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第十九章 ドワーフの国編

あらやだ! 友人同士の戦いだわ!

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「お姉ちゃん。氷の魔法で化身はできそうなの?」
「うん? ああ、六割ほどはできとる。後は実践――いや実戦やな」

 イレーネちゃんとデリアの試合。そん前に控え室でエルザがあたしに話しかけてきた。キールは他の一年生たちのところに行ってしもうた。意外と仲間と仲がええらしいな。

「えっと。本番で試すの? なんか心配だなあ」
「あたしも不安やけどな。でも切り札は隠したほうがええやろ」
「もしかして、今まで使わなかったのは、決勝戦のためなの?」

 あたしは「うーん。状況がそうやったからな」と答えた。

「メノウさんは使わんでも倒せたし、エルザは使う余裕があらへんかった。キールのときはあほやったから」
「……お姉ちゃんって運が良いよね。前々から思ってたけど」

 不思議そうな顔をするエルザに「そうやなあ」とにっこりと笑うた。

「一番の幸運は、エルザが妹やったことかな」
「――っ! い、いきなり恥ずかしいこと言わないで! でも大好き!」

 姉妹でいちゃついとると、控え室の扉がノックされた。

「入ってもええでー!」
「お邪魔しますよ……ああ、エルザさんも一緒でしたか」
「姉妹水入らずのときに、悪かったな」

 クラウスとランドルフが扉を開けて言うた。

「もうすぐイレーネとデリアの試合が始まるぜ」
「おお、ありがとな。行くで、デリア」
「うん……なんか怖くなってきた」

 エルザは心配そうに呟いた。

「昔みたいに仲良しになれるのかな。お姉ちゃんたち」
「……喧嘩するほど仲がええって言うやろ。それに昔の話やけど、イレーネちゃんとデリアは初対面のときは仲が悪かったんやで?」

 まあイレーネちゃんの食い気とデリアの矜持がぶつかったんやけどな。

「あたしは信じとるんや。二人がまた仲良うなるってな」

 そして――試合が始まる。

「準決勝! 『破壊の体現者』デリア・フォン・ヴォルモーデンと『隻眼の火槍使い』イレーネの試合が始まります!」

 武舞台の中央で向かい合うた二人。イレーネちゃんは槍。デリアは鞭を構えとる。

「魔法大会以来ね。あなたと戦うのは」
「でも違うことが一つだけあります。勝つのが私ということです。デリア」

 イレーネちゃんの挑発にぴくりと眉を顰めるデリア。

「大した自信ね。あんまり言わないほうがいいわよ。負けたとき惨めになるんだから」
「――勝つから、構わないですよ」

 ピリピリと緊張感が漂い出した。二人の関係性を知らん観客たちは盛り上がっとるけど、一緒に観戦しとるランドルフとクラウスは複雑な顔をしとった。

「互いの名誉をかけて――試合始め!」

 銅鑼が大きく鳴り響いた。

「先手必勝! 行くわよイレーネ!」

 デリアが鞭を大きく振るい、イレーネちゃん目がけて振り下ろした。
 本来なら避けるしかあらへん。防御しても爆発するんやからな。
 せやけど――イレーネちゃんの取った行動は、予想外のもんやった。

「――既に弱点は分かっています」

 イレーネちゃんは――避けずに受け止めたんや!
 当然、爆発が襲う――

「はあ!? イレーネ、あなた――」

 思いも寄らない行動にデリアは驚いてしもうた。
 友達やからか、思わず駆け寄ろうとしたんを、なんとか踏みとどまる様子が、あたしには見えた。
 爆発による煙が晴れたとき――イレーネちゃんは火傷を負いながらも、鞭を掴んどった。

「爆発は一度しか起きない――戦いを見ていて、予想はしていましたが、今ので確信しましたよ」

 無茶しよって……! 火傷で済めばええけど、耳とか吹き飛んだらどないすんねん!

「そしてこれで鞭は使えません」

 火の魔法で皮製の鞭を燃やすイレーネちゃん。デリアは咄嗟に手を離す。持ち手のところしか残らん。これでは使えへんな。

「これで付与は使えませんね」
「くっ! 無茶して……!」
「私の心配よりも自分の心配をしたほうがいいですよ。ここからは一方的な戦いです」

 イレーネちゃんは槍を脇に置いた。なんのつもりやろか?

「デリア。私の属性を覚えていますか?」
「……火と土でしょう。そのくらい知っているわよ」
「実は、もう一つあるんですよ」

 イレーネちゃんは両手を前に出す。

「デリアの爆発。ユーリの氷。それらを超える合成魔法を、私は習得したんです」
「……まあ予想はしてたけどね。あなたなら身に付けるとも思ってた。でもね。私を超える合成魔法? そんなものないわよ」

 デリアの発言を嘲笑うように、イレーネちゃんは「見せてあげますよ」と笑うた。

「この合成魔法が生まれたのは必然だったのかもしれません。アストへの恨み。その情念が形になったのでしょう。それに、ユーリの話もヒントになりました」

 あたしの話やて? どういうこっちゃ?

「ユーリが火山の国、ディーンスタークの話をしてくれたおかげです」

 火山の国……そういえばそないな話したような。
 火と土……まさか……!

「今度はこっちから行きますよ――デリア!」

 イレーネちゃんの両手の親指と人差し指を合わせて三角形を作った。
 そこから――魔法を発する。

 遠くから観戦していても分かるほどの熱量――

 発射された魔法はデリアの足元に打ち込まれた。
 どろどろと流動して、ぐつぐつと煮えたぎるそれは、いともたやすく武舞台を溶かした。

「あ、熱い!? 何よ! ま、まさか、ユーリが話していた……溶岩!?」

 そうや。紛れも無い、溶岩そのものやった。

「おいおい。イレーネの魔法やばいな」
「……とてもじゃないですけど、勝てる気がしません」

 隣のランドルフとクラウスが思わず呟く。

「お姉ちゃん……」

 ぎゅっとローブの裾を握ってくるエルザ。

「大丈夫や。大丈夫やで、エルザ」

 安心させるように手を握る。

「デリア。あなたは簡単には降参しないと分かっています」

 イレーネちゃんはそう言って、今度は上に手のひらを向けた。

「でも、降参してください。できれば――」
「あら。優しいじゃない。でもね、降参なんてできないわ」

 デリアは、こないな状況やのに、微笑んだんや。

「ヴォルモーデン家の誇りが、私にはあるのよ。残念だけどね」
「……そうですね。あなたはいつもそうでした」

 イレーネちゃんの魔力が高まるのを感じる。

「そんな誇り高いあなたが、好きですよ。デリア」

 その言葉を契機に、魔法が――発動した。
 上空高く打ち上げられた溶岩は、落下の勢いで威力が増して、武舞台に降り注ぐ――

「あかん! デリア!」

 叫んだあたしのほうを、デリアが向いた気がした――

 武舞台はイレーネちゃんが居る場所以外、陥没したりして無事なところはあらへんかった。
 デリアは――

「……屈辱だわ。この私が、自ら負けを選ぶとはね」

 デリアは――武舞台の外に居った。
 ローブが焦げてたり、ぼろぼろだったりしとるけど、生きとる。

「……私がこうするのも、予想済みだったのね」
「ええ。友達ではなくなることも覚悟の上です」

 なんで、無事やったんやろか?

「なあランドルフ。どうして――」
「……デリアは自分を爆発で吹き飛ばして、武舞台の外に出たんだ」

 おそらくあの攻撃の中、ランドルフには見えとったんやろな。

「あなたの勝ちよ。悔しいけどね」
「一勝一敗です。次で決着をつけましょう」

 そう言って二人は笑い合ったんや。

「勝者! イレーネ選手!」

 いつの間にか武舞台の外に居った審判が宣言した。
 イレーネちゃんは武舞台から下りて、デリアに近づいた。

「ロゼちゃんのことは――」
「今言わなくていいわ。ユーリとの戦いが終わったら聞くから」

 そう言って二人は固い握手をした。

「ユーリは強いわよ。分かっていると思うけど」
「ええ。十分に」

 これで準決勝が終わって。
 明日、決勝が行なわれる。

 あらやだ。勝てるかしら?
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