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異世界編 2章
第97話 特訓その1
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特訓の為に貞宗に連れて来られた場所は、街の裏側。
木々の生い茂る森の中であった。
正門側の見晴らしの良い草原地帯とは異なり、何処か不気味な感じがする。
しかし、晴天ならば木漏れ日の美しい、気持ちの良い森なのかも知れない。
だが、今日はあいにくの曇り空だ。
上空では時折、ゴロゴロと雷が鳴っている。
今のとこ、正秀が2度程落雷の被害に会っていた……
そんな森の中をしばらく歩くと、視界が開けて来た。
「着いたぞ、ここだ」
と、貞宗の指す場所は森にぽっかりと穴が開いたように、そこだけ木が生えていない。
結構な広さもあり、足場も硬い土で動きやすそうだ。
「ここが修行場ですか、おらワクワク……」
「マサ、そこまでだ」
「お、おう…… そうだな」
「よし、下らないことを言ってないで、さっさと始めるぞ」
「はい、隊長」
「では、手始めに気を使った攻撃をしてみろ」
「気ですか、必殺技でいいのですか?」
「そうだ、どんなものか様子見だ」
「それでは、まず俺から」
「がんばってねぇん」
「おう」
正秀は背中の大剣を手に取ると、頭上に掲げる。
また落雷が心配なのか、上空をチラチラ見るが今の所は大丈夫そうだ。
「はぁぁぁぁぁ……!」
全神経を大剣へと集中し気を溜める。
「行くぜ! 必殺滅殺撲殺ざぁぁぁん!」
必殺技の名前を叫ぶと共に、大剣が振り下ろされる。
「はりゃぁぁぁあ!」
ドゴォォォン!!
相変わらずの豪快な衝撃波が、地面を引き裂いて行く。
辺りには凄まじい衝撃音を轟かせながら土埃が舞い上がる。
大剣の前方には数百メートルに及ぶ一筋の溝が現れ、その威力を見せ付けた。
「へへっ、どうですか? 隊長」
「ふむ、中々のものだな」
「これが気功戦士の力か……」
「うわぁ~なんだよ」
「いやぁスゴイスゴイ、もう完璧だね」
「だろ?」
スゴイと適当に褒める為次であるが、あることに気が付いていた。
一番最初の時と必殺技の名前が変わっているだろうと……
だが、あえて突っ込まない。
多分…… いや、絶対に面倒臭いから…… それよりも帰りたい。
「じゃ帰ろうか」
「バカヤロー何言ってるんだ、次はお前の番だ! やってみろ、山崎」
「えー」
「えー、じゃない早くしろ」
「はいはい」
「頑張ってなんだよ、タメツグさん」
為次は、面倒臭そうに手に持っている刀を引き抜く。
片手には鞘を持っているので、3尺以上もある刀をもう一方の手で振り上げる。
かなりの重さが有るので、持っている手がプルプル震えるのが傍から見ても分かる。
「おい、片手で大丈夫なのか?」
「ちょ…… 重い」
何時までも持ち上げてるの大変なので、適当に振り下ろしす。
「うりゃ」
ドスッ
刀身の先っぽが地面に突き刺さる。
特に何かが出てきた様子も無い。
一瞬、その場に沈黙が流れた……
「おい、山崎…… まじめにやれ」
本人は至ってまじめにやってるつもりだ。
「無理」
「ど、ドンマイなんだよタメツグさん」
「お前、本当にスレイブを倒したのか?」
「あ、知ってるんだ」
「話は聞いている」
「なんと!? タメツグ君は、あのスレイブ氏を倒したのか?」
「マグロだよ」
「マグロって何かな?」
「マグレだぜ」
「マグロにしろ、スレイブ氏を倒すとは中々のものだぞ」
「マグレな…… ってシャルまで」
「いやぁ、これは失敬マサヒデ君。それでマグロとは?」
「マグロはもういい、それよりシャルの言う通りだ。偶然で倒せるような相手ではない、スレイブはな」
「そんなこと言われたって、今のだってまじめにやってるしぃ」
「それなら、両手で刀を握らんか!」
「あー、うん」
為次は左手に持っている鞘を見る。
だが困ったことに、どうしていいのか分からない。
その辺に置いておけば良いのだが、為次の性格上それができなかった。
なので……
「ん」
鞘を貞宗に見せつけた。
「なんだっ! どうした!? んっ、じゃ分からん!」
「だってコレがあるから両手で持てないもん」
「持てないもん…… じゃないっ! その辺い置いとけ!」
それを聞いた為次は、あからさまに嫌そうな顔をする。
「なんだその顔は! 何が不満なんだ!?」
「んー、だってぇ」
「なあ、タメツグ君は、スレイブ氏とやり合った時には違う武器だったのかい?」
「これだよ」
「では、その時も片手と?」
「んー? 片手っつか、こう抜きながらぁ」
そう言いながら為次は、刀身を鞘から抜いたり入れたりさせる。
それを見た貞宗は焦った。
なぜなら、目の前のバカは切先を鯉口へとダイレクトに納刀しているのだ。
しかも、連続にである。
「山崎よ、何をやってるんだ……」
「え?」
「今度は抜いて直ぐに納刀してみろ」
「はぁ」
気のない返事をしながら、再び抜刀する為次。
そして、即座に納刀する。
チャキンッ!
普通ならば、峰を親指にあてがい切先を鯉口に落とすのだが……
為次のそれは、納刀と言うよりは殆ど投げ込んでいる感じであった。
「お前は変なとこで器用だな、誰に習ったんだ?」
「や、別にゲームだと、みんなこんな感じだけど?」
「ゲーム…… だと……」
「為次は格闘ゲームが得意ですからね」
「それはマサが下手クソなだけで、俺は別段上手くないよ」
「なんだと為次! 俺だってたまには勝ってただろ!」
為次は子供の頃から友達が殆ど居なかった。
なので、遊び相手と言えばもっぱらTVゲームであった。
ジャンルと言えば、主に昔ながらの2Dシューティングが好きだった。
何故なら、あまり頭を使わなくとも感性のみでクリアできるからだ。
そんな中、下手の横好きで格闘ゲームも遊んでいたのだ。
その時に使っていた居合キャラがカッコ良く、お気に入りであった。
だから自分でも買ってみた…… 模造刀を……
最早、中二病と言っても過言では無い。
為次は毎日、刀を出したり入れたりと練習した。
しかも、部屋の中での練習の為に、壁には穴が沢山あいた。
おかげで、部屋は何だか良く分からないポスターだらけだ。
そして、練習の成果もあり、まったく意味の無い納刀技術を取得したのだ。
そんなこんなで今に至る……
「もういい、山崎の相手を真面目にやってると、頭がおかしくなりそうだ」
「酷い言われようですな」
「じゃあ今度は抜刀しながら振ってみろ、気を集中してな」
「まだ、やるんスか?」
「当たり前だっ、まだ何もしておらん!」
「んー、もー」
「さっさとしろっ!」
「はいはい」
面倒臭そうに為次は、納刀した状態で構える。
神経を集中させて……
「うりゃ」
抜刀された刀身が空を斬る!
特に変化は無いようだ……
「やっぱダメだね」
為次は最初から諦めていた様子だ。
シャルも残念そうである。
「何も起こらないな」
「がんばってなんだよ、タメツグさん」
見た感じ何も変化は無いようだが、貞宗と正秀は気が付いた。
「見たか? 水谷」
「はい、刃に…… なんと言うか……」
「ああ、剣気は纏っていたな。よし、次は今の要領で木を斬ってみろ」
「だってさ、マサ」
「は? 俺か?」
「バカヤロー! 山崎! お前だ!」
「ええ!? 順番からして次はマサでしょ!」
「なんの順番だ! なんのっ!?」
「隊長さん、さっきから怒鳴ってばかりなのねん」
「ぐぉっ…… コイツはぁっ!」
「た、隊長待って下さい、ちょっと待って下さい」
ブチギレそうになる貞宗を正秀は、咄嗟になだめようとした。
「山崎てめぇ……」
「為次をまともに相手してはダメですよ、隊長」
「フーッ! フーッ!! ぐぉぉぉ!」
貞宗も分かっているつもりだ。
殴ったところで改心するような輩ではないと。
怒りに震える拳を必死に抑える。
こめかみに浮き出る血管が今にも切れそうだ。
しかし、為次はそんなことはお構いなしに、相変わらずヘラヘラしていた。
「隊長さん、落ち着いてちょんまげ」
ブチッ
「ぐっ! 山崎よ……」
「ぶちっ、って聞こえたんだよ」
「うむ」
シャルは冷静に頷いていた。
「隊長……」
「大丈夫だ、分かっている、大丈夫だ心配するな水谷」
「は、はい……」
貞宗は自分の刀を抜きながら言う。
「俺は今からコイツを斬る」
「え? ちょっと待って下さい……」
「首を刎ねれば、あの減らず口も無くなるだろ?」
「それは……」
「そうすれば、ゆっくりと教育できる」
「た、隊長! 何を言ってるんですか!?」
最早、正秀の言葉など聞く耳持たぬといった様子だ。
「安心しろ山崎、痛みは無い、一瞬だ」
苦笑いをしながら後ずさりする為次。
「ちょ、ま、待って…… ジョーダンっスよね?」
「サダムネさん、ちょっと怖いんだよ」
「怖いってレベルじゃねーぞ。俺、殺されそうなんすがぁ!」
「サダムネ氏の実力が見れるのか? これはこれで興味深いな」
「えぇ? なんでシャルは他人事なの? ねぇなんでぇ!」
「お喋りは気が済んだか? もう話せなくなるぞ山崎」
「マジで……」
貞宗はにじり寄ると、五尺以上もある大太刀の剣先を為次に向ける。
「なあシャルだって言ってるだろ? 気功士の実力が見たいと」
「えっと……」
「うむ」
焦る為次を見ながら、相変わらずシャルは冷静に頷いていた。
「安心しろ、これは特訓だ」
「安心していいっスか?」
「ああ、俺の実力を見れば山崎だって分かってくれるはずだぞ」
「やっぱ、やめようよ…… 隊長さん……?」
「その体でなっ!!」
大太刀が右から左へと駆け抜ける!
―― 斬 ――
※ ※ ※ ※ ※
その頃……
貞宗宅ではクリスが、掃除に洗濯と忙しそうにしていた。
スイとマヨーラもお手伝いなのです。
「これが終わったら、お昼の準備もしましょうね」
「はいです」
「きっと、みんなお腹を空かせて帰って来るわ」
「今日の味噌汁は、あたしが作るわ、任せてちょうだい」
「マサヒデ様に飲ませるのですね。ゴクゴクと」
「ふふっ、マヨーラちゃんったら」
「な、何よ! もーっ」
そんな、のどかな朝であった……
木々の生い茂る森の中であった。
正門側の見晴らしの良い草原地帯とは異なり、何処か不気味な感じがする。
しかし、晴天ならば木漏れ日の美しい、気持ちの良い森なのかも知れない。
だが、今日はあいにくの曇り空だ。
上空では時折、ゴロゴロと雷が鳴っている。
今のとこ、正秀が2度程落雷の被害に会っていた……
そんな森の中をしばらく歩くと、視界が開けて来た。
「着いたぞ、ここだ」
と、貞宗の指す場所は森にぽっかりと穴が開いたように、そこだけ木が生えていない。
結構な広さもあり、足場も硬い土で動きやすそうだ。
「ここが修行場ですか、おらワクワク……」
「マサ、そこまでだ」
「お、おう…… そうだな」
「よし、下らないことを言ってないで、さっさと始めるぞ」
「はい、隊長」
「では、手始めに気を使った攻撃をしてみろ」
「気ですか、必殺技でいいのですか?」
「そうだ、どんなものか様子見だ」
「それでは、まず俺から」
「がんばってねぇん」
「おう」
正秀は背中の大剣を手に取ると、頭上に掲げる。
また落雷が心配なのか、上空をチラチラ見るが今の所は大丈夫そうだ。
「はぁぁぁぁぁ……!」
全神経を大剣へと集中し気を溜める。
「行くぜ! 必殺滅殺撲殺ざぁぁぁん!」
必殺技の名前を叫ぶと共に、大剣が振り下ろされる。
「はりゃぁぁぁあ!」
ドゴォォォン!!
相変わらずの豪快な衝撃波が、地面を引き裂いて行く。
辺りには凄まじい衝撃音を轟かせながら土埃が舞い上がる。
大剣の前方には数百メートルに及ぶ一筋の溝が現れ、その威力を見せ付けた。
「へへっ、どうですか? 隊長」
「ふむ、中々のものだな」
「これが気功戦士の力か……」
「うわぁ~なんだよ」
「いやぁスゴイスゴイ、もう完璧だね」
「だろ?」
スゴイと適当に褒める為次であるが、あることに気が付いていた。
一番最初の時と必殺技の名前が変わっているだろうと……
だが、あえて突っ込まない。
多分…… いや、絶対に面倒臭いから…… それよりも帰りたい。
「じゃ帰ろうか」
「バカヤロー何言ってるんだ、次はお前の番だ! やってみろ、山崎」
「えー」
「えー、じゃない早くしろ」
「はいはい」
「頑張ってなんだよ、タメツグさん」
為次は、面倒臭そうに手に持っている刀を引き抜く。
片手には鞘を持っているので、3尺以上もある刀をもう一方の手で振り上げる。
かなりの重さが有るので、持っている手がプルプル震えるのが傍から見ても分かる。
「おい、片手で大丈夫なのか?」
「ちょ…… 重い」
何時までも持ち上げてるの大変なので、適当に振り下ろしす。
「うりゃ」
ドスッ
刀身の先っぽが地面に突き刺さる。
特に何かが出てきた様子も無い。
一瞬、その場に沈黙が流れた……
「おい、山崎…… まじめにやれ」
本人は至ってまじめにやってるつもりだ。
「無理」
「ど、ドンマイなんだよタメツグさん」
「お前、本当にスレイブを倒したのか?」
「あ、知ってるんだ」
「話は聞いている」
「なんと!? タメツグ君は、あのスレイブ氏を倒したのか?」
「マグロだよ」
「マグロって何かな?」
「マグレだぜ」
「マグロにしろ、スレイブ氏を倒すとは中々のものだぞ」
「マグレな…… ってシャルまで」
「いやぁ、これは失敬マサヒデ君。それでマグロとは?」
「マグロはもういい、それよりシャルの言う通りだ。偶然で倒せるような相手ではない、スレイブはな」
「そんなこと言われたって、今のだってまじめにやってるしぃ」
「それなら、両手で刀を握らんか!」
「あー、うん」
為次は左手に持っている鞘を見る。
だが困ったことに、どうしていいのか分からない。
その辺に置いておけば良いのだが、為次の性格上それができなかった。
なので……
「ん」
鞘を貞宗に見せつけた。
「なんだっ! どうした!? んっ、じゃ分からん!」
「だってコレがあるから両手で持てないもん」
「持てないもん…… じゃないっ! その辺い置いとけ!」
それを聞いた為次は、あからさまに嫌そうな顔をする。
「なんだその顔は! 何が不満なんだ!?」
「んー、だってぇ」
「なあ、タメツグ君は、スレイブ氏とやり合った時には違う武器だったのかい?」
「これだよ」
「では、その時も片手と?」
「んー? 片手っつか、こう抜きながらぁ」
そう言いながら為次は、刀身を鞘から抜いたり入れたりさせる。
それを見た貞宗は焦った。
なぜなら、目の前のバカは切先を鯉口へとダイレクトに納刀しているのだ。
しかも、連続にである。
「山崎よ、何をやってるんだ……」
「え?」
「今度は抜いて直ぐに納刀してみろ」
「はぁ」
気のない返事をしながら、再び抜刀する為次。
そして、即座に納刀する。
チャキンッ!
普通ならば、峰を親指にあてがい切先を鯉口に落とすのだが……
為次のそれは、納刀と言うよりは殆ど投げ込んでいる感じであった。
「お前は変なとこで器用だな、誰に習ったんだ?」
「や、別にゲームだと、みんなこんな感じだけど?」
「ゲーム…… だと……」
「為次は格闘ゲームが得意ですからね」
「それはマサが下手クソなだけで、俺は別段上手くないよ」
「なんだと為次! 俺だってたまには勝ってただろ!」
為次は子供の頃から友達が殆ど居なかった。
なので、遊び相手と言えばもっぱらTVゲームであった。
ジャンルと言えば、主に昔ながらの2Dシューティングが好きだった。
何故なら、あまり頭を使わなくとも感性のみでクリアできるからだ。
そんな中、下手の横好きで格闘ゲームも遊んでいたのだ。
その時に使っていた居合キャラがカッコ良く、お気に入りであった。
だから自分でも買ってみた…… 模造刀を……
最早、中二病と言っても過言では無い。
為次は毎日、刀を出したり入れたりと練習した。
しかも、部屋の中での練習の為に、壁には穴が沢山あいた。
おかげで、部屋は何だか良く分からないポスターだらけだ。
そして、練習の成果もあり、まったく意味の無い納刀技術を取得したのだ。
そんなこんなで今に至る……
「もういい、山崎の相手を真面目にやってると、頭がおかしくなりそうだ」
「酷い言われようですな」
「じゃあ今度は抜刀しながら振ってみろ、気を集中してな」
「まだ、やるんスか?」
「当たり前だっ、まだ何もしておらん!」
「んー、もー」
「さっさとしろっ!」
「はいはい」
面倒臭そうに為次は、納刀した状態で構える。
神経を集中させて……
「うりゃ」
抜刀された刀身が空を斬る!
特に変化は無いようだ……
「やっぱダメだね」
為次は最初から諦めていた様子だ。
シャルも残念そうである。
「何も起こらないな」
「がんばってなんだよ、タメツグさん」
見た感じ何も変化は無いようだが、貞宗と正秀は気が付いた。
「見たか? 水谷」
「はい、刃に…… なんと言うか……」
「ああ、剣気は纏っていたな。よし、次は今の要領で木を斬ってみろ」
「だってさ、マサ」
「は? 俺か?」
「バカヤロー! 山崎! お前だ!」
「ええ!? 順番からして次はマサでしょ!」
「なんの順番だ! なんのっ!?」
「隊長さん、さっきから怒鳴ってばかりなのねん」
「ぐぉっ…… コイツはぁっ!」
「た、隊長待って下さい、ちょっと待って下さい」
ブチギレそうになる貞宗を正秀は、咄嗟になだめようとした。
「山崎てめぇ……」
「為次をまともに相手してはダメですよ、隊長」
「フーッ! フーッ!! ぐぉぉぉ!」
貞宗も分かっているつもりだ。
殴ったところで改心するような輩ではないと。
怒りに震える拳を必死に抑える。
こめかみに浮き出る血管が今にも切れそうだ。
しかし、為次はそんなことはお構いなしに、相変わらずヘラヘラしていた。
「隊長さん、落ち着いてちょんまげ」
ブチッ
「ぐっ! 山崎よ……」
「ぶちっ、って聞こえたんだよ」
「うむ」
シャルは冷静に頷いていた。
「隊長……」
「大丈夫だ、分かっている、大丈夫だ心配するな水谷」
「は、はい……」
貞宗は自分の刀を抜きながら言う。
「俺は今からコイツを斬る」
「え? ちょっと待って下さい……」
「首を刎ねれば、あの減らず口も無くなるだろ?」
「それは……」
「そうすれば、ゆっくりと教育できる」
「た、隊長! 何を言ってるんですか!?」
最早、正秀の言葉など聞く耳持たぬといった様子だ。
「安心しろ山崎、痛みは無い、一瞬だ」
苦笑いをしながら後ずさりする為次。
「ちょ、ま、待って…… ジョーダンっスよね?」
「サダムネさん、ちょっと怖いんだよ」
「怖いってレベルじゃねーぞ。俺、殺されそうなんすがぁ!」
「サダムネ氏の実力が見れるのか? これはこれで興味深いな」
「えぇ? なんでシャルは他人事なの? ねぇなんでぇ!」
「お喋りは気が済んだか? もう話せなくなるぞ山崎」
「マジで……」
貞宗はにじり寄ると、五尺以上もある大太刀の剣先を為次に向ける。
「なあシャルだって言ってるだろ? 気功士の実力が見たいと」
「えっと……」
「うむ」
焦る為次を見ながら、相変わらずシャルは冷静に頷いていた。
「安心しろ、これは特訓だ」
「安心していいっスか?」
「ああ、俺の実力を見れば山崎だって分かってくれるはずだぞ」
「やっぱ、やめようよ…… 隊長さん……?」
「その体でなっ!!」
大太刀が右から左へと駆け抜ける!
―― 斬 ――
※ ※ ※ ※ ※
その頃……
貞宗宅ではクリスが、掃除に洗濯と忙しそうにしていた。
スイとマヨーラもお手伝いなのです。
「これが終わったら、お昼の準備もしましょうね」
「はいです」
「きっと、みんなお腹を空かせて帰って来るわ」
「今日の味噌汁は、あたしが作るわ、任せてちょうだい」
「マサヒデ様に飲ませるのですね。ゴクゴクと」
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