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aggressive
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(1)
よく分からないけど取りあえずそいつを蹴飛ばした。
蹴飛ばした奴は庭まで吹き飛んだ。
起き上がってきそうにないので聞いた。
「琴音。あいつ何?」
恋人とか友達とは思えなかったから蹴飛ばしてみたけど。
「茉莉、事情もわからずに人を蹴飛ばすの止めた方がいいよ」
結莉が言う。
また天音呼ばれたら大変だしなぁ。
でもその心配はなかったらしい。
「FGに入るか金を出すか選べって脅されて」
幼稚園児にそんな大金持たせる親いないだろ。
私だって天音から小遣いもらってないぞ。
「ちゃんと家にお菓子用意しとくから我慢しろ」
買い食いするにはまだ早いと言われた。
まあFGなら別に問題ないか。
「何でも言われた通りにされるじゃだめだぞ」
何か抵抗の意思を見せなきゃダメだ。
結も言ってただろ。
自分の意思を示せ。
「ふざけるな、お前俺達に手を出して無事で済むと思うなよ」
まあ、いつも陽葵達が相手じゃ面白くないな。
「お前ら女のくせにふざけた真似してただで済むと思ってるのか?」
数だけは多いし、威勢だけはいい。
「文句があるなら相手になってやってもいいぞ」
莉子が相手だと決着がつかないから物足りなかったんだ。
「そういう事なら私もまざろうかな。暇だし」
陽葵と菫も加わるようだ。
秋久も参加するらしい。
しかし思わぬ邪魔がはいった。
「待てよ、そいつら俺達に文句があるんだろ?」
振り返ると結と茉奈が立っていた。
さすがにそれはまずいと天音から注意されている。
「事情を知らないならすっこんでろ!」
この馬鹿は誰に口を利いてるのか分かっているのか。
園内で最悪の人間だぞ。
一番怒らせたら悪い人間を怒らせてしまった。
茉奈は結の陰に隠れている。
結は茉奈と遊んでいたのに目障りだとやってきたそうだ。
もちろん機嫌が悪い……こともないみたいだ。
「毎日毎日面倒だから一度だけ相手になってやる」
二度と歯向かう気が怒らないくらい徹底的に痛めつけてやる。
結が本気になったら本当にこんな幼稚園吹き飛ばすぞ。
「ゆ、結。こんな雑魚にお前が出るまでもない」
私達でちゃんと始末しておく。
だけど結はにやりと笑った。
「心配するな。能力つかったらインチキだなんだって言うんだろ?能力なしで勝負してやるよ」
一度どんなものか試してみたかったらしい。
そういや結が能力なしで戦ってるところ見た事ないな。
「結。ケガしちゃいやだよ?」
心配する茉奈の頭を結が優しくなでる。
「こんなガキ相手にするわけないだろ」
「お前もガキだろうが!」
そういって結に殴りかかる。
すると茉奈に離れているように言うと結が動き始めた。
その動きは私達ですら息をのむものだった。
目で追うのがやっとの速さ。
身のこなしの速さ、相手の動きを先読みする速さ。
それらが重なって一切の無駄な動きがない。
一人仕留めると同時に次の相手へと向かっていく流れるような動き。
最後の一人になるとガキは後ずさるが後ろに柱が立っている。
結はその柱を殴りつけると柱に亀裂が入る。
さすがにガキは怯えていた。
「何度警告したら理解するんだ?もう面倒だから死ね」
そんなに殺されたいなら望み通り殺してやる。
すると四宮達はにやりと笑って結を見ていた。
やっぱり馬鹿は死ぬしかないのか?
しかし幼稚園大量殺人事件は免れたらしい。
「これは一体どういう事?」
保母さんが教室に入ってくるとうずくまって倒れているが気が数名いる。
全部結がやったことだ。
「俺がやりました」
結が挙手して名乗り出る。
「片桐君だけの仕業じゃないでしょ!また石原さん達の仕業なの!?」
「結莉達は関係ない。俺がやったことだ」
信じてもらえないならもう一度再現してやろうか?と結が言う。
結の親はその日も呼び出された。
結の母親もあまり気にしている様子はない。
「あら、旦那様に似て強くなってきたのね」
私達よりも質の悪い母親。
もちろんそれだけで済むほど甘くはない。
「こんなしょうもないことで呼び出さないでください。結の昼食が遅れたらこんな幼稚園吹き飛びますよ!」
言葉通りの意味だろう。
この建物を粉塵に変えてしまいかねないぞ。
結はしょうもない乱闘なんかしても、つまらないからのんびりしてるだけだ。
今日はたまたま気が向いたんだろう。
一度火がついたら私でも止められないぞ。
30分ほど職員と口論した末ついに職員が折れた。
私達は家に帰る。
昼ご飯の前に天音から一言言われる。
「とりあえず蹴りを入れる前に事情くらい聞いとけ」
それだけだった。
(2)
今日は紙芝居を見ていた。
猿と蟹の攻防戦。
猿が蟹の親を殺してムカついた蟹の子供が徒党を組んで袋叩きにして埋める奴。
蟹は美味しいって父さんが言ってた。
ただ、食べるのが面倒だって聞いた。
殻は食べられないらしい。
でも外国には殻ごと食える蟹がいるって図鑑に書いてあった。
猿は食べ物じゃないらしい。
でもテレビで猿の脳みそを食べる国もあるって言ってた。
人間食べようと思えばなんでも食べれるんだなぁ。
味に興味はあるけどグロいのは食べたくないなぁ。
どうして生き物によってグロいのとか美味しそうなのとかあるんだろう。
どこかの秘境では人間を食べる国があるらしい。
まあ、顔がアンパンの男もいるんだから多分いるんだろう。
しかし蟹が仇討ちといえば聞こえばいいけど、単なるリベンジで徒党を組んで袋叩きにしただけじゃないだろうか。
ウサギがタヌキをぶっ殺す話も前に紙芝居で聞いた。
この前茉莉がFGとかをボコボコにして怒られていたけどどうしてだろう?
世の中というのは不思議なことだらけだ。
まあ、そんな事を考えていても仕方ない。
もうすぐ帰る時間だ。
帰ったらお昼ご飯が待っている。
母さんが作るラーメンはとても美味しい。
お店だと豚骨ラーメンだけど、家だと味噌ラーメンに卵が入っているのが大好きだ。
早く帰りたいなぁ。
そんな事を考えながらせっせと掃除をしていた。
茉莉と菫は箒を持って遊んで注意されているけど。
背中の薪に火をつけるのは許されるのにどうして掃除用具で人を叩くのはダメなんだろう?
「結は掃除を真面目にするんだね」
茉奈がそう言ってきた。
「だって早く済ませないと家に帰れないだろ」
「そんなに家に帰りたいの?」
「お腹空いた」
「私と会えなくてもいいの?」
「明日会えるだろ?」
「そうだね」
そんな会話をしながら叱られている菫と茉莉の話を聞いていた。
そして帰る時間になると靴を履いて茉奈と手を繋いで帰る。
いつも通りのはずだった。
だけどその日はなぜか目にしてしまった。
皆友達と帰っているのに一人で帰っている男の子を見ていた。
「とーやどうしたの?」
結莉が聞くとその男の子を指差した。
「ああ、東山芳樹君だよ」
結莉が教えてくれた。
天音の高校時代の友達の息子らしい。
親はパティシエという仕事をしているらしい。
洋菓子の職人。
お菓子食べ放題なのかなぁ?
いいなあ。
友達になっておいて損はしないかもしれない。
早速東山君に声をかけてみた。
「あ、片桐君どうしたの?」
「どうして一人で帰ってるの?」
「まだ友達いなくて」
「じゃあ、俺が友達になるよ」
東山君は考えている。
「心配しなくても東山君のお菓子とったりしないから」
「え?」
あれ、違うのか?
「まあ、いいじゃん。親が知り合いなんだし私達といて損はないぜ」
色々厄介事を起こす茉莉が言った。
「そんな恐喝とかしないから心配するな」
朔がフォローしていた。
むしろ友達に手を出した奴は炭に変えてやれと天音が言ってた。
「そういう事ならお願いします」
そうやって芳樹君と友達になった。
一緒に帰って家に着くと別れる。
家に帰ると美味しい味噌ラーメンの匂いがしてきた。
「着替えてからが先。ちゃんと洗濯機に洗うものは入れなさい」
母さんに言われたとおりに着替えて脱いだものを洗濯機に入れる。
食べ終わった後は母さんとテレビを見ながら今日あった事を話した。
理由があったら袋叩きにしていいのは人も動物も一緒なのだろうか?と聞いていた。
「そういうのをね、勧善懲悪っていうの」
悪い奴を懲らしめる為なら何をやってもいいという日本人が好む思考。
だけど相手も相手なりの理由があるから戦争になる。
だからといって自分に譲れない理由があるなら戦いなさい。
争いが無くなる日なんて絶対にない。
勝ち取るものをしっかり勝ち取って失くせない物をしっかり守っていかなければいけない。
自分たちに手を出しても割に合わない。
最低限そのくらいの恐怖を相手の心に植え付けないといけない。
そうしないと自分を守れなくなる。
「ご飯だってそうでしょ?」
動物は餌を求めて狩りをする。
人だって食用に動物を育てる。
お金がないと買えない。
仕事をしたりしないといけない。
僕達がご飯を食べられるのは父さんが働いているから。
仕事だって同じだ。
待っているだけじゃダメ。
自分から奪い取ってくるくらいの気持ちでいないといけない。
人生自体が戦いなんだ。
そのくらいで段々眠くなってきた。
「まだ結には難しい話かな」
そう言ってママが「寝るならちゃんとタオルケット掛けてからにしなさい」というので昼寝をしていた。
起きてからリビングでおやつを食べる。
「結。東山君とお友達になったの?」
母さんが聞いてきた。
「そうだけど?」
「天音の友達の子供ってのは知ってるんでしょ?」
「茉莉がそう言ってた」
「あの店さ、地元でもかなり有名な店なんだよね」
「え?どんなお菓子!?」
ポテトチップスって工場で作ってるってきいたけど、そんな大きな工場あったっけ?
「そういうお菓子じゃなくてケーキとかだよ」
母さんが教えてくれた。
「やっぱり結には色々食べさせないとだめね」
愛莉がそう言って笑っていた。
(3)
今日は雨だった。
まあ、外で暴れて汚すと天音に怒られるからしないけど。
部屋の中で相変わらず菫と戦闘していた。
しかし雨が降っているから皆部屋の中にいる。
「結は海とプールどっちがいい?」
「海」
「どうして?」
「プールにはお魚いないから」
「そっかあ、じゃあ来月楽しみだね」
海の日にキャンプに行くから。
「でもあの海お魚いなかったよ?」
「もっと深い所に行かないとお魚はいないんだよ」
「そうなんだ。マグロとかいるのかな?」
「それは多分私達じゃ手に負えないよ」
雨の日だろうと関係なくいちゃついてる……んだろうカップル。
「あのさ、ちょっといいかな?」
私の彼氏の朔が私達を止めた。
「どうしたの?」
そうすると朔は芳樹ともう一人男を連れて来た。
「そいつ誰?」
「ああ、朝倉瑛斗」
芳樹がそう言って英和を紹介した。
「そいつがどうかしたの?」
暗殺して欲しいとかならしてやってもいいぞ。
違うみたいだった。
好きな人がいるから手を貸して欲しい。
誰だ?
結莉だった。
ああ、一緒にいるからか。
「で、何すればいいの?」
菫も興味があったみたいだ。
「メッセージを伝えて欲しい」
こいつは馬鹿じゃないのか?
「ふざけるな!本人が伝えないと意味ねーだろ!」
見た目はそんなに悪くないのにどんなチキンだ。
「あ、やっぱりだめだよね。ごめん」
そう言って立ち去ろうとする瑛斗の腕を掴んだ。
「次は逃げようってか?あんまり人を馬鹿にしてると殺すぞ!」
雨でイライラしてるのにふざけた事言うな。
そのまま瑛斗を結莉の下へ引きずって連れていくと琴音の前に突き出す。
「茉莉、どうしたの?」
結莉が聞いた。
「ほら、後はお前が言うだけだ。逃げようとしたら本気で殺すぞ」
「道具がないから首をへし折ればいいのか?」
菫とそんな相談をしていた。
結と茉奈もこっちを見ていた。
秋久もこっちが気になったようだ。
あいつは大体一人で黙々と本を読んでいる。
暗記でもするつもりかと思うほどずっと繰り返して読んでいる。
単にやる事が無くて暇らしいけど。
「瑛斗、俺もそう思う。やっぱり自分の口で伝えないと伝わらないぞ」
朔が言うと結莉も気づいたみたいだ。
「朝倉君。私も朝倉君の言葉で教えて欲しい。どうしたの?」
やっと瑛斗も覚悟と決めたらしい。
「僕、石原さんの事が好きです。良かったら付き合ってください」
瑛斗の馬鹿は周りに園児がいるのにも関わらず思いっきり叫んでいた。
でもそのくらいがいい。
恥をかくなら思いっきりかけ。
ダメだったら泣けばいい。
そんな涙を馬鹿にする奴がいたら私がぶっ殺してやる。
そしてそんな勇気を持った奴だけが恋愛の神様は微笑むんだ。
さすがに結莉も少し恥ずかしかったらしい。
まあ、普通はそういう年頃だよな。
だけど、にこりと笑って結莉は答えた。
「私を選んでくれてありがとう。よろしくお願いします」
どうせまだ3歳だ。
友達と恋人の差なんてそんなにない。
だから少しずつお互いの事を知っていけばいい。
時間は無限に近い程あるのだが。
ここまでだったらいい話で終わっていた。
まあ、この歳だから仕方ないんだろう。
周りのガキどもが騒ぎ出す。
「お前ら好き合ってるのか?」
「ちゅーとかするのかよ。早くしろよ」
そう言って囃し立てる。
しかしそんな馬鹿はすぐに後悔することになる。
こんな2人を馬鹿にする奴を許すほど結は大人しくない。
玩具で遊んでいた奴が悲鳴を上げる。
玩具が炎上したから。
「何がそんなにおかしいのか教えてくれないか?」
だから何度も言って来ただろうが。
結を怒らせると建物が物理的に破壊されるぞと。
結が立ち上がってそいつらに近づく。
ありとあらゆるものを粉々にする”破壊”の能力。
結莉も持っている能力だ。
2人を冷やかしたあげく、結の時間を台無しにした。
その対価を払えと言わんばかりにゆっくりと近づく。
幼くてもその怒気はお化け屋敷がメルヘンに思えるくらいに恐怖を感じただろう。
泣き出すガキ共。
加えて結が放った炎が燃え上がり火災検知器が作動して非常ベルが鳴る。
慌てて保母さん達が来てその惨状を目の当たりにする。
「また、茉莉の仕業!?」
「ちげーよ!!」
私だったら土砂降りの庭にガキどもを殴り飛ばす程度で済んでいた。
しかしガキ共は絶対に怒らせたらいけない人間を怒らせた。
それは保母さん達が止めても無駄だ。
下手すると保母さんをも殺しかねない。
私達も結に落ち付くように説得する。
するとやれやれと朔が動く。
炎が消えた。
後は結の怒りの炎を鎮めるだけだ。
「茉奈!こういう時は茉奈の役目だよ」
そう言って結莉が茉奈に耳打ちする。
「……やってみる」
ぽかっ
茉奈は冬夜のおでこを小突く。
「結、怒られるとまたお昼ご飯遅くなるよ」
茉奈がそう言うと結は部屋の隅に行って茉奈と話を再開した。
それで収まるわけがない。
しかしそれで解決したわけじゃない。
美希が呼び出される。
「結が怒り出すなんて何をしたんですか?」
美希も疑問に思ったらしくて保母さんに事情を聞いていた。
保母さんは事情を説明する。
「結、やり過ぎだよ。火事になったら大事でしょ」
そういって美希が結を小突いた。
「お母さん、そういう問題ではなくてですね」
「私はあなたの母親になった覚えはありません!」
そう言って美希と保母さんの間で口論が起きる。
どんなに美希を説得しようとそんな事が出来るのは恵美達だけだろう。
「お願いですからもう少し穏やかにお願いします」
そうやって美希に頭を下げる保母さん。
とはいえ、「幼稚園を燃やすな。破壊するな」くらいしか2人に注意は無かった。
「手をつなご?」
意外に結莉の方が積極的らしい。
当然結と茉奈も手をつないでいた。
……そういうのもたまにはいいかもな。
「朔、私達もやるか?」
「いいの?」
「手も繋げない彼氏なんか私はいらないぞ」
そう言うと照れくさそうに手を差し出す朔。
「私も彼氏作ろうかな~?」
そう言って菫と陽葵が笑っていた。
よく分からないけど取りあえずそいつを蹴飛ばした。
蹴飛ばした奴は庭まで吹き飛んだ。
起き上がってきそうにないので聞いた。
「琴音。あいつ何?」
恋人とか友達とは思えなかったから蹴飛ばしてみたけど。
「茉莉、事情もわからずに人を蹴飛ばすの止めた方がいいよ」
結莉が言う。
また天音呼ばれたら大変だしなぁ。
でもその心配はなかったらしい。
「FGに入るか金を出すか選べって脅されて」
幼稚園児にそんな大金持たせる親いないだろ。
私だって天音から小遣いもらってないぞ。
「ちゃんと家にお菓子用意しとくから我慢しろ」
買い食いするにはまだ早いと言われた。
まあFGなら別に問題ないか。
「何でも言われた通りにされるじゃだめだぞ」
何か抵抗の意思を見せなきゃダメだ。
結も言ってただろ。
自分の意思を示せ。
「ふざけるな、お前俺達に手を出して無事で済むと思うなよ」
まあ、いつも陽葵達が相手じゃ面白くないな。
「お前ら女のくせにふざけた真似してただで済むと思ってるのか?」
数だけは多いし、威勢だけはいい。
「文句があるなら相手になってやってもいいぞ」
莉子が相手だと決着がつかないから物足りなかったんだ。
「そういう事なら私もまざろうかな。暇だし」
陽葵と菫も加わるようだ。
秋久も参加するらしい。
しかし思わぬ邪魔がはいった。
「待てよ、そいつら俺達に文句があるんだろ?」
振り返ると結と茉奈が立っていた。
さすがにそれはまずいと天音から注意されている。
「事情を知らないならすっこんでろ!」
この馬鹿は誰に口を利いてるのか分かっているのか。
園内で最悪の人間だぞ。
一番怒らせたら悪い人間を怒らせてしまった。
茉奈は結の陰に隠れている。
結は茉奈と遊んでいたのに目障りだとやってきたそうだ。
もちろん機嫌が悪い……こともないみたいだ。
「毎日毎日面倒だから一度だけ相手になってやる」
二度と歯向かう気が怒らないくらい徹底的に痛めつけてやる。
結が本気になったら本当にこんな幼稚園吹き飛ばすぞ。
「ゆ、結。こんな雑魚にお前が出るまでもない」
私達でちゃんと始末しておく。
だけど結はにやりと笑った。
「心配するな。能力つかったらインチキだなんだって言うんだろ?能力なしで勝負してやるよ」
一度どんなものか試してみたかったらしい。
そういや結が能力なしで戦ってるところ見た事ないな。
「結。ケガしちゃいやだよ?」
心配する茉奈の頭を結が優しくなでる。
「こんなガキ相手にするわけないだろ」
「お前もガキだろうが!」
そういって結に殴りかかる。
すると茉奈に離れているように言うと結が動き始めた。
その動きは私達ですら息をのむものだった。
目で追うのがやっとの速さ。
身のこなしの速さ、相手の動きを先読みする速さ。
それらが重なって一切の無駄な動きがない。
一人仕留めると同時に次の相手へと向かっていく流れるような動き。
最後の一人になるとガキは後ずさるが後ろに柱が立っている。
結はその柱を殴りつけると柱に亀裂が入る。
さすがにガキは怯えていた。
「何度警告したら理解するんだ?もう面倒だから死ね」
そんなに殺されたいなら望み通り殺してやる。
すると四宮達はにやりと笑って結を見ていた。
やっぱり馬鹿は死ぬしかないのか?
しかし幼稚園大量殺人事件は免れたらしい。
「これは一体どういう事?」
保母さんが教室に入ってくるとうずくまって倒れているが気が数名いる。
全部結がやったことだ。
「俺がやりました」
結が挙手して名乗り出る。
「片桐君だけの仕業じゃないでしょ!また石原さん達の仕業なの!?」
「結莉達は関係ない。俺がやったことだ」
信じてもらえないならもう一度再現してやろうか?と結が言う。
結の親はその日も呼び出された。
結の母親もあまり気にしている様子はない。
「あら、旦那様に似て強くなってきたのね」
私達よりも質の悪い母親。
もちろんそれだけで済むほど甘くはない。
「こんなしょうもないことで呼び出さないでください。結の昼食が遅れたらこんな幼稚園吹き飛びますよ!」
言葉通りの意味だろう。
この建物を粉塵に変えてしまいかねないぞ。
結はしょうもない乱闘なんかしても、つまらないからのんびりしてるだけだ。
今日はたまたま気が向いたんだろう。
一度火がついたら私でも止められないぞ。
30分ほど職員と口論した末ついに職員が折れた。
私達は家に帰る。
昼ご飯の前に天音から一言言われる。
「とりあえず蹴りを入れる前に事情くらい聞いとけ」
それだけだった。
(2)
今日は紙芝居を見ていた。
猿と蟹の攻防戦。
猿が蟹の親を殺してムカついた蟹の子供が徒党を組んで袋叩きにして埋める奴。
蟹は美味しいって父さんが言ってた。
ただ、食べるのが面倒だって聞いた。
殻は食べられないらしい。
でも外国には殻ごと食える蟹がいるって図鑑に書いてあった。
猿は食べ物じゃないらしい。
でもテレビで猿の脳みそを食べる国もあるって言ってた。
人間食べようと思えばなんでも食べれるんだなぁ。
味に興味はあるけどグロいのは食べたくないなぁ。
どうして生き物によってグロいのとか美味しそうなのとかあるんだろう。
どこかの秘境では人間を食べる国があるらしい。
まあ、顔がアンパンの男もいるんだから多分いるんだろう。
しかし蟹が仇討ちといえば聞こえばいいけど、単なるリベンジで徒党を組んで袋叩きにしただけじゃないだろうか。
ウサギがタヌキをぶっ殺す話も前に紙芝居で聞いた。
この前茉莉がFGとかをボコボコにして怒られていたけどどうしてだろう?
世の中というのは不思議なことだらけだ。
まあ、そんな事を考えていても仕方ない。
もうすぐ帰る時間だ。
帰ったらお昼ご飯が待っている。
母さんが作るラーメンはとても美味しい。
お店だと豚骨ラーメンだけど、家だと味噌ラーメンに卵が入っているのが大好きだ。
早く帰りたいなぁ。
そんな事を考えながらせっせと掃除をしていた。
茉莉と菫は箒を持って遊んで注意されているけど。
背中の薪に火をつけるのは許されるのにどうして掃除用具で人を叩くのはダメなんだろう?
「結は掃除を真面目にするんだね」
茉奈がそう言ってきた。
「だって早く済ませないと家に帰れないだろ」
「そんなに家に帰りたいの?」
「お腹空いた」
「私と会えなくてもいいの?」
「明日会えるだろ?」
「そうだね」
そんな会話をしながら叱られている菫と茉莉の話を聞いていた。
そして帰る時間になると靴を履いて茉奈と手を繋いで帰る。
いつも通りのはずだった。
だけどその日はなぜか目にしてしまった。
皆友達と帰っているのに一人で帰っている男の子を見ていた。
「とーやどうしたの?」
結莉が聞くとその男の子を指差した。
「ああ、東山芳樹君だよ」
結莉が教えてくれた。
天音の高校時代の友達の息子らしい。
親はパティシエという仕事をしているらしい。
洋菓子の職人。
お菓子食べ放題なのかなぁ?
いいなあ。
友達になっておいて損はしないかもしれない。
早速東山君に声をかけてみた。
「あ、片桐君どうしたの?」
「どうして一人で帰ってるの?」
「まだ友達いなくて」
「じゃあ、俺が友達になるよ」
東山君は考えている。
「心配しなくても東山君のお菓子とったりしないから」
「え?」
あれ、違うのか?
「まあ、いいじゃん。親が知り合いなんだし私達といて損はないぜ」
色々厄介事を起こす茉莉が言った。
「そんな恐喝とかしないから心配するな」
朔がフォローしていた。
むしろ友達に手を出した奴は炭に変えてやれと天音が言ってた。
「そういう事ならお願いします」
そうやって芳樹君と友達になった。
一緒に帰って家に着くと別れる。
家に帰ると美味しい味噌ラーメンの匂いがしてきた。
「着替えてからが先。ちゃんと洗濯機に洗うものは入れなさい」
母さんに言われたとおりに着替えて脱いだものを洗濯機に入れる。
食べ終わった後は母さんとテレビを見ながら今日あった事を話した。
理由があったら袋叩きにしていいのは人も動物も一緒なのだろうか?と聞いていた。
「そういうのをね、勧善懲悪っていうの」
悪い奴を懲らしめる為なら何をやってもいいという日本人が好む思考。
だけど相手も相手なりの理由があるから戦争になる。
だからといって自分に譲れない理由があるなら戦いなさい。
争いが無くなる日なんて絶対にない。
勝ち取るものをしっかり勝ち取って失くせない物をしっかり守っていかなければいけない。
自分たちに手を出しても割に合わない。
最低限そのくらいの恐怖を相手の心に植え付けないといけない。
そうしないと自分を守れなくなる。
「ご飯だってそうでしょ?」
動物は餌を求めて狩りをする。
人だって食用に動物を育てる。
お金がないと買えない。
仕事をしたりしないといけない。
僕達がご飯を食べられるのは父さんが働いているから。
仕事だって同じだ。
待っているだけじゃダメ。
自分から奪い取ってくるくらいの気持ちでいないといけない。
人生自体が戦いなんだ。
そのくらいで段々眠くなってきた。
「まだ結には難しい話かな」
そう言ってママが「寝るならちゃんとタオルケット掛けてからにしなさい」というので昼寝をしていた。
起きてからリビングでおやつを食べる。
「結。東山君とお友達になったの?」
母さんが聞いてきた。
「そうだけど?」
「天音の友達の子供ってのは知ってるんでしょ?」
「茉莉がそう言ってた」
「あの店さ、地元でもかなり有名な店なんだよね」
「え?どんなお菓子!?」
ポテトチップスって工場で作ってるってきいたけど、そんな大きな工場あったっけ?
「そういうお菓子じゃなくてケーキとかだよ」
母さんが教えてくれた。
「やっぱり結には色々食べさせないとだめね」
愛莉がそう言って笑っていた。
(3)
今日は雨だった。
まあ、外で暴れて汚すと天音に怒られるからしないけど。
部屋の中で相変わらず菫と戦闘していた。
しかし雨が降っているから皆部屋の中にいる。
「結は海とプールどっちがいい?」
「海」
「どうして?」
「プールにはお魚いないから」
「そっかあ、じゃあ来月楽しみだね」
海の日にキャンプに行くから。
「でもあの海お魚いなかったよ?」
「もっと深い所に行かないとお魚はいないんだよ」
「そうなんだ。マグロとかいるのかな?」
「それは多分私達じゃ手に負えないよ」
雨の日だろうと関係なくいちゃついてる……んだろうカップル。
「あのさ、ちょっといいかな?」
私の彼氏の朔が私達を止めた。
「どうしたの?」
そうすると朔は芳樹ともう一人男を連れて来た。
「そいつ誰?」
「ああ、朝倉瑛斗」
芳樹がそう言って英和を紹介した。
「そいつがどうかしたの?」
暗殺して欲しいとかならしてやってもいいぞ。
違うみたいだった。
好きな人がいるから手を貸して欲しい。
誰だ?
結莉だった。
ああ、一緒にいるからか。
「で、何すればいいの?」
菫も興味があったみたいだ。
「メッセージを伝えて欲しい」
こいつは馬鹿じゃないのか?
「ふざけるな!本人が伝えないと意味ねーだろ!」
見た目はそんなに悪くないのにどんなチキンだ。
「あ、やっぱりだめだよね。ごめん」
そう言って立ち去ろうとする瑛斗の腕を掴んだ。
「次は逃げようってか?あんまり人を馬鹿にしてると殺すぞ!」
雨でイライラしてるのにふざけた事言うな。
そのまま瑛斗を結莉の下へ引きずって連れていくと琴音の前に突き出す。
「茉莉、どうしたの?」
結莉が聞いた。
「ほら、後はお前が言うだけだ。逃げようとしたら本気で殺すぞ」
「道具がないから首をへし折ればいいのか?」
菫とそんな相談をしていた。
結と茉奈もこっちを見ていた。
秋久もこっちが気になったようだ。
あいつは大体一人で黙々と本を読んでいる。
暗記でもするつもりかと思うほどずっと繰り返して読んでいる。
単にやる事が無くて暇らしいけど。
「瑛斗、俺もそう思う。やっぱり自分の口で伝えないと伝わらないぞ」
朔が言うと結莉も気づいたみたいだ。
「朝倉君。私も朝倉君の言葉で教えて欲しい。どうしたの?」
やっと瑛斗も覚悟と決めたらしい。
「僕、石原さんの事が好きです。良かったら付き合ってください」
瑛斗の馬鹿は周りに園児がいるのにも関わらず思いっきり叫んでいた。
でもそのくらいがいい。
恥をかくなら思いっきりかけ。
ダメだったら泣けばいい。
そんな涙を馬鹿にする奴がいたら私がぶっ殺してやる。
そしてそんな勇気を持った奴だけが恋愛の神様は微笑むんだ。
さすがに結莉も少し恥ずかしかったらしい。
まあ、普通はそういう年頃だよな。
だけど、にこりと笑って結莉は答えた。
「私を選んでくれてありがとう。よろしくお願いします」
どうせまだ3歳だ。
友達と恋人の差なんてそんなにない。
だから少しずつお互いの事を知っていけばいい。
時間は無限に近い程あるのだが。
ここまでだったらいい話で終わっていた。
まあ、この歳だから仕方ないんだろう。
周りのガキどもが騒ぎ出す。
「お前ら好き合ってるのか?」
「ちゅーとかするのかよ。早くしろよ」
そう言って囃し立てる。
しかしそんな馬鹿はすぐに後悔することになる。
こんな2人を馬鹿にする奴を許すほど結は大人しくない。
玩具で遊んでいた奴が悲鳴を上げる。
玩具が炎上したから。
「何がそんなにおかしいのか教えてくれないか?」
だから何度も言って来ただろうが。
結を怒らせると建物が物理的に破壊されるぞと。
結が立ち上がってそいつらに近づく。
ありとあらゆるものを粉々にする”破壊”の能力。
結莉も持っている能力だ。
2人を冷やかしたあげく、結の時間を台無しにした。
その対価を払えと言わんばかりにゆっくりと近づく。
幼くてもその怒気はお化け屋敷がメルヘンに思えるくらいに恐怖を感じただろう。
泣き出すガキ共。
加えて結が放った炎が燃え上がり火災検知器が作動して非常ベルが鳴る。
慌てて保母さん達が来てその惨状を目の当たりにする。
「また、茉莉の仕業!?」
「ちげーよ!!」
私だったら土砂降りの庭にガキどもを殴り飛ばす程度で済んでいた。
しかしガキ共は絶対に怒らせたらいけない人間を怒らせた。
それは保母さん達が止めても無駄だ。
下手すると保母さんをも殺しかねない。
私達も結に落ち付くように説得する。
するとやれやれと朔が動く。
炎が消えた。
後は結の怒りの炎を鎮めるだけだ。
「茉奈!こういう時は茉奈の役目だよ」
そう言って結莉が茉奈に耳打ちする。
「……やってみる」
ぽかっ
茉奈は冬夜のおでこを小突く。
「結、怒られるとまたお昼ご飯遅くなるよ」
茉奈がそう言うと結は部屋の隅に行って茉奈と話を再開した。
それで収まるわけがない。
しかしそれで解決したわけじゃない。
美希が呼び出される。
「結が怒り出すなんて何をしたんですか?」
美希も疑問に思ったらしくて保母さんに事情を聞いていた。
保母さんは事情を説明する。
「結、やり過ぎだよ。火事になったら大事でしょ」
そういって美希が結を小突いた。
「お母さん、そういう問題ではなくてですね」
「私はあなたの母親になった覚えはありません!」
そう言って美希と保母さんの間で口論が起きる。
どんなに美希を説得しようとそんな事が出来るのは恵美達だけだろう。
「お願いですからもう少し穏やかにお願いします」
そうやって美希に頭を下げる保母さん。
とはいえ、「幼稚園を燃やすな。破壊するな」くらいしか2人に注意は無かった。
「手をつなご?」
意外に結莉の方が積極的らしい。
当然結と茉奈も手をつないでいた。
……そういうのもたまにはいいかもな。
「朔、私達もやるか?」
「いいの?」
「手も繋げない彼氏なんか私はいらないぞ」
そう言うと照れくさそうに手を差し出す朔。
「私も彼氏作ろうかな~?」
そう言って菫と陽葵が笑っていた。
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