは茜が教えてくれた。
 茜は説明書に書いてないことまで教えてくれる。
 他の家のルーターを経由してネットにアクセスする方法とか。
 最近は無線LANが多いから案外ちょろいらしい。
 そのうちノートPCを買ってもらえたら便利だと茜が言っていた。
 それを聞いた愛莉は悩んでいたみたいだけど。
 で、夏休みが始まる頃には茜からサーバーの管理者権限を渡されていた。

「盆とかさすがに愛莉や壱郎の家に挨拶に行かないといけないから」

 弱体化したとはいえFGやリベリオンがまだいる。
 出来る限り監視をしておきたいと茜が言っていた。
 だから菫と二人でしっかり見張っていた。
 最近は中国発のサービスのSNSがある。
 そこに若い女性が服は着てるけど下着をつけてない状態の姿を投稿していたりする。
 どうしてそんなのがいいのか分からないけど誠が喜びそうだから送っておいた。
 スマホに送ったのがまずかったらしい。
 一緒にいた神奈に見つかったらしい。

「いいか結。こういうのは女性に見られたらまずいんだ。将来お前も分かるようになるから覚えておけ」

 そう誠が言っていた。

 ぽかっ

 そんな話をしていると茉奈に小突かれた。

「結はそういうの見たらダメ!」

 よくわからないけど茉奈は怒っているのでこれ以上は止めよう。

「結!そう言う話を今ここでしたらだめだろ!」

 誠にも怒られた。
 父さんは何か困っているようだ。
 母さんも困っているような気がした。

「でもどうして結がそんなものに興味を示したんだ?」

 誠が聞いたから説明した。
 菫や陽葵も見ている動画サイトでそういう写真があった。

 削除注意!

 そんなうたい文句があった。
 削除されるかもしれないから早く見ておけという事なんだろう。
 だからみた。
 すると動画リストがそんなのばっかりになった。
 菫くらいの年頃の女性が服を着ている動画。
 服を着てるので裸じゃない。
 それに異様にコメントがついている。
 何がいいのか分からないと父さんに聞いてみた。

「……その動画今母さん達が見てもいいかな?」

 母さんがそう言う。

「でも茉奈が見たらいけないって言ってたから」
「母さんが一緒だから大丈夫」
 
 俺はスマホを操作して履歴をたどって母さんに見せた。
 ただの女性の動画。
 ただタイトルに「ノーブラ」って書いてあった。

「へえ、今こんなのが流行ってるんだな」

 瑛大が感心していた。
 一瞬だけ襟から胸の突起物が見えてたりしているけどそれがそんなに価値があるのかは僕にはわからない。
 女性の胸が膨らんでいるのは赤ちゃんが乳を飲むためとはママから聞いている。
 だけど乳を飲む歳じゃない誠たちが喜ぶ理由が分からない。
 すると誠が説明してくれた。

「いいか、結。昼間は赤ちゃんの物なんだけど夜は父親の物なんだ……いてぇ!」

 誠は神奈に小突かれていた。

「他人様の子供に余計な事を教えるなこの馬鹿!」
「やっぱりフィルターかけた方がいいんじゃないですか?」

 あーりが言うけどじいじは首を振っていた。

「茜からスキルもらってるんだろ?もう遅いよ。それに知ってしまった以上下手に隠す方が無理にでも見たくなるだろ?」

 昔誠が言ってたそうだ。

「変に隠されると意地でも暴きたくなるのがハッカーだ」

 ハッカ飴はあまり好きじゃない。
 甘くないから。
 そんなやりとりをしている間母さんはずっと一人で考えていた。
 俺も母さんの反応を待っていた。

「……で、結はこれを見てどう思ったの?」
「よくわからなかった」
「結。これは母親じゃなくて女としてのアドバイス」

 母さんはそう言って笑顔で説明した。
 多分小学校を卒業する頃には意味がわかるかもしれない。
 逆を言えばそれまで興味を示す必要はない。
 なぜなら僕には茉奈がいるから。
 茉奈が年頃になる頃にはきっと俺といろいろしたいと思うだろう。
 色々の中には茉奈の裸を見て欲しいという思いもきっと含まれている。
 当然俺にも茉奈の裸に触れてみたいと思うようになっているはず。 
 だけど今の段階でこんなのに興味を示したら、彼女としてみたら最悪だ。
 そう言う人間を変態という。
 女性が最も嫌いな人間だ。
 黙っていたらいつか茉奈が結の願いを聞いてくれる。
 でもその時に茉奈に嫌われていたら意味がない。
 そうなってからではもう遅い。
 だからいくらこんなものがあるからといって見たらダメ。
 どうしても見たいなら一人でこっそりに見なさい。
 そのかわり絶対に誰にも言ったらいけない。
 茉奈に知れたらすべて終わる。
 だけど考えて欲しい。
 それは彼女に隠し事をするという事だ。
 そして茉奈に隠し事なんて多分無理だろう。
 わかりやすく言うと「茉奈に嫌われてまで見たいものか?」ということ。
 父さんは母さんにしか興味を示さなかったよ。
 じいじだって愛莉にしか興味を示さない。
 冬吾や冬眞や純也もそうだ。
 片桐家の男子は皆分かっている。
 だから冬夜にも分かるはずだよ。
 何が大事なのかをよく考えなさい。
 とりあえずこれは見ない方が良いって事かな?

「わかった」
「さすがお利口さんだね」

 そう言って母さんは俺の頭を撫でてくれた。

「ちょっと待て美希。それだと茉奈の裸にすら興味示さなくなるぞ!」

 水奈がそう言っていた。

「何を馬鹿な事を言ってるんだ!」

 神奈が怒っている。
 母さんは笑っていた。

「話ちゃんと聞いてた?年頃になったらそういうのに興味をもってその願いを茉奈が叶えてくれるから。って言ったのよ」

 今はその意味が分かってないだろうけど、きっと楽しみにしているよ。

「美希も上手く説明できるんだね」
「まあ、旦那様でかなり手こずったから」

 父さんにも同じような時期があったのか?
 
「でも残念だな。そこまで楽しみにした結果まな板しかみれないんだから」

 菫がそんなことを言って茉莉と結莉を怒らせている。
 だけど翼は余裕を見せていた。

「菫、安心するのは早いんじゃない?」
「どうして?」
「だって愛莉は普通くらいの大きさだよ?」

 水奈だって神奈より大きくなった。
 なのに翼が天音より大きいからって安心してると後で後悔するかもしれないよ。
 神奈だって水奈に追い越されて悔しがっていたから。
 親が大きいから自分が大きくなると思うのは慢心だと母さんが言った。

「ちょっと待て翼!それは私が結莉達に追い抜かれるって事なのか!?私は愛莉の遺伝子がなかったってことなのか!?」
「天音は何を聞いていたの!?そんな科学的根拠のない理由で思い込むのは危険だと翼は言ってるの」
 
 するとじいじが言っていた。

「そういや茜も冬莉もそれなりに大きかったな」

 ぽかっ

 じいじが愛莉に小突かれていた。
 しかし不安を覚えたのは天音だけじゃなかったらしい。
 
「それって私も優奈達に抜かれるってことか?」

 水奈が言っている。
 すると優奈と愛菜が揃って言った。

「じいじが恋は程よい大きさと形だったと言ってたよ」

 それを聞いて水奈は絶望している。

「そうなったら私が相手してやるよ」

 すでに落ち込んでいる神奈がそう言ってた。
 一方その話を聞いた亜依が怒り出した。

「お前はどうしてそういうしょうもない事を孫に教えるんだ!?」
「お義父さんいい加減にしてください!それ琴音にも同じ事言ったでしょ!」
「どういうつもりだ瑛大!!」
「や、やっぱりそれなりの大きさを保障されてたほうが孫も安心するだろ?」
「どこの世界に胸の大きさで悩む6歳がいるんだ!?」
「だ、大丈夫だよ亜依さん。俺がフォローしておいたから」

 誠がそう言って仲裁に入る。
 じいじ達は俺達に「ご飯食べたらならもうちょっとテントで休んでおきなさい」と言う。
 茉奈と一緒にテントに向かう。

「おっぱいは大きさだけじゃない!ただ大きいだけじゃだめだ。揉みやすくて形のいいおっぱいが……いてぇ!」
「お前は何を聞いていたんだ!?どうしてそんな馬鹿な事を孫に教えようとするんだ!」

 テントに入ると2人で話をしていた。
 だけどあんな話の後だ。
 茉奈はどうなんだろう? 
 そんな事を思ってしまった。
 それは目線で茉奈にすぐ気づかれる。
 茉奈に怒られるかな?
 嫌われるかな?
 どっちでもなかった。
 ただ笑っていた。

「とーやも男の子なんだね」
「でも、まだ未熟みたいだよ」
「私も一緒だよ。まだ未熟」

 だからお互い様だ。
 でも焦る必要はない。
 だって将来楽しみがあるという事。
 それが成長するという事。
 大きくなって広い社会にいつか出る時誰が隣にいるか?
 茉奈はいつでも僕の隣に立っていたいという。

「だから……今はまだ我慢してね」

 茉奈は恥ずかしそうに言っていた。
 どうしたんだろう?
 そんなに難しくない問題だった。
 下着がお子様だから恥ずかしくて見られたくない。
 お子様なんだから当たり前だろう。

「僕も立派になれるかな?」
「それは結莉にはわからないよ。だって見たことないもん」
 
 何をだろう?
 だけど聞くのはやめておいた。
 きっともっと大きくなったら分かるんだろう。
 今は空に向かって手を伸ばすだけ。
 いつかきっとあの空に届く時まで。
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