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第十五章 男の約束編
あらやだ! 結婚式だわ!
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結婚式はランドスター家の別館で行なわれた。まず教会から呼ばれた神父様が誓いの儀式を執り行う。厳かな雰囲気の中、主役であるランドルフとヘルガさんが登場した。
集まったのはあたしら無双の世代とエルザや。イレーネちゃんもクラウスも駆けつけてくれた。次に騎士学校の面々。レオやクリスタちゃん、ルーカスやラルフ、ローレンツがまるで自分のことのように祝福してくれた。そしてランドスター家の当主であるアドルフさんや次期当主のフランシスさんも来てた。記憶どおりの顔やった。他にもランドスターの分家や付き合いのある貴族が参列して豪華な結婚式になったんや。
「まさかランドルフさんが結婚するとは思わなかったですね」
ランドルフたちが赤い絨毯を歩いとるときに隣に座っとるクラウスがぼそりと呟いた。なんちゅうか感無量な面持ちやった。
「これもユーリさんのおかげですね」
「何言うてんねん。ランドルフの努力の結果や。あたしは何にもしてへん」
クラウスは「ふふふ。そういうことにしておきましょうか」と含み笑いをした。
「ランドルフ。汝は妻となるヘルガ・フォン・ランドスターへの愛を誓うか?」
神父様の問いに「ああ、誓うぜ」と応じるランドルフ。
「ヘルガ・フォン・ランドスター。そなたは夫となるランドルフへの愛を誓うか?」
「はい。誓います」
ヘルガさんは綺麗な白のドレスを着とって、元々端整な顔が十倍増しに美しくなっとる。
ランドルフも貴族の正装を着て、たくましさに磨きがかかっとる。
「この瞬間において、二人は夫婦となった! みな祝福せよ!」
あたしたち参列者は一斉に立ち上がり、二人に拍手を送った。
ランドルフは照れてるのか、真面目な顔をしとる。
ヘルガさんは顔を赤らめながらも嬉しそうにしとった。
二人とも、幸せになってほしいなあ。
儀式が終わると今度は二人を囲んで食事が始まった。
貴族の結婚式やから形式ばった席になると思うたけど、意外なことに立食形式、いわゆるビュッフェやった。
「へえ。珍しいなビュッフェなんて」
クラウスが指揮監督して作った料理に舌鼓を打ちつつ、率直に思うたことをランドルフに言うと「クラウスが提案してくれたことなんだぜ」と言われた。
「クラウスの提案? どういうこっちゃ?」
「貴族の集まりだからな。序列とか考えなければいけないし、料理の順番や好き嫌いも考慮しなければならねえ。でも立食なら席順を考えなくてもいいし、料理の補充も簡単だって言ってたんだ」
「ほう。よう考えとるなあ」
ランドルフは「でもあの野郎『その顔でよく結婚できましたね』って言いやがった」と笑いながら言うた。それはひどいなあ。
「でもまあこのほうが気楽でええやろ」
「そうだな。気を使わなくて――」
「ユーリ! ちょっと見なさいよ!」
デリアが珍しく大声であたしを呼んだ。ランドルフに「ちょっと行ってくるで」と断ってから向かう。
「どないしたんやデリア?」
「見なさい! メロンにハムが乗ってるわ! しかも生ハムよ!」
「ああ、生ハムメロンやな」
デリアは目を輝かせて「これも前世の料理なわけ? なんて背徳的なの!?」と驚いとった。めっちゃテンション高いやん。
「食べてみいや。美味しいで?」
「ちょっと勇気が要るわね……イレーネ!」
クリスタちゃんと話してたイレーネをデリアは大声で呼ぶ。イレーネちゃんは「なんですかデリア?」と不思議そうにやってきた。
「見てごらんなさい! 生ハムメロンよ!」
「生ハムメロン……? ええ!? なんですかあれは!」
「一緒に食べましょう! みんな不気味がって食べてないわ!」
「ええ! クリスタも食べましょうよ! ユーリも!」
これが結婚式とかのイベント特有の変なテンションなんやな。
「まったく。二人ともはしゃいじゃって」
クリスタちゃんは笑いながらこちらにやってきた。あたしは「楽しいからなあ」と笑うた。
「さあ食べるわよ! 生ハムメロンを!」
あたしたち四人は一斉に生ハムメロンを食べた。うん。美味しいな。
「美味いわ! メロンの甘味と生ハムの塩気が絶妙に合う!」
「それでいて、さっぱりと食べられます! まさか肉と果実が合うなんて!」
食レポになっとる!? グルメ漫画か!
「……流石超理人だわ」
クリスタちゃんも感動しとる。確かに初めて食べたら衝撃的やろな。
「ランドルフさん、あなたに食べさせたいものがあります」
調理場に篭もっとったクラウスがお盆に蓋を載せたもんを持ってきて、ランドルフの前のテーブルに置いた。
「見ろ。ハンバーグを開発した超理人が何か料理を持ってきたぞ」
「この場の料理も素晴らしいが、はたしてどのような料理を……」
周りの貴族がどよめいとる。超理人の名は主に貴族の間で広まっとるから当然やな。
「おっ。なんだ? どんな料理だ?」
「あなたの好物ですよ。では開けます」
蓋を取って出てきたんは――
「何!? 蒲焼じゃあないか!」
なんとうなぎの蒲焼やった! しかもうな丼や! 下魚とされとるうなぎはともかく、どうやってタレ作ったんや!? そして米は!?
「醤油作りに時間がかかりましたよ。まだ納得のいくものはできてませんが、なんとか式には間に合いましたね」
「ご、ご飯もありやがる! これはどうやってだ?」
「エルフの国に似た種類の植物がありましてね。皇帝陛下に頼んで輸入してもらったんですよ。料理対決の褒美でね」
ランドルフはクラウスの手を握って「ありがとう。お前は最高の友だ」と言うた。
「あはは。僕だってあなたのことを親友だと思ってますよ」
「それじゃあさっそくいただくぜ」
傍に居ったヘルガさんは「ランドルフ、それはなんなの?」と不安そうに訊ねた。
「うなぎの蒲焼だ」
「うなぎ!? あんな不味いものが好物なの!?」
周りの貴族たちもどよめいとる。
「下魚を晴れの日に出すとは……つくづく常識外れですな」
「しかし漂う匂いはなんともいえぬ……」
するとクラウスは「ヘルガさん。あなたの分も用意してあります」と別のどんぶりを出してきた。
「お、美味しそうな匂いだけど……」
「ヘルガ。美味しいに決まっている。俺を信じてくれ」
「あなたがそう言うなら……」
恐る恐る口にするヘルガさん。目を瞑ってスプーンですくったうなぎを食べる。
「――っ! 美味しいわ!? なにこれ!?」
ヘルガさんの言葉に貴族たちもびっくり仰天やった。
「うん。美味しいな。クラウス、お前は天才だ」
手放しに褒めるランドルフに「お褒めの御言葉、感謝の極み」と茶化しながら応じるクラウス。
「さあさあ、貴族の方々! うなぎの蒲焼をたくさんご用意いたしました! 是非ご賞味あれ!」
当然、うなぎの蒲焼に人々が殺到したのは言うまでもないやろ。
「ランドルフ。楽しんどるな」
あたしが声をかけると「ああ。とても楽しい」とヘルガさんの肩を抱きながら言うた。
「これで魔族討伐に思い残すことがなく行けるな」
その言葉にヘルガさんの顔が曇る。
あたしは「なんとかならんのか?」と訊ねた。
「今からでも遅ない。あたしがなんとか――」
「やめてくれ。これは男の約束なんだ」
きっぱりと断られてはどうしようもなかった。
「ユーリさんの気持ちはありがたいが――」
「ランドルフさん。それはいただけませんね」
うん? 誰やろ? 聞き覚えのある――
声の主のほうを向くと、そこにおったんは――
「へあ!? あらやだ皇帝じゃないの!」
「どうも皇帝です」
あたしの驚きの声に一斉に注目が集まって――
「陛下!? どうしてここに!?」
「なんでうなぎを食しているのですか!?」
皇帝はうな丼を食べながら驚く参列者に向かって言うた。
「どうも。北の大陸で一番偉い人、皇帝です。いえい」
みんなその言葉に絶句した。誰も何も言えへんかった。
「……あれ? どうして誰も何も言わないんですか?」
「驚いとるに決まってるからやろが!」
反射的に皇帝の頭を叩くと蜂の巣を突っついたような騒ぎになった。
「無礼な! 陛下の頭を叩くとは!」
「いくら平和の聖女でも許されないことがある!」
あ、やばいなこれ。
「みなさん落ち着いてください。今のは不問にします」
皇帝の言葉に水を打ったように静まる。
「さて。ランドルフさん。まずはおめでとうございます」
「……口元にご飯粒付けたまま言われてもなあ」
ランドルフの言葉にヘルガさんは蒼白となって「やめなさいよ!」と小声で叱った。
「失礼。後ですね、先ほどの言葉ですけど、あなたは魔族討伐には行けませんよ」
皇帝の言葉にランドルフは「どういうことだ?」と怪訝そうに言うた。
「どういうことって、結婚した人間は三年間、兵役につけないことになっているんです」
「馬鹿な。そんなこと知らないぞ?」
「ソクラ帝国の法です。ですから結婚したあなたは行けません」
じゃあ誰が――そう言いかけたランドルフに声をかけた人が居った。
「俺が行く。だから安心しろ」
言うたのはランドルフの義兄、フランシスさんやった。
「兄貴――フランシス様、あなたが行くのは――」
「元々行く予定だったのは俺だ。それに父上とも話し合った」
フランシスさんの隣に居るアドルフさんも「そうだ。十分に話し合った」と賛同した。
「いいかランドルフ。確かにフランシスも大事だが、お前だって大事な息子だ。血がつながっていなくてもな」
「しかしおやっさん! 兄貴の腕じゃあ――」
すると「俺が守るよ」とレオが手を挙げた。
デリアは「お兄様? どういうことですか?」と困惑した顔になった。
「デリア。俺も魔族討伐に行くんだ」
「そんなの聞いてないです!」
「言えばお前が悲しむと思ってな。安心しろ。俺は死なない」
そしてランドルフに近づくレオ。
「剣術大会で俺の従兄妹を助けてくれたな。その礼をしたい」
「……礼だなんて、そんな恩義に感じることはないぞ?」
「お前はそう言うと思ったよ」
レオはフランシスさんに向かって言うた。
「ランドルフの代わりに俺があんたを守る。絶対に死なせない」
「ありがとう。とても頼もしいな」
ランドルフは二人をじっと見つめて、そして言うた。
「約束、してくれるか?」
二人もランドルフを見つめる。
「二人とも、絶対に生きて帰ってくる。そう約束してくれ」
フランシスさんが最初に言うた。
「ああ。約束する」
次にレオが言うた。
「ああ、男の約束だ」
ランドルフは満足そうに頷いた。それ以上の言葉は要らんらしい。
こうしてランドルフの代わりにフランシスさんが魔族討伐に行くことになった。まあ元鞘に納まった感じやな。
「そんで、なんであんたはここに居るんや?」
「決まっているでしょう。ユーリさんに用があったんです」
皇帝は生ハムメロンを食べながら言うた。
「今この瞬間からあなたは貴族です。男爵位で家名はオーサカ。今度からユーリ・フォン・オーサカと名乗ってください」
結構軽いんやなと思うた。
ちゅうことでランドルフが結婚して、クラウスが新作料理を披露して、あたしが貴族になったとんでもない日やった。
そしてその一ヵ月後。
魔法学校での日々が再び始まることとなるんや。
集まったのはあたしら無双の世代とエルザや。イレーネちゃんもクラウスも駆けつけてくれた。次に騎士学校の面々。レオやクリスタちゃん、ルーカスやラルフ、ローレンツがまるで自分のことのように祝福してくれた。そしてランドスター家の当主であるアドルフさんや次期当主のフランシスさんも来てた。記憶どおりの顔やった。他にもランドスターの分家や付き合いのある貴族が参列して豪華な結婚式になったんや。
「まさかランドルフさんが結婚するとは思わなかったですね」
ランドルフたちが赤い絨毯を歩いとるときに隣に座っとるクラウスがぼそりと呟いた。なんちゅうか感無量な面持ちやった。
「これもユーリさんのおかげですね」
「何言うてんねん。ランドルフの努力の結果や。あたしは何にもしてへん」
クラウスは「ふふふ。そういうことにしておきましょうか」と含み笑いをした。
「ランドルフ。汝は妻となるヘルガ・フォン・ランドスターへの愛を誓うか?」
神父様の問いに「ああ、誓うぜ」と応じるランドルフ。
「ヘルガ・フォン・ランドスター。そなたは夫となるランドルフへの愛を誓うか?」
「はい。誓います」
ヘルガさんは綺麗な白のドレスを着とって、元々端整な顔が十倍増しに美しくなっとる。
ランドルフも貴族の正装を着て、たくましさに磨きがかかっとる。
「この瞬間において、二人は夫婦となった! みな祝福せよ!」
あたしたち参列者は一斉に立ち上がり、二人に拍手を送った。
ランドルフは照れてるのか、真面目な顔をしとる。
ヘルガさんは顔を赤らめながらも嬉しそうにしとった。
二人とも、幸せになってほしいなあ。
儀式が終わると今度は二人を囲んで食事が始まった。
貴族の結婚式やから形式ばった席になると思うたけど、意外なことに立食形式、いわゆるビュッフェやった。
「へえ。珍しいなビュッフェなんて」
クラウスが指揮監督して作った料理に舌鼓を打ちつつ、率直に思うたことをランドルフに言うと「クラウスが提案してくれたことなんだぜ」と言われた。
「クラウスの提案? どういうこっちゃ?」
「貴族の集まりだからな。序列とか考えなければいけないし、料理の順番や好き嫌いも考慮しなければならねえ。でも立食なら席順を考えなくてもいいし、料理の補充も簡単だって言ってたんだ」
「ほう。よう考えとるなあ」
ランドルフは「でもあの野郎『その顔でよく結婚できましたね』って言いやがった」と笑いながら言うた。それはひどいなあ。
「でもまあこのほうが気楽でええやろ」
「そうだな。気を使わなくて――」
「ユーリ! ちょっと見なさいよ!」
デリアが珍しく大声であたしを呼んだ。ランドルフに「ちょっと行ってくるで」と断ってから向かう。
「どないしたんやデリア?」
「見なさい! メロンにハムが乗ってるわ! しかも生ハムよ!」
「ああ、生ハムメロンやな」
デリアは目を輝かせて「これも前世の料理なわけ? なんて背徳的なの!?」と驚いとった。めっちゃテンション高いやん。
「食べてみいや。美味しいで?」
「ちょっと勇気が要るわね……イレーネ!」
クリスタちゃんと話してたイレーネをデリアは大声で呼ぶ。イレーネちゃんは「なんですかデリア?」と不思議そうにやってきた。
「見てごらんなさい! 生ハムメロンよ!」
「生ハムメロン……? ええ!? なんですかあれは!」
「一緒に食べましょう! みんな不気味がって食べてないわ!」
「ええ! クリスタも食べましょうよ! ユーリも!」
これが結婚式とかのイベント特有の変なテンションなんやな。
「まったく。二人ともはしゃいじゃって」
クリスタちゃんは笑いながらこちらにやってきた。あたしは「楽しいからなあ」と笑うた。
「さあ食べるわよ! 生ハムメロンを!」
あたしたち四人は一斉に生ハムメロンを食べた。うん。美味しいな。
「美味いわ! メロンの甘味と生ハムの塩気が絶妙に合う!」
「それでいて、さっぱりと食べられます! まさか肉と果実が合うなんて!」
食レポになっとる!? グルメ漫画か!
「……流石超理人だわ」
クリスタちゃんも感動しとる。確かに初めて食べたら衝撃的やろな。
「ランドルフさん、あなたに食べさせたいものがあります」
調理場に篭もっとったクラウスがお盆に蓋を載せたもんを持ってきて、ランドルフの前のテーブルに置いた。
「見ろ。ハンバーグを開発した超理人が何か料理を持ってきたぞ」
「この場の料理も素晴らしいが、はたしてどのような料理を……」
周りの貴族がどよめいとる。超理人の名は主に貴族の間で広まっとるから当然やな。
「おっ。なんだ? どんな料理だ?」
「あなたの好物ですよ。では開けます」
蓋を取って出てきたんは――
「何!? 蒲焼じゃあないか!」
なんとうなぎの蒲焼やった! しかもうな丼や! 下魚とされとるうなぎはともかく、どうやってタレ作ったんや!? そして米は!?
「醤油作りに時間がかかりましたよ。まだ納得のいくものはできてませんが、なんとか式には間に合いましたね」
「ご、ご飯もありやがる! これはどうやってだ?」
「エルフの国に似た種類の植物がありましてね。皇帝陛下に頼んで輸入してもらったんですよ。料理対決の褒美でね」
ランドルフはクラウスの手を握って「ありがとう。お前は最高の友だ」と言うた。
「あはは。僕だってあなたのことを親友だと思ってますよ」
「それじゃあさっそくいただくぜ」
傍に居ったヘルガさんは「ランドルフ、それはなんなの?」と不安そうに訊ねた。
「うなぎの蒲焼だ」
「うなぎ!? あんな不味いものが好物なの!?」
周りの貴族たちもどよめいとる。
「下魚を晴れの日に出すとは……つくづく常識外れですな」
「しかし漂う匂いはなんともいえぬ……」
するとクラウスは「ヘルガさん。あなたの分も用意してあります」と別のどんぶりを出してきた。
「お、美味しそうな匂いだけど……」
「ヘルガ。美味しいに決まっている。俺を信じてくれ」
「あなたがそう言うなら……」
恐る恐る口にするヘルガさん。目を瞑ってスプーンですくったうなぎを食べる。
「――っ! 美味しいわ!? なにこれ!?」
ヘルガさんの言葉に貴族たちもびっくり仰天やった。
「うん。美味しいな。クラウス、お前は天才だ」
手放しに褒めるランドルフに「お褒めの御言葉、感謝の極み」と茶化しながら応じるクラウス。
「さあさあ、貴族の方々! うなぎの蒲焼をたくさんご用意いたしました! 是非ご賞味あれ!」
当然、うなぎの蒲焼に人々が殺到したのは言うまでもないやろ。
「ランドルフ。楽しんどるな」
あたしが声をかけると「ああ。とても楽しい」とヘルガさんの肩を抱きながら言うた。
「これで魔族討伐に思い残すことがなく行けるな」
その言葉にヘルガさんの顔が曇る。
あたしは「なんとかならんのか?」と訊ねた。
「今からでも遅ない。あたしがなんとか――」
「やめてくれ。これは男の約束なんだ」
きっぱりと断られてはどうしようもなかった。
「ユーリさんの気持ちはありがたいが――」
「ランドルフさん。それはいただけませんね」
うん? 誰やろ? 聞き覚えのある――
声の主のほうを向くと、そこにおったんは――
「へあ!? あらやだ皇帝じゃないの!」
「どうも皇帝です」
あたしの驚きの声に一斉に注目が集まって――
「陛下!? どうしてここに!?」
「なんでうなぎを食しているのですか!?」
皇帝はうな丼を食べながら驚く参列者に向かって言うた。
「どうも。北の大陸で一番偉い人、皇帝です。いえい」
みんなその言葉に絶句した。誰も何も言えへんかった。
「……あれ? どうして誰も何も言わないんですか?」
「驚いとるに決まってるからやろが!」
反射的に皇帝の頭を叩くと蜂の巣を突っついたような騒ぎになった。
「無礼な! 陛下の頭を叩くとは!」
「いくら平和の聖女でも許されないことがある!」
あ、やばいなこれ。
「みなさん落ち着いてください。今のは不問にします」
皇帝の言葉に水を打ったように静まる。
「さて。ランドルフさん。まずはおめでとうございます」
「……口元にご飯粒付けたまま言われてもなあ」
ランドルフの言葉にヘルガさんは蒼白となって「やめなさいよ!」と小声で叱った。
「失礼。後ですね、先ほどの言葉ですけど、あなたは魔族討伐には行けませんよ」
皇帝の言葉にランドルフは「どういうことだ?」と怪訝そうに言うた。
「どういうことって、結婚した人間は三年間、兵役につけないことになっているんです」
「馬鹿な。そんなこと知らないぞ?」
「ソクラ帝国の法です。ですから結婚したあなたは行けません」
じゃあ誰が――そう言いかけたランドルフに声をかけた人が居った。
「俺が行く。だから安心しろ」
言うたのはランドルフの義兄、フランシスさんやった。
「兄貴――フランシス様、あなたが行くのは――」
「元々行く予定だったのは俺だ。それに父上とも話し合った」
フランシスさんの隣に居るアドルフさんも「そうだ。十分に話し合った」と賛同した。
「いいかランドルフ。確かにフランシスも大事だが、お前だって大事な息子だ。血がつながっていなくてもな」
「しかしおやっさん! 兄貴の腕じゃあ――」
すると「俺が守るよ」とレオが手を挙げた。
デリアは「お兄様? どういうことですか?」と困惑した顔になった。
「デリア。俺も魔族討伐に行くんだ」
「そんなの聞いてないです!」
「言えばお前が悲しむと思ってな。安心しろ。俺は死なない」
そしてランドルフに近づくレオ。
「剣術大会で俺の従兄妹を助けてくれたな。その礼をしたい」
「……礼だなんて、そんな恩義に感じることはないぞ?」
「お前はそう言うと思ったよ」
レオはフランシスさんに向かって言うた。
「ランドルフの代わりに俺があんたを守る。絶対に死なせない」
「ありがとう。とても頼もしいな」
ランドルフは二人をじっと見つめて、そして言うた。
「約束、してくれるか?」
二人もランドルフを見つめる。
「二人とも、絶対に生きて帰ってくる。そう約束してくれ」
フランシスさんが最初に言うた。
「ああ。約束する」
次にレオが言うた。
「ああ、男の約束だ」
ランドルフは満足そうに頷いた。それ以上の言葉は要らんらしい。
こうしてランドルフの代わりにフランシスさんが魔族討伐に行くことになった。まあ元鞘に納まった感じやな。
「そんで、なんであんたはここに居るんや?」
「決まっているでしょう。ユーリさんに用があったんです」
皇帝は生ハムメロンを食べながら言うた。
「今この瞬間からあなたは貴族です。男爵位で家名はオーサカ。今度からユーリ・フォン・オーサカと名乗ってください」
結構軽いんやなと思うた。
ちゅうことでランドルフが結婚して、クラウスが新作料理を披露して、あたしが貴族になったとんでもない日やった。
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