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アーヴァインコード
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外見は廃ビル。
中は見た事もない機器が並んでいる中、僕は白いマントを羽織った少し年上の男性と会っていた。
男性の隣には由衣の姉であり、男性の妻でもある宮田蜜柑さんがいる。
男性の名前は宮田キリク。
魅惑の魔眼のブレイン。
僕は創世神のリーダーとして、魅惑の魔眼の本拠地であるトロパイオンと呼ばれる場所に呼び出されていた。
「初めまして……僕は……」
「赤松景太郎。面倒な挨拶は抜きにして早速本題に入らせてもらう」
キリクは僕を鋭い目線で睨みつける。
敵意むき出しのようだ。
まずはこの空気を変えたい。
「僕はあなた達と争う気はありません」
「そっちの用件は大体蜜柑を通じて由衣から聞いている。結論から言おう。交渉に応じるつもりはない」
本当に率直な人だな。
「しかしこのまま抗争になったらどっちにも被害が出てしまいます」
それだけじゃない。
関係ない人まで巻き込んでしまう。
「だが、創世神の狙いがイーリスである以上、交渉する余地はない」
譲歩する余地はないとキリクは言う。
「そもそも君はどこまで知っているんだ?何を翔和から吹き込まれた?」
キリクが聞いてきたので僕は知っていることをすべて話した。
するとキリクはふっと笑った。
「つまりイーリスという物がどういう物かまったく知らされていないんだな?」
僕はただ頷いた。
「知らないなら知らない方がいい。まだ手を引く余地がある。知ってしまったら二度と引き戻せない」
「しかし僕が翔和さんを説得するには知る必要がある」
「説得する必要なんかない。翔和は絶対にイーリスに手が出せない」
「……イーリスってそんなにやばい物なんですか?」
「君は何を想像していた?世界を滅ぼす悪魔の兵器か?人類を滅ぼす凶悪なウィルスか?」
「……違うんですか?」
僕が言うとキリクは首を振った。
「……そんなに痛い目を見たいなら教えてあげよう。君の目の前にある物がイーリスだよ」
そう言ってキリクは自分の背後にある巨大なスパコンのような物を指した。
これがイーリス?
もっと仰々しいものを想像していたけど。
ただのPCに何があるというんだ?
「それは私にもわからない。中身は簡単に見れないようになっている」
パスワードみたいなものだろうか?
しかしネットではイーリスは検索にかからないとスカーレットが言っていた。
実際に自分でも検索したけど削除された跡があるだけで存在していなかった。
「中身が分からないのになぜ危険だと言い切れるんですか?」
僕は違う角度から質問していた。
「この中にあるのは地元の裏社会全てを詰めたものが入っていると聞いている」
地元の裏社会?
「イーリスの情報が出回れば地元の基盤が覆されることになる」
「じゃあ、すぐに破壊すればいいじゃないですか?」
「そこがこいつの厄介なところでね。イーリスを削除、または破壊しようとすればイーリスは自ら違う媒体に乗り移ろうとする」
前の抗争でその事を知ったらしい。
「中身を確かめる事が出来ないのなら、中身は無いのと同じ事じゃないんですか?」
「君が勘は鋭いようだな。君の言う通りだ。イーリスの鍵を知らない者が手にしたところで何もできない」
「……あるんですね?鍵が」
僕がそう言うとキリクは少し考えてから不思議た単語を口にした。
「……アーヴァインコード」
「なんですか?それ?」
「イーリスにアクセスすることが出来る唯一の手段」
ある人物の網膜にそれは仕込まれているらしい。
その人物もまた手をくわえられ危機的状況に陥ると全能力を開放して身を守るという。
「誰ですか?」
僕が聞くと首を振った。
「私は君を全面的に信用しているわけじゃない。そこまで君に話す理由はない。……ただ」
「ただ?」
「レガリアと呼ばれる子供たちの網膜に同じようにアーヴァインコードを持つ物の情報の断片を分け与えている。それを解析すれば……」
「コードにたどり着けるっちゅうわけやな?」
突然聞こえて来たのは翔和さんの声。
キリクはどこから聞こえて来たのか分かったらしく、背後にあるPCのモニターを見る。
モニターには翔和さんの顔が映っていた。
「くそっ!罠にはまったか」
「そういうわけや。いやあ、ええ仕事してくれたで。景太郎君」
翔和さんはそう言って笑っている。
でもどうしてこの場所を?
僕は今日キリクに会う事は翔和さんには話してない。
由衣にそう説明する。
するとキリクが僕の手首につけているリストバンドに気付く。
「……発信器か」
「せや。いやあ、景太郎君は本当に純粋やな。人を疑うっちゅうことを知らん。ただであんな能力を授けるわけないやろ?」
翔和さんはそう言って説明を始めた。
由衣の同居相手の僕に目をつけた。
創世神と魅惑の魔眼の事を知れば必ず動くと話をして確信した。
そして発信器付きのリストバンドを僕に渡した。
僕は翔和さんの思惑通りに由衣と話してこのトロパイオンの場所を探し当てた。
トロパイオンの場所にはイーリスがあることは分かっていた。
だからその周辺のPCを検索した。
無論リストバンドには盗聴器も付いてある。
そしてキリクは油断して話してしまった。
「大手柄やで、景太郎君。まさかこの短期間で成果を出すとは思わんかったわ」
「さ、最初から僕を騙す気だったのか!?」
「人聞きの悪い事いわんでーな。うちらを裏切って勝手に交渉しようとしたのは景太郎君やで」
「くっ……」
「じゃ、もう君必要ないからサヨナラや。そのリストバンドは褒美にやるわ」
「……アーヴァインコードが分からない以上イーリスには手が出せないぞ」
キリクが言うと翔和さんは余裕を見せた。
「さっき”子供”っち自分言うたろ?それだけの情報があれば大体の想像はつくわ」
キリクさんは何も言わなかった。
「ほなら、うちらはこれで失礼するわ。景太郎君はもう用済みやから好きにしてえーで」
そう言って翔和さんとの通信は終った。
キリクは何も言わないけどかなり頭にきているらしい。
蜜柑さんが落ち着かせようとしている。
しばらくしてキリクは僕を見ると言った。
「今の話の通りだ。今の君には交渉価値すらなくなった。私が怒りを抑えている前にさっさとここを去れ」
そして二度とキリクの前に顔を見せるなと言って立ち去った。
僕は由衣とトロパイオンを出ると家に帰る。
「由衣……ごめん」
「いいの。でもこれで手を引いてくれるよね?」
僕は創世神から見放されたのだから。
でもこのまま翔和に利用されっぱなしでいいのか?
とはいえ、僕に出来る事なんてもうない。
却って由衣達の足を引っ張ることになる。
「わかったよ」
久しぶりに味わった感覚。
悔しい。
悔しさのあまり涙が出るのを由衣がハンカチで拭ってくれた。
やっぱりこのまま引き下がるなんてできない。
反撃する手段を考えていると、スマホが鳴る。
相手は武内枢さんだった。
どういうつもりだろう?
中は見た事もない機器が並んでいる中、僕は白いマントを羽織った少し年上の男性と会っていた。
男性の隣には由衣の姉であり、男性の妻でもある宮田蜜柑さんがいる。
男性の名前は宮田キリク。
魅惑の魔眼のブレイン。
僕は創世神のリーダーとして、魅惑の魔眼の本拠地であるトロパイオンと呼ばれる場所に呼び出されていた。
「初めまして……僕は……」
「赤松景太郎。面倒な挨拶は抜きにして早速本題に入らせてもらう」
キリクは僕を鋭い目線で睨みつける。
敵意むき出しのようだ。
まずはこの空気を変えたい。
「僕はあなた達と争う気はありません」
「そっちの用件は大体蜜柑を通じて由衣から聞いている。結論から言おう。交渉に応じるつもりはない」
本当に率直な人だな。
「しかしこのまま抗争になったらどっちにも被害が出てしまいます」
それだけじゃない。
関係ない人まで巻き込んでしまう。
「だが、創世神の狙いがイーリスである以上、交渉する余地はない」
譲歩する余地はないとキリクは言う。
「そもそも君はどこまで知っているんだ?何を翔和から吹き込まれた?」
キリクが聞いてきたので僕は知っていることをすべて話した。
するとキリクはふっと笑った。
「つまりイーリスという物がどういう物かまったく知らされていないんだな?」
僕はただ頷いた。
「知らないなら知らない方がいい。まだ手を引く余地がある。知ってしまったら二度と引き戻せない」
「しかし僕が翔和さんを説得するには知る必要がある」
「説得する必要なんかない。翔和は絶対にイーリスに手が出せない」
「……イーリスってそんなにやばい物なんですか?」
「君は何を想像していた?世界を滅ぼす悪魔の兵器か?人類を滅ぼす凶悪なウィルスか?」
「……違うんですか?」
僕が言うとキリクは首を振った。
「……そんなに痛い目を見たいなら教えてあげよう。君の目の前にある物がイーリスだよ」
そう言ってキリクは自分の背後にある巨大なスパコンのような物を指した。
これがイーリス?
もっと仰々しいものを想像していたけど。
ただのPCに何があるというんだ?
「それは私にもわからない。中身は簡単に見れないようになっている」
パスワードみたいなものだろうか?
しかしネットではイーリスは検索にかからないとスカーレットが言っていた。
実際に自分でも検索したけど削除された跡があるだけで存在していなかった。
「中身が分からないのになぜ危険だと言い切れるんですか?」
僕は違う角度から質問していた。
「この中にあるのは地元の裏社会全てを詰めたものが入っていると聞いている」
地元の裏社会?
「イーリスの情報が出回れば地元の基盤が覆されることになる」
「じゃあ、すぐに破壊すればいいじゃないですか?」
「そこがこいつの厄介なところでね。イーリスを削除、または破壊しようとすればイーリスは自ら違う媒体に乗り移ろうとする」
前の抗争でその事を知ったらしい。
「中身を確かめる事が出来ないのなら、中身は無いのと同じ事じゃないんですか?」
「君が勘は鋭いようだな。君の言う通りだ。イーリスの鍵を知らない者が手にしたところで何もできない」
「……あるんですね?鍵が」
僕がそう言うとキリクは少し考えてから不思議た単語を口にした。
「……アーヴァインコード」
「なんですか?それ?」
「イーリスにアクセスすることが出来る唯一の手段」
ある人物の網膜にそれは仕込まれているらしい。
その人物もまた手をくわえられ危機的状況に陥ると全能力を開放して身を守るという。
「誰ですか?」
僕が聞くと首を振った。
「私は君を全面的に信用しているわけじゃない。そこまで君に話す理由はない。……ただ」
「ただ?」
「レガリアと呼ばれる子供たちの網膜に同じようにアーヴァインコードを持つ物の情報の断片を分け与えている。それを解析すれば……」
「コードにたどり着けるっちゅうわけやな?」
突然聞こえて来たのは翔和さんの声。
キリクはどこから聞こえて来たのか分かったらしく、背後にあるPCのモニターを見る。
モニターには翔和さんの顔が映っていた。
「くそっ!罠にはまったか」
「そういうわけや。いやあ、ええ仕事してくれたで。景太郎君」
翔和さんはそう言って笑っている。
でもどうしてこの場所を?
僕は今日キリクに会う事は翔和さんには話してない。
由衣にそう説明する。
するとキリクが僕の手首につけているリストバンドに気付く。
「……発信器か」
「せや。いやあ、景太郎君は本当に純粋やな。人を疑うっちゅうことを知らん。ただであんな能力を授けるわけないやろ?」
翔和さんはそう言って説明を始めた。
由衣の同居相手の僕に目をつけた。
創世神と魅惑の魔眼の事を知れば必ず動くと話をして確信した。
そして発信器付きのリストバンドを僕に渡した。
僕は翔和さんの思惑通りに由衣と話してこのトロパイオンの場所を探し当てた。
トロパイオンの場所にはイーリスがあることは分かっていた。
だからその周辺のPCを検索した。
無論リストバンドには盗聴器も付いてある。
そしてキリクは油断して話してしまった。
「大手柄やで、景太郎君。まさかこの短期間で成果を出すとは思わんかったわ」
「さ、最初から僕を騙す気だったのか!?」
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「くっ……」
「じゃ、もう君必要ないからサヨナラや。そのリストバンドは褒美にやるわ」
「……アーヴァインコードが分からない以上イーリスには手が出せないぞ」
キリクが言うと翔和さんは余裕を見せた。
「さっき”子供”っち自分言うたろ?それだけの情報があれば大体の想像はつくわ」
キリクさんは何も言わなかった。
「ほなら、うちらはこれで失礼するわ。景太郎君はもう用済みやから好きにしてえーで」
そう言って翔和さんとの通信は終った。
キリクは何も言わないけどかなり頭にきているらしい。
蜜柑さんが落ち着かせようとしている。
しばらくしてキリクは僕を見ると言った。
「今の話の通りだ。今の君には交渉価値すらなくなった。私が怒りを抑えている前にさっさとここを去れ」
そして二度とキリクの前に顔を見せるなと言って立ち去った。
僕は由衣とトロパイオンを出ると家に帰る。
「由衣……ごめん」
「いいの。でもこれで手を引いてくれるよね?」
僕は創世神から見放されたのだから。
でもこのまま翔和に利用されっぱなしでいいのか?
とはいえ、僕に出来る事なんてもうない。
却って由衣達の足を引っ張ることになる。
「わかったよ」
久しぶりに味わった感覚。
悔しい。
悔しさのあまり涙が出るのを由衣がハンカチで拭ってくれた。
やっぱりこのまま引き下がるなんてできない。
反撃する手段を考えていると、スマホが鳴る。
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どういうつもりだろう?
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