姉妹チート

和希

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Gotta Stay Fly

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(1)

「どういうつもり?」

 私は教室で仲間だった四宮紀子に問い詰められていた。
 理由は簡単。
 私と姉の成実はリベリオンを抜けてSHに入ったから。
 紀子とは反SH勢力として一緒に行動していた。
 だけどもそのSHに入ってしまった私を紀子は許せないんだろう。
 だから朝からこうして揉めていた。
 だけど私も成実もリベリオンに戻るつもりもなかった。
 かといってFGに入ってSHの敵に回るつもりもない。
 SHの王・片桐空は私達に言った。

「復讐なんて考えてずっと僕達を見上げているつもり?」

 復讐を誓うものは大体相手を上目遣いで睨んでいる。
 見下すようなことは絶対にない。
 常に相手を下から見上げている。
 そんな相手恐ろしいわけがない。
 私達だって気づいてるんだろ?
 本当はただそんな生活をしているのが羨ましいんだって。
 そんな相手に負ける気はしない。
 どんな奴が相手だろうとSHの背後には常に太陽があるから。
 それを気づかされた私と成実はもう復讐自体に嫌気がさした。

「望むのなら力を貸してあげる。僕たちは歯向かう者は容赦しないけど、救いを求める者には持てる力を使って助けてあげる」

 SHに入ったのなら敵も味方も関係ない。
 私たちの前にある霧を薙ぎ払ってやる。
 
「雪菜は騙されてるだけかもしれないよ」
「そうね、私たちは騙されていた。信じていた十郎に騙されていた」

 恨むべき相手を間違えていた。
 ひょっとしたらSHも私達を騙しているのかもしれない。
 でもSHは言っていた。

「復讐なんてしたところで幸せには絶対になれない。それよりこれから自分たちが幸せになる道を選びなさい」

 その為の手伝いならしてあげる。
 彼らは復讐しろとは言わない。
 過去があって今がある。
 高橋グループが壊滅したから、十郎が私たちの両親を奪ったから、こうしてSHに入っている。

「……私と敵同士になるのね」

 紀子は私を睨みつける。
 今まで友達だった人が突然敵になる。
 覚悟していたけど違う意見を持っている人もいるようだった。

「SHとFGだから敵同士。ずっと友達だった雪菜にそんなことを平然と言うの?」

 いつの間にか教室に入ってきていた片桐陽葵が言った。

「FGだから、SHだから。そんなの友達には関係ないよ」

 紀子にとっては友達ってその程度の価値なの?

「あんたたちSHに何がわかる?そうやって上から目線でいつも人を馬鹿にして……」
「そうだよ。私たちはあなた達を見下している。その理由がまさに今あるじゃない」

 寝返ったとかそんな幼稚な理由で友達の縁を切ろうとする。
 SHは相手が手を出さない限り相手をしない。
 理由は簡単。
 自分たちが一番強いと思っているから。
 どんな相手でも負ける気がしないから。

「紀子が雪菜と何をしていようが私たちの知ったことじゃない。ただ、雪菜を傷つけたら黙ってはいない」

 どんな理由があろうと仲間を傷つける奴は許さない。
 SHはそんな判断をずっと続けてきた。
 SHを名乗る馬鹿がいてもそれを許さない。
 SHの誇りを傷つける奴に容赦はしない。
 だから最強なんだ。

「……もういい。雪菜とはこれっきり。さよなら」
「ごめん……」

 私がそう言うと紀子は席に戻った。

「そういうわけだからあんた達も雪菜に手を出したら容赦しないよ」

 陽葵が言うと扉の陰に潜んでいた、カミルとカミラが現れた。
 陽葵達は最初から気づいていたらしい。

「……仲良しこよしの生ぬるい世界にいる陽葵達が私達をどうこうできると思ってるの?」
「そういう前ぶり面倒だから、やるならさっさとしろ。ほかの奴らが入ってきたら面倒だ」

 結に見つかったら全部持っていかれる。
 菫はやる気でいるらしい。
 今度は容赦しない。
 そう警告している。

「……守るものを増やすと手に負えなくなっても知らないよ?」

 カミルがそう言ってにやりと笑う。

「そんなの空はとっくに知ってる。だから空の指示が出たら容赦なくあんた達を潰す」

 その覚悟があるならいつでも相手になってやる。
 陽葵と菫に馬鹿正直に仕掛けるのは得策じゃない。
 片桐家にまともにしかけても絶対に勝ち目はない。
 どんな能力も無効化してしまう。
 そしてどんなに非力な女の子でもその辺のチンピラくらい始末する冬莉や冬吾のライド・ギグ。
 まともにやり合っても悲惨な結末しか迎えない。
 そのことは私や成実はよく知っていた。

「ほら、さっさと来いよ。時間が無いって言っただろ」

 菫が挑発するけど二人は大人しく席に着く。
 陽葵が私に声をかける。

「ちょっと付き合って」

 どうしたのだろう?
 陽葵達に連れられ外に出る。
 
「空を見ろよ」

 菫が言うので空を見上げる。
 とてもきれいな青空。
 澄んだような青空が視界に広がっている。
 それがどうかしたの。

「これから雪菜が見上げるのは空だけ。空はじっとあなたを見守ってくれる」

 邪魔をするものは何もない。
 何もないこの青空を目指して飛んでいけ。
 ひたすら飛び続ければいい。
 それがこれからの私の生き方。
 今までのように日陰で人を羨む必要ない。
 同じ見上げるなら空を見上げていけばいい。
 青空も星空もすべてが私の生きていく舞台。
 思うがままに自由に飛び続けていけばいい。
 邪魔する物は一切許さない。
 これから抱くのは恨みでも後悔でも不安でも絶望でもない。
 ただ、夢と希望を抱いていけばいい。
 私たちがその自由を保障してやる。

 いかなる理由があろうとも、仲間を傷つける事は絶対に許さない。

 それが私たちの絶対の掟。
 それを犯すものがいたら容赦なく地獄に突き落としてやる。
 SHの王は”空の王”
 その保護下で自由に生きていけばいい。

「今思っている負い目とか恨みとかそういうのはここに全部捨てていけ」

 菫が言う。
 そんな物大事にいつまでも抱えていてもろくなことがない。
 そんなくだらない荷物は捨ててしまえ。
 SHに入るということはそういうことだ。
 自由と夢と希望が保証される。
 どうせこれからどう生きていいか分からなかったのでしょ?
 だからここに連れてきた。
 翼を広げて飛び立つときは今だ。
 私は泣いていた。
 私にもそんな場所が与えられるんだ。
 そんな場所を飛び回っていいんだ。

「覚悟しておけ。憎しみなんて忘れてしまうくらい楽しい出来事が雪菜を待っている」

 菫がそう言って笑う。

「ありがとう……」
「礼を言うのはまだ早いよ」

 陽葵がそう言って私の肩をたたく。
 文字通り私はこの場所に嫌な思い出を残して教室に戻る。
 私の物語は新章を迎える。

(2)

「本当にいいのか?」
「私一人だから気にしないで」

 そう言って私は恋人の雲雀を家に誘っていた。
 妹の雪菜は天音さん達がキャンプに誘っていた。
 私や雲雀も誘われたけど高校3年生だ。
 大学受験に備えて勉強しないといけない。
 大学進学の学費は奈留さんが援助してくれるらしい。

「言ったはず。あなた達の面倒は私が見るって」

 どうせこの先どう生きていけばわからないのでしょ?
 それなら大学に通ってる間に道を考えていけばいい。
 何をするかわからないのなら可能性を広げてやるのが私の役目だと奈留さんが言った。
 だからその言葉に甘えることにした。
 そのために勉強を始めていた。

「そんな面倒なことしなくても落ちるなんてことは絶対ないから遊んだほうがいいって」
 
 冬莉達がそう言って笑っていた。
 冬吾や誠司は私のもう一つの目的を察したようだ。

「まあ、たまにくらい妹の面倒ばかりしてないで雲雀とゆっくり楽しみなよ」
「雲雀は気をつけろよ。入学式に赤ちゃん連れていくとか絶対無理だからな!」
「誠司は余計なことを言うのやめなよ!」

 泉が誠司を注意していた。
 そして昼頃雲雀がやってきた。

「ちょうど昼ご飯作ってたところ。待ってて」
「悪いな」
「気にしないで」

 そう言う生活に憧れていたから。
 私にもそういう夢を見る権利が与えられたんだ。
 雲雀には昼間から私を押し倒すなんて趣味はない。
 テレビを見ながら勉強していた。
 夕食をつくる手伝いを雲雀がしてくれた。
 いつもは妹と一緒だったけど彼氏と一緒にキッチンに立つ日が来るなんて思ってもなかった。

「剣太達もおなじなんだろうな」

 雲雀が言う。

「多分そうだろうね」

 夕食を食べた後、片づけをして交互に風呂に入ってテレビを見ている。
 雲雀も戸惑っているみたいだ。
 剣太たちはともかく私たちは夜を共にしたことはない。
 雪菜がいるから気にしてしまう。
 同じ理由で雲雀の家に泊まる事も出来ない。
 だから一緒に夜を過ごすなんてことはなかった。
 どう私に触れていいのかわからないみたいだから、私が雲雀の手に自分の手を重ねる。
 それに雲雀が気づいて私の顔を見る。

「リラックスしてよ」

 そう言って目を閉じると雲雀はようやく行動した。
 終わったあと少し意地悪をしてみた。

「やけに慣れてたね?」

 初めての割には戸惑うことなく動作をしていたけど、どうして?

「そりゃ、俺だって18の男だぞ」

 そういう動画とか見るから何をすればいいかくらいわかる。
 ただそれでも初めて見るから少し驚いたそうだ。

「どうだった?」
「うーん、率直に言ってもいいか?」
「いいよ」
「動画で見るよりももっときれいだった」
「ありがとう」
「それはいいんだけど俺の事ばかり気にしてるけど成実だって慣れてなかったか」

 色々な所を舐めたり触ったりしてただろ?

「下手くそだった?」
「上手だったから不思議なんだよ」

 雲雀が言うと私はくすっと笑って説明する。
 それは雲雀と同じ理由。

「女子を甘く見たら駄目だよ」

 雲雀が初めて泊まりに来るからってSHの女子グループに相談したら色々教えてくれた。
 
「女だからただ寝てるだけでいいと思ったら大間違いだぞ!」

 そう言っていろんなことを教えてくれる。

「そういうことか」

 雲雀は笑っていた。

「俺たちにも平和ってのがあったんだな」
「そうね」

 私も思わなかった。

「成実は将来の夢とか決まったか?」
「ゆっくり探せばいいって奈留さんから聞いた」

 でも実は決めている。
 有紀と相談していた。
 私たちのような高橋グループの崩壊や神谷の手によって不幸になって、SHへの復讐の捨て駒として扱われている子供はたくさんいる。
 私達はその子を救いたい。
 せっかく日本に生まれてきたんだから、当たり前に幸せを手に入れる権利があるはず。
 
「愛で人を殺すかもしれない、でも憎しみは誰も救えない」

 奈留さんに教えてもらったことを私たちが子供たちに教えていきたい。

「雲雀はどうなの?」

 私が雲雀に聞くと雲雀は答えた。

「まだ考えていないんだ。とりあえず成実を幸せにするくらいは稼げる仕事がいいなって」

 もちろんそれは汚れた仕事じゃない。
 まっとうな仕事をしてきれいなお金で私と幸せな家庭を築きたい。

「もう、私をキープしておくつもり?」
「だめか?」
「一つだけ条件がある」
「いいよ、どうすればいい?」

 私は笑って答えた。

「私が満足するまで相手してほしい」
「それは大変そうだな」

 雲雀はそう言って私を抱いた。
 夜が明ける前に眠ってしまった。
 目が覚めたのは雲雀が起きて服を着ようとしたから。
 私は雲雀を抱きしめる。

「まだ私は満足してないよ?」
「どうしてそんなに焦ってるんだ?」

 え?

「これからずっと続くんだ。何度でも付き合うよ」

 朝日がまぶしくてよくわからなかったけど雲雀は優しい笑顔をしていた。
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