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カイルと双子
しおりを挟むカイルは久しぶりにゆっくりとした休日を過ごしていた。
「きょうは、パパもいっしょー?」
「あぁ、ルナ。いつもなかなか遊べなくて悪いな。
今日は1日一緒に遊べるぞ。」
「ほんとうに⁈やったー!
おにいちゃーん!パパがあそぼーって!」
ルナは母の手伝いをしているカイトの元へ駆け寄った。
「あら、いいじゃない。
カイト遊んできなさいな。」
「パパ、おしごとだいじょうぶ?」
「大丈夫だ。お前たちはいつも何をして遊ぶのが一番好きなんだ?」
その言葉に双子は椅子に座っているカイルの膝へよじ登る。
「えっとねー、るいすとおままごと!
るいすがだんなさまで、るながおよめさん!きのぼりはだめっていうー。」
ルナは口を尖らせる。
「ぼくは、たんけんごっこ!ぼくがたいちょう!るいすが、たいいんなの。」
そう誇らしそうにカイトは胸を張った。
「そうか。カイトの探検ごっこの気に入り様はよく皆から聞いているから知ってはいたが、
…ルナのそれはどんな飯事をしているんだ?
パパにも教えてほしいな。」
「いいよー!こっちきて!」
そう言い、カイルから降りると部屋の中央に座った。
「パパ、ここによこになって。おきたらだめよ!」
床をペシペシと叩く。
「…?あぁ、わかった。」
「だんなさまを、およめさんの、るながおこすの!パパはだんなさましてね!」
カイルが床に横になると、ルナは少し離れた。
そして、寝室を想定しているのか、ルナが扉を開けるマネをして近寄ってきた。
「こんこん、がちゃ。
あなたー!あさよ、おきて!」
そう言って旦那様をゆする。
そしてカイルが目覚めようとした時…
「もぉー、おきなきゃちゅーするわよっ。」
「…ちょっと待て。何だって?」
カイルはその言葉に起き上がる。
「もう、パパ!まだおきちゃだめ!
るながちゅーしてからおきるの!
そのあと、るなをぎゅってするんだから!」
「…………あいつ…っ!」
弟が大切な娘に変なことを教えていたことに驚愕した。
「ふふ、子供のすることなんだから。」
ラナはカイトを膝に乗せ頭を撫でながら言う。
「…お前は飯事の内容まで知っていたのか?」
「いいえ、今初めて知ったわ。
でも可愛らしいじゃない。飯事というより、新婚ごっこね。」
とラナは笑う。
「あいつを甘く見ない方がいい。
このままではいずれ本気でルナを嫁に奪われかねんぞ。」
「もう!パパのゆってることむつかしいー。はやく、よこになって!さいしょから!」
「…飯事は炊事や食事のやり取りなんじゃないのか?
そっちを教えてやった方が…」
そう言いながらも娘の言う通り素直に横になった。
そして振り出しに戻る。
「がちゃ。あなたー!あさよ、おきて!
おきなきゃちゅーするわよ!」
「(……この背徳感はなんだ。…あの野郎、よくこんな事できたな。)」
カイルは大人しく寝たふりをする。
「もう、おねぼうさんね!しかたないわ。ちゅーっ。ちゅ!」
そして、ルナはカイルの頰へ何度も口付けた。
カイルは嬉しいのか、悲しいのか複雑な気持ちになった。
「パパ、おきていいよ。つぎはね、るなをぎゅってしてさけぶの。」
「は?」
「は、じゃない!もう、るなのおてほんみてて!
あのね、るなをぎゅってしてから、
『かわいいー!もぉ、だいすき!あいしてる!』っていうの!」
そう言いながらルナはカイルへぎゅっと抱きついた。
「…ラナ、今後一切ルイスに飯事をさせるなよ。ルナが穢れる。」
「あらまぁ。ふふ。パパはヤキモチやさんねー。」
「もち、やくー?たべたい!」
ルナの気が食欲へむいた。
「パパ!こんどはぼく!
たんけんごっこしよー!」
今度はカイトが父へ駆け寄る。
「…あぁ。ここでするか。
流石に俺が控え室に行って探検ごっことは、示しがつかんからな。剣の練習をするか。」
ルナの飯事の件をどうにかしなければと思いながらも、カイルは息子の希望に応えようと、魔物退治の探検をするには欠かせない剣の稽古を提案した。
カイルは現実的である。
「えー、やだー。たいちょうと、たいいんがまものをやっつけるやつがいい。
るいすじょうずだよ!いつもたのしいの!」
「……」
カイルは今まで経験が無かったため、
子供との遊び方などよく分からない。
人には得手不得手がある。
若干不安の残る面もあるが、双子の遊び相手はルイスが一枚上手なようだった。
「じゃあ、ふたりとも、お馬さんに乗ってみない?」
ラナがそう提案した。
「おうまさん!?のるー!」
「るなもー!」
乗馬はカイルの得意分野である。
ラナは父の威厳を保つべくそう提案したのだった。
「そうか。(馬なら大丈夫だ!子供の遊びとは難しいな…)」
ーーーー
こうして、家族4人で馬小屋に来た。
「わ、おうまさんがいっぱい!
パパのおうまさんどこー?ぼくがいちばんにパパとのるー!」
「やだー!るながいちばん!」
双子はカイルの足へそれぞれへばりつく。
「2人一緒に乗ればいい。こっちだ。」
「一緒になんて…大丈夫なの?」
「子どもなんだ、問題ない。
落ちないよう気をつけてさえいればな。」
「そう。いいわねー、2人とも。
パパと一緒に乗れるなんて羨ましいわ。
パパはお馬さんと、とっても仲良しだからきっと楽しいわよ。」
「うやらましー!パパ、るなといっしょ!」
「そうだな。前はママも俺と一緒に乗っていたんだぞ。
だがとっても照れ屋でな。照れているママは愛らしかったな…。」
「っカイル、それはもういいから!
(別に子供に言わなくてもいいでしょう⁈)」
ラナはほんのりと頰を赤らめた。
そうして一頭の馬の前まで来た。
「こいつが俺の愛馬だ。ちゃんとよろしくって挨拶するんだぞ?」
「「うんっ。おうまさん、よろしくねー!!」」
カイルの馬は了解したと言うように小さく嘶いた。
そしてカイルは双子を軽々と持ち上げ自分の前へ跨らせる。カイルの前にカイト、その前にルナだ。
「すごーい!おうまさん、たかい!」
「パパ、はしってー!」
「最初はゆっくり歩いてからだ。
怖くないか?」
そう言うと、ゆっくり馬を歩かせる。
「ぜんぜん、こわくなーい!」
ルナは楽しそうに声をあげた。
「パパ、すごーい!おうまさんがちゃんということきいてる!」
双子はきゃっきゃとはしゃいでいる。
ラナは少し離れたところで幸せそうに3人を見つめる。
「いつか子供たちが大きくなったら、またカイルと2人で遠駆けしてみたいわ。」
こうしてカイルの父としての威厳はなんとか保たれた。
これから、子供の遊びを学んでいく必要がありそうだ。
そして、ルイスは後日カイルに呼び出されることとなる。
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