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第十章 エルフの国編

あらやだ! エルフの美女だわ!

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 あたしは全てを承知で革命軍に協力しようとしてたんや。
 エルフ国軍と革命軍。二つの軍勢が戦うとなると、必ず少なくないエルフたちが死ぬことになるのを分かっていて、話に乗ったんや。

「ユーリさん。僕は行きますが、本当によろしいのですか?」

 早朝。革命軍の本拠地の隠れ里の外。
 港に向かって出発するクラウスは笑顔やなくて、どこか曇っていた。

「クラウス。あたしやって馬鹿やない。戦争になったら多くのエルフが死ぬことぐらい十分分かっとる」
「……それでも協力するのは、イレーネさんのためですね」

 流石クラウスや。あたしは黙って頷いた。
 今こうしているうちにあのカサブランカちゅう子供にどんな目に合わされているのか。想像したくない。一刻も早く助け出したい。
 イレーネちゃんのためならエルフやあたしの命は――

「ユーリさん。あなたの『平和の聖女』の名が泣きますよ」
「分かっとる。それも十分分かっとるんや」

 クラウスは馬車の中に入るときにこう言い残した。

「あなたなら、もっとスマートに解決できる方法を考えられるはずです。人やエルフを殺したくないのなら、ギリギリまで考えてください」

 あたしは黙って頷いた。

 クラウスを見送った後、革命軍の食堂で朝ご飯を食べとるケイオスの横に座って、溜息を吐いた。

「なんだ後悔しているのか? 人やエルフはいずれ死ぬんだ。早いか遅いかの違いだろう?」
「食べながらそないなこと言うな。あたしは分かっとる」
「ふん。分かってはいるが認めたくはない。そんな感じだな」

 鋭い指摘にあたしは何も言えへんかった。

「ユーリ。そんなに嫌なら今から王城に行って、一人で戦って死んだらどうだ?」
「……前々から思うたけど、ケイオス、あんたは冷たいんやな」
「うじうじしているのならそうしたほうがいいと言っただけだ」

 ケイオスは綺麗に残さず食べた後、ナプキンで口元を拭いて、そして言う。

「ま、お前は我輩が守るさ。安心しろ。それで借りは返したことになるがな」
「……そうか。それはありがたいわ」

 あたしは何も食べる気がせえへんかったので、水差しからコップに注いだ水をゆっくりと飲む。故郷のプラトの水より美味しかったけど、肌には合わへんかった。

「ここに居たのか。ユーリ、ケイオス。リーダーがお前たちに会いたいそうだ。来てくれ」

 食堂に入ってきたローレルがそう言うたのであたしとケイオスは立ち上がり、後を着いていった。
 革命軍の隠れ里は一つの集落になっていて、商店や武器庫、兵士の家などがあった。獣人の村より栄えている感じやな。
 その隠れ里の中心に大きな建物がある。今まで入ったことはないけど、おそらくここに革命軍のリーダーが居るな。

「リーダー。ユーリとケイオスを連れてきました」

ローレルがドアをノックして言うと「中に入りなさい」と返答があった。
 中に入るとそこには背の高いエルフの中でもかなり大きなエルフが円卓の奥に座っとった。しかし例に漏れず、エルフらしく筋肉質ではない。針金細工のように細い。多分彼がリーダーやろ。
 円卓には他にも五人ほどのエルフが座っとったけど、一番気になったのはリーダーらしき男の右横に座っとる女エルフや。ボタン女王も美しかったけど、それよりも数十倍美しいエルフやった。こないに美しい女性は人間どころかエルフでも見かけなかった。

「君がユーリとケイオスか。私が革命軍のリーダー、ツツジだ」

 やっぱりそうか。背の高いエルフ――ツツジが挨拶したのであたしたちも自己紹介した。

「あたしはユーリと申します」
「我輩はケイオスだ」
「なるほど。その歳にしては肝が据わっているな」

 そう言って指を組んであたしたちをじっと見る。

「流石に使者に選ばれるだけあるな」
「あはは。まあ度胸があらへんかったら、ここには居りませんな」

 そう返して、あたしも円卓の椅子に座ろうとしたとき――

「ねえツツジ。ユーリちゃんとちょっとだけ話をさせてくれないかしら?」

 物凄い美女のエルフが不意に言うた。

「ローズ。今重要な話をしようと――」
「いいじゃない。私はこの子と話したいの。奥の部屋借りるわね」

 リーダーの制止も聞かずにローズと呼ばれたエルフは立ち上がり、あたしの手を取って、奥の部屋に連れて行く。

「え? どこに行くんや?」
「奥の部屋よ。変なことしないから、安心して」

 周りの批判的な目を無視して、あたしたちは奥の部屋に入った。
 中に入るなり、がちゃりと鍵を閉めるローズ。

「えっと。あなたは――」
「ちょっと待って。いろいろ考えるから。そこの椅子に座って」

 ぴしゃりと言われたのでしゃーないから三つある椅子の一つに座った。
 ローズは部屋の中を歩き回った。考え事しとるんかな。

「……一応、質問するけど、訳が分からないのなら、正直にそう言って」

 なんやろ。どきどきするわ。
 ローズはあたしが頷くのを見て、こう質問したんや。

「あなた――日本人? それも関西人なの?」

 突然でしかも秘密を突かれた質問にあたしは「ええ!?」と驚いてもうた。
 その反応でローズは「やはりね」と笑った。

「あんた何者なんや? どうして分かったんや」

 誤魔化すのも無理やなと思うて、訊ねるとローズははっきりとこう言うたんや。

「私も転生者よ」
「はあ!? あんたもか!?」
「あなたは誰から転生してもらったの? マドレーヌ? エクレア? それともミルフィーユ?」
「あたしの場合はミルフィーユや」

 ローズは「私はマドレーヌよ」と言うた。

「まさかエルフにも転生者が居るとは……」
「あら。人間だけの特権じゃないわよ。まあ私の場合は特殊だけどね」

 そしてローズは「ここからが本題だけど」と言う。

「この革命を武力ではなく、平和的に解決させたいのよ」
「……なんやて?」
「ま、その前にいろいろと話すことがあるわね」

 ローズはにこにこしながら話を進めた。

「どうしてあなたの正体が分かったのか。どうして私がエルフに転生したのか。そしてさっき言った平和的な解決策。時間はたっぷりとないけど、それでも話せるわ」

 ローズは語りだす。
 彼女の転生した後の人生を交えながら。
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