姉妹チート

和希

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永遠の祈り

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(1)

 今日は体育大会の日だった。
 俺と茜は相変わらずだった。
 走る競技は全て駆り出されて騎馬戦までやった。
 体育大会が終ると片づけをして終礼をして家に帰る。
 自販機で買うよりコンビニの方が安い。
 スポーツ飲料水を買って飲むとゴミ箱に捨てて帰る。
 家に帰るとりえちゃんが出迎えてくれた。
 きっちりビデオに撮ったらしい。
 それをリビングでおじさんが見ていた。
 部屋で着替えるといつものように梨々香にメッセージを送る。
 俺達の仲は相変わらずだった。
 しかし最近梨々香の様子がおかしい。
 正確には連休が明けてからだろうか。
 何か浮かない顔をしていることが時々ある。
 あんまり構ってやれてないからかな?
 振り替え休日は予定が無かった。
 今年の連休は飛び飛びだったので泊りにも来てなかった。
 りえちゃん達がいてもいなくてもあまり変わりはない。

「責任とれる行動をしてるなら私達は何も言わないわよ~」

 りえちゃんはそう言っていた。
 だから梨々香を誘ってみた。

「明日から家に泊まりに来ない?」

 明日はSAPにでも遊びに行こう。

「うん、でも純也に相談したいことがあるからSAPには行かないでいいかな?」

 相談?

「いいよ」

 特別SAPに行きたいわけでもなかったし。

「ありがとう。じゃあ、明日準備してから純也の家に行くね」

 そう言っていた。
 相談てなんだろう?
 様子からして別れたいとかそんなんじゃなさそうだけど。
 翌日朝起きて朝食を食べていると梨々香が来た。

「早すぎたかな?」
「大丈夫、ちょっと部屋で待ってて」

 そう言って部屋に案内すると急いで朝食を食べる。
 部屋に行くと少しの間黙っていた。
 りえちゃんが飲み物とお菓子を用意して持ってきてくれた。

「梨々香ちゃんは今日泊まっていくんでしょ~?」

 りえちゃんはこういうことにはおおらかだ。

「はい……」
「じゃあ、夕ご飯ご馳走しなきゃね~」

 そう言ってりえちゃんは部屋を出て行った。
 梨々香は固くなっているのか口数が少ない。
 今さら緊張してる?
 そういう年頃なんだろうか?
 こっちから切り出してやった方がいいんだろうな。

「相談って何?」
「あ、えーと……」

 梨々香は考え込んでいる。
 待ってやるのも優しさだよな。
 しばらく待っていると梨々香は話し出した。

「純也、カンパしてくれない?」

 へ?

「子供堕胎するのにお金必要だから!」

 ジュース吹いた。
 確かに梨々香とそういう事はしてきたけどちゃんと避妊くらいしてる。
 でも100%じゃないって聞いたな。
 しかし堕胎するなら親の許可がいるはず。
 それに一度堕胎すると妊娠が困難になるというと聞いた。
 だけど俺にはまだ責任能力も子供を養う能力もない。
 それでも子供なりの責任はとらなきゃいけない。

「そういうことならおじさんに相談するよ」

 きっとおじさん怒るだろうな。
 父さんにも言わなきゃな。
 梨々香のお父さんには殴られるだろうな。
 でも自分でしでかした不始末だ。
 男ならけじめはつけなさい。
 片桐家ならそう言うだろう。
 だけど梨々香はきょとんとして言った。

「どうしておじさんに相談するの?」

 梨々香が聞いてきた。

「だって、妊娠したんだろ?」
「……純也勘違いしてない?」

 へ?

「妊娠したのは友達。私じゃないよ」
「あ、そうなんだ……」

 人生初の修羅場は回避できたらしい。
 安堵する僕を見て梨々香は笑っていた。

「私だってそうならないように気をつけてるから。でも純也は責任もってくれるんだね。ちょっと嬉しかった」
「男ならそうじゃないの?」

 そもそも誰が妊娠したの?
 梨々香の友達が妊娠したらしい。
 その事を説明し始めた。
 はめられたらしい。
 いつも通ってるコンビニとは違うコンビニ。
 学区内にはいくつかコンビニがある。
 そこの店長が仕組んだ罠に梨々香の友達ははまったそうだ。
 いきなり手を掴んでこれはなんだね?という店長。
 もちろんそんなものに触った覚えもない。
 だが梨々香の友達の主張は通らなかった。
 そして部屋に連れて行かれた。
 万引きをしたら本来なら警察に通報されることになる。
 だけどあることをしたら今回は見逃してやると言った。
 そして混乱していた梨々香の友達はまともな判断が出来なかった。
 その条件を飲んでしまった。
 しかしそれだけで終わらなかった。
 その一部始終をカメラで撮影していた。
 これを拡散されたくなかったらある人と同じ事をして欲しいと要求された、
 その相手とは……中学校の教諭だった。
 そして教諭の相手をして妊娠してしまった。
 その事を知った2人は「我々は知らない」としらを切る。

「彼氏とやっていてたまたま時期がかぶっただけじゃないのか?」とさえ言われた。

 梨々香の友達は家が厳しくてそういう事は絶対にしない。
 恥ずかしそうに手を握った写真がある程度なほどの、近年では稀に見るほどの清純なカップルだってことはクラスでは有名だった。
 彼氏より先にそんな変態と行為に及んだなんて口が裂けても言えない。
 もちろん家にも相談できない。
 それで女子で集まってカンパして堕胎しよう。
 そういう結論に至ったらしい。
 話を聞いていてイライラしてきた。
 だけどおじさんはもう退職している。
 悔しいけど梨々香の言う通りにするのが一番なのかもしれない。

「その必要はないわよ~」

 部屋に入って来たのはりえちゃんとおじさんだった。

「……職業病かな。現役だった頃の勘は衰えてないようだ」

 部屋に行く梨々香をちらりとみて気になったらしい。

「おじさんもまだ署内では顔がきく。出来る限りの協力はする。馬鹿な真似を考えずに解決策を探そう」

 でもタイムリミットはある。
 急がなければ。
 そして相手もその事を承知していた。
 休みが明けるとすぐに行動をとる。
 2人を休学処分にした。
 理由は不純異性交遊。
 ただ手を繋いでいただけで不純異性交遊なんて馬鹿げてる。
 その話は学校内に知れ渡った。
 そして梨々香の友達の両親の耳にも入り両親は激怒する。
 他所の学校に引っ越す。
 そういう判断をした。
 不幸はまだ続く。
 彼氏と一緒に居られない。
 見知らぬ男の子供を身ごもっている。
 自分の人生を悲観した彼女は自殺未遂を計った。
 風呂場でリストカットをしたそうだ。
 すぐに西松医院に搬送される。
 その時の検査で妊娠も発覚してしまった。
 梨々香の連絡を受けて僕達も駆けつけるとロビーで悔し涙を流す彼氏がいた。
 面会すら許してもらえなかったらしい。
 梨々香も面会を許されなかった。

「何もしてやれない自分が情けない」

 そう言って涙を流す彼氏。
 当然のように僕達もこのまま許すわけにはいかない。
 父さんの耳にも入っていた。
 父さんと西松医院の副院長は学部は違うけど先輩後輩の関係。渡辺班の一員だった。
 そして渡辺班が知ったという事は酒井家と石原家にも情報が入ったという事。
 早速両家の圧力が梨々香の友達の両親にかかる。
 それだけじゃ済ませられない。
 堕胎は西松医院が無償でしてくれるらしい。

「慰謝料をしっかりふんだくった後で払ってくれたらいい」

 そう言ってくれた。
 あとは許せない2人だけだ。
 茜がすぐに行動した。
 まずはコンビニでその当時の様子を店内に設置されたカメラの画像を捕獲して店長の仕組んだ罠だと立証する。
 店長との行為を収めたファイルを全部奪い取る。
 同じ手口で何人もの学生に同じ真似をしていたらしい。
 全部削除した。
 次は教諭だ。
 学校のサーバーに侵入するなんて茜にとっては造作もない事だけど茜は別の手段を取った。
 教諭の所有しているアカウントにメールを送信する。

「なんでもしますから留年だけは許してください。その証拠に画像を添付します」

 教諭は画像を開く。
 それが罠だと知らずに開く。

「ばーか」

 画面にその一言が映る。
 当然それだけじゃない。
 画像ファイルは色々なファイルを含むことが多い。
 この場合はトロイの木馬と呼ばれるファイル。
 教諭が隠し持っている卑猥な画像にかけられていたパスワードを盗み取ってその中身を見る。
 梨々香の友達の画像も当然あったが思わず嘔吐しそうな気持ちの悪い画像も含まれていた。
 梨々香の友達の画像等は全部削除して教諭の変態的趣味の画像をサイトにアップロードする。
 そのURLをばらまく。
 効果は翌日現れた。
 教諭は懲戒解雇処分になる。
 そして証拠画像や動画ファイルをおじさんを経由して警察のお偉いさんに渡す。
 当然警察は捜査に乗り出す。
 2人に刑事罰がくだるのも時間の問題だろう。
 石原家と酒井家の圧力に対抗できる存在など県内には存在しない。
 引越しは中止になり、休学処分も解除され二人の仲は認められた。
 しかし気になることがある。
 教諭の刑事罰が思ったより比較的軽かったこと。
 本来なら実刑判決が下ってもおかしくないのに執行猶予も短かった。
 おじさんはその理由を知っているようだったけど教えてくれなかった。
 地元の正義が歪められていようとしている前兆だったそうだ。

(2)

「ごめん、好きな人できたんだ」

 頭の中で何度もリピートされる言葉。
 私の事は好きじゃなかったのか?
 好きじゃなかったらしい。
 ただ、幼馴染だから一緒に居て当然だと思ってた。
 でも好きという感情に初めて触れた。
 蒼汰の態度が変わり始めたのはすぐに気づいた。
 怖くて聞けなかったから誤魔化したけど審判が下った。
 自分の気持ちに嘘がつけないのだという。
 この物語は恋は永遠に続く物だと信じていた。
 だけどそれは幻だったらしい。
 残酷な事実が突き付けられる。
 そしてそんな事実を受け止められずにいる私がいた。
 ある日帰ろうとするとクラスメートの蔵岡朋之が声をかけて来た。

「金井さんこの後少し時間もらえないかな?」
「別にいいけど」

 帰ってもやる事がない。
 勉強くらいだ。
 それにクラスでも滅法気が弱い蔵岡が声をかけてきたんだ。
 きっと何かあるんだろう?
 彼の僅かな勇気を受け入れてやろう。
 放課後教室で二人きりになるのを待った。
 そして二人きりになると蔵岡が話を始めた。

「金井さん、最近何かあった?」

 蔵岡は気づいていたらしい。
 と、言う事はクラス中が感づいてるのかな?
 別に隠す事でもないし事情を話した。
 それを真剣に聞いている蔵岡。

「私フラれたみたい」

 そう言って笑顔を作る。
 だけど涙腺は正直だ。
 すぐに涙が流れだす。

「ごめん、ちょっと立て直す」

 何も言わずにただじっと立っている蔵岡。
 私は必死にそれを止めようとするが止まらない。

「どうせ誰も見てないから全部吐き出した方がいいと思う」

 蔵岡が見てるのがいやなら僕も教室を出るから。
 そう言って教室を出ようとする蔵岡の制服を引っ張っていた。

「こっちみないでね」
「うん」

 誰かにこの痛みを知って欲しかったのかもしれない。
 思いっきり泣いていた。
 永遠に続くと思っていた。
 涙が枯れるまで泣き続けた。
 落ち着いたみたいだ。
 蔵岡の言った通りだったのかもしれない。

「ありがとう、すっきりできた……蔵岡君もいいところあるんだね」

 今度はちゃんと笑えた気がする。
 だけど蔵岡の表情が固かった。
 まさかとは思うけどこのタイミングでするの?

「僕でも金井さんの涙を止める事が出来た。今度は金井さんに笑顔をプレゼントしたい……僕じゃダメですか?」
「意味わかんないよ。ちゃんと伝えて」
「僕もずっと金井さんを見てました。ずっと好きでした。付き合ってください」

 クラスで情けない男ランキング上位に入る蔵岡がこんな事言うなんて驚いた。
 でも、その気持ちに応えられそうにない。

「ごめん、今は誰とも付き合う気になれない」

 蔵岡が嫌いってわけじゃない。
 本当に感謝してる。
 蔵岡と話していると心が温かくなる。
 ……あれ?
 気づいたら私の心の中から蒼汰が消えて蔵岡が支配していた。
 蒼汰もこんな気分になったのかな?
 でもまた失うのが怖い。

「そっか、ごめんね。じゃあ用事は済んだから僕行くね。ありがとう」

 待て。
 お前はそれでいいのか?
 もっと強く引き留めてよ。
 そんな態度をとられると私は不安で仕方ない。
 どうして不安なのかは分からなかったけど。
 その時廊下から音がした。

「へっくし!」
「天!静かに!!」

 どうやら如月天と酒井繭が覗いていたらしい。
 2人もバレたと知ると姿を見せた。

「ごめんなさい、天が忘れ物を取りに教室に戻ってなかなか戻ってこないから、私も来たら出るに出れない状況になってて」

 これじゃ、ただの道化だ。
 気まずいと思ったのか蔵岡は教室を出ようとする。
 その蔵岡の腕を掴んだのは天だった。

「まだ終わってないだろ?お前の気持ちってごめんの3文字で諦めがつくほどのものなのか?」

 それ以上つきまとったら一歩間違えたらただのストーカーだけどね。
 一方繭はスマホを操作していた。

「2人共時間ありますか?ちょっと会って欲しい人がいるのですが」

 繭が言う。
 私達は繭に連れられてファミレスに向かった。
 すると2年生の石原大地とその彼女らしい人がいた。
 彼女は桜丘高校の制服を着ていた。

「とりあえず座れよ」

 その彼女らしい赤髪の女子が言うと私達は席に着いて注文を取る。
 話を切り出したのはその赤髪の女子だった。

「メッセージで大体の話は聞いた。お前が蒼汰の元カノだったんだな」

 赤髪の女子が言うと私はうなずいた。

「私も同じ思いをしたことがあるから分かるよ」
「どういう事?」
「私の場合は自分の兄が相手だった。兄が好きだと錯覚していた」

 赤髪の子がそう言った。
 ずっと一緒に居たから好きだと誤解してそして誰に取られたくないと必死になった。
 その結果今の彼氏の姉にとられたそうだ。
 それは決して彼女の想いが強かったとかじゃない。
 目の前にいる石原先輩に恋をしたのだという。
 どんな状況でどんな出来事が人が恋に落ちるのか分からない。
 そして決して恋愛の神様が自分を見捨てたわけじゃない。
 もっと相応しい人を準備していてくれているのだという。

「金井さんにとってそれが蔵岡君なんじゃないのかい?」

 石原先輩が言う。

「蔵岡君も簡単に諦めちゃだめだ。ずっと見てきたんだろ?」

 石原先輩が言うと蔵岡君は黙ってうなずいた。

「……蔵岡君。今の気持ちを聞かせて」

 今度はちゃんと受け止めるから。もう一度だけあなたの勇気を下さい。
 蔵岡君は応えてくれた。
 どうしてだろう?
 嬉しいのに涙が出る。
 恋の終わりは新しい恋の始まり。
 ようやく私の失恋が終って新しい恋が始まったんだ。
 蔵岡君と連絡先を交換すると私達はファミレスを出る。
 家は近所のようだ。
 蔵岡君と一緒に帰る。

「一つだけ謝っておくことがあるんだけど」
「どうしたの?」
「私蒼汰とキスはしたんだよね」
「ま、まあ僕達の年齢ならそうだよね」
「蔵岡君はしたことある?」
「ないよ」

 じゃあ、良かった。
 私は家の前で自転車を止めると蔵岡君を抱きしめてキスをする。

「朋之の初めてはわたしがもらっておくね」
「ありがとう」
「安心して。私まだ処女だから」
「か、金井さんいったいどうしたの!?」
「凛花でいいよ。いつでも大丈夫なように準備しておくから」
「……わかった」

 言質はとったからな。覚悟してね。
 私を攫って。私にもっと迫って。
 私をこのまま奪って。私を思うように縛って。
 もう私は朋之のものだから。
 同じ時を共にいきるから、覚悟してね。
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