上 下
1 / 14

第1章 季節はずれの転校生

しおりを挟む
 私、高見沢弥生、桜台中学校に入学したばかりの一年生女子。

 五月の連休明けって憂鬱だよね。

 いろんなところにお出かけしたり、楽しかったのはいいんだけど、日常生活にもどらなくちゃならないわけで。

 ゴールデンウィークなんて、呼び方も浮かれすぎだから、よけいに反動がきついし。

 ただ、私の場合、それだけが原因じゃない。

 隣の席に転校生が来たのよ。

 べつにそんなの普通じゃんって?

 だって、中一の五月だよ。

 四月に中学に入ったばかりで、まだ一ヶ月。

 なのに、もう転校って、どう考えてもおかしいでしょ。

 普通、引っ越しって、学校とか仕事の切り替え時期に合わせてするものだよね。

 こんな変なタイミングで転校したら、なんか深い事情があるんじゃないかとか、噂をされても仕方がないじゃない。

 しかも、変なのはタイミングだけじゃなくて、その男子本人もかなりの変わり者だったのよ。

「おい、みんな、転校生が来たぞ」

 連休明けの初日、朝のホームルームで担任の鈴木先生に紹介されて教室に入ってきたのは、背は大きめだけど、見た目が地味な眼鏡男子。

 前髪をモッサリとたらして顔もよく見えない感じで、ちょっとガッカリしたような女子のため息が漏れたのは申し訳ないけど、いちおうみんなも拍手で歓迎したのよ。

 なのに、最初のあいさつがもうね、大事件。

 眼鏡をクイッと上げたかと思うと、いきなり堂々と宣言しちゃったわけ。

「僕は多田瀬雅之、探偵だ」

 自己紹介がこれだよ。

 ――タンテイ?

 探偵って何よ。

 私たち、中学生なんですけど。

 みんながざわついたって無理もないでしょ。

 自称探偵のあなたが事件を起こしてどうするのよって、思わず心の中でツッコミを入れちゃったし。

 ただまあ、そこまでは私もみんなと同じように苦笑いを浮かべていれば良かったんだけどね。

 まさか、変わり者の転校生が私の隣に座るとは思ってもいなかったわよ。

 入学した時に決まっていた席順で、私は一番後ろで、廊下側から二番目の机だったんだけど、なぜかその右隣がずっと空席だったのね。

 ――うわっ、転校生のためだったんだ。

 その理由に気づいた時はもう手遅れ。

 どう考えても他に余った机はないし、先生も「席は一番後ろの高見沢の隣だ。わからないことがあったら教えてやってくれ」なんて、私を名指しするものだから逃げられなくてね。

 で、探偵くんなんだけど、後ろの席まで来る時、どうしたと思う?

 ふつうは、みんなの机の間を通って来るでしょ。

 よろしくなんてあいさつしながらね。

 だけど、探偵くんは行動まで奇妙だった。

 いきなり前のドアから出て行ったかと思うと、忍者みたいに足音も立てずに廊下を走って後ろのドアから入り直してきたのよ。

 ちょ、え、何やってんの?

 先生まで目を丸くしてたけど、まさかそんな行動を取るとは誰も予想できないでしょ。

 しかも、席についたとたん、横を向いて言ったセリフがまた意味不明。

「困ったことがあったら僕に相談してくれ」

 はあ?

 それ、あなたが言うの?

 お世話係に指名されて、あなたのせいで困惑してるんですけど。

 なのに、変わり者の転校生は自分のペースを崩さない。

「どんな難事件でも即座に解決。なにしろ僕は探偵だからね」

「はあ、そうですか」

「名探偵に興味があるなら、助手として採用してあげてもいいよ」

 興味なんかないし、お断りです。

 しかも、ただの探偵から名探偵に勝手にレベルアップしてるんだけど。

「名探偵とか、自分で言っちゃうの、おかしくない?」

「失敬だな、キミは」と、彼が眼鏡をクイッと上げる。

 仕草だけは探偵っぽいのが鼻につく。

「優れた探偵が名探偵と名乗って何がいけないんだ。キミだって自分のことを中学生と名乗るだろう。それともまだ小学生のつもりなのかな」

 あの、もう、黙っててくれませんか。

 今は先生が大事な連絡事項を説明しているところなんですけど。

 正直、うるさいです。

 先生もさすがに気になったのか、こちらを指さした。

「おい、そこの二人。転校早々仲良くなったのはいいが、俺の話も聞いてくれ」

 みんな大爆笑。

 口笛吹いて冷やかす男子までいるし。

 ああもう、べつに仲良くなんかなってませんから。

 勝手にからんでくるだけです。

 迷惑なんです!

「まったくキミのせいで注目を浴びてしまったじゃないか。本来、探偵は目立ってはいけない存在なのに」

 ヤレヤレなんて、両手を広げて肩をすくめる。

 欧米みたいなジェスチャーがまた鼻につく。

 もう、いったいなんなのよ、この人。

 事件が起きるから探偵が現れるのか、探偵がいるから事件が起こるのか。

 探偵は災いの元。

 この後、私は彼の起こす様々なトラブルに巻き込まれることになる。

 ね、最初に言ったでしょ。

 連休明けって憂鬱だよね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

公爵令嬢は、婚約者のことを諦める

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢アメリは、婚約者である公爵子息マートンを、とても愛していた。  小さいころに一目ぼれをし、それ以降、彼だけを追いかけ続けていた。  しかしマートンは、そうじゃなかった。  相手側から、無理やり用意された縁談。  好きだ好きだと、何度もアメリに追い回される。  彼女のことを、鬱陶しいとさえ思っていた。  自分が愛されていないことは知っていたが、それでもアメリは彼を求めていた。  彼と結婚したい。  彼と恋仲になりたい。  それだけをずっと考えていた。  しかしそんなある日、彼女は前世を思い出す。  それは、マートンと親しい関係にある男爵令嬢の胸倉を掴んだ瞬間に起こった出来事だった。  すべてを思い出した彼女は、ここが乙女ゲームの世界であり、自分がそのゲームの悪役令嬢。  そして今、胸倉を掴んでいる男爵令嬢こそが、乙女ゲームのヒロインであることを悟る。  攻略対象であるマートンのルートに彼女が入ってしまっている今、自分に勝ち目はない。  それどころか、下手をすれば国外追放され、自分の家に迷惑がかかってしまう。  ストーリーの結末を思い出してしまった彼女は、悲劇を起こさないように。  マートンのことを、きっぱりと諦めることにした。

【完結】一途な恋? いえ、婚約破棄待ちです

かのん
恋愛
 周囲の人間からは一途に第一王子殿下を慕い、殿下の浮気に耐え忍ぶ令嬢に見られている主人公リリー。 (あー。早く断罪イベント来て婚約破棄してくれないかな)  公爵家の麗しの姫君がそんなこと思っているだなんて、誰も思っていなかった。  全13話 毎日更新していきます。時間つぶしに読んでいただけたら嬉しいです。 作者かのん

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

西からきた少年について

ねころびた
ファンタジー
西から来た少年は、親切な大人たちと旅をする。

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ
恋愛
嫁いだ先はとてもケチな伯爵家だった。 領地が隣で子爵の父が断れなかった。 結婚3年。義母に呼び出された。 3年も経つのに孕まない私は女ではないらしい。 石女を養いたくないそうだ。 夫は何も言わない。 その日のうちに書類に署名をして王都に向かった。 私は自由の身になったのだ。 * 作り話です * キチ姑います

処理中です...