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祈りの叫び
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(1)
クリスマスイブ。
恋人達の為の日。
街はカップルが沢山いる中、私は一人でぶらついていた。
あの日あの事件があってからずっとショックを引きずっていた。
買い物でもして気を紛らわそうとしたが逆効果だったみたい。
1人ぼっちの自分が惨めに思えてくる。
見た目だけを見て靡くちょろい女。
その通りかもしれない。
私は恭也君の何を知っていたというのだろうか?
ただ一人で舞い上がっていただけじゃないか。
「あれ~?イブなのに一人で何やってるの?」
余計なお世話だ。
振り返ると金髪のチャラそうな男が立っていた。
無視して立ち去ればいいのに私は立ち止まってしまった。
「俺も一人なんだよね。良かったら一緒に遊ばない。折角のイブなんだしさ」
冷静に考えたら怪しさ全開ったのに私は冷静じゃなかった。
所詮私はバカ女。
このくらいの男が丁度いいのかもしれない。
「いいよ、どこ行く?」
「本当?じゃあ、まず何か食べない?丁度お昼だし」
そう言って見知らぬ男と昼食を食べてSAPで遊んでいた。
男は私の気分を盛り上げようと必死だった。
そんな男の優しさが滲んで男にあったことを全て話していた。
「酷い男だね」
「やっぱりそう思う?」
意気投合したと思っていた。
私は2度目の過ちを犯したことに気が付いていなかった。
夕食を食べて駅に向かって歩いていた。
「今日はありがとね。よかったら連絡先交換しない?」
そういってスマホを取り出す。
知らない電話番号から沢山着信してた。
知らない電話にはでたらいけない。
そのくらいの常識は持っている。
持っていると思っていた。
「最後に寄りたいところあるんだけど」
男が言う。
名前も名乗らない男。
策者が名前を考えるのも面倒な男。
その程度の男なのに私はついて行ってしまった。
そして綺麗なホテルに着いて初めて自分の犯した過ちに気が付いた。
私は当然拒絶した。
逃げ出そうとしたけど男が腕を掴む。
「いいじゃん、折角のイブなんだしさ」
そうクリスマスイブ。
日本では性夜と呼ばれている。
やばい、どうしたらいい。
私は力の限り叫んだ。
「いや!離して!!」
それは道行く人を止めてこっちを見るほどの大声だった。
私の精一杯の抵抗。
男が怯んだ隙に私は手を振りほどいて逃げ出す。
男が追ってくるかもしれない。
そんな恐怖を背に走り続けた。
履きなれないブーツ。
地面はやや凍っていた。
派手にコケる。
痛さと辛さと悔しさと惨めさで涙がこみあげてくる。
そんな私をみてまた別の男が声をかけてくる。
「放っておいて!」
ひょっとしたら単なる善意だったのかもしれない。
だけどそれすら受け入れる器は私には残っていなかった。
泣きながらバスに乗りそして家に帰る。
もう恋なんてしたくない。
だけどこの世界の神様はこんな惨めな私をちゃんと見ていたようだ。
家の前で男が立っている。
積もるほどではないけど雪が舞う夜の空の下で待っていた。
どれくらい待っていたのだろう?
その男を私は知っていた。
「恭也君?」
声をかけると恭也君は私に気付いたようだ。
「唯香」
恭也君は私に駆け寄る。
「こんな時間まで何してたんだ」
お父さんみたいなことを言う。
「別に恭也君には関係ない。それより恭也君こそ何してたの?」
「唯香を待っていた。電話をしても繋がらないから直接来た」
「……とりあえず寒いだろうし家に上がりなよ」
そう言って恭也君を家に招く。
「あ、唯香おかえり。あなたまだ唯香を待っていたの?」
いつから待っていたんだろう?
母さんから事情を聴く。
夕方頃訪れたらしい。
そしてまだ帰ってこないと言うと「じゃあ、待ってます」と言う恭也君。
それだったら家に上がってという母さんに対して外で待ってるからお気づかいなくと言ったそうだ。
「……友達だから部屋にいれるね」
「夕食は?」
「食べて来た」
私が恭也君に「上がりなよ」と言うと「失礼します」と言って靴を脱いだ。
部屋に招くととりあえず暖房をつける。
「入っていいよ」
だけど恭也君は部屋に入らない。
ただ頭を下げていた。
「あの時は済まなかった。俺もちょっと配慮が欠けていた」
「もういいよ……それより冷えてるだろうから部屋に入って」
用件があるんでしょ?
ゆっくり聞くから。
「あの時のお詫びってわけじゃないけどプレゼントを持ってきた」
「プレゼント?」
「ああ」
そう言って恭也君は私に近づくと私を抱きしめる。
「クリスマスプレゼントだ」
わけがわからなかった。
冷えているはずの恭也君の体は熱を帯びていた。
「俺がプレゼントじゃ不満か?」
「え?」
頭が混乱していた。
「お前本当に鈍い奴だな。まあ、そうだろうと思ってちゃんと用意してあるよ」
恭也君はそう言ってポケットから小箱を取り出すと箱を開けてネックレスを出す。
「どうせ、一人でほっつき歩いていたんだろう?一人でふらふらしてるから心配だ。俺がしっかり首輪をしておいてやる」
本当に首輪をつけたら俺のセンスが疑われるからそれで我慢しろ。
恭也君はそう言って笑っていた。
これが私へのサンタさんからのプレゼント?
でも私は恭也君へのプレゼントなんて用意していない。
「私なにも用意してないよ」
「それは不公平だな」
そう言って私にキスをする。
「唯香をもらっておいてやるよ」
恭也君はそう言って私の頭を撫でる。
その時ドアをノックする音が聞こえた。
母さんだ。
ドアを開けたままにしてあった。
見られた!?
「そういう仲だったわけね」
母さんはそう言って微笑む。
「黒崎君何も食べてないと思って夕食持って来たわよ。折角だから2人で話しながら食べて行きなさい」
その時間が母さんからのクリスマスプレゼント。
恭也君は夕食を食べながら色々話をしてくれた。
どうせいつかは離れて辛い思いをするくらいなら恋愛なんてしない方がいい。
そう思っていたそうだ。
でも人は誰かを愛さずにはいられない生き物。
私がカラオケから出て行った後天音達から色々言われたらしい。
そして考えて今日ここにやってきた。
でも私なんかでいいんだろうか?
そんな疑問をぶつけてみた。
「俺の為に泣いたやつなんて唯香だけだよ。泣いたやつはいるけど皆自分に酔っているだけの連中だった」
「私も同じかもしれないよ?」
「俺が女子を傷つけたと実感したのは唯香だけだよ」
それから後悔したらしい。
そして自分の気持ちに気がついてしまった。
「俺の初恋の相手なんだからな。光栄に思え。もう軽率な真似するんじゃねーぞ」
ちゃんと生活しているか毎日メッセージしてチェックしてやる。
素直じゃないんだな。
「じゃあ、連絡先交換する必要あるね」
そう言って連絡先を交換すると恭也君は立ち上がる。
「初日から遅くまでいると後面倒だから、そろそろ帰るわ」
恭也君を玄関まで見送る。
「今日はありがとう。これ、お守りにする」
「ああ、絶対離すなよ」
またな。
そう言って恭也君は家に帰って行った。
部屋に戻るとSHのグループチャットに報告する。
返事は無かった。
皆恋人達とクリスマスイブを楽しんでいるのだろう。
恭也君は家に帰って風呂に入るとすぐ連絡をくれた。
電話を終えた時には0時を回っていた。
クリスマスが私の記念日になった。
永遠なんてない。
そんな事はない。
それはこれから二人で証明していこう。
(2)
僕は美希とホテルのレストランにいた。
今日はクリスマスイブ。
父さん達からのプレゼント。
親の同意書も書いてもらってる。
高いクリスマスディナーを食べていた。
さすがにアルコールは断ったけど。
2人で雰囲気と料理を楽しんで部屋に戻る。
バスルームは十分な広さがあった。
今さら恥ずかしがることはない。
2人でシャワーを浴びるとベッドに寝そべってテレビを見ていた。
クリスマスアイスショーをやっていた。
小さな頃からアイススケートをやっている少年少女だ。
父さんもアイススケートが上手いと母さんが言っていた。
明日は皆で騒ぐからと着替えもちゃんと準備している。
「空、夜景が綺麗だよ!」
美希が外を見て言っている。
僕は美希の隣に立って夜景を一緒に見ていた。
今夜は聖夜。
そして夜景を眺める2人。
2人の視線はやがてお互いを見る。
そして……。
薄暗い照明の中で僕達は眠っていた。
美希は僕にしがみ付いている。
僕の心に触れている。
だから美希の気持ちも分かるんだ。
今幸せの絶頂だって教えてくれる。
「明後日から本番だね」
明日遊んだら、入試が終るまで遊ぶのは封印。
そう美希と決めていた。
受験生らしく過ごそう。
その代わり受験が終ったら皆で遊びにいこう。
それが最後になるかもしれないから。
就職するもの。県外の大学に進学するもの。
皆それぞれの道を行く。
きっと皆で会えるのはもうないかもしれない。
それでも皆約束するんだろう。
「また会おう」って。
「私達はずっといっしょだよ」
美希がそう言って微笑む。
「わかってる」
どんな時でも2人で乗り越えよう。
そう誓いあって聖夜を過ごした。
(3)
大地と丘の上のレストランに来ていた。
夜景が綺麗なレストラン。
どうせ明日も大地とパーティだ。
今年も大地はドレスをプレゼントしてくれた。
花柄のドレス。
首元が寂しいかもというのでネックレスもプレゼントしてくれた。
夕食を楽しんだ後は大地の家に向かう。
お風呂に入って大地の部屋でテレビを見て過ごす。
定番の音楽番組を見ていた。
大体がジャニタレばっかりで飽きるんだけど。
大地はゲーム機とかそう言う類のものは持ってない。
「退屈だ」
ストレートに気持ちをぶつけた。
「確かまだ見てないDVDがあったはずなんだけど」
そう言って取り出したのはコンサートのDVD。
しかしその内容はクリスマスとは程遠いものだった。
復讐劇を歌ったもの。
大地のセンスを疑うぞ!
「もっと、クリスマスらしいものはないのか!」
「ちょ、ちょっと待って」
大地はラックを漁っている。
「こ、これならいいかも」
大地が取り出したのは第二次世界大戦の話。
どこがクリスマスなんだ!?
だけど見ているうちに引き込まれる物語。
恋愛ものではない。
クリスマスが敵国との友情の始まりと言うお話。
2時間と言う時間があっという間に過ぎてしまった。
時間はもう0時を過ぎていた。
「そろそろ寝ようか?」
永遠に眠らせてほしいのか!?
「大地君はクリスマスイブに彼女と一緒にいて何もせずに寝てしまうのかな?」
こみ上げてくる怒りを抑えて笑顔で言ってみた。
「そ、そう言うわけじゃないけど……」
スマートに誘う事が出来なくて寝ようと言ったらしい。
大地らしいといったら大地らしいか。
私は何も言わずベッドに入る。
誘えないなら行動で示せ!
大地は行動に出た。
私を背後から抱きしめる。
「……いいかな?」
「女子に最後まで言わせるな。……明かりくらい消してくれ」
別についていても平気だけどその方が大地もやりやすいだろ?
事が終ると大地は私を抱きしめていた。
「いつもごめんね。どうしても慣れなくて」
「心配するな。大地は気づいてないかもしれないけどちゃんと成長してるよ」
なんならおばさんに伝えてやろうか?
「それは困るな」
大地はそう言って笑っていた。
男子って生き物は事が終ると疲れるらしい。
少し喋っている間に眠っていた。
そんな大地を抱きしめて私も寝る。
朝、大地は私の頭を撫でながら優しく起こしてくれた。
(4)
いつもの通りホテル最上階のレストランで夕食を楽しんでいた。
ドレスコードのある店なのでそれなりの恰好で来ていた。
翼も着飾っていたのであった時に褒めておいた。
翼は喜んでいた。
褒め方を間違えていなかったらしい。
そしてレストランでクリスマスプレゼントを渡す。
そんなに大きなものじゃなかったからね。
「ありがとう、私からもプレゼントあるんだ」
そう言って小箱を取り出す。
「これから大学生だから。相応のものをつけて欲しくて」
まだ大学入試に合格したわけじゃないんだけど。
策者の中では決まってるらしいけど。
どんなに難しいことでも「フィクションだから!」の一言で強引に通してしまう。
現にプロテニスプレイヤーに転向した山崎棗は受験勉強をしながらテニスの特訓を毎日6時間しているそうだ。
一体いつ寝てるのかわからない。
夕食を楽しむと部屋に戻る。
「ちょっとバーにでも寄りませんか?」
そんなことが言える歳ではない。
せいぜいコンビニで買ってきたジュースを飲みながらテレビを観るくらいだ。
民放は特に面白い番組が無かったので国営放送にしてみた。
誰も普段気にも留めない疑問を解き明かしていく番組の特番。
CGのキャラクターが言う一言が印象的な番組。
ぼーっと見ていた。
深夜になってもテレビを見ていた。
翼は退屈そうにベッドに横になってスマホを弄っている。
そろそろ頃合いかな?
テレビを消して明かりを落とすと翼を抱く。
翼は僕の顔を見て目を閉じる。
「ねえ、善明」
別にタバコを咥えているわけじゃないよ。
SHでは喫煙者はいないからね。
「どうしたんだい?」
僕は全裸でペットボトルのジュースを取って飲むという間抜けな行動をしていた。
「私、魅力ない?」
ジュース吹いた。
「僕、何かやらかしましたか?」
「こういう特別な日じゃないと誘ってくれないから」
高校生が毎日のようにやっていたら問題だと思うよ。
まあ、そういうアニメもあったそうだけど。
結末は悲惨だったみたいだね。
主人公が刺されて死ぬというちょうど殺人事件と最終回が重なって放送中止させられたそうだよ。
「ナイスボート」
今でもよく聞く言葉だね。
そんな事はさておいて翼を不安にさせていることは間違いない。
「もう一回やる?」
って明るく言えばいいのかな?
絶対やめた方がいいような気がするので止めておいた。
「翼の考えすぎだよ。翼はとても美しい女性だよ」
「でも……」
「翼、僕達は大学に合格したら同棲するそうだよ」
ご丁寧に家まで用意してくれるそうだ。
「それがどうかしたの?」
「大学生となれば僕だって自分で責任を取れる年頃だ。それに僕だって一応男だ。好きな女性と夜を一緒に過ごして平然としてられるほど聖人君子じゃないよ」
「期待してもいいってこと?」
「翼を不安にさせない程度にはがんばるよ」
翼はくすくすと笑っている。
「心配しないで。女性にだって性欲くらいありますよ」
それは男性に負けないほどあるという。
うん、普段の翼の行動見てたら分かる。
天音と大地を見てても、空と美希を見ていてもはっきりわかる。
この世界では女性は常に強い。
「それじゃ、明日はパーティだ。早いうちに寝ましょう」
「パーティは夜からだよ?」
「大地は毎年ドレスを天音にプレゼントしてるらしい、僕にもそのくらいさせておくれ」
「ありがとう」
そうして二人で抱きあって寝た。
午前中にチェックアウトするとパーティドレスを翼にプレゼントしてそして江口家へ向かった。
(5)
学の車で展望台に来ていた。
綺麗な夜景を見ながらファストフード店で買ってきたフライドチキンとケーキを食べる。
周りには同じようにカップルで来ている車が沢山いた。
みんな肩を寄せながら夜景に見とれている。
もちろん皆年上の人ばかりだったが。
「こんな夕食しか用意できなくてすまん」
「気にするな。ここの店のフライドチキン好きなんだ」
何せクリスマスには行列が出来ていて、予約分しか作っていないと言われてるくらいだから。
でも気になることがあった。
「どうしてこの場所を選んだんだ?」
去年は普通にレストランで食べたろ?
「ああ、レストランを予約するという手段も考えはしたんだ」
だけど学だってまだ高校生。
車を持っていることですら脅威なのに、夜景の綺麗なレストランなんて予約できるわけがない。
それにホテルのレストランを用意したところで美味しいワインを飲めるわけもない。
味を取るか夜景という思い出を取るか?
悩んだ結論がこの場所らしい。
夜景も綺麗だが星空も綺麗だった。
海の先に見える製鉄工場の光と星が交わっている。
海岸沿いを走る車のライトが流れるように見える。
崖下にも高速道路を走る車が見える。
「外に出てみようぜ」
私がそう言うと学と私は車を降りる。
少し寒いけど大丈夫。
冷たい空気に触れながら生の夜景を楽しんでいた。
写真を撮ったり、学と話をしたり。
学は寒かったようだ。
「あまり長居すると風邪引いてしまう。そろそろ行こうか」
車に戻ると学は器用に車をバックして方向転換をする。
砂利道を通って国道に出る。
その時水たまりらしきところを通ると車がずるッと滑った。
凍結していたらしい。
「すまん、うかつだった」
「気にするな」
帰りは海沿いまで降りて海岸線沿いを通って帰った。
街の中を通る。
イルミネーションが綺麗だった。
「あ、一つ寄りたいところがあるんだが構わないか?」
時間は大丈夫か?と学が聞いてきた。
私は母さんに連絡する。
その返事を見て笑うと学に答える。
「今日はイブだ。帰ってこなくてもいいけど学の財布の心配してやれってさ」
「い、いや。そういうところによるわけじゃないんだ。クリスマスだし飛び込みじゃまず無理だ」
「やけに詳しいんだな?」
「光太が言ってたんだ”クリスマスや特別な日は予約しとけ。あと料金が高く設定されるから財布も気をつけろ”ってな」
「なるほどな」
ちょっと残念だった。
学は家へ帰るルートを大きくそれてひたすら海沿いの道を走り続けた」
そして大在あたりで右折すると道なりに進む。
やがて右側に派手な電飾の家に着いた。
そばの道路に車を止めるとその家を眺める。
人が見てもいいように装飾してるらしい。
見物はご自由にと看板が立てられてある。
写真を撮る者もいた。
私も写真を撮っていた。
「どうしてこの場所知ってたんだ?」
私は学に聞いた。
「父さん達も来たことがあるらしい。年々派手になっているんだそうだ」
クリスマスデートならお勧めの場所だ。
そう言われたらしい。
庭にも入って良いみたいなので入ってみる。
3か月くらい毎晩点灯されているらしい。
よく住宅街に行くと競い合うようにクリスマスの電飾を張りあっているけどそんなの比べ物にならない。
電気代大丈夫か?と心配になるくらいだ。
それを見ると家に帰る。
折角だからとショッピングモールのイルミネーションも見て楽しんだ。
そして家が近づく。
これで終わりか。
だけど折角のクリスマスデートだ。
もっと一緒に過ごしたい。
そのとき学のスマホがメッセージを着信した。
遊からだ。
「兄貴すまん、今日だけは帰ってこないでくれ」
遊はなずなと夜を過ごすらしい。
学はため息をついた。
「この後どうするんだ?」
「水奈を送ってあとはネカフェにでも寄るよ」
「私の家に泊まっていかないか?」
このチャンスを逃す手はない。
「お泊りの準備してないんだ」
「そんなの必要ない!」
「それに年頃の娘の家にとめてもらえるわけないだろ」
そんな学の声を聞きながら母さんに連絡していた。
「まあ、いいんじゃないか?」
母さんならそう言うと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えるとするか」
そう言って学は家の車庫に車を止めると車を降りて家に入る。
「急にすいません」
「気にするな。風呂の準備は出来てる。ゆっくり楽しめ」
母さんはそう言ってリビングに戻っていった。
学を部屋に案内すると「先に風呂行って来いよ」と言う。
「悪いな」と言って学は風呂に入る。
その間にキッチンに言ってコップとジュースを取り出し部屋に戻る。
暫くして学が風呂から戻って来た。
「じゃあ、私も浴びて来るから」
そう言って私も風呂に入った。
風呂から入ると、リビングで母さんに呼び止められる。
「誠司達が寝てるんだ。あまり騒ぐなよ」
「分かってる」
そう言って部屋に戻るとジュースを飲みながらテレビを見ていた。
もう深夜になりあまり面白い番組をやっていない。
これ以上見ても無駄だ。
「そろそろ寝よう」
学にそう言って私はベッドに入る。
その後に学が入ってきて私を包み込むように抱く。
「俺も本当はこんな時間が欲しかった」
「それは良かった」
「来年には俺も一人暮らしだから」
「ああ、楽しみにしてる」
そしていいムードになった時部屋の外から声が聞こえた。
「誠、お前寝たんじゃなかったのか?水奈の部屋の前で何やってるんだ?」
「い、いや。水奈の声ってどんなのだろう?って気にならないか?」
「いい加減にしろ!お前のその癖はいつになったら直るんだ!」
あの馬鹿……
「……止めといた方がよさそうだな?」
「心配するな、なるべく声は出さないようにするから」
学だって男だろ。それに女だってその気にさせられて途中で止められるのは辛いぞ。
それから学は優しくしてくれた。
朝になって目を覚ますと学が服を着ている。
私も服を着る。
学は朝食を食べて帰ると言ったが、私が学を引き留めた。
「パーティは夜なんだろ?せめて昼まで一緒にいたい」
「水奈の希望叶えてやってくれないか?クリスマスプレゼントだと思って」
学は夕方まで一緒にいてくれた。
「じゃあ、次は忘年会だな。俺の車で迎えに来るよ」
「楽しみにしてる。受験勉強頑張れよ」
「ありがとう」
そう言って学は帰って行った。
今年ももうすぐ終わろうとしていた。
クリスマスイブ。
恋人達の為の日。
街はカップルが沢山いる中、私は一人でぶらついていた。
あの日あの事件があってからずっとショックを引きずっていた。
買い物でもして気を紛らわそうとしたが逆効果だったみたい。
1人ぼっちの自分が惨めに思えてくる。
見た目だけを見て靡くちょろい女。
その通りかもしれない。
私は恭也君の何を知っていたというのだろうか?
ただ一人で舞い上がっていただけじゃないか。
「あれ~?イブなのに一人で何やってるの?」
余計なお世話だ。
振り返ると金髪のチャラそうな男が立っていた。
無視して立ち去ればいいのに私は立ち止まってしまった。
「俺も一人なんだよね。良かったら一緒に遊ばない。折角のイブなんだしさ」
冷静に考えたら怪しさ全開ったのに私は冷静じゃなかった。
所詮私はバカ女。
このくらいの男が丁度いいのかもしれない。
「いいよ、どこ行く?」
「本当?じゃあ、まず何か食べない?丁度お昼だし」
そう言って見知らぬ男と昼食を食べてSAPで遊んでいた。
男は私の気分を盛り上げようと必死だった。
そんな男の優しさが滲んで男にあったことを全て話していた。
「酷い男だね」
「やっぱりそう思う?」
意気投合したと思っていた。
私は2度目の過ちを犯したことに気が付いていなかった。
夕食を食べて駅に向かって歩いていた。
「今日はありがとね。よかったら連絡先交換しない?」
そういってスマホを取り出す。
知らない電話番号から沢山着信してた。
知らない電話にはでたらいけない。
そのくらいの常識は持っている。
持っていると思っていた。
「最後に寄りたいところあるんだけど」
男が言う。
名前も名乗らない男。
策者が名前を考えるのも面倒な男。
その程度の男なのに私はついて行ってしまった。
そして綺麗なホテルに着いて初めて自分の犯した過ちに気が付いた。
私は当然拒絶した。
逃げ出そうとしたけど男が腕を掴む。
「いいじゃん、折角のイブなんだしさ」
そうクリスマスイブ。
日本では性夜と呼ばれている。
やばい、どうしたらいい。
私は力の限り叫んだ。
「いや!離して!!」
それは道行く人を止めてこっちを見るほどの大声だった。
私の精一杯の抵抗。
男が怯んだ隙に私は手を振りほどいて逃げ出す。
男が追ってくるかもしれない。
そんな恐怖を背に走り続けた。
履きなれないブーツ。
地面はやや凍っていた。
派手にコケる。
痛さと辛さと悔しさと惨めさで涙がこみあげてくる。
そんな私をみてまた別の男が声をかけてくる。
「放っておいて!」
ひょっとしたら単なる善意だったのかもしれない。
だけどそれすら受け入れる器は私には残っていなかった。
泣きながらバスに乗りそして家に帰る。
もう恋なんてしたくない。
だけどこの世界の神様はこんな惨めな私をちゃんと見ていたようだ。
家の前で男が立っている。
積もるほどではないけど雪が舞う夜の空の下で待っていた。
どれくらい待っていたのだろう?
その男を私は知っていた。
「恭也君?」
声をかけると恭也君は私に気付いたようだ。
「唯香」
恭也君は私に駆け寄る。
「こんな時間まで何してたんだ」
お父さんみたいなことを言う。
「別に恭也君には関係ない。それより恭也君こそ何してたの?」
「唯香を待っていた。電話をしても繋がらないから直接来た」
「……とりあえず寒いだろうし家に上がりなよ」
そう言って恭也君を家に招く。
「あ、唯香おかえり。あなたまだ唯香を待っていたの?」
いつから待っていたんだろう?
母さんから事情を聴く。
夕方頃訪れたらしい。
そしてまだ帰ってこないと言うと「じゃあ、待ってます」と言う恭也君。
それだったら家に上がってという母さんに対して外で待ってるからお気づかいなくと言ったそうだ。
「……友達だから部屋にいれるね」
「夕食は?」
「食べて来た」
私が恭也君に「上がりなよ」と言うと「失礼します」と言って靴を脱いだ。
部屋に招くととりあえず暖房をつける。
「入っていいよ」
だけど恭也君は部屋に入らない。
ただ頭を下げていた。
「あの時は済まなかった。俺もちょっと配慮が欠けていた」
「もういいよ……それより冷えてるだろうから部屋に入って」
用件があるんでしょ?
ゆっくり聞くから。
「あの時のお詫びってわけじゃないけどプレゼントを持ってきた」
「プレゼント?」
「ああ」
そう言って恭也君は私に近づくと私を抱きしめる。
「クリスマスプレゼントだ」
わけがわからなかった。
冷えているはずの恭也君の体は熱を帯びていた。
「俺がプレゼントじゃ不満か?」
「え?」
頭が混乱していた。
「お前本当に鈍い奴だな。まあ、そうだろうと思ってちゃんと用意してあるよ」
恭也君はそう言ってポケットから小箱を取り出すと箱を開けてネックレスを出す。
「どうせ、一人でほっつき歩いていたんだろう?一人でふらふらしてるから心配だ。俺がしっかり首輪をしておいてやる」
本当に首輪をつけたら俺のセンスが疑われるからそれで我慢しろ。
恭也君はそう言って笑っていた。
これが私へのサンタさんからのプレゼント?
でも私は恭也君へのプレゼントなんて用意していない。
「私なにも用意してないよ」
「それは不公平だな」
そう言って私にキスをする。
「唯香をもらっておいてやるよ」
恭也君はそう言って私の頭を撫でる。
その時ドアをノックする音が聞こえた。
母さんだ。
ドアを開けたままにしてあった。
見られた!?
「そういう仲だったわけね」
母さんはそう言って微笑む。
「黒崎君何も食べてないと思って夕食持って来たわよ。折角だから2人で話しながら食べて行きなさい」
その時間が母さんからのクリスマスプレゼント。
恭也君は夕食を食べながら色々話をしてくれた。
どうせいつかは離れて辛い思いをするくらいなら恋愛なんてしない方がいい。
そう思っていたそうだ。
でも人は誰かを愛さずにはいられない生き物。
私がカラオケから出て行った後天音達から色々言われたらしい。
そして考えて今日ここにやってきた。
でも私なんかでいいんだろうか?
そんな疑問をぶつけてみた。
「俺の為に泣いたやつなんて唯香だけだよ。泣いたやつはいるけど皆自分に酔っているだけの連中だった」
「私も同じかもしれないよ?」
「俺が女子を傷つけたと実感したのは唯香だけだよ」
それから後悔したらしい。
そして自分の気持ちに気がついてしまった。
「俺の初恋の相手なんだからな。光栄に思え。もう軽率な真似するんじゃねーぞ」
ちゃんと生活しているか毎日メッセージしてチェックしてやる。
素直じゃないんだな。
「じゃあ、連絡先交換する必要あるね」
そう言って連絡先を交換すると恭也君は立ち上がる。
「初日から遅くまでいると後面倒だから、そろそろ帰るわ」
恭也君を玄関まで見送る。
「今日はありがとう。これ、お守りにする」
「ああ、絶対離すなよ」
またな。
そう言って恭也君は家に帰って行った。
部屋に戻るとSHのグループチャットに報告する。
返事は無かった。
皆恋人達とクリスマスイブを楽しんでいるのだろう。
恭也君は家に帰って風呂に入るとすぐ連絡をくれた。
電話を終えた時には0時を回っていた。
クリスマスが私の記念日になった。
永遠なんてない。
そんな事はない。
それはこれから二人で証明していこう。
(2)
僕は美希とホテルのレストランにいた。
今日はクリスマスイブ。
父さん達からのプレゼント。
親の同意書も書いてもらってる。
高いクリスマスディナーを食べていた。
さすがにアルコールは断ったけど。
2人で雰囲気と料理を楽しんで部屋に戻る。
バスルームは十分な広さがあった。
今さら恥ずかしがることはない。
2人でシャワーを浴びるとベッドに寝そべってテレビを見ていた。
クリスマスアイスショーをやっていた。
小さな頃からアイススケートをやっている少年少女だ。
父さんもアイススケートが上手いと母さんが言っていた。
明日は皆で騒ぐからと着替えもちゃんと準備している。
「空、夜景が綺麗だよ!」
美希が外を見て言っている。
僕は美希の隣に立って夜景を一緒に見ていた。
今夜は聖夜。
そして夜景を眺める2人。
2人の視線はやがてお互いを見る。
そして……。
薄暗い照明の中で僕達は眠っていた。
美希は僕にしがみ付いている。
僕の心に触れている。
だから美希の気持ちも分かるんだ。
今幸せの絶頂だって教えてくれる。
「明後日から本番だね」
明日遊んだら、入試が終るまで遊ぶのは封印。
そう美希と決めていた。
受験生らしく過ごそう。
その代わり受験が終ったら皆で遊びにいこう。
それが最後になるかもしれないから。
就職するもの。県外の大学に進学するもの。
皆それぞれの道を行く。
きっと皆で会えるのはもうないかもしれない。
それでも皆約束するんだろう。
「また会おう」って。
「私達はずっといっしょだよ」
美希がそう言って微笑む。
「わかってる」
どんな時でも2人で乗り越えよう。
そう誓いあって聖夜を過ごした。
(3)
大地と丘の上のレストランに来ていた。
夜景が綺麗なレストラン。
どうせ明日も大地とパーティだ。
今年も大地はドレスをプレゼントしてくれた。
花柄のドレス。
首元が寂しいかもというのでネックレスもプレゼントしてくれた。
夕食を楽しんだ後は大地の家に向かう。
お風呂に入って大地の部屋でテレビを見て過ごす。
定番の音楽番組を見ていた。
大体がジャニタレばっかりで飽きるんだけど。
大地はゲーム機とかそう言う類のものは持ってない。
「退屈だ」
ストレートに気持ちをぶつけた。
「確かまだ見てないDVDがあったはずなんだけど」
そう言って取り出したのはコンサートのDVD。
しかしその内容はクリスマスとは程遠いものだった。
復讐劇を歌ったもの。
大地のセンスを疑うぞ!
「もっと、クリスマスらしいものはないのか!」
「ちょ、ちょっと待って」
大地はラックを漁っている。
「こ、これならいいかも」
大地が取り出したのは第二次世界大戦の話。
どこがクリスマスなんだ!?
だけど見ているうちに引き込まれる物語。
恋愛ものではない。
クリスマスが敵国との友情の始まりと言うお話。
2時間と言う時間があっという間に過ぎてしまった。
時間はもう0時を過ぎていた。
「そろそろ寝ようか?」
永遠に眠らせてほしいのか!?
「大地君はクリスマスイブに彼女と一緒にいて何もせずに寝てしまうのかな?」
こみ上げてくる怒りを抑えて笑顔で言ってみた。
「そ、そう言うわけじゃないけど……」
スマートに誘う事が出来なくて寝ようと言ったらしい。
大地らしいといったら大地らしいか。
私は何も言わずベッドに入る。
誘えないなら行動で示せ!
大地は行動に出た。
私を背後から抱きしめる。
「……いいかな?」
「女子に最後まで言わせるな。……明かりくらい消してくれ」
別についていても平気だけどその方が大地もやりやすいだろ?
事が終ると大地は私を抱きしめていた。
「いつもごめんね。どうしても慣れなくて」
「心配するな。大地は気づいてないかもしれないけどちゃんと成長してるよ」
なんならおばさんに伝えてやろうか?
「それは困るな」
大地はそう言って笑っていた。
男子って生き物は事が終ると疲れるらしい。
少し喋っている間に眠っていた。
そんな大地を抱きしめて私も寝る。
朝、大地は私の頭を撫でながら優しく起こしてくれた。
(4)
いつもの通りホテル最上階のレストランで夕食を楽しんでいた。
ドレスコードのある店なのでそれなりの恰好で来ていた。
翼も着飾っていたのであった時に褒めておいた。
翼は喜んでいた。
褒め方を間違えていなかったらしい。
そしてレストランでクリスマスプレゼントを渡す。
そんなに大きなものじゃなかったからね。
「ありがとう、私からもプレゼントあるんだ」
そう言って小箱を取り出す。
「これから大学生だから。相応のものをつけて欲しくて」
まだ大学入試に合格したわけじゃないんだけど。
策者の中では決まってるらしいけど。
どんなに難しいことでも「フィクションだから!」の一言で強引に通してしまう。
現にプロテニスプレイヤーに転向した山崎棗は受験勉強をしながらテニスの特訓を毎日6時間しているそうだ。
一体いつ寝てるのかわからない。
夕食を楽しむと部屋に戻る。
「ちょっとバーにでも寄りませんか?」
そんなことが言える歳ではない。
せいぜいコンビニで買ってきたジュースを飲みながらテレビを観るくらいだ。
民放は特に面白い番組が無かったので国営放送にしてみた。
誰も普段気にも留めない疑問を解き明かしていく番組の特番。
CGのキャラクターが言う一言が印象的な番組。
ぼーっと見ていた。
深夜になってもテレビを見ていた。
翼は退屈そうにベッドに横になってスマホを弄っている。
そろそろ頃合いかな?
テレビを消して明かりを落とすと翼を抱く。
翼は僕の顔を見て目を閉じる。
「ねえ、善明」
別にタバコを咥えているわけじゃないよ。
SHでは喫煙者はいないからね。
「どうしたんだい?」
僕は全裸でペットボトルのジュースを取って飲むという間抜けな行動をしていた。
「私、魅力ない?」
ジュース吹いた。
「僕、何かやらかしましたか?」
「こういう特別な日じゃないと誘ってくれないから」
高校生が毎日のようにやっていたら問題だと思うよ。
まあ、そういうアニメもあったそうだけど。
結末は悲惨だったみたいだね。
主人公が刺されて死ぬというちょうど殺人事件と最終回が重なって放送中止させられたそうだよ。
「ナイスボート」
今でもよく聞く言葉だね。
そんな事はさておいて翼を不安にさせていることは間違いない。
「もう一回やる?」
って明るく言えばいいのかな?
絶対やめた方がいいような気がするので止めておいた。
「翼の考えすぎだよ。翼はとても美しい女性だよ」
「でも……」
「翼、僕達は大学に合格したら同棲するそうだよ」
ご丁寧に家まで用意してくれるそうだ。
「それがどうかしたの?」
「大学生となれば僕だって自分で責任を取れる年頃だ。それに僕だって一応男だ。好きな女性と夜を一緒に過ごして平然としてられるほど聖人君子じゃないよ」
「期待してもいいってこと?」
「翼を不安にさせない程度にはがんばるよ」
翼はくすくすと笑っている。
「心配しないで。女性にだって性欲くらいありますよ」
それは男性に負けないほどあるという。
うん、普段の翼の行動見てたら分かる。
天音と大地を見てても、空と美希を見ていてもはっきりわかる。
この世界では女性は常に強い。
「それじゃ、明日はパーティだ。早いうちに寝ましょう」
「パーティは夜からだよ?」
「大地は毎年ドレスを天音にプレゼントしてるらしい、僕にもそのくらいさせておくれ」
「ありがとう」
そうして二人で抱きあって寝た。
午前中にチェックアウトするとパーティドレスを翼にプレゼントしてそして江口家へ向かった。
(5)
学の車で展望台に来ていた。
綺麗な夜景を見ながらファストフード店で買ってきたフライドチキンとケーキを食べる。
周りには同じようにカップルで来ている車が沢山いた。
みんな肩を寄せながら夜景に見とれている。
もちろん皆年上の人ばかりだったが。
「こんな夕食しか用意できなくてすまん」
「気にするな。ここの店のフライドチキン好きなんだ」
何せクリスマスには行列が出来ていて、予約分しか作っていないと言われてるくらいだから。
でも気になることがあった。
「どうしてこの場所を選んだんだ?」
去年は普通にレストランで食べたろ?
「ああ、レストランを予約するという手段も考えはしたんだ」
だけど学だってまだ高校生。
車を持っていることですら脅威なのに、夜景の綺麗なレストランなんて予約できるわけがない。
それにホテルのレストランを用意したところで美味しいワインを飲めるわけもない。
味を取るか夜景という思い出を取るか?
悩んだ結論がこの場所らしい。
夜景も綺麗だが星空も綺麗だった。
海の先に見える製鉄工場の光と星が交わっている。
海岸沿いを走る車のライトが流れるように見える。
崖下にも高速道路を走る車が見える。
「外に出てみようぜ」
私がそう言うと学と私は車を降りる。
少し寒いけど大丈夫。
冷たい空気に触れながら生の夜景を楽しんでいた。
写真を撮ったり、学と話をしたり。
学は寒かったようだ。
「あまり長居すると風邪引いてしまう。そろそろ行こうか」
車に戻ると学は器用に車をバックして方向転換をする。
砂利道を通って国道に出る。
その時水たまりらしきところを通ると車がずるッと滑った。
凍結していたらしい。
「すまん、うかつだった」
「気にするな」
帰りは海沿いまで降りて海岸線沿いを通って帰った。
街の中を通る。
イルミネーションが綺麗だった。
「あ、一つ寄りたいところがあるんだが構わないか?」
時間は大丈夫か?と学が聞いてきた。
私は母さんに連絡する。
その返事を見て笑うと学に答える。
「今日はイブだ。帰ってこなくてもいいけど学の財布の心配してやれってさ」
「い、いや。そういうところによるわけじゃないんだ。クリスマスだし飛び込みじゃまず無理だ」
「やけに詳しいんだな?」
「光太が言ってたんだ”クリスマスや特別な日は予約しとけ。あと料金が高く設定されるから財布も気をつけろ”ってな」
「なるほどな」
ちょっと残念だった。
学は家へ帰るルートを大きくそれてひたすら海沿いの道を走り続けた」
そして大在あたりで右折すると道なりに進む。
やがて右側に派手な電飾の家に着いた。
そばの道路に車を止めるとその家を眺める。
人が見てもいいように装飾してるらしい。
見物はご自由にと看板が立てられてある。
写真を撮る者もいた。
私も写真を撮っていた。
「どうしてこの場所知ってたんだ?」
私は学に聞いた。
「父さん達も来たことがあるらしい。年々派手になっているんだそうだ」
クリスマスデートならお勧めの場所だ。
そう言われたらしい。
庭にも入って良いみたいなので入ってみる。
3か月くらい毎晩点灯されているらしい。
よく住宅街に行くと競い合うようにクリスマスの電飾を張りあっているけどそんなの比べ物にならない。
電気代大丈夫か?と心配になるくらいだ。
それを見ると家に帰る。
折角だからとショッピングモールのイルミネーションも見て楽しんだ。
そして家が近づく。
これで終わりか。
だけど折角のクリスマスデートだ。
もっと一緒に過ごしたい。
そのとき学のスマホがメッセージを着信した。
遊からだ。
「兄貴すまん、今日だけは帰ってこないでくれ」
遊はなずなと夜を過ごすらしい。
学はため息をついた。
「この後どうするんだ?」
「水奈を送ってあとはネカフェにでも寄るよ」
「私の家に泊まっていかないか?」
このチャンスを逃す手はない。
「お泊りの準備してないんだ」
「そんなの必要ない!」
「それに年頃の娘の家にとめてもらえるわけないだろ」
そんな学の声を聞きながら母さんに連絡していた。
「まあ、いいんじゃないか?」
母さんならそう言うと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えるとするか」
そう言って学は家の車庫に車を止めると車を降りて家に入る。
「急にすいません」
「気にするな。風呂の準備は出来てる。ゆっくり楽しめ」
母さんはそう言ってリビングに戻っていった。
学を部屋に案内すると「先に風呂行って来いよ」と言う。
「悪いな」と言って学は風呂に入る。
その間にキッチンに言ってコップとジュースを取り出し部屋に戻る。
暫くして学が風呂から戻って来た。
「じゃあ、私も浴びて来るから」
そう言って私も風呂に入った。
風呂から入ると、リビングで母さんに呼び止められる。
「誠司達が寝てるんだ。あまり騒ぐなよ」
「分かってる」
そう言って部屋に戻るとジュースを飲みながらテレビを見ていた。
もう深夜になりあまり面白い番組をやっていない。
これ以上見ても無駄だ。
「そろそろ寝よう」
学にそう言って私はベッドに入る。
その後に学が入ってきて私を包み込むように抱く。
「俺も本当はこんな時間が欲しかった」
「それは良かった」
「来年には俺も一人暮らしだから」
「ああ、楽しみにしてる」
そしていいムードになった時部屋の外から声が聞こえた。
「誠、お前寝たんじゃなかったのか?水奈の部屋の前で何やってるんだ?」
「い、いや。水奈の声ってどんなのだろう?って気にならないか?」
「いい加減にしろ!お前のその癖はいつになったら直るんだ!」
あの馬鹿……
「……止めといた方がよさそうだな?」
「心配するな、なるべく声は出さないようにするから」
学だって男だろ。それに女だってその気にさせられて途中で止められるのは辛いぞ。
それから学は優しくしてくれた。
朝になって目を覚ますと学が服を着ている。
私も服を着る。
学は朝食を食べて帰ると言ったが、私が学を引き留めた。
「パーティは夜なんだろ?せめて昼まで一緒にいたい」
「水奈の希望叶えてやってくれないか?クリスマスプレゼントだと思って」
学は夕方まで一緒にいてくれた。
「じゃあ、次は忘年会だな。俺の車で迎えに来るよ」
「楽しみにしてる。受験勉強頑張れよ」
「ありがとう」
そう言って学は帰って行った。
今年ももうすぐ終わろうとしていた。
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