姉妹チート

和希

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電光石火

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(1)

 朝から事件が起こった。
 3歳児の喧嘩だった。
 三杉航大君と杉山朝臣君が掴みあいの喧嘩を始めた。
 僕と誠司で止めたけど、白鳥彩葉ちゃんが泣いていた。
 すぐに先生が来る。
 先生が一体何があったのか事情を聴いていた。
 彩葉ちゃんが先生に耳打ちする。
 先生はため息を吐く。

「そういう事なら職員室で詳しく事情を聴くわ。3人共いらっしゃい」
「先生僕達も聞いて良いですか?」

 誠司が聞いたら先生は首を振っていた。

「誠司君達には関係のない事だから。今は3人をそっとしておいてあげて」

 誠司は納得出来なかったようだ。
 冴と瞳子は察したみたいだけど。
 僕も事情は大体把握してた。
 こういう他人事になると大人は心の防御が無防備になる。
 だから凄く分かりやすい。
 三杉君や杉山君の方が隠そうとしていた。
 話が終ると3人が職員室から出てきた。
 当然他の3歳児が「お前らなにやったんだ?」と三杉君達に聞いてくる。

「別に、なんでもないよ」

 三杉君達はそういう。
 何も無かったことしていたそうだ。

「なあ、冬吾は何があったか知ってるんだろ?教えてくれよ」

 帰り道に誠司から聞かれる。

「他人に話すような事じゃないって言ったら納得してもらえるかい?」
「ていうかいい加減気づきなさい!」

 冴に怒られる誠司。

「ああ、そういう事ね」

 ようやく誠司も気づいたようだ。

「でもまだ早くね?知り合って2週間くらいだぞ」
「誠司は本当に分かってないな。恋に落ちたら時間なんて長い様で早い物なんだよ」

 謎かけのようなことを冴が言う。
 でも多分冴の体験談なんだろう。
 早くしないとほかの人にとられちゃうんじゃないか?
 明日の今頃にはどこにいるのか分からない世の中。
 だから焦るんだろう。
 そして3人には明日が無かった。
 僕達よりも幼いけど僕達よりもつらい経験をしたんだ。

「じゃあ、また明日」

 僕は家に着くと3人に挨拶して家に入る。
 部屋で着替えると昼寝する。
 起きる頃には天音姉さんや茜姉さんが帰ってる。
 そして翼姉さんや空兄さんが帰ってくると夕食の準備が始まる。
 翼姉さんは手伝っていた。
 その間僕達の相手を天音姉さんたちがしてくれる。
 父さん達が帰ってくると夕食になる。
 僕は今日あったことは何も言わなかった。
 だけど冬眞と莉子が喋っていた。

「最近の子供って進んでるんだな」

 天音姉さんはそう言った。

「天音だってまだ子供でしょ」

 翼姉さんが言う。

「くそ……ちょっと大人っぽいパンツ穿けるようになったからって良い気になりやがって」

 本気で悔しがってるらしい、天音姉さん。

「り、莉子もそう言う好きな子いるのかい?」

 父さんは話題を変えようとしただけだった。
 そしてその話題がまずいことだってすぐに察したようだ。
 僕も知ってしまった。
 恐らく翼姉さんも気づいただろう。
 莉子はちょっとだけ頷く。

「嘘だろ!?誰だよ!姉ちゃんに任せておけばどうにでもなるぜ」

 天音姉さんは遊び半分で聞いているんだろう。
 だけど相手が悪すぎる。

「無理だよ……」

 莉子は微かな声でそう言った。

「そんなの分かんないぞ、ふたを開けてみないと分かんないことだらけの世の中なんだ」
「そうなの?」

 莉子は聞いていた。

「昔父さんの友達にアドバイスしたことがあってね」

 ラーメンは伸びないうちに食え。
 思ったらすぐに行動。
 悩んでいる間にラーメンは伸びてしまう。
 後悔は先には立たない。
 だから同じ悔やむならやってから後悔しなさい。

「そうなんだ……、私も頑張ってみる」

 莉子は決意したようだ。
 冬眞は何も気づいてないようだ。

「冬莉はどうなんだい?」

 父さんは娘の恋愛事情が気になるようだ。
 そして僕や翼姉さん同様、父さんにも冬莉の心は全く読めない。

「うーん、めんどくさそうだからパス」

 冬莉は一言そう言って、静かに夕食を食べていた。
 夕飯を食べると僕はリビングでテレビを見ていた。
 冬莉はとっくに寝てる。

「冬吾?早く寝ないでいいの?まだ夜更かしする歳じゃないでしょ」

 母さんが言う。

「せめてこの番組が終わるまで待って」

 僕は母さんにお願いした。

「愛莉、ちょっといいかな」

 そう言って父さんは母さんにひそひそ話をする。
 それを聞いた母さんはくすりと笑った。

「そういう事ならしかたないですね。でもソファで寝るなんて真似は絶対ダメですからね」
「わかった」

 しかしこの時間帯の番組は何が面白いのかよく分からない。
 ただ芸能人がトークして笑い声がするだけの番組。
 父さんもあまり興味がないらしい。
 お爺さんと話をしている。
 そしてお爺さん達の話もよくわからないのでつい、首をこくっと傾けてしまう。
 それを見た母さんが寝室の様子を伺いに行く。

「冬吾、2人とも寝ているからもう寝なさい」

 母さんに言われると僕は寝室で寝る。
 冬眞の隣に陣取って寝た。
 冬眞と莉子の間に入るような真似はしなかった。
 寝ているのにも関わらず二人の手はしっかりと繋がれていたから

(2)

 天音姉さんや翼姉さんの話を聞いて私は決意した。
 今日が終るその前に。
 冬吾兄さんに気を使わせたらしい。
 冬吾兄さんはリビングでテレビを見ているようだ。

「冬眞、ちょっとだけでいいから話を聞いてくれないかな?」
「どうしたの?莉子」

 夕食の時から様子が変だよ。

「今日の騒ぎ覚えてる?」
「彩葉たちの事?」
「うん」
「騒ぎがあったのは知ってるけど原因は分からない」

 先生達に聞いても教えてくれない。

「私彩葉に聞いたの?”どっちが言って来たの?”って」
「言ったって何を?」
「きっと三杉君と杉山君のどっちかが彩葉に好きって言って喧嘩になったと思った」
「……それが先生達が隠してた理由?」
「当たりだったみたいだね」
「そっかぁ……でもそんなに隠す事なのかな」

 普通は隠すんじゃないかな?
 ていうか私達にはまだ早いと思うのが普通だと思う。だけど……。

「私達には無縁の世界だと思ってた。だけど彩葉の話を聞いてそうじゃないんだって思った。他人事じゃない。冬眞にだって誰が告白してくるのか分からない」

 いつ、だれがしてくるか分からない。誰もしてこないなんて保証どこにもない。
 仮にしてこなくてもいつの間にか付き合ってたなんてあるのがこの世界の常識。

「でも、それが莉子とどう関係あるの?莉子には関係ないと思うけど」
「そんな事無い!関係なくなんかない!」

 私は大声で言っていた。

「そ、そんなに大声出したら母さん達に聞かれちゃうぞ」
「ご、ごめん」
「それでどうしてそんなに取り乱してるの?」
「その理由をこれから話すからちゃんと話を聞いて欲しい」
「わかった……」

 そして冬眞は私の次の言葉を待っている。
 私は深呼吸をして静かに語った。

「私は冬眞の事が好き」

 ハッキリと伝えた。
 冬眞は少し戸惑っていた。

「でも僕達兄妹だよ。無理だよ」
「私もそれが怖かった。私の好きだって気持ちを一方的に押し付けて兄妹という関係すら壊してしまうんじゃないかって」
「じゃあ、なぜ今になって突然そんな事言いだしたの?」
「私が悩んでいる間も時間は待ってくれない。明日の今頃あなたは遠くへ行ってしまうかもしれない。そう思ったから」

 冬眞が私以外の誰かを想ってるかもしれない。待っているのかもしれない。だから少しでも早く伝えようと思った。
 それは私の一方的な我儘かもしれないけど。伝えきれずにはいられない気持ち。

「……僕達はまだ幼い、いつ気が変わるかもわからない」

 大丈夫。この世界の神様は簡単に一度繋いだ縁を切るつもりは無いらしいから。

「私と冬眞は血が繋がっていないのは間違いない。血よりも濃い絆を私にもらえませんか?」
「……困ったな」
「何が?」
「父さん達にどう説明したらいいか分からない」

 そう言う冬眞の顔は笑っていた。
 初恋は実らない。
 どこの誰が決めつけたのか分からないフラグを平然とへし折る物語。

「私も一緒に説明してあげる」
「わかった。ごめん、今日はもう眠いから寝よう?」
「うん、ありがとう」
「喜んでもらえてよかった」
「じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 翌朝私達は父さん達に伝えた。
 伝える必要なんてなかったかもしれない。
 でも認めてもらいたかった。

「僕、莉子と付き合うことにしたよ」

 そう言ったのは冬眞だった。
 冬眞の手は私の手をしっかりと握っている。

「……愛莉、やっぱり部屋は二つで良かったみたいだね」
「冬夜さんの勘はやっぱりすごいですね」

 父さんと母さんが言ってる。

「もう二人で相部屋か。よかったね。でも悪さしちゃだめだよ」

 翼姉さんがそう言って笑っていた。

「そうじゃねーだろ翼!こういう時は背中を押してやらないとダメだろ!」
「天音は3歳の莉子に何を求めてるの!?」
「ついてるもんはついてるから大丈夫だろ!」
「そういう問題じゃありません!」

 翼姉さんと天音姉さんと愛莉が何か言いあってるけど、言ってる意味が分からなかった。

「馬鹿な事を言っていないで天音も早く用意しなさい」
「うぬぬ……」

 私達もご飯を食べて支度する。
 そして幼稚園に向かう。
 冬吾兄さんと瞳子姉さんがそうしてるように。
 誠司兄さんと冴姉さんがそうしてるように。
 私も冬眞と手をつないで歩いていた。
 冬莉姉さんはそんな私達を眺めながら後ろをついてくる。
 そして新しい一日が始まる。
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