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異世界編 1章

第1話 遭遇

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 そこはとても美しい場所であった。
 緑の草原がどこまでも続き、小鳥のさえずりが聞こえる。
 頭上には大きな一本の桜の木が満開の花を咲かせているのであった。

 そんなのどかな場所で為次は目を覚ました。
 外は静かなので車外に出てみようと思ったが、いきなりハッチ開けるのもまずいかなと思い、とりあえず辺りを見回す。

 特に変わった様子はない……

 エンジンは止まっていた。
 レオパルト2の状態も分からないのでAPU補助動力装置だけ起動し、電源を入れる。
 そして、計器を見て異常が無いか確認してみる。

 「動くっぽいかも。エンジンも大丈夫かな」

 エンジンのスターターを入れると、快調にディーゼル音を響かせながら動き始める。
 そんな戦車ばかり気にしている内に、自分と正秀の心配もしなくてはと思い出した。

 自分の体をまさぐったり、動かしてみる。

 「うーん、大丈夫っぽい」

 それから後を向いて上を見てみる。
 そこには車長席に座っている正秀の足があった。

 「おーい、マサぁー…… 生きとるか?」

 呼びかけるも返事がない……

 仕方なく狭い車内をゴソゴソと正秀の方に向かってみる。
 まだ、気を失ったままのようだ。

 「また、寝とるわ。おーい、おーい」

 ペチペチと正秀の頬を叩く。

 「うぅ…… 為次か?」

 気が付いたようだ。

 「生きとるか?」

 「あ、ああ」

 「見たところ怪我も無いようだね」

 言われて、正秀は自分の体を確認してみる。

 「おう、なんともないようだぜ」

 「それはなにより」

 「どのくらい気絶してたんだ」

 「3時間半ってとこかな」

 為次は腕時計を見ながら答えた。

 「思ったよりは時間が立ってないな、もう夕方か。で、外の様子はどうなんだ」

 「さあ?」

 「さあ、って……」

 正秀はしょうがないなと言う表情をしながら、パノラマサイトを使って外の様子を覗いてみる。
 そこには美しい大草原が広がっていた。

 「どこだここは?」

 「どう? どう? どうなってる?」

 「草原だな、真っ昼間の……」

 「は?」

 為次も運転席に戻るとペリスコープを覗いてみる。

 「おおう、草原だわ。どこだよここは、誰もおらんね。全員吹っ飛んじゃったか」

 「また、お前はそう言うことを…… いや、誰か居るぞ? 3人。こっちに向かって来るぜ」

 「え? 何処どこ?」

 「11時の方角だ」

 「分からんな、開けても大丈夫っぽい?」

 為次は運転手ハッチをポンポンしながら訊いてみた。
 その仕草は正秀からは見えない。

 「あいつら、普通に歩いてるし大丈夫だろ。そもそも、お前ハッチ密閉してないぜ」

 「んあ」

 警報が鳴った時点で左足のポンプペダルで密閉させるのだが、すっかり忘れていた。
 為次は今更どうでもいいかと思い、ハッチを開けて頭を覗かせた。
 そして、左の方を見ると、遠目に人らしき影がこちらに近づいてくるのが確かに見える。

 「なんだ敵かな?」

 「敵にしては恰好が変だぜ」

 「え? どれどれ」

 為次は双眼鏡を取り出し、もう一度見直して言う。

 「うは、コスプレ軍団? うひゃひゃ」

 他人を見て笑うのは失礼だろうと思う正秀。
 しかし、その向かって来る3人を見ると自分もつい笑ってしまう。

 「ふはっ、そうなるかな。ははっ」
 
 それもそのはずである。
 3人ともまだ若く、1人は男性で変わった鎧を身に着けている。
 その背中にはどうやっても扱えるとは思えない巨大な剣を背負っていた。

 後ろの2人は女性で、1人はその手には杖をたずさえ生地の少ないローブの様なものを纏っている。
 いかにもエロ魔法使いっぽい格好なのだ。

 もう1人も杖をもっており、少し幼い感じの少女だ。
 いかにもアニメにでも出てきそうな魔法少女のような恰好をしている。

 古臭い武器を持った連中である。
 戦車の中に居れば安全と思える安心感から為次は呑気に言う。

 「こっち来るみたいだけど、どうする?」

 「一応、警戒するに越したことはないな」

 「りょかーい」

 為次は変な返事をしながらデザートイーグルを確認した。

 正秀は使い道が無かったので取り外しておいたMG3を手持ちで準備する。
 MG3は機関銃なのだが、普段は装填手ハッチの外に装着してある。
 しかし、装填手が居ないので定位置に付けておいても使えない。
 仕方ないので外して手元に置いといたのだ。

 レオパルト2にはもう一つ同軸機関銃がある。
 これもMG3であり砲身と同じ向きにしか撃てないが、車内より射撃が可能となっている。
 砲手が主砲と同軸機関銃を切り替えて使用するので、車長席と装填手席を行ったり来たりする正秀は使っていない。
 3つある武装は、二人しか居ない現状ではどれも使い辛いものであった。

 「とりあえず俺が出る、為次はそこで待機してくれ」

 「うい」

 へっぽこな返事を無視して正秀は降車すると戦車の前に立ちMG3を構える。
 為次もハッチからデザートイーグルを直ぐ撃てるように構える。
 すると、謎の3人が正秀の方に近づいて来た。

 「#/=&)*+=#」

 男性が何かを言ったが聞き取れない。
 突然の状況に正秀は呆気に取られる。

 「は?」

 「@+/=&!’?+#()」

 それでも男性は話すが、さっぱり言葉が分からない。
 日本語でも英語でも中国語でもない。
 もはや訳が分からない。

 「ねえ、マサぁ」

 「なんだよ」

 「あまり考えないようにしてたし、言わないでおいたけどさ」

 「チッ」

 正秀は為次の言いたいことが直ぐに分かったので、つい舌打ちをしてしまった。

 「俺達、もう死んでるんじゃない? それで辻褄が合うでしょ。この状況」

 「じゃあ何か? 俺達は戦車ごとあの世に来て、目の前に居るのは神様か? 閻魔様か?」

 「んー……」

 「神様なら徹甲弾ブチ込んでも死なないってか?」

 「じゃあ、女の子2人は天使ちゃんってことでよろ。あの男は…… 何でもいっか」

 正秀と為次が下らないことを言い合っていると、向いの3人も分からない言葉で話し合っている。
 そうこうしているうちに、女性が正秀の目前まで近づいてきたので、咄嗟とっさに機関銃をその女性に向って構えた。
 だが、その女性はMG3が何か分かってない様子である。
 だから、なんの躊躇ちゅうちょも無く正秀の直ぐ前まで近付いて来たのだ。
 唐突な女性の行動に正秀は発砲の機会を逃し、為次も流石に2人の距離が近すぎると躊躇ためらった。

 すると女性は突然、手に持っていた杖の頭に付いている丸い部分を正秀の額にかかげる。
 そして、右手を添えて何やら話し始めた。
 否、それは話すと言うよりも何かの呪文のようであった。
 すると杖の先の玉が光始める……
 女性の意味不明な行動に、正秀はただ茫然としていた。

 「どうですか? 私の言葉がわかりますか? トランスレーションの魔法は効いていると思いますが」

 女性の話す言葉が正秀には聞き取れた。
 彼女は日本人なのだろうか? と思う。

 「あ、ああ? 魔法? 何だ魔法って??」

 その2人の会話は為次には訳の分からないことを言っているように聞こえる。
 正秀まで謎の言葉で喋っていたのだ。

 「マサぁ、大丈夫なの?」

 「だ、大丈夫だが、何だか二つの言語が交じり合って頭の中がモヤモヤする」

 今度は日本語だ、為次には聞き取れた。

 「それで、分かりますでしょうか?」

 少し心配そうに女性は正秀に向かって語りかけた。

 「ああ、分かる。大丈夫だ」

 「それは良かったですわ。言葉が通じないことには困りますものね」

 と、微笑む。

 そこへ男性が女性に向かって話す言葉も正秀には理解できる。

 「とりあえず、あっちの奴にもかけた方がいいんじゃねーのか?」

 「そうですわね。すみませんが、あちらの方にもトランスレーションをかけさせていただけますか?」

 女性は為次の方を見ながら、正秀にそう尋ねるのだ。

 「ちょっと待ってくれるか? あいつと話がしたい」

 「分かりましたわ」

 それを聞いた男性は面倒臭そうに舌打ちをする。

 「チッ、早くしろよ」

 「すまない」

 正秀はもう何がなんだか訳が分からなかった。
 突然、知らない場所に投げ出されたかと思えば、いかにも怪しい3人組に魔法をかけるだの、なんだのと言われているのだ。
 だいたい、MG3を向けられて平然として居られる分けがない。
 近距離で銃を向けられたら、誰だって恐怖するはずだ。
 だから既に結論は出ていた、彼等の話を聞くしかないのだと。

 「為次っ」

 「なんすか?」

 「どうやら俺達、本当に死んじまったかもな」

 「大丈夫すか?」

 「ダイジョーブじゃねーぜ」

 「…………」

 為次は黙って正秀を見るだけだ。
 この状況でジョーダンを言うような男ではないのを知っているから。

 「ま、死んだかどうかはともかくだ。変なとこに来てしまったらしい」

 「変なとこ?」

 「あの女に魔法とやらをかけてもらうと、言葉が通じるらしい」

 「魔法ねぇ」

 「どうする?」

 「どうするも何も、言葉が通じないんじゃ困るしなー」

 「それもそうだな」

 「訊きたいこともある分けだし」
 
 「よしっ、それじゃ為次も言葉が通じるように頼んでみるか」

 そう言うと、正秀は女性に向って手招きをする。

 「すまんが、コイツにも魔法とやらを頼む」

 「分かりましたわ」

 すると、女性は戦車から頭だけを出している為次に近づき、先程と同じように杖を掲げながら為次にも呪文を唱え始めた。

 「終わりましたわ、いかがでしょうか?」

 「おお、分かるかも。しかし、頭の中がムズムズするわ」

 「すぐに慣れますわよ」

 「そうなんだ」

 そうこうしている間に、もう1人の少女も近寄って来る。

 とりあえず現状を把握するには、今のところこの3人に頼るしかない。
 いったいここは何処で、何が起こったのか?

 疑問と不安が正秀と為次包み込むのであった……
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