姉妹チート

和希

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色なき風

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(1)

「1列で歩きなさい!」

 先生がいってる。
 だけど自然と皆2列3列になっていく。
 土手を歩いてるだから問題ないだろ。
 今日は努力遠足の日。
 2時間ほど歩き続ける。
 先生達は必要以上にぴりぴりしてる。
 運動会の時もそうだった。
 原因はSHとFGの抗争になった。
 今はお互い干渉しないという取り決めが交わされてぴたりとやんでるけど、それでも暴れ出すのが5年生。
 もちろんSH側だ。
 どうしてもFGのリーダー・山本喜一を屋上から投下したいらしい。
 もちろん光太が制御してる。
 それでもいつ暴れ出すかわからないのが天音だ。
 天音は口実を欲しがってる。
 父さんが言ってた。

「人が動くのにいちいち理由が必要?」

 天音はどんなきっかけでもいい、口実が欲しい。
 自分が動く大義名分が欲しい。
 どんな些細なきっかけでも。
 それは去年の努力遠足で実践してみせた。

「FGの勝手な行動で潰された15分の休憩時間を返せ」

 今年はどんな言いがかりをつけるのかわからない。
 だからこそ教職員は総がかりでFGの我儘を押さえつけてる。
 それはFGの身の安全を確保するためだ。
 天音が暴れ出したらもう手遅れ。
 止める者がいない。
 その事はFGのリーダーも、その弟山本勝次も身をもって知っていた。
 だから大人しかった。
 結果的には天音が、SHが学校の治安を維持している。
 天音にはそれが詰まらないらしいけど。

「これが終ったらあとは卒業式だね」

 翼が言う。
 学校の行事は粗方終わった。
 あと大きな行事と言えば卒業式くらいだ。
 光太は悩んでいた。
 自分たちがいなくなったら誰が天音の暴走を止める?
 僕と翼がいなくなったらバランスが崩れるのではないか?
 実際、喜一達はそれを狙っているように思えた。

「そんな話今からしてもしょうがないよ、皆で楽しもう?」

 指原蘭華さんがいう。

「それもそうだな、天気もいいし遠足を楽しむか」

 光太も思考を切り替えたらしい。
 そして目的地に着いた。
 今年は皆ちゃんと揃った。
 自由行動がつげられると適当に場所を取って弁当を広げる。
 僕の弁当は美希が作ってくれる。
 美味しくいただく。

「美味しい?」

 美希が聞いてくる。
 何もいわずただうなずいてにこりと笑った。
 美希はは嬉しそうだ。
 お弁当を食べると皆でお菓子の交換をしながら楽しむ。
 何事もなく平穏に自由時間を満喫していた。

(2)

 弁当を開いた。
 おかずは普通だった。
 ただおにぎりがいびつな形をしていた。
 理由は何となくわかった。
 妹の茜の顔を見ると一目瞭然だった。
 迷うことなくおにぎりから食べる。

「どう?」

 茜が聞いてきた。

「美味しいよ」
「よかった。私が作ったの」

 だと思ったよ。

「いいな、茜ちゃんは。純也君にお弁当作ってあげられて」

 俺の彼女の石原梨々香は羨ましそうにしてる。

「梨々香は自分でお弁当つくるの?」
「いや、母さんが作ってる」
「そうなんだ」
「来年は自分で作ってくるから」

 だから食べてみて。
 そういう意味なんだろう

「わかったよ」
「うん!」

 梨々香は嬉しそうに言っていた。
 しかし今日の男子は大人しい。
 どことなく緊張しているように思える。
 何かあったのだろうか?
 とりあえず太賀に聞いてみた。

「太賀、何かあったのか?いつもの太賀じゃないぞ」

 太賀はしばらく黙っていた。
 女子も様子がおかしいと思っていたらしい。
 太賀を見る。

「やっぱり、俺が先陣を切らないと駄目か……」

 何の先陣を切るんだ?
 太賀は立ち上がる。

「周さん!」

 太賀が呼ぶと周さんは驚いていた。

「どうしたの?桜木君」
「ずっと好きでした。付き合ってください!」

 太賀は叫んでいた。
 それは周りの一年にも聞こえていた。
 すると次に酒井半太が立ち上がる。

「僕も、綾乃さんが好きです。付き合ってください」

 周と綾乃は驚いていた。
 時と場合くらい選んだ方がいいんじゃないのか?
 2人ともSH内で次々とカップルが出来ていて取り残されることに焦りを感じたらしい。
 そして今日2人で玉砕しようと計画していたんだそうだ。
 2人ともいつもは負けん気の強い子だったけどやっぱりこういう場面には弱いらしい。
 どう対応したらいいか分からないでいた。
 俺達はお菓子を食べながら成り行きを見守っていた。
 周と綾乃がようやく返事を返そうとしたとき事態はさらに混乱する。
 周りは最初は静かに聞いていたがやがて冷やかしの声が聞こえてくる。
 そしてFGの一人が一言言った。

「ださっ!そのまま振られたらマジ笑えるんだけど」

 SHでそういうことを言うのは禁じられていた。
 小学生で告白するという事がどれだけ勇気がいる事か知っているから。
 断られたときの心の傷を子供ながらに想像してそれでも我慢できずに打ち明けるんだって事を知っているから。
 だから許せなかった。
 僕が立ち上がる。
 それを制したのは綾乃だった。
 綾乃はその男子に言う。

「人を好きになる覚悟も度胸も勇気もない奴が何を言ったって負け犬の遠吠えにしか聞こえねーんだよ!」
「誰が負け犬だって!?」
「お前に半太の何が分かる?どれだけ悩んで告白してくれたのかその苦しい思いがお前に分かるのか!?」
「だったら付き合えばいいじゃん!ついでにチューでもすれよ!」

 男子は2人を揶揄ってた。
 SHの皆は我慢の限界だった。
 しかし真っ先に行動に出たのは騒ぎを嗅ぎ付けた天音だった。

「なんだ?やっとFGがボロをだしたか?喜一連れてこい!あとスコップ!この場に埋めて帰ろうぜ!」

 5年生の遊と粋が喜一を引きずってくる。

「悪い天音、スコップは無かった。穴掘るのも面倒だし橋からポイ捨てして帰ろうぜ」
「それもそうだな」
「お、お前らSHに手を出すなって言っただろ!」

 喜一も必死だ。
 自分の命がかかってるから説得も必死だった。
 とりあえず1年が土下座して事なきを得た。

「お前も自分のグループの管理くらいきっちりしとけ!」

 天音達はそう言って帰って言った。
 憐れなのは太賀達だ。
 FGの騒ぎによって自分たちの告白が台無しになった。
 当然落ち込む。
 龍子が泣き出すところなんて誰が想像しただろうか?
 だけどSHの皆は分かっていたようだ。 
 分かっていたからその場で返事した。

「いいよ、よろしくお願いします」

 2人は歓喜した。
 泣いて喜んでいた。
 自由行動の時間が終わった。
 俺達は片づけて集合する。
 集合が終ると帰り始める。
 新たな2組のカップルは恥ずかしがることなく堂々と手をつないで帰っていた。
 また、新たな旅が始まるようだ。

(3)

 週末に私達は九重の夢大吊橋に出かけた。
 遠坂家と片桐家の二組に車を分けて出かけた。
 季節は紅葉真っただ中でとても綺麗な九酔渓を駆けのぼる。
 大吊橋に着くと空と翼と天音はお父さんといっしょに売店に行く。

「あの4人はいいから橋渡ろうか?」

 愛莉がそう言うから私達は橋を渡った。
 綺麗な二つの滝と紅葉。
 それは綺麗なんだけど、怖い。

「りえちゃん、ワイヤー切れないかな?」
「ずっとあるんだから大丈夫よ~。心配いらないわ~」

 純也は景色を見ることなくひたすらスマホを弄っている。
 きっと梨々香ちゃんとメッセージをやりとりしてるんだろう。
 偶に、写真をとっていた。
 多分メッセージで送信するんだろう。
 寂しくもあり羨ましくもある。
 橋を渡ってまた引き返すとソフトクリームを食べてる4人。

「茜ちゃん達も欲しい?」

 りえちゃんが聞くと私はうなずいた。
 りえちゃんはソフトクリームを買ってくれた。
 久住にあるレストランで食事をして帰るらしい。
 4人はよく食べられるな。
 太らないのが不思議だ。
 昼食を済ませると家に帰る。
 私は車の中で眠っていた。
 家に着くと起こしてもらえた。
 部屋でも純也はゲームをせずにずっとスマホを弄っていた。
 私はいつものメンバーでチャットをしていた。
 メンバーは大体が私の何倍も歳を取ってる人達。
 そんな人たちに質問をしていた。

「恋って楽しい?」
「楽しいばかりじゃないよ?辛いときもある。難しい感情だ」
「辛いのに恋をするの?」
「理屈じゃないんだ。その人の事しか考えられなくなる良くも悪くもね」

 よく分からない。

「スカーレットはまだそんなに慌てて知る必要はないよ。突然おとずれるものだから、気長に待てばいい」

 なるほど……。
 私はチャットをやめると純也に聞いていた。

「そんなに夢中になる物なの?恋って」
「どうだろうな。俺自身まだよくわかってないかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「スマホを常に手離せなくなるくらいはなるかな?そばにないと不安になる」

 ふ~ん。
 今の私ではまだ当分理解できそうにない感情の様だ。
 だけどいつか必ずおとずれると聞いた。
 その時を楽しみにしていた。

(4)

 なずなと遊の家に遊びに来ていた。
 なずなは遊と、私は恋と遊んでいた。
 もっとも恋の相手をして学が勉強する時間を作ってやっているだけだったが。
 しかしそんな必要もないようだ。
 恋のスマホに頻繁に来るメッセージ。
 多分恋人の大原要だろう。
 恋の相手は要に任せて私は学の部屋に行く。
 だけど学の邪魔をするわけにはいかない。
 学の部屋にある漫画を読んでいた。
 探偵ものの漫画が多かった。
 毎年アニメ映画になるやつもあった。
 韓紅の恋文だっけ。
 恋か。
 恋ってなんだろうな?
 そんな事を考えていた。
 いつの日だって学の言葉を忘れない。
 会いたいときに会えないのが切なくてもどかしい。
 から紅に染まる橋。
 導かれる日を願って川の流れに祈りを込める。
 いつも心は学のそばに。
 あなたは覚えていますか?
 会いたいときに会えないからこの胸を焦がすの。
 から紅に水くくる時、あなたとの想いつなげて川の流れに祈りを込める。
 いつでも学を探してる。
 学となら不安さえどんな時でも消えていくよ。
 いつになったら優しく抱きしめられるのかな?
 から紅の紅葉達さえ熱い思いを告げてはゆらり揺れて歌っている。
 いつもいつまでも……

「すまん、待たせたな」
「気にするな、今さらどうってことないよ」
「もっと水奈に構ってやれたらと思うんだが」
「十分構ってくれてるさ」
「それならいいんだが……」

 それから少しの間だけ学と話をして17時にはなずなと家を出た。
 送りは良いって言った。これから夕食の仕度とかあるだろうし。
 なずなと帰りに話していた。

「なずな、恋ってなんだろうな?」
「どうしたの突然?」
「なんとなく思ってな」

 色なき風に色づくから紅の色。

「そうね、誰かに聞いたんだけど」
「うん?」
「恋は下心。愛は真心」

 恋は下心か。
 下心と分かっていても落ちてしまうもの。
 じゃあ、愛ってなんだろう?

「じゃ、私こっちだから」
「ああ、また学校でな」

 なずなと別れる。
 信じる事。必ず最後に愛が勝つから。
 謎は増える一方だ。
 大人になれば分かるんだろうか?
 母さんたちは知っているのだろうか?
 愛はきっと奪うでも与えるでもなくて気が付けばそこにある物。
 いつか気が付く時が来るのだろうか?
 恋に落ちたと唄いながら恋の正体を知らずに。
 愛を唄いながら愛の行方を知らずに。
 私達は流れていくのだろう。
 色なき風の行方のように。
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