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第三章 郊外訓練編
あらやだ! 自主修練をするわ!
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授業始まってから一週間が経過したんやけど、なんちゅうか学生気分が懐かしくてたこ焼きみたいにふわふわしとるんが正直な感想やな。まあ、学生なんて前世と異世界で生きた十年間を含めたら四半世紀以上前のことやし、しゃーないって言えばそれまでやけど。
それにしても魔法学校ちゅうのは前世でいうところの防衛大学みたいなところやった。習う教科は全て魔法使い、要は兵士になるような事柄ばっかやし。薬草学や治療魔法基礎みたいな平和そうな授業でも戦争に役立つようなことばかり教えよる。
それもこれも隣国のアストとの戦争が近づいとるからやろか。今でこそ休戦協定を結んどるけど、五年前まではバリバリ戦っとった。
おとんのヨーゼフはギルドのマイスターやったから徴兵を逃れられたんやけど、そん代わりにたくさんの徒弟たちが死んでしもうたと嘆いとったなあ。
せやけど一年生の授業は比較的に優しかった。いや内容は過激やけど無理なカリキュラムは組まれとらん。自衛隊のように走りこみをしたり、筋トレしたりせえへん。詰め込み教育もされへん。無理難題な宿題も出されへん。
矛盾しとるようやけど、軍学校でありながら自由なとこもあったりする。購買で甘いもんも買えるし、晩ご飯ならおかわり自由や。
うーん、このままやと逆に身体がなまってまう。っちゅーわけでどないしたらええんか、廊下を歩いとったクヌート先生に相談することにした。
「なんだユーリ。お前も自主修練したいのか。自習じゃ足らないのか」
「自習も自習で忙しいんですけどね。うん? お前『も』ってどういうことですのん?」
「ランドルフもクラウスも、昨日同じことを言ってきた。まったく今年のランクSは向上心ありすぎて困るぜ」
「はあ。あの二人も同じこと言うたんですか」
明確な夢のあるクラウスは分かるけど、ランドルフもやっとるんは意外やな。何か目標があるんやろか?
「そういうわけで、お前にもこれをやる」
手渡されたんは銀色に輝く鍵やった。
「鍵ですか? どこの鍵です?」
「魔法学校の北西にある塔、通称修練塔と呼ばれる建物だ。そこで修練しろ。十分広いし、走ったり跳ねたりもできるぞ。二人も持っている」
「なんやえらい優遇されますなあ、ランクSは」
「それくらい貴重な存在なんだよ。あ、二人が怪我したら治してやれよ。今だったら切り傷ぐらい治せるだろ」
そんなわけで修練塔の鍵を手に入れたので、イレーネちゃんも誘って行くことにした。
「ランクSの三人の集まりに来ていていいんですか?」
「ええんやないか? 別に駄目って言われてないし。イレーネちゃんもつよーなりたいんやろ?」
「そうですけど、ランクの低い私が居ても……」
「そないなこと、言わんとき。努力すれば、いずれランクAにもSにもなれるやろ」
これは誤魔化しや慰めでもなく、本気でそう思っとる。イレーネちゃんはあたしら特殊班――アデリナ先生に命名された――の次に魔力の球を作ることができたんや。才能はあるに決まっとる。
修練塔の扉を銀色の鍵を使って開けると、びしゅんと風を切る音が響いとった。
「うん? なんだ、ユーリさんも来たのか」
「あはは。賭けは僕の勝ちですね」
ランドルフは汗だくになりながら真剣を素振りしとった。風を切る音はそれが原因やな。
クラウスは魔力の球をまるでバレーのトスのように上にあげたりしとる。
「それじゃ、ランドルフさん。料理本買ってください」
「仕方ねえな。今度の休みでいいか?」
「なんやねん。あたしが来うへんほうに賭けとったんか」
「ジャンケンで負けたんだよ。俺も来るほうに賭けてた――っと。イレーネも来たのか」
後ろにいたイレーネちゃんはランドルフの言葉に「あのう。やっぱり場違いですよね」と今更ながら怖気ついとった。
「んなことあるかいな。ほら、一緒に修練するで」
「はあ……でもどんな修練をするんですか?」
「まずは準備運動からやな」
準備運動と聞いてきょとんとするイレーネちゃん。
「準備運動? なんですかそれ?」
「文字通り身体を動かす準備の為の運動や。これせんと肉離れ起きるで」
「そ、そうなんですか。聞いたこと無かったです」
確かに思い返せば、戦闘訓練のときはやっとらんかったな。
「まあやってみいや。まずは屈伸からや。あたしの真似してなー」
「屈伸? ああ、分かりました」
そんで準備運動が終わったから、修練塔の中を走ることにした。
「行くでー。無理せん程度に着いてきて。とりあえず百周するわ」
「ひゃ、百周ですか!?」
「そうや。持久力は必要やからな」
っちゅーわけでマラソンスタートや。修練塔は長方形に作られとって、短い辺が十m、長い辺が十五mくらいになっとる。一周五十mやから百周は五kmやな。
そんなわけで四十分かけて百周を終えたんやけど、イレーネちゃんは早々にギブアップしてもうた。正確には六十周でダウンしてしまったんや。その場に座り込んで荒い息遣いをしとる。一方のあたしは全盛期よりもタイムが下がっとることに軽いショックを受けた。こんなはずちゃうかったのに。
「イレーネちゃん、大丈夫か?」
「はあ、はあ、はあ……」
「うーん、今日はこれくらいにしとくか?」
「な、なんで、ユーリは、平気、なんですか?」
これは体力云々やなくてテクニックの話や。効率のええ走り方、ペース配分、呼吸法とかあったりする。それを知らんで走るんは相当キツいやろなあ。
イレーネちゃんにそのことを教えると「……どうして教えてくれなかったんですか」と滅茶苦茶恨めしい目で見てきた。怖いなあ。
「基礎体力がどれぐらいあるか、見極めたかったんや。堪忍やで」
「ユーリの、意地悪……」
「別に意地悪でやってへんで。それじゃあ次はアデリナ先生の課題をしよか」
アデリナ先生の課題は魔力の球のキャッチボールや。自分の魔力を込めて相手に投げる。言葉にすれば簡単なことやけど、案外難しい。自分の魔力で球を壊さぬよう、形が歪まぬようにコントロールして五m先の相手に投げ渡す。受け取るほうは球を受け取った後、同じように魔力を込める。それの繰り返しや。
へとへとのイレーネちゃんやったけど、キャッチボールは上手にやれとる。むしろあたしのほうが下手やったりする。こういうちまちましたんは苦手やなあ。
キャッチボールしとるとランドルフが変なことを言うてきた。
「ユーリさん。ちょっと魔力の球をこっちに投げてくれないか?」
「うん? ええけど、なにするつもりなん?」
ランドルフは剣を中段に構えとる。
「ちょっと斬れるかどうか、やってみたいんだ」
「魔力を剣で斬れるんか? イレーネちゃん、どうなんや?」
「いやできないと思います。魔法を剣で防ぐなんて、聞いたことないです」
あたしも無理やと思ったけど、ランドルフは「いいから投げてくれ」と聞かんかった。
「はあ。分かったわ。そんじゃあ、行くでえ!」
思い切り振り被って、魔力の球を投げつけた。ランドルフは「うおおおお!!」と雄叫びをあげて――縦に魔力の球を斬った。
「おお! 凄いわ!」
「う、嘘!?」
女子二人の驚きはそれに留まらんかった。なんと球に込められた魔力が暴走して、軽い水蒸気爆発を起こした。
ぶばぁんっと破裂音だか爆発音だかはっきりせえへんが、そないな音が修練塔に響いた。
衝撃で倒れそうになるイレーネちゃんを後ろから支える。魔力の球で遊んどったクラウスもびっくりしてこっちを見た。
「ランドルフ! 無事か!」
急いで駆け寄るとランドルフは「くそ。右腕を火傷しちまった」と腕を見せた。火傷ができとって痛々しい。
「ああ、魔力を斬るのはできるけど、こうなるから誰もやらなくなったんですね」
呆然とイレーネちゃんは呟いた。
「とりあえず医務室に連れて行きましょう」
クラウスはランドルフの様子を見てから言うた。
「なんで水蒸気爆発が起こったんやろ」
「ユーリさんの属性が風と水だったからじゃないですかね?」
「なるほどなあ。あ、ちょうどええわ。あたしが治したる」
そう言うてあたしはランドルフの右腕に手をかざした。大丈夫、治療魔法基礎で火傷の治し方は習ったし、図書室で火傷に関する本を読みまくった。自分を信じるんや。
オレンジ色の光が右腕を包む。すると少しずつ火傷が治り、綺麗な白い肌に戻ってった。
「おお、すげえ。まるで魔法だな」
「医者要らずとはまさにこのことですね」
「ユーリ、凄いです! ……ユーリ?」
三人の賞賛の声に答えられんかった。何故なら酷く疲れてしもうたからや。
「だ、大丈夫ですか!? ユーリ!」
「へ、平気やって強がりたいんやけどな。あかん。体力をごそっと持ってかれるわ」
「なるほど。だから治療魔法士が発展しなかったんですね」
クラウスは顎に手を置いて考えとった。
「その程度の火傷を治すのに、体力のあるユーリさんをそこまで消耗させる。厳しいですね」
「……すまないな、ユーリさん」
「ランドルフ、謝ることないで。っちゅーかおおきにや。初めて実践できたからなあ」
うーん。問題点が浮き彫りになってきた感じや。傷を治すんはもちろんエネルギーが要ることやとなんとなく思っとったけど、まさかここまで効率の悪いとは思わへんかった。
「まだ時間があるとはいえ、解決できるのかいな」
「まだ一週間しか経ってないのに、悩むことねえよ」
ランドルフが言うたけど、そのとおりやな。
これから六年間、頑張るだけや。
ランドルフが負傷して、あたしも体力が無くなったので、今日はこれでお開きになった。しかしどうしてランドルフは魔力を斬ろうと思うたんか、そこらへんは理解できひんかったな。
それから学食で飯食って、デリアにからまれて、部屋に帰って湯浴みしてから、その日は就寝した。
明日も同じ日の繰り返しや。そう思っとった。
しかしそれが変わる出来事が起こってまう。
翌日のことやった。あたしがいつものようにイレーネちゃんと朝ご飯食べに学食に向かう途中、学校からの知らせを貼ってある掲示板のところに一年生が集まっとった。
「なんやろ。ちょっと見にいかへん?」
「そうですね。何か重大な連絡かもしれません」
人ごみの中に割って入ると、そこにはこう書かれとった。
『一年生全員に告ぐ。二週間後、郊外訓練を行なう。準備と修練を怠ることないように』
郊外訓練。古都の外での実戦訓練や。
つまり、魔物と戦うことになる――
それにしても魔法学校ちゅうのは前世でいうところの防衛大学みたいなところやった。習う教科は全て魔法使い、要は兵士になるような事柄ばっかやし。薬草学や治療魔法基礎みたいな平和そうな授業でも戦争に役立つようなことばかり教えよる。
それもこれも隣国のアストとの戦争が近づいとるからやろか。今でこそ休戦協定を結んどるけど、五年前まではバリバリ戦っとった。
おとんのヨーゼフはギルドのマイスターやったから徴兵を逃れられたんやけど、そん代わりにたくさんの徒弟たちが死んでしもうたと嘆いとったなあ。
せやけど一年生の授業は比較的に優しかった。いや内容は過激やけど無理なカリキュラムは組まれとらん。自衛隊のように走りこみをしたり、筋トレしたりせえへん。詰め込み教育もされへん。無理難題な宿題も出されへん。
矛盾しとるようやけど、軍学校でありながら自由なとこもあったりする。購買で甘いもんも買えるし、晩ご飯ならおかわり自由や。
うーん、このままやと逆に身体がなまってまう。っちゅーわけでどないしたらええんか、廊下を歩いとったクヌート先生に相談することにした。
「なんだユーリ。お前も自主修練したいのか。自習じゃ足らないのか」
「自習も自習で忙しいんですけどね。うん? お前『も』ってどういうことですのん?」
「ランドルフもクラウスも、昨日同じことを言ってきた。まったく今年のランクSは向上心ありすぎて困るぜ」
「はあ。あの二人も同じこと言うたんですか」
明確な夢のあるクラウスは分かるけど、ランドルフもやっとるんは意外やな。何か目標があるんやろか?
「そういうわけで、お前にもこれをやる」
手渡されたんは銀色に輝く鍵やった。
「鍵ですか? どこの鍵です?」
「魔法学校の北西にある塔、通称修練塔と呼ばれる建物だ。そこで修練しろ。十分広いし、走ったり跳ねたりもできるぞ。二人も持っている」
「なんやえらい優遇されますなあ、ランクSは」
「それくらい貴重な存在なんだよ。あ、二人が怪我したら治してやれよ。今だったら切り傷ぐらい治せるだろ」
そんなわけで修練塔の鍵を手に入れたので、イレーネちゃんも誘って行くことにした。
「ランクSの三人の集まりに来ていていいんですか?」
「ええんやないか? 別に駄目って言われてないし。イレーネちゃんもつよーなりたいんやろ?」
「そうですけど、ランクの低い私が居ても……」
「そないなこと、言わんとき。努力すれば、いずれランクAにもSにもなれるやろ」
これは誤魔化しや慰めでもなく、本気でそう思っとる。イレーネちゃんはあたしら特殊班――アデリナ先生に命名された――の次に魔力の球を作ることができたんや。才能はあるに決まっとる。
修練塔の扉を銀色の鍵を使って開けると、びしゅんと風を切る音が響いとった。
「うん? なんだ、ユーリさんも来たのか」
「あはは。賭けは僕の勝ちですね」
ランドルフは汗だくになりながら真剣を素振りしとった。風を切る音はそれが原因やな。
クラウスは魔力の球をまるでバレーのトスのように上にあげたりしとる。
「それじゃ、ランドルフさん。料理本買ってください」
「仕方ねえな。今度の休みでいいか?」
「なんやねん。あたしが来うへんほうに賭けとったんか」
「ジャンケンで負けたんだよ。俺も来るほうに賭けてた――っと。イレーネも来たのか」
後ろにいたイレーネちゃんはランドルフの言葉に「あのう。やっぱり場違いですよね」と今更ながら怖気ついとった。
「んなことあるかいな。ほら、一緒に修練するで」
「はあ……でもどんな修練をするんですか?」
「まずは準備運動からやな」
準備運動と聞いてきょとんとするイレーネちゃん。
「準備運動? なんですかそれ?」
「文字通り身体を動かす準備の為の運動や。これせんと肉離れ起きるで」
「そ、そうなんですか。聞いたこと無かったです」
確かに思い返せば、戦闘訓練のときはやっとらんかったな。
「まあやってみいや。まずは屈伸からや。あたしの真似してなー」
「屈伸? ああ、分かりました」
そんで準備運動が終わったから、修練塔の中を走ることにした。
「行くでー。無理せん程度に着いてきて。とりあえず百周するわ」
「ひゃ、百周ですか!?」
「そうや。持久力は必要やからな」
っちゅーわけでマラソンスタートや。修練塔は長方形に作られとって、短い辺が十m、長い辺が十五mくらいになっとる。一周五十mやから百周は五kmやな。
そんなわけで四十分かけて百周を終えたんやけど、イレーネちゃんは早々にギブアップしてもうた。正確には六十周でダウンしてしまったんや。その場に座り込んで荒い息遣いをしとる。一方のあたしは全盛期よりもタイムが下がっとることに軽いショックを受けた。こんなはずちゃうかったのに。
「イレーネちゃん、大丈夫か?」
「はあ、はあ、はあ……」
「うーん、今日はこれくらいにしとくか?」
「な、なんで、ユーリは、平気、なんですか?」
これは体力云々やなくてテクニックの話や。効率のええ走り方、ペース配分、呼吸法とかあったりする。それを知らんで走るんは相当キツいやろなあ。
イレーネちゃんにそのことを教えると「……どうして教えてくれなかったんですか」と滅茶苦茶恨めしい目で見てきた。怖いなあ。
「基礎体力がどれぐらいあるか、見極めたかったんや。堪忍やで」
「ユーリの、意地悪……」
「別に意地悪でやってへんで。それじゃあ次はアデリナ先生の課題をしよか」
アデリナ先生の課題は魔力の球のキャッチボールや。自分の魔力を込めて相手に投げる。言葉にすれば簡単なことやけど、案外難しい。自分の魔力で球を壊さぬよう、形が歪まぬようにコントロールして五m先の相手に投げ渡す。受け取るほうは球を受け取った後、同じように魔力を込める。それの繰り返しや。
へとへとのイレーネちゃんやったけど、キャッチボールは上手にやれとる。むしろあたしのほうが下手やったりする。こういうちまちましたんは苦手やなあ。
キャッチボールしとるとランドルフが変なことを言うてきた。
「ユーリさん。ちょっと魔力の球をこっちに投げてくれないか?」
「うん? ええけど、なにするつもりなん?」
ランドルフは剣を中段に構えとる。
「ちょっと斬れるかどうか、やってみたいんだ」
「魔力を剣で斬れるんか? イレーネちゃん、どうなんや?」
「いやできないと思います。魔法を剣で防ぐなんて、聞いたことないです」
あたしも無理やと思ったけど、ランドルフは「いいから投げてくれ」と聞かんかった。
「はあ。分かったわ。そんじゃあ、行くでえ!」
思い切り振り被って、魔力の球を投げつけた。ランドルフは「うおおおお!!」と雄叫びをあげて――縦に魔力の球を斬った。
「おお! 凄いわ!」
「う、嘘!?」
女子二人の驚きはそれに留まらんかった。なんと球に込められた魔力が暴走して、軽い水蒸気爆発を起こした。
ぶばぁんっと破裂音だか爆発音だかはっきりせえへんが、そないな音が修練塔に響いた。
衝撃で倒れそうになるイレーネちゃんを後ろから支える。魔力の球で遊んどったクラウスもびっくりしてこっちを見た。
「ランドルフ! 無事か!」
急いで駆け寄るとランドルフは「くそ。右腕を火傷しちまった」と腕を見せた。火傷ができとって痛々しい。
「ああ、魔力を斬るのはできるけど、こうなるから誰もやらなくなったんですね」
呆然とイレーネちゃんは呟いた。
「とりあえず医務室に連れて行きましょう」
クラウスはランドルフの様子を見てから言うた。
「なんで水蒸気爆発が起こったんやろ」
「ユーリさんの属性が風と水だったからじゃないですかね?」
「なるほどなあ。あ、ちょうどええわ。あたしが治したる」
そう言うてあたしはランドルフの右腕に手をかざした。大丈夫、治療魔法基礎で火傷の治し方は習ったし、図書室で火傷に関する本を読みまくった。自分を信じるんや。
オレンジ色の光が右腕を包む。すると少しずつ火傷が治り、綺麗な白い肌に戻ってった。
「おお、すげえ。まるで魔法だな」
「医者要らずとはまさにこのことですね」
「ユーリ、凄いです! ……ユーリ?」
三人の賞賛の声に答えられんかった。何故なら酷く疲れてしもうたからや。
「だ、大丈夫ですか!? ユーリ!」
「へ、平気やって強がりたいんやけどな。あかん。体力をごそっと持ってかれるわ」
「なるほど。だから治療魔法士が発展しなかったんですね」
クラウスは顎に手を置いて考えとった。
「その程度の火傷を治すのに、体力のあるユーリさんをそこまで消耗させる。厳しいですね」
「……すまないな、ユーリさん」
「ランドルフ、謝ることないで。っちゅーかおおきにや。初めて実践できたからなあ」
うーん。問題点が浮き彫りになってきた感じや。傷を治すんはもちろんエネルギーが要ることやとなんとなく思っとったけど、まさかここまで効率の悪いとは思わへんかった。
「まだ時間があるとはいえ、解決できるのかいな」
「まだ一週間しか経ってないのに、悩むことねえよ」
ランドルフが言うたけど、そのとおりやな。
これから六年間、頑張るだけや。
ランドルフが負傷して、あたしも体力が無くなったので、今日はこれでお開きになった。しかしどうしてランドルフは魔力を斬ろうと思うたんか、そこらへんは理解できひんかったな。
それから学食で飯食って、デリアにからまれて、部屋に帰って湯浴みしてから、その日は就寝した。
明日も同じ日の繰り返しや。そう思っとった。
しかしそれが変わる出来事が起こってまう。
翌日のことやった。あたしがいつものようにイレーネちゃんと朝ご飯食べに学食に向かう途中、学校からの知らせを貼ってある掲示板のところに一年生が集まっとった。
「なんやろ。ちょっと見にいかへん?」
「そうですね。何か重大な連絡かもしれません」
人ごみの中に割って入ると、そこにはこう書かれとった。
『一年生全員に告ぐ。二週間後、郊外訓練を行なう。準備と修練を怠ることないように』
郊外訓練。古都の外での実戦訓練や。
つまり、魔物と戦うことになる――
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