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believe in yourself
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(1)
「酒井すまん!俺が保証する!あいつはそんな馬鹿な真似は絶対しない」
朝から多田君と桐谷君が起きていた。
その事にまず僕達は驚きなんだけどね。
僕と石原君、片桐君はいつものように朝のコーヒーを楽しんでいた。
その事を知った多田君達も「俺達も混ぜろ」と起きて来た。
晶ちゃん達は寝てる。
「一緒の時間を楽しみたい」
そう言われても疲れて眠っている妻を起こすのはかわいそうだと思うのが旦那だよ。
その証拠に片桐君も石原君も嫁さんは連れてきていない。
代わりに大地と善明と空がいた。
で、多田君が突然頭を下げる。
何の事かは何となく気づいていた。
「泉から聞いたよ。泉が1人でいる誠司を見かねて話し相手になっていたそうだね」
今日のあの地獄も2人で過ごすと聞いていた。
どうせ彼氏は来ていないらしいから一人でいてもつまらないんだろう。
子供の事だからそんなに口出しするつもりはないよ。
そもそも晶ちゃんから聞いた話だけだと泉が好きなのは誠司だと思っていたんだ。
だけどそれで誠司の事を見ていたんだろう。
今の誠司に泉の事を考える余裕がない。
初恋がそんなんじゃ悲しすぎる。
泉はそう思ったらしい。
現実ではあまりあり得ない男女の友情というものが2人を繋いでいるのだろう。
僕は多田君にそう説明した。
「あいつも成長してるんだな」
多田君がそう言っていた。
「なのにお前らはどうして成長しないんだ?」
ひょっとしなくても神奈さんの声が聞こえた。
聞き間違いじゃないと確信したのは僕の目の前、多田君の後ろに神奈さんが立っていたから。
みんな慌てて後ろを振り向く。
僕も振り向くと晶ちゃんが立っていた。
「冬夜さん。何回言えば分かってくれるんですか!」
「望もよ!どうしてそう男ばかりで集まろうとするの!?」
「善君!どういうつもりなのか説明してちょうだい!しかも多田君まで一緒じゃない!?」
夫婦って大変なんだなって目で他人事の様に見ている場合じゃないよ空。
気づかなかったのかい?
「旦那様。私をおいて何をするつもり?」
「み、美希は昨日疲れて眠っていたからそっとしておいただけだよ!」
「愛莉さんが言ってました。すぐに男同士でしょうもない話をするから見張ってろって」
空はSHの時もやっぱり同じ行動をとったらしい。
メンバーもお察しの通り。
「で、誠は何を話したんだ?」
神奈さんが言うから説明をした。
「なるほどな。まあ、そういうわけだから晶も心配しないでくれ」
「それは泉から聞いたから大丈夫。それより誠司は大丈夫なの?」
恋をする余裕がない。
泉は誠司からそう聞いたらしい。
「それを聞いた時、佐の事が浮かんだんだけどね」
片桐君が言う。
水島佐。
水島桜子の夫。
バスケ漬けになっていて高校で引退した時に一人ぼっちになったという。
僕も似たような物だったね。
高校時代に彼女がいたんだけど高校でサッカーは止めたらあっさりフラれたよ。
片桐君はスポーツと愛莉さんを秤にかけるまでもなく愛莉さんを選んだみたいだけど。
でもそれは誰しもがいずれ直面すること。
プロまで続けたとしてもいつかは限界が来るんだ。
その時に次の人生をどうするか選べばいい。
「多分その時までには誠司の環境も変わるし違ってくるんじゃないかな?」
片桐君が言う。
「環境が変わるってどういう意味だ?」
多田君が聞くと片桐君はすぐ答えた。
「誠司も海外に挑戦するつもりなんだろ?」
「ああ……そういう事か」
「多分ね」
多分日本代表に選ばれてちやほやされたくらいじゃ誠司の気持ちは変わらない。
もっと厳しい海外で壁にぶつかった時に何かがあるかもしれない。
神様が誠司に壁を乗り超える手助けをしてくれるかもしれない。
それだけ誠司は今サッカーに必死だと片桐君は言う。
少なくとも女性に浮かれていた頃の誠司は今はない。
「私もそう思ったんだ」
神奈さんが言う。
過ちは繰り返さないだろう。
「それはそうと、空。今日は覚悟したほうがいいぞ」
「どうして?」
「だって比呂と結の面倒見るんだろ?」
父親なんだからサービスしてやれ。
片桐君はそういう。
大変だろうなぁ……。
僕は大丈夫だよ。
泉も誠司君が見てくれるから。
「そういえば結莉と茉莉は?」
片桐君が聞いていた。
茉莉は朝ごはんまで寝てる。
結もご飯の気配がするまで起きない。
そんな結にしがみついて幸せそうに眠っている結莉。
ふと大地の顔を見る。
苦笑いをしていた。
石原君が「まだ1歳だわからないよ」と言うと恵美さんが「あら?結だと望は不満なわけ?」と聞いてくる。
「あの2人いとこの関係だよ!?」
「別に法律上では認められてるじゃない」
「本当に結莉は恋をしてるの?」
「多分違うんじゃないかな?」
愛莉さんが言った。
単に歳の誓い男の子がいたから世話をしてるだけ。
女性だから分かるんだろうか?
結にもその気が全くない。
それが普通な気がするのは僕だけなんだろうか?
「あの、冬夜さん」
「どうしたの?愛莉」
「このお時間は相談をしても良い時間なんですよね?」
「……何か悩み事?」
茜がまた何かしでかしたのだろうか?
そうじゃないらしい。
「実は結莉と茉莉の事なんですけど」
「何かあったの?」
愛莉さんが話した。
何度「ばあばですよ」と言っても「ババア!」と言うらしい。
あの二人は多分次世代最強だと思うよ。
なんせ晶ちゃんに「ババア!」と言った猛者だからね。
まさか泉を越えるキャラが出て来るとは思わなかったよ。
……あれ?
「恵美さんはどうなの?」
片桐君が代弁してくれた。
「私も愛莉ちゃんと同じ。何度言っても直らないの」
大地君の顔色が悪くなっていく。
石原君も顔が引きつってる。
そりゃそうだよね。
自分の孫に水鉄砲は撃たれるは「ガッデム」と言い放つは、挙句の果てにババア。
ただ孫の可愛さで許しているけど我慢の限界なのだろう。
僕が大地の立場ならもう首を吊るしかないと思うよ。
首を吊るで済めばいい。
下手すりゃギロチンだよ。
現に善斗を誘拐しようとした連中は晶ちゃんを「くそババア」呼ばわりする命知らずな真似をして命を失った。
「ま、まだ赤ちゃんだし……」
石原君が何とか宥めようとする。
そりゃ自分の子供の命がかかってるからそうだろうね。
大地も色々試したらしい。
その結果が「あーり」と「えみ」だった。
しかし、あの子達は体力面だけでなくメンタルも知能も天音以上のスペックを持っている。
多分わざと「ババア」と呼んでいるのだろう。
片桐君もさすがにどうにかしないとと悩んでいる様だ。
しかし愛莉さんの悩みはそこじゃなかった。
そこじゃないことが不思議なんだけど。
「私そんなに老けて見えますか?」
そこかい!
「そんな事無いよ。愛莉の綺麗さは不思議だよ。実年齢よりかなり若く見えるよ」
「それならいいんですが……」
愛莉さんも女性だって事だろう。
「愛莉ちゃんもそう思ってたんだ」
恵美さんも同類だったようだ。
ちなみに陽葵と菫とと秋久はちゃんと「じいじ」と「ばあば」だ。
陽葵と菫は多分翼が必死に躾けたのだろう。
秋久は多分違う。
余計な事を言って面倒な状況になるのを嫌がっているようだと善明から聞いていた。
「……愛莉達の話を聞いてるとなんか怖くなってきたな」
神奈さんが言う。
「水奈は大丈夫だよ。保証する。だって旦那が学だから」
しかし問題は遊だろう。
なずなさんが頑張るとはいえ、父親が遊というのは恐怖だ。
まだ育児を手伝わないと愚痴を聞いてるくらいがいいかもしれない。
遊が何を吹き込むか分からない。
みんなが起きてきたようだ。
女性陣は朝食の準備を始める。
その時気付いた。
美希の横に結と秋久がいた。
結は分かるがなんで秋久が?
「結、どうしたの?」
美希が聞くと結が指差した。
それはコーヒーの入った紙コップ。
「……飲みたいの?」
美希が聞くと冬夜と秋久が頷いた。
「これはもう少し大きくなってからにしようね」
美希が言うと2人は頷いてテントに戻った。
空と美希と善明は驚いていた。
僕も片桐君達と驚いてた。
だってあの二人は完全に気配を消して接近していた。
「……訓練の必要ないかもね」
晶ちゃんにそう言わしめるほどの能力の持ち主。
将来何を目指すのだろう?
(2)
「ママー次あれ乗る~」
「その前にパレード見ておいた方がいいんじゃない?」
「パレードって何?」
「それは時間になってからのお楽しみ」
僕と大地は茉莉と結と比呂を冬夜を連れて翼についていってた。
まさか父親の立場で来ることになるとは思わなかった。
大地も結莉と茉莉を両肩に乗せながら動画を取っていた。
もっとも菫は全く興味が無いみたいだけど。
冬夜もそばにある植木の側に腰掛けて様子を見ていた。
「取りあえず陽葵を担いであげて。菫は僕が担ぐよ」
「写真撮れる?」
困っている僕達を見かねたのかどうか知らないけど様子をうかがっていた結がこっちに来た。
「結莉見たいの?」
「……うん」
普段「ガッデム」とはしゃいでる子が見るような物かは知らないけど興味はあったらしい。
すると結が不思議な行動に出た。
「結莉、手を出して」
結莉が手を出すと結はその手を握る。
何をするか何となく分かってしまった。
「結!待ちなさい!」
こんな人混みの中でそれはまずい。
しかし冬夜はお構いなしにやってしまった。
結莉を手に取って2人で浮かび上がる。
ここからが結の脅威だ。
自分のその能力は人前にさらしてはいけないと思ったのだろう。
僕の肩くらいの位置にまで上がると両肩に乗っているように見せかけた。
結莉も結から手を繋いでくれて嬉しいようだ。
これなら僕も菫を持ち上げて動画を取れる。
自然に見えるけど僕一人で3人担いでるように見える異様な光景。
まあそういう父親も世の中にはいるだろう。
そう思い込むことにした。
パレードが終ると菫と陽葵を乗り物に載せている間、結は結莉とはぐれないように手をつないでいた。
それが結莉には嬉しかったのだろう。
終始ご機嫌だった。
集合時間になるとゲートに向かう。
善明達も疲れたみたいだ。
陽葵はお気に入りの場所になったみたい。
秋久は何を考えているのか分からない。
父さん達が言うと僕達は途中ファミレスに寄ってご飯を食べて帰る。
大地の家に寄って結莉を降ろす。
一苦労だった。
「結もいっしょ!」
そう言って手を離さない結莉。
すると天音が言った。
「良い子にしてたらずっと結と一緒にいられるようになるよ」
するとあっさりと手を離した。
そこに結の意思があったのかは知らないけど。
「結莉どうだった?」
天音が結莉を抱きかかえながら翼に聞いていた。
翼はテーマパークでの一件を話した。
「結莉あそこに興味あったんだな」
いや、そうじゃなくてさ。
「ま、ありがとうな。結莉も楽しかったみたいだし」
「天音……それはいいんだけど」
「どうした翼?」
「ババアは止めた方がいい。愛莉達結構気にしてる」
「それがさ……私が見てる時は”あーり”なんだ」
やっぱり計画的犯行だったか。
そんなやりとりを聞いていたのだろう。
結が結莉に向かって言った。
「ばあばだよ。ばばあだとばあば傷つくみたい」
え?
「……わかった!」
結の言う事だと素直に聞くのか?
家に帰って結を風呂に入れてる時に聞いてみた。
「どうしてあそこで能力使ったの?」
「結莉が見たそうにしてたから」
「なんでわかったの?」
「何となく気持ち見えるから」
この子も心を読むのか。
風呂を出ると結は素直に寝る。
その後に美希と話をしていた。
「あの子最終的にどうなるのでしょうか?」
美希は悩んでいる。
「美希は心配する事無いと思う」
「どうして?あの力に悪意があったら大事だよ?」
「それは今日証明されたじゃないか」
「え?」
僕は説明した。
結莉の気持ちを察して浮かび上がった。
美希達の気持ちを察して結莉に注意した。
そこに悪意はあるの?
「子供を信じてやれって父さんも言ってたよ」
「そうだね」
しかし結の無茶苦茶なチートはこの程度では済まなかった。
(3)
相変わらずの不可解なテーマパーク。
中学生になったら変わるかと思ったけど変わらなかった。
多分高校生でも同じだろう。
そんな事を考えながら誠司と歩いていた。
「泉はこういうところ苦手か?」
誠司が聞いてきた。
「そうだね、乗り物に乗りたいとは思わないけど分解したいとは思う」
「なるほどな」
「誠司こそ退屈なんじゃない?」
男子が喜ぶ要素全くないよ?
「まあ、彼女と一緒なら楽しかったかもな」
誠司がそう言って笑う。
だから私もいっくんと来たら違うんじゃないか?と誠司が言う。
「そう思うんだったら、誠司も作ればいいのに」
サッカーばかりに夢中になって後になって後悔しない?
すると誠司は言った。
「それは間違ってるんだよ。泉」
サッカーしてる自分じゃなくて素の自分を見て欲しい。
すくなくともサッカーをしている自分に惚れた女性はそう言い切れるか?
サッカーを失った後に自分の側にいてくれる人が欲しいんだ。
そんなの学生時代になんて無理だろ?
サッカーを引退してそれでも一緒に人生を歩んでくれる人を誠司は求めてるらしい。
確かに学生時代にそこまで考える人はいないだろう。
「もし今彼女が欲しいと言ったらそれだけが希望だ。俺だってサッカーに全力を注いで彼女に構ってやれないのだから」
遊びで付き合うならもう十分楽しんだ。
次は本気で誠司を受け入れられる人、誠司が本気で愛することが出来る人がいい。
「誠司ってチャラそうなイメージだったけど実は違うんだね」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」
「でも、私は無理だからね」
「そのくらい分かってるよ」
そのくらい彼の態度を見てたらわかる。
ツーショットの写真は一切撮らない。
自分のスマホで私の写真は撮らない。
手すら繋がない。
きっといっくんへの心遣いなんだろう。
適当に回って適当に食事して、そして時間になるとゲートに向かう。
「じゃ、またな」
そう言って誠司は親の車に乗り込む。
私も父さんの車に乗る。
善斗と善久は苦労したらしい。
疲れ切って眠っていた。
でもそんな暇はまだないよ。
ファミレスに着くと二人を起こしてやる。
それぞれに別れて席を取って食事をしていた。
誠司は親と一緒に食べてるみたいだ。
「あのさあ……」
瞳子が聞いてきた。
「どうしたの?」
「やっぱりまずいんじゃないの?誠司君と行動してたなんて」
第3者から見ると見えるだろうな。
でも冬莉は違っていたみたいだ。
「瞳子、それは多分心配ない」
「どうして?」
「どういう心境の変化かわからないけど……」
誠司の心の中はサッカーしかない。
冬莉は見抜いていたようだ。
私は誠司から聞いた話をそのまま瞳子たちに伝えた。
予想通り驚いていた。
冬莉は薄々感じていたみたいだけど。
「でもそれなら最初から冴にそう接していたらよかったのに」
まあ、瞳子の言う通りだな。
だから私が答える。
「皆が皆、冬吾や志希みたいな出来た男じゃない」
むしろそれが奇跡なんだろう。
「泉の言う通りだと思う。多分冴との経験を糧にして誠司が成長したんだと思う」
思い通りにいかなくても無駄な日なんて一日もない。
大事なのは最後に自分を認められるか。
誠司はまわり道をしたけど最高の自分を目指している。
誠司にとって大切なのは今はサッカー。
それ以外に何もない。
でもきっと彼は後悔しない。
自分から逃げずに諦めず向き合って認めたのが今の誠司なんだから。
そんな誠司を最後まで信じる事が冴には出来なかっただけ。
でも冴も間違ってるわけじゃない。
自分が思うがままにさとりを選んだのだから。
どれが正解なんて誰にもわからない、
自分でも分からない。
だから自分を信じるしかない。
「瞳子だって他人事じゃないよ」
「え?」
冬莉が言うと瞳子が驚いていた。
「だって冬吾だっていずれは海外に行くんだよ」
その間瞳子は一人だ。
瞳子はそれを耐えることが出来るか?
冬吾を信じることが出来るか。
冬吾がその事についてどこまで考えているのかは冬莉にも分からない。
親とも話してないみたいだし。
「そうだね……」
でも瞳子は笑っていた。
きっと瞳子も冬吾の事を信じているのだろう。
食事を終えると家に帰る。
いっくんと電話で色々話した。
あ、そうだ……。
「いっくんデザイナーになりたいって言ってたね」
「そうだけど、やっぱり家の事情あるし」
「ちょっと私に心当たりあるから任せてもらえないかな?」
「大丈夫なの?」
「多分大丈夫だと思う」
「わかった。任せるよ」
電話を終えると母さんに事情を話した。
「そういえば恵美の親戚にいたような気がするわね」
そう言って頼子の母さんに電話をする母さん。
「あ、恵美。恵美の親戚にファッションデザイナーいなかった?」
「英恵の事?どうかしたの?」
「娘の彼氏がファッションデザイナーを志望してるらしくて」
「分かった。話しておく。でも高校くらいは卒業させないと認められないわよ?」
「それは大丈夫だと思う」
「じゃあ、いつ会えるか聞いてみる。こっちの都合で構わないかしら?」
「任せるわ」
電話を終えると私に言った。
「聞いてたわね?とりあえず会わせて欲しいみたい。それとせめて高校くらい卒業しておきなさい」
「わかった。ありがとう」
そう言って私はいっくんに知らせる。
最後に救われるのは逃げずに立ち向かった自分自身。
願うだけじゃダメだ。
自分から動き出さないと。
みんなそれぞれの道を目指して歩きだす年頃だった。
「酒井すまん!俺が保証する!あいつはそんな馬鹿な真似は絶対しない」
朝から多田君と桐谷君が起きていた。
その事にまず僕達は驚きなんだけどね。
僕と石原君、片桐君はいつものように朝のコーヒーを楽しんでいた。
その事を知った多田君達も「俺達も混ぜろ」と起きて来た。
晶ちゃん達は寝てる。
「一緒の時間を楽しみたい」
そう言われても疲れて眠っている妻を起こすのはかわいそうだと思うのが旦那だよ。
その証拠に片桐君も石原君も嫁さんは連れてきていない。
代わりに大地と善明と空がいた。
で、多田君が突然頭を下げる。
何の事かは何となく気づいていた。
「泉から聞いたよ。泉が1人でいる誠司を見かねて話し相手になっていたそうだね」
今日のあの地獄も2人で過ごすと聞いていた。
どうせ彼氏は来ていないらしいから一人でいてもつまらないんだろう。
子供の事だからそんなに口出しするつもりはないよ。
そもそも晶ちゃんから聞いた話だけだと泉が好きなのは誠司だと思っていたんだ。
だけどそれで誠司の事を見ていたんだろう。
今の誠司に泉の事を考える余裕がない。
初恋がそんなんじゃ悲しすぎる。
泉はそう思ったらしい。
現実ではあまりあり得ない男女の友情というものが2人を繋いでいるのだろう。
僕は多田君にそう説明した。
「あいつも成長してるんだな」
多田君がそう言っていた。
「なのにお前らはどうして成長しないんだ?」
ひょっとしなくても神奈さんの声が聞こえた。
聞き間違いじゃないと確信したのは僕の目の前、多田君の後ろに神奈さんが立っていたから。
みんな慌てて後ろを振り向く。
僕も振り向くと晶ちゃんが立っていた。
「冬夜さん。何回言えば分かってくれるんですか!」
「望もよ!どうしてそう男ばかりで集まろうとするの!?」
「善君!どういうつもりなのか説明してちょうだい!しかも多田君まで一緒じゃない!?」
夫婦って大変なんだなって目で他人事の様に見ている場合じゃないよ空。
気づかなかったのかい?
「旦那様。私をおいて何をするつもり?」
「み、美希は昨日疲れて眠っていたからそっとしておいただけだよ!」
「愛莉さんが言ってました。すぐに男同士でしょうもない話をするから見張ってろって」
空はSHの時もやっぱり同じ行動をとったらしい。
メンバーもお察しの通り。
「で、誠は何を話したんだ?」
神奈さんが言うから説明をした。
「なるほどな。まあ、そういうわけだから晶も心配しないでくれ」
「それは泉から聞いたから大丈夫。それより誠司は大丈夫なの?」
恋をする余裕がない。
泉は誠司からそう聞いたらしい。
「それを聞いた時、佐の事が浮かんだんだけどね」
片桐君が言う。
水島佐。
水島桜子の夫。
バスケ漬けになっていて高校で引退した時に一人ぼっちになったという。
僕も似たような物だったね。
高校時代に彼女がいたんだけど高校でサッカーは止めたらあっさりフラれたよ。
片桐君はスポーツと愛莉さんを秤にかけるまでもなく愛莉さんを選んだみたいだけど。
でもそれは誰しもがいずれ直面すること。
プロまで続けたとしてもいつかは限界が来るんだ。
その時に次の人生をどうするか選べばいい。
「多分その時までには誠司の環境も変わるし違ってくるんじゃないかな?」
片桐君が言う。
「環境が変わるってどういう意味だ?」
多田君が聞くと片桐君はすぐ答えた。
「誠司も海外に挑戦するつもりなんだろ?」
「ああ……そういう事か」
「多分ね」
多分日本代表に選ばれてちやほやされたくらいじゃ誠司の気持ちは変わらない。
もっと厳しい海外で壁にぶつかった時に何かがあるかもしれない。
神様が誠司に壁を乗り超える手助けをしてくれるかもしれない。
それだけ誠司は今サッカーに必死だと片桐君は言う。
少なくとも女性に浮かれていた頃の誠司は今はない。
「私もそう思ったんだ」
神奈さんが言う。
過ちは繰り返さないだろう。
「それはそうと、空。今日は覚悟したほうがいいぞ」
「どうして?」
「だって比呂と結の面倒見るんだろ?」
父親なんだからサービスしてやれ。
片桐君はそういう。
大変だろうなぁ……。
僕は大丈夫だよ。
泉も誠司君が見てくれるから。
「そういえば結莉と茉莉は?」
片桐君が聞いていた。
茉莉は朝ごはんまで寝てる。
結もご飯の気配がするまで起きない。
そんな結にしがみついて幸せそうに眠っている結莉。
ふと大地の顔を見る。
苦笑いをしていた。
石原君が「まだ1歳だわからないよ」と言うと恵美さんが「あら?結だと望は不満なわけ?」と聞いてくる。
「あの2人いとこの関係だよ!?」
「別に法律上では認められてるじゃない」
「本当に結莉は恋をしてるの?」
「多分違うんじゃないかな?」
愛莉さんが言った。
単に歳の誓い男の子がいたから世話をしてるだけ。
女性だから分かるんだろうか?
結にもその気が全くない。
それが普通な気がするのは僕だけなんだろうか?
「あの、冬夜さん」
「どうしたの?愛莉」
「このお時間は相談をしても良い時間なんですよね?」
「……何か悩み事?」
茜がまた何かしでかしたのだろうか?
そうじゃないらしい。
「実は結莉と茉莉の事なんですけど」
「何かあったの?」
愛莉さんが話した。
何度「ばあばですよ」と言っても「ババア!」と言うらしい。
あの二人は多分次世代最強だと思うよ。
なんせ晶ちゃんに「ババア!」と言った猛者だからね。
まさか泉を越えるキャラが出て来るとは思わなかったよ。
……あれ?
「恵美さんはどうなの?」
片桐君が代弁してくれた。
「私も愛莉ちゃんと同じ。何度言っても直らないの」
大地君の顔色が悪くなっていく。
石原君も顔が引きつってる。
そりゃそうだよね。
自分の孫に水鉄砲は撃たれるは「ガッデム」と言い放つは、挙句の果てにババア。
ただ孫の可愛さで許しているけど我慢の限界なのだろう。
僕が大地の立場ならもう首を吊るしかないと思うよ。
首を吊るで済めばいい。
下手すりゃギロチンだよ。
現に善斗を誘拐しようとした連中は晶ちゃんを「くそババア」呼ばわりする命知らずな真似をして命を失った。
「ま、まだ赤ちゃんだし……」
石原君が何とか宥めようとする。
そりゃ自分の子供の命がかかってるからそうだろうね。
大地も色々試したらしい。
その結果が「あーり」と「えみ」だった。
しかし、あの子達は体力面だけでなくメンタルも知能も天音以上のスペックを持っている。
多分わざと「ババア」と呼んでいるのだろう。
片桐君もさすがにどうにかしないとと悩んでいる様だ。
しかし愛莉さんの悩みはそこじゃなかった。
そこじゃないことが不思議なんだけど。
「私そんなに老けて見えますか?」
そこかい!
「そんな事無いよ。愛莉の綺麗さは不思議だよ。実年齢よりかなり若く見えるよ」
「それならいいんですが……」
愛莉さんも女性だって事だろう。
「愛莉ちゃんもそう思ってたんだ」
恵美さんも同類だったようだ。
ちなみに陽葵と菫とと秋久はちゃんと「じいじ」と「ばあば」だ。
陽葵と菫は多分翼が必死に躾けたのだろう。
秋久は多分違う。
余計な事を言って面倒な状況になるのを嫌がっているようだと善明から聞いていた。
「……愛莉達の話を聞いてるとなんか怖くなってきたな」
神奈さんが言う。
「水奈は大丈夫だよ。保証する。だって旦那が学だから」
しかし問題は遊だろう。
なずなさんが頑張るとはいえ、父親が遊というのは恐怖だ。
まだ育児を手伝わないと愚痴を聞いてるくらいがいいかもしれない。
遊が何を吹き込むか分からない。
みんなが起きてきたようだ。
女性陣は朝食の準備を始める。
その時気付いた。
美希の横に結と秋久がいた。
結は分かるがなんで秋久が?
「結、どうしたの?」
美希が聞くと結が指差した。
それはコーヒーの入った紙コップ。
「……飲みたいの?」
美希が聞くと冬夜と秋久が頷いた。
「これはもう少し大きくなってからにしようね」
美希が言うと2人は頷いてテントに戻った。
空と美希と善明は驚いていた。
僕も片桐君達と驚いてた。
だってあの二人は完全に気配を消して接近していた。
「……訓練の必要ないかもね」
晶ちゃんにそう言わしめるほどの能力の持ち主。
将来何を目指すのだろう?
(2)
「ママー次あれ乗る~」
「その前にパレード見ておいた方がいいんじゃない?」
「パレードって何?」
「それは時間になってからのお楽しみ」
僕と大地は茉莉と結と比呂を冬夜を連れて翼についていってた。
まさか父親の立場で来ることになるとは思わなかった。
大地も結莉と茉莉を両肩に乗せながら動画を取っていた。
もっとも菫は全く興味が無いみたいだけど。
冬夜もそばにある植木の側に腰掛けて様子を見ていた。
「取りあえず陽葵を担いであげて。菫は僕が担ぐよ」
「写真撮れる?」
困っている僕達を見かねたのかどうか知らないけど様子をうかがっていた結がこっちに来た。
「結莉見たいの?」
「……うん」
普段「ガッデム」とはしゃいでる子が見るような物かは知らないけど興味はあったらしい。
すると結が不思議な行動に出た。
「結莉、手を出して」
結莉が手を出すと結はその手を握る。
何をするか何となく分かってしまった。
「結!待ちなさい!」
こんな人混みの中でそれはまずい。
しかし冬夜はお構いなしにやってしまった。
結莉を手に取って2人で浮かび上がる。
ここからが結の脅威だ。
自分のその能力は人前にさらしてはいけないと思ったのだろう。
僕の肩くらいの位置にまで上がると両肩に乗っているように見せかけた。
結莉も結から手を繋いでくれて嬉しいようだ。
これなら僕も菫を持ち上げて動画を取れる。
自然に見えるけど僕一人で3人担いでるように見える異様な光景。
まあそういう父親も世の中にはいるだろう。
そう思い込むことにした。
パレードが終ると菫と陽葵を乗り物に載せている間、結は結莉とはぐれないように手をつないでいた。
それが結莉には嬉しかったのだろう。
終始ご機嫌だった。
集合時間になるとゲートに向かう。
善明達も疲れたみたいだ。
陽葵はお気に入りの場所になったみたい。
秋久は何を考えているのか分からない。
父さん達が言うと僕達は途中ファミレスに寄ってご飯を食べて帰る。
大地の家に寄って結莉を降ろす。
一苦労だった。
「結もいっしょ!」
そう言って手を離さない結莉。
すると天音が言った。
「良い子にしてたらずっと結と一緒にいられるようになるよ」
するとあっさりと手を離した。
そこに結の意思があったのかは知らないけど。
「結莉どうだった?」
天音が結莉を抱きかかえながら翼に聞いていた。
翼はテーマパークでの一件を話した。
「結莉あそこに興味あったんだな」
いや、そうじゃなくてさ。
「ま、ありがとうな。結莉も楽しかったみたいだし」
「天音……それはいいんだけど」
「どうした翼?」
「ババアは止めた方がいい。愛莉達結構気にしてる」
「それがさ……私が見てる時は”あーり”なんだ」
やっぱり計画的犯行だったか。
そんなやりとりを聞いていたのだろう。
結が結莉に向かって言った。
「ばあばだよ。ばばあだとばあば傷つくみたい」
え?
「……わかった!」
結の言う事だと素直に聞くのか?
家に帰って結を風呂に入れてる時に聞いてみた。
「どうしてあそこで能力使ったの?」
「結莉が見たそうにしてたから」
「なんでわかったの?」
「何となく気持ち見えるから」
この子も心を読むのか。
風呂を出ると結は素直に寝る。
その後に美希と話をしていた。
「あの子最終的にどうなるのでしょうか?」
美希は悩んでいる。
「美希は心配する事無いと思う」
「どうして?あの力に悪意があったら大事だよ?」
「それは今日証明されたじゃないか」
「え?」
僕は説明した。
結莉の気持ちを察して浮かび上がった。
美希達の気持ちを察して結莉に注意した。
そこに悪意はあるの?
「子供を信じてやれって父さんも言ってたよ」
「そうだね」
しかし結の無茶苦茶なチートはこの程度では済まなかった。
(3)
相変わらずの不可解なテーマパーク。
中学生になったら変わるかと思ったけど変わらなかった。
多分高校生でも同じだろう。
そんな事を考えながら誠司と歩いていた。
「泉はこういうところ苦手か?」
誠司が聞いてきた。
「そうだね、乗り物に乗りたいとは思わないけど分解したいとは思う」
「なるほどな」
「誠司こそ退屈なんじゃない?」
男子が喜ぶ要素全くないよ?
「まあ、彼女と一緒なら楽しかったかもな」
誠司がそう言って笑う。
だから私もいっくんと来たら違うんじゃないか?と誠司が言う。
「そう思うんだったら、誠司も作ればいいのに」
サッカーばかりに夢中になって後になって後悔しない?
すると誠司は言った。
「それは間違ってるんだよ。泉」
サッカーしてる自分じゃなくて素の自分を見て欲しい。
すくなくともサッカーをしている自分に惚れた女性はそう言い切れるか?
サッカーを失った後に自分の側にいてくれる人が欲しいんだ。
そんなの学生時代になんて無理だろ?
サッカーを引退してそれでも一緒に人生を歩んでくれる人を誠司は求めてるらしい。
確かに学生時代にそこまで考える人はいないだろう。
「もし今彼女が欲しいと言ったらそれだけが希望だ。俺だってサッカーに全力を注いで彼女に構ってやれないのだから」
遊びで付き合うならもう十分楽しんだ。
次は本気で誠司を受け入れられる人、誠司が本気で愛することが出来る人がいい。
「誠司ってチャラそうなイメージだったけど実は違うんだね」
「そう言ってくれるだけでも嬉しいよ」
「でも、私は無理だからね」
「そのくらい分かってるよ」
そのくらい彼の態度を見てたらわかる。
ツーショットの写真は一切撮らない。
自分のスマホで私の写真は撮らない。
手すら繋がない。
きっといっくんへの心遣いなんだろう。
適当に回って適当に食事して、そして時間になるとゲートに向かう。
「じゃ、またな」
そう言って誠司は親の車に乗り込む。
私も父さんの車に乗る。
善斗と善久は苦労したらしい。
疲れ切って眠っていた。
でもそんな暇はまだないよ。
ファミレスに着くと二人を起こしてやる。
それぞれに別れて席を取って食事をしていた。
誠司は親と一緒に食べてるみたいだ。
「あのさあ……」
瞳子が聞いてきた。
「どうしたの?」
「やっぱりまずいんじゃないの?誠司君と行動してたなんて」
第3者から見ると見えるだろうな。
でも冬莉は違っていたみたいだ。
「瞳子、それは多分心配ない」
「どうして?」
「どういう心境の変化かわからないけど……」
誠司の心の中はサッカーしかない。
冬莉は見抜いていたようだ。
私は誠司から聞いた話をそのまま瞳子たちに伝えた。
予想通り驚いていた。
冬莉は薄々感じていたみたいだけど。
「でもそれなら最初から冴にそう接していたらよかったのに」
まあ、瞳子の言う通りだな。
だから私が答える。
「皆が皆、冬吾や志希みたいな出来た男じゃない」
むしろそれが奇跡なんだろう。
「泉の言う通りだと思う。多分冴との経験を糧にして誠司が成長したんだと思う」
思い通りにいかなくても無駄な日なんて一日もない。
大事なのは最後に自分を認められるか。
誠司はまわり道をしたけど最高の自分を目指している。
誠司にとって大切なのは今はサッカー。
それ以外に何もない。
でもきっと彼は後悔しない。
自分から逃げずに諦めず向き合って認めたのが今の誠司なんだから。
そんな誠司を最後まで信じる事が冴には出来なかっただけ。
でも冴も間違ってるわけじゃない。
自分が思うがままにさとりを選んだのだから。
どれが正解なんて誰にもわからない、
自分でも分からない。
だから自分を信じるしかない。
「瞳子だって他人事じゃないよ」
「え?」
冬莉が言うと瞳子が驚いていた。
「だって冬吾だっていずれは海外に行くんだよ」
その間瞳子は一人だ。
瞳子はそれを耐えることが出来るか?
冬吾を信じることが出来るか。
冬吾がその事についてどこまで考えているのかは冬莉にも分からない。
親とも話してないみたいだし。
「そうだね……」
でも瞳子は笑っていた。
きっと瞳子も冬吾の事を信じているのだろう。
食事を終えると家に帰る。
いっくんと電話で色々話した。
あ、そうだ……。
「いっくんデザイナーになりたいって言ってたね」
「そうだけど、やっぱり家の事情あるし」
「ちょっと私に心当たりあるから任せてもらえないかな?」
「大丈夫なの?」
「多分大丈夫だと思う」
「わかった。任せるよ」
電話を終えると母さんに事情を話した。
「そういえば恵美の親戚にいたような気がするわね」
そう言って頼子の母さんに電話をする母さん。
「あ、恵美。恵美の親戚にファッションデザイナーいなかった?」
「英恵の事?どうかしたの?」
「娘の彼氏がファッションデザイナーを志望してるらしくて」
「分かった。話しておく。でも高校くらいは卒業させないと認められないわよ?」
「それは大丈夫だと思う」
「じゃあ、いつ会えるか聞いてみる。こっちの都合で構わないかしら?」
「任せるわ」
電話を終えると私に言った。
「聞いてたわね?とりあえず会わせて欲しいみたい。それとせめて高校くらい卒業しておきなさい」
「わかった。ありがとう」
そう言って私はいっくんに知らせる。
最後に救われるのは逃げずに立ち向かった自分自身。
願うだけじゃダメだ。
自分から動き出さないと。
みんなそれぞれの道を目指して歩きだす年頃だった。
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