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異世界編 3章
第141話 素のままの自分
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今日は朝から忙しかった。
サイクスへ行ったと思えば、すぐにポンタの街に戻った。
この後は再び宇宙へと向かわなければならない。
更にはモノポールリングを潜り未知なる星系へと……
「着いた」
「おう」
本日は快晴で風も穏やかなので貞宗宅の前に直接下りた。
やかましいエンジン音に気が付いたのであろう、貞宗とクリスがお出迎えしてくれる。
「おかえりなさい」
「なんだ、早かったじゃねぇか」
「サーサラさんに挨拶しただけですから」
降車した正秀は貞宗に近づくと言った。
続けてスイと為次もやって来る。
「お部屋に閉じ籠ってたのです」
「そうだねー」
「報酬の受け取りはしなかったのか?」
「ああ、イフリート討伐の報酬も出るんですか?」
正秀は訊いた。
「当たり前だ」
「んじゃ、それはサーサラさんから貰うかな。いいでしょ? マサ」
「おう、だな」
「はっ、そうかい」
「んでは、俺達はちょっと行って来るっス」
「今度はどちらに行かれますか?」
「スイ…… 何処にも行かないよ」
「行かないですか」
「うん…… スイはね……」
「はう?」
「隊長さん、じゃあ宜しくっス」
「考え直す気はないのか? 奴隷の娘は必ず役に立つぞ」
「…………」
為次は何も言わずに首を横に降ると、手紙を渡した。
そこへクリスが傍へと寄って来る。
「タメツグさん、私達のことは気にしなくてもいいのよ」
「そうもいかないでしょ。保険は必要だよ」
「でも……」
「スイ、おいで」
クリスは何かを言いたそうであるが、為次は気にもせずスイの手を取ると貞宗の正面に立つ。
「スイ。隊長さ…… 貞宗さんの言うことをよく聞くんだよ。みんなの力になってあげて」
「タメツグ様?」
まだ理解していない様子である。
スイは呆けた顔で為次を見上げていた。
「ここから先は一緒には行けない。スイはこの星で生まれて、この星に必要な存在だから」
「為次…… おまえ……」
「嫌なのです。タメツグ様と一緒に行くです」
「ダメ」
「嫌です! 約束したのです! 何があっても一緒に居るって」
「ダメ」
「一緒がいいのですっ!」
「ダメだ! これは命令だ! 隊長の世話になるんだ!」
為次は叫びながら言った。
スイが駄々をこねるのは初めから分かっていたことだ。
だから最初で最後の命令をするのは決めていた。
「ほら、行けっ!」
そう言いながら、貞宗の元へと押しやった。
「い、嫌……」
スイは涙目になりながら主の元へと行こうとするが……
「来るな! 俺の言うことが聞けないのか!」
「……お、お願いします! なんでもしますから…… なんでも言うことは聞きますから! 一緒に…… 一緒に居させて下さい!!」
「なあ、為次。どうせもう一度戻って来るんだ、別にいいだろ」
「そうだぞ山崎。水谷の言う通りだ」
「……ダメ」
「ったく、変なとこで意固地だな山崎は」
「タメツグさん、焦る必要はないのよ? ゆっくりと考えてみてはどうかしら?」
「うるさい!! もう、じゅうぶん考えたさ! これがベストに違いないっ」
「ううっ…… タメツグ様……」
「いい加減にしてくれ……」
「どうしてですか…… うえぇぇぇん」
とうとうスイは泣き出してしまった。
それを見た為次は喚き散らかす。
「泣きたければ勝手に泣いてろっ! だいたい迷惑なんだよ、いつも纏わり付いて鬱陶しいだけだ! 碌に役にも立たない、居るだけ邪魔なんだよ!! いつまでも一緒に居られてたまるかっての!! どっか行けよっ」
「ご主人…… 様……?」
「なあ為次。無理する必要はないんだぜ」
正秀は為次の肩を後ろからポンと叩きながら言った。
「無理なんて…… してないってっ」
「大切な人にまで嫌われる必要はないんだぜ」
「そんなつもりは……」
「じゃあ…… なんで泣いてんだよ……」
「!?」
為次は言われて気が付いた。
自分の頬を涙が伝っている。
「え……?」
手の平を顔にあてがってみる。
濡れた感触は確かに涙であった。
「ち、違う…… これは……」
「違わないぜ、それがお前の気持ちだろ」
「だって…… 無理だって。こんな戦車で宇宙に行ったところで死ぬだけだって。あまりにも馬鹿げてる…… この星の住人を巻き込む分けには……」
「宇宙には行って来たばかりだろ」
「軌道上とは違う! ワームホールがまともに潜れるかすら怪しいんだ!」
「ご主人様は…… 死にに行くのですか?」
「あ…… いや……」
「スイもお伴させて下さい。タメツグ様に頂いたこの命、好きに使ってもらって結構です」
「そんなこと…… できる分けが……」
「なぁ為次。スイちゃんはお前のおかげで、初めて自分の居場所を見つけたんだ。レオはもうスイちゃんの家でもあるんだぜ」
「だからこうして、まともな引き受け先を…… それに……」
「それになんだよ?」
「いや、なんでも……」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ! 何も話さなかったら俺は分かんねーぜ!」
「…………」
為次は何も言えなかった。
只、俯くだけである。
そこへ受け取った手紙をヒラヒラさせながら、貞宗が話しかける。
「こいつは、その娘を道具にするつもりなんだよ」
「ちょ!」
「道具? 道具ってなんですか?」
「水谷…… お前達が戻らなかったら奴隷の娘にターナを│殺《や》らせる気だ」
「は!? なんですかそれは?」
「そのままの意味だ」
正秀は為次を睨むと声を荒げる。
「おい! 為次ちゃんと説明しろよ! 本気でそんなこと考えてるのか!?」
「……はぁ、だから言うなって……」
「てめぇ! ふざけるなよっ!」
正秀は胸ぐらを掴み、殴りかかろうとする衝動を抑えていた。
「だって、しょうがないでしょっ。俺達が宇宙に行って帰って来れる可能性なんて殆ど無いに決まってる! そうなればこの星はお終いだ。最後の望みはマザーナノマシンの保有者を殺すしかない。それができるのはスイしか居ないでしょ!」
「だからって、そりゃないだろ!」
拳を振り上げる正秀。
だがスイが、そっと手を添える。
「スイちゃん?」
「ご主人様、それが私の役目なのでしょうか?」
「…………」
「ターナ様を…… 私のお母さんを殺せばご主人様は喜んでもらえますか?」
「スイ……」
「私はご主人様が喜んでもらえるなら、なんだってしますよ」
「……違う、そうじゃない」
自分では正しいと思っていた。
この世界を救うには、惑星テラに救助を求める。
それが不可能ならば、スイを犠牲にしてでもナノマシンの呪縛から人々を解き放ち救済する。
最小限の被害で世界を救えると……
「もし、スイちゃんがターナを殺したら、その後スイちゃんはどうなるんだ?」
「水谷よ、そんなのは分かりきってるだろ。この世界のトップを殺っちまったら、ただでは済まんぞ」
正秀は為次から手を離すと言う。
「為次、本当にいいんだな?」
「……それが、可能性が一番高い」
「分かったぜ」
そう言うと正秀はレオパルト2に向かって歩き始めた。
しかし、為次は俯いたまま何故か動こうとはしなかった。
「どうした? 行こうぜ」
と、振り向く。
「「「「…………」」」」
暫し沈黙が続く……
皆は、うな垂れる為次を見ていた……
「なぁ山崎よ」
「はい……」
「もう1つ手段はあるぞ」
「え?」
「好きな娘一人も守れない奴に、皆を救える分けがなかろう。自惚れるな」
「うっ……」
「もう一度、俺を信じてみろ。俺がやってやる。俺はこの星の住人だ。ここは俺の第二の故郷だ! この俺が守る!!」
「あなた……」
「でも…… 隊長じゃ……」
「分かっている、今の俺では無理だろう。だが、加護を無くせばどうだ?」
「!?」
「加護を無くすこと自体を拒否する感情は無い。今ままでにだって自ら否定した人々も沢山いる。ナノマシンを排除することは可能だ」
「では、その時は私も一緒に…… そうだわ、折角なので子供も作りましょうか。ふふっ」
クリスは笑って貞宗を見つめた。
「クリス…… ふっ、そうだな。それもいいかもな」
「タメツグさん、私達を頼ってくれてもいいのよ」
「…………」
スイは何も言わない為次に近づくと両手を取って握りしめる。
「ご主人様、スイは幸せ者です。タメツグ様に出会えて本当に良かったです。もうワガママは言いません。だから顔を上げてください」
二人の目が合うと、為次はどうしようもない思いが込み上げてくる。
いつしか傍に居ることが当たり前になっていたスイの存在がとても大きかった。
「スイ…… ごめんね、ごめんね……」
堪らずスイを力いっぱい抱きしめた。
離したくない思いだけが溢れ出てくる。
「俺は…… 俺は…… スイと一緒に居たい……」
「はい」
「ごめんね…… ごめん……」
「謝らないで下さい。タメツグ様は何も悪くないのです」
「だって…… 俺はスイを……」
泣きながら謝ることしかできなかった……
もう、自分でもどうしていいのか分からなかった。
「行こうぜ為次、スイちゃんと一緒に」
「マサ……」
「俺だってマヨーラと約束したさ、指輪を渡したらもう一度帰って来るってな! 大丈夫だ、死んだりしない! レオなら行けるぜ、何処にだってな!」
「なんの根拠があって……」
「ピンチになれば水谷マンが助けてくれるぜ!」
「なんだそれ…… ははっ」
「タメツグ様、笑ってくれたのです。タメツグ様が笑うとスイも嬉しくなるです」
「スイ」
「タメツグ様」
為次とスイは抱き合いながら見つめ合う。
「俺は先に乗ってるぜ」
正秀は気を利かせたつもりなのだろう。
そう言うと背を向けレオパルト2に搭乗した。
「そうだ俺も山崎に渡す物があったな、行くぞクリス」
「はい」
貞宗とクリスも自宅へと入って行く。
残された二人は抱きしめ合いながら、そっと顔を寄せ合った。
「ありがとう、スイ」
「はい」
そんな光景を正秀はパノラマサイトからマジマジと見ながらニヤつくのであった。
……………
………
…
なんやかんやと一段落した三人はレオパルト2に搭乗していた。
「スイ、本当にいいの? これから先は本当に危険なんだよ」
「はい、私は大丈夫です」
「道具にされるよりは、よっぽどマシだろ」
「うっ……」
結局、スイも一緒に行くことになった。
元から、お互いに離れたくない思いがあったので、それは当然の結果なのかも知れない。
「ったく、めんどくさい奴だな。初めから素直になればいいものを……」
と、自宅から戻って来た貞宗もハッチから顔を覗かす為次に向かって悪態をついた。
「うっ……」
「あなた…… あまり言うとタメツグさんが可哀そうよ」
「こんな奴に気を使う必要はない」
「もう…… あなたったら……」
貞宗とクリスも、ようやく見送ることができるので一安心といった様子だ。
「ほら、今の山崎に必要なの持って来てやったぞ」
どうやら本当に渡すものを取りに行っていたらしい。
「なんスか?」
「これだ」
バシッ
突然、手に持っていた草で叩かれた。
「痛っ、ちょっ」
叩かれた所の服に草から離れたツブツブがいっぱい付いている。
「何これ? もー」
「ひっつき虫の草だ。こちらの世界に来た時、服に付いていたのを育てた」
「はぁ? 意味分かんない」
「ほら、さっさと行けっ」
「んもぅ」
「何を貰ったんだ?」
「ほらこれ」
と、何粒か取って正秀に渡した。
「ひっつき虫か、調べといてやるぜ」
「いや、いいよ」
「それじゃ隊長、行ってきます」
正秀はハッチから身を乗り出し、敬礼をする。
横ではスイも真似て敬礼をしていた。
「行ってきますです」
「気をつけてね…… そうだわ、スイちゃんちょっと待って」
そう言って、クリスは砲塔によじ登りスイに手をかざした。
「はう? クリス様?」
「トランスレーション」
呪文を唱えると、光がスイの頭を包み込む。
「向こうへ行って文字が読めないと困るでしょ、ふふっ」
「はい、ありがとうございますです」
「行ってらっしゃい」
と、クリスは戦車から離れた。
「あまり無理はするなよ」
レオパルト2に向かって手を振る貞宗とクリス。
それに合わせて、履帯が地面を離れ浮かび上がる。
何度、見ても異様な光景だ。
しかし、ここは魔法の存在する世界。
何が起ころうとも不思議ではないだろう。
向かうはモノポールリングの向こう側。
いったい何が待ち受けているのだろうか?
不安を胸にしながらも、進むしかない。
僅かな希望を胸に抱きながら……
……………
………
…
「為次、分かったぜ隊長のくれた草」
「は?」
「辞典で調べてやったぜ。姫金水引だってよ」
「あ? ふーん、そう」
「確かに、為次には必要かもな。ははっ」
「なんだそりゃ?」
正秀はそれ以上のことを言わなかった。
只、手に持っていたひっつき虫を横に居るスイに投げ付けて笑っているだけだった。
花言葉は……
『素のままの自分』
※ ※ ※ ※ ※
地球を離れ57日目の出来事であった……
サイクスへ行ったと思えば、すぐにポンタの街に戻った。
この後は再び宇宙へと向かわなければならない。
更にはモノポールリングを潜り未知なる星系へと……
「着いた」
「おう」
本日は快晴で風も穏やかなので貞宗宅の前に直接下りた。
やかましいエンジン音に気が付いたのであろう、貞宗とクリスがお出迎えしてくれる。
「おかえりなさい」
「なんだ、早かったじゃねぇか」
「サーサラさんに挨拶しただけですから」
降車した正秀は貞宗に近づくと言った。
続けてスイと為次もやって来る。
「お部屋に閉じ籠ってたのです」
「そうだねー」
「報酬の受け取りはしなかったのか?」
「ああ、イフリート討伐の報酬も出るんですか?」
正秀は訊いた。
「当たり前だ」
「んじゃ、それはサーサラさんから貰うかな。いいでしょ? マサ」
「おう、だな」
「はっ、そうかい」
「んでは、俺達はちょっと行って来るっス」
「今度はどちらに行かれますか?」
「スイ…… 何処にも行かないよ」
「行かないですか」
「うん…… スイはね……」
「はう?」
「隊長さん、じゃあ宜しくっス」
「考え直す気はないのか? 奴隷の娘は必ず役に立つぞ」
「…………」
為次は何も言わずに首を横に降ると、手紙を渡した。
そこへクリスが傍へと寄って来る。
「タメツグさん、私達のことは気にしなくてもいいのよ」
「そうもいかないでしょ。保険は必要だよ」
「でも……」
「スイ、おいで」
クリスは何かを言いたそうであるが、為次は気にもせずスイの手を取ると貞宗の正面に立つ。
「スイ。隊長さ…… 貞宗さんの言うことをよく聞くんだよ。みんなの力になってあげて」
「タメツグ様?」
まだ理解していない様子である。
スイは呆けた顔で為次を見上げていた。
「ここから先は一緒には行けない。スイはこの星で生まれて、この星に必要な存在だから」
「為次…… おまえ……」
「嫌なのです。タメツグ様と一緒に行くです」
「ダメ」
「嫌です! 約束したのです! 何があっても一緒に居るって」
「ダメ」
「一緒がいいのですっ!」
「ダメだ! これは命令だ! 隊長の世話になるんだ!」
為次は叫びながら言った。
スイが駄々をこねるのは初めから分かっていたことだ。
だから最初で最後の命令をするのは決めていた。
「ほら、行けっ!」
そう言いながら、貞宗の元へと押しやった。
「い、嫌……」
スイは涙目になりながら主の元へと行こうとするが……
「来るな! 俺の言うことが聞けないのか!」
「……お、お願いします! なんでもしますから…… なんでも言うことは聞きますから! 一緒に…… 一緒に居させて下さい!!」
「なあ、為次。どうせもう一度戻って来るんだ、別にいいだろ」
「そうだぞ山崎。水谷の言う通りだ」
「……ダメ」
「ったく、変なとこで意固地だな山崎は」
「タメツグさん、焦る必要はないのよ? ゆっくりと考えてみてはどうかしら?」
「うるさい!! もう、じゅうぶん考えたさ! これがベストに違いないっ」
「ううっ…… タメツグ様……」
「いい加減にしてくれ……」
「どうしてですか…… うえぇぇぇん」
とうとうスイは泣き出してしまった。
それを見た為次は喚き散らかす。
「泣きたければ勝手に泣いてろっ! だいたい迷惑なんだよ、いつも纏わり付いて鬱陶しいだけだ! 碌に役にも立たない、居るだけ邪魔なんだよ!! いつまでも一緒に居られてたまるかっての!! どっか行けよっ」
「ご主人…… 様……?」
「なあ為次。無理する必要はないんだぜ」
正秀は為次の肩を後ろからポンと叩きながら言った。
「無理なんて…… してないってっ」
「大切な人にまで嫌われる必要はないんだぜ」
「そんなつもりは……」
「じゃあ…… なんで泣いてんだよ……」
「!?」
為次は言われて気が付いた。
自分の頬を涙が伝っている。
「え……?」
手の平を顔にあてがってみる。
濡れた感触は確かに涙であった。
「ち、違う…… これは……」
「違わないぜ、それがお前の気持ちだろ」
「だって…… 無理だって。こんな戦車で宇宙に行ったところで死ぬだけだって。あまりにも馬鹿げてる…… この星の住人を巻き込む分けには……」
「宇宙には行って来たばかりだろ」
「軌道上とは違う! ワームホールがまともに潜れるかすら怪しいんだ!」
「ご主人様は…… 死にに行くのですか?」
「あ…… いや……」
「スイもお伴させて下さい。タメツグ様に頂いたこの命、好きに使ってもらって結構です」
「そんなこと…… できる分けが……」
「なぁ為次。スイちゃんはお前のおかげで、初めて自分の居場所を見つけたんだ。レオはもうスイちゃんの家でもあるんだぜ」
「だからこうして、まともな引き受け先を…… それに……」
「それになんだよ?」
「いや、なんでも……」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ! 何も話さなかったら俺は分かんねーぜ!」
「…………」
為次は何も言えなかった。
只、俯くだけである。
そこへ受け取った手紙をヒラヒラさせながら、貞宗が話しかける。
「こいつは、その娘を道具にするつもりなんだよ」
「ちょ!」
「道具? 道具ってなんですか?」
「水谷…… お前達が戻らなかったら奴隷の娘にターナを│殺《や》らせる気だ」
「は!? なんですかそれは?」
「そのままの意味だ」
正秀は為次を睨むと声を荒げる。
「おい! 為次ちゃんと説明しろよ! 本気でそんなこと考えてるのか!?」
「……はぁ、だから言うなって……」
「てめぇ! ふざけるなよっ!」
正秀は胸ぐらを掴み、殴りかかろうとする衝動を抑えていた。
「だって、しょうがないでしょっ。俺達が宇宙に行って帰って来れる可能性なんて殆ど無いに決まってる! そうなればこの星はお終いだ。最後の望みはマザーナノマシンの保有者を殺すしかない。それができるのはスイしか居ないでしょ!」
「だからって、そりゃないだろ!」
拳を振り上げる正秀。
だがスイが、そっと手を添える。
「スイちゃん?」
「ご主人様、それが私の役目なのでしょうか?」
「…………」
「ターナ様を…… 私のお母さんを殺せばご主人様は喜んでもらえますか?」
「スイ……」
「私はご主人様が喜んでもらえるなら、なんだってしますよ」
「……違う、そうじゃない」
自分では正しいと思っていた。
この世界を救うには、惑星テラに救助を求める。
それが不可能ならば、スイを犠牲にしてでもナノマシンの呪縛から人々を解き放ち救済する。
最小限の被害で世界を救えると……
「もし、スイちゃんがターナを殺したら、その後スイちゃんはどうなるんだ?」
「水谷よ、そんなのは分かりきってるだろ。この世界のトップを殺っちまったら、ただでは済まんぞ」
正秀は為次から手を離すと言う。
「為次、本当にいいんだな?」
「……それが、可能性が一番高い」
「分かったぜ」
そう言うと正秀はレオパルト2に向かって歩き始めた。
しかし、為次は俯いたまま何故か動こうとはしなかった。
「どうした? 行こうぜ」
と、振り向く。
「「「「…………」」」」
暫し沈黙が続く……
皆は、うな垂れる為次を見ていた……
「なぁ山崎よ」
「はい……」
「もう1つ手段はあるぞ」
「え?」
「好きな娘一人も守れない奴に、皆を救える分けがなかろう。自惚れるな」
「うっ……」
「もう一度、俺を信じてみろ。俺がやってやる。俺はこの星の住人だ。ここは俺の第二の故郷だ! この俺が守る!!」
「あなた……」
「でも…… 隊長じゃ……」
「分かっている、今の俺では無理だろう。だが、加護を無くせばどうだ?」
「!?」
「加護を無くすこと自体を拒否する感情は無い。今ままでにだって自ら否定した人々も沢山いる。ナノマシンを排除することは可能だ」
「では、その時は私も一緒に…… そうだわ、折角なので子供も作りましょうか。ふふっ」
クリスは笑って貞宗を見つめた。
「クリス…… ふっ、そうだな。それもいいかもな」
「タメツグさん、私達を頼ってくれてもいいのよ」
「…………」
スイは何も言わない為次に近づくと両手を取って握りしめる。
「ご主人様、スイは幸せ者です。タメツグ様に出会えて本当に良かったです。もうワガママは言いません。だから顔を上げてください」
二人の目が合うと、為次はどうしようもない思いが込み上げてくる。
いつしか傍に居ることが当たり前になっていたスイの存在がとても大きかった。
「スイ…… ごめんね、ごめんね……」
堪らずスイを力いっぱい抱きしめた。
離したくない思いだけが溢れ出てくる。
「俺は…… 俺は…… スイと一緒に居たい……」
「はい」
「ごめんね…… ごめん……」
「謝らないで下さい。タメツグ様は何も悪くないのです」
「だって…… 俺はスイを……」
泣きながら謝ることしかできなかった……
もう、自分でもどうしていいのか分からなかった。
「行こうぜ為次、スイちゃんと一緒に」
「マサ……」
「俺だってマヨーラと約束したさ、指輪を渡したらもう一度帰って来るってな! 大丈夫だ、死んだりしない! レオなら行けるぜ、何処にだってな!」
「なんの根拠があって……」
「ピンチになれば水谷マンが助けてくれるぜ!」
「なんだそれ…… ははっ」
「タメツグ様、笑ってくれたのです。タメツグ様が笑うとスイも嬉しくなるです」
「スイ」
「タメツグ様」
為次とスイは抱き合いながら見つめ合う。
「俺は先に乗ってるぜ」
正秀は気を利かせたつもりなのだろう。
そう言うと背を向けレオパルト2に搭乗した。
「そうだ俺も山崎に渡す物があったな、行くぞクリス」
「はい」
貞宗とクリスも自宅へと入って行く。
残された二人は抱きしめ合いながら、そっと顔を寄せ合った。
「ありがとう、スイ」
「はい」
そんな光景を正秀はパノラマサイトからマジマジと見ながらニヤつくのであった。
……………
………
…
なんやかんやと一段落した三人はレオパルト2に搭乗していた。
「スイ、本当にいいの? これから先は本当に危険なんだよ」
「はい、私は大丈夫です」
「道具にされるよりは、よっぽどマシだろ」
「うっ……」
結局、スイも一緒に行くことになった。
元から、お互いに離れたくない思いがあったので、それは当然の結果なのかも知れない。
「ったく、めんどくさい奴だな。初めから素直になればいいものを……」
と、自宅から戻って来た貞宗もハッチから顔を覗かす為次に向かって悪態をついた。
「うっ……」
「あなた…… あまり言うとタメツグさんが可哀そうよ」
「こんな奴に気を使う必要はない」
「もう…… あなたったら……」
貞宗とクリスも、ようやく見送ることができるので一安心といった様子だ。
「ほら、今の山崎に必要なの持って来てやったぞ」
どうやら本当に渡すものを取りに行っていたらしい。
「なんスか?」
「これだ」
バシッ
突然、手に持っていた草で叩かれた。
「痛っ、ちょっ」
叩かれた所の服に草から離れたツブツブがいっぱい付いている。
「何これ? もー」
「ひっつき虫の草だ。こちらの世界に来た時、服に付いていたのを育てた」
「はぁ? 意味分かんない」
「ほら、さっさと行けっ」
「んもぅ」
「何を貰ったんだ?」
「ほらこれ」
と、何粒か取って正秀に渡した。
「ひっつき虫か、調べといてやるぜ」
「いや、いいよ」
「それじゃ隊長、行ってきます」
正秀はハッチから身を乗り出し、敬礼をする。
横ではスイも真似て敬礼をしていた。
「行ってきますです」
「気をつけてね…… そうだわ、スイちゃんちょっと待って」
そう言って、クリスは砲塔によじ登りスイに手をかざした。
「はう? クリス様?」
「トランスレーション」
呪文を唱えると、光がスイの頭を包み込む。
「向こうへ行って文字が読めないと困るでしょ、ふふっ」
「はい、ありがとうございますです」
「行ってらっしゃい」
と、クリスは戦車から離れた。
「あまり無理はするなよ」
レオパルト2に向かって手を振る貞宗とクリス。
それに合わせて、履帯が地面を離れ浮かび上がる。
何度、見ても異様な光景だ。
しかし、ここは魔法の存在する世界。
何が起ころうとも不思議ではないだろう。
向かうはモノポールリングの向こう側。
いったい何が待ち受けているのだろうか?
不安を胸にしながらも、進むしかない。
僅かな希望を胸に抱きながら……
……………
………
…
「為次、分かったぜ隊長のくれた草」
「は?」
「辞典で調べてやったぜ。姫金水引だってよ」
「あ? ふーん、そう」
「確かに、為次には必要かもな。ははっ」
「なんだそりゃ?」
正秀はそれ以上のことを言わなかった。
只、手に持っていたひっつき虫を横に居るスイに投げ付けて笑っているだけだった。
花言葉は……
『素のままの自分』
※ ※ ※ ※ ※
地球を離れ57日目の出来事であった……
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父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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日本は異世界で平和に過ごしたいようです。
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2020年、日本各地で震度5強の揺れを観測した。
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この作品では自衛隊が主に活躍します。流血要素を含むため、苦手な方は、ブラウザバックをして他の方々の良い作品を見に行くんだ!
ちなみにご意見ご感想等でご指摘いただければ修正させていただく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
"小説家になろう"にも掲載中。
"小説家になろう"に掲載している本文をそのまま掲載しております。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
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ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
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大和型戦艦、異世界に転移する。
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転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
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辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
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