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深淵の女神
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(1)
「あら?莉子ちゃん達じゃない」
「瞳子?」
皆が同じ学校に通っていて、皆が同じ目的で出かけたらこうなることは分かっていた。
冬吾や冬莉、崇博達が一緒のバス停に集まっていた。
今日は七夕祭りの最終日。
花火大会の日。
みんな恋人と見に行こうと思っていたみたいだ。
俺と莉子も今年から中学生だから2人で見てきなさいと愛莉から言われた。
愛莉達は江口家のパーティに呼ばれたらしい。
みんなと話をしながらバスを待って、バスに乗り込むと地元駅前に向かう。
「僕達はフードコート行くから冬眞達はこの店に行くといいよ」
そう言って冬吾が店を教えてくれた。
から揚げが美味しいお店らしい。
見た目は古風な喫茶店のお店。
冬吾のおすすめだけあって美味しかった。
それから短冊と見ながら莉子と商店街を歩いていた。
商店街を出ると会場まで歩く。
人がいっぱいいたので、はぐれないように手をつないでいた。
莉子は少し恥ずかしそうにいしていた。
今さら恥ずかしがることじゃないだろ?
「会場の出店は諦めろ」
分かれる際に冬吾が言っていた。
見る場所を確保したいなら諦めろ。
河川敷まで出てしまったら戻るのが大変。
途中でソースでもこぼしたら大惨事だから。
その代わり橋の近くにある出店でジュースだけは確保しておけ。
冬吾はもう慣れてるんだな。
「冬眞、あそこ空いてる」
莉子が場所を見つけたみたいなのでそこに行く。
とはいえ周りは大人。
クラスでは背が高い方だけど大人とは比べ物にならない。
まあ、花火は上の方で咲くからいいけど。
ただ川面付近の仕掛け花火は諦めるしかないかな。
何となく莉子を見ていた。
いつも通りお洒落している。
莉子はミニスカートも好む。
今日もそうだった。
俺も男だ。
莉子くらい肩車する事は出来る。
しかし莉子の姿でそれをしたら変態にならないか?
そんな風に莉子を見て考えていると、俺の視線に莉子が気づいた。
どうしたの?
相談するくらいいいだろう。
そう思って話した。
ダメだったみたいだ。
ぽかっ
「そんな事しなくてもいいよ。一緒に花火を見れることに意味があるんだよ」
そんな事するくらいなら……。
そう言って莉子は手を離して俺の腕にしがみつく。
「これでいいでしょ?」
「莉子がいいならいいよ」
「冬眞は嬉しくないの?」
「そんなわけないだろ」
そうして花火を見ていた。
長いようで短い1時間のショー。
終るとバス停に向かって歩き出す。
「今夜はどうする?」
何の事かは大体察しがついた。
「まあ、父さん達も遅くなるみたいなこと言ってたけど」
でも俺達も結構遅いよな。
「あんまり愛莉達の事は気にしなくていいんじゃないかな?」
「どうして?」
「愛莉達気づいてるよ」
え?
莉子も努力はしたらしい。
なるべく声を出さないように努力していたそうだ。
それでも父さん達に聞こえていたらしい。
莉子は愛莉に聞かれたらしい。
愛莉も女性だからだろうか?
「初めてはどうだった?」
そんな話を莉子にしたらしい。
そういや最近父さん飲みに行ってたな。
遠坂のおじさんとも飲んでいた。
「消極的なのも考え物だけど、そんないつもしてると体目当てだと思われちゃうかもよ」
そんな事を冬莉から聞いていた。
そういう事だったのか。
まだ中学生。
する場所なんて家しかない。
そういう面では俺達は恵まれていた。
同じ家に住んでいて同じ部屋で過ごしている。
崇博達はどうなんだろう?と聞いたことがある。
頼子は普通に自分の家に連れて来てするらしい。
父親は父さんと同じらしいけど「中学生なんだから当然でしょ!?」と母親から怒られるらしい。
善斗と善久にいたっては母親から「彼女に恥かかせるんじゃない!」と怒られるらしい。
岳也も同様だった。
微妙に違うのは杏采だった。
崇博の家に遊びに行った時に崇博の両親が喧嘩してる声が聞こえたらしい。
「誠、何やってんだ?」
「いや、杏采ちゃんって結構清純そうだからさ……」
「お前のその馬鹿な癖はいつになったら治るんだ!?」
とてもじゃないけど崇博の家では無理だと思ったので、覚悟を決めて杏采の家に泊ったらしい。
意外だったそうだ。
「うちの家は全室防音してるから気兼ねなくしなさい」
杏采の母親に言われたらしい。
父親は……。
「まだ、孫だけは勘弁してね」
そう言って笑っていたらしい。
千帆と姫乃は自宅だけは絶対に嫌だと主張していた。
理由は父親だろう。
そんな話をしながらバス停に着くと冬吾達がやっぱりいた。
まあ、このバスしか帰る手段ないよな。
よく考えたら自転車で来ればよかったのかもしれないけど、会場の近くに自転車置き場がなかった。
莉子は歩美たちと話をしていた。
俺も崇博達と話をしていた。
「そういや、誠司は?」
俺は崇博に聞いてみた。
「家でゲームしてるって言ってた」
親は江口家のパーティ。
そんなとこ行ってもつまんないから適当に出前頼んでそれ食べてゲームしてるらしい。
「誠司はもう彼女作らないのか?」
「あんまりそういう話しずらくてさ」
誠司の父親もそういう話は誠司としないらしい。
誠司がその気になるまで。
誠司をその気にさせる女子が現れるまでそっとしておくつもりらしい。
それは冬吾も言ってる。
今の誠司でも探そうと思えばいくらでも見つかるだろう。
だけどそれは誠司の見てくれしか見てくれない薄っぺらな関係。
それは誠司も分かっている。
だから告白を受けても断っているのだろう。
1度犯した過ちは2度と繰り返さない。
そう誓ったのだろう。
後は神様が2度目のチャンスをいつ与えてくれるか。
そんな話をしているうちにバス停に着いた。
バスを降りると家に帰る。
父さん達は帰ってきていた。
「あら、早かったのね?」
愛莉が言った。
「別にどこかに寄る必要もないし」
莉子が答える。
てか普通親なら注意する時間じゃないのか?
「夏休みだからってあまり夜更かししたらいけませんよ。お風呂に入ったら早く寝なさい」
莉子の肌が荒れたら大変だと言う。
普通の親なら「勉強しなさい」という時間なんだけど。
莉子も愛莉に従って風呂に入って部屋に戻る。
俺はいつも莉子の後に入る。
女の子の残り湯に不老不死の効能があるとか信じてる馬鹿じゃない。
それを実践して怒られたのが姫乃と歩美の父親だけど。
後に入る理由は、莉子も女の子だ。
茜の3倍くらい風呂に入っている。
母さんがたまに湯あたりして倒れているんじゃないかと心配するくらい長い。
理由は簡単。
風呂の中で本を読んだり、スマホ弄ってるから。
もちろん普通の女の子並みにはちゃんと洗っている。
理由はもう一つある。
莉子は風呂が出た後の髪の毛の手入れが異様に長い。
髪の毛を伸ばしてるから仕方ないんだけど。
さすがにパックとかはしない。
でもその時間にゲームとかテレビ観たりとかしてると「少しは彼女に構ってよ!」と怒り出す。
それを愛莉に相談したらしく、「少しは莉子の事も気づかってあげなさい!」と俺が怒られた。
どうしたものかと悩んでいると父さんが「莉子が先に入ったらいいんじゃないか?」とアドバイスしてくれた。
で、後に入っている。
偶に茜が風呂に入ろうとしていて茜が服を脱いでる所に遭遇して焦る時がある。
茜も冬莉もまったく気にしてないけど。
だけど冬吾と俺は悩む。
そこで”入浴中”と書いたプレートをドアノブにかけておくルールが我が家にはあった。
俺が風呂を出ると父さんに「風呂空いたよ」という。
「ありがとう、でも母さん待つから」
「どうして?」
「たまには母さんと入ろうと思ってね」
「冬夜さん、子供に言う事じゃありません」
愛莉が困っていた。
「嫌なの?」
「そんなわけないじゃないですか」
「じゃあ、いいだろ?」
「えへへ~」
そんなやりとりを聞きながら部屋に戻る。
莉子の手入れは終っていたみたいだ。
「さすがに朝起きれなかったら愛莉に怒られそうだから寝ようか?」
「そうだね」
「その代わりお願いがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「抱いて眠りたい」
「分かったよ」
そうして長い夏休みを過ごしていた。
(2)
「あ、片桐君」
「あ、石原君。今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ来てくれてありがとうございます」
「でもいいのかい?お偉いさんの集まるパーティじゃないの?」
「あら?片桐君もその一人だと思ったのだけど」
恵美さんが来た。
無礼な輩は問題外だが、お世辞ばかりの挨拶をしていてもつまらないと恵美さんと晶さんが思ったそうだ。
そこで渡辺班の皆もそろそろ育児で多忙な毎日から抜け出せそうだし、皆を呼ぼうと恵美さんと石原君が決めたらしい。
それで渡辺班に無礼な真似をしたらまたハロワが混雑することになる。
ハロワの職員に「求人票のコピーくらい1分で出来るだろ!?何分待たせる気だ!」と怒鳴った男性がいるらしい。
その態度で面接受けるつもりなのだろうかと不思議に思ったけど。
「お、冬夜。久しぶり」
誠と桐谷君が来た。
「天音はまだ産むつもりらしいな」
誠が言う。
「水奈に追い抜かれた事が悔しいみたいでね」
水奈と天音はまた子供が出来たらしい。
しかも水奈はまた双子。
つまり子供の数で水奈に負けたのが天音は悔しいみたいだ。
普通はそんなにいっぺんに産んで大変じゃないのかと思うんだけど。
「天音だって双子で苦労してるのに何を考えているのかしら」
愛莉が悩んでいた。
「瑛大、学には言っておけよ。絶対に産むところだけは見るなと」
「なんでだ?」
そういや桐谷君は亜依さんが出産中アイドルのライブに行ってたんだっけ。
「そうだな……」
誠が何か考えている。
どうせろくでもないことだろうけど。
その証拠に背後にカンナが立っているのに気づいてる素振りがない。
「嫁さんを抱けなくなるぞ……マジで。俺だって10年くらい無理だったから……いてぇ!」
「どうしてお前はそういう風に他の夫婦まで巻き込むんだ!」
ほら、怒られた。
「でも冬夜さん普通に夜の相手してくれましたよ」
「だから愛莉は旦那に恵まれてるんだって」
亜依さんも来たみたいだ。
「桐谷君はどうだったの?」
愛莉が聞いていた。
「仕事もあったしね。あんまり相手して無かったかな。育児と仕事の両立は結構辛かった」
「分かる。私もそれで最初育休にしてたんだけど退職したよ」
カンナも苦労したんだろうな。
しかも父親が誠だと娘と2人きりにすることを恐れていたんだろう。
「で、恋を産んで瑛大の興味はそっちにいっちゃってね」
育児を手伝ってくれるならそれでもいいと思ったらしい。
しかし、現実は甘くない。
生まれて間もない恋、偶に泣きわめくか寝ているだけの恋。
すぐに飽きてライブに通うようになったらしい。
その代わりに学が面倒を見ていたそうだ。
だから水奈の育児は多分大丈夫なはずと亜依さんが言っていた。
「まあ、私も見に行ってるんだけど……」
カンナが頭を抱えていた。
天音と全く同じ行動をとっているらしい。
さすがに学が帰ってきたら、学が叱ってるらしいけど。
誠に意地悪を言ってやった。
「誠……覚悟したほうがいいぞ?」
「な、なんかあるのか?」
孫娘に「くたばれ」とか言われたら誠の方がショック受けそうだから。
「ま、まじか!?冬夜も言われたのか?」
「茉莉も結莉も才能あるみたいでね」
最初は僕が間合いに入ってくると警戒していたんだ。
「そ、それは片桐君の子供だけじゃないかい?」
「善君、大丈夫。秋久はしっかり鍛えなおしてやるから」
酒井夫妻がやってきた。
秋久君も聞いた話の限りだと十分凄いと思うけど。
姉の陽葵や菫にあわせて一人で立てるのを隠して伝い立ちするふりをしてたらしい。
過剰に色々要求されるのを面倒臭がっているようだ。
それが晶さんは気に入らないのだろう。
酒井家の子供は必ず誘拐されるらしい。
その原因は言うまでもなく晶さんなんだろうけど。
「お前達も大変そうだな」
渡辺夫妻が来た。
「渡辺君ももうすぐそうなるよ」
「そうだな……」
「あ、渡辺君は絶対ダメだからね!」
「愛莉さんどうしたんだい?」
「冬夜さん達は父親だけで集まってしょうもない話をする癖があるの!」
愛莉達はあれから僕達をしっかり監視している。
キャンプの時くらいしかないだろうな。
「それなら、俺を先にまぜてくれないか?」
木元夫妻が来た。
そういや娘が結婚したんだっけ。
「何で父親って娘の結婚でそんなに悩むんだ?」
美嘉さんが聞く。
色々あるんだよ。
「そういう話合いを俺達を除け者にしてやっていたのか冬夜!?」
誠に気づかれた。
「誠たちを入れると色々大変なんだよ」
「どういう意味だ!?」
「……お前だって桐谷君と飲んでるんだろ?その時どんな店行ってるんだよ?」
何を話しているんだ?
「そりゃ、決まってるだろ……あっ!」
少しは成長したらしい。
慌てて口をふさぐ誠。
しかしカンナと亜依さんは見逃さない。
「それは確かに興味あるな?どこ行ってるんだ?」
「何を話していたのか教えてもらえないかな?愛莉達の話は聞いてるよ」
本当に娘を大事にしてたんだと思ったらしい。
で、誠達はどこで何を話しているんだ?
2人が問い詰める。
笑って誤魔化す2人。
しかしそんな時、ホールの入り口が騒がしいのに気づいた。
石原君と酒井君も気づいたみたいだ。
「ちょっと行ってくる」
そう言って僕達は入口に向かった。
(3)
「ですから招待されてない方の来場は……!?」
スタッフの声が止まったのは3人組の両端の男が持っている物騒な道具のせい。
そういう物を持ってここに侵入するならもっとこっそり入ってきた方がいいよ。
ここをどこだと思ってるの?
他の客がいなかったらとっくに殺されても文句を言えない状況だよ。
死人に文句が言えるのかは知らないけど。
「ちょっといいかな?」
「あっ」
スタッフの人に声をかけると振り向いて進路を譲ってくれた。
僕と石原君と片桐君は男たちの前に立つ。
「君達誰?」
「原川組の者と言えば分かっていただけるかな?」
片桐君は動じなかった。
原川組の事は知っている。
子供達のグループSHと敵対したFGを陰で操る団体。
早い話が暴力団。
誠心会という巨大な組織の中核らしい。
でもそんなもので怯えるような人たちじゃないよこの人達。
平気で米国に喧嘩売りそうな人たちだよ?
自分の立場を分かっているのだろうか?
「失礼ですが、その様な方をお招きした覚えはありません。お引き取り願います」
石原君が冷静に対応する。
「あまり俺達を舐めない方がいい」
そう言うと両端の2人が銃口を僕達に向ける。
面倒な事をしてくれる。
舐めてるのは君達だよ。
恋愛小説だと言うのに平気で人が死ぬ物語だよ?
それも不治の病なんて生易しい物じゃない。
無理矢理戦場に立たせて「人間の壁」と称して弾除けに使うくらい酷い連中だよ。
「拳銃抜いたからには……命かけろよ」
片桐君が言う。
それがサイン。
僕と石原君は警告無しに発砲した。
両端の男の眉間に命中してその場に倒れた。
床に流れる赤い液体。
さすがに原川という男も驚いたらしい。
「な、何の真似だ?」
「そいつは脅しの道具じゃない。そんなもの持ち出してただで帰すほど甘っちょろい集団じゃないよ?」
片桐君は笑みを浮かべる。
何か真相を知ってる?
その証拠に片桐君達は話を続ける。
「原川組だっけ?子供達の暴走を止められないから親を脅しに来たってところかな?」
SHは圧倒的な戦力を持っている。
蹂躙するだけの戦力を大地と善明に与えている。
だから、大元を抑えて動けなく出来る作戦というわけか。
やっぱり馬鹿だ。
そんな戦力を子供達に持たせる親がどうしてこの程度の脅しで怯むと勘違いしたのだろう。
だけどこの状況でもまだ原川という男は余裕を持っている。
その余裕の正体も片桐君は知ってるみたいだけど。
「俺に危害を加えたら地元はただじゃ済まなくなるぞ……俺は」
「誠心会の会長の息子だから?」
片桐君は昔からそうだ。
まず相手の出方を伺って確実に潰していく。
今回の件も多分全部カードを把握したんだろう。
「自惚れるなよ?誠心会だかなんだか知らないけど高々チンピラ風情が僕達に何かできると思った?」
「片桐君の言う通りね。大人が出るなら私達も遠慮なく介入するわよ」
「恵美だけじゃない私も参加するわ。久々にふざけた連中が出て来たわね。徹底的に潰してやるわ」
一番刺激したらいけない恵美さんと晶ちゃんが出て来た。
そろそろ君の葬儀の手配した方がいいんじゃないかい?
僕達に止めるなんて真似無理だからね。
それでもおかしい。
まだ余裕を持っている。
片桐君も何かを待っている。
それが片桐君の特徴。
ほら、先に手札を出せよと言わんばかりに挑発する。
先に出した方が大体負ける。
片桐君もそれなりに修羅場を抜けて来たからね。
案の定相手は先に手札を見せた。
「地元4大企業だか何だか知らないが、調子に乗るなよ。たかだか井の中の蛙が……」
「アルテミス」
片桐君が封じた。
初めて聞く名前を出した。
ちらりと誠君を見る。
……なるほど、全部お見通しだったわけか。
「僕達の事を少しだけ教えてあげる。子供達のSHなんてまだかわいい方だ。僕達に手を出したら破滅しか保証はしないよ」
大体勘違いしてないか?
地元4大企業と呼ばれているけどその活動範囲はそんなもんじゃない。
娘の機嫌ひとつで世界の富豪を地獄に突き落とす程度は出来る集団だ。
日本で1,2位を争うグループだか何だか知らないけど破産したいなら望みを叶えてやる。
「俺達に喧嘩を売ろうって言うのか?」
「やっぱり君頭悪くない?」
片桐君が挑発する。
「この場所に拳銃持ってのこのこ現れてただで済ます生温い集団だと思った?先に喧嘩を売ったのはお前だ。育児も終わって暇だし適当に相手してやるから心配するな」
ここをどこだと思ってる。
ある意味大使館より厄介な場所だよ。
石ころ投げ入れただけで核兵器の使用も辞さない江口家の本家だ。
「……後悔するなよ?」
「本当に君頭悪そうだね」
公生が出て来た。
「子供の喧嘩で済ませてやろうというのを君の馬鹿な行動が無駄にした。どれだけデカい集団か知らないけど、規模を把握された君達に何ができるの?」
そっちの動きはもう全部把握できる。
そんなに死にたいなら殺してやるからさっさとやろう。
この程度の交渉も出来ないガキにどうこうできる渡辺班じゃないよ?
「本来ならこの場でバラバラにして家に送り返してやるところだけどめんどくさいゴミが二つある。今は大人しくゴミを持って家に帰れ」
片桐君がそう言うと原川は2人の遺体を抱えて立ち去った。
「もうちょっと粘ると思ったけど案外堪え性がない男みたいだね」
片桐君がそう言って笑う。
「で、アルテミスってどんな集団なの?」
恵美さんが聞いていた。
「さっき言ったろ?日本で1,2位を争う企業グループだよ」
「またとんでもないのが出てきましたね」
石原君が言う。
「そんな大したものじゃ無いよ」
企業と暴力団の癒着。
暴力団の資金源にはなる。
敵対企業を脅す力になる。
そんな協力関係で出来てる情けない集団。
その情報をどっかもっていけばすぐにでも解体できる。
「その事をいつから知っていたのかい?」
僕が片桐君に聞いていた。
片桐君は説明した。
前から誠心会の背後に何かいると思っていたらしい。
だから誠君に探ってもらった。
そして出た結論が月。
アルテミス。
月の女神として有名だね。
彼等の商売は広い分野にあった。
しかし競合企業もいる。
そこに誠心会の力を借りて仕事を妨害している。
逆に言うとそうでもしないと太刀打ちできない程度の力。
なんとしてもトップになりたいか、それともトップを死守したいか。
その気になれば日本でトップに成り上りそうな地元企業を看過できなくなった。
小心者のやる事だ。
それでSHの名前を使って九州の闇を制圧する。
たかだか九州と思っていたらしいが、彼等は各地方で小競り合いをしている。
そんな中で確固たる地位を築けるエリアがあるなら確保したい。
「でも、不思議じゃない?闇はそれでよくてもそれじゃ企業としては成り立たないでしょ?」
恵美さんが聞いていた。
そして片桐君はその答えを持っていた。
「IRIS」
片桐君が発した言葉。
「片桐君や、それは確か空達が完全に消滅させたんじゃないのかい?」
「僕もそう思ってた。だけど見落としがいくつかあった」
見落とし?
「まず完全に消滅させたと思っていたのが一つ」
過去の事件で高橋蒼良から買い取った情報が残ってた。
その買い取った相手がアルテミス。
月……か。
「でもあの情報はパパさんが全部提出したから意味がないって冬夜さんがおっしゃってたじゃないですか?」
愛莉さんの言う通りだ。
もはや使い古された何の意味もないファイル。
だから高橋グループが事件を起こした。
「それが二つ目の見落とし」
どうしてあんな事件を起こしてまでIRISに拘ったのか。
「こだわる理由なんてあるんですか?」
石原君が聞いている。
「IRISの情報自体は使い道がない。だけど一つ忘れてた」
「それは?」
IRIS……太陽の騎士団に連なる企業リスト。
片桐君の推測はこうだ。
多分あのリストに載っていた企業は生き残るのに必死だろう。
高橋グループはもう使えない。
それを使えると思わせる為にあんな猿芝居をした。
しかしそれを空が潰した。
するといよいよ生き残れなくなる。
企業だけじゃない、政治家や、著名人も慌てるだろう。
そこにアルテミスが助力してやるだけでいい。
あとは障害である4大企業と渡辺班を潰すだけ。
そうすればSHだけなら容易く抑え込める。
表と裏を両方制圧するきっかけになる。
それが片桐君の行きついた結論。
「ゴキブリみたいにしぶとい連中ね」
恵美さんが言うと「だからFGと手を組んだんだろ?」と片桐君が返す。
「指揮官様は衰えをしらないようだね」
公生がそう言って笑った。
「これからどうするつもりだい?」
僕が尋ねると片桐君は答えた。
「まずは相手の出方かな」
「大丈夫なの?誘拐までしてくる連中よ?」
誘拐される原因を作ってる晶ちゃんが言う。
「それは原川組とかいう連中の仕業だろ?」
そんな小者子供達が片付けるだろ。
何となく分かった。
「片桐君の狙いはあくまでアルテミス?」
僕が言うと頷いた。
「現時点で原川組が出て来た。ご丁寧に名乗り出た。それで今は十分」
原川組を潰していれば絶対に何らかのアクションをアルテミスが起こすはず。
「そのしっぽを捕まえたらいいわけだな?」
渡辺君が聞いていた。
「そうだね。時期を間違えたらいけない。さっきも言ったけどこっちの切り札は誠が持ってる」
それをうまいタイミングでマスコミにたれ流せば勝手に自滅する。
出てこないなら敵対相手に売り飛ばしてやればいい。
いい様に利用して潰してくれるだろ。
だけど孫を育てないといけない子供達にそこまで任せられない。
晶さんじゃないけど子供を取引相手に使おうと企む連中もあるだろう。
「原川組は放っておいていいの?」
亜依さんが聞いていた。
「それは大丈夫だよ」
馬鹿なのかどうか知らないけどわざわざSHに喧嘩売ったらしい。
SHに手出しをしてその報復を受けて焦ってここにのこのこ来たんだろう。
つまりはその程度の連中って事だよ。
「あまりそこまで関与すると、天音が怒り出すからね」
私の獲物を横取りするな。
天音なら言い出しかねないな。
「全くあの子は自分の立場を弁えているのでしょうか」
愛莉さんがため息を吐く。
そうやら善明が危惧していたことが怒ろうとしているらしい。
「日本を地獄に変えてやる」
天音がいつか言いだしそうな気がして不安だった。
「あら?莉子ちゃん達じゃない」
「瞳子?」
皆が同じ学校に通っていて、皆が同じ目的で出かけたらこうなることは分かっていた。
冬吾や冬莉、崇博達が一緒のバス停に集まっていた。
今日は七夕祭りの最終日。
花火大会の日。
みんな恋人と見に行こうと思っていたみたいだ。
俺と莉子も今年から中学生だから2人で見てきなさいと愛莉から言われた。
愛莉達は江口家のパーティに呼ばれたらしい。
みんなと話をしながらバスを待って、バスに乗り込むと地元駅前に向かう。
「僕達はフードコート行くから冬眞達はこの店に行くといいよ」
そう言って冬吾が店を教えてくれた。
から揚げが美味しいお店らしい。
見た目は古風な喫茶店のお店。
冬吾のおすすめだけあって美味しかった。
それから短冊と見ながら莉子と商店街を歩いていた。
商店街を出ると会場まで歩く。
人がいっぱいいたので、はぐれないように手をつないでいた。
莉子は少し恥ずかしそうにいしていた。
今さら恥ずかしがることじゃないだろ?
「会場の出店は諦めろ」
分かれる際に冬吾が言っていた。
見る場所を確保したいなら諦めろ。
河川敷まで出てしまったら戻るのが大変。
途中でソースでもこぼしたら大惨事だから。
その代わり橋の近くにある出店でジュースだけは確保しておけ。
冬吾はもう慣れてるんだな。
「冬眞、あそこ空いてる」
莉子が場所を見つけたみたいなのでそこに行く。
とはいえ周りは大人。
クラスでは背が高い方だけど大人とは比べ物にならない。
まあ、花火は上の方で咲くからいいけど。
ただ川面付近の仕掛け花火は諦めるしかないかな。
何となく莉子を見ていた。
いつも通りお洒落している。
莉子はミニスカートも好む。
今日もそうだった。
俺も男だ。
莉子くらい肩車する事は出来る。
しかし莉子の姿でそれをしたら変態にならないか?
そんな風に莉子を見て考えていると、俺の視線に莉子が気づいた。
どうしたの?
相談するくらいいいだろう。
そう思って話した。
ダメだったみたいだ。
ぽかっ
「そんな事しなくてもいいよ。一緒に花火を見れることに意味があるんだよ」
そんな事するくらいなら……。
そう言って莉子は手を離して俺の腕にしがみつく。
「これでいいでしょ?」
「莉子がいいならいいよ」
「冬眞は嬉しくないの?」
「そんなわけないだろ」
そうして花火を見ていた。
長いようで短い1時間のショー。
終るとバス停に向かって歩き出す。
「今夜はどうする?」
何の事かは大体察しがついた。
「まあ、父さん達も遅くなるみたいなこと言ってたけど」
でも俺達も結構遅いよな。
「あんまり愛莉達の事は気にしなくていいんじゃないかな?」
「どうして?」
「愛莉達気づいてるよ」
え?
莉子も努力はしたらしい。
なるべく声を出さないように努力していたそうだ。
それでも父さん達に聞こえていたらしい。
莉子は愛莉に聞かれたらしい。
愛莉も女性だからだろうか?
「初めてはどうだった?」
そんな話を莉子にしたらしい。
そういや最近父さん飲みに行ってたな。
遠坂のおじさんとも飲んでいた。
「消極的なのも考え物だけど、そんないつもしてると体目当てだと思われちゃうかもよ」
そんな事を冬莉から聞いていた。
そういう事だったのか。
まだ中学生。
する場所なんて家しかない。
そういう面では俺達は恵まれていた。
同じ家に住んでいて同じ部屋で過ごしている。
崇博達はどうなんだろう?と聞いたことがある。
頼子は普通に自分の家に連れて来てするらしい。
父親は父さんと同じらしいけど「中学生なんだから当然でしょ!?」と母親から怒られるらしい。
善斗と善久にいたっては母親から「彼女に恥かかせるんじゃない!」と怒られるらしい。
岳也も同様だった。
微妙に違うのは杏采だった。
崇博の家に遊びに行った時に崇博の両親が喧嘩してる声が聞こえたらしい。
「誠、何やってんだ?」
「いや、杏采ちゃんって結構清純そうだからさ……」
「お前のその馬鹿な癖はいつになったら治るんだ!?」
とてもじゃないけど崇博の家では無理だと思ったので、覚悟を決めて杏采の家に泊ったらしい。
意外だったそうだ。
「うちの家は全室防音してるから気兼ねなくしなさい」
杏采の母親に言われたらしい。
父親は……。
「まだ、孫だけは勘弁してね」
そう言って笑っていたらしい。
千帆と姫乃は自宅だけは絶対に嫌だと主張していた。
理由は父親だろう。
そんな話をしながらバス停に着くと冬吾達がやっぱりいた。
まあ、このバスしか帰る手段ないよな。
よく考えたら自転車で来ればよかったのかもしれないけど、会場の近くに自転車置き場がなかった。
莉子は歩美たちと話をしていた。
俺も崇博達と話をしていた。
「そういや、誠司は?」
俺は崇博に聞いてみた。
「家でゲームしてるって言ってた」
親は江口家のパーティ。
そんなとこ行ってもつまんないから適当に出前頼んでそれ食べてゲームしてるらしい。
「誠司はもう彼女作らないのか?」
「あんまりそういう話しずらくてさ」
誠司の父親もそういう話は誠司としないらしい。
誠司がその気になるまで。
誠司をその気にさせる女子が現れるまでそっとしておくつもりらしい。
それは冬吾も言ってる。
今の誠司でも探そうと思えばいくらでも見つかるだろう。
だけどそれは誠司の見てくれしか見てくれない薄っぺらな関係。
それは誠司も分かっている。
だから告白を受けても断っているのだろう。
1度犯した過ちは2度と繰り返さない。
そう誓ったのだろう。
後は神様が2度目のチャンスをいつ与えてくれるか。
そんな話をしているうちにバス停に着いた。
バスを降りると家に帰る。
父さん達は帰ってきていた。
「あら、早かったのね?」
愛莉が言った。
「別にどこかに寄る必要もないし」
莉子が答える。
てか普通親なら注意する時間じゃないのか?
「夏休みだからってあまり夜更かししたらいけませんよ。お風呂に入ったら早く寝なさい」
莉子の肌が荒れたら大変だと言う。
普通の親なら「勉強しなさい」という時間なんだけど。
莉子も愛莉に従って風呂に入って部屋に戻る。
俺はいつも莉子の後に入る。
女の子の残り湯に不老不死の効能があるとか信じてる馬鹿じゃない。
それを実践して怒られたのが姫乃と歩美の父親だけど。
後に入る理由は、莉子も女の子だ。
茜の3倍くらい風呂に入っている。
母さんがたまに湯あたりして倒れているんじゃないかと心配するくらい長い。
理由は簡単。
風呂の中で本を読んだり、スマホ弄ってるから。
もちろん普通の女の子並みにはちゃんと洗っている。
理由はもう一つある。
莉子は風呂が出た後の髪の毛の手入れが異様に長い。
髪の毛を伸ばしてるから仕方ないんだけど。
さすがにパックとかはしない。
でもその時間にゲームとかテレビ観たりとかしてると「少しは彼女に構ってよ!」と怒り出す。
それを愛莉に相談したらしく、「少しは莉子の事も気づかってあげなさい!」と俺が怒られた。
どうしたものかと悩んでいると父さんが「莉子が先に入ったらいいんじゃないか?」とアドバイスしてくれた。
で、後に入っている。
偶に茜が風呂に入ろうとしていて茜が服を脱いでる所に遭遇して焦る時がある。
茜も冬莉もまったく気にしてないけど。
だけど冬吾と俺は悩む。
そこで”入浴中”と書いたプレートをドアノブにかけておくルールが我が家にはあった。
俺が風呂を出ると父さんに「風呂空いたよ」という。
「ありがとう、でも母さん待つから」
「どうして?」
「たまには母さんと入ろうと思ってね」
「冬夜さん、子供に言う事じゃありません」
愛莉が困っていた。
「嫌なの?」
「そんなわけないじゃないですか」
「じゃあ、いいだろ?」
「えへへ~」
そんなやりとりを聞きながら部屋に戻る。
莉子の手入れは終っていたみたいだ。
「さすがに朝起きれなかったら愛莉に怒られそうだから寝ようか?」
「そうだね」
「その代わりお願いがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「抱いて眠りたい」
「分かったよ」
そうして長い夏休みを過ごしていた。
(2)
「あ、片桐君」
「あ、石原君。今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ来てくれてありがとうございます」
「でもいいのかい?お偉いさんの集まるパーティじゃないの?」
「あら?片桐君もその一人だと思ったのだけど」
恵美さんが来た。
無礼な輩は問題外だが、お世辞ばかりの挨拶をしていてもつまらないと恵美さんと晶さんが思ったそうだ。
そこで渡辺班の皆もそろそろ育児で多忙な毎日から抜け出せそうだし、皆を呼ぼうと恵美さんと石原君が決めたらしい。
それで渡辺班に無礼な真似をしたらまたハロワが混雑することになる。
ハロワの職員に「求人票のコピーくらい1分で出来るだろ!?何分待たせる気だ!」と怒鳴った男性がいるらしい。
その態度で面接受けるつもりなのだろうかと不思議に思ったけど。
「お、冬夜。久しぶり」
誠と桐谷君が来た。
「天音はまだ産むつもりらしいな」
誠が言う。
「水奈に追い抜かれた事が悔しいみたいでね」
水奈と天音はまた子供が出来たらしい。
しかも水奈はまた双子。
つまり子供の数で水奈に負けたのが天音は悔しいみたいだ。
普通はそんなにいっぺんに産んで大変じゃないのかと思うんだけど。
「天音だって双子で苦労してるのに何を考えているのかしら」
愛莉が悩んでいた。
「瑛大、学には言っておけよ。絶対に産むところだけは見るなと」
「なんでだ?」
そういや桐谷君は亜依さんが出産中アイドルのライブに行ってたんだっけ。
「そうだな……」
誠が何か考えている。
どうせろくでもないことだろうけど。
その証拠に背後にカンナが立っているのに気づいてる素振りがない。
「嫁さんを抱けなくなるぞ……マジで。俺だって10年くらい無理だったから……いてぇ!」
「どうしてお前はそういう風に他の夫婦まで巻き込むんだ!」
ほら、怒られた。
「でも冬夜さん普通に夜の相手してくれましたよ」
「だから愛莉は旦那に恵まれてるんだって」
亜依さんも来たみたいだ。
「桐谷君はどうだったの?」
愛莉が聞いていた。
「仕事もあったしね。あんまり相手して無かったかな。育児と仕事の両立は結構辛かった」
「分かる。私もそれで最初育休にしてたんだけど退職したよ」
カンナも苦労したんだろうな。
しかも父親が誠だと娘と2人きりにすることを恐れていたんだろう。
「で、恋を産んで瑛大の興味はそっちにいっちゃってね」
育児を手伝ってくれるならそれでもいいと思ったらしい。
しかし、現実は甘くない。
生まれて間もない恋、偶に泣きわめくか寝ているだけの恋。
すぐに飽きてライブに通うようになったらしい。
その代わりに学が面倒を見ていたそうだ。
だから水奈の育児は多分大丈夫なはずと亜依さんが言っていた。
「まあ、私も見に行ってるんだけど……」
カンナが頭を抱えていた。
天音と全く同じ行動をとっているらしい。
さすがに学が帰ってきたら、学が叱ってるらしいけど。
誠に意地悪を言ってやった。
「誠……覚悟したほうがいいぞ?」
「な、なんかあるのか?」
孫娘に「くたばれ」とか言われたら誠の方がショック受けそうだから。
「ま、まじか!?冬夜も言われたのか?」
「茉莉も結莉も才能あるみたいでね」
最初は僕が間合いに入ってくると警戒していたんだ。
「そ、それは片桐君の子供だけじゃないかい?」
「善君、大丈夫。秋久はしっかり鍛えなおしてやるから」
酒井夫妻がやってきた。
秋久君も聞いた話の限りだと十分凄いと思うけど。
姉の陽葵や菫にあわせて一人で立てるのを隠して伝い立ちするふりをしてたらしい。
過剰に色々要求されるのを面倒臭がっているようだ。
それが晶さんは気に入らないのだろう。
酒井家の子供は必ず誘拐されるらしい。
その原因は言うまでもなく晶さんなんだろうけど。
「お前達も大変そうだな」
渡辺夫妻が来た。
「渡辺君ももうすぐそうなるよ」
「そうだな……」
「あ、渡辺君は絶対ダメだからね!」
「愛莉さんどうしたんだい?」
「冬夜さん達は父親だけで集まってしょうもない話をする癖があるの!」
愛莉達はあれから僕達をしっかり監視している。
キャンプの時くらいしかないだろうな。
「それなら、俺を先にまぜてくれないか?」
木元夫妻が来た。
そういや娘が結婚したんだっけ。
「何で父親って娘の結婚でそんなに悩むんだ?」
美嘉さんが聞く。
色々あるんだよ。
「そういう話合いを俺達を除け者にしてやっていたのか冬夜!?」
誠に気づかれた。
「誠たちを入れると色々大変なんだよ」
「どういう意味だ!?」
「……お前だって桐谷君と飲んでるんだろ?その時どんな店行ってるんだよ?」
何を話しているんだ?
「そりゃ、決まってるだろ……あっ!」
少しは成長したらしい。
慌てて口をふさぐ誠。
しかしカンナと亜依さんは見逃さない。
「それは確かに興味あるな?どこ行ってるんだ?」
「何を話していたのか教えてもらえないかな?愛莉達の話は聞いてるよ」
本当に娘を大事にしてたんだと思ったらしい。
で、誠達はどこで何を話しているんだ?
2人が問い詰める。
笑って誤魔化す2人。
しかしそんな時、ホールの入り口が騒がしいのに気づいた。
石原君と酒井君も気づいたみたいだ。
「ちょっと行ってくる」
そう言って僕達は入口に向かった。
(3)
「ですから招待されてない方の来場は……!?」
スタッフの声が止まったのは3人組の両端の男が持っている物騒な道具のせい。
そういう物を持ってここに侵入するならもっとこっそり入ってきた方がいいよ。
ここをどこだと思ってるの?
他の客がいなかったらとっくに殺されても文句を言えない状況だよ。
死人に文句が言えるのかは知らないけど。
「ちょっといいかな?」
「あっ」
スタッフの人に声をかけると振り向いて進路を譲ってくれた。
僕と石原君と片桐君は男たちの前に立つ。
「君達誰?」
「原川組の者と言えば分かっていただけるかな?」
片桐君は動じなかった。
原川組の事は知っている。
子供達のグループSHと敵対したFGを陰で操る団体。
早い話が暴力団。
誠心会という巨大な組織の中核らしい。
でもそんなもので怯えるような人たちじゃないよこの人達。
平気で米国に喧嘩売りそうな人たちだよ?
自分の立場を分かっているのだろうか?
「失礼ですが、その様な方をお招きした覚えはありません。お引き取り願います」
石原君が冷静に対応する。
「あまり俺達を舐めない方がいい」
そう言うと両端の2人が銃口を僕達に向ける。
面倒な事をしてくれる。
舐めてるのは君達だよ。
恋愛小説だと言うのに平気で人が死ぬ物語だよ?
それも不治の病なんて生易しい物じゃない。
無理矢理戦場に立たせて「人間の壁」と称して弾除けに使うくらい酷い連中だよ。
「拳銃抜いたからには……命かけろよ」
片桐君が言う。
それがサイン。
僕と石原君は警告無しに発砲した。
両端の男の眉間に命中してその場に倒れた。
床に流れる赤い液体。
さすがに原川という男も驚いたらしい。
「な、何の真似だ?」
「そいつは脅しの道具じゃない。そんなもの持ち出してただで帰すほど甘っちょろい集団じゃないよ?」
片桐君は笑みを浮かべる。
何か真相を知ってる?
その証拠に片桐君達は話を続ける。
「原川組だっけ?子供達の暴走を止められないから親を脅しに来たってところかな?」
SHは圧倒的な戦力を持っている。
蹂躙するだけの戦力を大地と善明に与えている。
だから、大元を抑えて動けなく出来る作戦というわけか。
やっぱり馬鹿だ。
そんな戦力を子供達に持たせる親がどうしてこの程度の脅しで怯むと勘違いしたのだろう。
だけどこの状況でもまだ原川という男は余裕を持っている。
その余裕の正体も片桐君は知ってるみたいだけど。
「俺に危害を加えたら地元はただじゃ済まなくなるぞ……俺は」
「誠心会の会長の息子だから?」
片桐君は昔からそうだ。
まず相手の出方を伺って確実に潰していく。
今回の件も多分全部カードを把握したんだろう。
「自惚れるなよ?誠心会だかなんだか知らないけど高々チンピラ風情が僕達に何かできると思った?」
「片桐君の言う通りね。大人が出るなら私達も遠慮なく介入するわよ」
「恵美だけじゃない私も参加するわ。久々にふざけた連中が出て来たわね。徹底的に潰してやるわ」
一番刺激したらいけない恵美さんと晶ちゃんが出て来た。
そろそろ君の葬儀の手配した方がいいんじゃないかい?
僕達に止めるなんて真似無理だからね。
それでもおかしい。
まだ余裕を持っている。
片桐君も何かを待っている。
それが片桐君の特徴。
ほら、先に手札を出せよと言わんばかりに挑発する。
先に出した方が大体負ける。
片桐君もそれなりに修羅場を抜けて来たからね。
案の定相手は先に手札を見せた。
「地元4大企業だか何だか知らないが、調子に乗るなよ。たかだか井の中の蛙が……」
「アルテミス」
片桐君が封じた。
初めて聞く名前を出した。
ちらりと誠君を見る。
……なるほど、全部お見通しだったわけか。
「僕達の事を少しだけ教えてあげる。子供達のSHなんてまだかわいい方だ。僕達に手を出したら破滅しか保証はしないよ」
大体勘違いしてないか?
地元4大企業と呼ばれているけどその活動範囲はそんなもんじゃない。
娘の機嫌ひとつで世界の富豪を地獄に突き落とす程度は出来る集団だ。
日本で1,2位を争うグループだか何だか知らないけど破産したいなら望みを叶えてやる。
「俺達に喧嘩を売ろうって言うのか?」
「やっぱり君頭悪くない?」
片桐君が挑発する。
「この場所に拳銃持ってのこのこ現れてただで済ます生温い集団だと思った?先に喧嘩を売ったのはお前だ。育児も終わって暇だし適当に相手してやるから心配するな」
ここをどこだと思ってる。
ある意味大使館より厄介な場所だよ。
石ころ投げ入れただけで核兵器の使用も辞さない江口家の本家だ。
「……後悔するなよ?」
「本当に君頭悪そうだね」
公生が出て来た。
「子供の喧嘩で済ませてやろうというのを君の馬鹿な行動が無駄にした。どれだけデカい集団か知らないけど、規模を把握された君達に何ができるの?」
そっちの動きはもう全部把握できる。
そんなに死にたいなら殺してやるからさっさとやろう。
この程度の交渉も出来ないガキにどうこうできる渡辺班じゃないよ?
「本来ならこの場でバラバラにして家に送り返してやるところだけどめんどくさいゴミが二つある。今は大人しくゴミを持って家に帰れ」
片桐君がそう言うと原川は2人の遺体を抱えて立ち去った。
「もうちょっと粘ると思ったけど案外堪え性がない男みたいだね」
片桐君がそう言って笑う。
「で、アルテミスってどんな集団なの?」
恵美さんが聞いていた。
「さっき言ったろ?日本で1,2位を争う企業グループだよ」
「またとんでもないのが出てきましたね」
石原君が言う。
「そんな大したものじゃ無いよ」
企業と暴力団の癒着。
暴力団の資金源にはなる。
敵対企業を脅す力になる。
そんな協力関係で出来てる情けない集団。
その情報をどっかもっていけばすぐにでも解体できる。
「その事をいつから知っていたのかい?」
僕が片桐君に聞いていた。
片桐君は説明した。
前から誠心会の背後に何かいると思っていたらしい。
だから誠君に探ってもらった。
そして出た結論が月。
アルテミス。
月の女神として有名だね。
彼等の商売は広い分野にあった。
しかし競合企業もいる。
そこに誠心会の力を借りて仕事を妨害している。
逆に言うとそうでもしないと太刀打ちできない程度の力。
なんとしてもトップになりたいか、それともトップを死守したいか。
その気になれば日本でトップに成り上りそうな地元企業を看過できなくなった。
小心者のやる事だ。
それでSHの名前を使って九州の闇を制圧する。
たかだか九州と思っていたらしいが、彼等は各地方で小競り合いをしている。
そんな中で確固たる地位を築けるエリアがあるなら確保したい。
「でも、不思議じゃない?闇はそれでよくてもそれじゃ企業としては成り立たないでしょ?」
恵美さんが聞いていた。
そして片桐君はその答えを持っていた。
「IRIS」
片桐君が発した言葉。
「片桐君や、それは確か空達が完全に消滅させたんじゃないのかい?」
「僕もそう思ってた。だけど見落としがいくつかあった」
見落とし?
「まず完全に消滅させたと思っていたのが一つ」
過去の事件で高橋蒼良から買い取った情報が残ってた。
その買い取った相手がアルテミス。
月……か。
「でもあの情報はパパさんが全部提出したから意味がないって冬夜さんがおっしゃってたじゃないですか?」
愛莉さんの言う通りだ。
もはや使い古された何の意味もないファイル。
だから高橋グループが事件を起こした。
「それが二つ目の見落とし」
どうしてあんな事件を起こしてまでIRISに拘ったのか。
「こだわる理由なんてあるんですか?」
石原君が聞いている。
「IRISの情報自体は使い道がない。だけど一つ忘れてた」
「それは?」
IRIS……太陽の騎士団に連なる企業リスト。
片桐君の推測はこうだ。
多分あのリストに載っていた企業は生き残るのに必死だろう。
高橋グループはもう使えない。
それを使えると思わせる為にあんな猿芝居をした。
しかしそれを空が潰した。
するといよいよ生き残れなくなる。
企業だけじゃない、政治家や、著名人も慌てるだろう。
そこにアルテミスが助力してやるだけでいい。
あとは障害である4大企業と渡辺班を潰すだけ。
そうすればSHだけなら容易く抑え込める。
表と裏を両方制圧するきっかけになる。
それが片桐君の行きついた結論。
「ゴキブリみたいにしぶとい連中ね」
恵美さんが言うと「だからFGと手を組んだんだろ?」と片桐君が返す。
「指揮官様は衰えをしらないようだね」
公生がそう言って笑った。
「これからどうするつもりだい?」
僕が尋ねると片桐君は答えた。
「まずは相手の出方かな」
「大丈夫なの?誘拐までしてくる連中よ?」
誘拐される原因を作ってる晶ちゃんが言う。
「それは原川組とかいう連中の仕業だろ?」
そんな小者子供達が片付けるだろ。
何となく分かった。
「片桐君の狙いはあくまでアルテミス?」
僕が言うと頷いた。
「現時点で原川組が出て来た。ご丁寧に名乗り出た。それで今は十分」
原川組を潰していれば絶対に何らかのアクションをアルテミスが起こすはず。
「そのしっぽを捕まえたらいいわけだな?」
渡辺君が聞いていた。
「そうだね。時期を間違えたらいけない。さっきも言ったけどこっちの切り札は誠が持ってる」
それをうまいタイミングでマスコミにたれ流せば勝手に自滅する。
出てこないなら敵対相手に売り飛ばしてやればいい。
いい様に利用して潰してくれるだろ。
だけど孫を育てないといけない子供達にそこまで任せられない。
晶さんじゃないけど子供を取引相手に使おうと企む連中もあるだろう。
「原川組は放っておいていいの?」
亜依さんが聞いていた。
「それは大丈夫だよ」
馬鹿なのかどうか知らないけどわざわざSHに喧嘩売ったらしい。
SHに手出しをしてその報復を受けて焦ってここにのこのこ来たんだろう。
つまりはその程度の連中って事だよ。
「あまりそこまで関与すると、天音が怒り出すからね」
私の獲物を横取りするな。
天音なら言い出しかねないな。
「全くあの子は自分の立場を弁えているのでしょうか」
愛莉さんがため息を吐く。
そうやら善明が危惧していたことが怒ろうとしているらしい。
「日本を地獄に変えてやる」
天音がいつか言いだしそうな気がして不安だった。
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