姉妹チート

和希

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(1)

「お父さん、ちゃんと見てよ」

 父さんは私を見ようとしなかった。
 どうしたのかな?
 私は今純白のドレスに身を包んでいる。
 大学も卒業がほぼ確定したころ恋人の要からの突然のサプライズ。
 それから母さんにだけ伝えて地元に戻ったらすぐ式を挙げるように手配してもらった。

「恋がちゃんと頑張ったから神様がご褒美をくれたのね」

 母さんが言うけど私は首を振った。

「褒美をくれたのは神様なんかじゃない。要だよ」

 要も私を見て喜んでくれるかな?
 それにしても父さんは全く私を見ようとしない。
 そんな父さんを見かねて、母さんが父さんに声をかける。

「娘の晴れ舞台だぞ。いい加減に覚悟を決めろ」

 すると父さんは私を見た。
 私を見た瞬間目から涙がこぼれていた。

「本当にしょうがない父親だな」

 母さんはそう言って笑っていた。
 そんなに喜んでくれてるんだって私には思えた。
 だから私も嬉しいよ。父さん。
 一時は父さんの事を軽蔑してくれていたけど、父さんは私達の為に一生懸命頑張ってくれてたんだよね。
 今の私がいるのはお父さんのお陰だよ。
 だから父さんに言って欲しいの。
 たった一言でいいから。
 父さんは小さな声で言ってくれた。

「おめでとう、綺麗だよ」
「……私父さんの自慢の娘でいられたかな」
「当たり前じゃないか」
「今までありがとう」

 その後父さんとヴァージンロードを歩く。
 要に手渡すときに「娘をおねがいします」と要に言っていた。
 披露宴では千帆や姫乃も「お姉ちゃん綺麗」と言ってくれた。
 SHを代表して翼と空が着てくれた。
 学と水奈、遊となずなも来てくれた。
 他の皆とは2次会で騒ぐ予定だ。
 余興などもありながら挨拶を受けていた。
 最後に両親に今までのお礼を告げる。
 父さんはやっぱり泣いていた。
 母さんが叱っている。
 2次会の会場に行くと久々に会う友達とかと一緒に騒いでいた。
 失恋した春山リリーは来て居なかった。
 SHを止めた事は知っていたけどどうしてだろう?
 失恋したらSHにいちゃいけないなんてルールはないはず。

「恋は知らないだろうから教えてやる……SHのテーマソングだ!」

 如月天がそう言って歌い始めると恋人の酒井繭が天の頭を小突いていた。

「天、それを会社の飲み会でもやってるんじゃないでしょうね!?」

 会社の社長がこんな歌を歌いだしたら大事件だ。
 通常は平社員とかで経験を重ねて他の人より出世スピードが早いだけなのに4大グループはそうは考えていない。
 中途半端なポジションに置いてトラブルが起きると面倒な事になる。
 如月グループだって同じことだ。
 だからいっそ頭に置いて何もさせない方がいい。
 そう考えているのだろう。
 しっかりした集団は頭はただ指示を出すだけでいい。
 細かい事は下っ端に任せておけばいい。
 それはSHも同じようだ。

「空の王がたかだか雑魚相手に一々動くな」

 空がSHの意思を決めてそれを忠実に遂行する強固なグループになっていた。
 もちろん空に実力がないわけじゃない。
 2月の事件の事は遊から聞いていた。
 もう空は規格外の能力を持っている。
 学の世代では間違いなく最強の人物。
 だけどそんな最強の人物が一々出てこないと解決できないと舐められるのを嫌った。
 だから「空は動くな、俺達で十分だ」と光太達が動くんだそうだ。
 もちろん光太や学、大地や善明が動いたらそれだけで損害が発生する。
 しょうもない喧嘩で様々な事が出来なくなる。
 その代償をしっかり清算させるグループだった。

「恋、おめでとう」

 友達の瑞穂や紗奈が挨拶に来てくれた。

「ありがとう。で、次は誰なの?」
「どうだろう?私はまだ聞いてない」

 瑞穂が答えた。
 
「それにしても瑞穂はよく続いたね」

 4年間も違うところにいたら普通は冷めるんじゃないの?
 実際リリーはダメだったみたいだし。
 やっぱり県内と県外の差は大きいのかと心配していた。

「連休の時に帰ってきてたしそれにあいつ……」

 瑞穂は左手を見せてくれた。
 指輪がある。

「卒業したら本物をプレゼントするからって」

 薬指に指輪してたら言い寄ってくる女もいないだろうと照れながら言ったそうだ。

「そういう話だと瑞穂の方が早そうですね」

 そう言ったのは繭だった。

「繭はまだなの?」
 
 天は社長なんでしょ?

「ああ、見えて色々考えてくれてるみたいで」

 指輪くらい自分の力で買いたいから待ってくれって言われたらしい。

「それなら条件は一緒じゃない」
「どっちが先か楽しみですね」

 瑞穂と繭がそんな話をしている。
 紗奈はどうなんだろう。

「どうなんだろうね」

 そう言って天達と馬鹿な歌を歌っている優を見る。
 男ってどうしてそういう歌を好むのだろう?
 要はずっと隣にいてくれている。

「大丈夫か?結構花嫁はきついって聞いたけど?」

 要が心配してくれてる。

「うん、ちょっときついかな」
 
 ドレスで行動するのがこんなにきついとは知らなかった。
 式を急ぎ過ぎた代償かもしれない。
 もっと時間をかけて歩きやすいのを選べばよかったかも。
 もちろん要も一緒に選んでくれたから、要が気に入ってくれてるならそれでもいいけど。

「疲れてるなら2次会終ったら帰ろうか?」
「そうだね」

 そう言って2次会が終ると私と要は帰るという。
 事情を分かってる女性陣が多いSHだから「ゆっくり休め」と言われた。

「あ、新婚旅行は行くの?」

 紗奈が聞いていた。
 父さん達がプレゼントしてくれた。
 東京のテーマパークに行く予定だ。

「楽しんでくるといいよ」
「銀座とかいって美人につられるなよ!」

 天が言うと繭に叱られていた。
 この2人も飽きないな。
 家に帰ると風呂に入る。
 ……うーん。
 とりあえず要と選んで買ったパジャマを着る。
 そしてリビングにでると要が気づいた。

「じゃ、早く寝ようか」

 新婚初夜だし……と要が言う。
 やっぱりそうなるよね。
 私の様子がおかしいのに気づいたのだろう。

「どうした?今夜はやめておくか?」
「それはいいんだけどさ、何となくそうなることは分かっていたから」
 
 夫とするのが嫌なわけない。

「でもさ、そうなるならやっぱり服着る意味なくない?」

 要だって脱がすの手間でしょ。
 要と同棲している間はずっと裸だった。
 料理する時とかは服着ないと危ないから着てたけど。

「それさ、俺も考えたんだけど……」

 そう言って要が話を始めた。
 料理の時だけ服を着る方が面倒じゃないのか?
 それに恋も子供作る気なんだろ?
 そうしたらきっと要の親とか来るかもしれない。
 その時慌てて服を着るのも大変じゃないか?
 親だけじゃない。
 誰がいつ来るか分からない。
 私の職業はフリーライター。
 瑞穂と一緒に選んだ。
 仕事はUSEや酒井リゾートが斡旋してくれるらしい。
 自分でも仕事をもぎ取る為に会社に売り込みをするつもりだけど大体は家にいる。
 その時の突然の客にどうする?

「要の言う通りだね」

 私一人が恥をかくわけじゃない。
 例えば要が同僚を連れて来る場合もある。
 もう私一人自由にしていい立場ではないみたいだ。

「でも要はいいの?」
「何が?」
「私の裸に興味ない?」

 もう飽きた?

「そんな女性と結婚するわけないだろ」

 そう言って私の頭を小突く。

「ベッドの中で見せてくれたらそれでいいよ」
「結局は見たいんじゃない」
「嫁の裸を見たらいけないのか?」
「じゃあ、嫁を満足させてよ」
「分かってるよ」

 そうして新婚初夜を過ごした。

(2)

「瑛大!よく頑張った!!今夜は徹底的に飲むぞ!!」
「当たり前だ!こんちくしょう!朝まで付き合ってもらうからな!」

 誠と桐谷君が盛り上がっている。
 今夜は桐谷君に付き合ってやろうと渡辺君とも話をしていた。
 恋をちゃんと嫁として送り出したんだ。
 それがどれだけ大変な事か分かっていた。
 家には冬眞達がいるから大丈夫だろう。
 
「今日だけは大目にみてやるよ。お疲れさん」

 亜依さんも今夜は大目に見るみたいだ。

「ってことは渡辺班初期メンバーで嫁に出してないのは俺だけか」

 渡辺君が驚いていた。

「茉里奈はまだなの?」
 
 愛莉が聞いていた。

「今は修行に必死らしいぜ」
 
 美嘉さんが少し寂しそうに答えた。
 でもすぐに元気を取り戻す。

「せっかくめでたい席なんだ。今夜はまだ盛り上がるしかないだろ!」
「美嘉の言う通りだ、しけた話は無しにしようぜ」

 カンナも言ってるからいいんだろう。

「それにしても傑作だったよ。ちゃんと動画撮ったから見せてやる。誠君PCもってない?」
「あるぜ。そんなに傑作だったのか?興味あるな」
「げ!亜依撮ってたのか!?」

 慌てる桐谷君を渡辺君と木元先輩が取り押さえる。

「まあ、じたばたするな。初めての娘を嫁にやるお前をちゃんと見てやるから」

 それはプロジェクターを使って皆が見れるようにしていた。
 そしてみんな大笑いする。

「お前、いくらなんでもこれはないだろ!」

 誠が爆笑している。
 そんな誠を見てカンナがニヤリと笑う。

「お前がそんな偉そうなこと言っていいのか?」

 誠も水奈の花嫁姿を見て泣いていたそうだ。
 まあ、仕方ないよな。

「気にするな桐谷君。娘を持つ親なら何となくわかるよ」

 木元先輩も泣いていたらしい。
 花菜さんは慰めるのに苦労したそうだ。

「木元先輩の言う通りだよ。冬夜さんだって翼の花嫁姿見て泣いたんだから」

 花嫁姿を見てというかお礼の返事を聞いてちょっと油断しただけなんだけど。
 そんな話を聞いて美嘉さんがニヤリと笑っている。

「じゃあ、私も紗理奈が嫁に行くときは正志をしっかり撮影するか」

 それを聞いた渡辺君は苦笑していた。
 
「渡辺君。俺達が教えてやるよ。娘を送るという事の辛さを……」
「冬夜!お前だってまだ茜や冬莉がいるんだから聞いとけ!」
「2人とも冬夜さんに変な事教えるの止めてって言ったでしょ!」

 愛莉が誠と桐谷君に注意している。
 僕は愛莉パパからしっかり聞いてるよ。

「そういや、愛莉。誠司から聞いたんだけど」

 カンナが何か思い出したらしい、愛莉に聞いていた。
 冬吾が誠司に漏らしたらしい。

「おまえ冬吾に誘われたんだって?」
 
 ビール吹いた。

「うぅ……」

 愛莉が悩んでいる。
 
「一体何があったの?」

 僕が愛莉に聞いていた。
 愛莉が説明する。
 小遣いの交渉の事件の時の話らしい。
 あれは見事な連携だと感心していたけど、冬吾が何をしたのかまでは聞いてない。
 愛莉は冬吾が風呂から出るのを見ると、いつものように茜に風呂に入れさせるために茜の部屋に向かった。
 その後を冬吾が追っていたのは知っている。
 そしていつものように冬莉が「小遣いが欲しい~」と僕にねだって来た。
 またか……と思いながら聞いていたけどいつもとはやはり違ったらしい。
 それだと愛莉が戻ってきたらいつものパターン。
 だから愛莉を足止めする必要があると二人は考えたらしい。
 そこで冬吾の出番。
 冬吾は冬莉の様に愛莉に抱きついて「僕もお小遣い欲しい~」と強請ったらしい。
 冬吾は女性の扱いを瞳子で練習したんだろう。
 自分の子供に言い寄られて「仕方ないな~」って思ったらしい。
 だけど、部屋に財布を取りに行こうとすると冬吾は足止めをする。
 愛莉が冬吾の要求を飲むことが計算外だったんだろう。
 冬莉の時間を稼がなければいけないと思った冬吾はさらに愛莉に甘えたそうだ。
 しかし部屋の側でそんな事をしていたら茜が気づいてしまう。

「そんなのパパにお願いすればいいじゃん」

 話を聞いた茜は冬吾にそう言った。
 そこで冬吾は失敗した。

「父さんは……」

 慌ててミスに気づいて口をふさぐけど愛莉は感づいた。

「冬夜さんの苦労がわかりました……」

 愛莉は落ち込んでいる。
 油断してしまった自分を反省しているんだろう。

「やっぱり小遣い厳しいのかな?」
「それは無いと思いますけど」

 だって茜や純也はそんな事しなかった。
 冬吾や冬莉並みに食事代に使っていたらいくらあっても足りない。
 問題はまだある。
 家に茜がいる事はやはりまずいらしい。
 茜は自分で給料を稼いでくる。
 だから愛莉を揶揄ったのだろう。
 
「私が小遣い上げるから、冬吾私の相手してよ」

 茜は計画的犯行だ。
 前に僕にも同じような誘惑をしてきた。

「まじかよ冬夜!どうやったらそんな娘になるのか教えてくれよ!」
「ふざけんな冬夜!何でお前だけそんな羨ましい状況になるんだよ!?」

 話を聞いていた誠と桐谷君が聞いてきた。
 特別何かをしたわけじゃないんだけど。

「お前は手遅れだ。諦めろ」

 カンナが言った。
 歩美が善久を家に連れてきた時「うちは変態がいるからダメ!」と言ったそうだ。

「さ、流石にそれは父親として傷つくぞ神奈」
「自業自得だろうがこの馬鹿!」
「瑛大も一緒だ!諦めろ!」
「だよな~」

 あれ?桐谷君は以外と動揺していない。
 何を企んでいるのだろう?
 ……あ、ひょっとして。

「そっか。桐谷君は恋がいるもんな」
「そうなんだ。あいつまだあの癖直ってないらしくてさ」

 簡単に引っかかるな。

「お前まさか……」

 亜依さんが桐谷君を睨みつける。
 
「ば、馬鹿だな。もう恋は要のものなんだ。そんなわけないだろ」
 
 でも恋が妊娠した時誰かが様子見に行かないといけないだろ?
 やっぱり自爆してる。

「心配しないでいいわよ。瑛大君。香澄に世話をさせるから」

 恵美さんが来た。
 桐谷君は笑っている。
 しかし恵美さんも溜息をついていた。

「どうして片桐君の子供は皆そういう風になるわけ?」

 それは僕が知りたいよ。

「まさか、かずさんも同じ事考えたんでないでしょうね?」

 花菜さんが木元先輩を睨みつける。

「俺はもう諦めてるよ」

 娘の事を放っておいた罰があたったんだと諦めたらしい。
 そういう問題なんだろうか?

「トーヤは子供まで化け物じみた性能だからな。その遺伝子分けて欲しいよ」

 カンナが言う。
 
「絶対ダメ!」

 愛莉もそんなにムキにならなくていいのに。

「多分それが理由なんじゃないか?」

 渡辺君が言った。
 愛莉は異常なまでに僕に愛情をこめている。
 子供が揶揄うほどにムキになる。
 だから面白がってやってるんだろう。
 それはあるかもしれないな。

「うぅ……」

 愛莉は何かと葛藤しているみたいだ。

「でも愛莉さん達はそれでいいんじゃないかな」

 そんな中の良い二人を見て育つから恋人とうまく付き合っていけるのだろう?
 喧嘩が殆どない両親だから性格が歪むことがないんだろう。
 なるほどな。
 子は親の背を見て育つってやつか。

「それは納得するけど、空や結の能力は危険すぎるよ」

 亜依さんが言う。
 だけど渡辺君が言う。

「だけどそれを持っているのが空や結だから安心なんだよ」

 他の子供がそんな能力を授かったら大変な事になる。
 僕の教育を受けた空だから。
 空や美希の教育を受けている結だから安心なんだ。
 絶対に間違ったことに使わない。
 空や結だけじゃない。
 大地や天音、善明、結莉と茉莉、陽葵や菫、秋久が能力の所有者だから大丈夫なんだ。
 神様はきっとちゃんと選んでいるのだろう。
 能力を与えても大丈夫な子供の命に付与するのだろう。
 きっと海翔もなんらかの能力を発揮するはずだ。

「それに能力の所有者は片桐家だけじゃないだろ?」

 誠司だってサッカー選手としては立派な能力の所有者だ。
 
「あ、それで思い出した」
「どうしたんだ誠」
「来月皆予定あけておいてくれないか?恵美さんに頼んでどこかホールを借りたいんだけど」
「何があるの?」

 恵美さんが聞いた。

「ついに来たぜ。冬吾と誠司の代表戦デビューだ」
「本当か!?」

 カンナも初めて聞いたらしい。
 トーナメント戦に呼ばれたらしい。
 まだ冬吾と誠司には話してない。
 次の試合の時に知らせるつもりだったらしい。
 すでにU-18で活躍してる冬吾と誠司。
 他の選手も凄いけどあの2人は特別目立つ。
 理由は簡単。
 あの2人にボールが渡ったらほぼ間違いなく得点を決める。
 少なくとも冬吾をフリーにするような無謀な事はどこが相手でも絶対にしない。
 その空いたスペースを見事に誠司が狙ってパスを散らし、冬吾から注意をそらそうとする。
 一瞬でも冬吾から距離を置くとそれが致命傷になる。
 化け物じみた加速力で一気にマークを引き離し別のスペースに躊躇うことなく飛び込む。
 冬吾にボールが渡ったら最後。
 誰もが予想できない劇的なシーンを作り出す。
 その証拠に冬吾が出場する試合で負けたことは一度もない。
 冬吾に頼る癖をつけたくないという理由もあるけど、格下相手に冬吾を使って不要な故障をさせたくない。
 
「冬吾は試合を楽しむのはいいけど、皆必死に勝ちにいこうとしている意識を持ってる事を理解しなさい」

 中途半端なプレイをしたら絶対にベンチに引っ込められる。
 そんな楽をする様な試合で万が一の故障があったら大変だという理由は伏せておいた。
 その甲斐あって冬吾がフィールドに立ったら誠司よりも集中するらしい。
 試合時間が90分に伸びてペース配分に苦労するかと思ったらあの二人にそれは無かった。
 むしろ延長まで余裕でこなしそうな勢いだ。
 楽をしてるわけじゃない。
 それはちゃんと結果を残してる。
 そんなプレイをしていたからスカウトの目に留まったのだろう。

「今年のW杯はさすがに無理かもしれないけど次の大会には絶対出れる。あの二人なら必ずやってくれる」

 そう言えるくらいにまで2人を育て上げたつもりだと誠が言う。

「そういう事ならどこか適当なホテルを私が用意するわ。いいわね?善君」
「そうだね。出来るだけ皆に集まってもらいたいからね」

 酒井君達が言うと皆盛り上がる。

「あの子達の将来の年棒考えておかないといけないわね」
「地元チームでのクラブワールドカップ制覇が楽しみだね」

 石原君達も楽しみなようだ。

「でもさ、一つだけ疑問があるんだよな」

 中島君が言う。

「すでにそれだけレベルが高いなら別に海外で武者修行なんて必要ないんじゃないか?」
「それは違うよ中島君」

 あの二人は武者修行で行くわけじゃない。
 単に世界トップレベルのプレイを体感したいだけ。
 どの国を選んだのかは2人から聞いてる。
 冬吾はただ単に年棒が高い=トップレベルの選手だと思ってるそうだ。
 誠司は……まあ、しょうがないだろう。

「あの悪趣味さえなければいいんだが……」
「神奈それは心配ないよ」

 誠が言う。
 僕もそう思う。
 今の誠司は女の事なんてほとんど考えてないだろう。
 どうやって冬吾を活かす場面を作るか。
 そんな事を常日頃から考えているんだろう。
 その証拠に冬吾がある事を言っていた。

「最近学校生活でも誠司の視野が広いんだ」
 
 仲間の様子がおかしいとかちょっとした悩みを聞いているらしい。

「あいつそんなことしてたんだな」

 カンナは自分の息子の成長が嬉しいようだ。

「もう盛り上がるしかないだろ!!」

 美嘉さんはどこまでテンションが上がるんだろう。
 同い年なのに不思議で仕方なかった。
 しかしテンションが高いのは愛莉も同じようだ。
 やっと自分の子供が大舞台に立つ。
 楽しみで仕方ないんだろう。
 朝まで騒ぐのはきつかったけど皆に付き合った。
 タクシーで家に帰るとシャワーを浴びてベッドに入る。

「楽しみですね」
「そうだね」

 代表戦デビューか。
 若干不安要素はあったけど……あの二人の成長は僕達の予想をはるかに上回っていた。
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