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微笑みは光る風の中
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(1)
水奈とバス停に行くとなんか女子が1人増えてた。
美穂に「誰?」と聞いてみた。
岡原真琴。
同じクラスメートだそうだ。
すでに美穂がSHに勧誘したらしい。
強引に人数を増やしていくやり方が板についてきたな。
まあ、悪い奴じゃなさそうだしいっか。
「今日もみんな大変だね」
お婆さんがやってきた。
毎週決まった日に必ず来る。
近くの病院まで通ってるらしい。
そしてバスに乗る。
「お婆さん先にどうぞ」
「いつもありがとうね」
お婆さんを先に乗せるのは暗黙のルール。
今日はやけに多いな。
いつもなら余裕がある席がない。
この辺の連中が皆バス通学の高校生ってせいもあるのかもしれない。
それでもいくつか席があった。
お婆さんは入り口近くの座席の一が低い優先席に座っていた。
しかし今日はその席に男子高校生が座っていた。
優先席も読めないでよく入試通ったな。
どこの制服だ?
藤明か。
すると真琴が男に言った。
「優先席の意味も知らないのか!?お年寄りが立ってるのによく平気で座ってられるな!」
だが男はイヤフォンをつけていた。
真琴はイヤフォンを取る。
「何すんだよ!?」
「お年寄りに席に譲るってマナーも藤明の学生は知らないのか!?」
「俺じゃなくても他に席あるだろ!」
「女子に対する気遣いもないのかよ!」
「こんな時だけ女子って盾を使うな!」
話にならない野郎だな。
見た感じ足を怪我してるわけでもない。
「あの……どうせすぐに降りますから……」
お婆さんが言う。
「そんなの関係ない!!」
私と真琴が同時に言っていた。
「婆さんが良いって言ってるからいいだろ?」
男がそう言ってイヤフォンを耳に装着しようとする腕を私が掴む。
男は私を睨みつける。
「バスから放り投げられたいか大人しく席を譲るかどっちか選べ」
男が周りを見る。
乗客が男を険しい表情で見ている。
男はしぶしぶ席を譲った。
「お婆さんどうぞ」
真琴が言うとお婆さんが「ありがとう」と言って席に座る。
その後すぐにアナウンスが流れてお婆さんはボタンを押してバス停で降りる。
その後も優先席は空席のまま男も大人しく立っていた。
駅前まで着くと私達はバスを降りる。
「あそこまでやるとは思わなかったよ。えーと名前まだ聞いてなかったね」
「片桐天音。よろしく」
「お前があの片桐天音!?」
1年の時に色々やったから色々と名前が売れているらしい。
きっとろくでもない噂だろうけど。
学校まで歩く間にいろいろ話をした。
やっぱり防府高校に彼氏がいるそうだ。
今年も沢山の出会いがあるんだろうな。
放課後いつも通り遊んで帰った。
夕食を食べて風呂に入ってゲームをしながら大地とチャットをしていた。
新学期が始まった。
でもどうせすぐに連休に入る。
慣らし運転といったところか。
時間になるとベッドに入る。
今日が終って明日がまた始まる。
いつもと変わらない日々を過ごしていく。
(2)
「あれ?小宮なんか上履きおかしくね?」
クラスの生徒が指摘する。
桜丘高校では学年ごとに上履きの色が違う。
ちょうど制服を買い換えた時期が新入学生の注文と重なったせいもあるのだろう。
上履きが1年生の物になっていた。
私はたちまちクラスの笑いものになった。
ちょっとしたパニックになった。
どうしよう?
考えても答えが出てこない。
ただ焦っているだけの時間を過ごしていると教室に誰かが入って来た。
「何の騒ぎ?」
片桐天音だ。
誰かが天音に説明する。
天音も笑っていた。
そして私のところにやってきた。
「小宮お前金持ってる?」
災難は続くらしい。
どう答えたらいいか分からなくてただ怯えている。
天音に目をつけられたら助からない。
そんな噂が学校中に広まっていた。
「天音、それだとただの恐喝だぞ。ちゃんと説明してやれよ」
天音の友達の渡辺紗理奈が言った。
天音は説明をしてくれた。
学校の売店に上履きが売ってあるからそれ買って終わり。
簡単な事だった。
私はすぐに売店に行って上履きを買う。
「落ち着けば案外簡単に解決するもんだぜ」
天音が言う。
教室に戻る間天音達と話をしていて、そしてSHというグループに招待された。
「断言してもいいけど小宮は防府高校に彼氏いるだろ?」
なんでわかったの?
「ただの勘」
天音はそう言ってにこりと笑う。
そういう奴が多いから今度連休にでもSAPに遊びに行こうぜ。
天音がそう言う。
光る風の中に私はいる。
そんな風の中で微笑んでる天音がいる。
その輝きを私は信じる事にした。
(3)
「こんにちは」
今日は朝から調子が悪い。
腹が痛くてどうしようもない。
痛み止めはさっき飲んだ。
だけどすぐには効かない。
最初はすぐに効いていたのだが段々効き目が薄くなってきた。
愛情が成分の半分のやつ。
効き目が薄くなってきたということは愛情が薄れてきたのか?
大地の奴浮気でもしてるのか?
それよりまず目の前の来訪者の始末だな。
こんな調子の悪い時に話しかけてくる奴ぶっ飛ばしてやりたいところだがその気力さえわかない。
しばらくしてから反応した。
「何か用?」
とりあえず相手の顔を見る。
本原遼妃。
猟奇に見えてきそうな心境だ。
「片桐さんのグループに私も入れてよ」
「なんで?」
「だって私の彼も入ってるらしいから」
「彼氏の名前は?」
「蔵原京一」
スマホを出して確認する。
ついでに「お前の愛情が足りないから私は腹痛で困ってるぞ!」と大地に文句を言ってやる。
大地は慌ててた。
心配してくれてるところを見ると浮気の線はなさそうだ。
少しだけ痛みが和らいだ気がした。
蔵原京一というのは確かにいるらしい。
「いいよ、連絡先教えろよ」
「ありがとう!」
遼妃と連絡先を交換してSHに招待する。
何をそんなにテンション上げてるんだか。
高校デビューということもないだろう。
そうだとしたらちょっと手遅れだと思うぞ?
それにしても今日は一向に腹痛が収まる様子がない。
薬もう一錠飲むかな?
「保健室で正露丸貰って来たら?」
大地がメッセージを送って来た。
その腹痛じゃねーよ!
そんなツッコミを入れる元気もなかった。
「ひょっとしてお腹痛いの?」
遼妃が聞いてきた。
「まあな……しょうがねーんだろうけど」
男には無いなんて不公平だ。
いつぞやの馬鹿が「こんな時だけ女を盾にするな」と言っていたけどこの苦しみを味合わせてやりたい。
「薬飲んだの?」
「うん」
「いつ?」
「さっき」
「それじゃだめだよ」
痛み止めは痛みが我慢できなくなってからではなくて痛み始めてから飲む物なんだそうだ。
痛み止めの成分は痛みの原因を抑える薬。
我慢できないほど痛みの原因が増えてからでは遅すぎる。
愛莉は「どうしても我慢できない時に飲みなさい」と言っていたぞ!
騙したな!
イライラしてきたらますます痛みが増して来た。
「保健室で横になってた方がいいよ。そんな姿勢だと腰まで痛くなっちゃうよ」
遼妃が言うので遼妃と一緒に保健室に行く。
遼妃が保健室の先生に説明してくれた。
案外いい奴なんだな。
「少し横になって休んでなさい。いつもお腹の調子が悪いって嘘ついて早退してた罰があたったのかもね」
バレてたらしい。
大丈夫。ちゃんと出席日数の計算は毎日してる。
周期の計算より大事だから。
愛莉に留年したなんて言ったら何言われるかわかったもんじゃない。
午前中はそのまま休んでた。
お昼になると腹痛は空腹に変わる。
「もう大丈夫です」といって教室に戻ると弁当を食べる。
「お前本当に腹痛だったのか?全然そうは見えねーぞ」
紗理奈が呆れてる。
「でも収まってよかったね」
遼妃が言う。
「ああ、ありがとうな。猟奇」
「へ?」
遼妃が不思議そうな顔をする。
そして笑いだす。
「私の名前は”りょうき”じゃなくて”はるひ”だよ」
読めるか!
(4)
今日もまた知らない顔がいる。
制服が一緒だから桜丘の生徒なんだろう。
しかしうちのクラスでは見ない顔だぞ?
まあ、突然現れる事もあるからうちのクラスじゃないと断定はできないけど。
高校は入試を受けて入るから簡単には転校できない。
親の転職や転勤が理由で家族で引っ越して元の学校が通学不可にでもならないと認められないそうだ。
子供1人で引越しなんて真似は許されない。
公立→公立でも同じ事が言える。
そして転入試験を受けなければならない。
まず元居た高校の偏差値以上の高校には入れないだろう。
しかも転校先の高校に空きがあって募集していることが大前提。
さらに転校先の半分以上の順位の成績じゃないと受け付けてもらえない。
桜丘高校は私立だ。
私立高校同士で紳士協定が交わされていてそう簡単に転校を認めてもらえないらしい。
私立高校は授業料を収めてもらう事によって運営する所だ。
そんな簡単に認めてもらえるわけがない。
どうしても入りたければ退学して受験するしかない。
そこまでして桜丘に入りたがる奴なんてまずいない。
転入先、編入先が定時制や通信制に限られてくるのはそう言う事情があるから。
まず全日制ではよほどの事がない限り無理だろう。
それでもどうにかしてしまうのがこの世界なんだろうけど。
次々と生徒数が増えていく不思議な世界。
しかし今回はそうではなかったらしい。
「あいつ、坂城だ」
「知ってるのか水奈?」
「ああ、うちのクラスの奴」
私達がバス停に着くと水奈が「よお、おはよう」と声をかける。
坂城という奴はびくっとして水奈の顔を見る。
「お前もこの近所に住んでたんだな」
「う、うん……」
「でも全然見なかったけどどうしてだ?」
「いつも早めに家出てたから」
早めに家出てたって前の便30分前だぞ!?
そんなに早く学校行って何するんだよ?
コンビニで立ち読みでもするのか?
私はコーヒーショップでドーナツでも食おうと早めにでたら、愛莉に感づかれた。
「で、でも朝のコーヒーって美味しいんだよ。愛莉」
「冬夜さんが認めてどうするんですか!そんなの家で飲んでるから問題ありません!」
「やっぱりお店のコーヒーは一味違うよ。それにドーナツやケーキも食べられるよ」
「天音の魂胆はそれです!」
パパは食べ物の話になると勘が鋭いけど大体愛莉に叱られる。
「そ、そう言うわけじゃないんだけど」
どうやら食い物目当てではないらしい。
じゃあ、なんでだ?
「ま、いいや。何かの縁だ私達のグループに入れよ」
「え、それってSHだよね?」
「なんだ、知ってるなら早いじゃん。皆良い奴ばっかりだから入れよ」
「わ、わかった……」
不思議に思った。
何か隠してないか?
そんな疑問が浮かんだ。
ちょっと探ってみるか?
「坂城さんだっけ?」
「はい、坂城幹恵と言います」
「幹恵、防府に彼氏いないか?」
「え?なんでそれを?」
「ただの勘」
「あ、あの……絢斗にはこの事黙っててもらえないかな?」
「無理だな、スマホ見てみ?」
水奈が言うのでスマホを見ると岩井絢斗ってのがSHに既にいた。
「こんな時間にバス停に居て大丈夫なのか?」
「う、うん。今日は体調悪くて」
全然元気そうだが。
「彼氏にSH入った事バレたらまずかったのか?」
水奈が聞いてた。
「水奈お願い!私が桜丘に通ってるって事隠しておいてくれないかな?」
「どういうこと?」
幹恵は彼氏に嘘をついていたらしい。
自分は伊田高の普通科に通っていると言ってるそうだ。
そんな嘘ついてどうするんだ?
彼の絢斗とは春休みに友達に誘われたグループ交際で知り合ったらしい。
その時は私服だったので高校は分からなかったそうだ。
そして高校を絢斗に聞かれた。
桜丘と言えなかった幹恵は思わず「伊田高」と答えたらしい。
どうせ、彼氏になんてなってくれるはずがない。
しかしこの世界は優しいようで過酷な試練を与えてくる。
絢斗から告白された。
そして今に至る。
「私が桜丘って事がばれたら全部台無しになってしまう。お願い内緒にしてて!」
「じゃあ、早く家を出ていたのは?」
「時間が被ると鉢合わせする可能性があるから……」
制服姿を見られたくないっていう理由もあった。
桜丘も伊田高も普通科ならそんなに変わらねーよ!
どうかすると桜丘の方が偏差値高いくらいだぞ。
そんな事より彼氏をだましているという行為が許せなかった。
水奈は必死にお願いする幹恵に「分かったから落ち着け」と言っていたが私は許せない。
それは自分に自信がないからとかじゃない。
彼を信用していない、侮辱してる証拠。
お互い違う高校に通ってるならちゃんと本音で語るべきだ。
「天音、そういうわけだから悪いけど幹恵の思うようにしてやってくれないかな?」
「……わかった。その件はシラを通しておいてやるよ」
「ありがとう」
「水奈、ちょい耳貸せ」
「どうした天音?」
水奈に耳打ちする。
「それやばくね?」
「やばいかどうかは2人の問題だろ?」
どうせいつかバレる。
このままいても楽しいわけがない。
「天音に任せるよ」
その後バスの中で大地に個人チャットを送った。
放課後になるといつもはすぐに教室を出るけど今日は出なかった。
SHの皆に作戦を教える。
「それって破局させたいわけ?」
美穂が聞いた。
「逆だよ。2人がどこまで本気なのか確かめたい」
「まあ、天音が言うならいいけどさ」
美穂がそう言うとしばらく時間を潰していた。
見回りの教師が「いい加減に帰りなさい」と言うまで残っていた。
そろそろ頃合いか。
私達は校門に向かう。
普通科の連中が待っていた。
防府高校の連中と一緒に。
狼狽えているのは多分幹恵だろう。
集団の中に割って入る。
「あ、天音。お疲れ様」
「ありがとう、大地こそ悪いな」
自転車でここまで大変だっただろう?
「で、絢斗ってのはどれ?」
「僕だけど」
見た目平凡な少年は戸惑いを隠せないでいた。
無理もない。
伊田高に通っていると思っていた彼女が桜丘の制服を着ているのだから。
「天音、酷いよ。秘密だって言ったはずだよ!」
「私は知らないふりをすると言っただけだ。”幹恵が伊田高に通ってると嘘をついてる事”を知らないふりをしていただけ」
偶には制服デートをしてみたい。
うちの女子生徒は大体が防府に彼氏がいる。
だったら丁度いいじゃんって思っただけ。
狼狽えてる幹恵の腕を引っ張って絢斗の前に連れ出した。
「絢斗、これが本当の幹恵だ!どう思った?」
「いきなり言われても……」
「はっきり言え!幻滅したとか言いたい事言え何かあるだろ。今まで騙されていた怒りとか、そうまでしないと付き合ってもらえないと信用されていなかった悲しみとか」
そもそもお前はどうして幹恵と付き合ったんだ!?
「幹恵は見ていて心細そうにしている。子供の言う事じゃないけど守ってやりたいと思った」
絢斗はそう答える。
次は幹恵の番だ。
「いいか!高校なんてどこでもいいんだよ!進学狙ってるならなおさらだ!高校で勉強を必死にやればいいだけだ!」
その間に夢が変わることだってある。
何のために大学に行くのか分からなくなることだってある。
有名中学や高校に行ったからと言って落ちこぼれない保証はない。
脱落していく連中だっているんだ。
何より幹恵のやってる事はこんなに真摯に受け止めてくれてる絢斗に対する冒とくだ!
絢斗が好きで付き合ってるんじゃないのか?だったら自分を飾るのは止めろ。
ありのままの自分でいてやれ。
「で、どうだんだ。自分の彼女が桜丘だったって感想は?」
「……薄々気づいていた」
いつも休日に私服でデートだし制服姿を見たことがない。
伊田高の友達に聞いたけどそんな奴いないと言っている。
最初からバレてるじゃないか。
「それでもやっぱり幹恵が好きだ。一緒に楽しく学校帰りに遊んだりしたい」
絢斗は訴えていた。
「……ごめん。そしてありがとう」
2人は分かりあえたようだ。
もちろんこれで終わりなわけがない。
「じゃあ、今日は人数多いからSAPで遊ぶか」
そう言ってSAPで遊んで帰る。
「あれ?天音今日はバスじゃないの?」
「一度経験してみたかったんだよね」
「何を?」
「大地の自転車で二人乗り」
「なるほどね」
美砂がそう言ってる。
美砂と美穂は彼氏が車で迎えに来るそうだ。
どこの高校に行ったから偉いと言う事はない。
ただちょっと中学の時に頑張っただけ。
それから遊んでいたんだったら意味がない。
中学を巣立って高校も大学も専門学校も通過点に過ぎない。
大事なのはそこで何を学んだか。
翌日いつもの時間に幹恵は現れた。
覚悟はできたようだ。
朝早起きなくていいんだけど、その時間を使って絢斗とメッセージをしてるらしい。
これからが2人の本番になるのだろう。
(5)
「ちょっと祈いいかな?」
友達の岩岡千鶴がやってきた。
「どうしたんだ?千鶴」
私が聞くと千鶴は自分のスマホを見せた。
SHから招待が来てる。
ああ、千鶴も仲間入りするのか。
「これがどうかしたのか?」
「なんかさ、怪しくない?」
千鶴はSHについて何も知らないらしい。
無理もない。
SHは防府高校では殆ど活動してないのだから。
「これ彼から?」
「なんで分かったの?」
て、事は天音か水奈の仕業だな。
「断言してもいいけど彼氏って桜丘じゃない?」
「そうだけど、それと何か関係あるの?」
私はSHについて説明した。
私も入ってる事も忘れずに。
「……と、言うわけだから別に怪しいグループじゃないよ」
「まあ、祈が入ってるならいっか」
千鶴が入った。
「でさ、どんな事してるグループなの?」
「さっきも言ったけど基本何もしてない」
「それって組んでる意味あるの?」
「まあ、暇なときに一緒に遊ぶくらいかな?」
「なるほどね」
そう言えば今日桜丘に集合って言ってたな。
「千鶴自転車通学だよな」
「そうだけど?」
「今日放課後皆で桜丘に遊びに行くって言ってたけど一緒に行かない?」
「別にいいけど?本当に妙なグループだね」
「まあね」
そして放課後桜丘高校に行った。
理由は私も知らされていない。
大地と天音で何か企んでるらしいのは確かだけど。
理由はすぐにわかった。
岩井絢斗の彼女は伊田高だと聞いていたが桜丘高校から水奈達と出てきた。
当たり前だけど桜丘高校の制服を着て。
絢斗も戸惑っていた。
そして今にも泣き出しそうな絢斗の彼女・坂城幹恵。
「ごめんなさい」
桜丘だとカッコ悪いと思って嘘をついたらしい。
伊田高の特進クラスならともかく普通科なら桜丘の普通科と同レベルだ。
年によっては桜丘の方が偏差値が高い時がある。
嘘つくメリットなんてどこにもない。
まあ、イメージというかブランド的には伊田高が上なんだけど。
でもそんなの気にしていてもしょうがないだろ。
ゴールは高校じゃない。
就職、進学いずれにしろ通過点にしか過ぎない。
その過程をどう過ごして来たかが問題だ。
中には防府や今鶴にいって私立大や別府大に行くやつだっているんだ。
かと思えば防府から名門大に行く奴だっている。
大学の名前だけじゃない、何を学びたいか、どんな仕事に就きたいのかで進路は変わってくる。
建設会社に入るのにわざわざ京大や東大を選ぶ必要なんてない。
やがて後から天音が来た。
天音も私が思ったことを二人に言ってる。
そして二人はお互いの気持ちを確かめたようだ。
その後は街のSAPで遊んだ。
1フロア貸し切っての突如始まったボウリング大会。
その後はゲーセン行ってファミレスで夕食を食べて帰る。
帰り道千鶴に聞いてみた。
「どうだ?こんな感じのグループだけど」
「なんかいいグループだね」
「それは良かった」
幾億の星が彷徨う宇宙で巡り会えた事は奇跡。
本当の優しさがやっとわかった。
あなたが大事な人だと今なら胸を張って言える。
光る風の中あなたの声が聞こえてくる。微笑んでるあなたがいる。
その眩しさを見つめてる。
熱い瞳に焼き付けて。
水奈とバス停に行くとなんか女子が1人増えてた。
美穂に「誰?」と聞いてみた。
岡原真琴。
同じクラスメートだそうだ。
すでに美穂がSHに勧誘したらしい。
強引に人数を増やしていくやり方が板についてきたな。
まあ、悪い奴じゃなさそうだしいっか。
「今日もみんな大変だね」
お婆さんがやってきた。
毎週決まった日に必ず来る。
近くの病院まで通ってるらしい。
そしてバスに乗る。
「お婆さん先にどうぞ」
「いつもありがとうね」
お婆さんを先に乗せるのは暗黙のルール。
今日はやけに多いな。
いつもなら余裕がある席がない。
この辺の連中が皆バス通学の高校生ってせいもあるのかもしれない。
それでもいくつか席があった。
お婆さんは入り口近くの座席の一が低い優先席に座っていた。
しかし今日はその席に男子高校生が座っていた。
優先席も読めないでよく入試通ったな。
どこの制服だ?
藤明か。
すると真琴が男に言った。
「優先席の意味も知らないのか!?お年寄りが立ってるのによく平気で座ってられるな!」
だが男はイヤフォンをつけていた。
真琴はイヤフォンを取る。
「何すんだよ!?」
「お年寄りに席に譲るってマナーも藤明の学生は知らないのか!?」
「俺じゃなくても他に席あるだろ!」
「女子に対する気遣いもないのかよ!」
「こんな時だけ女子って盾を使うな!」
話にならない野郎だな。
見た感じ足を怪我してるわけでもない。
「あの……どうせすぐに降りますから……」
お婆さんが言う。
「そんなの関係ない!!」
私と真琴が同時に言っていた。
「婆さんが良いって言ってるからいいだろ?」
男がそう言ってイヤフォンを耳に装着しようとする腕を私が掴む。
男は私を睨みつける。
「バスから放り投げられたいか大人しく席を譲るかどっちか選べ」
男が周りを見る。
乗客が男を険しい表情で見ている。
男はしぶしぶ席を譲った。
「お婆さんどうぞ」
真琴が言うとお婆さんが「ありがとう」と言って席に座る。
その後すぐにアナウンスが流れてお婆さんはボタンを押してバス停で降りる。
その後も優先席は空席のまま男も大人しく立っていた。
駅前まで着くと私達はバスを降りる。
「あそこまでやるとは思わなかったよ。えーと名前まだ聞いてなかったね」
「片桐天音。よろしく」
「お前があの片桐天音!?」
1年の時に色々やったから色々と名前が売れているらしい。
きっとろくでもない噂だろうけど。
学校まで歩く間にいろいろ話をした。
やっぱり防府高校に彼氏がいるそうだ。
今年も沢山の出会いがあるんだろうな。
放課後いつも通り遊んで帰った。
夕食を食べて風呂に入ってゲームをしながら大地とチャットをしていた。
新学期が始まった。
でもどうせすぐに連休に入る。
慣らし運転といったところか。
時間になるとベッドに入る。
今日が終って明日がまた始まる。
いつもと変わらない日々を過ごしていく。
(2)
「あれ?小宮なんか上履きおかしくね?」
クラスの生徒が指摘する。
桜丘高校では学年ごとに上履きの色が違う。
ちょうど制服を買い換えた時期が新入学生の注文と重なったせいもあるのだろう。
上履きが1年生の物になっていた。
私はたちまちクラスの笑いものになった。
ちょっとしたパニックになった。
どうしよう?
考えても答えが出てこない。
ただ焦っているだけの時間を過ごしていると教室に誰かが入って来た。
「何の騒ぎ?」
片桐天音だ。
誰かが天音に説明する。
天音も笑っていた。
そして私のところにやってきた。
「小宮お前金持ってる?」
災難は続くらしい。
どう答えたらいいか分からなくてただ怯えている。
天音に目をつけられたら助からない。
そんな噂が学校中に広まっていた。
「天音、それだとただの恐喝だぞ。ちゃんと説明してやれよ」
天音の友達の渡辺紗理奈が言った。
天音は説明をしてくれた。
学校の売店に上履きが売ってあるからそれ買って終わり。
簡単な事だった。
私はすぐに売店に行って上履きを買う。
「落ち着けば案外簡単に解決するもんだぜ」
天音が言う。
教室に戻る間天音達と話をしていて、そしてSHというグループに招待された。
「断言してもいいけど小宮は防府高校に彼氏いるだろ?」
なんでわかったの?
「ただの勘」
天音はそう言ってにこりと笑う。
そういう奴が多いから今度連休にでもSAPに遊びに行こうぜ。
天音がそう言う。
光る風の中に私はいる。
そんな風の中で微笑んでる天音がいる。
その輝きを私は信じる事にした。
(3)
「こんにちは」
今日は朝から調子が悪い。
腹が痛くてどうしようもない。
痛み止めはさっき飲んだ。
だけどすぐには効かない。
最初はすぐに効いていたのだが段々効き目が薄くなってきた。
愛情が成分の半分のやつ。
効き目が薄くなってきたということは愛情が薄れてきたのか?
大地の奴浮気でもしてるのか?
それよりまず目の前の来訪者の始末だな。
こんな調子の悪い時に話しかけてくる奴ぶっ飛ばしてやりたいところだがその気力さえわかない。
しばらくしてから反応した。
「何か用?」
とりあえず相手の顔を見る。
本原遼妃。
猟奇に見えてきそうな心境だ。
「片桐さんのグループに私も入れてよ」
「なんで?」
「だって私の彼も入ってるらしいから」
「彼氏の名前は?」
「蔵原京一」
スマホを出して確認する。
ついでに「お前の愛情が足りないから私は腹痛で困ってるぞ!」と大地に文句を言ってやる。
大地は慌ててた。
心配してくれてるところを見ると浮気の線はなさそうだ。
少しだけ痛みが和らいだ気がした。
蔵原京一というのは確かにいるらしい。
「いいよ、連絡先教えろよ」
「ありがとう!」
遼妃と連絡先を交換してSHに招待する。
何をそんなにテンション上げてるんだか。
高校デビューということもないだろう。
そうだとしたらちょっと手遅れだと思うぞ?
それにしても今日は一向に腹痛が収まる様子がない。
薬もう一錠飲むかな?
「保健室で正露丸貰って来たら?」
大地がメッセージを送って来た。
その腹痛じゃねーよ!
そんなツッコミを入れる元気もなかった。
「ひょっとしてお腹痛いの?」
遼妃が聞いてきた。
「まあな……しょうがねーんだろうけど」
男には無いなんて不公平だ。
いつぞやの馬鹿が「こんな時だけ女を盾にするな」と言っていたけどこの苦しみを味合わせてやりたい。
「薬飲んだの?」
「うん」
「いつ?」
「さっき」
「それじゃだめだよ」
痛み止めは痛みが我慢できなくなってからではなくて痛み始めてから飲む物なんだそうだ。
痛み止めの成分は痛みの原因を抑える薬。
我慢できないほど痛みの原因が増えてからでは遅すぎる。
愛莉は「どうしても我慢できない時に飲みなさい」と言っていたぞ!
騙したな!
イライラしてきたらますます痛みが増して来た。
「保健室で横になってた方がいいよ。そんな姿勢だと腰まで痛くなっちゃうよ」
遼妃が言うので遼妃と一緒に保健室に行く。
遼妃が保健室の先生に説明してくれた。
案外いい奴なんだな。
「少し横になって休んでなさい。いつもお腹の調子が悪いって嘘ついて早退してた罰があたったのかもね」
バレてたらしい。
大丈夫。ちゃんと出席日数の計算は毎日してる。
周期の計算より大事だから。
愛莉に留年したなんて言ったら何言われるかわかったもんじゃない。
午前中はそのまま休んでた。
お昼になると腹痛は空腹に変わる。
「もう大丈夫です」といって教室に戻ると弁当を食べる。
「お前本当に腹痛だったのか?全然そうは見えねーぞ」
紗理奈が呆れてる。
「でも収まってよかったね」
遼妃が言う。
「ああ、ありがとうな。猟奇」
「へ?」
遼妃が不思議そうな顔をする。
そして笑いだす。
「私の名前は”りょうき”じゃなくて”はるひ”だよ」
読めるか!
(4)
今日もまた知らない顔がいる。
制服が一緒だから桜丘の生徒なんだろう。
しかしうちのクラスでは見ない顔だぞ?
まあ、突然現れる事もあるからうちのクラスじゃないと断定はできないけど。
高校は入試を受けて入るから簡単には転校できない。
親の転職や転勤が理由で家族で引っ越して元の学校が通学不可にでもならないと認められないそうだ。
子供1人で引越しなんて真似は許されない。
公立→公立でも同じ事が言える。
そして転入試験を受けなければならない。
まず元居た高校の偏差値以上の高校には入れないだろう。
しかも転校先の高校に空きがあって募集していることが大前提。
さらに転校先の半分以上の順位の成績じゃないと受け付けてもらえない。
桜丘高校は私立だ。
私立高校同士で紳士協定が交わされていてそう簡単に転校を認めてもらえないらしい。
私立高校は授業料を収めてもらう事によって運営する所だ。
そんな簡単に認めてもらえるわけがない。
どうしても入りたければ退学して受験するしかない。
そこまでして桜丘に入りたがる奴なんてまずいない。
転入先、編入先が定時制や通信制に限られてくるのはそう言う事情があるから。
まず全日制ではよほどの事がない限り無理だろう。
それでもどうにかしてしまうのがこの世界なんだろうけど。
次々と生徒数が増えていく不思議な世界。
しかし今回はそうではなかったらしい。
「あいつ、坂城だ」
「知ってるのか水奈?」
「ああ、うちのクラスの奴」
私達がバス停に着くと水奈が「よお、おはよう」と声をかける。
坂城という奴はびくっとして水奈の顔を見る。
「お前もこの近所に住んでたんだな」
「う、うん……」
「でも全然見なかったけどどうしてだ?」
「いつも早めに家出てたから」
早めに家出てたって前の便30分前だぞ!?
そんなに早く学校行って何するんだよ?
コンビニで立ち読みでもするのか?
私はコーヒーショップでドーナツでも食おうと早めにでたら、愛莉に感づかれた。
「で、でも朝のコーヒーって美味しいんだよ。愛莉」
「冬夜さんが認めてどうするんですか!そんなの家で飲んでるから問題ありません!」
「やっぱりお店のコーヒーは一味違うよ。それにドーナツやケーキも食べられるよ」
「天音の魂胆はそれです!」
パパは食べ物の話になると勘が鋭いけど大体愛莉に叱られる。
「そ、そう言うわけじゃないんだけど」
どうやら食い物目当てではないらしい。
じゃあ、なんでだ?
「ま、いいや。何かの縁だ私達のグループに入れよ」
「え、それってSHだよね?」
「なんだ、知ってるなら早いじゃん。皆良い奴ばっかりだから入れよ」
「わ、わかった……」
不思議に思った。
何か隠してないか?
そんな疑問が浮かんだ。
ちょっと探ってみるか?
「坂城さんだっけ?」
「はい、坂城幹恵と言います」
「幹恵、防府に彼氏いないか?」
「え?なんでそれを?」
「ただの勘」
「あ、あの……絢斗にはこの事黙っててもらえないかな?」
「無理だな、スマホ見てみ?」
水奈が言うのでスマホを見ると岩井絢斗ってのがSHに既にいた。
「こんな時間にバス停に居て大丈夫なのか?」
「う、うん。今日は体調悪くて」
全然元気そうだが。
「彼氏にSH入った事バレたらまずかったのか?」
水奈が聞いてた。
「水奈お願い!私が桜丘に通ってるって事隠しておいてくれないかな?」
「どういうこと?」
幹恵は彼氏に嘘をついていたらしい。
自分は伊田高の普通科に通っていると言ってるそうだ。
そんな嘘ついてどうするんだ?
彼の絢斗とは春休みに友達に誘われたグループ交際で知り合ったらしい。
その時は私服だったので高校は分からなかったそうだ。
そして高校を絢斗に聞かれた。
桜丘と言えなかった幹恵は思わず「伊田高」と答えたらしい。
どうせ、彼氏になんてなってくれるはずがない。
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「じゃあ、早く家を出ていたのは?」
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桜丘も伊田高も普通科ならそんなに変わらねーよ!
どうかすると桜丘の方が偏差値高いくらいだぞ。
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「ありがとう」
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水奈に耳打ちする。
「それやばくね?」
「やばいかどうかは2人の問題だろ?」
どうせいつかバレる。
このままいても楽しいわけがない。
「天音に任せるよ」
その後バスの中で大地に個人チャットを送った。
放課後になるといつもはすぐに教室を出るけど今日は出なかった。
SHの皆に作戦を教える。
「それって破局させたいわけ?」
美穂が聞いた。
「逆だよ。2人がどこまで本気なのか確かめたい」
「まあ、天音が言うならいいけどさ」
美穂がそう言うとしばらく時間を潰していた。
見回りの教師が「いい加減に帰りなさい」と言うまで残っていた。
そろそろ頃合いか。
私達は校門に向かう。
普通科の連中が待っていた。
防府高校の連中と一緒に。
狼狽えているのは多分幹恵だろう。
集団の中に割って入る。
「あ、天音。お疲れ様」
「ありがとう、大地こそ悪いな」
自転車でここまで大変だっただろう?
「で、絢斗ってのはどれ?」
「僕だけど」
見た目平凡な少年は戸惑いを隠せないでいた。
無理もない。
伊田高に通っていると思っていた彼女が桜丘の制服を着ているのだから。
「天音、酷いよ。秘密だって言ったはずだよ!」
「私は知らないふりをすると言っただけだ。”幹恵が伊田高に通ってると嘘をついてる事”を知らないふりをしていただけ」
偶には制服デートをしてみたい。
うちの女子生徒は大体が防府に彼氏がいる。
だったら丁度いいじゃんって思っただけ。
狼狽えてる幹恵の腕を引っ張って絢斗の前に連れ出した。
「絢斗、これが本当の幹恵だ!どう思った?」
「いきなり言われても……」
「はっきり言え!幻滅したとか言いたい事言え何かあるだろ。今まで騙されていた怒りとか、そうまでしないと付き合ってもらえないと信用されていなかった悲しみとか」
そもそもお前はどうして幹恵と付き合ったんだ!?
「幹恵は見ていて心細そうにしている。子供の言う事じゃないけど守ってやりたいと思った」
絢斗はそう答える。
次は幹恵の番だ。
「いいか!高校なんてどこでもいいんだよ!進学狙ってるならなおさらだ!高校で勉強を必死にやればいいだけだ!」
その間に夢が変わることだってある。
何のために大学に行くのか分からなくなることだってある。
有名中学や高校に行ったからと言って落ちこぼれない保証はない。
脱落していく連中だっているんだ。
何より幹恵のやってる事はこんなに真摯に受け止めてくれてる絢斗に対する冒とくだ!
絢斗が好きで付き合ってるんじゃないのか?だったら自分を飾るのは止めろ。
ありのままの自分でいてやれ。
「で、どうだんだ。自分の彼女が桜丘だったって感想は?」
「……薄々気づいていた」
いつも休日に私服でデートだし制服姿を見たことがない。
伊田高の友達に聞いたけどそんな奴いないと言っている。
最初からバレてるじゃないか。
「それでもやっぱり幹恵が好きだ。一緒に楽しく学校帰りに遊んだりしたい」
絢斗は訴えていた。
「……ごめん。そしてありがとう」
2人は分かりあえたようだ。
もちろんこれで終わりなわけがない。
「じゃあ、今日は人数多いからSAPで遊ぶか」
そう言ってSAPで遊んで帰る。
「あれ?天音今日はバスじゃないの?」
「一度経験してみたかったんだよね」
「何を?」
「大地の自転車で二人乗り」
「なるほどね」
美砂がそう言ってる。
美砂と美穂は彼氏が車で迎えに来るそうだ。
どこの高校に行ったから偉いと言う事はない。
ただちょっと中学の時に頑張っただけ。
それから遊んでいたんだったら意味がない。
中学を巣立って高校も大学も専門学校も通過点に過ぎない。
大事なのはそこで何を学んだか。
翌日いつもの時間に幹恵は現れた。
覚悟はできたようだ。
朝早起きなくていいんだけど、その時間を使って絢斗とメッセージをしてるらしい。
これからが2人の本番になるのだろう。
(5)
「ちょっと祈いいかな?」
友達の岩岡千鶴がやってきた。
「どうしたんだ?千鶴」
私が聞くと千鶴は自分のスマホを見せた。
SHから招待が来てる。
ああ、千鶴も仲間入りするのか。
「これがどうかしたのか?」
「なんかさ、怪しくない?」
千鶴はSHについて何も知らないらしい。
無理もない。
SHは防府高校では殆ど活動してないのだから。
「これ彼から?」
「なんで分かったの?」
て、事は天音か水奈の仕業だな。
「断言してもいいけど彼氏って桜丘じゃない?」
「そうだけど、それと何か関係あるの?」
私はSHについて説明した。
私も入ってる事も忘れずに。
「……と、言うわけだから別に怪しいグループじゃないよ」
「まあ、祈が入ってるならいっか」
千鶴が入った。
「でさ、どんな事してるグループなの?」
「さっきも言ったけど基本何もしてない」
「それって組んでる意味あるの?」
「まあ、暇なときに一緒に遊ぶくらいかな?」
「なるほどね」
そう言えば今日桜丘に集合って言ってたな。
「千鶴自転車通学だよな」
「そうだけど?」
「今日放課後皆で桜丘に遊びに行くって言ってたけど一緒に行かない?」
「別にいいけど?本当に妙なグループだね」
「まあね」
そして放課後桜丘高校に行った。
理由は私も知らされていない。
大地と天音で何か企んでるらしいのは確かだけど。
理由はすぐにわかった。
岩井絢斗の彼女は伊田高だと聞いていたが桜丘高校から水奈達と出てきた。
当たり前だけど桜丘高校の制服を着て。
絢斗も戸惑っていた。
そして今にも泣き出しそうな絢斗の彼女・坂城幹恵。
「ごめんなさい」
桜丘だとカッコ悪いと思って嘘をついたらしい。
伊田高の特進クラスならともかく普通科なら桜丘の普通科と同レベルだ。
年によっては桜丘の方が偏差値が高い時がある。
嘘つくメリットなんてどこにもない。
まあ、イメージというかブランド的には伊田高が上なんだけど。
でもそんなの気にしていてもしょうがないだろ。
ゴールは高校じゃない。
就職、進学いずれにしろ通過点にしか過ぎない。
その過程をどう過ごして来たかが問題だ。
中には防府や今鶴にいって私立大や別府大に行くやつだっているんだ。
かと思えば防府から名門大に行く奴だっている。
大学の名前だけじゃない、何を学びたいか、どんな仕事に就きたいのかで進路は変わってくる。
建設会社に入るのにわざわざ京大や東大を選ぶ必要なんてない。
やがて後から天音が来た。
天音も私が思ったことを二人に言ってる。
そして二人はお互いの気持ちを確かめたようだ。
その後は街のSAPで遊んだ。
1フロア貸し切っての突如始まったボウリング大会。
その後はゲーセン行ってファミレスで夕食を食べて帰る。
帰り道千鶴に聞いてみた。
「どうだ?こんな感じのグループだけど」
「なんかいいグループだね」
「それは良かった」
幾億の星が彷徨う宇宙で巡り会えた事は奇跡。
本当の優しさがやっとわかった。
あなたが大事な人だと今なら胸を張って言える。
光る風の中あなたの声が聞こえてくる。微笑んでるあなたがいる。
その眩しさを見つめてる。
熱い瞳に焼き付けて。
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