姉妹チート

和希

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闇に蠢く

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(1)

 まずい。
 このままでは間違いなく夕食に間に合わなくなる。
 僕は接客対応をしていた。
 名前を考えるのが面倒なくらいの人間が来て、来年の知事選の票集めをお願いしたいと来た。
 いくら僕が総帥とはいえ株式だ。
 ナンバー2くらいはいるだろう。
 多分思い付きで考えたんだろうけど。
 そのナンバー2が頼まれて今日連れて来た。
 しかし渡辺班はずっと森重清太を支持している。
 酒井グループだけ裏切るなんて真似出来るわけない。
 丁重にお断るするけど中々引き下がらなかった。

「どうせ今度の知事選には森重知事は出馬できませんよ」

 それは多分ないはずだ。
 まだ十分現役のはず。
 80や90で国会議員をやってるのに森重知事はまだ若い方だ。
 それに十分人気もある。
 20年近く続けているのだから。
 それは人気じゃなくて4大グループが後押ししてるとなれば当然だろう。
 しかいその言葉がひっかかる。

「どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味ですよ」

 そう言って謎の男はにやりと笑う。
 こういう時嫌な予感がするのは酒井家の人間だからだろうか。
 この男に関わってはいけない。
 僕の勘が全力でそう言っている。
 
「これからは我々が県政を担っていくのですよ?我々に敵対したら都合が悪いんじゃないですか?」

 公共事業などを一切まわさないぞ。
 暗にそう脅迫しているのだろう。
 そんな脅迫をする人間なんでろくな奴じゃない。
 第一そんな真似をして晶ちゃんを怒らせたら、すぐに県知事の首のすげ替えくらいするだろう。

「これ以上話しても無駄です。お引き取りを」
 
 そう言うと相手の表情が変わる。
 
「家族を危険に晒す真似をお好みですか?」
 
 その一言が致命的だった。

「僕達を脅すならどうぞご勝手に。それで後悔するのはあなた方です」

 下手に晶ちゃんを刺激して怒らせたら僕でも止められないよ。

「僕も色々忙しいんです。お引き取り下さい」

 すると僕を睨みつけて帰って行った。

「大丈夫なのでしょうか?」

 秘書の佐瀬さんが言う。
 
「念の為ナンバー2を調べてくれないかい」
「承知しました」
「じゃあ、僕はもう帰るよ」
「はい」

 今日はクリスマスイブ。
 早く帰らないと晶ちゃんの機嫌を損ねる。
 しかも県知事選の話をしていたなんて知ったら、あの男多分海に沈むよ。
 急いで帰る。

「あら?早かったのね。私は準備出来てるから善君急いで」
「ああ、そうするよ」
 
 そう言って江口家のパーティに行く準備をする。
 ……やっぱり気になるな。
 石原君に個チャを送ってみた。

「酒井君の所にも来たんですね」

 やはり石原君の所にも来たか。
 パーティであった時に少し相談しよう。
 どうも嫌な予感がする。
 
「善君。まだ準備出来ないの?」
 
 早くしないと間に合わないわよと晶ちゃんが言う。
 慌てて仕度した。
 江口家の送迎が来ていた。
 江口家のパーティも来賓が変わって来た。
 渡辺班の者がかなり来るようになった。
 理由は簡単。
 
「雑魚の相手なんかしても折角のクリスマスが台無し」

 そんな恵美さんの理由で招待客を替えていた。
 大丈夫なのだろうか?
 子供達はもう自分の彼女と過ごしているだろう。
 それはそれで寂しいけどね。
 まあ、片桐君達と飲んで紛らわそう。

「で、会社で何があったの?」

 晶ちゃんも勘が鋭いようだ。
 僕が悩んでる事くらいすぐに見抜いてしまう。
 下手に隠し事しても仕方ない。
 今日の突然の訪問客の事を話した。
 幸い時間通りに帰れたから訪問客の命は助かったようだ。

「森重先生に何かするつもりなのかしら?」
「晶ちゃんでもそう思うかい?」
「それは善君だけなの?」
「石原君の所にも来たみたいだ」

 僕達のグループを引き抜けば十分票を覆せるからね。

「命知らずの馬鹿もいたものね」

 ああ、やっぱりあの人達長生きできない気がする。

「それにしても森重先生に何をするつもりなのかしら」
「わからない。用心するようには知らせておいた方がいいかもしれない」

 そんな話をしていると江口家の本家に着いた。

「あ、酒井君。いらっしゃい」

 石原グループの総帥の石原望君とその妻の恵美さんが来た。

「さっきの話の件だけど……」

 暗い話題は先に片づけておいた方がいいと思ったのだろう。
 
「その話なら僕も混ぜてもらおうかな」
「あ、俺も混ぜてもらうっす」

 そう言って片桐君と公生と晴斗が来た。
 3人の会社にも現れたらしい。
 盤石だった県政を壊そうとする命知らずがいる事ははっきりした。

「そんな雑魚放っておけばいいんじゃない。何かしたら潰してやる」

 すました顔で恵美さんが言う。
 恵美さんが出てきたらもう子供達のSHよりひどい反撃が待っている。
 渡辺班はそういう面倒事はもう子供に任せようと極力動かないようにしている。
 
「で、指揮官様はどう考えてるの?」

 公生が片桐君に聞いていた。

「まあ、どっちかとは思うんだけど……判断材料がなさすぎる」

 勢力の規模で考えたらアルテミス。
 しかし渡辺班に復讐したいのならリベリオン。
 しかしリベリオンだと一つ疑問が浮かぶ。
 わざわざそんな情報を僕達に与えるメリットがあるのか?
 アルテミスならそれは理由が推測できる。
 彼等の目標は復讐じゃない。
 勢力の拡大。
 だったら僕達を取り込みたい。
 そう考えるのは自然だ。

「って事はやはりアルテミス?」
「そう考える方が自然な気がするね」

 石原君が聞くと片桐君が答えた。

「でも一番気をつけなきゃいけないのはどうやって森重知事を引きずり落とすつもりなのか?」

 4大企業だけが支持しているわけじゃない。
 地元銀行だって同じだ。
 それに若者のような浮動票もしっかり獲得している。
 国政に進出しないのが不思議なくらいだ。
 僕が考えたように年もまだ若い方だ。
 彼が立候補しないというのはまずないだろう。
 まともにやりあっても勝てる相手じゃない。
 なら……。

「なら?」

 晶ちゃんが聞いていた。

「……力づくで立候補させないようにする」

 片桐君がそう言った。
 もっともその手段が分からないらしい。
 子供だってもう大人だ。
 誘拐なんて無謀な事はしないだろう。
 ならどうする?

「その感じだと片桐君は想像ついてるみたいだね」

 公生が言うと皆が片桐君の顔を見る。

「まあ、相手は裏の顔もあるしね」
「そういう事ならとりあえず森重先生には警護とつけた方がいいわね」

 恵美さんがそう言う。
 
「こっちから出向いてアルテミスとやらを潰すのはだめなの?」

 晶ちゃんが片桐君に聞いていた。

「誰を潰すの?」

 アルテミスとやらの正体はいまだ分からない。
 顔を見せるとしたらその県知事選の時だろう。 
 それでは手遅れかもしれない。
 だって”立候補できない”と言ってるのだから。

「まだまだ現役引退はさせてくれそうにないですね」

 石原君はため息をついた。

「そいつの名前教えてくれないか?俺も調べてみるよ」
「そうだな。地元に拠点があるならあぶりだすことは出来るかもしれない」

 多田君と檜山先輩が来た。
 石原君が名前を教えていた。

「年末の年越しパーティの時には調べておくよ」

 知事選の公示は2月。
 まだ十分時間はある。
 先に仕掛けられるなら潰してしまおう。

「ところで天音ちゃん達は?」

 恵美さんが聞いていた。

「あの子達も家庭があるからね。こういう大人の場所にはまだ早いでしょ」

 片桐君の家でパーティをしているはずと片桐君が言っていた。
 善明はまた家で悲惨なイブを迎えているんだろうな。

「それはそうと酒井君の家はめでたい事が続いて順調じゃないか」

 片桐君は話題を変えた。
 今話せる事は話した。
 そう判断したのだろう。

「そうね。まさか立て続けに来るとは思わなかったわ」

 晶ちゃんがそう言って微笑む。
 
「そういう事なら俺達は酒井の相手をしてやろうじゃないか」

 渡辺君が言う。

「そういう事は男だけでするのはダメっていつも言ってるでしょ!」

 愛莉さんが言うと女性陣が笑う。

「そういう話なら私もあるんだ。遊のやつ笑えるくらいに琴音に振り回されてるみたい」

 亜依さんが笑っていた。

「恋の時はそんな事なかったんだけどな」

 瑛大君が不思議そうに言う。
 遊は子供に揶揄われてるんじゃないかってくらいに困って瑛大君に相談してるらしい。
 相談相手を間違えてる気がするのは僕だけかい?

「うちは学がしっかりしてくれてるみたいだ」

 水奈よりも子供の扱いが分かってると神奈さんが話していた。
 みんな子供の育児に自分の経験を重ねているのだろう。
 とても穏やかな話題だった。

(2)

「ですから、その話はこれ以上しても不毛なのでお引き取り願います」
 
 秘書の佐瀬さんが電話応対で苦戦している。

「どうしたの?」
「いえ、総帥から聞いていた件でしつこいので……」

 父さんからあらかじめ忠告は受けていた。
 来年の県知事選の話だろう。
 相手にする必要は無いと聞いている。
 だから受付で門前払いをしようとしているのだけど引き下がらない。
 佐瀬さんが見ているモニターを覗く。
 いかつい格好でサングラスをした人間が受付でごねている。
 やれやれ……。
 こういう事を会社でやりたくないんだけど。
 僕はスマホで連絡しながら佐瀬さんに「それ切っていいよ」と伝えた。
 その後は黒いスーツを着た人間が絡んでる男を引きずっていく。
 とりあえず大丈夫だろう。

「会長、そろそろお時間です」

 腕時計を見ると確かにその様だ。

「じゃ、あとよろしく」

 そう言ってまっすぐ家に帰る。
 家に帰ると「いい加減にしてください!」と翼の怒鳴り声が聞こえる。
 何かあったのだろうか。

「ただいま」
「あ、お帰りなさい」

 そう言いながら翼は電話を切っていた。

「電話誰から?」

 まさか浮気したとか言わないよね?
 そんなことしたら僕が母さんから怒られる。

「善明が翼に構ってやらないからそういうことになるんでしょ!」
「それが……」

 翼の様子が変だ。

「……秋久と陽葵達は?」
「ちゃんと席で善明さんの帰りを待ってますよ」

 だから僕も早く着替えてきてくださいな。
 翼がそう言うから着替えてダイニングに向かう。
 席について食事をしようとした時だった。

「先に善明に相談が……」

 やっぱり何かあったのか。

「どうしたんだい?」

 家に脅迫の電話が来たらしい。
 無謀な真似をしてくれるよ。
 母さんが家にいなくてよかった。

「どんな脅迫?」
「森重知事の後援をやめろって」

 その話か。

「無視していいよ。一応父さんには知らせておく」
「はい」

 そして食事をして風呂に入る。
 今年は翼も先に風呂に入ってからにした。
 秋久だけがさっさと寝てしまう。
 無駄な事はしたくないのだろう。
 僕達は翼が借りて来たDVDを見る。

「美希や……これ陽葵達の前で観てもだいじょうぶなのかい?」
「人形劇くらい大丈夫なんじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけど……」

 これR-18だよ?
 中身も酷い物だった。
 正義の味方のアメリカがテロリストを退治するためにエッフェル塔をミサイルでぶっ飛ばしたり、やりたい放題の映画。
 内容を説明してたら説明文だけでサイトから注意を食らいそうなので止めておくよ。
 最後は某国の総書記がゴキブリになって宇宙に逃げ出すというストーリー。
 どうしてこの映画を選んだのか理解できない。
 ただ人形の首が吹き飛んで血が出るさまを喜んでみている菫が怖かった。
 映画が終ると陽葵達も眠りに着く。
 2人をどんなキャラにするつもりなのか策者に不安を覚える。
 大人しい素直な娘に育って欲しいけど多分駄目だろう。

「善明は毎年イブになると険しい顔をしてるね」

 何が悩み事があるのですか?と翼が聞いてくる。
 
「あの子達……僕達の手に負えるのかな?」
「大丈夫ですよ。秋久も陽葵と菫も段々手がかからなくなってきたし」

 そろそろもう一人作ってもいいんじゃないかと思ってるそうだ。
 僕としてはあの3人を育てるだけでも苦労しそうな気がするんだけどね。
 翼は納得してくれたのか分からないけどこう言った。

「じゃあ、言い方を変えるね。あの子達もう自分1人で寝れるようになりました」
 
 だから翼も少しは僕に甘えたい。
 翼もまだ年頃の女性だから仕方ないんだろうな。

「そのくらいはするよ」

 ただ育児と家事で忙しそうだったから誘いづらかっただけ。

「善明も男性なんだね」
「そりゃ翼と結婚するんだから当たり前だろ」
「それもそうだね」

 そう言ってリビングの照明を消すと寝室に行く。

「今度の年越しパーティ楽しみですね」

 最近皆と会ってないから翼は楽しみらしい。

「とりあえずは今の楽しまないかい?」
「はい」

 もちろんあの映画みたいに部屋中ティッシュだらけになるような事はしなかったよ。
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