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第十章 エルフの国編

あらやだ! ローズの策だわ!

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「まずは自己紹介しましょうか。私の今の名はローズ・フォスター。キーファーの出自よ」
「うん? キーファーやったら、なんで革命軍に参加しとるんや?」

 真っ先に浮かぶ疑問をローズは予想していたようで「この国の終わりを感じたのよ」と素早く詩的に答えた。

「閉鎖的で開港しているのは、同じエルフの国、フリュイアイランドしかない。加えて差別的身分で国内の治安が悪化。さらに革命軍が組織されたら、この国はおしまいよ。だから革命軍に肩入れして、自分の身の保障を図ったのよ」
「ふうん。国に対して恩義とかあらへんのか?」
「そんなものないわよ。私の故郷は前の世界のフランスだけよ」

 あたしは思わず「あんたフランス人やったんか!?」と大声で言うてもうた。

「声がでかいわよ。前世の名前はロアナ・コルベール。あなたは?」
「あたしは鈴木小百合や」

 名乗るとローズは「どうしてその話し方でバレないと思ったのかしら?」と不思議そうに言うた。

「明らかに関西弁を話しているのに、みんなは違和感覚えないのかしら?」
「そういえば、関西弁を指摘されたのは、あんたが初めてやな」

 ローズは腕組みをして「これも転生者だから分かることかもね」と一応の答えを示した。

「でもローズ。あんたはフランス人なのに、どないして関西弁が分かるんや?」
「死ぬ直前まで日本に居たのよ。留学してたのよ」
「じゃああんたは若くして亡くなったんか……」

 同情するとローズは「私の美しさに魅入られた日本人の男に殺されたのよ」とシニカルに笑った。

「どういうこっちゃ?」
「同じ大学の男子学生に『付き合ってくれないと君を殺して僕も死ぬ』と言われたのよ。暗い夜道で。それで断ったら脇腹を刺されてね。多分大量出血で死んじゃったのよ」

 ……なかなかハードやな。

「あなたはどうやって死んだの?」
「うん? 子供を庇ってトラックに跳ねられたんや」
「……かっこいいわね。そんな死に方が良かったわ」
「ほんまにそう思うてる?」
「半分だけ。本当はもっと生きたかったのよ」

 ローズは悲しげに笑った。

「それでマドレーヌとか言う女神に会って、この世界に転生されたわ。でもまさかエルフになるとは思わなかったわ。指輪物語じゃないんだから、勘弁してほしいわ」
「あたしも人間以外の種族の転生者を見るの初めてやわ。なんだか初めてが多いなあ」
「人間のほうが良かったわよ。エルフなんて負け犬じゃない」

 まあ人間と龍族の戦争の負けたことを言うてるやろうけど、それは仕方ない話や。

「でもまあこの美しさを手に入れたのは嬉しいわね」
「確かに。ボタン女王より綺麗やったわ」
「あんな中年のおばさんと比べないでよ」
「いや、あのエルフも綺麗やったで?」

 ローズは「まあ褒め言葉として受けとっておくわ」と綺麗な髪をかき上げた。

「それで、ここから重要な話よ」
「……平和的な解決のことか?」

 ローズは黙って頷いた。

「このまま革命軍が王城を攻めたとしても、勝ち目がないわ。こっちは五千。向こうは二万も居るんだから。それに四つの方面軍が援護に回ったら囲まれてしまう。確か四面楚歌っていうのかしら?」

 あんまり詳しくないので正しいか分からんがとりあえず頷いておいた。

「でも人間の軍がこっちにやってくるじゃない? 何人か分からないけど、おそらく一万ほどだと睨んでいるの」
「それでも一万五千やな」
「ええ。だから勝算のない戦いを挑むのはナンセンスよ。確実に政権を奪う方法が必要だわ」
「それはどないな方法や?」

 ローズは「これから革命軍で話し合いをするんだけどね」と前置きしてから言うた。

「一ヵ月後に行なわれるカサブランカ王子の即位式。そのとき、ボタン女王に移譲を拒否してもらって、王子の正統性を無くした上で、忍び込んだ革命軍による王子派の排除するのよ」

 あたしは「……そないに上手くいくんか?」と訊ねた。

「まずボタン女王が言うこと聞くか分からん。そりゃ王子に無理矢理退位されそうになっとるけど、いずれ譲る王位を惜しむエルフなんか?」
「そこは私が説得するわ。いざとなったら奥の手もあるし」

 奥の手? もしかして女神の加護か?

「革命軍を忍び込ませる方法は?」
「既に軍の部隊長を買収済みよ」

 ローズの策は楽観的過ぎて不安になってまうなあ。

「即位式やろ? 周りの方面軍とやらが集まったりせえへんかな」
「まあ各軍の半数は集まるでしょうね。でも移譲の拒否によって信用が落ちるはずだから、上手くいけば味方になるわよ。それに方面軍の中には身分制度を否定しているエルフも多いしね」

 あたしは不安を覚えながらも「まあええわ。それであたしにできることは?」と訊ねる。

「話はローレルに聞いたわ。親友がカサブランカ王子の妃にされそうなんでしょ? 私たちがかく乱してあげるから、見つけて奪いなさい」
「もうちょっと具体的な策はないんか?」
「仕方ないでしょ。まだ革命軍に話通してないんだから」

 そのとき、ドアをノックする音がした。ローズは立ち上がった。

「彼らを待たせるのはこれが限界ね。これから革命軍との論争よ。あなたも協力してね」
「まあええけど……」

 味方するのはやぶさかではないな。一番血が流れへんやり方でもあるし。

 というわけであたしとローズは先ほどの部屋に戻り、始まった革命軍の会議で、さっきの策を提案したんやけど――

「……駄目だ。上手くいく保証がない」

 リーダーのツツジがはっきりと反対したんや。

「……訳を聞かせてもらおうかしら?」
「ボタン女王が信頼できるかどうか分からん。それに王城ならまだしも即位式に革命軍を忍び込ませる方法は? 王子派の人数が把握しているのか? そもそも引き入れる部隊長が信用できるのか?」

 うわあ。確かに穴だらけやな。これでは援護しても難しそうや。

「じゃあいつ革命を起こすのよ? 即位式しかないじゃない!」
「時期が早い。革命軍の規模の拡大が重要だ」
「それで血を血で洗う闘争を行なうの? いい? 今しかないのよ!」

 ローズは円卓をバンっと叩いて喚いた。

「長年の結果で戦えるのが五千しかいないのが現状じゃない! それに、大義名分を得るのは今しかないのよ! それがどうしてわからないの!」

 どんなに喚いても円卓を囲むエルフでローズの味方はおらんかった。

「あたしはローズの策に賛成や。カサブランカ王子が王位に着いたら、大義名分が無くなる。それはあかんやろ」

 一応援護してみるものの「人間は黙ってくれ」みたいな視線を浴びる結果にしかならんかった。
 このままローズの策を用いられずに終わるかと思いきや――

「そうだな。我輩に良い考えがある」

 口を開いたのはケイオスやった。

「どんな策があるというんだ?」

 ツツジの言葉にケイオスはあたしを指差して言う。

「ユーリにボタン女王を説得させる。そのためにこの女を王子に差し出すのだ」

 ……言っている意味が分からんかった。

「ケイオス、あんた何を言って――」
「ユーリ。お前が説得するんだ」

 ケイオスは至極まともな顔で言うた。

「わざと捕まって、ボタン女王の傍に付き、彼女を説得しろ」
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