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第2話 地下施設で出会った老人

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 地下施設は実に不可解な存在であった。

 茶色く変色したであろう壁の空間には所狭しと様々な機械が並んでいる。
 一見した所、何かの研究施設にも思える。

 何よりも驚くのは生体反応こそ極僅かであるが、地下だけ技術レベルの数値が異様に高かった。
 惑星表面は地球でいう20世紀末といったところであるが、地下施設内だけレベル23。
 いわゆる地球が進化を続けたと想定した23世紀並なのである。

 「なんの施設なんだろうな?」

 そう訊きながら正秀は持っていた携帯食を口に放り込んだ。

 「分からん。なので直接聞いてみよう、そうしよう」

 「誰にだよ? もぐもぐ」

 「そりゃあ、もちろん爺さんにね」

 「爺さん……? んぐっ」

 と、為次の見ている映像を自分のスクリーンに映して正秀は呟いた。

 確かに白衣を着た長い白髪の老人が確認できる。
 研究室のような部屋で何かの機械を前に独り言を呟いている様子だ。

 「公園に隠し扉みたいなのが有るから、あそこに降りよう」

 「隠し扉だって? んん、確かに有るな…… しかも、あの大きさならレオも入れそうだな」

 「うん。隠すにも都合がいいかも」

 「よし、行ってみようぜ。悪の秘密基地なら水谷マンが壊滅してくれるぜっ」

 「はいはい」

 こうして一行は言語の取得が完了するのを待ってから、街の一角にある公園らしき場所へと降下するのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 上空から見た街並みは、まるで蜘蛛の巣のようであった。
 街は黄色いレンガ造りの建物が立ち並ぶ綺麗な作りであるが、とにかく電線が多い。
 至る所に鉄塔があり、電線が四方八方へと延びているのだ。

 「着いた」

 「おう」

 「真っ暗なのです」

 「そうだねー」

 降下ポイントが星の影…… いわゆる夜になるのを待ってから降下した。
 大気圏突入時も衝撃音が響いたり火の玉が夜空を照らすのを避ける為にゆっくりと突入した。
 人目に付かないようにしたかったからである。
 もっとも光学迷彩を張っているので肉眼による視認は極めて困難であるが。

 「ここが開くんだな、見ただけじゃ全然分からないぜ」

 目の前には芝生が広がるだけだが、センサーの映像をみる限りは間違いないようだ。

 「まあ隠し扉だろうから」

 「だよな」

 「じゃあ開けるよ」

 「どうやって開けるんだ?」

 「私が開けて来ましょうか?」

 「スイちゃんだけじゃ大変だろ、俺も手伝うぜ」

 どうやら二人は人力で、こじ開けようとしているらしい。

 「バカ言ってないで大人しくしてて、制御盤にアクセスするから」

 「お、おう……」

 「です……」

 施設内にある制御盤へとグラビティアームを伸ばす。
 重力操作による物質への干渉をする目に見えないアームなので壁や障害物が有っても問題無い。

 「これかな、多分」

 上部大ハッチと書かれたシーソースイッチを開くの方へと入れる。

 ゴゴン ゴウン ゴウン……

 芝生の一角が真上にせり上がって来る。
 そして、戦車が2台程度は入れそうな四角いカゴみたいなエレベーターが姿を現すと止まった。

 「ちょうど入れそうだね」

 「よし、入ってみようぜ」

 「うい」

 レオパルト2をゆっくりとカゴの中へ進ませるとハッチを閉める。

 ゴゴン ゴウン ゴウン……

 再び地中へと戻って行く。
 今度は戦車を乗せたまま……

 ※  ※  ※  ※  ※

 地下へ到着すると、そこは鉄骨が剥き出しで木箱が乱雑に置いてある倉庫のような場所だった。
 目の前には杖を持った老人が1人、驚いた顔でこちらを見ている。
 とはいえ光学迷彩のせいでからのエレベーターが降りて来ただけに見えるだろうが。

 「どうしたというのじゃ…… まさか奴らに、ここがバレたのか……」

 老人は焦りが隠せない様子であった。

 「へへっ、驚いてやがるぜ」

 「びっくりお爺さんなのです」

 「そうだねー」

 「よし、俺が出てやるぜ。いいだろ? 為次」

 「うん。まあ、迷彩外すわ」

 「おう」

 光学迷彩を解除すると、薄暗い倉庫にレオパルト2が姿を現す。
 何もない所へ突如として戦車が出現すれば誰でも驚くであろう。
 老人も驚きのあまり目を丸くし、杖を突き出しながら後ずさりをした。

 そこへ正秀は車長ハッチを開けて上半身を乗り出す。

 「よう、爺さん」

 「な、何者じゃっ!?」

 「俺かい? 俺わな…… とうっ!」

 大剣を手に取りハッチから飛び出して空中でくるくると回転する正秀。
 老人の前に着地すると変なポーズを決めて言うのだ。

 「俺は正義の味方、正秀だ。悪は許さないぜ!」

 「なんじゃと!? やはりアブベーンの手先か!」

 「あ、あ、あぶ? あぶべ? なんだそりゃ?」

 「貴様も洗脳されておるか……」

 「されてねーよっ」

 睨み合う両者。
 そこへ為次とスイも降車して来る。

 「こんにちはー」

 「タメツグ様、今はこんばんはなのです」

 「まあまあ。俺達にとってはこんにちはであって、お昼ご飯食べたいよね」

 「携帯食しか無いのです」

 「そうだねー、という訳で爺さん。飯くれ」

 「確かに腹が減ったぜ」

 「マサはさっき食ってたじゃない」

 「貴様らは何を言っておるのじゃ……」

 老人は警戒しながらもいぶかしげに訊ねた。

 「うーん…… そうね。とりあえず聞きたいんだけどさ、爺さんって悪者? 変な蛙男の仲間だよね?」

 「……儂は悪者ではない。じゃが蛙怪人は仲間じゃ。貴様らの出方次第では他の怪人が相手になるぞ?」

 「へぇ…… 悪者じゃないってさ。マサ」

 と、正秀に向かって軽く右手を上げる為次。
 すると仕方なさそうに構えていた大剣を下ろす。

 「ちぇっ、しょうがないな」

 「では、俺達の目的でも説明しようか」

 「その前に自己紹介だぜ、為次」

 「めんどくさ」

 「なんでだよっ。ったく、俺の名前は正秀。正義のヒーローだぜ」

 「スイはスイなのです」

 「そうだねー」

 「んで、めんどくさがって自己紹介しない奴が為次な」

 「ふむ…… 儂はもりもり博士じゃ」

 「も、もりもり博士…… 変わった名前だぜ……」

 「もりもり爺さん」

 「もりもり様です」

 「して、お主らの目的とはなんじゃ?」

 もりもり博士は間の抜けた三人組を前にして警戒心が若干ほぐれようだ。

 「俺達は宇宙の平和を守る為に日夜はげんでるのさ。今回はこの星に悪の匂い…… うぉ…… おぃ、為つ……」

 為次は頭のおかしいことを言い出す正秀を鬱陶しそうに後ろへと追いやる。

 「マサの話は、まともに聞かないで」

 「なんだとっ!」

 後ろで文句を言いたそうな自称正義の味方を無視して為次は話す。

 「んま、俺達はね旅の途中でさ、食料補給にこの街に立ち寄ったんだよね」

 「ふむ…… その旅の者がどうして儂の基地に入って来れたのじゃ?」

 「あーっと…… なんて言うのかなぁ、あまり詳しくは話せないけど後ろの鉄の塊が何か分かる?」

 そう言いながら、レオパルト2を親指で指した。

 「車であろう? じゃがトロリーポールが見当たらんがの」

 その一言で為次は理解した。
 あの無茶苦茶に張られた電線はトロリーカー用の架線だと。

 「んなるほど。爺さんの言うように車ではあるけど、動力は電気じゃない」

 「では、なんじゃと?」

 「対消滅機関」

 「っ!? 馬鹿を言うでない! そのようなものが実用化できる分けがなかろうっ」

 「へぇ、その辺の知識はあるのね。だけど嘘じゃぁない、俺達は実際に運用している。それだけの科学力と技術力を持ってるってね」

 「信じろとでもいうのか?」

 「何処まで信じるかは爺さんの自由だけどさ、この施設を発見して隠しハッチを開ける程度は造作も無い。光学迷彩だって見たはずだよねぇ。ほら」

 と、タブレットを取り出しもりもり博士に見せた。
 そこにはスキャンした地下施設の詳細な図が描かれている。

 「…………」

 「宇宙から観測した時のだよ。この星の連中にはあまり見つかりたくないからね。車を隠すにはここはちょうど良かった。人も爺さんだけだし、説得説明する人数は少ない方がいい」

 「……お主、この星の連中と言ったな?」

 「うん」

 「異星人じゃと?」

 「正解。物分りのいい年寄りは好きだよ」

 「して目的は?」

 「さっき教えた筈だけど…… ボケてんのかな。うひゃひゃ」

 「ボケ老人は失礼だろ、為次」

 「ボケボケ様なのです」

 「ボケてなどおらん!」

 「んま、後は気分転換もあるけどね。車内は狭いし」

 「ふむ……」

 暫し考え込むもりもり博士。
 レオパルト2へと近付き、そっと手で触れる。

 「良かろう」

 と、振り向く。

 「立ち話もなんじゃ。付いて来るがいい」

 「「「…………」」」

 三人は黙って顔を見合わせると、扉に向かって歩き出すもりもり博士の後を追うのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 案内された場所は何かの研究室のような部屋であった。
 見慣れないコンピューターらしき物が置いてあり、人が入れる大きさはあろう汚れたガラス管が幾つか並んでいる。
 他には手術台とおぼしきベッドが設置され天井からはアームに接続されたドリルやノコギリ等々がぶら下がっていた。

 「何ここ?」

 為次は珍しそうにキョロキョロと室内を眺めながら訊いた。
 コンピューターみたいなのにはブラウン管らしきモニターが接続されており、緑と黒の2色で文字が表示されている。
 それとは別でモニターだけが複数設置されている場所もあり、こちらはカラー表示で街の様子が映し出されていた。

 それと記憶媒体は磁気ディスクだろうか?
 巨大な円盤が近くで回っている。

 「儂の研究室じゃ」

 「研究室か。如何にも博士って感じだぜ」

 何が如何にもか分からないが、正秀は一人納得していた。
 スイも物珍しそうにガラス管の中を覗いている。

 「誰か居るのです」

 緑色の液体で満たされているガラス管の中には薄っすらと人影が見えていた。

 「それは今作っておる怪人じゃ。無闇に触るではないぞ」

 「はいです」

 「へー、ここって怪人工場なんだ」

 「悪い怪人なら俺が成敗してやるぜ」

 「馬鹿者が! これは国を守る為に儂が丹精込めて作り上げておるのじゃ」

 「お、おう。悪りぃ…… にしても国を守るだって?」

 「如何にもじゃ。実は今、この国は侵略の危機に瀕しておる」

 「なんだって!? 国を侵略だなんて、とんでもない悪党が居るんだな」

 「うむ」

 「よし! そんな奴はこの俺、水谷マンが成敗してくれるぜ! な? 為次」

 「知らんがな」

 「お主らは本当にアブベーンの手先ではないのか……?」

 「だから、あぶぶなんとかってなんなんだよ?」

 「うむぅ…… 良かろう……」

 もりもり博士がコンピューターの操作を始めると、モニターにたこのような生物が表示される。
 単色なので実際の色までは分からない。

 そして、何処となく悔しそうに語り始めるのであった……
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