姉妹チート

和希

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(1)

 無線が入る。

「またか!?」
 
 うんざりするくらい事件の通報が入ってくる。
 大体がエリツィンの恋人とSHの抗争。
 まさか身内がここまででかい事件を作るとは思ってなかった。

「ふざけた真似をした馬鹿がいるから潰せ」

 そんな暗黙の了解で各々が出来る行動をとっていた。
 石原家と酒井家は容赦と言う言葉を便所に流してきた。
 妹の茜達が調べつくした情報を手掛かりに片っ端から潰しにかかっている。
 それは喧嘩なんて生易しい物じゃない。
 相手に一切の反撃を許さない攻撃。
 こんな戦力を金持ちとはいえ個人が所有していて大丈夫なのか?この国と思うほどの猛攻だった。
 いくら世界を舞台に立ち振る舞うギャングとはいえ、さすがに小国の一つや二つ潰しかねない戦力を前になすすべがない。
 しかもあわてて本隊を本国から連れてこようにもそんな真似を恵美さんが許すわけがない。
 海には潜水艦を、空はアンノウンの機体は片っ端から対空ミサイルで迎撃していた。
 あまりにも増援がうっとうしいと空が警告をする。
 
「舐めてると潰すぞ」

 そう言わんばかりに隕石を投下しているらしい。
 意外と面倒なんだそうだ。
 小粒すぎると大気圏内で焼失するしでかすぎるとユーラシア大陸を破壊することになる。
 選別と標的の選別に苦労するらしい。
 それでも江口家のジョーカー・核ミサイルを撃つよりは手間がかからないだろうと言っていた。

「別にそのくらい簡単なのに」

 恵美さんは「えみりん革命21号」と名付けた核ミサイルを撃ちたくてしょうがないらしい。
 そんな感じで、空の住むアパートが火災で焼失してからSHの猛攻が続いていた。
 SHは一切の妥協をしないと言っていた。
 相手の戦意を完全にへし折るまで続けるつもりだという。
 そんな毎日で徹夜になることもしばし増えた。
 
「梨々香、今日も徹夜だ」
「わかった。ご苦労さん」
「梨々香、繰り返すようだけど……」
「不要な外出は避けろ。でしょ?分かってるって」

 純也こそ気を付けてね。
 そんな事を言われていた。
 私用の電話は本部の外でする。
 終わると本部に入る。
 すると本部長から呼ばれた。

「今すぐ中央署に行ってくれ」
「何かあったんですか?」
「渡瀬本部長から直々に呼ばれてるみたいだ」

 渡瀬さんから?
 嫌な予感がする。
 とりあえず中央署に向かった。
 部屋にノックしてはいると渡瀬さんが俺の顔を見ていった。

「片桐君には捜査本部から外れてもらう」

 嫌な予感が的中した。
 もちろん理由を聞いた。

「理由は二つある」

 二つ?

「まず、片桐君はSHのメンバーだ。そんな関係者を置いておけないだろ」

 まあ、思っていた通りだ。
 だけどもう一つが気になった。

「もう一つの理由って何ですか?」
「……ここからは内密にしてほしい」

 そう言って渡瀬さんが話した。
 俺はすでに警部だ。
 そしてこの先研修を受けて試験を受けたら警視長までそんなにかからないだろう。
 そんな未来のある人材をこんな危険な捜査チームに入れておくわけにはいかない。
 渡瀬さんは遠坂のお爺さんの部下だった。
 当然たまに話をしたりするらしい。

「……純也の事を頼む」

 俺は弱者を守る正義の力を正しく使うことが出来るはずだと渡瀬さんに話したらしい。
 そんな貴重な人材をこんな事件に巻き込んで何かあったら遠坂のお爺さんに合わせる顔がない。

「私の身勝手な異動だ。でも私の立場も分かってほしい」
 
 そう言って渡瀬さんが頭を下げる。
 もともと覚悟していた。
 
「分かりました」
「そう言ってくれると助かる」

 話を終えると中央署を出て梨々香に「急に帰れるようになった」と伝える。

「純也左遷されたの?SHだから?」
「詳しいことは家に帰って話すよ。晩飯間に合うかな」
「それは大丈夫」
「じゃあ、まあ後で」
 
 そう言って家に直帰しようとすると車が尾行しているのに気づいた。
 まあ、そうなるだろうな。
 赤信号の間に茜にメッセージを送る。

「了解、そのまま気にしないで家に帰って」

 茜のメッセージ通りまっすぐ家に帰る。
 駐車場に車を止めると尾行していた車から外人部隊みたいな人間が下りてくる。

「死ね」

 シンプルだった。

「お前ら、人間が一番油断するときっていつだと思う?」

 彼らに質問すると彼らは首を傾げた。
 その一瞬が命取りだ。
 次の瞬間彼らは倒れた。
 多分聞こえてないだろうけど、倒れた彼らに近づいて告げる。

「それは、自分が獲物をしとめる瞬間」

 わずかな間だけど周囲への警戒が薄れる。
 頭を撃ち抜かれた少女が最後に言った言葉は「空がきれい」だったらしいけど、今は夜だからそんな感想もないだろう。
 彼らを追尾していた石原家の兵隊が彼らを運んで去っていく。
 家に帰ると「外で何かあった?」と梨々香が聞いた。

「大したことじゃないよ」
「そっか、さっき車の音聞こえたから温めなおしてるところ」
「悪いね」
「刑事の妻ってのも大変だね」

 専業の方がいいかもしれないと梨々香が言っている。
 その決断をもうすぐさせてやるから。
 そんな事を思いながら部屋で着替えていた。

(2)

「やっぱり天音もか」
「翼は今日はどっちなんだ?」
「菫だよ」
「しかし保母さんもしつこいな。いい加減諦めて欲しいんだけどな」

 天音とそんな話をしながら幼稚園に向かっていたが、尾行されていることに気づいた。

「翼……」
「わかってる、振り向かないで私についてきて」

 天音にそう言うと人気のない公園に出た。
 ここなら隠れようがないでしょ。

「いい加減に出てこい屑共」

 いますぐゴミくずに変えてやると天音は言う。
 星屑は人の願いを背負って生きるというがゴミくずは何を背負う?
 まあ、死ぬんだからどうでもいいか。
 ドラマや映画でよく見るシーン。
 主人公たちを追い詰めて銃口を突き付けて悠長に語るマヌケ共。
 そんなどうでもいいセリフに付き合うほど私達も暇じゃない。
 何言ってるか知らないけど私達は行動に出た。

「お前らこの物語のタイトル知ってるか?」
 
 姉妹チートっていうんだ。
 私達を侮りすぎじゃないか?
 天音が言った時には彼らの背後にすでに回っていた。
 慌てて振り返る馬鹿をハイキックで仕留める。
 空は王だけどこの世界では彼女の方が強いことが多い。
 空の能力と同等レベルの能力は持っているとどうして警戒しない?
 彼らは倒れるけど落とした銃を拾おうとする。
 その手をかかとのある靴で思いっきり踏みつけると馬鹿の絶叫と共に穴が開いた。

「翼そんなヒールのある靴いつも履いていてめんどくさくないか?」
「天音こそそんなミニスカート穿いて、大地に怒られない?」
「ああ、そういや最近適当なの穿いてた」

 そんな話をしながら天音は蹴り続ける。
 ピクリとも動かなくなるころに連絡しておいた石原家の兵隊が連れ去っていった。
 私達を狙う馬鹿がいなくなった代わりに子供を狙う大馬鹿が現れることになる。

(3)

「お腹空いたね~」
 
 結莉が今日も笑顔で芳樹と幼稚園から家に帰る。
 最近はリベリオンとやらが大人しくなってきた。
 父さんたちは大忙しみたいだけど。
 拠点を見れば爆撃して、メンバーが歩いていたら片っ端から殺して回る。
 どれだけ経てば忘れられるのだろう?過去の自分に向けた後悔と憎悪。
 そんな事多分一生ないだろうと思う今日この頃。
 自分で言い聞かせている。
 僕や朔が動かないと茉莉達に任せたら大惨事が待っている。
 感謝してほしいくらいだよ。
 僕の家が燃やされたと聞いた時には背筋が凍った。
 いよいよ地球が滅亡する時が来たのか?
 幸いにもじいじと父さんが必死に晶さんを宥めたらしい。
 地球の危機はモスクワの崩壊で免れたそうだ。
 そういう問題なのかと思ったけど、子供の考えることじゃないだろうと考えるのをやめた。
 リベリオンとやらは祖母や母親が引き起こした悲劇の犠牲者が構成していると聞いたけど、それを再び悪夢のように襲撃している。
 もっとでかいリベリオンが生まれそうな気がしてならない。

「おい、朔!なんでそんな面してんだよ!お前は彼女と帰るのがそんなにつまらねーのか!?」

 ちゃんと朔を彼氏と認識していたのか不安だった茉莉が言う。
 しかし朔は何も言わない。
 まさか、修羅場ってやつだろうか?
 結と茉奈も朔を見た。
 しかしすぐに修羅場ではないと分かった。
 もっとひどい修羅場が待っていた。
 僕たちは大人の男性数人に尾行されているらしい。
 父さんは言ってた。

「酒井家の子供は大体誘拐されるから覚悟しなさい」

 そんな事をいう父親もいるんだね。
 きっと僕も子供が出来たらそう言う日が来るんだろうな。
 そんな事を考えてる場合じゃない。
 とにかく茉奈と結だけは守ること。
 この多分誘拐犯の為にもそうした方がいい。
 朔と打ち合わせをすると公園におびき出す。
 公園はいい意味でも悪い意味でも遮蔽物がない。
 木陰に隠れるとかしていればばれない。
 まあ、子供の僕が感じるほど気配を丸出しにしているからそんなの関係ないのだろう。
 男は数人なんてものじゃなかった。
 数十人だった。
 どうせここにおびき出すと読まれていたか。
 母さんに知られたら間違いなく怒られるミスだ。
 どうにか挽回しないと。

「お前らなんだ?」

 菫が男に絡んでいる。
 菫にとって男も女も、大人も子供も関係ない。
 ただの獲物だ。
 それは茉莉も同じだったみたいだ。
 茉奈は結の側にいる。
 このメンバーの中で唯一普通の女の子らしく不安そうに震えている。
 それを察しているのか結の機嫌が悪くなっていく。
 そうでなくてもお昼ご飯が遅れるから。
 味噌汁が冷めたという理由で企業を潰す親の息子だから、お昼ご飯が食えないから殺すというのは正当な理由なんだろう。
 まだ茉奈だけならよかった。
 結は自分の立場をわきまえているのか、堂々と立っている。
 自分が動いたら周りが大変なことになると自覚しているのだろう。

「おっさん。色が白いね。化粧してるの?」
「結、あれはもともと白い人なんだよ」

 結莉と結がそんな話をしている。
 その程度にしか思っていなかったのだろう。

「おい、秋久、お前何人欲しい?」

 多分何人相手にできるかじゃない。
 何人譲ってやろうか?って意味だろう。

「余った分を貰うから好きにしていいよ」
「おっしゃ、じゃあ茉莉に半分くれてやる」
「おい、奇数だぞこいつら。余った一人どうするんだよ?」
「真っ二つにするってのはどうだ?」
「分かった」

 これ幼稚園児の会話だよ。
 
「じゃあ、天使とダンスでもするか!」

 茉莉がそう言った時だった。
 こいつらも馬鹿じゃない。
 誘拐する気は端からなかった。
 ロシア語が分かれば気づいたかもしれないけど幼稚園児にそれは無理だよ。
 まずい。
 バリアを展開しようとする。
 しかしこいつらは凶行に走った。
 
「カタギリトウヤ」

 スマホで画像を確認しながら片言で言って結に銃を向ける。
 茉莉達や結莉もまずいと思ったのだろう。
 茉莉も銃口を男に向ける。
 しかし遅かった。
 結の行動の方が早かった。
 結は銃を持った男の腕を吹き飛ばした。
 銃も粉々になっている。
 僕達が結に手出しを出せないのは結が空さんの息子だからじゃない。
 相手が悲惨なことになるからだ。
 ロシア語が分かったら忠告したんだけどね。
 さすがにそんなありえない事が起きたら数的有利でいる相手も恐怖しか感じないだろう。
 結はその後に普通に尋ねた。

「俺に何か用?……あ、確かこう言うんだったね。とりあえず全員跪いてよ」

 結、そう言うのは腕を吹き飛ばす前に言うべきだと思うんだけどね。
 ほら、大人の人みんな恐怖から怒りに変わってるよ。

「お前らふざけた真似を……」
「跪け!」

 結がそう言うと同時に全員の左足を膝から下だけ吹き飛ばした。
 全員その場に倒れる。
 恐怖と怒りが混ざってパニックになって銃を撃つ者もいたけど結のバリアは絶対に貫けない。
 逆に銃を撃った男の腕を吹き飛ばす。

「そんなの持ってたら話し合いもできないと思うんだけど」

 ここまでしておいて結は話し合いをするつもりがあったのかい?
 
「こ、この化け物」
「誰が化け物だ!?この糞ジジイ!てめぇの玉踏みつぶすぞ!!」

 そう言って茉莉と菫が暴行を始める。

「結莉お腹空いた。退屈だし」

 結莉はマイペースだ。
 この状況でそのセリフが言えるのはきっと結莉と結だけだよ。

「確かに面倒だね」

 結はそう言うと男を全員消し去った。
 相手が結じゃなければ。
 結がもう少し大人だったら。
 僕たちの前に現れなければ。
 まあ、なんとかって組織に入ってなければ普通に家庭を持って平和な生活を過ごしていただろうに。
 そうはならなかったからこの話はお終いみたいだ。
 茉莉達はいつも通りのジョークを飛ばしながら、僕と朔は少し疲れたねと話しながら。
 結達は昼ご飯なんだろうと話しながら公園を去って行った。
 公園には何も残らなかったよ。

(4)

 パン!

 一発の銃声が事務所内に響き渡る。
 女性社員が悲鳴を上げる。
 ちょうど午後の仕事で男性社員はほとんど出ている。
 残っているのは僕と社長と……くらいか。
 父さんの予感は本当に当たるな。
 本当は僕も午後から出る予定だったんだけど父さんが予定を変えるように言った。

「期日はまだあるでしょ?その仕事」

 埋め合わせは社長もフォローするからと事務所にいるように引き留められた。
 その理由は数人の来訪者。
 もちろんアポなんてとってない。

「ご、ご用件は?」

 この会社にいると他社より結構危険な修羅場をくぐることになる。
 だから表情は青ざめているけど受付は職務を果たそうとした。
 その結果額に銃口を向けらえている。
 こいつらは引き金を引く前に何か発言しないといけない決まりでもあるんだろうか?

「死ね」

 たった二言言う時間を作ったために自分が危険になることを理解してなかったようだ。
 アサルトライフルを装備した兵隊がライフルで後頭部を殴りつける。
 男は気を失って倒れた。
 男の仲間が背中を向けると大勢の兵隊が押し寄せてきている。

「日本語通じる?」

 僕が聞くと男たちは僕を見る。

「日本では会社に訪問するときに受付に銃を突きつけるなんて作法はないんだ」

 どこの国にもない気がするけど。

「ああ、やっぱり来たんだね」
「片桐君も相変わらず衰えを知りませんね」
「全くこっちも暇じゃないんだよ。いい加減にしてほしいんだけどね」

 社長室から社長と望さんと善幸さんが出てきた。
 社長は男たちに向かって笑顔で行った。

「で、当社にどんなご用件で?当社では銃の扱いはしてませんが」

 男たちは黙ったままだ。

「用件がないならお引き取り願えませんか?」

 色々騒ぎを起こすから苦情が結構来てるんだと社長が言うと、兵隊たちが男たちを拘束して連れ去って行った。
 それを見ながら社長は僕に言う。

「大組織というからもう少し粘ると思ったけど、思ったほどじゃないね」

 社長の言う通りだと思った。
 まあ、補給路を酒井家と江口家が完全に断っているから増援もなくてじり貧になってきてるんだろう。
 ここに手を出すということはそれだけ相手も切羽詰まっているということ。
 少なくとも家に放火したときのような勢力はないだろう。
 僕は社長室に呼ばれた。
 望さん達と情報を共有する。
 大体の事は善明と大地から聞いていたから大丈夫だった。
 相手の拠点の8割近くはすでに潰した。 
 
「だけど油断してはいけないよ」

 最後のカード1枚を握りつぶすまでは油断してはいけない。
 父さんがそうアドバイスしてくれた。

「天井また張り替えないといけないな。いっそ鋼鉄にするかな?」
「片桐君それだと銃痕が残るよ。物騒な会社と誤解されるよ」

 望さんがそう言って笑っていた。

「でも不思議ですね。この会社には千歳さんの娘さんもいるんでしょ?普通そういう所をねらうんじゃないですか?」

 望さんが言うと僕が説明した。
 最初から全部計算ずくだった。
 相手だって馬鹿じゃない、弱いところを突いてくるくらい考える。
 逆をいうとそこまでしか考えていなかった。
 こっちを「平和ボケした日本のガキ」と侮っていた。
 だからわざとそこを狙うように簡単に誘導できた。
 そこに罠をはっているなんて考えつかないだろう。
 それが最初の手。
 その次にそいつらを手掛かりに所属している部隊を片っ端から潰していく。
 相手は面白いように誘いに乗ってくる。
 前にも説明したけど酒井家と石原家には小国の一つや二つ軽く潰す戦力を所持してる。
 それを地元だけに限定すれば埋め尽くすくらいの部隊になる。
 罠を張りながら混乱する情報網を片っ端から引っ張ってきて相手を特定して始末していく。
 将棋で詰めの寸前になったらやることは一つ。
 相手の王様を狙ってひたすら時間を稼ぐ。
 今がその段階。
 最初に使えるだけの駒を使って徹底的にあぶり出して潰す。
 先手を打つならそうしないといけない。
 反撃する機会を与えないくらいの勢いで全部一度に潰すつもりでやる。
 先手を打つなら最初の一発で大体が決まる。
 しかし彼らはそうしなかった。
 こっちが腰を上げるのを待っているかのように悠長に構えていた。
 だから僕はこっちから仕掛けることにした。
 条件はそろっている。
 相手の規模の把握。
 背後や他の組織との連携の有無。
 全て条件をクリアしたからしかけた。
 サッカーで最初にくさびを打ち込むように、最初に恐らく本隊があるモスクワに仕掛けた。
 それで相手が浮足立ったところに一気に畳みかける。
 僕自らが全部消し去るって手もあるけど、それじゃ天音達に不満が残るから任せておいた。
 多分僕や純也、天音や冬夜達を狙ったのは苦し紛れの一手だろう。
 僕達に致命傷を与えたいならそうせざるを得ない。
 反撃の手なんてそんなに残っていない。
 結果僕たちの罠にはまった。
 僕の説明に父さんは及第点をくれたみたいだ。
 
「だけど、気を抜いてはいけないよ」

 相手の頭を潰すまでは油断するな。
 苦し紛れの手なんていくらでもあるんだから。
 そんな話をして席に戻ると仕事を片付ける。
 終業時刻になると荷物をまとめて家に帰る。

「おかえり~」

 家に帰ると息子が玄関にやってくる。
 着替えてダイニングに行くと父さんも帰ってきているみたいだ。
 翼と母さんと美希が仲良くキッチンに立っていた。

「もうすぐ出来るからまっててね」
「ああ、そんな隠し味あったの?」
「そうよ、冬夜さんはこっちの方が好みだから」
「なるほどね~」

 3人はは楽しそうに料理をしている。
 料理が出来ると皆が揃う。
 
「やっぱり愛莉さんの味の方が好き?」

 美希が聞いてくる。

「そりゃ、愛莉の味で育ってきたんだからしょうがないよ」

 父さんが助けてくれた。

「陽葵と菫。翼から空を奪いたいならまずは料理だよ!」

 冬莉が言うと、2人はその気になる。

「愛莉、私達にも料理教えて」
「……冬莉はそう言う割には料理を手伝わないわね?」
「相手が冬吾並みに食べるなら作るけど、志希はそうじゃないから」
「菫と陽葵達には負けないよ」
「どうして?」
「だってママには絶対負けない調味料を持ってるから」
「何それ?」
「愛情」
「それなら私達にもあるよ!」

 こういう時父親はどうしたらいいんだろう?
 善明は困っていた。
 父さんはただ笑っていた。
 夕食の後風呂に入ると父さんと善明が話をしていた。

「善明は新居探すのかい?」
「ええ、今母さんが急ピッチで作ってるみたいで」

 そんな和やかな冬の夜を過ごしていた。
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