姉妹チート

和希

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聞こえる軌跡

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(1)

「じゃあ、皆で楽しく年を越そう乾杯」

 渡辺さんがそう言うとパーティが始まった。
 今夜もお偉いさんが沢山押しかけてくる。
 パーティドレスに身を包んだ美希は挨拶に来る賓客に対応している。
 ステージでは芸能事務所「USE」の所属タレントのライブが行われている。
 USEの社長は美希のお父さん。
 USEのタレントは東京支社に所属するタレントを除けば全員が地元出身だ。
 歓声を上げるのは中島さんや学のお父さん。天のお父さんもテンションをあげている。
 大体の挨拶に来た客が口をそろえて言うのは。

「酒井家のご子息と片桐家のご令嬢が縁組となれば地元では敵なしですな」

 まだ小学5年生なのに何を期待しているんだい?
 これから先結婚まであと何年あると思ってるんだい?
 その間に破局等は考えたことはないのかい?
 考えたくもないけど。
 片桐家ともめ事になったとすればそれこそ地元経済に大混乱を起こしかねない事態になる。
 経済だけで収まればいい。
 下手すれば血で血笑う泥沼の抗争になりかねない。
 齢10歳にしてそんな重荷を背負わされることになるとはね。
 しかし大人って肩書にどうしてこうも弱いのだろう?
 石原家も酒井家も地元経済だけにとどまらず今や世界を手中に収める大企業に発展している。
 その跡取り息子と言うだけで年が50も60も離れた大の大人が頭を下げるのかい?
 複雑な心境だ。
 もっとも石原家や酒井家だけにとどまらず父さん達の作ったグループ”渡辺班”は地元の政経両分野に置いて力を振るっていた。
 裏社会でも実権をにぎっているらしい。
 県外からの良からぬ権力を弾き返すほどの力を誇る渡辺班。
 一体何をやってきたのやら。
 もっとも地元経済など母さんにしてみれば大したものではないらしい。
 母さんの機嫌一つで傾く企業を何件も見てきた。
 ポストに入れられる脅迫文など毎朝朝刊のように届いてくる。
 その為、酒井家の子供は男女問わず徹底的に訓練を受ける。
 繭でさえ、誘拐犯を返り討ちにするくらいの実力はある。
 石原家の子供も皆訓練を受けている。
 挨拶が一段落したところでソフトドリンクを取りに行く。
 グレープフルーツジュースを二つ取って戻ると翼が待っていた。

「お疲れ様、喉渇いていると思って取ってきました」
 
 そう言ってジュースを渡す。

「ありがとう」

 翼はそう言ってジュースを受け取る。
 翼はジュースを一口飲むと一息つく。

「同年代の子女性が多いね」
「確かにそうだね」
「私よりいい人いた?」

 偶にこういう意地の悪い質問をしてくる。
 そういう仲になれたという事なのだろう。

「その質問に答えると何か変わるのかい?」
「え?」
「良い人なのかそうでないのかなんて一目見ただけで分かるわけありません。それに僕は今翼と言う恋人がいる事実は覆らない」

 良い人がいようといまいと好きになったのは翼なのだから。

「そこは嘘でもいないって答えるべきじゃない?」
「僕が今好きなのは翼だよって意味で伝えたのですが」
「うん、その返事に免じて許す」

 翼はそう言って笑っていた。
 その後渡辺班について話し合っていた。
 どれだけ大きな組織なのだろう?
 そんな話をしていた。

「善明、もう22時を回ったわ。あなた達は先に帰りなさい。お母さんたちは二次会行くから」

 母さんがいう。
 送迎の車で翼を家に送る。

「じゃ、また明日」
「また明日」

 そう言って僕も家に帰る。
 家には繭と祈が先に帰っていた。

「父さん達徹夜だってさ。兄貴も風呂入ったら一緒にテレビ観ようぜ」

 祈が言うと僕は風呂に入ってリビングに行く。
 毎年恒例の番組で終盤に差し掛かりあまり面白くない状態だった。
 3人いて3人ともスマホを弄っている。
 番組が終わって年越しの番組が始まる。
 そして年を越す。

「あけましておめでとうございます」

 挨拶を交わすと3人とも眠いのかテレビを消して自室に帰る。
 ちゃんと翼にも新年のあいさつを伝えた。

「今年もよろしく」

 そう返事が返って来てた。
 あと何度同じ挨拶を繰り返す事が出来るだろう?
 まだ僕は子供だ。
 子供だからこそ子供の特権を使わせてもらおう。

 永遠に。

 未来に希望を抱きながら、永遠を夢見ながら僕は眠りについた。

(2)

 大地に招待されて渡辺班のパーティに出席した。
 パパや愛莉も呼ばれていたけど断っていた。
 愛莉は冬吾や冬莉の世話があるから。
 大地は側に居るけど色んな人から声をかけられて大変そうだ。
 邪魔にならないようにしていた。

「彼女が、大地君と交際している人?」
「はい、片桐天音さんです」

 偶にこんな風に話を振られる。
 食事の邪魔をすることは何人たりとも許されない。
 片桐家のルールだ。

「天音、こちら防衛大臣の方だよ」

 大地が紹介してくれた。
 テレビで見たことある顔だ。
 偉い人だって事くらいは分かる。
 大地の父・石原望が経営する会社「ETC」は次世代戦闘機のステルス塗料の販売もしているらしい。
 それで防衛相のトップが挨拶に来るわけだ。
 私の立場も小学生ながらに理解しているつもりだ。
 大地の将来の妻になるかもしれない。
 そんな夢も見た。
 しかし今は食事が優先だ。
 爺の相手をしている時間などない。
 そんな態度の私を見て慌てる大地。

「君、このお方は日本の国防を担ってる大臣だよ。その態度は失礼じゃないか?」

 防衛大臣の秘書がそう言った。

「す、すいません。まだ彼女こういう場に慣れてなくて」

 大地が変わって謝る。

「まあ、まだ子供だ。難しい話はわからんよ」

 カチン。
 一々癇に障る爺だ。
し ょうがない。貴重な時間を使って相手してやろうじゃねーか。

「申し訳ありません。子供だから話がよく分かりませんでした」

 私はにこりと笑う。

「いいんだよ。気にしてないから」
「分からないついでに少々質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「中華系マフィアの入国は許しても在日米軍の受け入れを拒否するのはなぜですか?」

 大地が頭を抱える。
 私の質問はまだ続く。

「教職員の児童わいせつにはうるさく言わないのに在日米軍の強姦をしきりに取り上げるのはなぜですか?」
「き、君何を言ってるんだ。ここはそういう場ではないよ」

 狼狽える防衛大臣に替わって秘書が回答する。
 まともな回答など期待してなかった。
 国会の質疑応答は円滑に進めるためにあらかじめ質問を決めておいて、閣僚に提出してそれを官僚が見て回答を作っておくらしい。
 その事に疑問は抱かなかった。
 事務レベルの仕事など官僚に任せてその仕事の責任を取るのが政治家の仕事だと理解している。
 官僚任せの政治のどこが悪い?
 現に野党が政権を握った時「政治家が政治をする」とかほざいた挙句、日本国憲法についての質問すら答えられずに狼狽えている法務大臣が昔いたそうだ。
 その政権のトップは「無能」「変人」「ぼけ老人」と揶揄され短い政権時代に日本の政治経済外交に大きな負債を背負わせた。
 ろくに仕事ができないなら、役人に任せてハンコだけ押して責任だけ取ってもらった方がはるかに能率が良い。
 そんなことはどうでもいい。
 私の貴重な食事の時間を割いたこいつらに悪戯してやったまでだ。
 何も言わない防衛大臣に代わって言ったのは大地の母さんだった。

「天音ちゃん。おばさんに免じて許してあげないかな?どうやらレディに対する扱いに慣れてないみたい」
「わかりました」

 素直に引き下がって食事に戻る。
 大地の母さんが一言何か言うと防衛大臣は立ち去って行った。

「大地!見てたわよ!あなた何やってんの!?自分の恋人も庇えない弱虫だったの!?」
「恵美、相手が相手だ。大地にはまだ難しいよ」

 大地の父さんが来た。

「”彼女今ちょっと取り込み中なので”の一言くらいしっかり言いなさい!」
「……ごめんなさい」

 大地は謝る。

「恵美、取引先の社長が挨拶に来てる。行こう」
「わかったわ。まったく彼女のエスコートくらいしっかりなさい!」

 そう言って大地の両親はその場を後にした。

「天音、ごめん」
「気にするな、ちょっとイラッと来ただけだ」

 その後は大地がちゃんと私の食事の時間を確保してくれた。
 そして最後のデザートを食べ終わる頃パーティが終る。
 2次会は時間的に私達の年齢だとまずいので家に帰る。
 送迎の車に大地と乗ると車は私の家に向かった。

「今日はごめん……」

 大地がまだひきずってる。
 いつもの悪い癖だ。

「大地、前から思っていたんだけどお前は私といて楽しいか?」
「え?」
「そんな過ぎたことをぐちぐち言われても私は楽しくないぞ」
「ごめん」
「それだよ!」

 私は大地の顔を見る。

「意味もなく謝るの止めろ。悪いのはあの爺だ。お前じゃない。それに私はお前のおかげで美味しいディナーにありつけた。それでいいじゃねーか」
「天音がそれでいいなら……」
「私がそれでいいならじゃない。そもそも大地はなんで私を招待したんだ?」
「……天音に楽しんでもらえたらって」
「なら私は食事を楽しむことが出来た。大地は目的を果たす事が出来たじゃないか?もっとわかりやすい礼が必要か?」
「礼?」

 私は大地に口づけをする。
 そしてにこりと笑う。

「これなら大地でもわかるだろ?私の気持ち」
「うん」
「だったらしけた面すんな」
「そうだね」

 そして私の家に着くと私は車を降りる。

「じゃ、またな。おやすみ」
「今日はありがとう。また」

 大地がそう言うと車は走って行った。
 家に帰ると服を着替えて風呂に入る。
 私が風呂から上がる頃お祖母さんが年越しそばを作ってくれた。
 それを食べて新しい家族の一員も混ざって年を越す。

「明けましておめでとう」

 家族と挨拶をするとスマホで皆にメッセージを送る。

「今年も宜しくお願いします」

 大地から来たメッセージ。
 あと何回同じメッセージを受け取るのだろう?
 その間にどんな変化が待っているのだろう?
 変わっていく心と体と環境の中で変わらない想い。
 来年もまた同じ言葉が言えますように
 私は眠りについた。

(3)

「水奈、そろそろ時間じゃないのか?」

 母さんが言う。
 今日は学達と初詣に行く日。
 誠司としばしの別れを惜しみつつ私は家を出る。
 学の家に着くと呼び鈴を押す。
 学が出る。

「あけましておめでとう。なずなが来るらしいんでちょっと上がって待っててくれ」

 そういや、遊の奴なずなと付き合いだしたって言ってたな。
 家に上がると遊と恋がいる。

「おばさんは?」
「ああ、朝帰ってきて今寝てる」

 学が答えた。
 恋がやってくる。
 恋の相手をしてると呼び鈴の音がした。
 なずなが来た。

「あ、そっか。水奈もいるんだ」
「いちゃ悪かったか?」
「そんなわけないじゃん!男子の家に来るなんて初めてだから緊張してたんだよね」
「……経験者として言わせてもらう。遊に限ってなずなが想定してる事態にはならない」
「あ、水奈。学君とはまだなんだ?」
「一応準備はしてるんだけどな」
「何を話してたんだ?」

 学達の準備が済んだらしい。

「女子同志の話だよ」
「そうか、じゃあそろそろいこうか」

 学が言うと。私達は神社に向かった。
 徒歩で30分以上かかる。
 自転車?
 恋がいるのに無理だろ。
 遊となずなは二人で楽しそうに歩いている。
 私と学は恋と手をつないで後ろを歩いていた。

「なずなはよく来るのか?」
「いや、今日が初めてだ」
「そうか」

 なずなもそう言っていたな。

「善明から聞いたんだが冬休み明けたらまた転校生がくるらしい」

 学が言った。

「何年生?」
「5年生と3年生と2年生。善明や美希の親戚って言ってた」
「また渡辺班つながり?」
「いや、そういうわけではないらしい。ただの親戚だって言ってた」
「そうか……」

 何事も無ければいいけどな。
 神社に着くとお参りをしておみくじ買って帰る。
 家に帰るとおばさんを起こさないように静かにテレビを見てた。
 そして家に帰る。
 途中までなずなと家に帰った。

「あとちょっとで5年生か」

 なずなが言う。

「色々あったよね」
「そうだな」
「自分でいうのもなんだけど遊と付き合うなんて思ってもみなかった」
「どうして?」
「だって子供っぽいとこあるじゃん。あり得ないって思ってた」
「じゃあ、なぜ?」
「私の為に我慢して傷だらけになってる男子見たらころっといっちゃうでしょ?」

 確かにそうかもな。
 人間何がきっかけでどういう関係になるか分からない。
 巡り逢えた二人。
 探し合えた二人。
 空に咲いた、君の命火。
 弾けるままに閃くままに心を撃ちぬいた。
 見せかけの強さよりも、名ばかりの絆じゃなくて、同じ時を一緒に生き抜いてく覚悟をして。
 同じ時間は二度と来ない。
 だから感じるままに信じるままに跳んでいけ。

「じゃ、また学校でね」
「ああ、またな」

 なずなと別れると家に向かう。

「おかえり」

 母さんが言う。

「晩飯ちょっと待っててな」

 それはいいんだけど……。

「何で母さん私の部屋で乳やってるんだ?」
「ああ、それはな……」
「神奈!一枚だけでいいから!」
「ふざけんな!ここは水奈の部屋だからな!絶対入ってくるな!」

 授乳してる写真を馬鹿が撮ろうとしてるらしい。
 本当にくそ野郎だな。
 誠司が父親に似ないことを心から願った。
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