姉妹チート

和希

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(1)

 ジリリリ……

「あーもう、うるさい!」

 そう言って目覚ましを止めるとベッドから起き上がる。
 高校卒業してだらけた生活に慣れすぎたようだ。
 頬をパシッと叩いて洗面所に向かう。
 朝食は途中にコンビニあったから寄ることにしよう。
 支度してからスーツに着替えると「頑張るぞ!」と気合を入れる。
 冬吾君がいないから実家で暮らしていてもよかったんだけど冬吾君のお父さんが言っていた。

「冬吾が帰ってきたら結婚するつもりなんだろ?」
「冬吾君がそのつもりだと思います」
「だったらさ、今のうちだと思うんだよね」
「え?」

 結婚したら2人で暮らすことになる。
 同棲する相手がいるならすればいいと思うけどいないから実家で暮らすってのはもったいない気がする。
 たった4年間だからこそ自由に生きてみたらいいんじゃないか?
 そんなアドバイスを受けたから一人暮らしを始めてみた。

「心配するな。女性一人だから不安だろうけど、冬吾の婚約者にふざけた真似をする奴がいたら容赦しない」

 相手が例え焦げたフライパンだろうと関係ない。
 もう一度ロシアをがれきの山に変えてやる。
 天音がそう言うから多分安心なんだろう。

「行動を制限させない程度で警護をつけるから」

 片桐家の嫁候補なんだからそのくらいするわよ。
 恵美さんがそう言ってた。
 だけどさすがに石原家に入ったわけでもないのに送迎迄つけてもらうわけにはいかない。
 親に買ってもらった軽四で入学式の会場に向かう。
 途中混んでいて抜け道を使うときに女性だったら軽4の方が便利だと愛莉さんが教えてくれた。

「大丈夫、軽4でもラリーカーとタメ張れるくらいには仕上げてあげるよ」
「茜は何を馬鹿なことを言ってるんですか!?」

 さすがにそんな恐ろしい車運転したくないので断った。
 それにしても一人暮らしすると言っても結局はアパートを探してもらったり、車を買ってもらったり、仕送りもらったり独り立ちとはいい難い状況。

「それでいいんだ。僕も父さんに言われたよ。先行投資だってね」

 冬吾君のお父さんが言うけど甘えてるわけにもいかないので、バイトをいくつか探しておいた。
 ぜめて自分の服を買ったり遊ぶお金は自分で稼ぎたい。
 もちろん授業に差支えが無いように調整はした。
 どうして入学式前にそんな事が出来たのか?
 
「教育学部だろ?だったら僕の時とそんなに変わってないはずだから」

 そう言って渡辺正俊さんに色々教えてもらった。
 おまけに「あの講師は大体いつも同じらしいから」と過去問をもらったりしていた。
 こういうグループのつながりの強さもSHなんだなって実感した。
 医学部のある狭間キャンバスと合同でするから街のホテルのホールを使って行われる。
 ホテルに着くと頼子たちが先についていた。
 頼子はさすが石原家のご令嬢だと言わんばかりに高そうなスーツに身を包んでいた。
 きっと高いスーツなんだろうけど下品なおばさんみたいな主張はなく、大人しめの格好だった。

「他の皆も来てるよ」

 頼子が言うと、颯真や瑠衣たちも来ていた。
 皆で話していると時間になる。
 入学式を終えると頼子たちが声をかけた。

「私達入学式のお祝いやろうと思うんだけど……」
「ごめん、私パスする」
「あ、車で来ちゃったらならアルコールは飲まなくてもいいよ?」
「そういうわけじゃないんだ」
「何か予定あるの?」
「今日から早速バイト入れてるから」
「まじめなんだね」

 先輩たちが新歓してくれるって言ってたからその時は時間空けておいてね。
 そう言って頼子たちは街へと歩いて行った。
 頼子は恵美さんから聞いてなかったのかな。

「瞳子、あなたバイトするんですって?」
「はい。さすがに遊ぶお金くらいは稼ぎたいから」
「どこで働くの?」

 普通のコンビニとかの面接を受けたと答えた。

「それじゃ、夜勤とか大変でしょう」

 私が相応の仕事探してあげると言ってくれた。
 だけど断った。
 それじゃ意味がないから。
 生意気言ってるようだけど少しでも自分で何とかしたい。
 そうじゃないなら大人しく実家から通った方がましだ。

「随分立派な心掛けね」

 バイトにかまけて単位落としたなんてことになったら、親が怒るよと笑ってくれた。
 家に帰るとスーツを脱いで服を着てバイト先のコンビニに行く。
 恵美さんには黙っておいたけど夜のバイトも入れていた。
 もちろん水商売じゃない。
 そんなのばれたら大学だって危うくなる。
 冬吾君だってきっといい思いしないと思う。
 居酒屋の店員の仕事を受けた。
 今日はコンビニの方だけ。
 やったことがないから戸惑いながらも先輩が色々教えてくれる。
 さすがに新人に一人でさせるなんて真似はしない。
 色々教えてくれる代わりに色々聞かれた。
 電話番号とかメッセージのIDとか。
 私はくすっと笑って左手を見せる。
 薬指にはめられた指輪を見ると、先輩ががくっと肩を落とす。

「こんだけ美人なら彼氏いるよな……」
「ありがとうございます」

 そんな感じで仕事を終えると家に帰る。
 お弁当でも買って済ませたいけどスーパーに寄って食材を買って帰る。
 一人分しか作らないから無駄な材料が出来るけど、何日分か作り置きしておけばいいか。
 お昼の弁当に回せばいいか。
 そんな事を考えながら買い物を済ませて家に帰ると、夕食を作る。
 一人で夕ご飯を食べながらテレビを見ていた。
 すると冬吾君からメッセージが来る。
 
「今何時かな?」
「20時くらい」
「そうなんだ、こっち今お昼でさ」

 時差になれないから冬吾君も何時に連絡したらいいか分からないらしい。
 スペインとの時差は8時間。

「練習どう?」
「それがさ、誠司よりすごい司令塔がいるんだ」

 普段はとても穏やかな人なんだけど、練習や試合の時間はチームを常に牽引するフォワード。
 他の人もすごい選手がしのぎを削っているらしい。
 
「頑張るのはいいけど、怪我だけは気を付けてね」
「分かってる。瞳子も一人暮らしどう?」
「思ったより大変だよ」

 掃除や洗濯も自分でしないといけないから。

「花嫁修業ってやつ?」
「うーん、教わってるわけじゃないからどうなんだろ」
「父さんから聞いた。バイトも始めたんだって?」
「うん、今日からコンビニで仕事してた」

 来週くらいから夜の居酒屋でバイトすると伝えた。
 冬吾君には隠し事をしない。
 そう決めていたから。

「体気を付けてね。瞳子の体調を管理する人はいないんだから」
「うん、ありがとう」
「あとさ、誠司がやってたんだ……」

 冬吾君は心配してくれているみたいだ。
 誠司君は夜に居酒屋で飲んで女性店員に触ったらしい。
 仲間は笑っているだけだったそうだ。
 誠司君らしいな。

「誠司君とは連絡してるの?」
「ああ、地元にいた時もそうだったけど……」

 プロの練習時間は長くて2時間程度らしい。
 自主トレとかする選手もいるらしいけど誠司君がするわけがない。
 
「おい、誠。相談なんだが」
「どうした神奈?」
「誠司がプロの選手になったのはいい。海外で活躍してるのも認める」
「ならいいじゃないか」
「問題はここからだ……」

 誠さんもそうだったけどプロの練習時間は短い。
 試合のない日はオフに近い時もあるのは誠さんを見てたから分かる。
 だけど冬吾君と違うことが一つだけある。

「あの馬鹿に自由行動なんて時間を認めて大丈夫なのか!?」

 一度とて連絡が返ってきたためしがないぞ!
 そんな話をしていると誠さんのスマホに誠司君からメッセージが届いたらしい。
 誠さんはそれを見て慌ててスマホをしまった。
 そんなあからさまな対応を見れば嫌でも気づく。

「誠、スマホ見せろ」
「あ、ああ。男同士の秘密ってやつだ。神奈だって歩美や水奈と秘密にしてることあるだろ?」

 それを普通は男性は深く介入しない。

「つまりそういうものなんだな?見せろ」
「だ、だからだな、神奈……」
「ごちゃごちゃ言わなくていいから見せやがれ!」

 誠さんは観念して見せたらしい。
 
「父さんの言ってること本当だった!つるつるだぜ!」

 そう言て写真を送ってきたらしい。

「この馬鹿垂れ!お前はイタリアに何しに行ったと思ってるんだ!」

 だから愛莉も気をつけろ。
 そんな話が愛莉さんから私に筒抜けだった。

「やっぱり、誠司はそうなのかな」
「冬吾君は一人で宿舎にいるの?」
「このチームの宿舎ってすごいんだ」

 ちょっと待って。画像送るから。
 そう言って部屋の様子を映していた。
 宿舎というよりホテルに近い部屋だった。
 コミュニケーションをとる部屋もでかいらしい。
 そしてご飯が食べ放題。

「……それは愛莉さんに言わない方がいいよ?」
「もう言っちゃった」

 少しは大人になったんだから節度を持ちなさい!
 
 そう叱られたらしい。
 お父さんは「なんか美味しいものあったか?」と聞いて愛莉さんに怒られたらしいんだけど。

「でさ、問題があってさ」
「何かあったの?」

 トップクラスの選手がひしめくチームだ。
 年棒を考えたら当然一軒家くらい買うだろう。
 冬吾君もそうした方がいいのか悩んだらしい。
 だけど4年間で捨てることになる家を建てるのはどうなんだ?と悩んだらしい。
 ちなみに誠司君は当たり前のように民家を借りたらしい。
 大丈夫なんだろうか?

「夕食は大体外食だし、冬吾じゃないから朝飯ぬいたくらいどうってことねーよ」

 やっぱり問題だったようだ。

「そうだね、宿舎を使わせてくれるならその方がいいかもね」

 冬吾君は食事担当のトレーナーを雇った方がいいんじゃないの?

「瞳子もいないで食事もできないで僕の自由時間はどうしたらいいの?」

 そう言って冬吾君は笑っていた。

「でもいいこと聞いたな。誠司のやつ完全に油断してるな」
「何かあったの?」
「そっか、日本じゃあまりニュースやらないよね」

 来月末にヨーロッパの大会があるらしい。
 冬吾君のチームはスペイン代表として当たり前のように出場が確定している。
 ニュースを見た感じだと誠司君のチームも多分出てくるだろう。

「後悔させてやる」

 冬吾君はそう言って笑っていた。

「頑張ってね」
「勝ったらいの一番に瞳子に教えてあげる」

 じゃあ、そろそろ切るね。
 瞳子も色々やる事あるんでしょ?
 そう言ってメッセージは終わった。
 冬吾君も誠司君も新世界で頑張ってるんだと分かった。
 私も負けてられないと思った。

(2)

「おい、石原」

 僕は年上の子に呼ばれた。
 いきなり「おい」なんて言うやつはぶっ殺していいって天音が言ってたけど、話を聞くことにした。

「何か用?」
「お前SHなんだろ?」

 セイクリッドハート。
 なんだろう?
 食べ物じゃないみたいだ。
 ああ、思い出した。
 にいにや結莉達が入ってるグループだ。
 僕はまだ入ってないけど多分入るんだろうな。

「まだ違うよ?」
「そんな屁理屈どうでもいいんだよ!」

 まだ子供なのにそんなにカリカリしててもしょうがないだろう。
 とりあえずどうしようか考えた。
 江木君や増渕さんもいる。
 愛菜や優奈は殺気立っているけど。
 そういや天音が言ってたな。
 とりあえず確認しておくか。

「君達、リベリオンかFG?」
「俺たちはリベリオンだよ」
「わかった」

 そう言って話しかけてきた男を殴り飛ばす。
 さすがに悠翔は驚いたらしい。

「お前、俺たちにやる気なんだな!?」

 やる気も何もそっちが仕掛けてきたんじゃないか?
 それに。

「リベリオンだかFGだか知らないけどわけわからん奴が絡んできたら始末しろ」

 天音がそう言ってた。

「おい、海翔!おまえふざけんな!」

 茉莉が怒ってる。

「茉莉の言うとおりだ。そういう遊びは先輩に譲れって習わなかったのか!?」

 菫もやるつもりの様だ。
 年長組の部屋にはにいにと茉奈が楽しそうに話をしてる。
 部屋の出入り口に立っている秋久と朔がこっちの様子を見ている。

「私の弟に手を出したんだ。お前ら幼稚園卒園出来ると思うなよ!」
「茉莉の餌って事は私の餌って事だ!骨までしゃぶってやるよ!」

 茉莉と菫がそう言って外で暴れ出す。
 それを見て「こいつらは殺していいんだ」と判断した優奈や愛菜も参戦する。

「海翔はここに居ろ。お前が力使ったら結ほどじゃないけど大事だ」

 悠翔がそう言って僕の肩をつかむ。
 外で大暴れしていたから、当然保母さんに見つかる。
 しかし茉莉と菫だけじゃない。
 優奈と愛菜が加わっている。
 この二人に女の子だからとか甘っちょろい理由は通じない。
 リベリオンだと粋がっていた連中は血と涙を流しながら許しを請う。

「茉莉~。あんまり時間かかるとまたお昼食べれなくなるよ?」
「だったら結莉も手を貸せ!んなところでイチャついてる馬鹿っプルに言われたくねーよ!」
「朔の奴はまったく私の相手をしないんだぞ!結莉だけふざけんな」

 それは一日中茉莉と喧嘩をしているからじゃないだろうか?
 面倒になったらしい、にいにが立ち上がって近づいてくる。
 それに気づいた茉莉と菫が慌てる。

「おい、お前らいい加減に死ね!じゃないと取り返しがつかないぞ」

 死んだら関係ないんじゃないか?

「結、私の相手もして欲しいな」
「……わかった」

 そう言ってにいには部屋に戻る。
 結莉も暴れたいわけじゃない。
 にいにまで暴れ出したら大変なことになるから、ああやって抑えてるんだ。
 結局保母さんが総出で事態を収拾した。
 当然僕達の親が呼ばれることになった。

(3)

「やっぱりやらかしたか」

 ゲームを中断して電話に出ると、案の定幼稚園で優奈と愛菜が暴れたからと呼び出された。

「天音、悪い。急用できたからいったん落ちるわ」
「ああ、分かってる、私の所にも今電話が来た」

 ってことも茉莉と菫もか。
 天音から粗方聞いていたけどこれは面倒だな。
 母さんにバレるのもやばいけど、学が面倒だ。
 重い足取りで幼稚園に向かっていると天音と翼と美希に会った。

「よう、新入り」

 天音はそう言って笑っている。

「これからこれが続くのか?」
「茉莉達は2年間頑張ってたな」
「勘弁してくれ」
「まあ、慣れるから」

 美希はそう言って笑っている。

「天音と美希はいいよ」

 旦那がああだし。

「うちは学が父親だぞ」
「ばれないように黙っててやるから」
「そのうち学も諦めるよ」

 善明もそうだったからと笑って言う翼。

「で、なんで翼が呼ばれてるんだ?」

 私が翼に聞いてみた。

「そっか、水奈は初めてだから分からないんだね」

 翼はそう言って説明した。
 大体おっぱじめるのは茉莉と菫。
 今年は優奈達が加わったから人数が増えたとはいえ、まだ相手の方が多い。
 だから始末するのに時間がかかる。
 そうなると早く帰ってお昼を食べたい冬夜の機嫌が悪くなる。
 
 リベリオンを見たら埋めてやれ。

 結はそれを実行した。
 地面の中に埋もれていくリベリオンのガキたち。
 じたばたしてもどんどん埋まっていく。
 朔と秋久が必死に結を落ち着かせる。
 一方で沙羅や心音が結莉を落ち着かせる。
 このままだと夕食も抜きになる。
 それで茉奈はため息をついて冬夜の頭をぽかっと叩く。
 それで事件を大体片が付く。
 連中はあらゆる意味で馬鹿だった。
 死のうが喚こうが知ったことじゃないけど結の機嫌だけは損ねたらいけない。
 それを全く理解しない。
 だから翼も呼び出される。

「まあ、適当に聞き流しておけばいいから」

 天音と美希はそう言っている。
 そして幼稚園でしっかり注意を食らった。
 しかし茉莉と菫……優奈と愛菜は反省なんかするわけがない。
 この恨みは明日晴らしてやる。
 そんな事を考えている顔だった。

「このまま昼飯抜きじゃ結が怒り出すからなんか食って帰るか」
「そうだね」

 そうして時間を潰していたのが致命傷だった。
 優奈も愛菜もなかなかお昼寝してくれない。
 このままじゃヤバイ。
 しかし時間になった。
 学が帰ってくる。

「あれ?優奈と愛菜はお昼寝してないのか?」
「まあ、幼稚園が楽しかったんだろうな」
「そうか、ちゃんと幼稚園行ってるか」

 学はそう言うけど連れて行くのも一苦労なんだ。

「あんなふざけたお遊戯やって馬鹿馬鹿しい!」

 そんな事をいって早速さぼろうとする2人。
 悠翔と茉奈がいるから奇跡的に行ってるようなもんだ。

「水奈には苦労かけるな」
「ま、このくらいは母親だし」
「……で、何をやらかしたんだ?」

 バレてる。

「な、何の話だ?」

 ごまかそうとしたけど無駄だった。

「パパ聞いてよ。今日ふざけた馬鹿がいてさ」

 優奈が自白した。
 それを聞いた学が呆れている。
 絶対怒られると思ったけど怒られなかった。
 夕食を済ませて3人を寝せると学に聞いてみた。

「今度水奈も母さんに礼言っとけ」

 お前だって母親に散々迷惑かけただろうから。
 あ、そうだったな。
 さっそくメッセージで伝えた。

「優奈と愛菜がやらかしたか?」
「ああ、華々しくデビューしやがったよ」
「そうか、でも覚悟しとけ」

 母さんは一言言った。

「小学生あたりからもっと手に負えなくなる」

 桜子にも謝っといた方がいいぞ。
 育児って大変なんだなと思った一日だった。
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