姉妹チート

和希

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トラブル

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 僕達は今飛行機の中にいる。
 夏休みは海外旅行という普通の大学生では考えられない行動だった。
 そもそも大学生が妻と2人で海外旅行という時点で色々突っ込まれそうな設定なんだけど。

「少しは嫁を労わってやりなさい」

 セリフだけ聞くとごもっともな意見なんだけどね。
 そして長い海外旅行を終えて日本へ帰国する途中だった。
 正確に言うと飛行機はすでに日本に着陸している。
 後は手続きをするだけだったんだけど、トラブルが発生した。
 この物語では偶にとんでもない事件に遭遇する。
 現状を考えたらクリスマスの悲劇なんて可愛い物だった。
 僕と翼……いや、搭乗客全員が頭を抱えて伏せている。
 立ち上がれば凶弾によって負傷は免れない。
 まさに死と隣り合わせの状態。
 この物語は恋愛物語じゃなかったのかい?
 まあ、父さんは「車ではねてもチェーンソーを持って追いかけて来る女」と戦ったそうだけど。
 聞いた時はよく分からない状況だったけど、今なら父さんの気持ちが分かる気がするよ。

「善明どうする?」

 翼は恐怖を感じていないらしい。
 ただの一大学生に過ぎない僕に何かを期待している様だ。
 しかし、この膠着状態がいつまでも続くとは思わない。
 きっと今頃ハイジャックの首謀者と警察の交渉は続いているだろう。
 誰かを釈放しろとか、この飛行機を某国に飛ばせとか。
 その準備や手続きをしているか懸命な説得が行われているか。
 時間は一刻を争う。
 このハイジャック事件が知れた時、搭乗客リストに乗っている僕達の名前が報道された時。
 きっと母さん達が黙っていないだろう。
 母さん達はテロリストと交渉なんて生温い手段は持ち合わせていない。
 小国くらいなら一瞬にして消し飛ばす戦力を送り込んでくるに違いない。
 母さん達には日本国憲法なんて生易しいルールが通用しない。
 犯人の為にも僕達の為にも急ぐ必要がある。

「善明?」

 こういう時の対処法はシンプルだ。
 まず犯人の要求通りに飛行機を飛ばすことは無いと思う。
 飛ばしたところで母さん達は平気で地対空ミサイルをぶっ放してくるだろう。
 僕達が乗っている事すら忘れていそうだ。
 いや、覚えていてくれたとしても「もたもたしてないで、たかがテロリスト如き一人で鎮圧しなさい!」と言うに決まってる。
 しかし無いと思っていたことが起こった。
 飛行機が滑走路に入って離陸しようとしている。
 どこに行くか、それとも撃墜されるか。
 どっちに転んでも僕達の身に危険が迫っている。
 飛行機は飛び立ちぐるぐる旋回している。
 犯人にも事情があるのだろうか?
 早く要求を飲まないと墜落するぞ。
 そう警告しているんだろう。
 上空にいる以上、外からの救助は見込めない。
 となると、僕がやるしかないのか。
 僕は飛行機の中をじっと見る。
 席の配置、客の座っている位置、通路の幅、見張っている兵隊までの距離。
 それらを全て把握する。

「善明、これからどうなるの?」
「翼、目をつぶって耳をふさいでおいて」
「……はい!」

 美希は嬉しそうに目をつぶって両手で耳をふさぐ。
 こんなもの使う時が来るとは思わなかったんだけど……。
 気づかれないようにポケットからそれを取り出す。
 そして見張ってる犯人の目が僕からそれた時それを放り投げた。
 M84スタングレネード。
 通称フラッシュバン。
 起爆すると同時に170-180デシベルの爆発音と100万カンテラ以上の閃光を放ち、方向感覚の喪失・見当識の失調を一時的に起こす。
 僕は起爆すると同時にその場から飛び出して兵隊の一人に襲い掛かる。
 アサルトライフルを奪うと兵隊の顎を叩きつけて気絶される。
 視界が回復する頃には僕は兵隊の銃身を撃ち、使用不能にする。
 そしてリーダーらしい男に銃口を向ける。

「大人しく投降してください。命まで奪うつもりはありません」
「どうするつもりだ?」
「まず、機体を着陸させてください。その後は警察の指示に従ってください」

 僕がそういうとリーダー格の男は隣にいる兵隊と話をしている。
 話が終ると、話をしていた兵隊はコクピットに向かった。
 嫌な予感がする。

「抵抗しても無駄ですよ!」

 僕は焦っていた。
 足でも撃って動けなくするべきだったか。
 だけどリーダー格の男は言う。

「俺達はプロだ。素人の捕虜になるなんざごめんだ」

 そう言うと拳銃を自分のこめかみに当てて発砲する。
 リーダー格を皮切りに皆自決していった。
 僕は最悪の状態を想定しながらもコクピットに向かう。
 後をついて来ようとする翼に「ついて来るな!」と叫んだ。
 翼を怒鳴りつけたなんて母さんに知れたらと思うとぞくっとするけど、愛する妻に惨状をみせたくない。
 コクピットに向かうと予想通りだった。
 兵隊に殺されたパイロットと自決した操縦を任せられていた兵隊。
 無線からは現状を報告するよう管制塔から指示が飛んでいる。
 僕は兵隊の死体をどかして操縦席に座る。

「コントロールは回復した。アプローチに入る。指示をお願いします」

 言っとくけどこれ英語だからね。

「パイロットはどうした?」
「自決しました」
「君は?」
「今はそれよりも優先すべき事項があるんじゃないですか?」

 燃料もそんなに残っていない。

「わ、わかった。着陸許可を出す。滑走路は……」

 どうして僕が操縦できるかって?
 海外では16歳で免許取れるそうだよ。
 もっとも僕は小学生の頃からラジコンではないヘリの操縦の訓練を受けていたけどね。
 もちろんこんな巨大なジャンボジェット機も何度か訓練を受けた。
 恐らく大地にもできるはずだ。
 管制塔の指示通りにアプローチに入り着陸する。
 機体を停めると機動隊が入ってくる。
 僕は警官の事情聴取に付き合う事になった。
 帰りの飛行機に間に合わなかったので東京で一泊してから翌日に帰ることにした。
 僕達には安息という2文字はないのだろうか?
 地元にもまた物騒な集団がいくつも出来てるらしい。
 やれやれ……

「善明!ちょっと来て!」

 家に帰ると荷物の整理をしていた翼に呼び出される。

「どうしたんだい?」

 すると翼は僕に昨日着ていたスーツを見せる。
 翼の示したところには多分操縦席についていた血がついていた。
 翼に説明する。

「もうこの服は使えないね。もっと身だしなみに気を使ってよ」

 翼にとって、生と死の狭間よりも服に付着した血の跡の方が重要らしい。
 こうして僕達の夏休みは終ろうとしていた。
 しかしまだ9月最後の事件は残っていたようだ。
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