姉妹チート

和希

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破滅の純情

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(1)

「美希、パスポートが無い!」
「そんなはずありませんよ。ちゃんと昨夜ここにしまっておくからって言ったじゃないですか」

 そんなやりとりをしながら僕と美希は関西国際空港を発った。
 意外と面倒な出国手続き。
 僕達の行先はグァム。
 父さんが「新婚旅行に行っておいで」と手配してくれていた。

「グァムってお土産何が良いのでしょうね?」

 美希も若干テンションが高いみたいだ。
 それより気になるのが父さんが前に言っていた事。

「アメリカのファストフード店のボリュームは日本とは全然違うから気をつけてね」

 どんなものなのだろう?
 メニューも違うらしい。
 父さんはどこに旅行に行っても何か食べ物の情報を持って帰ってくる。
 そしてそれを僕達に教えて母さんに叱られている。
 グァムまでは3時間半らしい。
 その間に行きたいところを探してみた。
 美希はショッピングやバーを楽しみたいらしい。
 僕は一回本物の銃を撃ってみたい。
 あとカートに興味があると言った。
 グァムに着くとすぐに外に出られるわけじゃない。
 入国審査がある。
 それを抜けると荷物を取ってホテルに行く。
 チェックインを済ませて日本円を米ドルに換金する。
 大体はクレジットカードで決済できるけど多少は現金を持っていた方がいいだろうから。
 ホテルを出ると沢山のタクシー運転手が勧誘する。
 観光案内もしてくれるらしいから乗る事にした。
 初日はそんなに時間もないからショッピングを楽しむ程度がいい。
 そうカタログに書いてあったのでショッピングにちょうどいい所を案内してもらう。
 問題はそこからだ。
 人気ブランドの服は外せないらしいが、そんなにブランドを気にしてるわけじゃないからあまり興味が湧かない。
 お土産でも買おうかと思ったけど人気のお土産はチョコレートらしい。
 海外に来てまでチョコ買って帰るのか?と美希と相談した。
 適当にお菓子を買えばいいんじゃないか?
 それなら空港の免税店でも十分だろう。
 美希と相談して適当にウィンドウショッピングしていた。
 夜はやっぱり気になっていたファストフード店に行ってみる。
 さすがに僕達も驚いた。
 ポテトのLサイズを頼むと凄い量が出て来た。
 ハンバーガーも父さんに聞いていたから少なめに頼んだけど、普通のハンバーガーがビッグな奴並みにでかい。
 飲み物の量も凄かった。
 夕食を食べ終わると夜のグアムを散策する。
 途中怪しい車から男の人が声をかけて来た。
 なんか怪しそうな話なのは分かった。
 僕が断っているとパトカーがやってきて車は逃げ出した。
 
「安いよー」
 
 片言の日本語で呼び込みをしている人がいた。
 
「私と一緒に入るつもりなのですか?」

 つまりそういう店か。
 光太なら間違いなく行っただろう。

「下着で接客してくれる店あるらしいぜ!」

 そんな事を光太は旅行前に教えてくれた。
 当然麗華が激怒していた。
 美希も「主人に余計な事を言わないで!」と怒っていた。

「大地は私の下着姿すら興味持たないのに、そういう店に行くのは絶対許さないからな!」

 天音が言っていた。
 どうやら光太と遊が僕達のトラブルメーカーなのかもしれない。
 感じの良さそうなバーがあったのでそこに入ってみた。
 とてもカラフルで美味しそうなカクテルがあったので美希と一緒に頼んでみた。
 
「美味しいね」

 美希は満足してるみたいだ。
 DJブースがあって皆踊っている。

「私達も踊りませんか?」
「僕踊ったこと無いよ?」
「適当に他の人真似てみたらいいじゃない」

 それにこの曲日本でも聞いた事ある曲だと美希が言う。
 DJブースで踊ってる人の振り付けを真似てみた。
 皆楽しそうに踊っている。
 十分楽しむとホテルに帰って寝る事にした。

(2)

「ねえ美希」
「どうしました?」
「なんでアメリカまで来てこの店なの?」

 それは私も同感だった。
 日本にもある量販店の店。
 二日目はレジャー施設を回ることにした。
 旦那様は初めて本物の銃を触って興奮を隠せなかったみたいだ。。
 正しい姿勢で打てばデザートイーグルを華奢な体格でも撃てると大地が言っていた。
 実際に私も護身用に携帯している。
 最後にショットガンを撃たせてもらっていた。
 そのほかにシュノーケリングやダイビングもした。
 日本では見られないカラフルな熱帯魚を見る事が出来た。
 ジェットスキーも楽しんだ。
 旦那様はすぐに乗りこなして遊んでいた。
 旦那様も男なんだろうな。
 旦那様はどんな乗り物でも瞬時に把握して乗りこなす。
 感覚で把握するそうだ。
 だからグアムでレンタカーを借りるのは止めておいた。
 日本の車の感覚で左ハンドルの車で交通法規が全く違う道路を走るのは旦那様でも戸惑うかもしれないと思ったから。
 オープンカーで色々なところに行くのも楽しいかもしれない。
 でも、旦那様を疲れさせたくない。
 だから移動はガイドの人に任せる事にした。
 夜、街を歩くと既に閉まっている店の中にパチスロが置いてあるのを見つけた。
 旦那様と2人で笑っていた。
 夕食を食べてドッグレースの会場に行く。
 旦那様は当たり前の様に予想を当てていく。
 冬夜さんの言葉を借りたら「月が教えてくれる」という事らしい。
 絶対に外さないギャンブル。
 当たり前だけど全く面白くない。
 私達は何レースか見てそして帰った。
 3日目はまず旦那様の希望を叶える事にした。
 カートに乗ってみたいと言っていた。
 歩美や崇博が乗っている本格的なカート。
 旦那様はすぐに慣れていたけど、なぜか私の方が早かった。
 手加減した?
 そうじゃないという。
 
「カートは全部性能が同じだから」

 馬力が同じだから乗ってるドライバーが軽い方が速い。
 もちろんそれだけではコーナーで縮められるけどサーキットでは必ず最後は長いストレート。
 余程の事が無い限り私には勝てないと旦那様が言う。
 その後恋人岬に向かう。
 少しは観光をしておきたいと思ったから。
 記念に写真を取っておいた。
 後はショッピングの続き。
 あまりこれといってピンとくる物がない。
 あれこれ探していると旦那様がある物に興味を示していた。

 ぽかっ

 それは女性の裸の絵のデザインのトランプ。
 旦那様はすぐに謝ってくれた。
 
「父さんが言ってたんだけどさ……」

 トランプの絵の女性は皆黒人だった。
 だから気になっていたんだそうだ。
 下着や水着の跡とかないのかな?
 全くしょうがない彼氏だ。

「日焼けじゃないんだからそれはないと思いますよ」
「あ、それもそうか」

 目を離せない困った主人だ。
 適当にお土産を選んで買う。
 最後の夜だからホテルでディナーを食べる。
 分厚い肉に旦那様も満足していた。
 そして最終日
 ホテルでのんびりしてチェックアウトすると空港に向かう。
 セキュリティチェック、出国審査を受け出発時刻を待つ。
 飛行機に乗るといつもは景色を楽しんでいた旦那様も疲れたようで、すぐに眠ってしまった。
 関空に着くとそのまま地元空港まで飛行機で向かう。
 空港からは高速バスで帰って、家に帰る前に実家に寄る。
 冬夜さん達にお土産を渡した。

「ありがとう。美希達も疲れただろうから帰ってからゆっくり休むといいよ」

 愛莉さんは私に聞いた。

「空は大人しくしてましたか?」

 私は意地悪を言ってやった。

「主人は私を連れて下着の女性が接客するバーに行こうとしたんです」
「あ、あれは行ってないだろ!」
「やっぱり外人の肌が気になったのかい?」
「冬夜さんが空に余計な事を言ったのですか!?」
「ち、ちがうよ」
「空も何を考えているのですか!」

 旦那様は愛莉さんに叱られていた。
 家に帰ると旅行バッグから着替え等を取り出してまとめて洗濯機に入れる。
 風呂から出ると旦那様が不思議な事を始めた。
 ボクサーパンツだけ穿いてテレビを見てた。

「暑いの?」
「いやさ、僕とか男は女性の下着姿にドキドキするけど美希達はどうなんだろうって……」

 しょうがない人だな。

「私は旦那様の全部を知ってるのですよ。今さらです」
「じゃあ、他の男だと気になるの?」

 ぽかっ

「そんな意地悪言わないでください」

 旦那様は慌てて謝っていた。
 今日は疲れたから早めに寝ようとベッドに入ると旦那様が言う。

「善明が言ってたんだけど……」
「どうしたの?」
「新婚旅行の間、翼の夜の相手をしていて疲れたと言ってたんだよね」
「それで?」
「美希は全く求めてこなかったけど大丈夫なのかな?って」
「それって前にも言いましたけど、旅行中にすることなのですか?」

 旦那様はいつだって私がねだったら受け止めてくれるじゃない。
 私だって旅行で疲れるよ。
 旦那様が求めるなら受け入れるけどそうじゃないなら別にいつでもいいよ。

「そっか。じゃあ、困ったな……」

 何となく分かった。

「なんか久しぶりに美希に甘えたいなと思ったんだけど、疲れてるよね?」

 私は旦那様を抱きしめる。

「ちゃんと話聞いてた?旦那様がその気になったのならいつでも構いませんよ」
「ありがとう」

 旦那様は溜め込んでいた分思いっきり甘えて来た。
 私はしっかりとそれを抱きしめた。

(3)

 中学生になって冬吾はまた進化した。
 冬夜がアドバイスしたらしい。
 周りの仲間に頼って自分から動こうとしていない。
 もっと積極的にアピールしていかなきゃこの先必ず壁にぶち当たる。
 冬吾はそれを実践してみせた。
 どんなにマークがついていようと、その驚異的なまでの加速力で振り切る。
 そして誠司のパスを受け取り相手を掻き乱してチャンスメイクをする。
 実際何回もチャンスを作り出し、自らもシュートを狙う。
 U-15になってから冬吾は更に成長を見せていた。
 それは代表に呼ばれても同じらしい。

「冬吾が敵に回ると怖すぎる!」

 誠司がそう言っていた。
 それは昔の冬夜もそうだった。
 バスケだろうとサッカーだろうと絶対に敵に回したくない相手。
 逆を言えばそれだけ頼りになる味方。
 だから自然と冬吾にボールが集まるようになる。
 しかし冬吾は不満なパスが来るとすぐに戻す。

「今は逆サイドが空いてた!」

 もちろん練習中の間だけ。
 試合中は冬吾にパスが渡ると必ず劇的な瞬間を作り出す。
 だから相手も冬吾を徹底的にチェックする。
 それすら意味をなさないのが冬吾なんだけど。
 冬夜に欠けていたもの。
 積極性、リーダーシップ。
 冬吾はそれらも自ら習得していた。
 俺を含むコーチや監督のアドバイスを素直に聞いてそれを活かしたプレイをする。
 冬吾がA代表になる頃にはどれだけ成長しているのだろう?
 もちろん技術面だけじゃない。
 小学生の間にしっかりフィジカル面を鍛えた。
 中学生の試合時間なら十分余裕を持って動くだろう。
 冬吾の中でペース配分も出来てるみたいだ。
 ただ気になることがあった。
 冬吾が成長すればするほど他の選手が楽を始める。
 誠司も例外ではなかった。
 冬吾にパスを出すだけが自分の仕事だと勘違いしているように見える。
 時には敢えて冬吾を出さずに試合に臨む時もある。
 ここで冬吾が周りの嫉妬などを買えば冬夜の二の舞になりかねない。
 精神面だけはしっかりケアしていかないと。
 練習が終わるとフィールドの外でファンが待っている。
 誠司は気分良さそうに相手をしていた。
 誠司の女性関係は一度指導した方が良さそうだ。
 スキャンダルが発覚なんてことは避けたい。
 帰りにそれとなく聞いてみた。

「最近冴とはどうだ?」
「知らない」

 え?

「知らないってお前学校で冴と話をしたりしないのか?」
「冴は何かにつけてガミガミ五月蠅いから他の女子と話してる」

 誠司の学校にも誠司のファンがいる事は冬夜が言っていた。
 しかし、冴の事については何も聞いていない。
 その理由が分かった。
 もう手遅れかもしれないけど俺は誠司に忠告した。

「誠司、一つ質問してもいいか?」
「何?」
「好きの反対って何だと思う?」

 昔冬夜が言ってた事だ。

「嫌いじゃないの?」

 誠司には難しい問題だったか。

「嫌われてる内ならまだ望みはある。だけど……」
「だけど?」
「……それすらなくなったらもう終わりだぞ」
「ふーん……」

 誠司に俺の言いたい事が伝わったのかは分からないけど他に言いようがない。
 家に帰って誠司が部屋に戻ると神奈に最近誠司と冴はどうなんだと聞いてみた。

「そう言えばあれから一度も家には来てないな」

 あれというのは神奈が様子を見に行った時に部屋で行為をしていたと神奈が話をしていた時の事だ。
 それ以来冴の名前すら誠司の口から聞いてないと神奈は言う。

「誠司の奴何かやったのか?」

 神奈が聞く。

「何もしてないから問題なんだ」
「……誠はどうすればいいと思う」
「あまり子供の恋愛に口出しするのはよくないとは思うんだけど」
「だよな……」

 最近冴から相談すら受けなくなったと神奈が言った。
 やはり不安だ。
 冬夜に電話して聞いてみた。

「やっぱりそうだったか……」

 冬夜はそう言って冬吾や冬莉が聞いたことを俺に教えてくれた。
 二人にはまだ言うなと言われていたけど、もう殆ど望みがない状態にまでなってるみたいだ。

「誠、誠司には言うなよ」
「分かってる。すまんな」

 電話を終えると神奈と相談した。
 神奈が朝それとなく聞いてみると言って今夜は眠った。
 朝になると朝食の時間になる。

「誠司。最近冴が家に来ないけどどうなってんだ?」

 神奈が誠司に聞いていた。
 誠司はめんどくさそうに「口を聞くのもめんどくさい」と言っている。
 神奈は激怒した。

「めんどくさいってなんだ!?お前の彼女の話をしてるんだぞ!」
「冴だって他の女子と話してるんだから俺が話しかけなくてもいいだろ!」
「お前たちはただでさえ離れてるんだ。メッセージや電話くらいはしてるんだろうな?」
「冴と話していてもめんどくさそうにするしつまんないから他の女子としてる」

 誠司がそう言った瞬間神奈が腕をあげる。
 俺はそれを止めた。
 そして誠司に最後に聞いた。

「お前今は冴の事どう思ってるんだ?」

 誠司は気だるそうに言った。

「昨日も言ったじゃないか。ガミガミやかましいし、面倒だって」

 そう言って朝食を済ませると、準備して学校に向かった。

「冴は大丈夫なんだろうか?」

 神奈が心配していた。

「もうなるようになるしかないだろうな……」

 さすがに今回ばかりはどうにもならないだろう。
 行く先が真っ暗な誠司を見守る事しかできなかった。
 その時が来た時、俺は誠司に何をしてやればいい?
 こればっかりは冬夜に聞いても分からないだろうな。

「誠司どうかしたの?」

 崇博と歩美が聞いてきた。

「ちょっと喧嘩してるだけだよ」

 神奈がそう言っていた。
 喧嘩できるうちはいい。
 それすら出来なくなるかもしれない。
 そんな事を考えた事が誠司はあるんだろうか?
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