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第二章『都市制圧』

信仰を破壊する1

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「貴方は、何者ですか?」

 招き入れたドアの前で女は彼を睨みつけたまま開口一番にそう尋ねた。

「迷い人。そう言ったのは貴方達だったと思うが?」

「ありえません。彼方の世界より現人が招かれる際には必ず女神ルドラを信仰する巫女や神官に啓示があります。

しかし今回はそれがなかった。」

「啓示は必ずあるのかい?」

ベッドに腰掛け、彼は気にした様子もなく反論する彼女に尋ねる。

「10年前の召喚の際は私自身も啓示を受けました。

それ以前も記録として残っています。

啓示がないということは邪神サウムより招かれたかそれ以外かしかありえません。」

彼女の反論に彼は少し悩む。

(さて、どうするか。今彼女を殺してしまうと後々がまた面倒そうだ。)

「俺に悪意がない事は街に入る時に示したと思うが?」

「いいえ。あなたは人は殺していないと答えましたが殺さないとは答えてません。」

ふむ。彼女は中々キレるらしい。彼はそう思いつつも少しは楽しめそうだと期待する。

「それはそうだ。先の話なんてわからない。君は同じ人間に悪意を向けられて襲われたら反撃しないのかい?

見た感じこの世界にも野盗のような悪人の類はいるだろう。」

彼の返答に彼女が逆に言葉を詰まらせる。

「その女神ルドラ?に招かれたかどうかは俺もわからない。会っていないからね。

その10年前に招かれたって人達も会っていたのかい?」

「それは・・・」

畳みかけるような彼の問いに彼女は言葉を更に詰まらせる。確かに啓示があったとはいえ彼らが女神と合っていたかは記録に残っていない。

「女神の啓示がなかった理由なんて俺は知らない。

しかしそれだけの理由で何故ここまで不当に責め立てられなければならない。」

気を悪くしたふりをすると効果はてきめんで彼女が狼狽始めた。

「申し訳・・・ありません。」

遂には謝罪の言葉を口にした。そして部屋を去ろうとする彼女を、しかし今度は彼が呼び止める。

「待ちたまえ。それだけか?ここまで疑いの目を向けながらそんな口だけの謝罪で済ませる気かね。」

彼の言葉に今度は彼女が彼を睨みつけた。

「私にどうしろと?」

「そうだな。せめて謝るにしても土下座ぐらいしてもらいたいね。

土下座、わかるかい。俺の前に跪き、床に頭をつけて謝罪するんだ。」

彼がさせようとしている事が屈辱的なものである事は彼女も理解できていた。

しかしあらぬ疑いをかけたのも事実だ。

彼女は言う通り彼の前に立つと、膝をつき、床に頭をつけて謝罪を述べた。

「そもそも俺を疑う前に神に尋ねる事は出来ないのかい?」

「神は必要な時に道を示す存在であり、こちらからお伺いをたてるような失礼は「頭をあげていいなんて言ってない。」申し訳ございません。」

彼の問い掛けに反論するも横やりを入れられてしまい尻窄みとなる。

「一方的に押し付けるだけでこちらからの問いかけには答えようとしない。

なんとも傲慢な神様だね。」

「神への冒涜はおやめください!」

「だから頭を上げていいなんて言っていない。

冒涜というが突然こんな世界に迷い込まされたこっちからしたらそんな世界の神に恨みこそあれ信仰心なんてあるわけないだろう。」

彼の言葉に彼女は悔しげだが反論できなかった。

そんな彼女を見下ろしながら彼は歪んだ笑みを浮かべた。

「そんな一方的に啓示を告げるだけで街がこんなことになっても何もしてくれない神を何故信仰出来るのかが不思議だね。」

畳みかけるような彼の言葉にしかし今度は彼女も頭を上げずに堪える。

「神は試練を与えたもうたのです。我々の信仰を試し、より高みへと導くために。」

「そう思わないと揺らぐからかい?どう考えてもこれが試練なら人の領分を超えてるとおもうけど?」

彼の言葉が彼女に刺さる。頭に過らなかったわけではないのだろう。

「今こうして、知り合ったばかり男の前で跪き惨めったらしくうずくまらさせられても、あなたの信じる女神はあなたを救ってくれない。」

彼の言葉が彼女の信仰心を揺さぶる。

普段の彼女であれば鼻で笑って否定しただろう。

しかし直前で起こった魔物大海嘯の精神的疲労が彼女の心を蝕み、彼の言葉が的確にその隙間を抉ったのだ。

「『キューピッドの矢エーロス』」

彼女の耳には届かなかったが彼が小さくそう呟いくと同時に何かが彼女の胸を貫いたような衝撃が走る。

「あぁ、あなたに1つ謝罪しないといけない事がある。

まぁ別に嘘をついていたわけじゃないんだがあなたにそこまでさせてしまったからね。」

ベッドから降りて彼女の前にしゃがみ込む。

その気配に気付いて彼女が顔を上げる。

(胸が苦しい。なんなの?)

激しくなる動悸と息苦しさに彼女は戸惑いが隠せなかった。
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