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第3話 蛸生命体による侵略の危機かも

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 正秀とスイの我がままで、ふらりと立ち寄った名も知らぬ青い星。
 銀河の縁にある辺境惑星だからであろうか? 他の知的生命体との交易は見受けられない。
  
 その一国いっこくではいったい何が起こっているのだろうかと三人は少し興味が湧いてきた。
 いつもは騒がしい連中であるが、珍しく静かに聞くのであった。

 「あれは今から約3ヶ月前のことじゃった……」

 もりもり博士は語る……

 元々、この国はとても平和で皆が仲良く暮らす素敵な場所であった。
 しかし、約3ヶ月前からある異変が起こった。
 異変と言っても些細なことで、金属の値段が急激に上がってしまったらしい。
 供給量は特に不足している筈はなかったのだが、大量に何処かへと横流しされているとの噂を耳にした。

 街の建物は一見するとレンガ造りであるが、内部は鉄骨のフレームらしく鉄の不足には皆が頭を抱えた。
 もりもり博士は皆が困っているを放っておけず、独自の調査に乗り出したそうだ。
 当初は有益な手掛かりも掴めずに、これと言った進展はなかった。
 そこで考えたのが、街のいたる所へ隠しカメラを設置し鉄を積載したトロリートラックを追跡することにした。
 監視はここ、自宅地下の研究所で行なう。
 沢山、並べてあるカラーモニターがそれらしく、街の様々な場所が映し出されている。

 調べを進める内に分かったのが、なんと鉄の行き先が大統領官邸の敷地内だったのである。
 さすがに敷地から先は何処へ向かっているのかは探れなかった。
 だが、運ばれる場所の特定はできたので、次からは官邸を重点的に調べることにしたのだ。

 それは、夜中にこっそり官邸へ忍び込み建物内にカメラを設置しよう天井裏を這いつくばっている時であった。
 通気口から見える何処かの部屋で見てしまった。
 なんの部屋かは分からないが、そこで大統領が壁に向かって1人ブツブツと何かを呟いていた。

 次の瞬間……

 突如として顔面が中央から2つに裂け、グチャグチャと気味の悪い音を立て始めた。
 そして、完全に真っ二つになった頭からは黄土色をしたたこが姿を現す。

 喉元まで裂けた頭部は喋るのをやめようとはしない。
 きっと声の主は蛸であろう。
 まったく聞き覚えの無い言葉。
 否、あれは声などではない。
 耳障りで不快なノイズにしか聞こえなかった。

 「儂は恐怖のあまり声を出しそうになったが、なんとか堪えカメラを置いて逃げ帰ったのじゃ」

 「大統領が蛸怪人に寄生されてるのか?」

 正秀は緑で描かれている蛸を指しながら訊いた。

 「そう考えて間違いないじゃろう。そして、なんらかの理由で大量の金属を必要としておる」

 「蛸の映像は無いのか?」

 「残念じゃが…… あの時は驚きあまりカメラを放るように置いてしまっての、音声しか取れてないのじゃ」

 「まあ、なんにしても如何にも悪者らしい気がするな。俺が乗り込んで成敗してやるぜ」

 「馬鹿者が。奴らの力も未知数じゃと言うのに何を考えておるか。それに官邸に乗り込もうなぞ国家防衛隊を敵に回すことになるぞ」

 「じゃあ、どうすんだよ……」

 「もう少し黙って聞いておれ」

 「お、おう」

 もりもり博士は話を続ける……

 金属を集める謎の蛸生命体。
 きっと善からぬことを企んでいるのではと考え、邪魔をすることにしたらしい。
 思うように収集が捗らなければ、その内に尻尾を出すかも知れないと考えた。

 そこで思い付いたのが、かねてより研究していた人造人間を使うことにした。
 既存の生命体にタンパク質と遺伝情報を与え、元となった生物の特性を持った人間を作る。
 いわゆる怪人である。

 この怪人に金属の収集や搬送をしている現場を襲わせて嫌がらせをするのだ。
 怒った蛸生命体は必ず次の行動に移るはずだ。
 もし、強行手段に出ようものなら世間に侵略の危機を知ら占めるチャンスである。

 「じゃがのう…… ここに来て困った問題が発生しおった」

 「何を困ってんだ?」

 「実はのう…… 正義のヒロインを名乗る乙女戦士ピーチエールなる者が出現したのじゃ! くぅ! 考えるだけで忌々いまいましい奴めがっ!」

 「ぴ、ぴーち? んん? なんだそりゃ?」

 「素早い動きと不思議な力で儂の怪人はことごとく殺られてしまっておる」

 「あー、もしかして蛙男を光の玉で爆発させた奴かな?」

 為次は軌道上から見ていた魔法少女の戦いを思いだした。

 「おお、知っておるか。まあ、近頃ではすっかり有名になってしまったからのぅ……」

 「んじゃあさ、今の話をピーチなんたらに聞かせて協力してもらった方がいいんじゃない?」

 「だな。何ももりもり博士だけで戦う必要はないだろ」

 「そうもゆかぬのじゃ……」

 「どうしてだよ?」

 もりもり博士は正秀の問には答えずにコンピューターを操作する。
 するとスピーカーから誰かの会話の録音が再生され始めるのだ。

 「これを聞くがいい」

 ノイズ混じりの音声は、なんとか聴き取れる……

 『近頃 邪魔スル不届キ者ガ イル』

 『例の怪人騒ぎですね』

 『許サナイ 国家プロジェクト邪魔 ダメ』

 『そうれは重々承知しております。大統領のお怒りもごもっともで……』

 『金属必要 鉄沢山必要 アブベーン ハ コノ国デ イチ番偉イ 早ク集メロ』

 『ですが怪人めが中々の強さでして、その……』

 『コレヲ使エ』

 『これは?』

 『ムニュリン ダ 若ク強イ女ニ渡セ』

 『むにゅりん? 強くて若い女性なら誰でも宜しいのですか?』

 『ソウダ』

 そこで、もりもり博士は再生を止めた。

 「なんだこりゃ?」

 と、正秀は首を傾げた。

 「大統領と側近の会話じゃ」

 「へぇ大統領な…… 片言で喋ってる方か? アブベーンとかも言ってたぜ」

 「うむ、じゃが問題はむにゅりんの方じゃ」

 「むにゅ…… りん?」

 「白くて可愛らしい謎の小動物でのう、常にピーチエールに纏わりついておる。儂が考えるに、むにゅりんが小娘に力を与えているのでないかと」

 「ああ…… なんとなく分かってきたぜ。な、為次」

 「うん。小動物が少女を口車に乗せて、与えた力で戦わせてるってとこか」

 「その通りじゃ、アブベーンは自ら姿を出さずに怪人対策をしておる。しかも、こちらは罪の無いピーチエールを殺す分けにもゆかず、捕まえるにも今の怪人の性能ではのう……」

 「もりもり博士は見かけに寄らずいい人なんだな。なぁ為次、どうにならないか?」

 「うーん、そうね……」

 為次は考えた。

 問題の解決そのもは至って簡単だ。
 レオパルト2を使えば大統領を引き摺りだして正体を暴くなど朝飯前である。
 後は蛸が口を割ろうが割るまいが官邸をスキャンすれば秘密など一瞬で分かる。

 しかし、この星は他の知的生命体とはコンタクトを取っておらず独自の進化を続けている。
 そこへ超々科学の塊である戦車を持ち出すなどいささか不粋ではないかとも思える。

 だが、この程度のお手伝いならば正秀とスイの気晴らしには持って来いだ。
 為次自身は狭い所が大好きで、旅行に行っても旅館で泊まるより漫画喫茶のせせこましいブースの方が落ち着ける。
 車内だけが生活空間になろうとも心地良い以外の何物でもない。
 つまり自分は良くともストレスの溜まっているだろう二人は別だ。
 良い機会なので、ひと暴れさせてやっても悪くないかなと思う。

 「よしゃ、爺さん。俺達が力を貸してやろう」

 「お、為次やる気になったか! そうこなくちゃだぜ」

 「スイもお手伝いするのです」

 「お主らに、どうにかできるのか?」

 「作戦はある。なので成功したら食料補給をお願いしたいんだけど。俺達お金持って無いし」

 「だよな」

 「貧乏なのです」

 「ふむ…… 確かに仲間がおるのは心強い。よかろう! 食料は好きなだけ提供してやる」

 「んじゃ交渉成立ね」

 「うむ。それと行く宛ても無さそうじゃろうて、儂の家と地下施設を当面の住処すみかとするが良かろう」

 「そりゃ助かるわ」

 「ありがとな、もりもり博士」

 「家事は私にお任せなのです」

 「では、作戦は明日からにして今夜はざっと施設の説明でもしてから休むかの」

 「よろ」

 もりもり博士の秘密基地は概ね、このような内容である。

 大型隠しハッチの有る公園近くの自宅地下が現在地の研究所であり、休憩所と併設された基地の中心となる。
 そこから下水道を通して街の至る所へ行くことができるらしい。
 出撃時は各所に点在している待機所を拠点とし、近くのマンホールや排水口などから地上へと出る寸法だ。
 レオパルト2が駐車してある広いスペースは単に倉庫として使っているだけで、自宅近くにあれば便利との理由で作っただけとのことであった。

 結局の所、軌道上から観測した広大な地下施設の殆どは下水道であった。
 人が通れるようにと、ある程度は改修されていたので専用の通路と勘違いしただけである。

 これらの施設は当然もりもり博士が1人で作った分けではない。
 ほぼ全ての作業は怪人にやらさせたとのことであった。
 戦闘用の怪人以外に量産型怪人が複数存在し、各所の待機場で常駐し博士のサポートをしているらしい。

 怪人の製造は今居る研究室で行い、目の前に並んでいるガラス管の中で生まれて来る。
 緑色の液体酵素の中に元となる生物を入れると完成するとのことだ。
 入れる生物はなんでも構わない。
 例えば蜘蛛を入れたら糸を吐く人間の出来上がりといった寸法だ。

 尚、量産型怪人はベースとなる生物は何も使わず、単純に人造人間を作っているだけだ。
 完成しても全身が黒タイツのような風貌で表情も全然わからない。
 力こそ普通の人間よりかなり強いが、性能はイマイチらしい。
 生まれて来るのが早いのでサポート用としては便利であるそうだ。

 「……と、まあそんなとこじゃのう」

 「りょかい。だいたい分かったかも」

 「んじゃ、昼飯でも食ってから街でも見に行こうぜ」

 「マサヒデ様、今は夜なのです」

 「お? ……だったぜ」

 「仕方ないから今夜は無理にでも休んで体を慣らすかぁ。1日が8時間以上も長いし……」

 「だな」

 「です」

 こうして三人は隣の休憩所でしばらくの生活を送ることにした。
 地上のもりもり宅でも良かったが、一人暮らしの老人宅に突然三人も増えて近所から怪しまれても困るからだ。

 そんなこんなで窮屈な宇宙の旅の途中で、ひと時の休息を得るのであった。
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