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空に咲く花
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(1)
「空、朝だよ~」
「おはよう翼」
今日は花火大会の日。
翼の協力もあって無事宿題も終わり、お互いにだらけた生活をしていた。
「せめて市民プール行くとかしてきなさいな」
母さんに言われて行ってみたりしたけど。
ラジオ体操に行って帰ってくると朝食が待っている。
朝食を食べると部屋に帰ってゲームをしたり漫画を読んだり。
ダラダラ生活を続けていると翼が部屋に入ってくる。
翼は意外とまじめだ。
天音は今日はいない。
昨日から大地の家に泊まりに行ってる。
張り切っているようだった。
色んな意味で。
午前中時間を潰すと昼ごはんが待っている。
おばあさんがご飯を作ってくれる。
「今日は2人ともでかけないの?」
母さんが聞いてきた。
「うん、今日は花火大会あるし、酒井君達と行くからそれまでのんびりしてる」
翼が答える。
天音は大地と一緒に行くらしい。
美希も僕達と一緒に観に行くそうだ。
水奈は留守番。
学が家の事で忙しいから。
僕達が誘ってみたんだけど遠慮したみたいだ。
今更遠慮しなくてもいいのに。
午後はリビングで父さん達とテレビを見ていた。
この時間はワイドショーとかであまり興味はなかった。
父さんは母さんと話をしながら見ている。
翼も女の子。
やはりお目当てのアイドルの熱愛報道発覚とかは気になるらしい。
3時ごろになると部屋に戻る。着替えてリビングに行くと父さんも仕度を終えて待っている。
翼も仕度を終えて降りてきた。
母さんに手伝ってもらったらしい。
水色にピンクの花柄の浴衣を着ていた。
髪の毛も上でお団子にしてまとめ上げていた。
時間になってやってきた善明が褒めると翼は嬉しそうだった。
美希は浴衣ではなかった。
「じゃあ、愛莉行ってくる」
父さんがそう言う。
母さんはお留守番。
あまり人混みとか入りたくないらしい。
「気を付けてね」
母さんに見送られて僕達は街に向かう。
父さんは街の中の駐車場に止めると商店街を散策する。
商店街は短冊とかが飾れていた。
そのお願い事を見ては美希と二人で楽しんでいる。
「あれ?空たちじゃん!」
会ったのは光太と麗華さん。
翼も知らなかったようだ。
困惑している。
2人は付き合っているのか聞いていた。
「そうだよ、変かな?」
麗華さんがそう言った。
「別に変じゃないけど意外だなって」
僕は光太に聞いていた。
「光太卒業まで待つんじゃなかったのか?」
一学期にスカートめくりが流行った時に麗華さんにそれをしたとき光太がキレて相手をボコボコにした事件があった。
それがきっかけだったらしい。
それでも光太は卒業式まで待つはずだった。
だけど学にも彼女が出来て焦ったらしい。
待っても待たなくても確率は2分の1。
だったら当たって砕けろと個人チャットを送ったところ「いいよ」と返事をもらえたらしい。
夏休みが始まってから、二人で図書館に行って勉強したり映画を観たりしていたそうだ。
ちなみにキスはもう経験済み。
「よかったじゃん」
「ああ、夢みたいだぜ」
翼と美希も麗華と話をしてはキャッキャと騒いでる。
はしゃいでる麗華さんを見てるのは初めてだった。
今まで何にでも興味を示さなかったから。
「じゃ、俺達飯食ってくるから」
光太がそう言うと二人は消えて行った。
「意外だったね」
美希は本当に驚いているようだった。
これで5年生はみんな彼女もちか。
そんな話をしながら、父さんに説明しながら夕食を食べると花火大会の会場に向かう。
「父さん場所取っておくから夜店でも見ておいで」
父さんがそう言うと二人で夜店を回る。
イカ焼きたこ焼き箸巻き焼きそばかき氷。
あとラムネか。
抱えきれないくらい買って戻る。
父さんにラムネを渡してそれを食べながら花火を見る。
翼と二人で見る花火は綺麗だった。
そして周りで見ているカップルが羨ましかった。
それは美希もいっしょだったみたいだった。
「いつか二人で来ようね」
美希がそう囁く。
返事をすると翼は僕を見て微笑む。
その瞬間は生涯忘れない。
花火が終るとみんな散らばっていく。
父さんの背中を追いかけながら、美希と手をつないで歩いて行った。
(2)
朝目が覚めると僕は驚いていた。
僕は裸でそんな僕に同じく裸で抱きついてる天音。
眠気なんて一瞬で飛んだ。
落ち着け、僕だってまだ小学校4年生。
いくらなんでもそれはない。
しかし今恋愛映画にありがちなワンシーンに直面している。
記憶を辿る。
思い出した。
そろそろ寝ようかといった時躊躇いもなく僕のベッドに侵入してくる天音。
天音は悩んでいる。
どうしたんだろう?
「電気消して。流石にいきなりは恥ずかしい」
言ってる意味が分からないけどどうせ寝るんだ。
リモコンで照明を落とす。
すると天音は驚くべき行動に出た。
服を脱ぎだしたんだ。
僕は慌てて天音を止める。
天音は落ち込む。
「やっぱり私は子供か?」
そう言う問題じゃないと思うんだけど。
このままにして置いたら母さんに何言われるか分からない。
「子供なのになにやってるの!」じゃない。
「あなた女の子に恥かかせてどういうつもり!」だ。
そういうところは酒井君の母親と変わらない。
何か声をかけてやらないとこの雰囲気は変わらない。
頭をフル回転させて考えてみる。
答えはいつだって単純。
「そんなことないよ、綺麗だよ」
たった一言で天音の機嫌は変わる。
「よかった、ちょっと恥ずかしかっただよな。下着もお子様だし」
そういう基準なのか?
まあ、いい。これでゆっくり眠れる。
母さんも何かあるのを期待していたみたいだし、いきなり部屋に入ってくることは無いだろう。
朝になったら服を着せればいい。
そう思っていた。
だけど、天音はとんでもないことを言い出した。
「次は大地の番だぜ、私だけ恥ずかしい思いさせてそのまま寝るってことは無いよな」
恥ずかしい思いをさせてって言葉にはちょっと異議があったけどそんな事よりどう断るかが問題だ。
けれど、天音はそんな時間を与えてくれなかった。
無理矢理服をはぎ取ろうとする天音。
あまり騒いだらさすがに親が来る。
素直に脱いだ。
それを見て天音は笑った。
「大地もやっぱりまだお子様だな。今度私は下着選んでやるよ」
そう言って笑っている。
そして天音はしばらく思案して僕に抱きついてくる。
僕はドキドキしていた。
しかし天音は僕の反応に不満だったようだ。
「私魅力ないか?こう見えて精一杯お前を誘惑してるつもりなんだぞ」
言葉の意味が分からなかった。
僕の心臓の鼓動は天音には伝わっていないのだろか?
「ここは黙って彼女の下着を取るとかやることあるだろう!?」
天音のやる事は一つ一つが過激だ。
ちなみに天音の裸は風呂場で見ている。本当に一緒に風呂に入る羽目になるとは思わなかった。
このままでは眠れそうにない。
天音に愛想尽かされるかもしれない。
悩んだ挙句一つの妥協点を見つけた。
このまま天音の言う通りにしていたら、本当に最後まで行きかねない。
「ごめん、僕はまだお子様だ。今の天音をどう扱っていいか分からない。だから僕から要求していい?」
「その言葉を待ってたんだ!お前も男になる決意がついたか!」
天音は喜んでいる。後は僕の要求を聞き入れてくれるかどうか。
「今から天音の下着を取るよ、僕も自分の下着を脱ぐ。お互い全裸だ」
天音は黙ってうなずいた。ほのかに顔を赤らめているようだ。恥ずかしいなら最初からやらなきゃいいのに。
「お互い全裸で抱き合って寝る。今の僕に出来る最大限の事だ。それで許して欲しい」
「……分かった」
天音はそう言うと目を閉じる。
僕は緊張して天音の下着を取る。
そして僕も脱ぐと天音は僕に抱き着いた。
「不思議だな。空とはよくやっていたけど。なんか気分が変だ。こんな気持ち初めて」
天音は緊張してるようだった。
それは僕も同じだった。
お互いのぬくもりを感じながら眠りについた。
そして今に至る。
とりあえず天音を起こすところからだな。
「おはよう、天音。朝だよ。起きて」
そう言って体を揺すると天音は目をこすりながら目を覚ます。
そして僕と同じように記憶を辿っている。
違ったのはその後の行動。
「おはよう大地」
そう言って僕にキスをする。
そして服を着る。
僕も服を着た。
天音は服を着ると何か考えている。
どうしたんだ?また何か企んでいる。
しかし天音も一人の女の子だったようだ。
「昨夜やったことは空にもしたことないことだからな。安心しろ」
多分翼もそこまでは行ってないはずだと天音は言う。
天音を突き動かすのは翼への対抗意識なんだろうか?
「……幻滅したか。私の事軽い女だと思ったか?」
小学校4年生の発言じゃないと思ったよ。
「そんな事思ってないから安心して。天音の初めてが僕で光栄に思うよ」
最適解を選んだつもりだった。
「そうか……なら良かった」
正解だったようだ。
母さんがドアをノックする。
「ご飯できてるわよ」
母さんが言う。
僕達は部屋を出た。
5人で食事をする。
お姉さんはこのあと空の家に行くらしい。
父さんのスマホが鳴った。
父さんが電話に出る。
父さんは芸能事務所と貿易会社の社長をしている。
休日も休んでいられないほど忙しい。
今日も急な仕事が出来たようだ。
取引先の会社と契約書の内容でトラブルが発生したらしい。
今日中に書き換えるからサインが欲しいとのこと。
母さんに説明してる。
だから僕達の面倒は母さんに任せたいと。
母さんの理屈では家庭が最優先。
その家庭の団欒を壊すような無能など潰してしまえ。
大体そう言う流れだ。
だけど今日の母さんは違った。
「ま、いいわ。望は仕事に専念してて」
父さんは胸をなでおろす。
「父親は仕事をこなす役割。私は子供の世話をする役割……大地の教育をするわ」
父さんは何も言わない。
今何か反論したらとんでもないことになる。
父さんは危険を察知する能力はずば抜けている。
「そうと決まれば善は急げよ。大地。ご飯を食べ終わったら仕度をなさい。出かけるわよ」
「花火は夜だよ?」
まだ早すぎる。
「そんな事分かってる。あなた夜まで天音ちゃんを退屈させるつもりなの?」
母さんは偶に正論を言う。
強引な時もあるけど。
「そうね、あなた映画で失敗したって言ったわね。汚名返上の機会を与えてあげる。天音ちゃん、どんな映画が好きなの?」
「そうですね……今やってる奴だとアニメかな」
「だ、そうよ。午前中は映画を観なさい」
そう言いがなら母さんはスマホを操作して映画の上映時間を確認してる。
「よかった、駅ビルでもやってるみたい。今から準備すれば十分間に合う。急ぎなさい」
チケットの予約をしながら母さんは言う。
僕は天音と支度をする。
とりあえず、服を着替えようとすると天音が待ったをかけた。
「一度やってみたかったんだよな!」
天音のやりたかったこと。
それは彼氏の服を選ぶこと。
天音は僕のクローゼットを探って服を選んでいる。
「空君の服は選んだこと無いの?」
「空は翼がいるから。悔しいけどあの二人心が通じてるからどうしても敵わないんだよ」
そう言いながら僕の服をコーディネートしていく。
僕は天音の好みの男になれたんだろうか?
天音の言われるがままに服を着た僕を見て納得したようだ。
「今日、映画見終わったら午後暇だろ?服選んでやるよ」
天音が言った。
新條さんの運転で駅ビルに着くと母さんは買い物してるから二人で見てきなさいと言う。
「そうね、夕食は早めに済ませたいから17時にここに集合で。大地、お金は持ってるわね?買い物はカードを使いなさい」
母さんがそう言うと僕達は映画館に向かった。
そしてチケットを受け取り劇場に入る。
天音はホットドッグを食べてジュースを飲みながらポップコーンに手を付けている。
映画が始まった。
映画の内容より天音の反応が気になった。
今日は天音はちゃんと映画を観ている。
映画が終わると昼食をとることに。
「何か食べたいのある?」
天音に聞いていた。
「3階のフードコート行こうぜ!」
「そんなのでいいの?」
「色々食えるじゃん!」
実際に色々食べてた。
ラーメン、カツ丼、ステーキ、ハンバーガー、たこ焼き……。
こんな小さな体のどこに吸収されているんだろう?
「おっぱいになればいいんだけどな!」
天音は笑って言う。
そのあと天音は言っていた通り僕の服を選んでいた。
女子の買い物は時間がかかる。
天音も女の子だった。
時間をかけていくつかの服を買った。
「次はお前の番だぞ」
へ?
「大地はどんな女子が好みなんだ?」
天音は僕の好みの服を買うらしい。
あまり服に関心がない僕には難題だった。
天音に似合いそうな服をイメージしながら色々見て回る。
思ったより時間がかかる。
少なくとも自分の服を選ぶより時間がかかる。
イライラしてないだろうか?
杞憂だったようだ。天音はニコニコしている。
そして見つけた。
「これなんてどうかな?」
「……うん、やっぱりそうなるよな!分かったちょっと買ってくる」
「あ、僕が払うよ」
「気にするな。パパから小遣いはもらってるから」
そう言ってサイズを確認してレジに向かった。
「なんか楽しいな。こういうのも」
そう言って天音は笑っていた。
時間も良い頃合いだ。
僕達は母さんと待ち合わせする。
母さんは僕達を夕食に連れて行ってくれた。
まだ僕達には早すぎるお洒落な店。
天音でも雰囲気を気にするらしい。
急に大人しくしてた。
そんな天音に母さんは優しく声をかける。
「今日はどうだった?」
「楽しかったです」
天音は一言そう言って今日あったことを残さず話した。
母さんはにこにことそれを聞いていた。
天音は本当に嬉しかったんだな。
僕もホッとした。
夕食を食べ終わると会場に向かう。
その人混みに母さんはイライラしてた。
僕は天音とはぐれないように手をつないでた。
それが恥ずかしかったのだろうか?
天音は落ち込んでた。
「どうしたの?」
「いや、私も浴衣で来ればよかったかなって」
「来年の楽しみに取っておくよ」
「そうだな!」
天音に笑顔が戻った。
天音と花火を見る。
空に咲く花。
パッと咲いて静かに消える。
空に消えていく打ち上げ花火。
また来年も……。
来年の今頃どうなっているんだろう?
隣に君はいてくれるんだろうか?
何の保証もない未来。
だけど考えるだけ無駄だったようだ。
花火が終ると。新條さんに迎えに来るように言う。
その時天音はそっと僕に囁いた。
「また来年も来ような」
保証はされてないけど約束はかわした。
天音を家に送る。
「またメッセージ送る!」
そう言って天音は家に帰っていった。
家に帰ると風呂に入って部屋に戻る。
メッセージが届いていた。
「楽しかった。今度は家に遊びに来い!」
返事をするとまたメッセージが届く。
いつの間にか眠っていた。
そして目を覚ますと最後のメッセージを見る。
「寝やがったな!罰ゲームだ!今度は私の下着を選べ!」
一瞬で目を覚ます。
時計は8時を回っていた。
スマホが鳴る。
電話に出る。
天音はいつも僕をドキドキさせてくれる。
「おはようだーりん」
ダーリン!?
なんと返事したらわからなかった。
「おはよう」
「思ったより冷静だな。まあいいや。一回やってみたかったんだよな。ラブコール」
なるほどね。
「よく眠れたか」
「ごめん、気が付いたら寝てた」
「まあしょうがねーよ、気にするな。それより罰ゲームいつする?」
執行は免れないらしい。
「でも流石にどんなのが好みなのか分からないよ」
「お前の好みでいいんだよ。とっておきの日に穿いてやるから」
好みって言われても。
「あ、翼戻ってきた!またメッセージ送る。じゃあな!」
唐突にかかってきて唐突に切られた。
天の音はいつも突然で。一方的に約束を交わしていく。
でもそうやって幾つもの約束を重ねて未来を作っていくのだろう。
そのゴールがどこにあるのかわからないまま。
(3)
「じゃあ、母さん行ってくる」
「気をつけてね。まだ孫はいらないから」
無茶苦茶な理論を展開する母さん。
空はそんな真似しないよ。
空の家に行くと酒井君達も来ていた。
「迎えに行けなくてごめんね」
空が申し訳なさそうに謝る。
翼の準備で忙しかったらしい。
そんな翼の浴衣姿を酒井君が褒めている。
私も浴衣にするべきだっただろうか?
街までは空の父さんが送ってくれた。
まだ私達だけでバスに乗るのは早いと判断したらしい。
夜も遅くなるし。
街に着くと商店街を見て回る。
光太と麗華に出会った。
2人も付き合い始めたそうだ。
翼は光太の気持ちに気付いていたそうだけど。
光太達が夕食に行くと私達も夕食を食べて会場に向かった。
その間ずっと空は手を繋いでくれた。
もう抵抗はないらしい。
確かに今更な気がする。
花火が始まると2人で静かにそれを見ていた。
翼と酒井君も同じように二人で見ている。
「今度は二人で見に行こうね」
そんな風に空に囁くと空は笑顔で答えてくれる。
帰りは空の父さんが送ってくれた。
「空を家に泊めてもいいのよ」
母さんが言うと空の父さんは慌てていた。
空の父さんでも母さんには敵わないらしい。
部屋に戻るとお風呂の準備をしてお風呂に入る。
部屋に戻ると髪を乾かしながら空と電話をする。
この夜がいつか終わっても明日の朝という楽しみが待っている。
朝と夜の狭間で私達は生き続ける。
(4)
昼ごはんを食べ終わって片づけが終わった頃、呼び鈴が鳴った。
俺はドアを開ける。
小さな彼女が一人買い物袋を手に持って立っていた。
「よお!」
その娘は俺の顔を見るとにこりと笑った。
「どうしたんだ?」
「予行演習だよ」
「予行演習?」
「事情は後で説明するから取りあえず家に入れてくれないか?アイスが溶けちまう」
「あ、ああ」
その娘を家に招くと冷蔵庫を開ける。
中味は特にない、これから買いに行こうと思っていたから。
「よかった、先に連絡した方がいいんじゃないかと思ったけどどうせ恋達の世話で日中は無理だろうと思ったから」
「……すまんな」
「気にするな!」
しかし何が良かったんだ?
そんな疑問を抱いたまま冷蔵庫と冷凍庫に買ってきた物をつめていく水奈。
その作業が終わるとペットボトルを俺に投げ渡す。
「とりあえず飲もう」
俺は水奈をリビングに案内する。
水奈は恋にもジュースを渡していた。
遊は粋となずなと花と街に行っている。
花火を観に行くらしい。
父さんは中島さん達と朝まで飲んでて今寝てる
ジュースを一口飲む。
「そろそろ事情を説明してくれないか?」
俺が言うとジュースを一気飲みした水奈が言った。
「学は今日恋の世話があるから花火に行けない。そうだな?」
「ああ」
「私は天音は大地とデートだしなずな達は遊と花火に行くって聞いた」
水奈がいくと5人になって一人あぶれる。
水奈には俺という「彼氏」がいる。だから4人に気を使った。
なるほどな……気配りした結果一人あぶれた。
しかしなぜそれがなぜ俺の家に来る理由になるんだ?
「今度、天音達がプールに行くとき私はこの家に泊まるって言っただろ?」
「ああ、それは聞いてる」
「泊ることは許されたんだ。だったら遊びに来るくらい何時でも大丈夫だろ?」
「まあ、そうだな」
「で、暇だから今日来た。ついでに晩飯作ってやろうと思って食材買ってきた」
用が済んだから今日は帰るから。水奈はそう言う。
「じゃあ、恋の相手は私に任せて学は宿題しろよ。まだ途中なんだろ?」
恋は喜んでいた。初めてのお姉ちゃんにあこがれていた。
水奈は恋を自分の妹のように可愛がっていた。
そして二人で寝ていた。
タオルケットをかけてやる。
日が沈むころ父さんが起きる。
「あ、もうこんな時間。遅れてしまう」
今日も地下アイドルのライブに出向くらしい。
水奈が来ている事に気付くことは無かった。
慌ただしく出て行ってそしてその音で水奈が目を覚ました。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ作ろうか」
「俺も手伝うよ」
「そうか、悪いな」
そうして夕食を作る。
水奈を入れて4人前。
生姜焼きを作ってくれた。
4人でテーブルを取り囲んで食事。
食事が終ると片づける。
恋は大人しくテレビを見ていた。
「ただいま」
母さんが帰ってきた。
「こんばんは、お邪魔してます」
水奈が挨拶する。
驚いてる母さんに俺から事情を話す。
「ごめんね、水奈」
「いえ、好きでやってる事ですから。そうだ恋。お姉ちゃんと風呂入るか?」
「うん」
恋は水奈の事を気に入ったらしい。
恋は水奈と風呂に入ると昼間はしゃいだせいもあったのかすぐに眠った。
水奈は恋の寝顔を確認すると「じゃ、そろそろ失礼します」と言った。
「せっかくだから泊まっていけばいいのに」
母さんが言う。
「それは今度の楽しみにとっておきます」と水奈は言う。
「どうやってきたの?」
「歩いてきました」
「じゃあ、おばさんが送ってあげるよ。学、留守番頼む」
「じゃあまたな」
水奈はそう言って家を出て行った。
暫くして、母さんが戻ってくる。
「疲れているところごめん」
「これくらいなんてことないよ。ところであの馬鹿共は?」
「父さんはライブ、遊は花火見に行ってる」
「まったく……」
スマホが鳴る。
水奈からのメッセージだ。
「空を見てみろよ」
ベランダに出て空を見上げる。
打上花火が遠くで咲いている。
スマホが鳴る。
水奈からだ。
電話に出る。
「今外だろ?じゃあ、恋が起きることは無いよな?」
「ああ、大丈夫だ」
「花火綺麗だな……」
「そうだな」
「不思議だな、電話で話しているだけで一緒に観ている気分になれる」
……そうかもしれない。
それからしばらく二人黙って花火を見ていた。
花火が咲いて遅れてくる音。
花火が上がらくなった。
終わったらしい。
「じゃ、またな」
「ああ、今日はありがとう」
「礼を言うのはこっちだ。突然押しかけて迷惑じゃなかったか?」
「助かったよ」
「ならいいんだ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
電話が終わった。
俺も風呂に入ると勉強をする。
勉強が終ると寝る前に皆にメッセージを送る。
水奈と付き合い始めて欠かさず続けている事。
朝と夜の挨拶。
2人が繋がっているだって確認している。
朝起きるとメッセージを送る。
朝と夜の狭間の物語がまた始まる。
「空、朝だよ~」
「おはよう翼」
今日は花火大会の日。
翼の協力もあって無事宿題も終わり、お互いにだらけた生活をしていた。
「せめて市民プール行くとかしてきなさいな」
母さんに言われて行ってみたりしたけど。
ラジオ体操に行って帰ってくると朝食が待っている。
朝食を食べると部屋に帰ってゲームをしたり漫画を読んだり。
ダラダラ生活を続けていると翼が部屋に入ってくる。
翼は意外とまじめだ。
天音は今日はいない。
昨日から大地の家に泊まりに行ってる。
張り切っているようだった。
色んな意味で。
午前中時間を潰すと昼ごはんが待っている。
おばあさんがご飯を作ってくれる。
「今日は2人ともでかけないの?」
母さんが聞いてきた。
「うん、今日は花火大会あるし、酒井君達と行くからそれまでのんびりしてる」
翼が答える。
天音は大地と一緒に行くらしい。
美希も僕達と一緒に観に行くそうだ。
水奈は留守番。
学が家の事で忙しいから。
僕達が誘ってみたんだけど遠慮したみたいだ。
今更遠慮しなくてもいいのに。
午後はリビングで父さん達とテレビを見ていた。
この時間はワイドショーとかであまり興味はなかった。
父さんは母さんと話をしながら見ている。
翼も女の子。
やはりお目当てのアイドルの熱愛報道発覚とかは気になるらしい。
3時ごろになると部屋に戻る。着替えてリビングに行くと父さんも仕度を終えて待っている。
翼も仕度を終えて降りてきた。
母さんに手伝ってもらったらしい。
水色にピンクの花柄の浴衣を着ていた。
髪の毛も上でお団子にしてまとめ上げていた。
時間になってやってきた善明が褒めると翼は嬉しそうだった。
美希は浴衣ではなかった。
「じゃあ、愛莉行ってくる」
父さんがそう言う。
母さんはお留守番。
あまり人混みとか入りたくないらしい。
「気を付けてね」
母さんに見送られて僕達は街に向かう。
父さんは街の中の駐車場に止めると商店街を散策する。
商店街は短冊とかが飾れていた。
そのお願い事を見ては美希と二人で楽しんでいる。
「あれ?空たちじゃん!」
会ったのは光太と麗華さん。
翼も知らなかったようだ。
困惑している。
2人は付き合っているのか聞いていた。
「そうだよ、変かな?」
麗華さんがそう言った。
「別に変じゃないけど意外だなって」
僕は光太に聞いていた。
「光太卒業まで待つんじゃなかったのか?」
一学期にスカートめくりが流行った時に麗華さんにそれをしたとき光太がキレて相手をボコボコにした事件があった。
それがきっかけだったらしい。
それでも光太は卒業式まで待つはずだった。
だけど学にも彼女が出来て焦ったらしい。
待っても待たなくても確率は2分の1。
だったら当たって砕けろと個人チャットを送ったところ「いいよ」と返事をもらえたらしい。
夏休みが始まってから、二人で図書館に行って勉強したり映画を観たりしていたそうだ。
ちなみにキスはもう経験済み。
「よかったじゃん」
「ああ、夢みたいだぜ」
翼と美希も麗華と話をしてはキャッキャと騒いでる。
はしゃいでる麗華さんを見てるのは初めてだった。
今まで何にでも興味を示さなかったから。
「じゃ、俺達飯食ってくるから」
光太がそう言うと二人は消えて行った。
「意外だったね」
美希は本当に驚いているようだった。
これで5年生はみんな彼女もちか。
そんな話をしながら、父さんに説明しながら夕食を食べると花火大会の会場に向かう。
「父さん場所取っておくから夜店でも見ておいで」
父さんがそう言うと二人で夜店を回る。
イカ焼きたこ焼き箸巻き焼きそばかき氷。
あとラムネか。
抱えきれないくらい買って戻る。
父さんにラムネを渡してそれを食べながら花火を見る。
翼と二人で見る花火は綺麗だった。
そして周りで見ているカップルが羨ましかった。
それは美希もいっしょだったみたいだった。
「いつか二人で来ようね」
美希がそう囁く。
返事をすると翼は僕を見て微笑む。
その瞬間は生涯忘れない。
花火が終るとみんな散らばっていく。
父さんの背中を追いかけながら、美希と手をつないで歩いて行った。
(2)
朝目が覚めると僕は驚いていた。
僕は裸でそんな僕に同じく裸で抱きついてる天音。
眠気なんて一瞬で飛んだ。
落ち着け、僕だってまだ小学校4年生。
いくらなんでもそれはない。
しかし今恋愛映画にありがちなワンシーンに直面している。
記憶を辿る。
思い出した。
そろそろ寝ようかといった時躊躇いもなく僕のベッドに侵入してくる天音。
天音は悩んでいる。
どうしたんだろう?
「電気消して。流石にいきなりは恥ずかしい」
言ってる意味が分からないけどどうせ寝るんだ。
リモコンで照明を落とす。
すると天音は驚くべき行動に出た。
服を脱ぎだしたんだ。
僕は慌てて天音を止める。
天音は落ち込む。
「やっぱり私は子供か?」
そう言う問題じゃないと思うんだけど。
このままにして置いたら母さんに何言われるか分からない。
「子供なのになにやってるの!」じゃない。
「あなた女の子に恥かかせてどういうつもり!」だ。
そういうところは酒井君の母親と変わらない。
何か声をかけてやらないとこの雰囲気は変わらない。
頭をフル回転させて考えてみる。
答えはいつだって単純。
「そんなことないよ、綺麗だよ」
たった一言で天音の機嫌は変わる。
「よかった、ちょっと恥ずかしかっただよな。下着もお子様だし」
そういう基準なのか?
まあ、いい。これでゆっくり眠れる。
母さんも何かあるのを期待していたみたいだし、いきなり部屋に入ってくることは無いだろう。
朝になったら服を着せればいい。
そう思っていた。
だけど、天音はとんでもないことを言い出した。
「次は大地の番だぜ、私だけ恥ずかしい思いさせてそのまま寝るってことは無いよな」
恥ずかしい思いをさせてって言葉にはちょっと異議があったけどそんな事よりどう断るかが問題だ。
けれど、天音はそんな時間を与えてくれなかった。
無理矢理服をはぎ取ろうとする天音。
あまり騒いだらさすがに親が来る。
素直に脱いだ。
それを見て天音は笑った。
「大地もやっぱりまだお子様だな。今度私は下着選んでやるよ」
そう言って笑っている。
そして天音はしばらく思案して僕に抱きついてくる。
僕はドキドキしていた。
しかし天音は僕の反応に不満だったようだ。
「私魅力ないか?こう見えて精一杯お前を誘惑してるつもりなんだぞ」
言葉の意味が分からなかった。
僕の心臓の鼓動は天音には伝わっていないのだろか?
「ここは黙って彼女の下着を取るとかやることあるだろう!?」
天音のやる事は一つ一つが過激だ。
ちなみに天音の裸は風呂場で見ている。本当に一緒に風呂に入る羽目になるとは思わなかった。
このままでは眠れそうにない。
天音に愛想尽かされるかもしれない。
悩んだ挙句一つの妥協点を見つけた。
このまま天音の言う通りにしていたら、本当に最後まで行きかねない。
「ごめん、僕はまだお子様だ。今の天音をどう扱っていいか分からない。だから僕から要求していい?」
「その言葉を待ってたんだ!お前も男になる決意がついたか!」
天音は喜んでいる。後は僕の要求を聞き入れてくれるかどうか。
「今から天音の下着を取るよ、僕も自分の下着を脱ぐ。お互い全裸だ」
天音は黙ってうなずいた。ほのかに顔を赤らめているようだ。恥ずかしいなら最初からやらなきゃいいのに。
「お互い全裸で抱き合って寝る。今の僕に出来る最大限の事だ。それで許して欲しい」
「……分かった」
天音はそう言うと目を閉じる。
僕は緊張して天音の下着を取る。
そして僕も脱ぐと天音は僕に抱き着いた。
「不思議だな。空とはよくやっていたけど。なんか気分が変だ。こんな気持ち初めて」
天音は緊張してるようだった。
それは僕も同じだった。
お互いのぬくもりを感じながら眠りについた。
そして今に至る。
とりあえず天音を起こすところからだな。
「おはよう、天音。朝だよ。起きて」
そう言って体を揺すると天音は目をこすりながら目を覚ます。
そして僕と同じように記憶を辿っている。
違ったのはその後の行動。
「おはよう大地」
そう言って僕にキスをする。
そして服を着る。
僕も服を着た。
天音は服を着ると何か考えている。
どうしたんだ?また何か企んでいる。
しかし天音も一人の女の子だったようだ。
「昨夜やったことは空にもしたことないことだからな。安心しろ」
多分翼もそこまでは行ってないはずだと天音は言う。
天音を突き動かすのは翼への対抗意識なんだろうか?
「……幻滅したか。私の事軽い女だと思ったか?」
小学校4年生の発言じゃないと思ったよ。
「そんな事思ってないから安心して。天音の初めてが僕で光栄に思うよ」
最適解を選んだつもりだった。
「そうか……なら良かった」
正解だったようだ。
母さんがドアをノックする。
「ご飯できてるわよ」
母さんが言う。
僕達は部屋を出た。
5人で食事をする。
お姉さんはこのあと空の家に行くらしい。
父さんのスマホが鳴った。
父さんが電話に出る。
父さんは芸能事務所と貿易会社の社長をしている。
休日も休んでいられないほど忙しい。
今日も急な仕事が出来たようだ。
取引先の会社と契約書の内容でトラブルが発生したらしい。
今日中に書き換えるからサインが欲しいとのこと。
母さんに説明してる。
だから僕達の面倒は母さんに任せたいと。
母さんの理屈では家庭が最優先。
その家庭の団欒を壊すような無能など潰してしまえ。
大体そう言う流れだ。
だけど今日の母さんは違った。
「ま、いいわ。望は仕事に専念してて」
父さんは胸をなでおろす。
「父親は仕事をこなす役割。私は子供の世話をする役割……大地の教育をするわ」
父さんは何も言わない。
今何か反論したらとんでもないことになる。
父さんは危険を察知する能力はずば抜けている。
「そうと決まれば善は急げよ。大地。ご飯を食べ終わったら仕度をなさい。出かけるわよ」
「花火は夜だよ?」
まだ早すぎる。
「そんな事分かってる。あなた夜まで天音ちゃんを退屈させるつもりなの?」
母さんは偶に正論を言う。
強引な時もあるけど。
「そうね、あなた映画で失敗したって言ったわね。汚名返上の機会を与えてあげる。天音ちゃん、どんな映画が好きなの?」
「そうですね……今やってる奴だとアニメかな」
「だ、そうよ。午前中は映画を観なさい」
そう言いがなら母さんはスマホを操作して映画の上映時間を確認してる。
「よかった、駅ビルでもやってるみたい。今から準備すれば十分間に合う。急ぎなさい」
チケットの予約をしながら母さんは言う。
僕は天音と支度をする。
とりあえず、服を着替えようとすると天音が待ったをかけた。
「一度やってみたかったんだよな!」
天音のやりたかったこと。
それは彼氏の服を選ぶこと。
天音は僕のクローゼットを探って服を選んでいる。
「空君の服は選んだこと無いの?」
「空は翼がいるから。悔しいけどあの二人心が通じてるからどうしても敵わないんだよ」
そう言いながら僕の服をコーディネートしていく。
僕は天音の好みの男になれたんだろうか?
天音の言われるがままに服を着た僕を見て納得したようだ。
「今日、映画見終わったら午後暇だろ?服選んでやるよ」
天音が言った。
新條さんの運転で駅ビルに着くと母さんは買い物してるから二人で見てきなさいと言う。
「そうね、夕食は早めに済ませたいから17時にここに集合で。大地、お金は持ってるわね?買い物はカードを使いなさい」
母さんがそう言うと僕達は映画館に向かった。
そしてチケットを受け取り劇場に入る。
天音はホットドッグを食べてジュースを飲みながらポップコーンに手を付けている。
映画が始まった。
映画の内容より天音の反応が気になった。
今日は天音はちゃんと映画を観ている。
映画が終わると昼食をとることに。
「何か食べたいのある?」
天音に聞いていた。
「3階のフードコート行こうぜ!」
「そんなのでいいの?」
「色々食えるじゃん!」
実際に色々食べてた。
ラーメン、カツ丼、ステーキ、ハンバーガー、たこ焼き……。
こんな小さな体のどこに吸収されているんだろう?
「おっぱいになればいいんだけどな!」
天音は笑って言う。
そのあと天音は言っていた通り僕の服を選んでいた。
女子の買い物は時間がかかる。
天音も女の子だった。
時間をかけていくつかの服を買った。
「次はお前の番だぞ」
へ?
「大地はどんな女子が好みなんだ?」
天音は僕の好みの服を買うらしい。
あまり服に関心がない僕には難題だった。
天音に似合いそうな服をイメージしながら色々見て回る。
思ったより時間がかかる。
少なくとも自分の服を選ぶより時間がかかる。
イライラしてないだろうか?
杞憂だったようだ。天音はニコニコしている。
そして見つけた。
「これなんてどうかな?」
「……うん、やっぱりそうなるよな!分かったちょっと買ってくる」
「あ、僕が払うよ」
「気にするな。パパから小遣いはもらってるから」
そう言ってサイズを確認してレジに向かった。
「なんか楽しいな。こういうのも」
そう言って天音は笑っていた。
時間も良い頃合いだ。
僕達は母さんと待ち合わせする。
母さんは僕達を夕食に連れて行ってくれた。
まだ僕達には早すぎるお洒落な店。
天音でも雰囲気を気にするらしい。
急に大人しくしてた。
そんな天音に母さんは優しく声をかける。
「今日はどうだった?」
「楽しかったです」
天音は一言そう言って今日あったことを残さず話した。
母さんはにこにことそれを聞いていた。
天音は本当に嬉しかったんだな。
僕もホッとした。
夕食を食べ終わると会場に向かう。
その人混みに母さんはイライラしてた。
僕は天音とはぐれないように手をつないでた。
それが恥ずかしかったのだろうか?
天音は落ち込んでた。
「どうしたの?」
「いや、私も浴衣で来ればよかったかなって」
「来年の楽しみに取っておくよ」
「そうだな!」
天音に笑顔が戻った。
天音と花火を見る。
空に咲く花。
パッと咲いて静かに消える。
空に消えていく打ち上げ花火。
また来年も……。
来年の今頃どうなっているんだろう?
隣に君はいてくれるんだろうか?
何の保証もない未来。
だけど考えるだけ無駄だったようだ。
花火が終ると。新條さんに迎えに来るように言う。
その時天音はそっと僕に囁いた。
「また来年も来ような」
保証はされてないけど約束はかわした。
天音を家に送る。
「またメッセージ送る!」
そう言って天音は家に帰っていった。
家に帰ると風呂に入って部屋に戻る。
メッセージが届いていた。
「楽しかった。今度は家に遊びに来い!」
返事をするとまたメッセージが届く。
いつの間にか眠っていた。
そして目を覚ますと最後のメッセージを見る。
「寝やがったな!罰ゲームだ!今度は私の下着を選べ!」
一瞬で目を覚ます。
時計は8時を回っていた。
スマホが鳴る。
電話に出る。
天音はいつも僕をドキドキさせてくれる。
「おはようだーりん」
ダーリン!?
なんと返事したらわからなかった。
「おはよう」
「思ったより冷静だな。まあいいや。一回やってみたかったんだよな。ラブコール」
なるほどね。
「よく眠れたか」
「ごめん、気が付いたら寝てた」
「まあしょうがねーよ、気にするな。それより罰ゲームいつする?」
執行は免れないらしい。
「でも流石にどんなのが好みなのか分からないよ」
「お前の好みでいいんだよ。とっておきの日に穿いてやるから」
好みって言われても。
「あ、翼戻ってきた!またメッセージ送る。じゃあな!」
唐突にかかってきて唐突に切られた。
天の音はいつも突然で。一方的に約束を交わしていく。
でもそうやって幾つもの約束を重ねて未来を作っていくのだろう。
そのゴールがどこにあるのかわからないまま。
(3)
「じゃあ、母さん行ってくる」
「気をつけてね。まだ孫はいらないから」
無茶苦茶な理論を展開する母さん。
空はそんな真似しないよ。
空の家に行くと酒井君達も来ていた。
「迎えに行けなくてごめんね」
空が申し訳なさそうに謝る。
翼の準備で忙しかったらしい。
そんな翼の浴衣姿を酒井君が褒めている。
私も浴衣にするべきだっただろうか?
街までは空の父さんが送ってくれた。
まだ私達だけでバスに乗るのは早いと判断したらしい。
夜も遅くなるし。
街に着くと商店街を見て回る。
光太と麗華に出会った。
2人も付き合い始めたそうだ。
翼は光太の気持ちに気付いていたそうだけど。
光太達が夕食に行くと私達も夕食を食べて会場に向かった。
その間ずっと空は手を繋いでくれた。
もう抵抗はないらしい。
確かに今更な気がする。
花火が始まると2人で静かにそれを見ていた。
翼と酒井君も同じように二人で見ている。
「今度は二人で見に行こうね」
そんな風に空に囁くと空は笑顔で答えてくれる。
帰りは空の父さんが送ってくれた。
「空を家に泊めてもいいのよ」
母さんが言うと空の父さんは慌てていた。
空の父さんでも母さんには敵わないらしい。
部屋に戻るとお風呂の準備をしてお風呂に入る。
部屋に戻ると髪を乾かしながら空と電話をする。
この夜がいつか終わっても明日の朝という楽しみが待っている。
朝と夜の狭間で私達は生き続ける。
(4)
昼ごはんを食べ終わって片づけが終わった頃、呼び鈴が鳴った。
俺はドアを開ける。
小さな彼女が一人買い物袋を手に持って立っていた。
「よお!」
その娘は俺の顔を見るとにこりと笑った。
「どうしたんだ?」
「予行演習だよ」
「予行演習?」
「事情は後で説明するから取りあえず家に入れてくれないか?アイスが溶けちまう」
「あ、ああ」
その娘を家に招くと冷蔵庫を開ける。
中味は特にない、これから買いに行こうと思っていたから。
「よかった、先に連絡した方がいいんじゃないかと思ったけどどうせ恋達の世話で日中は無理だろうと思ったから」
「……すまんな」
「気にするな!」
しかし何が良かったんだ?
そんな疑問を抱いたまま冷蔵庫と冷凍庫に買ってきた物をつめていく水奈。
その作業が終わるとペットボトルを俺に投げ渡す。
「とりあえず飲もう」
俺は水奈をリビングに案内する。
水奈は恋にもジュースを渡していた。
遊は粋となずなと花と街に行っている。
花火を観に行くらしい。
父さんは中島さん達と朝まで飲んでて今寝てる
ジュースを一口飲む。
「そろそろ事情を説明してくれないか?」
俺が言うとジュースを一気飲みした水奈が言った。
「学は今日恋の世話があるから花火に行けない。そうだな?」
「ああ」
「私は天音は大地とデートだしなずな達は遊と花火に行くって聞いた」
水奈がいくと5人になって一人あぶれる。
水奈には俺という「彼氏」がいる。だから4人に気を使った。
なるほどな……気配りした結果一人あぶれた。
しかしなぜそれがなぜ俺の家に来る理由になるんだ?
「今度、天音達がプールに行くとき私はこの家に泊まるって言っただろ?」
「ああ、それは聞いてる」
「泊ることは許されたんだ。だったら遊びに来るくらい何時でも大丈夫だろ?」
「まあ、そうだな」
「で、暇だから今日来た。ついでに晩飯作ってやろうと思って食材買ってきた」
用が済んだから今日は帰るから。水奈はそう言う。
「じゃあ、恋の相手は私に任せて学は宿題しろよ。まだ途中なんだろ?」
恋は喜んでいた。初めてのお姉ちゃんにあこがれていた。
水奈は恋を自分の妹のように可愛がっていた。
そして二人で寝ていた。
タオルケットをかけてやる。
日が沈むころ父さんが起きる。
「あ、もうこんな時間。遅れてしまう」
今日も地下アイドルのライブに出向くらしい。
水奈が来ている事に気付くことは無かった。
慌ただしく出て行ってそしてその音で水奈が目を覚ました。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ作ろうか」
「俺も手伝うよ」
「そうか、悪いな」
そうして夕食を作る。
水奈を入れて4人前。
生姜焼きを作ってくれた。
4人でテーブルを取り囲んで食事。
食事が終ると片づける。
恋は大人しくテレビを見ていた。
「ただいま」
母さんが帰ってきた。
「こんばんは、お邪魔してます」
水奈が挨拶する。
驚いてる母さんに俺から事情を話す。
「ごめんね、水奈」
「いえ、好きでやってる事ですから。そうだ恋。お姉ちゃんと風呂入るか?」
「うん」
恋は水奈の事を気に入ったらしい。
恋は水奈と風呂に入ると昼間はしゃいだせいもあったのかすぐに眠った。
水奈は恋の寝顔を確認すると「じゃ、そろそろ失礼します」と言った。
「せっかくだから泊まっていけばいいのに」
母さんが言う。
「それは今度の楽しみにとっておきます」と水奈は言う。
「どうやってきたの?」
「歩いてきました」
「じゃあ、おばさんが送ってあげるよ。学、留守番頼む」
「じゃあまたな」
水奈はそう言って家を出て行った。
暫くして、母さんが戻ってくる。
「疲れているところごめん」
「これくらいなんてことないよ。ところであの馬鹿共は?」
「父さんはライブ、遊は花火見に行ってる」
「まったく……」
スマホが鳴る。
水奈からのメッセージだ。
「空を見てみろよ」
ベランダに出て空を見上げる。
打上花火が遠くで咲いている。
スマホが鳴る。
水奈からだ。
電話に出る。
「今外だろ?じゃあ、恋が起きることは無いよな?」
「ああ、大丈夫だ」
「花火綺麗だな……」
「そうだな」
「不思議だな、電話で話しているだけで一緒に観ている気分になれる」
……そうかもしれない。
それからしばらく二人黙って花火を見ていた。
花火が咲いて遅れてくる音。
花火が上がらくなった。
終わったらしい。
「じゃ、またな」
「ああ、今日はありがとう」
「礼を言うのはこっちだ。突然押しかけて迷惑じゃなかったか?」
「助かったよ」
「ならいいんだ。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
電話が終わった。
俺も風呂に入ると勉強をする。
勉強が終ると寝る前に皆にメッセージを送る。
水奈と付き合い始めて欠かさず続けている事。
朝と夜の挨拶。
2人が繋がっているだって確認している。
朝起きるとメッセージを送る。
朝と夜の狭間の物語がまた始まる。
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