姉妹チート

和希

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憧憬

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(1)

「じいじ、どう?」

 結莉が僕に聞いてきた。
 僕は結莉が焼いた卵焼きを食べていた。
 天音は色々卵焼きに具材を入れるらしい。
 今日もほうれん草とハムを入れていた。
 だけど、まだ結では分からなかったんだろうな。
 
「天音、これ卵の中に粉チーズ入れてるでしょ?」
「パパは気づいたのか!?」

 天音が驚いていた。
 さすがに空も気になったらしく一つもらっていた。
 
「本当だ……」
「他にもマヨネーズ入れたり出汁を入れたり色々工夫してるけど、大地はあんまり気にしないんだよな」

 そう言って天音は大地を睨む。

「大地は気づかなかったの?」
 
 空が聞いていた。
 すると天音が意外な事を言った。

「食べないんだよ」
「え?なんで?」

 空が不思議そうに聞いている。
 大地は苦笑いしながら答えた。

「どうもほうれん草とかニラが苦手で」
「大地!あなた子供の前で好き嫌いは止めなさいといつも言ってるでしょ!」

 恵美さんが叱っている。

「大地、せめて口の中に入れる努力はしないとこの先大変だよ」

 石原君が言っていた。
 確かにこの先どこで夕食に招待されるかわからない。
 その時に茶碗蒸しを開けずに放置とかは大地の立場的にどうなんだろう。

「そういう席では我慢してるよ」

 その回答は絶対NGだと思うんだけど。

「ふざけんな!そういう時は食べるのに嫁の料理を食えないってのはどういう理屈だ!」

 案の定天音が怒り出す。
 天音だけでなくて恵美さんも怒る。

「あなたもう一度教育しなおす必要あるんじゃないの?」
「大地はまだそうだったのね」
「空はどうなの?好き嫌いとか?」

 美希が言うと愛莉が聞いていた。
 美希は笑う。

「愛莉さんの話を聞いた限りだと冬夜さんそっくりみたいですよ」

 納豆は食べるけど大豆はだめ。
 しめじは食べるけどなめこはやめてくれ。
 空は僕と似ているらしい。

「笑い事ではありませんよ!冬夜さん」

 愛莉に注意された。
 ちなみに翼や天音達はそういうのが全くない。
 
「翼、善明はどうなの?」

 晶さんが聞くと翼はくすっと笑った。

「善明は何を食べさせても反応が無くて困ってるんです」

 味付けがどうとか全く文句を言わないらしい。

「晶ちゃんや、こうは考えてもらえないかい?お嫁さんの作った料理は愛情が籠ってるからそれだけで充分なんだ」
「お義父さん。でもやっぱり亭主の好みの味くらい把握したいと思うのが妻なんです」
「翼、そこは嫁の腕の見せ所なのよ」

 恵美さんが答えた。
 石原君も肉ばかり食べてるけど、美味しいとかそういうのは言わない。
 だから色々味を変えてみる。
 幸い石原君はそれを気づいてくれるようになったらしい。
 愛莉も同じだった。
 色々変えたり母さんから聞いたりして味を色々改良していた。
 それが主婦の腕の見せ所だという。
 しかしその説明で納得しない者がいた。

「ふざけんな!じゃあ私の料理には愛情が籠っていないと言いたいのか!?」

 天音がそう言って怒り出す。

「天音はそうやって頭ごなしに怒鳴りつけるから、伝えづらいんじゃないの?」

 空だって味を変えてみたら感想を聞かせてくれるよ。と、翼は言う。
 だけど天音の不満はそれだけじゃないらしい。

「私だって最初は大地の好みの料理を作ってやろうと頑張ったんだ……」
 
 しかし、大地に聞いたら魚は嫌いだの、ピーマンや玉ねぎは嫌いだのと子供みたいな好き嫌いをする。
 それでも天音は仕事で疲れただろうからといろいろ工夫をしていた。
 そして去年末の出来事だった。
 子供達もいい加減大丈夫だろうと鍋料理を準備した日があった。
 肉なら何でも食べるらしいから水炊きで良いだろうと準備しておいた。
 そして事件が起きた。

「僕つみれ苦手なんだ」

 それを聞いた恵美さんが怒り出す。

「望!間違いなくあなたの影響じゃない!どうするの!?」
「しかたないよ、あのぼそぼそ感がどうしても好きになれないんだ」
「そういう問題じゃないでしょ!」

 結莉や茉莉は問題ないけど海翔が不安だと恵美さんが言う。

「大地や、せめて子供の前でだけでも食べる努力できないかい?」

 もちろんそれだけじゃだめだ。
 美味しそうに食べなければならない。

「そういうことなら我慢して……」

 その返事もNGなんだ大地。

「お前は嫁の料理を我慢しなきゃ食えないのか!?」

 そんなやりとりをとてもじゃないけど孫に見せるわけにはいかないな。
 僕は美希の顔を見る。
 美希は察してくれたらしい。

「旦那様。結達を連れて少し散歩でもしてきてくださいな」
「わかった」

 そう言って空達は散策に行った。
 それを見届けて美希が言う。

「まあ、子供の前で言う話じゃないですよね」

 結にいたっては明らかに「なんで食べ物なのに食べないんだろう?」と興味を示していたし。

「まさか結莉達の前でさっきみたいなやり取りしてないでしょうね」
「さすがにそれはまずいと思ったからやってない」

 天音だって大地の妻だ。
 嫌いなものくらい把握してる。
 なるべく大地の皿の中には嫌いなものが入らないようにしている。
 しかしたまに違う料理を作ると思いもよらないハプニングが起こる。
 例えばスパゲティは大丈夫だからとホワイトソースをかける。
 それを大地達が嫌うらしい。

「パパ食べないのなら私に頂戴」
「茉莉が食べたいならどうぞ」

 そう言って茉莉に譲ったらしい。
 当然後で天音と大ゲンカ。

「そういうの旦那様はあまりなかったですね」

 美希が言う。
 当然空にも好物はある。
 冬吾と同じだ。
 ラーメンが地球で一番美味しい食べ物だと思っている。
 それはそれで愛莉や恵美さんが頭を悩ませているらしいけど。
 だけど嫌いな食べ物は殆どない。
 なんでも食べる。
 出されたものは感謝して食べなさい。
 愛莉の教育の賜物だ。
 ただ、口に合わないと率直な意見を言うけど。

「フォアグラってなんか高いから美味しいのかと思ったけどレバーみたいであまり好きじゃない」
「美味じゃなくて珍味だからしょうがないんじゃない?」
「トリュフもくさかっただけだよね」
「あの香りがいいらしいよ?」
「キャビアもクラッカーの味しかしないよね」
「まあ、どんな料理にも添えるくらいだから」

 石原家主催のパーティでそんな事を言っていた空と翼。
 さすがに愛莉も悩んだらしい。
 冬吾も代表戦後のインタビューで「お家に帰ってとんこつラーメン食べたい」というくらいだ。
 冬莉もツアーに行く際に必ずカップラーメンを持っていくらしい。
 愛莉が聞いたら「だってこのラーメンライブの土地では売ってないらしいし」と答えたそうだ。
 さすがにツアーの最中に老舗のラーメン屋にお邪魔したら店に迷惑をかけるからとマネージャーが止めたらしい。
 ラーメンだけじゃない。
 とあるカップうどんは西日本と東日本で味を変えているらしい。
 それは関東と関西で全く違うからだそうだ。
 そんな冬莉も最近はちょっと変わってきたらしい。
 地元にしか売ってないカップラーメンがあるように、その土地限定のカップラーメンがあるのを見つけたそうだ。
 それを買って志希と食べている。
 そんな事を音楽番組で言ったらしい。

「ツアーでの楽しみは?」
「カップラーメン」

 世界レベルで売れているF・SEASONとは思えない冬莉のコメント。
 恵美さんと愛莉が頭を抱えていた。

「そうね、とりあえずあと2年待ってみない?」
「恵美は何かいい手段があるの?」
「あと2年すればあの子達もお酒飲めるでしょ?」

 それで嗜好が替わるかもしれないと思ったんだろう。
 冬吾はスペインだから18で飲めるけど僕との約束を守っているらしい。
 誠司も酒を飲んで遊び惚けるかと思っていたら違うみたいだ。
 今の彼女のパオラを大事にしているらしい。

「俺がいない間にパオラは俺以外の男に押し倒されたりしてないよな?」
「日本ではどうなのか知らないけどイタリアではそれは犯罪なの」
「日本だってそうだよ」
「じゃあ、馬鹿な事言わないで」
「でもさ、日本では微妙なところがあるんだ」
「何があるの?」

 スカートなんかを穿いていたら間違いなく犯罪。
 だけどズボンだと和姦という言葉が存在する。
 犯罪にならないんだ。
 俺はイタリア人じゃないから比べたらそんなに立派じゃない。
 だから不安なんだ。

 ぽかっ

「日本人ってどうしてそういうしょうもない事考えるわけ!?」
「旦那がいない間に寝取るってシチュエーションを好む男も日本にはいるんだ」

 だけどそれはDVDとかで解消するからいい。
 しかしイタリアにはそれが無い。
 さすがに誠司でも児童ポルノには興味はなかったらしい。
 日本の女性は海外の女性に比べて若干幼く見えるという噂がある。
 だけどパオラもまだ19。
 そういう男に狙われるんじゃないか。

「日本人の男ってそんなに彼女の事を疑うわけ!?」
「不可抗力ってあるだろ!」
「イタリアは子供を一人で遊ばせるようなことは殆どないくらいに治安が悪い。だから被害にあわないための準備くらいしてるから心配しないで」

 相手を愛してるから相手を信じてる。

「そういやパオラは夜どこに行ってた?とか聞かないな」
「誠司は寄り道しないで帰ってくるじゃない」

 遠征先でもまめに連絡するし。
 パオラが疑われてるんじゃないかと不安になったそうだ。
 そう誠司から聞いたと誠が話す。

「で、そのしょうもない知識を誠司はどこから仕入れてきたんだ?」
「と、冬吾だってネットするんだぜ?誠司なら普通にするだろ」
 
 だから俺達とビデオ通話してるだろ?
 誠はそう説明した。
 誠のインターネットやプログラムの知識は茜の師だけあって半端じゃない。
 なのに偶にこういうミスをする。
 愛莉はもちろんカンナも気づいていた。

「ああ、なんでもネットで検索出来るな」
「だ、だろ?」
「でもそのためには必要な事があるのを忘れてないか?」

 カンナが言う。
 検索するのに必要な事。
 それは検索ワード。
 それが分からなければ検索することは出来ない。
 検索ワードすら知らないのにどうやって検索するんだ?
 答えは単純だ。
 誰かが誠司にそれを教えた。
 もちろん冬吾なわけじゃない。
 言っておくけど冬吾も馬鹿じゃない。
 風俗なんかにもいかない。
 それどころか「偶には瞳子の裸とか見た方がいいんじゃないか?」と誠司に言われたそうだ。
 冬吾は素直に答えた。

「写真をとっておこうかなっていったら瞳子が笑ってた。それにカメラの前で裸になるなんてマヌケな事彼女にさせられないだろ?」

 瞳子を心配させたくないから当然風俗にもいかない。
 サッカーがあるから大丈夫だと冬吾は言ってるそうだ。

「……で、誰が誠司にそんな馬鹿な検索ワード教えたんだ?」

 カンナが誠を睨みつける。

「ち、チームの誰かじゃないのか?」
「おかしいな、さっきトーヤが説明してたじゃないか。誠司は日本ではあるらしいけどイタリアではどうなんだ?と……」

 つまり日本で入手したか日本人の誰かに聞くしかない。

「だ、誰だろうな?」

 誠が焦って僕を見ている。

「誠君いい加減にして!冬吾にまで変な情報入ってるんだから!」
「なんだそれ?」

 僕も知らない。
 カンナが聞くと愛莉が説明した。

「俺たちの親って渡辺班ってつながりがあるんだよな?」
「らしいね」
「父さんたちはスワッピングって事をしたことあるんだろうか?」
「何それ?」

 そんなやりとりをしていたことがあるらしい。
 それを聞いた神奈は激怒した。

「お前は冬吾まで巻き込むなとあれほど言っただろうが!」
「お、俺たちはやらねーよ。さすがにもう年だろ」
「そういう問題じゃないだろこの馬鹿!」
「で、でも神奈だって冬夜と寝たいと思う時あるんじゃないのか?」
「そ、それは……」

 その反応はまずいぞカンナ。
 愛莉の視線が痛い。
 だけどカンナは急に落ち込んだ。

「きっと屈辱感しかしないからいいよ」

 僕の事だから愛莉よりいい相手なんかいないと思っているだろう。
 だから一人で惨めになるだけだとカンナは言う。
 それを慰めてやるのが誠の役目だろうにこの馬鹿は余計なことを言う。

「お、おい。神奈だって色々上手なんだぜ……」
「余計な事を言うなこの馬鹿!」
「冬夜さんに変な事言わないで!」

 それを聞いていた娘たちは面白がる。

「おい、それ面白そうだな。翼、たまには善明と寝させろ。大地貸してやるから」
「絶対に嫌」
「天音も馬鹿な事言わないの!」
「と、とりあえず本題にもどらないかい?」

 自分たちにまで飛び火するのを恐れたんだろう。
 酒井君がそう言った。

「とりあえず結莉と茉莉は大丈夫なんだろ?海翔も多分大丈夫だ」
「なんでそう言えるんだ?」
「海翔も結と一緒なんだろ?」

 なんで食べられるのに食べないんだろ?
 天音の子供たちはみんな同じ疑問を持っている。
 と、なるとやはり大地の努力しかない。

「味が苦手なら私が大地好みに味を変えてやればいい。だけど見た目とか口に入れると気持ち悪いとか言われると私でも手の施しようがないんだ」

 天音が悩んでいるようだ。
 ちなみにコロッケの中身を魚にしたギョロッケも匂いと味と色で気づいたらしい。
 大地の好きなオムレツにグリーンピースのソースをかけてみたりといろいろ挑戦してみたもののなぜかすぐに感づく。
 天音の前で吐き出すなんてことは出来るわけがないので飲み物で飲み込んでいるそうだ。
 しかしそんな真似していたら当然結莉達は気づく。
 それを不思議そうに見ていたそうだ。
 その事で口論している大地と天音と愛莉と恵美さんを見ながら思いついたことがあった。
 あまりやりたくないけどそれが手っ取り早そうだ。
 僕は天音に声をかけていた。

「天音、確か茉莉は胸の大きさで張り合ってるそうだね?」
「あ、ああ。相手が翼の娘だからな」

 天音自体「翼の娘には絶対負けるな!」と茉莉達に言っているらしい。
 それを聞いて愛莉は呆れていたけど。
 結莉は「芳樹にだけ見せるからいいもん」って言ってるらしい。

「天音、私だって母さんが大きかったからそうなったってわけじゃないんだよ」

 美希が説明する。
 まあ、そうだろうな。
 服を着ていても恵美さんと美希の差はよくわかる。

 ぽかっ

 愛莉に小突かれた。

「それが何か関係あるんですか?」

 機嫌悪そうに愛莉が聞いてきた。
 
「だったら解決策は一つだろ。恵美さんも別に遺伝でそうなるとは思ってないんだろ?」
「そうね、美希は私より大きいんだから」
「好き嫌いすると胸が大きくならないぞって言えばいいんじゃないか?」
「なるほど、それなら聞くかもしれない」

 それを真に受ける小学1年生が脅威なんだけど。

「でも、それで大きくならなかったら”騙したな!?”くらいいいそうだろ?」

 誠が聞く。
 そんな事分かってる。
 だって全く関係ないんだから。
 精々策者の匙加減だろ。

「それなら天音自身も対応の仕方は分かってるだろ」

 だって愛莉に散々文句言ってたんだから。
 もしくはカンナでもいい。

「どういう意味だ?トーヤ」
「娘の胸の大小で悩む親は天音だけじゃないから色々アドバイスを受けたらいいってことだよ」
「でも結莉と茉莉はともかく海翔はどうするんだよ?」

 海翔の胸が大きくなったらやばいぞ。
 それは無いよ絶対に。

「天音、そのときは……」

 誠が言いそうなことは大体わかる。
 そしてカンナも気づいた。

「お前は黙ってろ!5歳の子に何を吹き込むつもりだ!?」

 6歳で胸の大きさで悩む娘がいるのにそんなに大差ないと思ったけど。

「トーヤも人が気にしている事をズバズバと言うな!私だって悔しいんだぞ」
「そういや、私が母さんのサイズを超えた時落ち込んでたな」
「何!?それは俺は聞いてないぞ!」
「誰がお前に教えるか!?」
「そんなにいいこともないですよ?」

 美希が悪びれもなく言う。
 だがその一言がカンナ達を傷つける。

「美希にはわからないよ。持ってない者の悲しさと言うのが……」

 翼が言う。
 空は知ってるからあまり言わないらしい。
 片桐家の男子は大体そうみたいだ。

(2)

 俺達は陽葵達と一緒に散歩をしていた。
 途中に自販機があったからジュースを陽葵達が買ってくれた。
 しかし見事なまでに何もない。
 敢えて言うなら花や木が植えられていた。

「何もないね~」

 結莉もつまらなさそうだ。
 確かに退屈だから結莉と話をすることにしよう。

「あのさ、じいじが言ってたんだけど」
「どうしたの?」
「何もないサラ地に家を建てたり川を作ったりして遊ぶゲームがあったんだって」

 箱庭ゲームと呼ばれるジャンルのゲーム。
 厳密に言うと人口や税収を気にしながら限られた予算で作っていくんだけど、そんなの関係ないと言わんばかりにMODと呼ばれるファイルをつかってやりたい放題するらしい。
 するとその事は結莉も知っていたらしい。

「恵美も言ってた。何もなかったら作ればいいって」

 何もない高原に湖を作ったり林を作ったり遊園地やホテルを作ったそうだ。
 さらには「この島気に入った」と言って買い取ったりしてるらしい。
 酒井家と石原家がその気になったら不可能な事はないらしい。
 日本列島改造論。
 そんなのが大昔にあったそうだけど文字通り改造していくだろう。
 結莉はそんな家のご令嬢なんだそうだ。
 茉莉も陽葵も菫もそうなんだけど。
 結莉達を見ていると全くそんな気がしないのはなんでだろう?
 結莉は僕が目を離すとすぐに暴れ出す。
 それでも結莉は俺のそばでは大人しい。
 本当にお嬢様みたいだ。
 セリフはめちゃくちゃだけど。

「結莉はお嬢様に見える?」
「うん」

 俺が見てる範囲では。

「ありがとう」

 結莉は機嫌良さそうだ。
 だけどそれを聞いていた茉莉達が怒り出す。

「おい、私達だってお嬢様だぞ」

 パパがやってたゲームでこう呼ばれていた人がいたそうだ。
 赤い悪魔と呼ばれるパン職人。
 ゲームの中でも本当にパン職人なのかと疑うほどのチート性能の持ち主だったそうだ。
 多分茉莉達もそうなんだろう。
 
「結は勘違いしている。私達だけ特別だと思ってる」

 菫が言う。
 秋久は我関せずを決め込んでいた。
 
「朔の母親の祈だって私みたいなもんだったらしいぞ」

 菫が言うと朔は笑っていた。

「大体女だから大人しくしてろって発想が間違ってる。男女平等なんだからいいだろ?」

 茉莉がそう言った。
 片桐家では女子が暴れるのは割と普通だった。
 菫達だっているし。
 翼もお化けは怖いけど、死体を作るのには何の抵抗もないらしい。
 ただ「グロイのは嫌」と言っているらしいけど。
 解体された人間はグロいのに解体したマグロが美味しそうなのはなんでだろう?
 美味しいから美味しそうに見えるのか。
 だから人間は食べれないのかな?

「ここ広いから茉莉達思う存分遊びんだらいいよ」
「よっしゃ、今日ここに茉莉の墓碑を立ててやる」
「ほざけボケナス。お前家に帰れると思うなよ」
「ただし能力は使ったらだめだからね」

 愛莉に叱られるからって父さんが言っていた。
 陽葵達は座って話を始めている。
 いつも一緒にいるけどそんなに話す事あるのだろうか?

「女の子同士の話には混ざったらダメなんだよ」

 結莉がそういうので座って結莉と話をしていた。
 でもそれなら父さん達と一緒にいてもいいんじゃないか?
 まだ食べてないおかずがあったのに……。

「多分ね、私達には聞かせられない話をしているんだと思う」

 結莉は理由を知っているようだった。

「結莉も結と二人でお話したいことあるし」
「話?」
「茉奈とはどうなのかなって」
「別にどうもないけど?」
「茉奈は大人しいけどきっと結の行動を待ってると思うよ」

 何を待ってるんだろう?

「せめて茉奈との関係くらいちゃんとしておいた方が良いんじゃないの?」
「それなら茉奈が恋人だって言ってるから問題ないだろ?」
「でも結の口からはちゃんと言ったの?」

 そう言えば特に言った覚えがないな。
 何か言った方がいいんじゃないかな?

「今更って思うかもしれないけど、何度言われても嬉しいものだから」

 そんな話を結莉としていた。
 茉莉と希美は拳で語り合っていた。
 朔と秋久は二人の周りを警戒している。
 カミルやカミラ、紀子達も何かしていた。
 父さんのスマホが鳴ると父さんが話をする。

「そろそろ帰ろうってさ」
 
 父さんがそう言うと茉莉と希美も戦闘を止めて大人しくついてくる。

「久々だったからなまってるかと思ったけど違うようだな」
「当たり前だ、お前と一緒にするな」

 同じクラスのFG達相手では物足りなかったらしい。
 親の元に戻ると車に乗って家に帰る。
 俺は大地の車で帰る。
 パパの車とじいじの車はカミル達を乗せるから。

「今日はどうだった?」

 多分俺に聞いたのだろう。
 海翔と結莉と茉莉は寝ていたから。
 
「わかんない」

 何のためにここに来たのだろう?
 それがさっぱり分からなかった。
 それには天音が答えてくれた。

「そんな日がいつか懐かしく思える時が来るからだよ」

 小さな時は何してた?
 そんな思い出話をいつか結莉とするときが来るだろう。
 だから今のうちに思い出をいっぱい作るんだ。
 なるほど。
 
「結はどこか行きたいところあるのか?」
「水族館」
「退屈だぞ?」
「美味しそうだし」
「……水族館の魚はさすがに食えないぞ」

 天音はそう言って笑っていた。
 またいつか。
 それはいつまで続く?
 明日がいつ終わる?
 それはまだまだ先の話。
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