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儚い閃光と流星
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(1)
「やあ、天音」
「パパ!?」
私は目を疑った。
車種は水奈と同じ物。
白色のスポーツカーに乗って現れたのはパパとパパの友達。
花のお父さんが車の調整をしている。
週末の峠でいつもの様に遊んでいるとパパ達が現れた。
蒼い閃光。
パパはこの峠でそう呼ばれていたらしい。
そのレコードタイムは未だに破られていない。
私も挑んでみたけど届かなかった。
でも愛莉のお願いで走るのはやめたと聞いていた。
どうしてそのパパがここにいるのか?
パパの目的は単純だった。
「天音と一度レースがしてみたかった」
私と勝負したいらしい。
水奈も驚いていた。
私は水奈と相談していた。
いくらパパが凄いと言ってもそれは20年近く前の話。
腕は衰えているんじゃないか?
だったら私が新しい伝説になってやる。
そう思ったから勝負を受けた。
「娘とこんな事になるとはね……」
パパはそう言うと乗って来た車に乗り込みスタートラインにぴたりとつける。
ご丁寧に最初のコーナーがアウト側になる位置だ。
勝算はまだあった。
パパが乗っていたのはAT車。
今乗っているのはMT車。
慣れていないはず。
そんな甘い考えがあった。
観客も盛り上がっている。
無理もない。
二度と見れないと思っていた蒼い閃光の走りがまた見れるのだから。
カウントが始まる。
パパの伝説を終わらせてやる!
そう意気込んでいた。
「スタート!」
そう言うと私は最初から全開で走る。
本気の勝負。
しかし甘かった。
馬力はほぼ同じはず。
それでもパパの車は加速が違う。
いくら茜の改造が施されていたとしてもそれはやはり中学生。
花の父さん。竹本悠馬の方が1枚も2枚も上手だった。
パパの車は狂気の速度でコーナーに突っ込んでいく。
パパは自分がアウト側だと分かっているのか!?
「ブレーキいかれたか!?」
そんな観客の叫び声もあったらしい。
しかし、私の理解を越えた速度でパパの車はコーナーを抜ける。
パパと同じ速度で挑もうとするけどやはりそこまで突っ込んでいけない。
後で聞いた話だけどパパは本気で勝負に挑んでいた。
その車はもはやデモカーに近いものがあった。
タイヤなども高校生がいじれる限界をはるかに上回ったものだ。
コーナーを3つくらい抜けるとパパの車は見えなくなっていた。
パパは自分が持っていた記録を自分で塗り替えてみせた。
甘かった。
パパがAT車に乗っていたのはただのハンデだった。
ガチンコのスポーツカーに乗ったらパパのリミットが解除されるだけだった。
私がゴールするとパパは車を反転させて待っていた。
ヒルクライムも勝負してくれるらしい。
結果は一緒だった。
パパの車のブレーキランプすら見ることが出来なかった。
負けなしの連勝記録はパパによって破られた。
「パパはずるい!そんな車反則だ!」
私の意地がそう言っていた。
そんな私の反応をパパは予想していたらしい。
こんな日が来ることも私の反論も全てパパの想定内だった。
「お願いがあるんだけど。帰りは父さんに天音の車を運転させてくれないかな?」
「いいけど」
「中島君今夜はありがとう」
「それは良いんだけど、愛莉さん大丈夫なのか?こういうの愛莉さん嫌ってただろ?」
「それは大丈夫。竹本君も夜遅くにごめんね。助かったよ」
「大丈夫です。久しぶりで心配だったけど片桐先輩には関係なかったようですね」
「水奈も学が心配しないように早く帰りなさい」
「おじさんの後付けてもいいかな?帰るから」
「いいけど無理しないでついておいで。下りた先の自販機の所で待っているから」
パパは皆と話をしている。
パパの目的はなんだ?
そんな事を考えていた。
そしてパパは運転席に座る。
私は生まれて初めてパパの助手席に座る。
ずっと愛莉が独り占めしていたから。
その事をすぐに後悔することになる。
パパはいきなり全開でコーナーに突っ込む。
どんなテクを持っているのか?
そんな疑問を持ってパパの運転をちらりとみた。
信じられない光景があった。
車は今ドリフト中。
パパは今ポケットに手を突っ込んで眠気防止のガムを取り出して噛み始めた。
私の方を見て笑って言う。
「天音も食べる?眠くないかい?」
眠気もいっぺんに吹き飛ぶ狂気の光景。
ハンドルを持て!前を見て!
しかしパパの車は見事にコーナーを抜けた。
「へえ、なるほどね。……これなら大丈夫かな?少し怖い思いするかもしれないけど我慢してね」
この車の限界を見せてあげる。
今ので十分見た気がするけどパパはまだ上限があると判断したようだ。
私の運転ではあり得ない速度でコーナーに突っ込む。
人間は自分より下手な奴に運転させると恐怖を覚えるらしい。
それはハンドルの切り方やブレーキのタイミングが違うから。
だがその逆もあるみたいだ。
それに加えて私はパパと同じ才能があるらしい。
車の挙動や姿勢等を瞬時に判断することが出来る。
アクセルを踏んだだけである程度の車の性能を理解できる。
その才能が仇となった。
パパは間違いなく私の中での限界を思いっきり飛び越えている。
私は恐怖して叫んでいた。
こんな経験初めてだ。
パパは不良娘の私と無理心中するつもりなのか?とさえ思った。
パパを見るとリラックスして片手でハンドルを持って運転していた。
あり得ないだろ?
なんでそんなに落ち着いてるんだよ!?
そして恐怖のダウンヒルを終えて自販機の前で水奈を待つ。
助手席で泣いてる私にパパはジュースをくれた。
「天音ならもう分かってるよね?父さんが天音を助手席に乗せた理由」
「……うん」
パパは自棄になってダウンヒルをしたわけじゃない。
車の性能の差で負けたと思い込んでいた私の考えを正す為でもない。
文字通りこの車の限界を教えてくれた。
しかしまだこれが限界じゃない。
きっとパパならもっと凄いタイムを出すだろう。
「茜のチューニングもしっかりしてるね。安心したよ」
これなら問題ない。
パパはそう言っていた。
「ごめんなさい」
私は謝っていた。
パパは教えてくれたんだ。
限界を知るという意味を。
限界に挑む危険性を。
それはかっこいい物じゃない。
常に死と隣り合わせ。
危険が常に付きまとう。
普通の走り屋ならパパの世界に挑みたいと思うだろう。
だけどパパは私はそうは思わないと分かっていたから体験させてくれた。
私には絶対に辿り着く事の出来ない世界だった。
水奈が後から来た。
「父さんから聞いていたけど凄いですね。今度私の車も運転してくれませんか?」
「止めとけ」
私は水奈にそう言った。
文字通り「死ぬほど怖いぞ」
そう水奈に感想を伝えた。
「怖いのはこれからだよ」
パパは言う。
家に本当の恐怖が待っているとパパは言う。
パパの本当の恐怖は愛莉だ。
家に近づくと玄関の照明がつく。
私の車はマフラーをいじってる。
愛莉が気づいたのだろう。
扉を開けると愛莉が玄関で仁王立ちしていた。
多分愛莉が怒っているのは私が夜更かししたことでも、暴走していたことでもない。
私がパパの助手席に座った事だ。
愛莉は年をとっても衰えをしない。
それは常に恋をしているからだと思う。
「冬夜さん……」
「天音。今日はもう寝なさい」
パパが言うので私は2階に向かう。
「天音、待ちなさい!」
愛莉が私を呼び止める。
かなり機嫌が悪そうだ。
こりゃ外出禁止かな。
だけどパパは言う。
「くれぐれも事故には気をつけてね」
公道にはエスケープゾーンは無い。
パパはそう言うだけだった。
止めなさいと言わないのがパパだった。
その理由は私が十分体験していたから。
「冬夜さんは娘に甘すぎます」
「久々の夜更かしで今夜はくたくただよ愛莉。今夜は愛莉に甘えてもいいかい?」
「冬夜さんいけません。天音が見てます」
愛莉の言葉と態度は一致していない。
抱きつくパパに愛莉はうっとりしている。
今のうちに行けとパパが合図を送る。
「もう、仕方がないんだから。困った父親ですね……寝室に行きましょ?」
愛莉はそう言って寝室にパパを連れて行く。
私の事など忘れてしまっているようだった。
車を乗りこなし、愛莉も上手に扱うパパ。
いくら私や翼に主人公補正がかかっていたとしても。
タイトルが”姉妹がチート過ぎる”と書いてあったとしても。
一番チートなのはパパなんじゃないかと思った。
その夜以降私は相変わらず峠に行ってる。
だけど、限界ギリギリの走行なんて真似は止めた。
レースも断っていた。
あんな恐怖の領域には私は辿り着けないと思い知ったから。
(2)
垣原美於 今日も些細な事で彼氏と口論になってしまった
些細な事なんだろう。
朝から喧嘩していた。
そしてその日一日口を聞かなかった。
少なくとも私は意地を張っていた。
どうでもいい事に意地を張る。
彼氏の名前は一ノ瀬洸平。
大区工業高校3年生。
次の日洸平は学校を休んだ。
どうしたんだろう。
会えないと不安になる。
寂しい。
口論をする事すら出来ない。
一言謝る事も出来ない。
帰りに洸平の家に寄ろうかな。
しかし帰りにSAP寄って行かない?と友達に誘われた。
洸平の事も気になるけど友達との交遊も蔑ろにはに出来ない。
友達と遊んで帰る。
帰りに洸平の家に寄る。
遊んでいて頭は冷めていた。
謝ろう。
そう思っていた。
だけど洸平の家の前に赤いスポーツカーが止まっている。
大学生くらいの女性と洸平がいる。
女性は洸平の頭を撫でで洸平とじゃれている。
嫌がる素振りをしていたけど顔は笑っている。
私は「にやけている」ととらえてしまった。
無言で洸平に近づく。
洸平は私に気がついた。
私の方を見る。
「どうしたんだ?美於」
この場でこいつを殴って別れるという選択肢もあったかもしれない。
だけど私はまだ洸平が好きだ。
誰にも渡したくない。
「この人誰?」
「ああ、俺の……」
最後まで聞くまでに洸平に抱きついていた。
そして女性を睨みつける。
「洸平の彼女は私!勝手に他人の物を横取りしないで!」
そう叫んでいた。
「落ち着け美於。この人は……」
「洸平も洸平だよ!いくら昨日私と口論したからって他の女に手を出すって酷いよ!私はどうせ子供っぽいけどひど過ぎる!」
気づいたら私は泣いていた。
私は洸平を失いたくない。
女性は私達を見てきょとんとしていた。
そして笑いだす。
「洸平。もう一回家に戻ろう。落ち着いて話をした方が良さそう」
「そうみたいだね」
家に上げたのか!?
私は動揺していた。
洸平の部屋のリビングで話をしていた。
まずこの女性の正体。
洸平の従姉だった。
県外の大学に行っていて夏休みだった。
信じられないかもしれないけどまだ9月。
あまりにも長い夏休みに退屈して遊びに来たらしい。
ちなみに彼氏はいる。
社会人らしい、年上の人。
従姉が遊びに来たから今日は学校を休んだ。
1日やそこら学校を休んだからって怯えるような欠席日数じゃない。
面接には普通に対応できるはず。
それで説明は終わった。
「美於ちゃん。折角だから今日は夕食食べて行きなさい」
洸平のお母さんが言う。
私は家に連絡していた。
その間に従姉の人はそろそろ行くという。
しばらく県内に滞在する。
友達が1人暮らししているからそこに泊っているらしい。
「私がこの家に泊まったら美於ちゃんに誤解されちゃうからね」
従姉の人はそう言っていた。
夕食を頂いて洸平の部屋にいる。
「どうして今日連絡くれなかったの?」
「あ、ごめん」
「そうじゃない!ちゃんと理由を説明して!」
「昨日機嫌が悪かったから今日も悪いかなと思って……」
「何も知らない私がどうするかくらい分からなかった?」
心配したんだよ!
「だからごめんって……」
「知らない女性の人と一緒にいるのを見た私の気持ちくらい分かってよ!」
「まさか来るとは思わなかったんだよ」
「これからはちゃんと連絡する!分かった?」
「連絡してても怒り出すじゃないか」
そうやってまた口論が始まる。
これじゃ昨日の繰り返しだ。
どうしたらいいか分からない。
簡単な事なのに……。
一言「私も言い過ぎた」って言えばいいのに。
私が黙り込むと洸平は誤解したようだ。
「ごめん、今度から気を付けるから。機嫌直してよ」
「私だって好きで喧嘩してるんじゃない!」
こうやって洸平を困らせる。
だから子供なんだ。
悔しくて泣き出す。
洸平を困らせるだけなのに。
どうしたら洸平に分かってもらえるだろう。
この気持ちを洸平に伝えたい。
そうか。
気持ちを伝えたらいいんだ。
素直に伝えたらいいんだ。
「私は洸平が好きだよ。今でも好きだよ。これからもずっと好き」
「ありがとう。俺も美於が好きだ」
言えた。
聞けた。
それだけで十分だった。
嬉しいんだ。
「ありがとう、嬉しい」
「機嫌直してくれた?」
「うん、じゃあ今日は帰るね」
「分かった。
どんなに機嫌が悪くても一瞬で吹き飛ばしてくれる魔法の言葉。
それは儚い閃光のように。
瞬く流星のように一瞬だけど。
同じ事を何度も繰り返して変わらぬ愛にいつか届くのだろう。
(3)
ある日の事、キャッシュカードを無くし、慌てるが駅前の交番から問い合わせがあり、後日取りに行く。
拾い主をきいたら一条櫂翔だった。
と、言うわけで今日学校で一条君にお礼を言っていた。
「まあ、交番に届けるのは普通だろ?」
「礼くらいさせてよ」
「礼か……うーん」
一条君は悩んでいた。
まさか一緒に寝たいとか言わないよね?
ちなみに私に彼氏はいない。
中学の時にもいない。
当然キスもまだなくらいだ。
就職してから考えよう。
そんな気持ちでいた。
意外と自動車教習所で出会いがあると聞いた。
違う学校の男子と知り合う機会が多いから。
一条君は悩んだ挙句一つの結論に達した。
ハンバーガー奢ってとかそんな回答を予想していた。
もっと不思議なお願いだった。
「一緒にSAP行かない?それでいいから」
「SAP?」
私が聞き返すと一条君は頷いた。
「一回放課後デートってのやってみたかったんだよね」
友達は大抵やってるから。
自分の言っていることを理解しているのだろうか?
デートの意味を知っているのだろうか?
まあ、私に何のデメリットも無い。
「分かった。じゃあ、放課後一緒に行こう」
「マジで!?やった!!」
そう言って無邪気に喜んでいる一条君をみて小さな感情が芽生えていた。
放課後一緒にSAPに行く。
「まず何する?」
「ベタだけどボウリングなのかな?」
そんな相談をしてボウリングをする。
2人ではしゃいでいた。
心は完全に一条君を許していた。
だから楽しかった。
ボウリングが終わると次だ。
「ゲームコーナー行かない?」
「いいよ」
カーレースのゲームとかガンシューティングのゲームとか音ゲーと呼ばれるものとか色々やっていた。
どれも楽しかった。
その後カラオケを歌っていた。
何を歌ったらいいか悩んでいるらしい。
友達と歌うのと異性と歌うのでは違う。
ましてや二人っきりだ。
困ってる一条君に私が助け舟を出した。
「この人の曲って歌える?私好きなんだ」
「ああ、それなら大丈夫」
「一条君はどんな人の歌を歌うの?」
「ドン引きされる気がするんだけど」
「気にしないで」
昔のロックやアニソン、ボカロやゲームの歌を歌うらしい。
そんな話をしながらカラオケの時間を過ごしてSAPを出る。
「この画像見られたら垣原さんに迷惑だよね。しまっておこう」
「別にいいよ」
自慢に出来るような彼女じゃないかもしれないけど。
そこまで私は心を許していた。
私の心はすでに一条君のものだった。
帰りにファミレスで夕食を食べて帰る事にした。
多分これが最初で最後のチャンスだ。
女子だってやる時にはやるんだ!
「今日楽しかった?」
「ああ、お蔭さまで楽しかったよ」
「じゃあ、また行こうね」
「え?」
私は躊躇うことなく話を続ける。
「出来れば休日デートもしたいな」
「ちょ、ちょっと待って」
慌てている一条君。
「私じゃダメ?」
「そ、そんなこと無いけど。でもお礼は十分してもらったし」
「勘違いしないで、キャッシュカードのお礼はさっき済ませた」
「じゃあ、どうして?」
「一条君と一緒にいると楽しいから。もっと一条君を知りたいと思ったから。ずっと一緒にいたいと思ったから」
この世界ではそれを恋というんだよ?
「垣原さんは俺が好きなの?」
「お願い、私にとって初恋なの。だから一条君から伝えて欲しい」
ちゃんと受け取るから。
「俺は垣原さんに一目惚れした。多分好きだと思う……これじゃだめかな?」
一条君はまだはっきりしないらしい。
不満はあるけど今はいい。
いつかきっと私以外の物を見れなくしてあげるから。
「私に権利をくれませんか?」
「権利?」
私は頷いた。
「私一条君の事櫂翔って呼んでみたい」
「そんなことでいいの?」
策者にとっては大変な事みたいだよ。
私は頷いた。
「じゃあ、俺も三咲って呼んでいいかな?」
「……うん。私は櫂翔が好きです。だから一緒にいたい」
「ありがとう」
私は櫂翔と連絡先を交換すると夕食を済ませて家に帰る。
「朝迎えにいくね」とか「帰りは一緒に帰ろうね」とか「夜連絡してね」とか細やかな願いをねだっていた。
そんな幸せを一つずつ織っていく小さな物語。
(4)
ある日の事、暴走族「不死道(ぶしろーど)」に襲われるが、返り討ちにしてしまう。
また適当な名前つけたな。
そのネーミング色々問題があると思うんだけど。
どうやら大区工業は色々な族に狙われているらしい。
毎日のように色々な族が学校に訪れる。
その日は一年先輩の中島智洋先輩とドライブに行っていた。
中島先輩の彼女の石川彩伽さんも一緒だ。
帰る途中で2台の族のバイクが絡んできた。
数は少ない。
笑って返り討ちに出来るだろう。
しかし石川さんが「喧嘩はダメ」と言っている。
俺の彼女の木戸ちさ子も同じだ。
車はこの時間にしてはやけに混んでいた。
僕達はその理由は知らなかった。
そして鬱陶しい族が後ろをつけてくる。
中島先輩も我慢の限界だったようだ。
それを悟った石川さんが「智洋!」と声をかける。
「分かってるよ。喧嘩なんてめんどくさい真似しねーよ。鬱陶しい蠅がいたら……こうするんだよ」
そう言ってブレーキを踏みこんでハンドルを切る。
車はドリフト状態になる。
慌てた2台の族は右側の車線に回避する。
するとその右側の車線を飛ばしていた長距離トラックが慌ててハンドルを切る。
トラックはスピンする。
渋滞の原因がそれに気づいた。
渋滞の原因は2人の族の頭同士の喧嘩だった。
片方の男が持っていたつるはしがトラックのコンテナにタイミングよく突き刺さりつるはしを持っていた方がトラックに巻き込まれて吹き飛ぶ。
ただの喧嘩が、ただ族を追い払おうとした行動が大惨事に変わる。
不思議なのはあれだけ派手にトラックに衝突した男が担架で運ばれようとしたときに起き上がり喧嘩を再開しようとしたこと。
特攻服の色からしてどこの族かはすぐにわかる。
チームごとに色が決まってあるらしい。
多分「物語の都合上」ってやつだろう。
背中の刺繍も統一されている。
どこで買うのかは説明できる。
暴走族というのは元々まるぼーな人たちが若者から収入を得る資金源らしい。
チームの旗を作ったり特攻服を売りつけて収入を得る。
この世界ではどでかい企業が資金源になっていたりするそうだ。
で、まず俺達を追い回していたのが「不死道:ぶしろーど」
ケンカをしていたのが「覇苦徒:ほわいとらびっと:WR」と「亡霊:スペクター」
それぞれ拠点が違うけど堕天使が弱体化してから地元の暴走族は戦国時代に入っているらしい。
警察が事故処理を済ませると渋滞は解消された。
「遅くなってしまったな。なんか帰りに食って帰ろうぜ」
「智洋警察は大丈夫なの?」
石川さんが聞く。
中島先輩は笑っている。
「俺が人をはねたわけでもないし、蠅に接触したわけでもない。問題なんかねーよ」
ただはねられた奴が不運だっただけだ。
「やあ、天音」
「パパ!?」
私は目を疑った。
車種は水奈と同じ物。
白色のスポーツカーに乗って現れたのはパパとパパの友達。
花のお父さんが車の調整をしている。
週末の峠でいつもの様に遊んでいるとパパ達が現れた。
蒼い閃光。
パパはこの峠でそう呼ばれていたらしい。
そのレコードタイムは未だに破られていない。
私も挑んでみたけど届かなかった。
でも愛莉のお願いで走るのはやめたと聞いていた。
どうしてそのパパがここにいるのか?
パパの目的は単純だった。
「天音と一度レースがしてみたかった」
私と勝負したいらしい。
水奈も驚いていた。
私は水奈と相談していた。
いくらパパが凄いと言ってもそれは20年近く前の話。
腕は衰えているんじゃないか?
だったら私が新しい伝説になってやる。
そう思ったから勝負を受けた。
「娘とこんな事になるとはね……」
パパはそう言うと乗って来た車に乗り込みスタートラインにぴたりとつける。
ご丁寧に最初のコーナーがアウト側になる位置だ。
勝算はまだあった。
パパが乗っていたのはAT車。
今乗っているのはMT車。
慣れていないはず。
そんな甘い考えがあった。
観客も盛り上がっている。
無理もない。
二度と見れないと思っていた蒼い閃光の走りがまた見れるのだから。
カウントが始まる。
パパの伝説を終わらせてやる!
そう意気込んでいた。
「スタート!」
そう言うと私は最初から全開で走る。
本気の勝負。
しかし甘かった。
馬力はほぼ同じはず。
それでもパパの車は加速が違う。
いくら茜の改造が施されていたとしてもそれはやはり中学生。
花の父さん。竹本悠馬の方が1枚も2枚も上手だった。
パパの車は狂気の速度でコーナーに突っ込んでいく。
パパは自分がアウト側だと分かっているのか!?
「ブレーキいかれたか!?」
そんな観客の叫び声もあったらしい。
しかし、私の理解を越えた速度でパパの車はコーナーを抜ける。
パパと同じ速度で挑もうとするけどやはりそこまで突っ込んでいけない。
後で聞いた話だけどパパは本気で勝負に挑んでいた。
その車はもはやデモカーに近いものがあった。
タイヤなども高校生がいじれる限界をはるかに上回ったものだ。
コーナーを3つくらい抜けるとパパの車は見えなくなっていた。
パパは自分が持っていた記録を自分で塗り替えてみせた。
甘かった。
パパがAT車に乗っていたのはただのハンデだった。
ガチンコのスポーツカーに乗ったらパパのリミットが解除されるだけだった。
私がゴールするとパパは車を反転させて待っていた。
ヒルクライムも勝負してくれるらしい。
結果は一緒だった。
パパの車のブレーキランプすら見ることが出来なかった。
負けなしの連勝記録はパパによって破られた。
「パパはずるい!そんな車反則だ!」
私の意地がそう言っていた。
そんな私の反応をパパは予想していたらしい。
こんな日が来ることも私の反論も全てパパの想定内だった。
「お願いがあるんだけど。帰りは父さんに天音の車を運転させてくれないかな?」
「いいけど」
「中島君今夜はありがとう」
「それは良いんだけど、愛莉さん大丈夫なのか?こういうの愛莉さん嫌ってただろ?」
「それは大丈夫。竹本君も夜遅くにごめんね。助かったよ」
「大丈夫です。久しぶりで心配だったけど片桐先輩には関係なかったようですね」
「水奈も学が心配しないように早く帰りなさい」
「おじさんの後付けてもいいかな?帰るから」
「いいけど無理しないでついておいで。下りた先の自販機の所で待っているから」
パパは皆と話をしている。
パパの目的はなんだ?
そんな事を考えていた。
そしてパパは運転席に座る。
私は生まれて初めてパパの助手席に座る。
ずっと愛莉が独り占めしていたから。
その事をすぐに後悔することになる。
パパはいきなり全開でコーナーに突っ込む。
どんなテクを持っているのか?
そんな疑問を持ってパパの運転をちらりとみた。
信じられない光景があった。
車は今ドリフト中。
パパは今ポケットに手を突っ込んで眠気防止のガムを取り出して噛み始めた。
私の方を見て笑って言う。
「天音も食べる?眠くないかい?」
眠気もいっぺんに吹き飛ぶ狂気の光景。
ハンドルを持て!前を見て!
しかしパパの車は見事にコーナーを抜けた。
「へえ、なるほどね。……これなら大丈夫かな?少し怖い思いするかもしれないけど我慢してね」
この車の限界を見せてあげる。
今ので十分見た気がするけどパパはまだ上限があると判断したようだ。
私の運転ではあり得ない速度でコーナーに突っ込む。
人間は自分より下手な奴に運転させると恐怖を覚えるらしい。
それはハンドルの切り方やブレーキのタイミングが違うから。
だがその逆もあるみたいだ。
それに加えて私はパパと同じ才能があるらしい。
車の挙動や姿勢等を瞬時に判断することが出来る。
アクセルを踏んだだけである程度の車の性能を理解できる。
その才能が仇となった。
パパは間違いなく私の中での限界を思いっきり飛び越えている。
私は恐怖して叫んでいた。
こんな経験初めてだ。
パパは不良娘の私と無理心中するつもりなのか?とさえ思った。
パパを見るとリラックスして片手でハンドルを持って運転していた。
あり得ないだろ?
なんでそんなに落ち着いてるんだよ!?
そして恐怖のダウンヒルを終えて自販機の前で水奈を待つ。
助手席で泣いてる私にパパはジュースをくれた。
「天音ならもう分かってるよね?父さんが天音を助手席に乗せた理由」
「……うん」
パパは自棄になってダウンヒルをしたわけじゃない。
車の性能の差で負けたと思い込んでいた私の考えを正す為でもない。
文字通りこの車の限界を教えてくれた。
しかしまだこれが限界じゃない。
きっとパパならもっと凄いタイムを出すだろう。
「茜のチューニングもしっかりしてるね。安心したよ」
これなら問題ない。
パパはそう言っていた。
「ごめんなさい」
私は謝っていた。
パパは教えてくれたんだ。
限界を知るという意味を。
限界に挑む危険性を。
それはかっこいい物じゃない。
常に死と隣り合わせ。
危険が常に付きまとう。
普通の走り屋ならパパの世界に挑みたいと思うだろう。
だけどパパは私はそうは思わないと分かっていたから体験させてくれた。
私には絶対に辿り着く事の出来ない世界だった。
水奈が後から来た。
「父さんから聞いていたけど凄いですね。今度私の車も運転してくれませんか?」
「止めとけ」
私は水奈にそう言った。
文字通り「死ぬほど怖いぞ」
そう水奈に感想を伝えた。
「怖いのはこれからだよ」
パパは言う。
家に本当の恐怖が待っているとパパは言う。
パパの本当の恐怖は愛莉だ。
家に近づくと玄関の照明がつく。
私の車はマフラーをいじってる。
愛莉が気づいたのだろう。
扉を開けると愛莉が玄関で仁王立ちしていた。
多分愛莉が怒っているのは私が夜更かししたことでも、暴走していたことでもない。
私がパパの助手席に座った事だ。
愛莉は年をとっても衰えをしない。
それは常に恋をしているからだと思う。
「冬夜さん……」
「天音。今日はもう寝なさい」
パパが言うので私は2階に向かう。
「天音、待ちなさい!」
愛莉が私を呼び止める。
かなり機嫌が悪そうだ。
こりゃ外出禁止かな。
だけどパパは言う。
「くれぐれも事故には気をつけてね」
公道にはエスケープゾーンは無い。
パパはそう言うだけだった。
止めなさいと言わないのがパパだった。
その理由は私が十分体験していたから。
「冬夜さんは娘に甘すぎます」
「久々の夜更かしで今夜はくたくただよ愛莉。今夜は愛莉に甘えてもいいかい?」
「冬夜さんいけません。天音が見てます」
愛莉の言葉と態度は一致していない。
抱きつくパパに愛莉はうっとりしている。
今のうちに行けとパパが合図を送る。
「もう、仕方がないんだから。困った父親ですね……寝室に行きましょ?」
愛莉はそう言って寝室にパパを連れて行く。
私の事など忘れてしまっているようだった。
車を乗りこなし、愛莉も上手に扱うパパ。
いくら私や翼に主人公補正がかかっていたとしても。
タイトルが”姉妹がチート過ぎる”と書いてあったとしても。
一番チートなのはパパなんじゃないかと思った。
その夜以降私は相変わらず峠に行ってる。
だけど、限界ギリギリの走行なんて真似は止めた。
レースも断っていた。
あんな恐怖の領域には私は辿り着けないと思い知ったから。
(2)
垣原美於 今日も些細な事で彼氏と口論になってしまった
些細な事なんだろう。
朝から喧嘩していた。
そしてその日一日口を聞かなかった。
少なくとも私は意地を張っていた。
どうでもいい事に意地を張る。
彼氏の名前は一ノ瀬洸平。
大区工業高校3年生。
次の日洸平は学校を休んだ。
どうしたんだろう。
会えないと不安になる。
寂しい。
口論をする事すら出来ない。
一言謝る事も出来ない。
帰りに洸平の家に寄ろうかな。
しかし帰りにSAP寄って行かない?と友達に誘われた。
洸平の事も気になるけど友達との交遊も蔑ろにはに出来ない。
友達と遊んで帰る。
帰りに洸平の家に寄る。
遊んでいて頭は冷めていた。
謝ろう。
そう思っていた。
だけど洸平の家の前に赤いスポーツカーが止まっている。
大学生くらいの女性と洸平がいる。
女性は洸平の頭を撫でで洸平とじゃれている。
嫌がる素振りをしていたけど顔は笑っている。
私は「にやけている」ととらえてしまった。
無言で洸平に近づく。
洸平は私に気がついた。
私の方を見る。
「どうしたんだ?美於」
この場でこいつを殴って別れるという選択肢もあったかもしれない。
だけど私はまだ洸平が好きだ。
誰にも渡したくない。
「この人誰?」
「ああ、俺の……」
最後まで聞くまでに洸平に抱きついていた。
そして女性を睨みつける。
「洸平の彼女は私!勝手に他人の物を横取りしないで!」
そう叫んでいた。
「落ち着け美於。この人は……」
「洸平も洸平だよ!いくら昨日私と口論したからって他の女に手を出すって酷いよ!私はどうせ子供っぽいけどひど過ぎる!」
気づいたら私は泣いていた。
私は洸平を失いたくない。
女性は私達を見てきょとんとしていた。
そして笑いだす。
「洸平。もう一回家に戻ろう。落ち着いて話をした方が良さそう」
「そうみたいだね」
家に上げたのか!?
私は動揺していた。
洸平の部屋のリビングで話をしていた。
まずこの女性の正体。
洸平の従姉だった。
県外の大学に行っていて夏休みだった。
信じられないかもしれないけどまだ9月。
あまりにも長い夏休みに退屈して遊びに来たらしい。
ちなみに彼氏はいる。
社会人らしい、年上の人。
従姉が遊びに来たから今日は学校を休んだ。
1日やそこら学校を休んだからって怯えるような欠席日数じゃない。
面接には普通に対応できるはず。
それで説明は終わった。
「美於ちゃん。折角だから今日は夕食食べて行きなさい」
洸平のお母さんが言う。
私は家に連絡していた。
その間に従姉の人はそろそろ行くという。
しばらく県内に滞在する。
友達が1人暮らししているからそこに泊っているらしい。
「私がこの家に泊まったら美於ちゃんに誤解されちゃうからね」
従姉の人はそう言っていた。
夕食を頂いて洸平の部屋にいる。
「どうして今日連絡くれなかったの?」
「あ、ごめん」
「そうじゃない!ちゃんと理由を説明して!」
「昨日機嫌が悪かったから今日も悪いかなと思って……」
「何も知らない私がどうするかくらい分からなかった?」
心配したんだよ!
「だからごめんって……」
「知らない女性の人と一緒にいるのを見た私の気持ちくらい分かってよ!」
「まさか来るとは思わなかったんだよ」
「これからはちゃんと連絡する!分かった?」
「連絡してても怒り出すじゃないか」
そうやってまた口論が始まる。
これじゃ昨日の繰り返しだ。
どうしたらいいか分からない。
簡単な事なのに……。
一言「私も言い過ぎた」って言えばいいのに。
私が黙り込むと洸平は誤解したようだ。
「ごめん、今度から気を付けるから。機嫌直してよ」
「私だって好きで喧嘩してるんじゃない!」
こうやって洸平を困らせる。
だから子供なんだ。
悔しくて泣き出す。
洸平を困らせるだけなのに。
どうしたら洸平に分かってもらえるだろう。
この気持ちを洸平に伝えたい。
そうか。
気持ちを伝えたらいいんだ。
素直に伝えたらいいんだ。
「私は洸平が好きだよ。今でも好きだよ。これからもずっと好き」
「ありがとう。俺も美於が好きだ」
言えた。
聞けた。
それだけで十分だった。
嬉しいんだ。
「ありがとう、嬉しい」
「機嫌直してくれた?」
「うん、じゃあ今日は帰るね」
「分かった。
どんなに機嫌が悪くても一瞬で吹き飛ばしてくれる魔法の言葉。
それは儚い閃光のように。
瞬く流星のように一瞬だけど。
同じ事を何度も繰り返して変わらぬ愛にいつか届くのだろう。
(3)
ある日の事、キャッシュカードを無くし、慌てるが駅前の交番から問い合わせがあり、後日取りに行く。
拾い主をきいたら一条櫂翔だった。
と、言うわけで今日学校で一条君にお礼を言っていた。
「まあ、交番に届けるのは普通だろ?」
「礼くらいさせてよ」
「礼か……うーん」
一条君は悩んでいた。
まさか一緒に寝たいとか言わないよね?
ちなみに私に彼氏はいない。
中学の時にもいない。
当然キスもまだなくらいだ。
就職してから考えよう。
そんな気持ちでいた。
意外と自動車教習所で出会いがあると聞いた。
違う学校の男子と知り合う機会が多いから。
一条君は悩んだ挙句一つの結論に達した。
ハンバーガー奢ってとかそんな回答を予想していた。
もっと不思議なお願いだった。
「一緒にSAP行かない?それでいいから」
「SAP?」
私が聞き返すと一条君は頷いた。
「一回放課後デートってのやってみたかったんだよね」
友達は大抵やってるから。
自分の言っていることを理解しているのだろうか?
デートの意味を知っているのだろうか?
まあ、私に何のデメリットも無い。
「分かった。じゃあ、放課後一緒に行こう」
「マジで!?やった!!」
そう言って無邪気に喜んでいる一条君をみて小さな感情が芽生えていた。
放課後一緒にSAPに行く。
「まず何する?」
「ベタだけどボウリングなのかな?」
そんな相談をしてボウリングをする。
2人ではしゃいでいた。
心は完全に一条君を許していた。
だから楽しかった。
ボウリングが終わると次だ。
「ゲームコーナー行かない?」
「いいよ」
カーレースのゲームとかガンシューティングのゲームとか音ゲーと呼ばれるものとか色々やっていた。
どれも楽しかった。
その後カラオケを歌っていた。
何を歌ったらいいか悩んでいるらしい。
友達と歌うのと異性と歌うのでは違う。
ましてや二人っきりだ。
困ってる一条君に私が助け舟を出した。
「この人の曲って歌える?私好きなんだ」
「ああ、それなら大丈夫」
「一条君はどんな人の歌を歌うの?」
「ドン引きされる気がするんだけど」
「気にしないで」
昔のロックやアニソン、ボカロやゲームの歌を歌うらしい。
そんな話をしながらカラオケの時間を過ごしてSAPを出る。
「この画像見られたら垣原さんに迷惑だよね。しまっておこう」
「別にいいよ」
自慢に出来るような彼女じゃないかもしれないけど。
そこまで私は心を許していた。
私の心はすでに一条君のものだった。
帰りにファミレスで夕食を食べて帰る事にした。
多分これが最初で最後のチャンスだ。
女子だってやる時にはやるんだ!
「今日楽しかった?」
「ああ、お蔭さまで楽しかったよ」
「じゃあ、また行こうね」
「え?」
私は躊躇うことなく話を続ける。
「出来れば休日デートもしたいな」
「ちょ、ちょっと待って」
慌てている一条君。
「私じゃダメ?」
「そ、そんなこと無いけど。でもお礼は十分してもらったし」
「勘違いしないで、キャッシュカードのお礼はさっき済ませた」
「じゃあ、どうして?」
「一条君と一緒にいると楽しいから。もっと一条君を知りたいと思ったから。ずっと一緒にいたいと思ったから」
この世界ではそれを恋というんだよ?
「垣原さんは俺が好きなの?」
「お願い、私にとって初恋なの。だから一条君から伝えて欲しい」
ちゃんと受け取るから。
「俺は垣原さんに一目惚れした。多分好きだと思う……これじゃだめかな?」
一条君はまだはっきりしないらしい。
不満はあるけど今はいい。
いつかきっと私以外の物を見れなくしてあげるから。
「私に権利をくれませんか?」
「権利?」
私は頷いた。
「私一条君の事櫂翔って呼んでみたい」
「そんなことでいいの?」
策者にとっては大変な事みたいだよ。
私は頷いた。
「じゃあ、俺も三咲って呼んでいいかな?」
「……うん。私は櫂翔が好きです。だから一緒にいたい」
「ありがとう」
私は櫂翔と連絡先を交換すると夕食を済ませて家に帰る。
「朝迎えにいくね」とか「帰りは一緒に帰ろうね」とか「夜連絡してね」とか細やかな願いをねだっていた。
そんな幸せを一つずつ織っていく小さな物語。
(4)
ある日の事、暴走族「不死道(ぶしろーど)」に襲われるが、返り討ちにしてしまう。
また適当な名前つけたな。
そのネーミング色々問題があると思うんだけど。
どうやら大区工業は色々な族に狙われているらしい。
毎日のように色々な族が学校に訪れる。
その日は一年先輩の中島智洋先輩とドライブに行っていた。
中島先輩の彼女の石川彩伽さんも一緒だ。
帰る途中で2台の族のバイクが絡んできた。
数は少ない。
笑って返り討ちに出来るだろう。
しかし石川さんが「喧嘩はダメ」と言っている。
俺の彼女の木戸ちさ子も同じだ。
車はこの時間にしてはやけに混んでいた。
僕達はその理由は知らなかった。
そして鬱陶しい族が後ろをつけてくる。
中島先輩も我慢の限界だったようだ。
それを悟った石川さんが「智洋!」と声をかける。
「分かってるよ。喧嘩なんてめんどくさい真似しねーよ。鬱陶しい蠅がいたら……こうするんだよ」
そう言ってブレーキを踏みこんでハンドルを切る。
車はドリフト状態になる。
慌てた2台の族は右側の車線に回避する。
するとその右側の車線を飛ばしていた長距離トラックが慌ててハンドルを切る。
トラックはスピンする。
渋滞の原因がそれに気づいた。
渋滞の原因は2人の族の頭同士の喧嘩だった。
片方の男が持っていたつるはしがトラックのコンテナにタイミングよく突き刺さりつるはしを持っていた方がトラックに巻き込まれて吹き飛ぶ。
ただの喧嘩が、ただ族を追い払おうとした行動が大惨事に変わる。
不思議なのはあれだけ派手にトラックに衝突した男が担架で運ばれようとしたときに起き上がり喧嘩を再開しようとしたこと。
特攻服の色からしてどこの族かはすぐにわかる。
チームごとに色が決まってあるらしい。
多分「物語の都合上」ってやつだろう。
背中の刺繍も統一されている。
どこで買うのかは説明できる。
暴走族というのは元々まるぼーな人たちが若者から収入を得る資金源らしい。
チームの旗を作ったり特攻服を売りつけて収入を得る。
この世界ではどでかい企業が資金源になっていたりするそうだ。
で、まず俺達を追い回していたのが「不死道:ぶしろーど」
ケンカをしていたのが「覇苦徒:ほわいとらびっと:WR」と「亡霊:スペクター」
それぞれ拠点が違うけど堕天使が弱体化してから地元の暴走族は戦国時代に入っているらしい。
警察が事故処理を済ませると渋滞は解消された。
「遅くなってしまったな。なんか帰りに食って帰ろうぜ」
「智洋警察は大丈夫なの?」
石川さんが聞く。
中島先輩は笑っている。
「俺が人をはねたわけでもないし、蠅に接触したわけでもない。問題なんかねーよ」
ただはねられた奴が不運だっただけだ。
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