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愛に届くだろう詩
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「あれ?喜一君じゃない?」
また呼び止められた。
いったいどれだけSHの連中はいるんだ。
いい加減うんざりしていた。
ここは東大じゃない、早稲田大学の構内だぞ。
振り返るとどこかで見た事があるような女性が立っていた。
「喜一君って東大に行ったんじゃなかったの?」
多分この女性に悪気はないんだろう。
だから、なおさら質が悪い。
俺は散々繰り返してきたセリフを言う。
「悪いが俺は東大じゃなくて早稲田に入ったんだ」
これだけ聞いたら十分か?
さっさと立ち去ろうとした。
しかし女性は俺の腕を掴んだ。
「そうだったんだ。よかった!私も知り合いが早稲田にいなくてさ」
「別に大学が違っても友達くらいいるんじゃないか?」
ここは地元じゃなくて東京だぞ。
SHの東京組の人数は策者も呆れるくらいに多いと聞いたが。
「私高校の時から東京でさ」
高校も仕事重視でろくに友達を作る機会に恵まれなかったらしい。
仕事?
「仕事って何してるんだ?」
「ここじゃなんだからどっかお店で話しない?」
「……いいけど」
俺と女性は大学を出て喫茶店に入った。
どこにでもいる活発そうな女性だった。
Tシャツにジーンズと普通の恰好。
だが実際は……
「まず自己紹介するね。私は秋吉麻里」
思い出した。
音楽番組によく出てる人気ユニット「フレーズ」のボーカルだ。
初めて生の芸能人を見てさすがに驚かされた。
そんな俺を見て「良かったらサインあげよっか?」と余裕の笑みをこぼす。
「でも、それなら友達なんていくらでもいるだろ?」
「大学まで行く子なんてそんなにいないよ」
現にギターの増渕将門は作曲活動に専念してるそうだ。
まあ、フレーズの売り上げ枚数を考えたらどうして大学なんか通ってるんだ?だよな。
だから仕事の時はともかくオフの時は殆どいないらしい。
彼氏はサッカーで国内を回ってるらしい。
そんなに会える時間は無いのだという。
「と、いうわけで友達になってくれないかな?」
「……お前SHだろ?」
俺と相容れるわけないだろ?
しかし、秋吉さんは首を振った。
「一応グループには入ってるけど中学の時に一緒にいただけで高校の時は無関係だったから」
今さらSHだからとか関係ないという。
「と、言うわけでお願いします」
芸能人に頭を下げられて「友達になってください」か……
そんなに悪い気はしなかった。
「けど、いいのか?男と一緒にいるところカメラで撮られたら」
「私彼氏いるって公言してるから問題ない」
「その彼氏に誤解されないか?」
「そんなに器の狭い彼じゃないと思う」
少し不安気だったが、多分なんとかなるんだろう。
「まあ、そういう事なら……ただ……」
「SHには内緒でしょ?私殆どチャットすら見てないから問題ないよ」
「そうか」
「じゃあ、連絡先交換しようよ」
秋吉さんが言うと俺は秋吉さんと連絡先を交換する。
「よろしくね」
「こちらこそよろしく」
「ところでさ、喜一君は彼女今いるの?」
「いるわけないだろ……」
俺を葬りたくてうずうずしてる奴なら山ほどいるらしいが。
「じゃあさ、同じ事務所の子でフリーの子いるんだ。今度会ってくれないかな?」
まさか彼女に芸能人を紹介されるような身分だとは思っても無かった。
「別にいいけど……事務所とかうるさくないのか?」
「年頃の男女が恋愛して何が悪いってのがうちの事務所の方針だから」
割と自由が利くらしい。
支社長は頭を悩ませてるらしいが。
「わかった」
「喜一君はどんな子が好み?見た目とか……」
「そうだなぁ……」
俺に彼女が出来るなんて考え手も無かったから具体的なイメージが湧いてこない。
強いてあげるなら……
「俺の全てを受け止めてくれる人……かな?」
「見た目より、中身重視なのね。でもいいの?」
何が?
「それは同時に喜一君も彼女の全てを受け止めなければいけないのよ?」
「そんな人がいるなら受け止めるよ」
「わかった、任せておいて!」
その日はそれだけ話して帰っていった。
その後も空いた時間に話をしたりしていた。
そして恐れていたことが起きてしまった。
2人でゲーセンで遊んでいるところをカメラに撮られた。
当然記事になる。
そのこと自体は割とどうでもよかった。
「だから何?」
USEの社長は意にも介さない。
恋愛禁止条例なんてばかばかしい。くだらない。
そう公言する社長だったから。
問題は相手が俺だったこと。
「喜一のやつ何他人の女に手を出してるんだ!?」
「あいつ東大って言ってたくせに早稲田らしいぞ!」
「どうでもいい、あいつを埋める口実が出来た。これから東京に乗り込むぞ!」
地元のSHのメンバーがそう言って盛り上がっていると秋吉さんから聞いた。
それでも「喜一君は私の友達。その友達を傷つけるというなら私はSHを抜けます」と言ってSHを抜けたらしい。
問題はその後だ。
本当の彼氏には信じてもらえなかった。
秋吉さんが浮気したと誤解してしまった。
秋吉さんがSHを抜けたのも多分理由の一つだろう。
「喜一はそこまでして守りたい存在なのか?」
彼氏にそう言われて喧嘩になったらしい。
マスコミは嗅覚が鋭い。
違う記事を見つけてきた。
秋吉さんの彼氏は正真正銘の浮気をしていた。
2人の喧嘩はこじれて遂には別離という道をとってしまった。
俺に関わるとろくな事にならない。
「これ以上俺に関わるのは止めろ」
辛辣だけどこれ以上秋吉さんを不幸にしたくない。
だけど秋吉さんは訴える。
「喜一君は関係ない。何もしてないじゃない。いつまで自分を責めるの?知ってる?どんなに疲れてボロボロになっても自分を貫く事が人生なんだよ」
自分を貫くか……
「私は私の道を行く。だから喜一君も負けないで。そんな喜一君が誰よりも強いんだから」
「わかった。すまない」
「大丈夫。こう見えて私タフだし……それに」
それに?
「喜一君の存在は私の中で凄く頼りになってる。あ、恋愛感情は無しだよ」
フレーズのパートナーの次に支えになってるそうだ。
実際に彼女は弱音を吐かなかった。
失恋ソングなんて決して歌わなかった。
ひたすらに前向きな恋愛を応援する曲を歌い続けた。
俺もそんな曲を聞いてるうちに恋愛というものに興味が湧いてきた。
「任せておいて。ちゃんといい人探してあげるから」
「ありがとう……」
別離とめぐり逢いを探す終わらない旅。
ずっとずっと愛を捜していくのだろう。
いつか変らない愛に届く日まで。
また呼び止められた。
いったいどれだけSHの連中はいるんだ。
いい加減うんざりしていた。
ここは東大じゃない、早稲田大学の構内だぞ。
振り返るとどこかで見た事があるような女性が立っていた。
「喜一君って東大に行ったんじゃなかったの?」
多分この女性に悪気はないんだろう。
だから、なおさら質が悪い。
俺は散々繰り返してきたセリフを言う。
「悪いが俺は東大じゃなくて早稲田に入ったんだ」
これだけ聞いたら十分か?
さっさと立ち去ろうとした。
しかし女性は俺の腕を掴んだ。
「そうだったんだ。よかった!私も知り合いが早稲田にいなくてさ」
「別に大学が違っても友達くらいいるんじゃないか?」
ここは地元じゃなくて東京だぞ。
SHの東京組の人数は策者も呆れるくらいに多いと聞いたが。
「私高校の時から東京でさ」
高校も仕事重視でろくに友達を作る機会に恵まれなかったらしい。
仕事?
「仕事って何してるんだ?」
「ここじゃなんだからどっかお店で話しない?」
「……いいけど」
俺と女性は大学を出て喫茶店に入った。
どこにでもいる活発そうな女性だった。
Tシャツにジーンズと普通の恰好。
だが実際は……
「まず自己紹介するね。私は秋吉麻里」
思い出した。
音楽番組によく出てる人気ユニット「フレーズ」のボーカルだ。
初めて生の芸能人を見てさすがに驚かされた。
そんな俺を見て「良かったらサインあげよっか?」と余裕の笑みをこぼす。
「でも、それなら友達なんていくらでもいるだろ?」
「大学まで行く子なんてそんなにいないよ」
現にギターの増渕将門は作曲活動に専念してるそうだ。
まあ、フレーズの売り上げ枚数を考えたらどうして大学なんか通ってるんだ?だよな。
だから仕事の時はともかくオフの時は殆どいないらしい。
彼氏はサッカーで国内を回ってるらしい。
そんなに会える時間は無いのだという。
「と、いうわけで友達になってくれないかな?」
「……お前SHだろ?」
俺と相容れるわけないだろ?
しかし、秋吉さんは首を振った。
「一応グループには入ってるけど中学の時に一緒にいただけで高校の時は無関係だったから」
今さらSHだからとか関係ないという。
「と、言うわけでお願いします」
芸能人に頭を下げられて「友達になってください」か……
そんなに悪い気はしなかった。
「けど、いいのか?男と一緒にいるところカメラで撮られたら」
「私彼氏いるって公言してるから問題ない」
「その彼氏に誤解されないか?」
「そんなに器の狭い彼じゃないと思う」
少し不安気だったが、多分なんとかなるんだろう。
「まあ、そういう事なら……ただ……」
「SHには内緒でしょ?私殆どチャットすら見てないから問題ないよ」
「そうか」
「じゃあ、連絡先交換しようよ」
秋吉さんが言うと俺は秋吉さんと連絡先を交換する。
「よろしくね」
「こちらこそよろしく」
「ところでさ、喜一君は彼女今いるの?」
「いるわけないだろ……」
俺を葬りたくてうずうずしてる奴なら山ほどいるらしいが。
「じゃあさ、同じ事務所の子でフリーの子いるんだ。今度会ってくれないかな?」
まさか彼女に芸能人を紹介されるような身分だとは思っても無かった。
「別にいいけど……事務所とかうるさくないのか?」
「年頃の男女が恋愛して何が悪いってのがうちの事務所の方針だから」
割と自由が利くらしい。
支社長は頭を悩ませてるらしいが。
「わかった」
「喜一君はどんな子が好み?見た目とか……」
「そうだなぁ……」
俺に彼女が出来るなんて考え手も無かったから具体的なイメージが湧いてこない。
強いてあげるなら……
「俺の全てを受け止めてくれる人……かな?」
「見た目より、中身重視なのね。でもいいの?」
何が?
「それは同時に喜一君も彼女の全てを受け止めなければいけないのよ?」
「そんな人がいるなら受け止めるよ」
「わかった、任せておいて!」
その日はそれだけ話して帰っていった。
その後も空いた時間に話をしたりしていた。
そして恐れていたことが起きてしまった。
2人でゲーセンで遊んでいるところをカメラに撮られた。
当然記事になる。
そのこと自体は割とどうでもよかった。
「だから何?」
USEの社長は意にも介さない。
恋愛禁止条例なんてばかばかしい。くだらない。
そう公言する社長だったから。
問題は相手が俺だったこと。
「喜一のやつ何他人の女に手を出してるんだ!?」
「あいつ東大って言ってたくせに早稲田らしいぞ!」
「どうでもいい、あいつを埋める口実が出来た。これから東京に乗り込むぞ!」
地元のSHのメンバーがそう言って盛り上がっていると秋吉さんから聞いた。
それでも「喜一君は私の友達。その友達を傷つけるというなら私はSHを抜けます」と言ってSHを抜けたらしい。
問題はその後だ。
本当の彼氏には信じてもらえなかった。
秋吉さんが浮気したと誤解してしまった。
秋吉さんがSHを抜けたのも多分理由の一つだろう。
「喜一はそこまでして守りたい存在なのか?」
彼氏にそう言われて喧嘩になったらしい。
マスコミは嗅覚が鋭い。
違う記事を見つけてきた。
秋吉さんの彼氏は正真正銘の浮気をしていた。
2人の喧嘩はこじれて遂には別離という道をとってしまった。
俺に関わるとろくな事にならない。
「これ以上俺に関わるのは止めろ」
辛辣だけどこれ以上秋吉さんを不幸にしたくない。
だけど秋吉さんは訴える。
「喜一君は関係ない。何もしてないじゃない。いつまで自分を責めるの?知ってる?どんなに疲れてボロボロになっても自分を貫く事が人生なんだよ」
自分を貫くか……
「私は私の道を行く。だから喜一君も負けないで。そんな喜一君が誰よりも強いんだから」
「わかった。すまない」
「大丈夫。こう見えて私タフだし……それに」
それに?
「喜一君の存在は私の中で凄く頼りになってる。あ、恋愛感情は無しだよ」
フレーズのパートナーの次に支えになってるそうだ。
実際に彼女は弱音を吐かなかった。
失恋ソングなんて決して歌わなかった。
ひたすらに前向きな恋愛を応援する曲を歌い続けた。
俺もそんな曲を聞いてるうちに恋愛というものに興味が湧いてきた。
「任せておいて。ちゃんといい人探してあげるから」
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