姉妹チート

和希

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四季の始まり

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(1)

「お疲れ様」
「ありがと」

 きーちゃんは出産する間ずっとそばにいてくれた。
 必死に励ましてくれた。
 そして私達は2人の子供を授かった。
 男の子と女の子の2人。
 今疲れを癒す間もなく2人に乳を与えている。

「男の子と女の子。両方名前考えていてよかったね」
「そうだな……」

 まさか二つとも使うとは思わなかったときーちゃんは笑っている。
 ずっと2人で考えていた名前。
 男の子は恭一。
 女の子は珠希。

「しかしいいタイミングだったね」
「まあ、聞いていた予定日通りだったけど」
 
 ちょうどお盆だからきーちゃんもずっと側にいてくれた。
 きーちゃんの親も来て勝次や加奈子も祝いに来てくれた。

「赤ちゃんいいな~」

 珠希を抱きかかえて羨ましそうにしている加奈子。

「勝次も抱いてみたら?」
「し、しかし……」
「構わん。抱いてやれ」

 きーちゃんがそう言うときーちゃんが恭一を勝次に渡す。
 きーちゃんが勝次に抱き方を教えていた。
 きっと天音とかが見てたら爆笑するだろうと密かに動画をとってSHのグルチャに流していた。
 反応が早かった。

「てめぇ、いい加減にしろ!私を笑い殺すつもりか!」
「勝次が父親になったら加奈子苦労するぞ!」

 天音と水奈がそう言って笑っている。
 しばらく入院すると退院の許可が出る。

「がんばってね」

 看護師さんがそう言ってくれた。
 きーちゃんは地元で車を買った。
 多分家族が増えるからだろうとミニバンを買っていた。
 そして二人の為にチャイルドシートを準備している。
 
「双子って聞いた時は慌てたよ」

 きーちゃんは運転しながらそう言っている。
 恭一と珠希は初めて我が家に訪れる。
 ちゃんとベビーベッドも買っていたようだ。
 2人とも大人しくしている。

「珠希は環奈に似ているな」
「だったら恭一はきーちゃんに似てるんだろうね」

 私達みたいなのを親バカというのだろうか?
 この子達の将来を考えている。
 専務達も家に訪ねて来た。
 珠希を見て思うところがあったみたいだ。

「まあ、この子に自我が芽生えた時にでも相談しましょう」

 専務はそう言った。
 まだ物心もない珠希の将来を勝手に決めるのは間違っていると思ったのだろう。

「ところで喜一。あなたの会社はどうなの?」
「まあ、多分志水建設と同じだと思います」

 SHのグルチャは一応見ていた。
 きーちゃんが「出産するまでは聞かせたくない」と言っていたけどやっぱり気になる。
 きーちゃんの家の建設会社や志水建設の現場に出入りする物騒な車。
 現場で暴れているらしい暴力団らしき人間。
 建設を止めるようにと脅迫する電話。
 下請けの会社にも嫌がらせをして手を引くように脅している。
 しかしきーちゃんの会社も志水建設もその程度で仕事を投げ出すような下請けを抱えてはいない。
 そんな脅迫よりも恐ろしい報復が待っている。
 会社を守るか命を守るかの決断を迫られているそうだ。
 やっているのは原川組。
 FGを支配する影のグループ。
 もちろんやられっぱなしじゃない。
 SHの親が集まる渡辺班が介入する事態になった。
 実家に砲撃したらしい。
 それ以来大人しくなった。
 だけどやっぱり影で色々圧力をかけている。
 今までは母体が何かしらの企業だったから圧力をかけて潰すことも可能だった。
 だけど今回は裏社会が相手だ。
 どう対策していいか分からない。

「でも環奈は赤ちゃんの事だけを考えなさい」

 専務はそう言う。
 私が仕事に復帰したら子供には警備をつける。
 そこまで長引かせたりしない。
 志水グループは中華マフィアを一つ壊滅させるほどの力がある。
 
「そんなに死にたいならすぐに殺してやる」

 渡辺班の中心人物はそうメッセージを伝えたらしい。
 そこからは大人の戦争。
 志水グループが関与する裏グループを利用して潰しにかかっている。

「それにしても良い名前ですね。珠希というのは環奈が考えたの?」

 社長が聞いてきたので違うと答えた。
 珠希の名前はきーちゃんのアイデアだった。
 女の子だったら私の名前を少し使いたい。
 環奈という名前の環という字は「たまき」と読む。
 だから珠希。

「へえ、喜一にしてはセンスいいじゃない」
「ありがとうございます」

 だけど社長は笑みを浮かべて一言言う。

「喜一は珠希がお気に入りみたいだけど、覚悟しておいた方がいいよ」

 小学生の高学年にもなれば反抗期に入る。
 しかも父親なんて近寄りたくないと思いだす。
 その時に凄く寂しい事になるから。

「まだ生まれたばかりの赤ちゃんの前で言う事じゃないわよ。望」
「そうだね。じゃ、もう一つ忠告しておくよ」

 社長が言う。
 珠希がいつか作る彼氏は間違いなくきーちゃんを理想とした男の子だ。
 もしろくでもない奴を連れて来ても決して娘を叱ってはいけない。
 そんな事をしても逆効果だ。
 ムキになって反発されるだけ。
 その子が珠希から見た父親なんだ。
 戒めるのなら自分が反省しなさい。
 そうならないように自分が理想の父親であるように努力しなさい。

「……って恵美から言われてね」

 社長は笑っていた。

「決して頸動脈を絞めるなんて馬鹿な真似したらダメよ。きっと珠希はその彼氏を庇うだろうから」

 そうなって寂しいのはきーちゃんだけだ。

「分かりました」
「恵美、あまり長居しても2人に気を使わせるから」
「そうね。陽葵たちもちょっと様子見たいし」

 そう言って2人は家を出た。

「まさかもうそんな覚悟をしないといけないとはな……」

 きーちゃんはそう言って笑っていた。

「大丈夫だよ。きっと素敵な彼氏を連れてくるから」
「だといいんだけどな」

 保証するよ。
 これは恋物語。
 そして私がきーちゃんに出会えたのだからきっと素敵な出会いが珠希に待っている。

「恭一はどうなのかな?」
「ちょっと夢があってさ」

 天音が話していたらしい。
 恭一が大人になったら一緒に酒を飲みたい。
 それが父親の夢なんだそうだ。
 そんな幸せな人生が私達を待っている。
 そう信じていた。

(2)

「あ、志希いらっしゃい。ちょっと待っててね」

 そう言って冬莉の母さんが冬莉を呼んでいる。
 冬莉が2階から降りて来た。
 そして僕の荷物を見て驚いていた。

「そんなに本格的にするの?」
「そこまでじゃないよ」

 それならスタジオ借りた方がいい。
 驚いたのはギターとアンプを担いでいたからだろう。

「ま、いいや。上がって。案内するから」

 そう言って僕は冬莉に部屋を案内してもらう。
 その部屋だけ防音工事をしているのだそうだ。
 部屋には大量の漫画とゲームソフトと大きなベッドがあった。
 冬莉が一緒だからどうしてもベッドを意識してしまう。
 そんな僕に気づいた、冬莉が笑みをこぼす。

「ダブルだから大丈夫だよ」
 
 何が大丈夫なのか分からないけど「そうなんだ」と返した。

「他人事みたいに言わないでよ。今夜の準備してきたの?」

 当然している。
 きっと冬莉も準備万端なんだろう。
 偶に冬莉の父さんとメッセージをしている。

「片桐家に関わると女性には絶対に逆らえない。諦めなさい」

 そんな文章もあった。
 とりあえずバッグを降ろすと器材を用意する。

「何してるの?」
「ノートPCを起動させて……」

 マイクを繋いであとアンプにギターを繋いで出力をノートPCにして録音する。
 冬莉はマイクも想像以上の物でびっくりしたみたいだ。
 ヘッドセットなんて物じゃない。
 ちゃんとしたマイクを買っておいた。
 ギターも興味あったみたいだ。

「弾いてみてよ」

 ギターの準備を済ませると冬莉が言った。
 エレキだからアンプやエフェクターを使わないと良い音が出ない。
 さらに言うとスピーカーにも繋ぐ必要がある。

「この部屋防音大丈夫なんだよね?」
「うーん。そういう事には使った事無いから分からないけど多分大丈夫なんじゃない?」

 愛莉が声がデカいから工事したと冬莉が説明した。
 隣の部屋に茜がいるから取りあえず鳴らしてみて。
 後で茜に聞いてみる。
 冬莉が言うのでとりあえずチューニングをしてから音をならず。
 あまりの音量に初めの冬莉はびっくりしたみたいだ。
 そりゃ、寝るだけの声とは比較にならないよ。

「ちょっと待っててね」

 冬莉が部屋を出る。
 しばらくして戻って来た。

「何も聞こえなかったって」

 大丈夫みたいだ。
 次にバッグに入れておいた楽譜と歌詞を冬莉に渡す。

「分かるかな?」

 分からなかったら僕が事前に準備したデモテープあるからそれを聞かせようと思っていたけど。

「片桐家の人間を甘く見たら駄目だよ」

 音楽の授業なんて意味分からないから寝てるけど楽譜くらい理解できるよ。

「じゃあ、軽く練習してみようか」
「おっけー」

 すると僕はギターを持って前奏から入る。
 冬莉の言っていたことは本当みたいだ。
 一音も外す事無く見事に歌っていた。

「今のでいいの?」
「完璧だよ」

 僕はノートPCを操作して録音の準備をする。
 その間に冬莉は僕のギターで遊んでいた。

「音ならないよ?」

 使い方間違ってる?
 そんな事を聞いてきた。
 
「ああ、今音量下げてたから」

 そう言ってボリュームを上げてやる。
 手で弦を弾こうとしてたので慌てて止めた。

「指を痛めるから。これを使って弾くんだよ」

 そう言ってピックを冬莉に渡す。

「どう使うの?」

 多分何となく知ってるんだろうけど、彼氏といちゃつきたい。
 ただそれだけだろう。
 冬莉に応えてやる。
 持ち方を教えてギターの構え方を教えた。
 コードの押さえ方はやっぱりわかっていたみたいだけど「わかんな~い」と甘えてくる。
 簡単なコードを教えてやるけどネックの太さが女子の冬莉には合わないからFコードなんかは結構厳しい。

「興味あるなら女性用の細いネックのギター買う?」
「そこまで本格的にやるつもりないから」

 でもギターを弾く彼氏ってなんかかっこいいね。
 そう言って冬莉は笑っていた。
 準備が終ると本番に入る。
 冬莉も大丈夫みたいだ。
 一発撮りでいけるはず。
 いけた。
 録音を終えると確認で再生してみる。
 
「これさ……私の声もだけど……しっかり志希の声と合ってるね」

 冬莉でも分かるらしい。
 そりゃ僕が作曲した歌だからね。
 一発で成功した曲にあらかじめ用意しておいた画像を合わせていく。
 冬莉をベースにしたロックな感じの女の子。
 髪の毛は紫色のツインテールにしておいた。

「こういう女の子が志希の趣味?」
「冬莉をイメージして後はウケそうな服装にして見た」
「ツインテールが好きなら髪伸ばさないといけないんだけど」
「いいよ。短い方が好きなんだろ?」

 髪を伸ばさない理由は冬吾から聞いてたけど伏せておいた。
 しかしそんな作業に没頭していたら、冬莉がじっとしているはずがない。
 背後から僕に抱きついて来る。

「私に構ってよ」
「この作業終わってからじゃだめ?」
「それだと夕食の時間になっちゃう」

 さっさと済ませるなんて許さない。

「これさ、作業終わったらPCの処理が終るのに結構時間がかかるんだ」

 ネットにアップロードしないといけないし。
 その間なら大丈夫だから。

「まるで私の事はついでみたいな感じだね」
「そうじゃないよ」

 僕だって男だよ。
 彼女と同じ部屋でこんな大きなベッドで寝るんだ。
 多少なりとも欲が出るよ。

「そっか、私に魅力がないのかと思った」

 最近は胸に視線を感じないから不思議に思っていたそうだ。

「それは夏だから」

 薄着だろ?
 どうしてもやらしい目で見ちゃうから意識してみないようにしてた。

「男子って皆そうなの?」
「そりゃ彼女に”エッチ”とか”変態”とか言われたくないし」
「時と場所を考えてくれたら彼氏にくらい許すよ」

 そう言ってる間にやる事は済ませた。
 冬莉はベッドに座って漫画を読んでいる。
 その隣に座って冬莉の肩を抱く。
 冬莉は僕に気づいて僕の顔を見た。

「本当に我慢していたんだね」
「まあね」
「でももう少し我慢しないとね」
「なんで?」

 そう言うと冬莉は時計を指す。

「そろそろ夕食だから」

 愛莉だから大丈夫だけど食事の時間に妙な空気を流したくない。
 冬莉がそう言う頃、冬莉のスマホがメッセージを受ける。
 
「そろそろ夕食ですよ」
「じゃ、行こっか」

 冬莉がそう言って立ち上がる。
 冬莉の家族と食事をするのは何度もあったので慣れてる。
 茜も僕が遊びに来た時は一応服を着ている。
 もっともTシャツにショートパンツだけど。
 若干冬莉より大人びているけど、さすがに冬莉の前で彼女の姉に見とれるなんて、そんな馬鹿な事出来るわけない。
 気づいたらあまり気にしなくなっていた。

「う~ん」
「どうしたの?」

 茜が悩んでいるので冬莉の母さんが聞いていた。

「私も老けたのかな~」
「どうして?」
「私じゃ志希を虜に出来ないみたい」

 男性陣が皆むせていた。

「茜、志希に手を出したら私が許さない」
「そんな馬鹿な真似しないよ。そういうシチュエーションもあるらしいけど」

 姉妹の彼氏を寝取るというやつ。
 もちろん僕も理解できない。

「馬鹿な事言ってはいけません!」
「そう言うのは単純に優劣をつけられるものじゃないよ」

 冬莉の父さんが言っていた。

「どういう意味?」
「例えば僕にとって愛莉が一番だけど、茜が可愛くないというわけじゃない」

 二つのラーメンの店があったとして両方美味しいけど、自分にとってはこっちしかないって思ったら興味がなくなる。
 それはもう一方が不味いわけじゃない。
 好みの問題だと冬莉の父さんが言った。

「でも父さん。それだと一つ問題があるんだけど?」
「どうしたんだ、冬吾」
「いつも同じ店じゃ飽きるんじゃないかな?」
「うーん、そう言われるとそうだね」
「じゃ、志希。冬莉に飽きたら私が相手してあげる」
「茜はいい加減にしなさい!」

 最後は冬莉の母さんが怒り出す。
 夕食が済むと風呂に入る。
 すると冬莉がとんでもない事を言いだした。

「うちの風呂広いからさ。志希一緒に入らない!」

 それ両親の前で言っていいの?
 
「まあ、その方が早いかもしれませんね」

 母親としてそれでいいのだろうか?
 父親の方は冬吾達とテレビを観ていた。

「じゃ、着替え取りに行こう?」

 冬莉が一方的に決めて僕を部屋に連れていく。
 冬莉と一緒に風呂に入る。

「背中流してあげるね」

 冬莉が楽しそうだからいっか。

「この家風呂が広いの理由があるんだって」
「どんな理由?」
「翼と空と天音は一緒に風呂に入っていて、翼がちょっと風呂が狭いって言ったから工事したんだって」

 どこから突っ込めばいいのか分からない話題に反応しながら風呂を出た。
 部屋に戻ると作業が終ってる。
 後はアップロードするだけ。
 それだけ済ませると冬莉の相手をする。
 といってもテレビも置いてないこの部屋だとやる事がかなり限定される。
 彼女と2人っきりで漫画を読むなんて、漫画喫茶じゃない限り無理だ。
 冬莉もその気でいるみたいだから大丈夫だろう。
 
「お待たせ」

 自分の部屋で髪を乾かして来た冬莉がやってくる。
 僕はベッドに腰掛けて待っていた。
 察してくれたのか僕に抱きついて来る。
 冬莉の背中に手をまわす。 
 ブラはつけてないみたいだ。

「どうせそうなるからいいやと思って。それとも外してみたかった?」
「それはいつでもいいだろ?」
「……そんな安い女に見てたの?」
「彼氏にだけ特別なんだろ?」
「わかってるならいいよ」

 冬莉はそう言って僕に体を預けてくる。
 冬莉を支えながらベッドに寝る。

「ねえ、志希」
「どうしたの?」
「あの歌のタイトルなんて言うの?」

 ああ、教えてなかったな。

「believe」
「私達のコンビ名は?」
「……考えてなかったな」
「私のアイデア聞いてくれる?」
「いいよ」
「F・SEASON」
「……どういう意味?」

 僕が聞くと冬莉は笑って答えた。

「fourseasonで四季って意味なんだって」
 
 英語の時間でやってたな。

「でも冬莉のグループでもあるんだよ?」
「だからfourじゃなくてFなんだよ」

 FUYURIのF?
 そうではなかったみたいだ。

「finalseason……四季の最期は冬でしょ?」

 なるほど。

「それでいいと思う」
「気にいってもらえてよかった」

 挑戦するつもりで作った曲と冬莉が何となく決めたグループ名。
 それはのちに凄い成果をだすことになる。
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