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空っぽの恋愛
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(1)
海開き。
地元じゃあまり海で遊ぶ人間はいないけど僕達は折角だからと遊びに来た。
一泊二日のキャンプ。
3連休だけど1日くらいは身体を休めたい。
僕達はいいけど、光太達は仕事なんだから。
参加したのはSH社会人・大学生。
テントは実家から二人用の奴を貰って来た。
お昼はファミレスで食べて午後に海についてテントを設置する。
あまり僕達の年頃で海で水着になる者はいないけど美希たちは関係なく水着に着替える。
今年の新作の水着を選びに連れて行かれたのは毎年同じ。
テントをはると皆でビーチバレーしたリして遊んでいた。
そして夜になるとBBQの準備を始める。
肉を焼き始め、そして全員に飲み物がいきわたると光太が挨拶をする。
「他の皆も新生活で色々大変だと思うけど今日は楽しもう!」
光太が挨拶を終えると早速肉を食べ始める。
僕の肉は美希が焼き加減を確認してから取る。
レアの方が美味いと思うんだけどな。
「空達はどうだい?同居生活」
善明がやってきた。
「2人っきりって時間には慣れたかな?」
「それはよかったよ」
「善明たちはどうなの?」
美希が聞いている。
「まあ、慣れたというか色々あってね」
「喧嘩でもした?」
「滅相もない!そんな事したら大変だよ」
「あれ?善明。私何かへました?」
翼が来た。
「い、いや。きっと普通の僕くらいの年頃の男性なら極楽のような生活なんだろうけどね」
「あ、そういうことね……」
美希は何か気付いたようだ。
ここから先は女子トークになりそうだから余計な口を挟まずにただ肉を食ってる。
一方善明は光太に絡まれていた。
「お前に足りないのは勢いだ!今日は飲め!」
下手に口を出さない方がいいのはこっちも同じ様だ。
「お互い苦労してるようだな」
学が話しかけてきた。
時として女子の要求は男子の想像を超える場合がある。
そんな時にどうしていいのか分からない。
それは学も一緒だったようだ。
学と苦労話をしていると突然善明が叫んだ。
「翼!!」
何事かと翼が善明の方を見る。
というか皆が善明を見ていた。
「僕達はもう18歳だ!結婚だって堂々と出来る!親も反対してない!」
善明の顔は真っ赤だった。
翼はにやりと笑ってポケットの中で何か操作してる。
「でも、まだ自分で稼いでないから早いと言ったのは善明じゃない?」
「そんなもの関係ない!どうせ今も結婚していると変わりない生活をしているんだ!」
空っぽの恋愛で時間をすり減らすのはやめにしよう。
「帰ったら僕と指輪を買いに行かないか!?」
「指輪だったら。以前貰ったのまだはめてるし」
「改めて翼に求婚したいんだ!翼、愛してる!結婚してくれ」
止めた方がいいんじゃないかと学と話していたけど光太と美希が「自由にさせてやれ」と伝えてきたので放っておいた。
「……盆に入る前に婚姻届出しに行きませんか?」
「ありがとう!」
そう言って翼を抱きしめる善明。
そして寝てしまった。
僕は翼といっしょに善明を支えてテントに運ぶ。
光太は学に叱られていた。
善明がああなったのは多分光太の仕業だから。
「善明がうらやましいね。私はあと3年待たないと結婚できないし」
「僕が卒業するまで待ってくれるって話だったろ?」
「だって子供作ったら大学行く理由だってない?」
「どうやって養うのさ?」
「母さんに手伝ってもらえると思う。空との子供は母さんが喉から手が出るほど欲しがっていたし」
一体父さんは何をやったのだろう?
肉を食べ終わると女性陣は片づけを始める。
善明は起きてこなかった。
皆で花火をしたり遊んでいた。
そして夜食を食べる。
片付けの手間になるのでカップラーメンにした。
夜食を食べ終える頃にはそれぞれテントに入ったり2人で散歩をしたりしている。
毎年来ていたこの海もメンバーが違うだけでこんなに変わるんだなって思った。
親がいない解放感もあった。
美希と流木に座って星空を眺めながら話をする。
「空が生きている限り空は一つの事を思い続けてね」
美希がそう語る。
与える事と受け取ることは一緒の事。
だからお願いだから分かって欲しい。
一夜限りの愛なんていらない。
私は恋の駆け引きなんて求めていない。
私が望むのは僕を抱き締めたときの魔法。
それは一夜限りの愛よりも大切な事。
僕の手を握った時に感じるあの感覚が欲しいの。
私の時間を空っぽの恋愛ですり減らさないで。
私はこれから自分の為に時間を使っていくから。
「空が好き。心が締め付けられる程に」
全てを分け合える場所を探そう。
もう僕達を止める者なんていないのだから。
「そろそろ寝ようか?」
「わかった。その前にお願いがあるんだけど」
「わかってるよ。行こう?」
「ありがとう」
美希と一緒にお手洗いに行くと、美希を待ってそしてテントに戻って寝た。
(2)
朝早く起きた。
それ以上に空が早く起きてた。
翼は夜遅くまで起きていたらしい。
まだ寝ていると教えられた。
美希もまだ寝ているらしい。
空がお湯を沸かしていたので頂いてコーヒーを飲む。
少し頭が痛い。
光太のせいだね。
空がコーヒーを飲んでる僕に「おめでとう」と言った。
何のことを言ってるのか分からなかったので空に聞いてみた。
「覚えてないの!?」
空は驚いている。
さっぱり覚えていない。
「差し支えなかったら教えてもらえないかい?」
「良いけど、間違っても”記憶がない”とか翼に言ったらだめだよ」
「わかったよ」
すると空が驚愕の事実を言った。
僕は翼にプロポーズをしたらしい。
やってしまったようだ。
ボイスレコーダーに記録しているだろう。
そのくらいの事はやってしまう子だ。
空の説明によると夏休みに入ったらすぐ入籍する手はずになってるらしい。
嫌な予感がしたのでスマホを見る。
母さんから「ついに片桐の嫁を手に入れたのね。よくやったわ。挙式の手筈は任せない。でも子供は翼の負担を考えて大学卒業してからにしなさい」とメッセージが残っていた。
今さら「記憶がないのでなかったことにしてください」なんて言えない。
翼のお母さんからも「まだ至らないところがあるけど大切にしてやってね」とメッセージが届いている。
父さんと翼の父さんは事情を察したのだろうか?「まあ、頑張って」としか言わない。
頭を抱える僕。
「おう!善明!早朝って気持ちいいよな!」
光太がやって来た。
君のせいで僕はこの歳で妻を取ることになったそうだよ。
まだ働いてもいないのに夫だよ。
どうしてくれるんだい?
その後も学が起きて来て相談をしていた。
出た結論は「いい加減覚悟を決めろ」
そうなるよなあ。
光太は完全に僕を揶揄ってる。
「式はやっぱりゴンドラとか乗るのか?」
今時そんな式聞いたこと無いよ。
するとほかの人も起きてきた。
翼は上機嫌だ。
「あら、先に起きてたのなら起こしてくれてもよかったのに」
「いや、翼の幸せそうな寝顔を見てたらそんな気が起きなかったよ」
「当然じゃない。幸せなんだから」
僕は朝からマリッジブルーというのに襲われているよ。
女性陣が朝食を作り出す。
といっても、パンとインスタントのコーンポタージュと昨日の肉の残りで作った焼きそばと目玉焼きとコーヒーだけど。
女性陣は同棲してるだけあって手慣れた手つきで作り上げていく。
それを食べ終えると女性陣が食器等を洗っている間にテントを解体する。
荷物を車に積むと銭湯に行く。
何を話しているか分からないけど女性陣が騒いでいるのは分かった。
きっと翼を中心に盛り上がっているのだろう。
男性陣は僕を慰めるのに必死だったよ。
「まあ、男だったら言ったことに責任持たないとな」
まるで他人事のような光太。
お通夜みたいな状況だったので話題を変えてみた。
「みんなは夏休み何か予定を入れてるのかい?」
最初に答えたのは空だった。
「8月の連休は光太達が休みだから皆で遊ぶだろうと思って9月に一泊して来ようと計画してる」
空のお母さんに「偶には美希を休ませてあげなさい。空は夏休みでも美希は家に居る間は仕事してるようなものなのですよ」と言われたそうだ。
光太も忙しいらしい。
今中学校の改修工事に入ってるんだそうだ。
学校の改修工事は学校が長期休暇の間に終わらせなければならない。
そして盆の連休に仕事に出る事は基本志水建設では許されない。
盆があけたらすぐに2学期がはじまる。
当然急ピッチで作業を勧められているらしい。
今日も本当は仕事をしているんだそうだ。
新人の自分が休んでいいのか悩んだけど「ああ、亀梨君達はいいよ。折角の連休なんだし遊んでおいで」と上司に言われた。
同僚の克樹からも「お前何者なんだ?」と言われるくらい優遇されているらしい。
志水建設副支店長の息子。
そして渡辺班に所属している。
志水建設で優遇されないはずがない。
大卒よりも高待遇だそうだ。
「善明は何か予定あるの?」
空が聞いてきた。
「ああ、盆が明けたら空と同じように旅行に行くつもりだよ」
「へえ、善明達の事だから海外旅行でも行くんだろうね」
空はきっと冗談のつもりで言ったんだろう。
でも図星だった。
フロリダに一週間ほど行く予定だ。
飛行機もビジネスクラス。
大学生のロングバケーションの過ごし方じゃないよ。
ある意味これが新婚旅行なのかもしれないけど、多分それで許してくれるはずがないだろう。
母さん達がとんでもない旅行先を探しているかもしれない。
下手すりゃ「ちょっと宇宙を体験してらっしゃい」くらいの事は言い出しかねない。
恐ろしい事はフロリダの旅行も仕送りを溜めた資金で行けてしまう事だ。
「まあ、観客としては酒が大っぴらに飲める歳になってから式を挙げて欲しいな」
光太が言う。
光太はどうせいつやっても普通に飲んでるんじゃないのか?
風呂を出てしばらく待っていると女性陣も出てきた。
ファミレスで昼食を食べて解散になる。
「じゃ、次は盆休みな」
光太が言うと皆車で帰り出す。
僕達も家に帰る。
本当に家だ。
誰も大学生が同棲している場所とは思わないだろう。
器具の片づけを終える頃翼がコーヒーを入れてくれた。
覚悟を決めろか……。
しかし決意が決まらない。
そんな事情を察してくれたのか翼が言う。
「昨夜の件ならそういう気持ちがあることが分かっただけでもいいから気にしないでいい」
そんな事を言われて「なら、そうするよ」とか言って許してくれるような親じゃない。
覚悟を決める。
「期末テストが終わってからでいいかい?」
「……本当にいいの?後悔しない?」
「ここで後悔するようなら同棲なんかしないよ」
「……ありがとう」
そんな喜んでいる翼を見ていると思わず言ってしまうんだ。
「……これからでかけないかい?」
「どこに?」
「指輪、買うって約束したろ?」
(3)
「綺麗だね」
僕と美希は別府に花火を観に来ていた。
僕は焼きそばをほおばりながら美希と花火を観ていた。
花火が終ると一斉に帰り出す。
僕達も駅へと向かう。
車でくることも考えたけどきっと混むだろうから交通機関を使うことにした。
電車とバスを乗り継いで家に帰る。
家に帰ると風呂に入って寝室でテレビを見ていた。
美希は髪を乾かしている。
そしてそれが終ると僕の隣に座る。
美希から漂うシャンプーの甘い香り。
どうして女性からはこんなにシャンプーの香りがするんだろう?
同じシャンプーを使っているのに不思議だった。
そして僕も18歳の男子。
年頃の女子が密着して隣に座っていたらそういう気分にもなる。
美希の腰にそっと手を回す
それに気づいた美希がもっとくっついてくる。
「……明日からテストだし早めに寝ますか?」
「そうだね」
美希の提案を受け入れるとテレビを消してベッドに入る。
美希は僕の要求を断ったことはほとんどない。
全くないわけじゃない。
女性だからこその事情という場合がある。
それは何となく察してやる。
そしても僕も美希の要求を受け入れていやる。
「何事もなく前期が終りそうでよかったね」
「まだテストが終わってないのに気が早いよ」
「空はわかってないな。テストなんて無いも同然だよ」
万が一何個か単位を取れなかったとしても問題ない履修登録してるから問題ない。
必須科目を落とすことはまずないだろう。
そういう勉強をしているのだから。
だからその先の事を考えよう。
まずはみんなで山にキャンプか。
みなみ達は初めてだから志高でいいやって光太達と話をしていた。
光太もそうなんだけど。
その後は実家に一度戻った方がいいのだろうか?
元気にやってるって事を伝えた方がいいのかもしれない。
そして9月には美希と2人で阿蘇に旅行。
母さんがオーベルジュの手配をしてくれた。
「お昼に高菜飯食べるといいよ」
父さんが教えてくれた。
でも熊本ラーメンも気になるから両方食べる手立てを探してたんだけど。
「私高千穂に行ってみたい」
美希の提案を受け入れると両方は無理だ。
また今度来た時に食べたらいいか。
「それなら帰りにチキン南蛮の美味しい店があるよ」
父さんが教えてくれる。
父さんは食べ物の事なら大体の事は分かっている。
父さんのアドバイスを取り入れながらルートを決めていた。
「楽しみだね」
美希が言うと僕は頷く。
テストが終れば長い夏休みが始まる。
(4)
「それじゃ、お疲れ様でした~」
知代がそう言ってジョッキを掲げる。
大人たちは盛り上がっている。
今日は知代と朝倉先生と浅井先生それに美砂と美穂とビアガーデンに来ていた。
ホテルの屋上にあるので花火が見える。
「花火を観ながらビールを飲む!やっぱり夏はこうじゃなくちゃね」
もちろん美砂と美穂と俺は飲んでない。
大っぴらに飲んだら知代たちが路頭に迷う。
そんな気遣いを無にするのが知代だけど。
「本当に晃也達は飲まなくていいの?今日は電車で来てるから問題ないでしょ」
「あるに決まってるだろ!」
「妙に真面目だな~晃也は」
知代は酒が入ると上機嫌になる。
酒が入ってなくても上機嫌だけど。
仕事のオンオフがしっかりできてると言えばいいのだろうか。
3人とも仕事の話は一切しなかった。
だけど本当は愚痴りたいこともあるんじゃないだろうか?
時間が来ると駅に向かう。
美穂と美砂はバスで家に帰るらしい。
浅井先生と朝倉先生は見送りが出来ない。
バスがそんなにある時間じゃない。
そして明日は平日だから仕事があるし学校もある。
家に泊めるわけにはいかなかった。
「気をつけて帰れよ」
2人はそう言ってバス停で見送る。
そして僕達も帰ると思っていた。
だけど家とは反対の方向、繁華街の方へ向かう。
3人は俺がいる事を忘れているんじゃないだろうか?
何のためらいもなくバーに入る。
「心配しなくてもソフトドリンクもあるから」
本当に教師であることを忘れているらしい。
大人の話を聞きながらジュースを飲んでいた。
そして店を出ると浅井先生達と別れる。
先生達はまだ店をハシゴするらしい。
「彼女がいる事忘れるなよ~」
生徒といる事を忘れている知代が言う。
それから二人で家に帰る。
知代は困った性格がある。
家に帰ると知代は更に甘えてくる。
特別な日を勝手に決めてねだってくる。
「知代は仕事に不満とかないの?」
何となく聞いてみた。
「あるよ」
あっさり答えた。
「あるから、こうして偶に羽を伸ばすの。嫌なことを忘れて酒を飲むの。そして一切忘れる。それが大人の楽しみ方」
お酒に頼らなくても家に帰れば晃也が忘れさせてくれる。
晃也もお酒を覚えたらそのうち分かる時が来る。
「だけど変なお店に通うようになったらさすがに私も怒るからね」
知代はそう言って笑う。
今年のお盆は知代の家に挨拶に行く予定にしてた。
まだ一度も顔を合わせたことがないから緊張する。
「そんなに固くならなくてもいいから」
ちゃんと両親には伝えてあると言う。
だけど一歩間違えたら知代の人生を狂わせかねない危険な爆弾を両親は受け入れてくれるのか?
そんな不安はある。
「人生悩んでもなってみないと分からない事だらけなんだよ」
だからそんな悩み捨ててしまえ。
深い闇に道を失くす夜。
眩しい朝陽の記憶を探し続ける。
時に運命は心を試す風になり、愛は全てを包む空になり明日を映している。
あの時の熱い鼓動を呼び覚ませばいい。
そうしたら凍えた夢がまた輝き始めるから。
時の重さを越えていけばいい。
凍えた夢にまた新しい息吹。
俺はベッドを出ると冷蔵庫から飲み物を取り出す。
そして一気に飲み干す。
「それでいいんだよ」
そういって背中からそっと抱きしめてくれる知代。
また一つ大人への階段を上った気がした。
海開き。
地元じゃあまり海で遊ぶ人間はいないけど僕達は折角だからと遊びに来た。
一泊二日のキャンプ。
3連休だけど1日くらいは身体を休めたい。
僕達はいいけど、光太達は仕事なんだから。
参加したのはSH社会人・大学生。
テントは実家から二人用の奴を貰って来た。
お昼はファミレスで食べて午後に海についてテントを設置する。
あまり僕達の年頃で海で水着になる者はいないけど美希たちは関係なく水着に着替える。
今年の新作の水着を選びに連れて行かれたのは毎年同じ。
テントをはると皆でビーチバレーしたリして遊んでいた。
そして夜になるとBBQの準備を始める。
肉を焼き始め、そして全員に飲み物がいきわたると光太が挨拶をする。
「他の皆も新生活で色々大変だと思うけど今日は楽しもう!」
光太が挨拶を終えると早速肉を食べ始める。
僕の肉は美希が焼き加減を確認してから取る。
レアの方が美味いと思うんだけどな。
「空達はどうだい?同居生活」
善明がやってきた。
「2人っきりって時間には慣れたかな?」
「それはよかったよ」
「善明たちはどうなの?」
美希が聞いている。
「まあ、慣れたというか色々あってね」
「喧嘩でもした?」
「滅相もない!そんな事したら大変だよ」
「あれ?善明。私何かへました?」
翼が来た。
「い、いや。きっと普通の僕くらいの年頃の男性なら極楽のような生活なんだろうけどね」
「あ、そういうことね……」
美希は何か気付いたようだ。
ここから先は女子トークになりそうだから余計な口を挟まずにただ肉を食ってる。
一方善明は光太に絡まれていた。
「お前に足りないのは勢いだ!今日は飲め!」
下手に口を出さない方がいいのはこっちも同じ様だ。
「お互い苦労してるようだな」
学が話しかけてきた。
時として女子の要求は男子の想像を超える場合がある。
そんな時にどうしていいのか分からない。
それは学も一緒だったようだ。
学と苦労話をしていると突然善明が叫んだ。
「翼!!」
何事かと翼が善明の方を見る。
というか皆が善明を見ていた。
「僕達はもう18歳だ!結婚だって堂々と出来る!親も反対してない!」
善明の顔は真っ赤だった。
翼はにやりと笑ってポケットの中で何か操作してる。
「でも、まだ自分で稼いでないから早いと言ったのは善明じゃない?」
「そんなもの関係ない!どうせ今も結婚していると変わりない生活をしているんだ!」
空っぽの恋愛で時間をすり減らすのはやめにしよう。
「帰ったら僕と指輪を買いに行かないか!?」
「指輪だったら。以前貰ったのまだはめてるし」
「改めて翼に求婚したいんだ!翼、愛してる!結婚してくれ」
止めた方がいいんじゃないかと学と話していたけど光太と美希が「自由にさせてやれ」と伝えてきたので放っておいた。
「……盆に入る前に婚姻届出しに行きませんか?」
「ありがとう!」
そう言って翼を抱きしめる善明。
そして寝てしまった。
僕は翼といっしょに善明を支えてテントに運ぶ。
光太は学に叱られていた。
善明がああなったのは多分光太の仕業だから。
「善明がうらやましいね。私はあと3年待たないと結婚できないし」
「僕が卒業するまで待ってくれるって話だったろ?」
「だって子供作ったら大学行く理由だってない?」
「どうやって養うのさ?」
「母さんに手伝ってもらえると思う。空との子供は母さんが喉から手が出るほど欲しがっていたし」
一体父さんは何をやったのだろう?
肉を食べ終わると女性陣は片づけを始める。
善明は起きてこなかった。
皆で花火をしたり遊んでいた。
そして夜食を食べる。
片付けの手間になるのでカップラーメンにした。
夜食を食べ終える頃にはそれぞれテントに入ったり2人で散歩をしたりしている。
毎年来ていたこの海もメンバーが違うだけでこんなに変わるんだなって思った。
親がいない解放感もあった。
美希と流木に座って星空を眺めながら話をする。
「空が生きている限り空は一つの事を思い続けてね」
美希がそう語る。
与える事と受け取ることは一緒の事。
だからお願いだから分かって欲しい。
一夜限りの愛なんていらない。
私は恋の駆け引きなんて求めていない。
私が望むのは僕を抱き締めたときの魔法。
それは一夜限りの愛よりも大切な事。
僕の手を握った時に感じるあの感覚が欲しいの。
私の時間を空っぽの恋愛ですり減らさないで。
私はこれから自分の為に時間を使っていくから。
「空が好き。心が締め付けられる程に」
全てを分け合える場所を探そう。
もう僕達を止める者なんていないのだから。
「そろそろ寝ようか?」
「わかった。その前にお願いがあるんだけど」
「わかってるよ。行こう?」
「ありがとう」
美希と一緒にお手洗いに行くと、美希を待ってそしてテントに戻って寝た。
(2)
朝早く起きた。
それ以上に空が早く起きてた。
翼は夜遅くまで起きていたらしい。
まだ寝ていると教えられた。
美希もまだ寝ているらしい。
空がお湯を沸かしていたので頂いてコーヒーを飲む。
少し頭が痛い。
光太のせいだね。
空がコーヒーを飲んでる僕に「おめでとう」と言った。
何のことを言ってるのか分からなかったので空に聞いてみた。
「覚えてないの!?」
空は驚いている。
さっぱり覚えていない。
「差し支えなかったら教えてもらえないかい?」
「良いけど、間違っても”記憶がない”とか翼に言ったらだめだよ」
「わかったよ」
すると空が驚愕の事実を言った。
僕は翼にプロポーズをしたらしい。
やってしまったようだ。
ボイスレコーダーに記録しているだろう。
そのくらいの事はやってしまう子だ。
空の説明によると夏休みに入ったらすぐ入籍する手はずになってるらしい。
嫌な予感がしたのでスマホを見る。
母さんから「ついに片桐の嫁を手に入れたのね。よくやったわ。挙式の手筈は任せない。でも子供は翼の負担を考えて大学卒業してからにしなさい」とメッセージが残っていた。
今さら「記憶がないのでなかったことにしてください」なんて言えない。
翼のお母さんからも「まだ至らないところがあるけど大切にしてやってね」とメッセージが届いている。
父さんと翼の父さんは事情を察したのだろうか?「まあ、頑張って」としか言わない。
頭を抱える僕。
「おう!善明!早朝って気持ちいいよな!」
光太がやって来た。
君のせいで僕はこの歳で妻を取ることになったそうだよ。
まだ働いてもいないのに夫だよ。
どうしてくれるんだい?
その後も学が起きて来て相談をしていた。
出た結論は「いい加減覚悟を決めろ」
そうなるよなあ。
光太は完全に僕を揶揄ってる。
「式はやっぱりゴンドラとか乗るのか?」
今時そんな式聞いたこと無いよ。
するとほかの人も起きてきた。
翼は上機嫌だ。
「あら、先に起きてたのなら起こしてくれてもよかったのに」
「いや、翼の幸せそうな寝顔を見てたらそんな気が起きなかったよ」
「当然じゃない。幸せなんだから」
僕は朝からマリッジブルーというのに襲われているよ。
女性陣が朝食を作り出す。
といっても、パンとインスタントのコーンポタージュと昨日の肉の残りで作った焼きそばと目玉焼きとコーヒーだけど。
女性陣は同棲してるだけあって手慣れた手つきで作り上げていく。
それを食べ終えると女性陣が食器等を洗っている間にテントを解体する。
荷物を車に積むと銭湯に行く。
何を話しているか分からないけど女性陣が騒いでいるのは分かった。
きっと翼を中心に盛り上がっているのだろう。
男性陣は僕を慰めるのに必死だったよ。
「まあ、男だったら言ったことに責任持たないとな」
まるで他人事のような光太。
お通夜みたいな状況だったので話題を変えてみた。
「みんなは夏休み何か予定を入れてるのかい?」
最初に答えたのは空だった。
「8月の連休は光太達が休みだから皆で遊ぶだろうと思って9月に一泊して来ようと計画してる」
空のお母さんに「偶には美希を休ませてあげなさい。空は夏休みでも美希は家に居る間は仕事してるようなものなのですよ」と言われたそうだ。
光太も忙しいらしい。
今中学校の改修工事に入ってるんだそうだ。
学校の改修工事は学校が長期休暇の間に終わらせなければならない。
そして盆の連休に仕事に出る事は基本志水建設では許されない。
盆があけたらすぐに2学期がはじまる。
当然急ピッチで作業を勧められているらしい。
今日も本当は仕事をしているんだそうだ。
新人の自分が休んでいいのか悩んだけど「ああ、亀梨君達はいいよ。折角の連休なんだし遊んでおいで」と上司に言われた。
同僚の克樹からも「お前何者なんだ?」と言われるくらい優遇されているらしい。
志水建設副支店長の息子。
そして渡辺班に所属している。
志水建設で優遇されないはずがない。
大卒よりも高待遇だそうだ。
「善明は何か予定あるの?」
空が聞いてきた。
「ああ、盆が明けたら空と同じように旅行に行くつもりだよ」
「へえ、善明達の事だから海外旅行でも行くんだろうね」
空はきっと冗談のつもりで言ったんだろう。
でも図星だった。
フロリダに一週間ほど行く予定だ。
飛行機もビジネスクラス。
大学生のロングバケーションの過ごし方じゃないよ。
ある意味これが新婚旅行なのかもしれないけど、多分それで許してくれるはずがないだろう。
母さん達がとんでもない旅行先を探しているかもしれない。
下手すりゃ「ちょっと宇宙を体験してらっしゃい」くらいの事は言い出しかねない。
恐ろしい事はフロリダの旅行も仕送りを溜めた資金で行けてしまう事だ。
「まあ、観客としては酒が大っぴらに飲める歳になってから式を挙げて欲しいな」
光太が言う。
光太はどうせいつやっても普通に飲んでるんじゃないのか?
風呂を出てしばらく待っていると女性陣も出てきた。
ファミレスで昼食を食べて解散になる。
「じゃ、次は盆休みな」
光太が言うと皆車で帰り出す。
僕達も家に帰る。
本当に家だ。
誰も大学生が同棲している場所とは思わないだろう。
器具の片づけを終える頃翼がコーヒーを入れてくれた。
覚悟を決めろか……。
しかし決意が決まらない。
そんな事情を察してくれたのか翼が言う。
「昨夜の件ならそういう気持ちがあることが分かっただけでもいいから気にしないでいい」
そんな事を言われて「なら、そうするよ」とか言って許してくれるような親じゃない。
覚悟を決める。
「期末テストが終わってからでいいかい?」
「……本当にいいの?後悔しない?」
「ここで後悔するようなら同棲なんかしないよ」
「……ありがとう」
そんな喜んでいる翼を見ていると思わず言ってしまうんだ。
「……これからでかけないかい?」
「どこに?」
「指輪、買うって約束したろ?」
(3)
「綺麗だね」
僕と美希は別府に花火を観に来ていた。
僕は焼きそばをほおばりながら美希と花火を観ていた。
花火が終ると一斉に帰り出す。
僕達も駅へと向かう。
車でくることも考えたけどきっと混むだろうから交通機関を使うことにした。
電車とバスを乗り継いで家に帰る。
家に帰ると風呂に入って寝室でテレビを見ていた。
美希は髪を乾かしている。
そしてそれが終ると僕の隣に座る。
美希から漂うシャンプーの甘い香り。
どうして女性からはこんなにシャンプーの香りがするんだろう?
同じシャンプーを使っているのに不思議だった。
そして僕も18歳の男子。
年頃の女子が密着して隣に座っていたらそういう気分にもなる。
美希の腰にそっと手を回す
それに気づいた美希がもっとくっついてくる。
「……明日からテストだし早めに寝ますか?」
「そうだね」
美希の提案を受け入れるとテレビを消してベッドに入る。
美希は僕の要求を断ったことはほとんどない。
全くないわけじゃない。
女性だからこその事情という場合がある。
それは何となく察してやる。
そしても僕も美希の要求を受け入れていやる。
「何事もなく前期が終りそうでよかったね」
「まだテストが終わってないのに気が早いよ」
「空はわかってないな。テストなんて無いも同然だよ」
万が一何個か単位を取れなかったとしても問題ない履修登録してるから問題ない。
必須科目を落とすことはまずないだろう。
そういう勉強をしているのだから。
だからその先の事を考えよう。
まずはみんなで山にキャンプか。
みなみ達は初めてだから志高でいいやって光太達と話をしていた。
光太もそうなんだけど。
その後は実家に一度戻った方がいいのだろうか?
元気にやってるって事を伝えた方がいいのかもしれない。
そして9月には美希と2人で阿蘇に旅行。
母さんがオーベルジュの手配をしてくれた。
「お昼に高菜飯食べるといいよ」
父さんが教えてくれた。
でも熊本ラーメンも気になるから両方食べる手立てを探してたんだけど。
「私高千穂に行ってみたい」
美希の提案を受け入れると両方は無理だ。
また今度来た時に食べたらいいか。
「それなら帰りにチキン南蛮の美味しい店があるよ」
父さんが教えてくれる。
父さんは食べ物の事なら大体の事は分かっている。
父さんのアドバイスを取り入れながらルートを決めていた。
「楽しみだね」
美希が言うと僕は頷く。
テストが終れば長い夏休みが始まる。
(4)
「それじゃ、お疲れ様でした~」
知代がそう言ってジョッキを掲げる。
大人たちは盛り上がっている。
今日は知代と朝倉先生と浅井先生それに美砂と美穂とビアガーデンに来ていた。
ホテルの屋上にあるので花火が見える。
「花火を観ながらビールを飲む!やっぱり夏はこうじゃなくちゃね」
もちろん美砂と美穂と俺は飲んでない。
大っぴらに飲んだら知代たちが路頭に迷う。
そんな気遣いを無にするのが知代だけど。
「本当に晃也達は飲まなくていいの?今日は電車で来てるから問題ないでしょ」
「あるに決まってるだろ!」
「妙に真面目だな~晃也は」
知代は酒が入ると上機嫌になる。
酒が入ってなくても上機嫌だけど。
仕事のオンオフがしっかりできてると言えばいいのだろうか。
3人とも仕事の話は一切しなかった。
だけど本当は愚痴りたいこともあるんじゃないだろうか?
時間が来ると駅に向かう。
美穂と美砂はバスで家に帰るらしい。
浅井先生と朝倉先生は見送りが出来ない。
バスがそんなにある時間じゃない。
そして明日は平日だから仕事があるし学校もある。
家に泊めるわけにはいかなかった。
「気をつけて帰れよ」
2人はそう言ってバス停で見送る。
そして僕達も帰ると思っていた。
だけど家とは反対の方向、繁華街の方へ向かう。
3人は俺がいる事を忘れているんじゃないだろうか?
何のためらいもなくバーに入る。
「心配しなくてもソフトドリンクもあるから」
本当に教師であることを忘れているらしい。
大人の話を聞きながらジュースを飲んでいた。
そして店を出ると浅井先生達と別れる。
先生達はまだ店をハシゴするらしい。
「彼女がいる事忘れるなよ~」
生徒といる事を忘れている知代が言う。
それから二人で家に帰る。
知代は困った性格がある。
家に帰ると知代は更に甘えてくる。
特別な日を勝手に決めてねだってくる。
「知代は仕事に不満とかないの?」
何となく聞いてみた。
「あるよ」
あっさり答えた。
「あるから、こうして偶に羽を伸ばすの。嫌なことを忘れて酒を飲むの。そして一切忘れる。それが大人の楽しみ方」
お酒に頼らなくても家に帰れば晃也が忘れさせてくれる。
晃也もお酒を覚えたらそのうち分かる時が来る。
「だけど変なお店に通うようになったらさすがに私も怒るからね」
知代はそう言って笑う。
今年のお盆は知代の家に挨拶に行く予定にしてた。
まだ一度も顔を合わせたことがないから緊張する。
「そんなに固くならなくてもいいから」
ちゃんと両親には伝えてあると言う。
だけど一歩間違えたら知代の人生を狂わせかねない危険な爆弾を両親は受け入れてくれるのか?
そんな不安はある。
「人生悩んでもなってみないと分からない事だらけなんだよ」
だからそんな悩み捨ててしまえ。
深い闇に道を失くす夜。
眩しい朝陽の記憶を探し続ける。
時に運命は心を試す風になり、愛は全てを包む空になり明日を映している。
あの時の熱い鼓動を呼び覚ませばいい。
そうしたら凍えた夢がまた輝き始めるから。
時の重さを越えていけばいい。
凍えた夢にまた新しい息吹。
俺はベッドを出ると冷蔵庫から飲み物を取り出す。
そして一気に飲み干す。
「それでいいんだよ」
そういって背中からそっと抱きしめてくれる知代。
また一つ大人への階段を上った気がした。
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