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異世界編 1章

第44話 お魚

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 エリアルサル王国に住む人々の食料を生産し続ける、食物プラント。

 「エリステアル王国よ、覚えなさい」

 ……う。
 
 えー…… ここエリステアル王国に住む人々の食料を生産し続ける、食物プラント。
 そこは今、修羅場と化していた。
 為次の作った熟成知多牛霜降りステーキ、商品名パーフェクトステーキのせいである。
 5メートルもある巨大ステーキはその名の通り完璧であり、その香りと味に取り憑かれた人々は、まるでゾンビのように群がりむさぼり付いていたのであった。

 「びゃぁぁぁ、旨いぃぃ」

 「なんですかこれは、死ぬまで食べ続けてしまいます! 殺人焼肉ですか!?」

 我先にとステーキを喰らう人々は口々に叫びながら食べ続ける。
 それを押し退けるように少年おっさんも食らい付く。

 「どかんか己ら! ワシが喰うんじゃい! ふぉぉぉ! この口の中でとろける触感、噛むと溢れ出す肉汁、これは正にステーキ界のおっぱいじゃ!!」

 「あんた、おっぱい食べるの?」

 マヨーラは言った。

 「うるしゃー、もぐもぐ、ボケー、もぐもぐ、あぁぁぁ、もぐもぐ」

 スイも負けじと食べている。

 「もっちゅ、もっちゅ、もっちゅ」

 そんな感じで、皆が鷲掴みでモリモリ食べるので、5メートルもあったビッゲストゥなステーキはあっと言う間に食べ尽くされて行くのであった。

 「良かったな為次、中々好評じゃないか」

 「うん、でもあんま食べれなかったかも」

 「この人だかりじゃなぁ…… マヨーラは食べたのか?」

 「ええ、食べたわよ。タメツグのわりには上出来じゃない」

 「ふふ、流石は俺様。異世界の板前とでも呼んでくれ」

 「調理してないだろ。しかも、洋食屋の板前かよ」

 「うん……」

 「焼肉程度で調子に乗って…… 相変わらず、適当ねタメツグは」

 「へー、じゃあ、アレだわ。マヨもなんか作ってよ」

 「え? 私が?」

 「そうだな、マヨーラの料理も食べてみたいぜ」

 「え? え? マサヒデ、私の手料理食をべたいの?」

 「俺も、俺も」

 「タメツグ、あんたに食べさせる料理は無いわよ」

 「ひでぇ」

 「じゃ、じゃあ今夜にでもマサヒデにご馳走しようかしら。マサヒデに」

 「別に今夜じゃなくても、今からでもあれで作れるんじゃないのか?」

 そう言いうと正秀は食物管理魔法陣を指した。

 「ああ、アレね…… 無理よ」

 「は? どうしてだ?」

 「だって文字が読めないんですもの」

 「やっぱり、そうなのか…… そんな気はしてたが……」

 「でも、俺は読めるよ」

 「それはそうよ、当たり前じゃない」

 「は? なんで? ねー、なんで? マヨ」

 「そんなことも知らないのね。いい? あれは古代文字なのよ」

 「古代文字……」

 「そうよマサヒデ、読める人は上級国民とかの一部の人達だけよ」

 「俺もマサも上級国民じゃないよ」

 「知ってるわよ、タメツグが上級国民な分けないでしょ」

 「まあそうね」

 「でも、あなた達はターナにトランスレーションの魔法をかけてもらったでしょ?」

 「うん」

 「そうだぜ」

 「トランスレーションの魔法ってのはね、魔法をかける人が知っている言語を相手に教えるのよ。そういうこと」

 「ああ、なるへそ」

 「それなら、マヨーラもターナにトランスレーションとやらをかけてもらえばいいんじゃないのか?」

 「誰にでもかけてもらえるって分けじゃないのよ。それに、必要ないでしょ」

 「読めた方がいいんじゃん、ターナに頼んであげよっか?」

 当然のことだと為次は思った。
 だから、ちょっと親切心で言ったのだが……

 「結構よ、読めない人の方が多いし」

 断るマヨーラに正秀も訊く。

 「知りたくないのか? 昔のこととか」

 「そんなの知ってどうするのよ」

 再び正秀はガザフの言葉を思い出す。

 「なんの疑問も抱かなくなった…… か……」

 「何それ?」

 「いや、いいんだ…… それじゃ今夜にでも手料理を食べさせてもらおうかな」

 「ええ、任せてちょうだい。ふふ」

 「俺も、俺も」

 「仕方ないわねぇ」

 そんな、ステーキがあまり食べれなかった3人が話をしていると、スイが戻って来た。

 「ご主人…… ゲフッ、様…… げふー、いっぱい食べてきたのです」

 見ると、どれほど食べたのだろうか? 腹がすごく膨らんでいる。
 最早、妊娠した腹ボテ魔法少女状態だ。
 しかも、手には運転席に投げ込んであった洗面器を持っている。
 中にはステーキだったであろうモノがムチムチで詰まっていた。

 「ぬぉ、スイ……」

 「スイちゃん……」

 「どんだけ食ったのよ……」

 スイはヨタヨタと為次に近づくと洗面器を差し出す。

 「ご主人様の分なのです」

 為次は洗面器を受け取り中を覗くとみっちりと肉が詰まっている。
 スイのバカ力で押し込んだのだろう、ペースト状になっていた。

 「え…… う、うん…… ありがと……」

 「ご主人様ぁ、苦しいのですぅ」

 「見れば分かるかも」

 「バカ同士大変ね……」

 だが、苦しそうなのはスイだけではなかった。
 ステーキに群がっていた人達は皆一様に腹を風船のように膨らませ、口元を押さえている。

 「なんだか、凄い光景だぜ」

 「なんなのよ……」

 少年おっさんも腹を膨らませ、床で転がっているので、4人は近づいてみる。

 「大丈夫か?」

 正秀は心配はしていないが一応は訊いてみた。

 「う、お、お…… 出てきそうじゃい……」

 「出すなよ、出すなよ、絶対出すなよ」

 「やめろ為次、フラグを立てようとするんじゃない」

 「……なんかヤバそうだし、もう帰ろっか」

 「そうだな」

 「せっかくだし、適当に食材出して持って帰ろうよ」

 「だ、ダメじゃぁ…… ゲフッ! うっぷ、それはなんらんぞ」

 「なんで? 金入れればいいでしょ」

 「ダメ、うっぷ……」

 吐きそうで上手く喋れない少年おっさんの代わってマヨーラが教えてくれる。

 「ここの食べ物は誰でも持って帰れないのよ」

 「なんで?」

 「商人の称号を持つ人か、その人に委託された人しか持って帰っちゃいけない決まりなの。それに、冒険者は商人にはなれないわ」

 「へー、そうなんだ」

 「そんなルールがあるのか」

 「そうなのよ」

 「でも、ま、みんな動けないみたいだし」

 そう言いながら為次は食物管理魔法陣に近づくと、操作メニューコンソールを起動した。
 
 「何してるのよ?」

 「たまには魚も食べたいの」

 「サカナ? お酒のおつまみが欲しいの?」

 「それじゃない、海や川のお魚なの」

 「何それ?」

 「何って…… マヨは魚を知らないの?」

 「知らないわ」

 「んー…… 食材メニューにあるでしょ」

 為次は食材料の項目を表示して魚を探し始める。

 「あれー? 無いなー。お魚さん無いよ」

 「どういうことだ? この世界には魚が居ないのか?」

 為次は原材料と食品の項目も探してみるが、見つからない。

 「マジで無い。履歴があるわ、誰か作ってないのかなー? えっと、古い順っと」

 為次は制作リストを見つけたので、古い方を見ると千年以上前の情報が表示された。
 その中には確かに魚がある。

 「あったわ」

 「どれどれ」

 正秀も空中に浮かぶコンソールを覗き込む。

 「お、これとか鯛みたいな魚だぜ」

 「ほんとだ、出してみる?」

 「そうだな、マヨーラにも見せてやるといいかもな」

 「別に見たくないけど……」

 「そう言うなよ、せっかくだからな」

 「まあ、マサヒデが言うなら」
 
 「じゃあ、出すわ」

 早速、メニューから出力を選ぶもエラーがでた。

 「ありゃ…… 削除されてるみたい」

 「マジかよ」

 「んー…… 復元ボタンがあるわ、復元するわ」

 「おう」

 「せっかくだから大きくしよう、そうしよう」

 為次はコンソールを弄りながら魚を復元した。
 大きさはやっぱり5メートルくらいにする。
 それ以上だとエラーが出るから。
 大き過ぎると扉に詰まるから無理なのだろう。 
 あと、今回は普通に拡大した。
 ブロック単位で拡大すると、小さな魚の集合体で巨大な魚が出て来そうだったから。

 「それでは、ぽちっとな」

 出力ボタンに触れるとカウントダウンが始まる。
 扉はステーキの3番扉の隣にある2番だ。

 【 3…… 2…… 1…… 完成 】

 カウントダウンが終わると2番扉が開く。
 その奥から全長5メートル強の鯛みたいな魚が出て来た。
 所々、若干鯛とは違うし、生きてはいないようだ。
 それでも、巨大な鯛はなんか凄い。

 正秀と為次は異様な大魚に驚く。

 「「す、すげぇ……」」

 それを見た床で転がる少年おっさんはうめく。

 「おのれら何を、げっふ…… しとんじゃい…… うぷ」

 だが、そんなのは無視して魚に近づいてみた。
 スイもノソノソとついて来る。

 「へぇ、これが魚なんだ」

 そうは言うマヨーラがだが、あまり興味は無さそうである。

 「お魚さんです」

 「気持ち悪いわね」

 「確かに、ここまで巨大だと不気味だぜ」

 「うん。持って帰ろうと思ったけど、やっぱいいや」

 「だな」

 「スイは、もう食べられないのです」

 「見れば分かるよ」

 「じゃあ帰ろうぜ」

 「そうね、帰りましょ。夜は美味しいもの作ってあげるからね」

 「うん」

 「あんたに言ってないわよ、タメツグ」

 「くそっ、黒パンのくせに」

 「あ?」

 「ごめんなさい……」

 「……お前ら」

 そして、4人は食物プラント内で食べ過ぎて動けない人達と、巨大な魚を放置して帰るのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 その夜マヨーラが作ってくれた晩御飯はとても美味しかった。
 美味しかったのだが、スイが作ったご飯や、お店で売っているのと味はそう変わらない。
 多分、料理そのものが規格化されているのだろうと為次は思った。

 この世界の料理はどれも、とても美味しい。
 何からできているのか分からないが美味しい。

 しかし、その味はどことなく味気ない感じがするのであった……

 後、洗面器に詰め込まれたステーキのペーストは責任をもってスイの口に押し込んでおいた。
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