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(1)
「ほら、壱郎!さっさと歩く!」
「純也もだよ!まだ行くところ沢山あるんだよ!」
茜と梨々香は張り切っていた。
俺達は修学旅行に来ている。
初日は京都を自由行動していた。
俺達の班は俺と茜、壱郎と梨々香の4人。
なぜこんな少人数なのか?
それは今年から初日の自由行動の仕組みがかわったから。
原因は去年の自由行動にあった。
京都、奈良、大阪の3つのエリアだけと決めていたのに、無謀にも琵琶いちしたいからと滋賀県にいった生徒がいたそうだ。
それで行動範囲を京都のみに限定させられた。
その代わりタクシーを貸し切りにして班ごとに自由に乗り回していいという事になった。
それで4人というわけだが問題も発生する。
ここは京都の中心部。
地元みたいに車でどこでも行けるというわけじゃない。
歩いた方が速い場合も多々ある。
そして女子は無謀なスケジュールを組む。
一ヵ所に滞在する時間が3分程度という何をしに来たのか分からない状態になる。
女子はパワースポットを好む。
そんな事はSHのチャットで大体聞いていた。
皆苦労したらしい。
しかしここまでしんどいとは思わなかった。
一番きついのはそのしんどいという苦痛を表に出さないという事。
それは修学旅行に限った話じゃない。
デートをしてる時は最低限の鉄則。
油断して「疲れた」とか言おうものならへそを曲げた彼女の機嫌を直すのに更なる労力を必要とする。
お土産屋で一息ついたり途中喫茶店のようなところで小休止するときに休む。
しかし、喫茶店も抹茶が嫌いな俺には拷問だった。
何から何まで抹茶尽くし。
あ、和菓子とかはあったけど。
お冷の代わりにほうじ茶が出てくる。
どこまでも和を追求した喫茶店だった。
奇跡的に女子が希望した場所を全て回ることが出来た。
女子は満足したのか僕達に褒美をくれた。
「夕食は純也達の好きな物でいいよ」
俺は壱郎と相談した。
そして結論が出た。
「ラーメンが食べたい」
女子は呆れていた。
でも嫌そうなそぶりは見せなかった。
ただ「どうしてラーメンなの?」って聞かれたけど。
大体の男子ならご当地ラーメン食べてみたいと思うだろう。
そして京料理に興味がない。
湯葉なんて食ってお腹にたまるはずがない。
しかしブランド牛なんて食べるお金を持っているはずがない。
妥当なところでラーメンという結論に至ったわけだ。
もちろん普段のデートでラーメンは避けていた。
そんな事が許されるのは多分翼と天音だけだろう。
それでも梨々香は言ってくれる。
「地元にも美味しいラーメン屋さんあるんでしょ?今度一緒に食べに行こう?」
「女子ってラーメンとか嫌いじゃないの?」
「嫌いってわけじゃないけど……そうだな~純也は一人でケーキ食べ放題の店に入れる?」
「絶対無理」
「女子も一緒だよ。1人や女子だけでラーメン屋とか焼き肉屋に入るのが抵抗あるだけ」
なるほどね。
翼と天音は平気で入るんだろうな。
夕食を終えるとホテルに帰る。
風呂に入る。
さすがに中学生で女風呂を覗こうとするやつはいない。
やったら間違いなく犯罪者扱いされる。
それに中学生にもなると大体の奴が彼女持ちだしそれなりの体験もする。
リスクを冒す必要性が無かった。
そんな話を風呂からあがったあと壱郎としていた。
壱郎と茜がそう言う関係を持ったのは茜から聞いてる。
自分の妹はどうだった?とかそういうのを聞く趣味はもっていない。
ただ茜は他人の家でどんな振る舞いをしているのかは気になっていた。
片桐家の中を下着だけで歩き回って愛莉に怒られているのは聞いていたから。
幸いにも壱郎の家でそういう凶行には至らなかったそうだ。
ただそういう雰囲気を出そうとはしてきたらしい。
しかし息子の部屋に他所の娘を連れて来たとなると親が心配するそうだ。
まだ中学生。
他人様の娘に取り返しのつかないことをするんじゃないかと様子を見に来るらしい。
そこで茜は考えた。
りえちゃんに電話する。
愛莉じゃないところが工夫した点だろう。
りえちゃんは純也の家に電話した。
「うちの娘も自分で物事を判断できる年頃だし好きにさせてやってくださいな」
すると壱郎の親は壱郎の部屋のある2階に上がってこなくなった。
何かあったら電話してとだけ言ったらしい。
そしてことにいたる。
やっと一人前の女になれたと得意気に夕食の時に話したそうだ。
話を聞いた愛莉はりえちゃんに電話する。
「りえちゃん、勝手なことしないで!」
「あら?別にいいじゃない~愛莉ちゃんも茜ちゃんくらいの歳の時には冬夜君とそういう関係になりたいって悩んでたでしょ~?」
「うぅ……」
ちなみに父さんはもう慣れたらしい。
ただ笑っていたそうだ。
いずれは冬莉と莉子もそうなるんだろう。
冬莉は全くそういう相手がいないみたいだけど、莉子の相手は冬眞と決まっている。
親としては難しい心境なんだろうな。
僕と壱郎にそういう事に興味が全くないわけじゃない。
年頃の男子並みには欲望がある。
彼女の方から求めて来るなら棚ぼただ。
ただ俺達の年頃の女子は経験は同じだけど知識の量が違う。
それは読んでいる雑誌が違ったり友達同士でする会話の内容に差がある。
男子は精々「あいつの胸デカいな」とか下着の色がどうとか、頑張って「お前ゴム持ってる?」程度だ。
それに対して女子はするときは「腰辺りに枕を入れると良いらしいよ」とか具体的なテクニックを共有している。
そしてそのテクニックを披露された時に男子は戸惑う。
慣れてるのかな?と勘違いする。
そして今壱郎は不安になっていた。
自分以外に男がいるんじゃないのか?と。
「それはないから」
壱郎に言い聞かせる。
茜が俺に先を越されたと不満を感じていたほどだと説明する。
実際、壱郎とした夜、俺のところにも得意気にメッセージを送って来た。
天音と初体験について一晩語り合ったそうだ。
最近の女子が性に関して関心があり過ぎて貞操観念が無いとかそういうつもりで言ってるんじゃない。
実際梨々香は俺以外にそういう目で見られるだけで嫌がる。
茜も壱郎の家での振る舞いや、学校での所作を見ていると同じなんだろう。
彼氏だからこそ心を開く。
好きな男子だからこそ、そういう関係になりたい。
そう思っているのだろう。
だからヤキモチを妬いたりする。
「女心って難しいんだな」
壱郎はそう結論付ける。
結論が出たところでいい時間だから寝る事にした。
明日は大阪のテーマパークに行く。
楽しい所は何度行っても楽しい。
とりあえずは今日歩き疲れた体を休ませることにしよう。
(2)
今日は修学旅行二日目。
京都を周った時と同じ班で行動する。
私達は何度か来たことがある。
もちろん壱郎も一緒に来た。
本場アメリカのも行ったことがあるくらいだ。
だけど今は修学旅行という人生でたった一回の環境で遊びに来てる。
4人だけで色んなアトラクションを周る。
行動時間は一日あったので全部回ってもまだ時間が余っていた。
11月という時期なのと平日という好条件が重なったせいだろう。
同じアトラクションに何度も乗って遊んでいた。
昼食を食べた後も暫く遊んで最後にお土産屋を見て回る。
魔法使いの杖を買う生徒がいた。
そんなもの何に使うんだろう?
純也は梨々香とお揃いのキーホルダーとかを選んでいた。
私も壱郎とマグカップを選んでいた。
「何でマグカップなの?」
「壱郎の家にあったら便利でしょ?」
「どうして?」
「壱郎の家に泊まった時便利じゃない?」
「僕の家に泊まるの?」
「私の家だと天音や冬吾がいるし」
「僕だって兄貴や姉さんいるよ」
「うーん……じゃあ私の家か。まあ、高校生になる頃には天音が家を出てるだろうしそれまで我慢か」
「そもそも泊まる必要があるの?」
「壱郎は私と寝るのがいや?」
上目遣いで壱郎を見る。
「そ、そんなわけないだろ」
「じゃあ、決まりだね」
天音に聞いたテクニックは見事に成功したようだ。
男子は上目遣いでおねだりするとすぐに落とせる。
お土産を買った後は集合時間になり皆集まってテーマパークを出る。
夕食を食べた後お風呂に入って部屋で休む。
私は梨々香と相部屋だった。
梨々香に純也の事を色々聞いてみる。
梨々香は恥ずかしげもなく純也の特徴を語っていた。
それにしてもそんなにしていて進歩が無いのは愛情が足りないんじゃないのか?
「気持ちをわかってもらえなくてイライラするときはあるね。鈍いっていうか熱中し過ぎだろっていうか」
梨々香は純也をそう評価していた。
その気持ちはわかる気がする。
今の私の気持ち理解してよって思う時はある。
「後は悩むのは終わった後だね」
どう接していいのか分からないらしい。
本音は甘えて余韻に浸りたいけど彼に鬱陶しがられないか?
寂しい気分になる時があるらしい。
幸い純也も壱郎も煙草に興味はないし、すぐにシャワーを浴びるという行為もない。
「一緒に居てくれるだけでも幸せなのかもしれないね」
梨々香はそう言って笑っていた。
本音はもう一押し欲しい所だけど妥協するのも愛情なのだろうか?
その後もお互いの体験談を語りながら一夜を過ごした。
三日目は最終日。
大阪の水族館に行く。
純也と壱郎は水族館に入る前から苦笑いをしていた。
あからさまに嫌がる様子はない。
小1の時から付き合ってきた仲だ。
少しくらいは大目にみてあげるのに。
そんなに気を使ってくれるならもっと意地悪をしたくなる。
「壱郎楽しみだね」
壱郎の腕に組み付いてにこりと笑う。
「そ、そうだね」
不器用ながらに笑顔を作る壱郎。
それから水族館の中を見て回る。
この水族館は初めてだからSNSにでも載せよう。
写真を撮っておく。
梨々香と純也は先に出て大道芸人のパフォーマンスを見ていた。
純也はそっちの方に興味があったらしい。
梨々香の機嫌も悪いわけじゃないからまあいいか。
私達もそばにあるショッピングモールを見て回ったりしてた。
そして集合時間になると皆集まる。
昼ご飯を食べて駅までバスで行って新幹線に乗り込む。
純也は席に着くなりさっさと寝てしまった。
最後の最後でやっちゃった。
だけどそんな純也に寄り添って梨々香も寝ている。
壱郎もさすがに疲れたのだろうか。
私の肩に寄りかかって寝てしまった。
私は写真を整理しながらSNSに投稿する。
長いようで短い修学旅行はこうして幕を閉じた。
(3)
トイレに向かうと泣き叫ぶ声が聞こえた。
私達が駆け付けると丸刈りになった女子と刈り取られた髪の毛が散らばっている。
丸刈りだから誰なのかさっぱり分からない。
「あ、未知瑠だ」
加織が言う。
水沢未知瑠。
クラスメートだ。
「落ち着け、何があったんだ?」
「あなたは?」
「渡辺茉里奈。クラスメートだ」
「ま、茉里奈。教室に行って。宏香が……」
高郷宏香。やっぱりクラスメート。
うちのクラスメートばかりどうしてこう狙われるんだろう?
この場は加織に任せて未知瑠に言われた教室に向かった。
普段あまり使われない教室。
悪事をするには好都合な場所だ。
1人で行くのは無謀だったかもしれないけど、加織が増援を手配してくれるだろう。
私は教室に踏み込む。
誰もいない。
性格には1人倒れていた。
宏香か?
「しっかりしろ!何があった!?」
右腕に触れると痛みが走ったのか気が付いた。
「茉里奈?未知瑠……大丈夫?」
命はあるけど大丈夫とは言えないな。
私は見てきた事をありのままに伝える。
「そうなんだ……私の判断ミスだ……あの時助けを呼んでおけば」
何があったのか聞きたかったけど宏香も結構やられてる。
とりあえず保健室に連れて行こう。
保健室に行った後すぐに病院に搬送された。
右腕は骨折していたらしい。
翌日包帯をぶら下げて登校してきた。
未知瑠は欠席していた。
私達の年頃で丸坊主で登校はさすがに無理がある。
ウィッグくらいつけさせてほしいところだが校則でそれは禁止されている。
放課後宏香と一緒に未知瑠の家に見舞いに行く。
未知瑠はニット帽をかぶっていた。
そして宏香の右腕を見て泣き出す。
「宏香ごめんね」
「私こそ未知瑠を守ってやれなかった。ごめん」
2人をしばらくそっとしておいて落ち着くのを待った。
落ち着いた頃二人に話しかける。
「とりあえず連絡先交換しない?」
2人と連絡先を交換し合うとSHに招待する。
未知瑠の彼氏は家に来なかった。
ただメッセージだけは送って来るらしい。
本当は会いたいのだろうけど、SHを通じて丸坊主にされた事を知ると、未知瑠の気持ちを考えたら来づらいのだろう。
「何があったか詳しく説明してくれないか?」
私が言うと一人ずつ順番に話を始めた。
まずは未知瑠が引き金だった。
「何ガンくれてんだよ?」
しょうもない因縁をつけてきたグループにあの部屋に連れて行かれた。
それとたまたま見ていた宏香が救援に駆け付けるが多勢に無勢。
袋叩きになって気を失う。
その後トイレに連れて行かれてバリカンで丸坊主にされたらしい。
「相手は何人いたんだ?」
「女子3人に男子4人」
7人か。
「そいつらの名前は」
宏香から名前を聞きながらSHに送る。
「捕獲出来たよ~」
片桐茜から準備完了の知らせが届いた。
その日はそれで帰った。
期末テストが終わった後で良かった。
その前だったら未知瑠は間違いなく留年。
だけどこの事件を学校にチクる気は全くなかった。
うちのクラスで戦えそうな女子は私一人。
相手に男子がいるから男子に手伝ってもらうのも考えたけどそれじゃ気が収まらない。
寝不足で戦えないなんてことのない様に早めに寝た。
翌日教室に行く前にそいつらの教室に怒鳴り込む。
茜は私が言わなくてもしっかり仕事をしてくれる。
そいつらの上下関係をしっかり調べていた。
そしてリーダー格のやつの机を蹴り飛ばす。
「放課後屋上に来い!用件は言わなくても分かってんだろ?」
そいつはにやりと笑う。
それを無視して自分の教室に戻る。
放課後になると覚悟を決めて教室を出ようとした。
するとSHの女子がついてくる。
「……全員で言っても足手まといだ。喧嘩したことない奴がいてもケガするだけだ。私に任せてくれ」
「私達だってSHの仲間。茉里奈1人行かせるなんてことは絶対許さない!」
全員決意は固い様だ。
本当は天音達がいてくれたら人数差なんて関係ないんだけど、出来れば私達で片付けたい。
卒業間近の天音達を問題に巻き込めない。
天音がいたら確実に病院送りだ。
無論私もそのつもりでいた。
右腕骨折に丸刈りにされた女子。
ただで帰すつもりはない。
「ヤバいと思ったら逃げてもいいからな」
「男子相手だったら武器持っていても許されるよね?」
どこから持って来たんだと聞きたくなるような凶器を取り出す小豆。
「ああ、男子相手だから手加減は一切無用だ」
やるならみんなでか。
それもいいだろう。
「殴られたら痛いぞ?」
「倍にして返してやる!」
意気込む蒼衣。
私達は徒党を組んで屋上に向かった。
「随分大勢で来たんだな」
リーダー格のやつが言った。
人の事言えるかよ?
10数人近くいた。
「で、これからどうするわけ?」
言葉なんていらないって誰かが言ってたな。
準備は出来てる。
私はそいつと間合いを詰めると思いっきり頬を殴りつけた。
それが開始の合図。
「皆茉里奈の援護するよ!」
美衣が言うと私の周りにあつまるSHの仲間。
とりあえず頭を潰す。
戦いの基本。
そして忘れていた。
素人が武器を持つと逆に危険だという事を。
美衣が武器を取りあげられ反対に殴りつけられそうになる。
「美衣!危ない!!」
武器を持った腕を掴んだのは柊聖だった。
「全くお前はちゃんと見てないと危なっかしいな」
「柊聖何でここに?」
「俺だってSHのチャットくらい見てるよ。俺だけじゃない。他の奴らもいる」
柊聖がそう言うと他の男子も駆けつけていた。
そしてこいつらにとって最悪の状態になった。
「茉里奈は何一人で面白そうなことしてんだよ?」
「紗理奈の言うとおりだ。抜け駆けするなんざ10万年早い」
紗理奈と天音達も嗅ぎ付けて来ていた。
柊聖は男の腕をつかんだまま「で、この後どうすればいいの?」と聞いてくる。
すでに意識を失っていたリーダーの頭を用意していたバリカンで丸刈りにする。
「なるほどね。これだけ人数がいるんじゃ一つだけじゃ埒が明かないな。蒼汰!」
「ああ、何個か用意してある」
柊聖が言うと有村蒼汰がバリカンをカバンから取り出す。
それを見て逃げ出そうとするやつを他の男子が塞いでいた。
「一度狙った獲物を逃がすほど間抜けなグループじゃないらしい。諦めろ」
三崎暉斗が言う。
とりあえず全員丸刈りにする。
「これで終わり?」
柊聖が聞いてきた。
私は首を振って近くにいた女子生徒の服を引きちぎる。
叫び声をあげても無駄だ。
その為にこの場所を選んだのだから。
「男子も同じ対応でいいのかな?」
「丸裸にしてやれ」
私が言うと女子は女子の、男子は男子の服を脱がして下着も剥いで丸裸にする。
その衣服を集めると屋上から放り投げる。
グループの連中は身を寄せあってガタガタ震えている。
まあ、寒いだろうな。
「扉の鍵は開けておいてやる。服を取りに行きたければ勝手に行け」
楽しい夜を過ごせ。
写真を撮りながらそう言い残して私達は帰る。
茜の仕事は早い。
私が送っておいた写真を加工してサイトにアップロードする。
そのURLをばらまく。
学校の寒空の下で乱交。
思いっきりねつ造した記事が学校中を飛び交う。
真実は誰も語ることなく終業式まで謹慎処分が言い渡された。
謹慎処分で助かったかもしれない。
「茉里奈は甘すぎだ!右腕一本やられてんだ。両手両足使い物にならなくなるまで痛めつけないと駄目だろ!」
そう言って翌日、そいつらの教室に殴り込みをかけて無関係の連中を「連帯責任」という名目で袋叩きにして戻ったらしい。
(4)
朝教室の私の机の上に写真がおいてあった。
誰かの忘れものだろうか?
写真をとって見ると言葉を失う。
映っているのは私の彼氏宝木時平と知らない女性の密会写真。
制服は同じ桜丘高校の制服のようだ。
時平と同じ普通科の子だろうか?
ただ会っていたと言うだけで浮気と断定するのはいくらなんでも無いと思ったけど聞くのが怖い。
もしそうだとしたらどうしよう?
苛立ちとショックで食欲が無くなっていた。
そして体育の授業中軽い貧血で倒れる。
目が覚めると茉里奈がいた。
「気分はどうだ?」
「……最悪」
「だろうな、最近様子変だったし。何かあったのか?」
茉里奈は学校が違う彼氏と付き合ってるんだったっけ?
私の悩みを理解してくれるかもしれない
私は茉里奈に相談してみた。
「ただ会ってたってだけなんだろ?場所はどこだ?」
「わかんない、外にいるのは確かみたいだけど」
「ふーん、その写真今持ってる?」
茉里奈が言うと私は写真を茉里奈に見せた。
「ん?」
茉里奈は何か気付いたようだ。
「なあ?この写真ちょっと貸してくれない?」
「どうするの?」
「いや、気になることがあってさ。確認したいから」
「いいよ」
どうせ写真を見せつけて「これはどういうこと!?」なんて真似はしないから。
すると、問題の時平がやって来た。
「大丈夫か?急に倒れて保健室で休んでるって聞いたから」
本気で心配しているようだ。
とても浮気してるようには見えない。
でも誰にでも優しいという疑いはある。
私に飽きて他の女子を探してる最中かもしれない。
茉里奈は写真をカバンに仕舞っていた。
「じゃ、私先帰るから」
言っとくけどここ保健室だからな。と言って出て行った。
「私達も帰ろうか」
「もう立てるの?」
「大丈夫」
帰り道にそっと聞いてみた。
「ねえ時平?」
「どうした瀬奈」
「私に隠してることない?」
「いや、ないけど?」
嘘をついてるようには見えない。
私の中にある時平を信じたい心がそう思わせるのかもしれないけど。
とりあえずは茉里奈に任せてみる事にした。
それから急に時平は優しくなった。
朝と帰りはもちろん休み時間まで様子を見に来てくれる。
SHのチャットの中で食欲がないと言っただからだろうか?
写真の事は私と一部の女子だけしか知らないはずだった。
そんな日が続いていたある日の事だった。
茉里奈に放課後残るように言われて教室に残っている。
何故か私の親友も残っていた。
そして最後に時平が来ると茉里奈が話を始めた。
「役者は揃ったしそろそろ始めようか」
「役者って何の話?」
気のせいだろうか?親友の顔色がおかしい。
「まずはこれを見てくれ」
そう言って茉里奈が自分のスマホを指しだす。
動画ファイルだった。
日付は私が写真を見つけた日の前日だった。
親友の顔が青ざめてる。
映っていた時間は夕方。
私の机の上に何かを置いてる人物がいる。
周りをきょろきょろ確かめるようにしていたので顔はばっちり写っていた。
どうみても親友だ。
髪形からして間違いない。
私達の年頃でツインテールなんてしてる女子は私のクラスでは親友だけだ。
茉里奈はそんな親友を見て満足そうに笑みを浮かべる。
「次はこの写真だけど……」
私が茉里奈に渡した写真だ。
時平は驚いている。
「瀬奈が最近様子がおかしいのはこの写真のせいなのか?」
私は何も言わなかった。
「待ってくれ!俺は全く身に覚えがない!この一緒に映ってるのは同じクラスの子だけど」
そこは嘘でも知らないと言うべきなんじゃないのか?
余計に不安になるじゃないか。
でもここまで馬鹿正直な答え方をする浮気もあり得ないような気がする。
私はまだ時平が好きなんだ。
お願い、デマだと言って欲しかった。
「身に覚えがあるわけないよな。最初見た時気づいたんだ。微妙に色に継ぎ目があるのに気づいてな」
私は動揺して気づかなかったのかもしれないけど。と茉里奈は言った。
「どういう事?」
「念の為SHのそっち系に強い奴に確認してもらったよ」
そのスキルの持ち主は天音の妹の片桐茜。
だから茉里奈の姉の紗理奈に写真を渡して茜に人づてに預けたらしい。
茜は一目見て笑ったらしい。
「下手くそなコラ画像だね。ネットに流出してるアイドルのコラ画像の方がよっぽどマシに思える」
これは合成写真で間違いない。と断定されたらしい。
「話は以上だ。何か異議があるなら聞いてやるぞ?」
茉里奈は親友にそう聞いていた。
「親友と何か関係あるの?」
「それは本人から喋った方がすっきりするんじゃねーのか?はっきり答えろよ」
親友はこの写真は自分が作成した物で私の机に置いたのは自分だと白状した。
なんでそんな事をしたのか聞いてみた。
それは数日前の休日の話だった。
季節外れもいいところの雷雨が襲ったことがある。
異常気象だろうか?
まあ、ドラマでも絶妙なタイミングで大雨が突発的に振ることがあるので良いと判断されたのだろう。
そして出かけていた親友は傘が無くて困っていたところを時平に笠に入れてもらって時平に一目惚れした。
しかし時平が私の彼氏だと知って親友は悩んだ末私と時平の仲が破局したら自分にチャンスがあるかもと思ったそうだ。
失恋直後が狙い目なのは男も女も関係ないらしい。
そして合成写真を私の机に置いて時平があたかも浮気しているように見せかけた。
そして私は親友の思惑通りに動いてしまった。
誤算はSHの存在と私の中にあった時平を信じたいという想い。
そして最後まで私の身を案じてくれた時平の優しさ。
「ごめんなさい」
そう言って親友は泣き出した。
私はどう答えたらいいのか分からなかった。
そこまでして時平と付き合いたいの?
時平はこれからどうするの?
時平は答えてくれた。
「君が僕の事を好きだという気持ちは分かった。だけど好き合ってる二人の仲を引き裂こうとした気持ちは絶対に認められない」
そんな思惑を知った今時平は絶対に親友に心を寄せることは無いと言い切った。
私は、居づらくなるのが分かっていたのでその場で親友のグループを抜けた。
今後は彼女に関わることは無いだろう。
事件が解決すると彼女一人を残して教室を去る。
バスに乗って帰る。
バス停を降りると家に向かって歩く。
「俺も軽はずみな行動だったのかもしれない。ごめんな」
「そうだね。誰にでも優しくするのはやっぱり辛いかな」
そこが良い所でもあるんだけど。
「気をつけるよ」
「どう気を付けるの?」
「え?」
時平は困惑していた。
「他人に優しくするなとは言わない。ただ一つだけお願いを聞いて欲しい」
「お願い?」
「うん、他人に優しくしても何とも思わないくらい私にはもっと優しくしてほしい」
「今でもそのつもりなんだけどな」
「じゃあ、私が今一番して欲しいことしてよ」
「え?何すればいいの?」
「証明してみせて」
時平が一番好きなのは私という証明。
時平は悩んでいる。
だから私から動いた。
時平の腰に腕を回して目を閉じる。
時平は分かってくれたみたいだ。
「クリスマスイブ楽しみだね」
「そうだな」
季節はもうすぐ12月になる。
「ほら、壱郎!さっさと歩く!」
「純也もだよ!まだ行くところ沢山あるんだよ!」
茜と梨々香は張り切っていた。
俺達は修学旅行に来ている。
初日は京都を自由行動していた。
俺達の班は俺と茜、壱郎と梨々香の4人。
なぜこんな少人数なのか?
それは今年から初日の自由行動の仕組みがかわったから。
原因は去年の自由行動にあった。
京都、奈良、大阪の3つのエリアだけと決めていたのに、無謀にも琵琶いちしたいからと滋賀県にいった生徒がいたそうだ。
それで行動範囲を京都のみに限定させられた。
その代わりタクシーを貸し切りにして班ごとに自由に乗り回していいという事になった。
それで4人というわけだが問題も発生する。
ここは京都の中心部。
地元みたいに車でどこでも行けるというわけじゃない。
歩いた方が速い場合も多々ある。
そして女子は無謀なスケジュールを組む。
一ヵ所に滞在する時間が3分程度という何をしに来たのか分からない状態になる。
女子はパワースポットを好む。
そんな事はSHのチャットで大体聞いていた。
皆苦労したらしい。
しかしここまでしんどいとは思わなかった。
一番きついのはそのしんどいという苦痛を表に出さないという事。
それは修学旅行に限った話じゃない。
デートをしてる時は最低限の鉄則。
油断して「疲れた」とか言おうものならへそを曲げた彼女の機嫌を直すのに更なる労力を必要とする。
お土産屋で一息ついたり途中喫茶店のようなところで小休止するときに休む。
しかし、喫茶店も抹茶が嫌いな俺には拷問だった。
何から何まで抹茶尽くし。
あ、和菓子とかはあったけど。
お冷の代わりにほうじ茶が出てくる。
どこまでも和を追求した喫茶店だった。
奇跡的に女子が希望した場所を全て回ることが出来た。
女子は満足したのか僕達に褒美をくれた。
「夕食は純也達の好きな物でいいよ」
俺は壱郎と相談した。
そして結論が出た。
「ラーメンが食べたい」
女子は呆れていた。
でも嫌そうなそぶりは見せなかった。
ただ「どうしてラーメンなの?」って聞かれたけど。
大体の男子ならご当地ラーメン食べてみたいと思うだろう。
そして京料理に興味がない。
湯葉なんて食ってお腹にたまるはずがない。
しかしブランド牛なんて食べるお金を持っているはずがない。
妥当なところでラーメンという結論に至ったわけだ。
もちろん普段のデートでラーメンは避けていた。
そんな事が許されるのは多分翼と天音だけだろう。
それでも梨々香は言ってくれる。
「地元にも美味しいラーメン屋さんあるんでしょ?今度一緒に食べに行こう?」
「女子ってラーメンとか嫌いじゃないの?」
「嫌いってわけじゃないけど……そうだな~純也は一人でケーキ食べ放題の店に入れる?」
「絶対無理」
「女子も一緒だよ。1人や女子だけでラーメン屋とか焼き肉屋に入るのが抵抗あるだけ」
なるほどね。
翼と天音は平気で入るんだろうな。
夕食を終えるとホテルに帰る。
風呂に入る。
さすがに中学生で女風呂を覗こうとするやつはいない。
やったら間違いなく犯罪者扱いされる。
それに中学生にもなると大体の奴が彼女持ちだしそれなりの体験もする。
リスクを冒す必要性が無かった。
そんな話を風呂からあがったあと壱郎としていた。
壱郎と茜がそう言う関係を持ったのは茜から聞いてる。
自分の妹はどうだった?とかそういうのを聞く趣味はもっていない。
ただ茜は他人の家でどんな振る舞いをしているのかは気になっていた。
片桐家の中を下着だけで歩き回って愛莉に怒られているのは聞いていたから。
幸いにも壱郎の家でそういう凶行には至らなかったそうだ。
ただそういう雰囲気を出そうとはしてきたらしい。
しかし息子の部屋に他所の娘を連れて来たとなると親が心配するそうだ。
まだ中学生。
他人様の娘に取り返しのつかないことをするんじゃないかと様子を見に来るらしい。
そこで茜は考えた。
りえちゃんに電話する。
愛莉じゃないところが工夫した点だろう。
りえちゃんは純也の家に電話した。
「うちの娘も自分で物事を判断できる年頃だし好きにさせてやってくださいな」
すると壱郎の親は壱郎の部屋のある2階に上がってこなくなった。
何かあったら電話してとだけ言ったらしい。
そしてことにいたる。
やっと一人前の女になれたと得意気に夕食の時に話したそうだ。
話を聞いた愛莉はりえちゃんに電話する。
「りえちゃん、勝手なことしないで!」
「あら?別にいいじゃない~愛莉ちゃんも茜ちゃんくらいの歳の時には冬夜君とそういう関係になりたいって悩んでたでしょ~?」
「うぅ……」
ちなみに父さんはもう慣れたらしい。
ただ笑っていたそうだ。
いずれは冬莉と莉子もそうなるんだろう。
冬莉は全くそういう相手がいないみたいだけど、莉子の相手は冬眞と決まっている。
親としては難しい心境なんだろうな。
僕と壱郎にそういう事に興味が全くないわけじゃない。
年頃の男子並みには欲望がある。
彼女の方から求めて来るなら棚ぼただ。
ただ俺達の年頃の女子は経験は同じだけど知識の量が違う。
それは読んでいる雑誌が違ったり友達同士でする会話の内容に差がある。
男子は精々「あいつの胸デカいな」とか下着の色がどうとか、頑張って「お前ゴム持ってる?」程度だ。
それに対して女子はするときは「腰辺りに枕を入れると良いらしいよ」とか具体的なテクニックを共有している。
そしてそのテクニックを披露された時に男子は戸惑う。
慣れてるのかな?と勘違いする。
そして今壱郎は不安になっていた。
自分以外に男がいるんじゃないのか?と。
「それはないから」
壱郎に言い聞かせる。
茜が俺に先を越されたと不満を感じていたほどだと説明する。
実際、壱郎とした夜、俺のところにも得意気にメッセージを送って来た。
天音と初体験について一晩語り合ったそうだ。
最近の女子が性に関して関心があり過ぎて貞操観念が無いとかそういうつもりで言ってるんじゃない。
実際梨々香は俺以外にそういう目で見られるだけで嫌がる。
茜も壱郎の家での振る舞いや、学校での所作を見ていると同じなんだろう。
彼氏だからこそ心を開く。
好きな男子だからこそ、そういう関係になりたい。
そう思っているのだろう。
だからヤキモチを妬いたりする。
「女心って難しいんだな」
壱郎はそう結論付ける。
結論が出たところでいい時間だから寝る事にした。
明日は大阪のテーマパークに行く。
楽しい所は何度行っても楽しい。
とりあえずは今日歩き疲れた体を休ませることにしよう。
(2)
今日は修学旅行二日目。
京都を周った時と同じ班で行動する。
私達は何度か来たことがある。
もちろん壱郎も一緒に来た。
本場アメリカのも行ったことがあるくらいだ。
だけど今は修学旅行という人生でたった一回の環境で遊びに来てる。
4人だけで色んなアトラクションを周る。
行動時間は一日あったので全部回ってもまだ時間が余っていた。
11月という時期なのと平日という好条件が重なったせいだろう。
同じアトラクションに何度も乗って遊んでいた。
昼食を食べた後も暫く遊んで最後にお土産屋を見て回る。
魔法使いの杖を買う生徒がいた。
そんなもの何に使うんだろう?
純也は梨々香とお揃いのキーホルダーとかを選んでいた。
私も壱郎とマグカップを選んでいた。
「何でマグカップなの?」
「壱郎の家にあったら便利でしょ?」
「どうして?」
「壱郎の家に泊まった時便利じゃない?」
「僕の家に泊まるの?」
「私の家だと天音や冬吾がいるし」
「僕だって兄貴や姉さんいるよ」
「うーん……じゃあ私の家か。まあ、高校生になる頃には天音が家を出てるだろうしそれまで我慢か」
「そもそも泊まる必要があるの?」
「壱郎は私と寝るのがいや?」
上目遣いで壱郎を見る。
「そ、そんなわけないだろ」
「じゃあ、決まりだね」
天音に聞いたテクニックは見事に成功したようだ。
男子は上目遣いでおねだりするとすぐに落とせる。
お土産を買った後は集合時間になり皆集まってテーマパークを出る。
夕食を食べた後お風呂に入って部屋で休む。
私は梨々香と相部屋だった。
梨々香に純也の事を色々聞いてみる。
梨々香は恥ずかしげもなく純也の特徴を語っていた。
それにしてもそんなにしていて進歩が無いのは愛情が足りないんじゃないのか?
「気持ちをわかってもらえなくてイライラするときはあるね。鈍いっていうか熱中し過ぎだろっていうか」
梨々香は純也をそう評価していた。
その気持ちはわかる気がする。
今の私の気持ち理解してよって思う時はある。
「後は悩むのは終わった後だね」
どう接していいのか分からないらしい。
本音は甘えて余韻に浸りたいけど彼に鬱陶しがられないか?
寂しい気分になる時があるらしい。
幸い純也も壱郎も煙草に興味はないし、すぐにシャワーを浴びるという行為もない。
「一緒に居てくれるだけでも幸せなのかもしれないね」
梨々香はそう言って笑っていた。
本音はもう一押し欲しい所だけど妥協するのも愛情なのだろうか?
その後もお互いの体験談を語りながら一夜を過ごした。
三日目は最終日。
大阪の水族館に行く。
純也と壱郎は水族館に入る前から苦笑いをしていた。
あからさまに嫌がる様子はない。
小1の時から付き合ってきた仲だ。
少しくらいは大目にみてあげるのに。
そんなに気を使ってくれるならもっと意地悪をしたくなる。
「壱郎楽しみだね」
壱郎の腕に組み付いてにこりと笑う。
「そ、そうだね」
不器用ながらに笑顔を作る壱郎。
それから水族館の中を見て回る。
この水族館は初めてだからSNSにでも載せよう。
写真を撮っておく。
梨々香と純也は先に出て大道芸人のパフォーマンスを見ていた。
純也はそっちの方に興味があったらしい。
梨々香の機嫌も悪いわけじゃないからまあいいか。
私達もそばにあるショッピングモールを見て回ったりしてた。
そして集合時間になると皆集まる。
昼ご飯を食べて駅までバスで行って新幹線に乗り込む。
純也は席に着くなりさっさと寝てしまった。
最後の最後でやっちゃった。
だけどそんな純也に寄り添って梨々香も寝ている。
壱郎もさすがに疲れたのだろうか。
私の肩に寄りかかって寝てしまった。
私は写真を整理しながらSNSに投稿する。
長いようで短い修学旅行はこうして幕を閉じた。
(3)
トイレに向かうと泣き叫ぶ声が聞こえた。
私達が駆け付けると丸刈りになった女子と刈り取られた髪の毛が散らばっている。
丸刈りだから誰なのかさっぱり分からない。
「あ、未知瑠だ」
加織が言う。
水沢未知瑠。
クラスメートだ。
「落ち着け、何があったんだ?」
「あなたは?」
「渡辺茉里奈。クラスメートだ」
「ま、茉里奈。教室に行って。宏香が……」
高郷宏香。やっぱりクラスメート。
うちのクラスメートばかりどうしてこう狙われるんだろう?
この場は加織に任せて未知瑠に言われた教室に向かった。
普段あまり使われない教室。
悪事をするには好都合な場所だ。
1人で行くのは無謀だったかもしれないけど、加織が増援を手配してくれるだろう。
私は教室に踏み込む。
誰もいない。
性格には1人倒れていた。
宏香か?
「しっかりしろ!何があった!?」
右腕に触れると痛みが走ったのか気が付いた。
「茉里奈?未知瑠……大丈夫?」
命はあるけど大丈夫とは言えないな。
私は見てきた事をありのままに伝える。
「そうなんだ……私の判断ミスだ……あの時助けを呼んでおけば」
何があったのか聞きたかったけど宏香も結構やられてる。
とりあえず保健室に連れて行こう。
保健室に行った後すぐに病院に搬送された。
右腕は骨折していたらしい。
翌日包帯をぶら下げて登校してきた。
未知瑠は欠席していた。
私達の年頃で丸坊主で登校はさすがに無理がある。
ウィッグくらいつけさせてほしいところだが校則でそれは禁止されている。
放課後宏香と一緒に未知瑠の家に見舞いに行く。
未知瑠はニット帽をかぶっていた。
そして宏香の右腕を見て泣き出す。
「宏香ごめんね」
「私こそ未知瑠を守ってやれなかった。ごめん」
2人をしばらくそっとしておいて落ち着くのを待った。
落ち着いた頃二人に話しかける。
「とりあえず連絡先交換しない?」
2人と連絡先を交換し合うとSHに招待する。
未知瑠の彼氏は家に来なかった。
ただメッセージだけは送って来るらしい。
本当は会いたいのだろうけど、SHを通じて丸坊主にされた事を知ると、未知瑠の気持ちを考えたら来づらいのだろう。
「何があったか詳しく説明してくれないか?」
私が言うと一人ずつ順番に話を始めた。
まずは未知瑠が引き金だった。
「何ガンくれてんだよ?」
しょうもない因縁をつけてきたグループにあの部屋に連れて行かれた。
それとたまたま見ていた宏香が救援に駆け付けるが多勢に無勢。
袋叩きになって気を失う。
その後トイレに連れて行かれてバリカンで丸坊主にされたらしい。
「相手は何人いたんだ?」
「女子3人に男子4人」
7人か。
「そいつらの名前は」
宏香から名前を聞きながらSHに送る。
「捕獲出来たよ~」
片桐茜から準備完了の知らせが届いた。
その日はそれで帰った。
期末テストが終わった後で良かった。
その前だったら未知瑠は間違いなく留年。
だけどこの事件を学校にチクる気は全くなかった。
うちのクラスで戦えそうな女子は私一人。
相手に男子がいるから男子に手伝ってもらうのも考えたけどそれじゃ気が収まらない。
寝不足で戦えないなんてことのない様に早めに寝た。
翌日教室に行く前にそいつらの教室に怒鳴り込む。
茜は私が言わなくてもしっかり仕事をしてくれる。
そいつらの上下関係をしっかり調べていた。
そしてリーダー格のやつの机を蹴り飛ばす。
「放課後屋上に来い!用件は言わなくても分かってんだろ?」
そいつはにやりと笑う。
それを無視して自分の教室に戻る。
放課後になると覚悟を決めて教室を出ようとした。
するとSHの女子がついてくる。
「……全員で言っても足手まといだ。喧嘩したことない奴がいてもケガするだけだ。私に任せてくれ」
「私達だってSHの仲間。茉里奈1人行かせるなんてことは絶対許さない!」
全員決意は固い様だ。
本当は天音達がいてくれたら人数差なんて関係ないんだけど、出来れば私達で片付けたい。
卒業間近の天音達を問題に巻き込めない。
天音がいたら確実に病院送りだ。
無論私もそのつもりでいた。
右腕骨折に丸刈りにされた女子。
ただで帰すつもりはない。
「ヤバいと思ったら逃げてもいいからな」
「男子相手だったら武器持っていても許されるよね?」
どこから持って来たんだと聞きたくなるような凶器を取り出す小豆。
「ああ、男子相手だから手加減は一切無用だ」
やるならみんなでか。
それもいいだろう。
「殴られたら痛いぞ?」
「倍にして返してやる!」
意気込む蒼衣。
私達は徒党を組んで屋上に向かった。
「随分大勢で来たんだな」
リーダー格のやつが言った。
人の事言えるかよ?
10数人近くいた。
「で、これからどうするわけ?」
言葉なんていらないって誰かが言ってたな。
準備は出来てる。
私はそいつと間合いを詰めると思いっきり頬を殴りつけた。
それが開始の合図。
「皆茉里奈の援護するよ!」
美衣が言うと私の周りにあつまるSHの仲間。
とりあえず頭を潰す。
戦いの基本。
そして忘れていた。
素人が武器を持つと逆に危険だという事を。
美衣が武器を取りあげられ反対に殴りつけられそうになる。
「美衣!危ない!!」
武器を持った腕を掴んだのは柊聖だった。
「全くお前はちゃんと見てないと危なっかしいな」
「柊聖何でここに?」
「俺だってSHのチャットくらい見てるよ。俺だけじゃない。他の奴らもいる」
柊聖がそう言うと他の男子も駆けつけていた。
そしてこいつらにとって最悪の状態になった。
「茉里奈は何一人で面白そうなことしてんだよ?」
「紗理奈の言うとおりだ。抜け駆けするなんざ10万年早い」
紗理奈と天音達も嗅ぎ付けて来ていた。
柊聖は男の腕をつかんだまま「で、この後どうすればいいの?」と聞いてくる。
すでに意識を失っていたリーダーの頭を用意していたバリカンで丸刈りにする。
「なるほどね。これだけ人数がいるんじゃ一つだけじゃ埒が明かないな。蒼汰!」
「ああ、何個か用意してある」
柊聖が言うと有村蒼汰がバリカンをカバンから取り出す。
それを見て逃げ出そうとするやつを他の男子が塞いでいた。
「一度狙った獲物を逃がすほど間抜けなグループじゃないらしい。諦めろ」
三崎暉斗が言う。
とりあえず全員丸刈りにする。
「これで終わり?」
柊聖が聞いてきた。
私は首を振って近くにいた女子生徒の服を引きちぎる。
叫び声をあげても無駄だ。
その為にこの場所を選んだのだから。
「男子も同じ対応でいいのかな?」
「丸裸にしてやれ」
私が言うと女子は女子の、男子は男子の服を脱がして下着も剥いで丸裸にする。
その衣服を集めると屋上から放り投げる。
グループの連中は身を寄せあってガタガタ震えている。
まあ、寒いだろうな。
「扉の鍵は開けておいてやる。服を取りに行きたければ勝手に行け」
楽しい夜を過ごせ。
写真を撮りながらそう言い残して私達は帰る。
茜の仕事は早い。
私が送っておいた写真を加工してサイトにアップロードする。
そのURLをばらまく。
学校の寒空の下で乱交。
思いっきりねつ造した記事が学校中を飛び交う。
真実は誰も語ることなく終業式まで謹慎処分が言い渡された。
謹慎処分で助かったかもしれない。
「茉里奈は甘すぎだ!右腕一本やられてんだ。両手両足使い物にならなくなるまで痛めつけないと駄目だろ!」
そう言って翌日、そいつらの教室に殴り込みをかけて無関係の連中を「連帯責任」という名目で袋叩きにして戻ったらしい。
(4)
朝教室の私の机の上に写真がおいてあった。
誰かの忘れものだろうか?
写真をとって見ると言葉を失う。
映っているのは私の彼氏宝木時平と知らない女性の密会写真。
制服は同じ桜丘高校の制服のようだ。
時平と同じ普通科の子だろうか?
ただ会っていたと言うだけで浮気と断定するのはいくらなんでも無いと思ったけど聞くのが怖い。
もしそうだとしたらどうしよう?
苛立ちとショックで食欲が無くなっていた。
そして体育の授業中軽い貧血で倒れる。
目が覚めると茉里奈がいた。
「気分はどうだ?」
「……最悪」
「だろうな、最近様子変だったし。何かあったのか?」
茉里奈は学校が違う彼氏と付き合ってるんだったっけ?
私の悩みを理解してくれるかもしれない
私は茉里奈に相談してみた。
「ただ会ってたってだけなんだろ?場所はどこだ?」
「わかんない、外にいるのは確かみたいだけど」
「ふーん、その写真今持ってる?」
茉里奈が言うと私は写真を茉里奈に見せた。
「ん?」
茉里奈は何か気付いたようだ。
「なあ?この写真ちょっと貸してくれない?」
「どうするの?」
「いや、気になることがあってさ。確認したいから」
「いいよ」
どうせ写真を見せつけて「これはどういうこと!?」なんて真似はしないから。
すると、問題の時平がやって来た。
「大丈夫か?急に倒れて保健室で休んでるって聞いたから」
本気で心配しているようだ。
とても浮気してるようには見えない。
でも誰にでも優しいという疑いはある。
私に飽きて他の女子を探してる最中かもしれない。
茉里奈は写真をカバンに仕舞っていた。
「じゃ、私先帰るから」
言っとくけどここ保健室だからな。と言って出て行った。
「私達も帰ろうか」
「もう立てるの?」
「大丈夫」
帰り道にそっと聞いてみた。
「ねえ時平?」
「どうした瀬奈」
「私に隠してることない?」
「いや、ないけど?」
嘘をついてるようには見えない。
私の中にある時平を信じたい心がそう思わせるのかもしれないけど。
とりあえずは茉里奈に任せてみる事にした。
それから急に時平は優しくなった。
朝と帰りはもちろん休み時間まで様子を見に来てくれる。
SHのチャットの中で食欲がないと言っただからだろうか?
写真の事は私と一部の女子だけしか知らないはずだった。
そんな日が続いていたある日の事だった。
茉里奈に放課後残るように言われて教室に残っている。
何故か私の親友も残っていた。
そして最後に時平が来ると茉里奈が話を始めた。
「役者は揃ったしそろそろ始めようか」
「役者って何の話?」
気のせいだろうか?親友の顔色がおかしい。
「まずはこれを見てくれ」
そう言って茉里奈が自分のスマホを指しだす。
動画ファイルだった。
日付は私が写真を見つけた日の前日だった。
親友の顔が青ざめてる。
映っていた時間は夕方。
私の机の上に何かを置いてる人物がいる。
周りをきょろきょろ確かめるようにしていたので顔はばっちり写っていた。
どうみても親友だ。
髪形からして間違いない。
私達の年頃でツインテールなんてしてる女子は私のクラスでは親友だけだ。
茉里奈はそんな親友を見て満足そうに笑みを浮かべる。
「次はこの写真だけど……」
私が茉里奈に渡した写真だ。
時平は驚いている。
「瀬奈が最近様子がおかしいのはこの写真のせいなのか?」
私は何も言わなかった。
「待ってくれ!俺は全く身に覚えがない!この一緒に映ってるのは同じクラスの子だけど」
そこは嘘でも知らないと言うべきなんじゃないのか?
余計に不安になるじゃないか。
でもここまで馬鹿正直な答え方をする浮気もあり得ないような気がする。
私はまだ時平が好きなんだ。
お願い、デマだと言って欲しかった。
「身に覚えがあるわけないよな。最初見た時気づいたんだ。微妙に色に継ぎ目があるのに気づいてな」
私は動揺して気づかなかったのかもしれないけど。と茉里奈は言った。
「どういう事?」
「念の為SHのそっち系に強い奴に確認してもらったよ」
そのスキルの持ち主は天音の妹の片桐茜。
だから茉里奈の姉の紗理奈に写真を渡して茜に人づてに預けたらしい。
茜は一目見て笑ったらしい。
「下手くそなコラ画像だね。ネットに流出してるアイドルのコラ画像の方がよっぽどマシに思える」
これは合成写真で間違いない。と断定されたらしい。
「話は以上だ。何か異議があるなら聞いてやるぞ?」
茉里奈は親友にそう聞いていた。
「親友と何か関係あるの?」
「それは本人から喋った方がすっきりするんじゃねーのか?はっきり答えろよ」
親友はこの写真は自分が作成した物で私の机に置いたのは自分だと白状した。
なんでそんな事をしたのか聞いてみた。
それは数日前の休日の話だった。
季節外れもいいところの雷雨が襲ったことがある。
異常気象だろうか?
まあ、ドラマでも絶妙なタイミングで大雨が突発的に振ることがあるので良いと判断されたのだろう。
そして出かけていた親友は傘が無くて困っていたところを時平に笠に入れてもらって時平に一目惚れした。
しかし時平が私の彼氏だと知って親友は悩んだ末私と時平の仲が破局したら自分にチャンスがあるかもと思ったそうだ。
失恋直後が狙い目なのは男も女も関係ないらしい。
そして合成写真を私の机に置いて時平があたかも浮気しているように見せかけた。
そして私は親友の思惑通りに動いてしまった。
誤算はSHの存在と私の中にあった時平を信じたいという想い。
そして最後まで私の身を案じてくれた時平の優しさ。
「ごめんなさい」
そう言って親友は泣き出した。
私はどう答えたらいいのか分からなかった。
そこまでして時平と付き合いたいの?
時平はこれからどうするの?
時平は答えてくれた。
「君が僕の事を好きだという気持ちは分かった。だけど好き合ってる二人の仲を引き裂こうとした気持ちは絶対に認められない」
そんな思惑を知った今時平は絶対に親友に心を寄せることは無いと言い切った。
私は、居づらくなるのが分かっていたのでその場で親友のグループを抜けた。
今後は彼女に関わることは無いだろう。
事件が解決すると彼女一人を残して教室を去る。
バスに乗って帰る。
バス停を降りると家に向かって歩く。
「俺も軽はずみな行動だったのかもしれない。ごめんな」
「そうだね。誰にでも優しくするのはやっぱり辛いかな」
そこが良い所でもあるんだけど。
「気をつけるよ」
「どう気を付けるの?」
「え?」
時平は困惑していた。
「他人に優しくするなとは言わない。ただ一つだけお願いを聞いて欲しい」
「お願い?」
「うん、他人に優しくしても何とも思わないくらい私にはもっと優しくしてほしい」
「今でもそのつもりなんだけどな」
「じゃあ、私が今一番して欲しいことしてよ」
「え?何すればいいの?」
「証明してみせて」
時平が一番好きなのは私という証明。
時平は悩んでいる。
だから私から動いた。
時平の腰に腕を回して目を閉じる。
時平は分かってくれたみたいだ。
「クリスマスイブ楽しみだね」
「そうだな」
季節はもうすぐ12月になる。
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