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電車がカーブにさしかかって窓から光が差してきた。
ぱらぱらと水滴がついている。
天気雨?
と、座っていたゆるふわ髪の女の子が声を上げた。
「ねえ、ほら、虹だよ」
イケメン彼氏が彼女の指さす方を向く。
「ああ、ホントだ」
「なによ、反応薄いじゃん」
「そんなことないだろ。きれいだよ」
「あたしのこと?」
「あぁ、ハイハイ」
不満げに口をとがらせた彼女がスマホを取り出して自分たちにカメラを向ける。
「虹なんかうまく写らないだろ」
渋い顔をする彼氏にお構いなしに、顔を寄せてパシャリ。
「ほら、変な顔」
「なんだよ、消せよ」
「やですぅ」
楽しそうなケンカがうらやましい。
そうだ、私も……。
虹が消えてしまう前に写真撮っておかなくちゃ。
今度会った時に見せよう。
ついでに連絡先も聞けたらいいんだけどな。
あの人も同じことを考えてくれてるといいな。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
だけど、私はその気持ちがなんなのか知っている。
誰が教えてくれたのか思い出せないけど、たぶん、きっと、これが人を好きになるってことなんだ。
カーブを抜けた電車はまた速度を上げていく。
明るい日差しの差し込む窓があたたかい。
今、私はこの世界に触れることができる。
虹の向こうでも、鏡の中でもなく、ぬくもりを感じられるこの世界と私は確かにつながっている。
楽しいことも悲しいこともうれしいこともつらいことも全部私、他でもない私自身。
それでいいんだよって言ってくれる人たちがいるから、そばにいてくれるから。
だから私は胸いっぱいに息を吸い込んで、自分の気持ちを伝えることができるんだ。
ね、そうなんでしょ。
もう虹は消えていたけど、空は青く輝いて、キミのいる世界を明るく照らしていた。
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