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脆く崩れる未来
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(1)
「冬吾。瞳子が来たわよ」
母さんが言うと僕はゲームを止めて玄関に向かう。
びっくりした。
瞳子は浴衣姿だった。
「とりあえず褒めとけ」
父さんが言ってたのを思い出した。
「似合ってるよ」
「ありがとう。……でもそれもお父さんに言われたの?」
偶に瞳子は意地が悪い。
そんな僕達を見て母さんが、さらに悪戯をする。
「瞳子。こういう時期は着物姿でいるのが一番なのよ」
父さんも母さんが着物姿だと優しかったらしい。
きっと僕も同じだと言って笑っていた。
「参考にします」
瞳子の機嫌は良いみたいだ。
「じゃ、そろそろ行ってきます」
「ちゃんと瞳子の事を考えてあげなさい」
歩幅やトイレの事も気づかってあげて。
浴衣姿でお手洗いはあるようでないから。
ただでさえ混雑するから。
浴衣だから大股で歩けない。
手を繋いでゆっくり歩いてあげなさい。
母さんが教えてくれた。
結構大変なんだな。
母さんから色々アドバイスを受けるとバス停に向かう。
自転車で行こうと考えたけど事前に瞳子が浴衣で来るって言ってたから止めといた。
早めのバスに乗って早めに夕食を済ませる。
小さいときは読めなかった短冊の願い事が読めるようになった。
商店街の短冊を見ながらのんびりと会場に向かった。
しかし、やっぱり観客が多い。
何とか場所を確保すると、瞳子に「座りなよ。きついでしょ」と言った。
「ごめん、気持ちは嬉しいんだけどそれは無理だよ」
折角の浴衣を土で汚したくない。
そっか。
こんなところに瞳子一人残して出店で食べ物買うわけにもいかないな。
大人しく花火が上がるのを待っていた。
花火が始まると黙ってそれを見ていた。
しっかり瞳子の手は握っている。
ふと瞳子の横顔に見とれていた。
花火の明かりに照らされる瞳子がとても綺麗だった。
写真に収めたいくらい。
そんな僕の視線に気づいた瞳子がこっちを見た。
「だめだよ、花火見に来たんだから」
そう言って瞳子が笑っていた。
そして花火が終ると皆が大移動を始める。
近くの駐車場に車を止めてる人も橋が何本もかかっていない道路で大混雑に巻き込まれる。
会場からバス停まで10分くらいかかる。
「足痛くない?」
「ありがとう、本当に浴衣だと優しいんだね」
「普段の僕優しくない?」
「……冬吾君の意地悪」
瞳子はそう言って僕の頭を小突いた。
何事もなく今日が終ると思った。
すると瞳子が僕の腕を引っ張る。
「冬吾君。あれ冴じゃない?」
「え?」
瞳子がさす方向を見ると浴衣姿だけど冴がいた。
それは良いんだけど隣にいる男子は誰?
気づかないふりをした方がいいんだろうけど、無理な話だった。
だって同じバスに乗るんだから。
「あ、瞳子……」
冴も僕達に気づいたみたいだ。
少し怯えているみたいだった。
後ろめたい事があるのは何となく分かった。
「冴、その人誰?」
兄ってわけじゃなさそうだけど。
「ああ、中学になってからの友達」
冴はそう言ったけど、僕が見たら友達以上の存在になっているのは間違いなさそうだ。
「冴の知り合い?」
その男子が言う。
「私の友達の瞳子と、その彼氏の冬吾君。瞳子、友達の白石識君」
冴がそう言うとお互い挨拶した。
「今日は誠司君と一緒じゃないの?」
瞳子に悪意はなかった。
だけど冴はぴくっとしていた。
「あいつは今頃川の側のホテルでゆっくりしてるよ」
誠司の母親から聞いたそうだ。
あの馬鹿……
でもそれより……
「誠司はさとり君の事知ってるの?」
僕が聞いてみた。
すると冴は頭を下げてお願いしていた。
「誠司には私からちゃんと話す。だから今は黙ってて」
誠司に悪いんじゃないの?と言える状態じゃないのは何となく分かった。
黙っておくつもりは冴にはないらしい。
ただ夏休みに入って会う機会もない。
誠司は冴の相手をするつもりが無いみたいだし。
そのまま4人でバスに乗って同じバス停で降りてお互い家に帰る。
僕は瞳子を家に送っていた。
「冬吾君は何か感じたの?」
僕の様子がおかしいのに気づいた瞳子が聞いてきた。
「さとり君の事友達って言ってたけど……」
もうそんなレベルの仲の良さじゃない。
冴が動いたら行くところまで一気に行くだろう。
ただ、誠司の存在がそれをとどめているだけ。
誠司に言おうか言うまいか悩んでると言うレベルじゃない。
多分2学期が始まったら時間の問題だろう。
「そうなんだ……誠司君大丈夫かな?」
こんな状態でも誠司の心配をしている瞳子。
だけど僕は非情な判断をする。
「もう駄目だと思う。あいつ自身冴を思い遣る気持ちが無いみたいだし」
僕達が今さら何を言っても駄目だろう。
なるようになるしかない。
どうしてこうなるまで誠司は冴を放っておいた?
瞳子を家に届けると家に帰る。
誠司にメッセージを送っていた。
「誠司今何してる?」
「ああ、ラブホにいる」
「え?」
「中学生でラブホだぜ!?凄いだろ!」
「冴といるの?」
冴と会ったことは隠しておいた。
「んなわけねーじゃん。もっと大人の女性だよ」
「夏休みに冴と会う約束とかしてるの?」
「お前も姉さんみたいなこと言うんだな。あいつ会うと必ず文句言うんだぜ。あってもしらけるだけだよ」
「悪い事言わないから少しは冴の事考えた方がいい」
「大丈夫だよ。どうせ最後には冴と一緒になるんだから、今のうちに楽しんでおかないと」
経験した女性が冴一人じゃつまんねー人生だろ?
誠司は本気で言ってるのだろうか?
最近の冴をちゃんと見たのだろうか?
「じゃ、彼女がシャワーから出てきたからまた今度な」
最初に出会った女性と必ず結ばれる運命。
だけど渡辺さんが言っていた。
「それはお互いの努力があってこその物だ」
縁結びの神様だった渡辺班でもどうにもならないことがあった。
誠司は勘違いしている。
頑張って転がって初めて触れ合う二人の心。
だけど誠司は選択を間違えていることに気づいていない。
恋の神様はいる。
少し悪戯好きの神様。
だけど不誠実な者には容赦しない。
誠司は遠くない未来にその報いを受ける事になる。
「冬吾。瞳子が来たわよ」
母さんが言うと僕はゲームを止めて玄関に向かう。
びっくりした。
瞳子は浴衣姿だった。
「とりあえず褒めとけ」
父さんが言ってたのを思い出した。
「似合ってるよ」
「ありがとう。……でもそれもお父さんに言われたの?」
偶に瞳子は意地が悪い。
そんな僕達を見て母さんが、さらに悪戯をする。
「瞳子。こういう時期は着物姿でいるのが一番なのよ」
父さんも母さんが着物姿だと優しかったらしい。
きっと僕も同じだと言って笑っていた。
「参考にします」
瞳子の機嫌は良いみたいだ。
「じゃ、そろそろ行ってきます」
「ちゃんと瞳子の事を考えてあげなさい」
歩幅やトイレの事も気づかってあげて。
浴衣姿でお手洗いはあるようでないから。
ただでさえ混雑するから。
浴衣だから大股で歩けない。
手を繋いでゆっくり歩いてあげなさい。
母さんが教えてくれた。
結構大変なんだな。
母さんから色々アドバイスを受けるとバス停に向かう。
自転車で行こうと考えたけど事前に瞳子が浴衣で来るって言ってたから止めといた。
早めのバスに乗って早めに夕食を済ませる。
小さいときは読めなかった短冊の願い事が読めるようになった。
商店街の短冊を見ながらのんびりと会場に向かった。
しかし、やっぱり観客が多い。
何とか場所を確保すると、瞳子に「座りなよ。きついでしょ」と言った。
「ごめん、気持ちは嬉しいんだけどそれは無理だよ」
折角の浴衣を土で汚したくない。
そっか。
こんなところに瞳子一人残して出店で食べ物買うわけにもいかないな。
大人しく花火が上がるのを待っていた。
花火が始まると黙ってそれを見ていた。
しっかり瞳子の手は握っている。
ふと瞳子の横顔に見とれていた。
花火の明かりに照らされる瞳子がとても綺麗だった。
写真に収めたいくらい。
そんな僕の視線に気づいた瞳子がこっちを見た。
「だめだよ、花火見に来たんだから」
そう言って瞳子が笑っていた。
そして花火が終ると皆が大移動を始める。
近くの駐車場に車を止めてる人も橋が何本もかかっていない道路で大混雑に巻き込まれる。
会場からバス停まで10分くらいかかる。
「足痛くない?」
「ありがとう、本当に浴衣だと優しいんだね」
「普段の僕優しくない?」
「……冬吾君の意地悪」
瞳子はそう言って僕の頭を小突いた。
何事もなく今日が終ると思った。
すると瞳子が僕の腕を引っ張る。
「冬吾君。あれ冴じゃない?」
「え?」
瞳子がさす方向を見ると浴衣姿だけど冴がいた。
それは良いんだけど隣にいる男子は誰?
気づかないふりをした方がいいんだろうけど、無理な話だった。
だって同じバスに乗るんだから。
「あ、瞳子……」
冴も僕達に気づいたみたいだ。
少し怯えているみたいだった。
後ろめたい事があるのは何となく分かった。
「冴、その人誰?」
兄ってわけじゃなさそうだけど。
「ああ、中学になってからの友達」
冴はそう言ったけど、僕が見たら友達以上の存在になっているのは間違いなさそうだ。
「冴の知り合い?」
その男子が言う。
「私の友達の瞳子と、その彼氏の冬吾君。瞳子、友達の白石識君」
冴がそう言うとお互い挨拶した。
「今日は誠司君と一緒じゃないの?」
瞳子に悪意はなかった。
だけど冴はぴくっとしていた。
「あいつは今頃川の側のホテルでゆっくりしてるよ」
誠司の母親から聞いたそうだ。
あの馬鹿……
でもそれより……
「誠司はさとり君の事知ってるの?」
僕が聞いてみた。
すると冴は頭を下げてお願いしていた。
「誠司には私からちゃんと話す。だから今は黙ってて」
誠司に悪いんじゃないの?と言える状態じゃないのは何となく分かった。
黙っておくつもりは冴にはないらしい。
ただ夏休みに入って会う機会もない。
誠司は冴の相手をするつもりが無いみたいだし。
そのまま4人でバスに乗って同じバス停で降りてお互い家に帰る。
僕は瞳子を家に送っていた。
「冬吾君は何か感じたの?」
僕の様子がおかしいのに気づいた瞳子が聞いてきた。
「さとり君の事友達って言ってたけど……」
もうそんなレベルの仲の良さじゃない。
冴が動いたら行くところまで一気に行くだろう。
ただ、誠司の存在がそれをとどめているだけ。
誠司に言おうか言うまいか悩んでると言うレベルじゃない。
多分2学期が始まったら時間の問題だろう。
「そうなんだ……誠司君大丈夫かな?」
こんな状態でも誠司の心配をしている瞳子。
だけど僕は非情な判断をする。
「もう駄目だと思う。あいつ自身冴を思い遣る気持ちが無いみたいだし」
僕達が今さら何を言っても駄目だろう。
なるようになるしかない。
どうしてこうなるまで誠司は冴を放っておいた?
瞳子を家に届けると家に帰る。
誠司にメッセージを送っていた。
「誠司今何してる?」
「ああ、ラブホにいる」
「え?」
「中学生でラブホだぜ!?凄いだろ!」
「冴といるの?」
冴と会ったことは隠しておいた。
「んなわけねーじゃん。もっと大人の女性だよ」
「夏休みに冴と会う約束とかしてるの?」
「お前も姉さんみたいなこと言うんだな。あいつ会うと必ず文句言うんだぜ。あってもしらけるだけだよ」
「悪い事言わないから少しは冴の事考えた方がいい」
「大丈夫だよ。どうせ最後には冴と一緒になるんだから、今のうちに楽しんでおかないと」
経験した女性が冴一人じゃつまんねー人生だろ?
誠司は本気で言ってるのだろうか?
最近の冴をちゃんと見たのだろうか?
「じゃ、彼女がシャワーから出てきたからまた今度な」
最初に出会った女性と必ず結ばれる運命。
だけど渡辺さんが言っていた。
「それはお互いの努力があってこその物だ」
縁結びの神様だった渡辺班でもどうにもならないことがあった。
誠司は勘違いしている。
頑張って転がって初めて触れ合う二人の心。
だけど誠司は選択を間違えていることに気づいていない。
恋の神様はいる。
少し悪戯好きの神様。
だけど不誠実な者には容赦しない。
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