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俺達のペースで

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想いが通じあったふたり。
そしてその事は、瞬く間に城中へと広がっていった。


ラナの自室にてーーーー


「ラナ様、申し訳ありません。私、あまりにも感極まって、お友達の皆さまへとお伝えしましたら、あっという間に広がってしまい…。」

「う、ううん、いいの。
いやかなり、恥ずかしいけれど…。
でもやっと、か、カイルと想いが通じあったのよ!
これからはこんな羞恥に負けてられないわ!」


「えぇ!その調子ですわ!これから、もっともっと凄いことをしていくのですからね!楽しみですわ!」



「えぇっ⁈そっち!?
いや、アンジュ、その、私が余りにも恥ずかしがっていたら、カイルに愛想尽かされないか心配で。
だから、周りから受ける少しの羞恥くらいは我慢して、少しはカイルとの時間を取ろうと思ったのだけれど…。」

そうモジモジとしていると、


「何を言ってるのですか⁈そんなもの、随分と前の段階ですわ!
私の頭の中では、すでに2人のむつみ合いに突入しているのですよ!」


「むっ!むつ…っ⁈
…っ無理よ、そんなの!だめ、絶対!

私の心臓が無くなってしまうわ!!」


「ラナ様、羞恥で心臓は無くなりませんわ。だから安心なさって!」


「っ安心できないーー!!」



ーーこのやりとりは部屋の外でラナを待っていた兄弟にも聞こえていた。



「…で、兄さん、いつ睦み合うの?」


「っ黙れ、…お前な、……っはぁ…。」

「な、なんかご愁傷様だね?
うーん、恥ずかし過ぎるのも考えものかなぁ。」


「うるさい…ラナはあれでいいんだ…。」




治療所にてーーーー



「ラナ様、おめでとうございます!
やっと想いが通じたのですね!
長い両片思いでしたわ!」

「私達はいつも胸を膨らませておりましたの。いつおふたりの想いが通じ合うのかと、もどかしくて仕方なかったんですのよ!」

そう女達が興奮したように話す。



「っ何でそんなこと、知ってるの…っ⁈
もしかしてあなた達が例のアンジュのお友達ね⁈」


「えぇ!アンジュ様は素晴らしいお方ですわ!
たくさんの恋バナで私達を満たしてくださるの!あぁ、ラナ様とカイル様のあんなことやこんなことの妄想が止まりませんわー!」


「(アンジュ、ほんとあなた、何やってるのー!?)」

ラナは真っ赤な顔をし、心の中で侍女に叫ぶ。

ラナは自分達がまだ未体験であることを周りに様々な形で妄想され、
また期待されていることに、羞恥で吹っ飛びそうだった。



ーーーー


カイルは王に呼び出されていた。
ただ単に面白い話が聞きたかったからだ。


「カイルよ、様々な凄い噂が飛び交っているが、どれが正しいのだ?」

そうニヤリと話す。

「…陛下。それらの噂は全て偽りです。
……もう俺のことも放っといて下さい…」

カイルは無表情でそう言った。


「…おぉ?珍しく落ち込んでおるのだな。
どうした、想いは通じたのだろう?
何があった?」


「…ご心配には及びません。
他にご用件が無いのでしたらこれで失礼させていただきます。」


 カイルはそう言い王の元を後にした。


「ふむ、通じ合ったからといってそう上手くはいかないものなのか?もどかしいな!」



ーーーー



カイルはラナに避けられていた。
周りからの揶揄いやそれによる羞恥に耐えられず、つい避けてしまっているのであろう事は分かってはいた。

しかし、やっと想いが通じたカイルにとっては堪えるものであった。



「(どうしたものか。
もうしばらくラナに触れていない。
それどころか顔を合わせることすら少なくなっている。
…本当はもっと触れたくて仕方がないが、それは性急すぎるよな。
せめて2人の時間を作れれば…。)


……俺はこんな奴だったか?」


カイルがそう呟くと、肩に小鳥がとまった。ラナの小鳥、ノアだった。


「なんだ?俺に何か用か?」


『あのね、らながよんでるの!いっしょにきて!』

実際には呼んではいないが、心の中では会いたくて仕方ないのをずっと傍らにいたノアには気づかれていたのだ。


「…なんて言ってるのか分からないな。
…ラナがどうかしたのか?」


いつまでも動かないカイルに痺れを切らし、ノアはカイルの袖を咥えてパタパタと誘導し始めた。


「向こうにラナが?」


『そうだよ!らながさみしそうなんだ。
だから、かいるがなぐさめて!』


相変わらず、カイルには鳴き声しか聞こえない。


しばらく誘導に従い歩いていると、
中庭の奥にあった、一際大きな木が見えてきた。
そしてその根元にはラナが木に寄りかかり、
眠り姫のごとく美しく、静かに眠っていた。


「…全く、お前は寝ていても俺を惑わすのだな。」


カイルはしばらくその寝顔を愛しそうに見つめていたが、
幸せそうに眠っている彼女を前にして我慢することができず、
そっと屈むとその無防備な唇へと口づけを落としたのだった。 



…口づけをしても、眠り姫は目を覚まさない。
それならばとカイルは彼女を抱き上げ、
部屋へと送るべく歩き出したのだった。

このままでは風邪を引くだろう。





ーーそれを陰から見ていたものが数人。
 

「もう、っ妄想が追いつきませんわ!アンジュ様っ!」

「なんて神秘的で、美しい光景なのでしょう⁈」


「いいえあなた達、まだこれからよ!
この後の展開に期待致しましょう!」



「…アンジュも相当な変人になっちゃったよなぁ。」


「あら、ルイスには言われたくなくてよ!」


「俺は変人ではないだろ!」
 


その騒ぎはカイルに聞こえていた。

「全くあいつら、…どれだけ暇なんだ?」
ラナを抱えながら言う。


「う、ん?……⁈か、カイル⁈」


「…起きたか。」 


「あの、ど、どうしてこんな状況に…?」


「…ノアがお前のところに誘導してくれたんだ。

なんだ、そんなに会いたかったのか?」



「っは、い…。会いたかったです…。」


「……え?」



「っわ、私だって、カイルに触れたいとか、もっとお話したいとか思っているんです!

それなのに、恥ずかしさが勝ってしまって…っ、
それがどれだけ自分勝手な事かは分かっています!

でも…っ、寂しくて…っ。」



ラナはそう言うとポロポロと涙を流す。


「…っ⁈ら、ラナ!
お、俺が悪かった、だから泣かないでくれ。
そうだな。俺もお前に会いたかったんだ。
でも避けられてると思うとなかなか前に進めなくてな。
…悪かった。俺は意気地がないな。」


「いいえ、カイルは何も悪くありません!
もっと、私が羞恥に耐えられるようにならなければなのです!

っそこで、提案なんですが、よろしいですか⁈」


「あ、あぁ。なんだ?」


「その、す、少しずつ、私に触れてはいただけませんか?」


「なっ…⁈」


「その、初めは手を握ることから、
頭を撫でたり、…だ、抱きしめるとか!!

く、口づけは人前では出来ませんが、

そんなことを毎日繰り返していれば、いずれ羞恥も薄まるのではないかと!」


そうラナは真っ赤な顔でいい放った。



「…ラナ、無理はしないでいい。
俺達はゆっくりでいいんじゃないか?」


「いいえ!こ、これは私の願いでもあるんです!
…だ、だめですか?」

ラナはシュンとしてカイルを見上げる。


「(っこれは、わざとなのか…っ⁈
いや、ラナがこんなことを狙ってできる訳がない!)

…っわかった。
俺もお前とは共にいたいし、触れ合いたい。
…いいのか?」


「はい!ではまずは手をつなぎましょうっ!」


ラナは嬉しそうに、にこにこと笑う。
そして明日は恋人繋ぎをしましょうと嬉しそうだ。


「(あぁ…、これは神に俺の忍耐力を試されてるのかもしれない。
そして明日は恋人繋ぎ…。
最終地点の悦びを得られるのは一体いつになるのだろう…)

大丈夫だ。俺は耐えてみせるぞ、
お前に毎日会えるんだ。これ以上の幸せはない。」

「?はいっ!私も幸せですっ!」

ラナは繋いだ手を軽く振りながらそう言った。


カイルはこれからの事を思うと気が遠くなったのだった。
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