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第十四章 告白編

あらやだ! 家族に打ち明けるわ!

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「……つまり、ユーリは生まれ変わりだと? その、オーサカという都市に住んでいて、子供の身代わりになって死んで、この世界に転生したのか?」

 旅館の一室。あたしはクラウスに協力してもらって、なんとかおとんやおかん、そしてエルザに説明したんや。

「そうや。あたしもクラウスも日本ちゅう国に住んどった。まあクラウスは確か東京やったか?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたっけ。神奈川育ちで東京の料理店で修行してたんですよ」

 そないな会話をしとるとおとんは頭を抑えながら「信じられん。正直、思い当たるところもなかった」と動揺しとるようやった。
 一方、おかんとエルザは納得しとった。特におかんは「私は納得できるわ」と長年の疑問が解けたような晴れ晴れとした顔になっとった。

「そうでないと説明がつかないわ。料理も裁縫も掃除も、教えたことのないのに、私よりも上手にできたのだから」
「まあ隠すつもりはあったけど、できるもんをできないフリするんはきついからな」

 エルザも「だから飴ちゃんのことは秘密にしてたんだ」と呟いた。

「飴ちゃん? エルザ、なんだそれは」
「お姉ちゃんから貰ってたお菓子のことだよ、お父さん」
「何? どうやって手に入れてたんだ?」

 あたしは久しぶりに飴ちゃんをポケットから取り出そうとして、着物やからポケットがないことに気づく。

「あかんわ。ポケットがないから取り出せへん」
「ああ、なるほど。そういう弱点があったんですね」

 クラウスがぽんと手を叩いた。あたしはしゃーなしに口で説明することにした。

「あたしを転生した神様に一つだけ『女神の加護』ちゅう能力を貰うたんや。えっと、ポケットから好きなだけ飴ちゃんが取り出せる能力や」
「……すまんが、前の世界では飴ちゃんは高価なものだったのか?」
「うん? ああ、安いけど」

 おとんは「俺が馬鹿なのか、ユーリがおかしいのか分からんが」と前置きしてから言うた。

「なんでそんな能力を欲したんだ? もっとあるだろう」
「ならおとんはどないな能力にするんや?」

 訊ね返すとおとんはしばらく考えて「少なくともお菓子を取り出す能力にはしないな」とだけ言うた。

「しかしどんな世界か分からなかったのですから、飴ちゃんを選んだのは正解かもしれません」
「どういうことかなクラウスくん?」
「そうですね。たとえば前の世界――前世と言いましょう――では銃という武器があります。前世ではたくさん人を殺せる道具です」

 そう前置きしてからクラウスは「もしもこの世界に銃を持ち込んだらどうなるでしょうか」とおとんに訊ねた。

「……少なくともろくな結果にはならないな」
「そうですね。きっと人をたくさん殺めることになります」

 するとエルザは「お姉ちゃんはそんなことしないと思う」と小さな声で言うた。

「ええ。そもそもユーリさんは銃を召喚できる能力を選んだりしないでしょう。そういう人柄だから飴ちゃんを選んだんです」
「……一応は納得できる」

 いやそないな深い考えで選んだわけやないけどな。

「それでこれからどうするんだ?」

 おとんはあたしに訊ねてきた。

「どうするって、どういう意味やねん?」
「はっきり言ってユーリが俺の娘なのは変わりない。俺よりも年上だとしてもだ。家族の絆が壊れたりしないだろう。マーゴットだってエルザだって、同じ思いだろう」

 おとんの言葉におかんが頷いた。エルザは何も言わへんかった。

「今更娘に生まれ変わりの記憶があるとか言われても、学のない俺にはピンと来ない。俺は変わらずユーリを愛するし、親で居るつもりだ。しかしお前はどうなんだ? いやお前たち姉妹はどうなんだ?」

 おとんの言いたいことは分かる。でも言葉にするんはできひんかった。

「今回のエルザの暴走、だっけか。そのきっかけは前世に帰りたいと言ったユーリにある。エルザがショックを受けるのも分かる。ユーリが前世の家族に会いたいのも分かる。両方の気持ちが分かっているんだ」

 おかんをちらりと見る。何も言わんと上を見とった。

「エルザ。お前は何が嫌だった?」
「……お姉ちゃんの言葉もあるけど、手紙も嫌だった」

 手紙? 家出するときに残した手紙のことか?

「お姉ちゃんが遠くに行ってしまうように思えて、実際に行っちゃって。お姉ちゃんが離れていくのが嫌だった」

 次第に目に涙が溜まっていく。そしてあたしに向かって叫ぶように訴えた。

「平和の聖女とか言われても! ランクSの魔法使いでも! お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん! 優しくて頼りがいがある、私のお姉ちゃんだもん! 前世がどれだけ楽しくても、私のお姉ちゃんなんだもん!」

 そしてとうとう泣き出してしもうた。おろおろしたあたしに代わって、おかんがエルザを抱きしめる。

「……せやな。家族やもんな」

 あたしは今まで心に仕舞っとった思いの丈を言うことにしたんや。

「あたしな。前世では孤児やったんや」

 誰も何も言わへんかった。おとんは黙ったままやった。おかんは息を飲んだ。クラウスは目を閉じた。エルザは泣きながらあたしを見つめとる。

「前世の産みの親は交通事故で亡くなってな。まだ赤ん坊やったあたしは施設に送られた。せやから親に育てられるちゅう経験がなかったんや」

 あたしは自分が知らず知らず泣いとることに気づいた。

「前世で夫と出会って、子供も三人産んだ。そうやって家族ができたんや。せやから家族に会いたい気持ちを無くすことはできひん。でもな、今の家族にも感謝しとるんや」

 流れるままの涙。あたしは家族に向かって言うた。

「暖かい家庭で育ったことに感謝しとる。優しい両親に可愛い妹。それが心から嬉しかったんや。前世ではできひんかったことができた。ほんまに、感謝、しとるんや……」

 それ以上、言えへんかった。ぽたぽた流れる涙。異世界でこないに泣いたことがなかった。
 クラウスがすっと立ち上がって、部屋を出た。家族だけにしてくれたんや。

「ユーリ。今だから言うと、私はあなたのことが怖かったの」

 おかんがそう言うて、あたしを真正面から抱きしめてくれた。

「自分の娘じゃない気がして。でもそれは間違いだった。あなたは私の子よ」

 どっと涙が溢れた。おかんにそう言うて貰うんは嬉しかった。
 思えばおかんを助けるために治療魔法士になろうとしたんや。

 それからあたしたち家族は一夜を語り明かした。前世のことや魔法学校のこと、エルフの国のことを話した。
 笑って泣いて、時に叱られて。
 そして最後は笑いあったんや。

 夜が明けて、あたしはこう言うた。

「みんな。この村に住まんか?」

 あたしの提案にみんなが戸惑った。

「温泉に浸かることでおかんの病気も良くなると思うし、何より誰か村を導いてくれる人が居らんとあかん。それはおとんに任せたいんや」

 おとんは「つまり村長になれと言うわけか」と腕組みした。

「そうや。おとんなら山賊相手でもなんとかなるやろ」
「まあな。しかしユーリ、それでいいのか? お前が村長になっても――」
「あたしはそういうのあかんみたいや」

 あたしは家族に向かって言うた。

「ようやく家族に自分の秘密言えた人間やで? そないな臆病者、村長みたいなお偉いさんに向かんやろ。前々から村長は誰かに託そう思うてたんや」

 おとんは「そういうことならいいぜ」と快諾した。

「マーゴットの静養にもなるし、大工ギルドは別の奴に任せることにする」

 そういうことでアリマ村はおとんが村長することになった。
 意外と反対の声は挙がらんかった。それはあたしの影響やなく、おとんの人柄が良かったからや。

 一先ず大工ギルドをやめるためにおとんだけプラトに帰って、あたしたちはしばらくアリマ村に留まることになった。
 そうして、三日が経った頃。

「姐御。手紙が来てますぜ」

 あたしがエルザと一緒にアルムに魔法の訓練を受けとったとき、ワールがやってきた。

「手紙? 誰からや?」
「すみません。文字が読めないもんで」
「ああ、そやったな。手紙貸してくれるか?」

 あたしは手紙を受け取った。上質な羊皮紙やった。
 手紙を開くと、こう書かれとった。

『クラウスに聞いたわよ。何がどうなって村づくりしてるのか知らないけど、エーミールのことは吹っ切れたのかしら? それなら私と勝負しなさい。あなたのいない魔法大会の優勝者なんて意味ないわ。デリア・フォン・ヴォルモーデンの名において、ユーリ、あなたに勝負を申し込むわ。風の月の五日にイデアルの私の屋敷に来なさい。お祖父さまが新しく建ててくださったのよ。イレーネとランドルフも来るはずだわ。クラウスと一緒に来なさい。無双の世代同士、話したいことが山ほどあるのよ。それじゃ、待ってるから。デリア・フォン・ヴォルモーデンより』

「お姉ちゃん。どうするの?」

 何故か楽しげなエルザ。あたしは「もちろん行くで」と答えた。
 自然と笑みが零れる。

「久々にみんなに会いたいしな。そうとなったらあたしオリジナルの魔法、完成させなあかんな!」
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